平成29年5月25日(木)(第6回)

◎会議に付した案件

日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(新しい人権等)

1.参考人から意見を聴取することに、協議決定した。

2.自由討議を行った。


◎自由討議

●各会派の代表者からの意見表明の概要

船田 元君(自民)

  • 現行憲法が基本的人権の不可侵を明確に規定しているのは、戦前・戦中の人権抑圧に対する国民の痛烈な反省と、GHQが目指す民主的な「新生日本」実現という思惑が結実した結果である。 
  • 「公共の福祉」の意味は曖昧で憲法学者間で論争が絶えなかったが、最近では、従来の定説である「個人間の権利衝突の調整」に限られないとするのが趨勢ではないか。だとすれば、個人の権利には全ては還元できず、より多くの市民の利益を守るために人権制限を認める考えを憲法上明確にすることが、個人と公の関係性の明確化や裁判判例の揺らぎの防止につながる。 
  • 憲法上の人権は、権力からいかに離しておくべきかが重要になる。ただし、地鎮祭などの宗教行事に、国等が社会的儀礼や習俗的行事の範囲内で関与することは、信教の自由を侵すことにはならず、憲法上何らかの対応が求められる。
  • 幸福追求権を根拠条文として、プライバシー権や人格権などの新しい人権が判例上認められてきた。また、生存権の規定は、社会分野の包括的基本権とも位置付けられる。しかし、社会の劇的な変化の中で、新たに保障されるべき人権分野は広がりを見せており、環境権、プライバシー権、知る権利、犯罪被害者の権利、知的財産権などを個別の具体的人権として憲法上明記することは、検討に値する。  
  • 24条に関して、同性婚の取扱いが問題になっているが、法的な保障には憲法改正の必要も考えられ、広く国民の考えを聞かなければならない。  
  • 所得格差拡大などの経済的制約によって、教育を受ける権利が十分に保障されていないため、「経済的理由を問わず」という文言を憲法に盛り込むことは、十分に検討に値する。
  • 26条2項を受けて義務教育の授業料無償や教科書無償が行われてきたが、その他の教材費や給食費など各家庭の教育費は、義務教育段階でも大きな負担であり、更なる財源措置が求められる。
  • 自民党内では、教育無償化を進める際、幼児教育を優先すべきとの主張と、高等教育の無償化を優先すべきとの主張がある。また、財源は、新たな国債の発行、社会保険料の上乗せ、両者の折衷案などがあり、今後はこれらの意見を集約し、一定の方向性を示すことが求められる。
  • 教育無償化の実現には、憲法改正は必要なく、法律で可能との指摘もあるが、憲法に明記することにより、政府に実現を促す大きな力になる。
  • 89条を厳密に適用すると、国や地方が行う私学助成は憲法違反になりかねないため、文言を現実に即した表現に改正する必要があるのではないか。

山尾 志桜里君(民進)

  • 「自衛隊を合憲化する」という安倍首相の発言は、自衛隊違憲論に立ったということである。合憲の自衛隊を合憲化するということは、論理的に成り立たない。まさか憲法上の疑義を払拭するためという意味で合憲化という言葉を使ったなどということを一国の総理がするはずもない。民進党は、自衛隊は合憲で、合憲化するためだけの憲法改正は不要との立場である。首相は、安保法制議論時は自衛隊合憲論に立っていたにもかかわらず、何が首相の見解を変えさせたのか。
  • 憲法における人権保障の要諦は、時代の多数派でも侵し得ない少数者の普遍的な権利保障である。変化する時代の要請に即応する権利の実現は、法律事項で対応すべき場合が多い。
  • 憲法制定当時には意識されていなかったものの、時の経過に応じて普遍的となった人権が存在するならば、憲法に規定することを検討すべきである。
  • 明文で書けば政策推進の後押しになるとの理由で憲法事項とすることは、厳に慎むべき。教育無償化のような現代的要請を政策として実現するには、法律事項としてその範囲や財源を議論すべきである。
  • 憲法における人権カタログは、時代を超えて普遍的な価値を持つという日本国民の確信に裏付けられた結晶であるべきである。  
  • プライバシー権とそれがもたらす個人の自由は、現実に監視にさらされる以前に、監視されているかもしれないという感覚をもたらされるだけで自ら萎縮していくというもろさを内包している。プライバシー権の核心を侵しかねない共謀罪法案について強行採決が行われる現状を考えると、この権利を国家の多数決をもってしても侵し得ない普遍的な人権として憲法上明文化することは検討の余地がある。
  • 環境権や知る権利も普遍性を有するが、環境権には、対象とする環境の範囲、自由権的側面と社会権的側面の整理などの論点がある。国民にも環境保全義務を課すと、国家の免責事由としてすら働く危険がある。  
  • 知る権利は、自由権的・参政権的・社会権的側面の整理が必要。国民から国家に対する情報開示請求権の保障を実効化するために、いかに憲法上規定し得るのか真剣に検討すべきである。  
  • 憲法上明文で規定された人権でも保障や救済が不十分となっている原因の一つに、事後的・付随的違憲審査制がある。政治部門と司法権のバランスの歪みを是正する必要があり、憲法裁判所や特別裁判所の創設、当該組織の裁判官の任命権の帰属先などを検討すべきである。  
  • 首相の解散権の制限によって行政府と立法府の権力均衡の歪みを是正し、三権分立の均衡を制度的に再定位する視点も提示したい。  
  • 新しい人権を語る際には、憲法に書き込まれた人権をいかに実効的に守っていくかという視点も加えるべきである。新しい人権という命題を、現代的な権利実践の追求という観点から再定位することを提案したい。

斉藤 鉄夫君(公明)

  • 新しい人権については、13条や25条などの解釈によって導き出されると考えられてきた。憲法上の権利としての承認の是非は慎重に判断すべきであって、権利のインフレを招くべきでないとの意見もある一方、全ての新しい人権が13条の幸福追求権等によって保障されるわけではないこと等を理由に憲法に明記すべきという意見も多い。  
  • 未来志向の憲法論議に立った場合、憲法に明記することによって、事前の人権保障を可能とし、時代の変化に対応した積極的な立法措置を可能にすることが望ましいのではないか。  
  • 環境権について、我が党の議論では、13条の幸福追求権の解釈や環境基本法等の立法措置によって実現し得るという意見がある一方、かつての人間中心主義とは異なる地球環境という視点や地球温暖化問題が提起される中で、一つの大きな基本的人権として憲法に明記すべきという強い意見がある。  
  • 当審査会の平成26年海外調査報告書に掲載された権利としての環境権の明記に否定的な現地有識者の見解は、党内で驚きをもって読まれたが、党内では、「国の環境保全の責務」を明記することや、地球環境問題について前文で規定する可能性等も含め、議論が続いている。  
  • 遺伝子操作技術、AI技術の発展と結合を考えれば、学問の自由という基本的人権について、生命倫理的な観点からの制約も議論すべきとの問題提起がある。我が党では、衆議院憲法調査会での議論の蓄積も踏まえ、生命倫理の問題を加憲の一項目として議論している。  
  • 最高裁は、ネット検索サイトで表示される逮捕歴の削除が争われた裁判で、削除を認めない決定をした。忘れられる権利よりも知る権利に重きを置いた判断と言える。一方で最高裁は、令状なしのGPS捜査を違法とするプライバシー重視の判断をした。ネット社会が進む中、プライバシー権や忘れられる権利を憲法に規定すべきとの議論も今後あり得るのではないか。  
  • 高等教育の無償化は否定されるものではないが、財源の裏付けがなければ、目標規定しか置けない。経済的な事情によって大学進学を断念するようなことはあってはならないが、大学進学を選択しない若者が多く存在する中で、一般的に高等教育の無償化が適切であるかは慎重な議論が必要である。

大平 喜信君(共産)

  • (「自衛隊の根拠規定が憲法に明記されることになれば、非常にありがたい」という今月23日の)統合幕僚長発言は、憲法尊重擁護義務に反し、文民統制の原則を侵すもので、統合幕僚長の罷免を要求する。  
  • 安倍首相は、ラジオ番組で、自民党の憲法改正原案を年内にまとめると述べ、憲法改正推進本部の体制強化と改憲項目を指示した。まさに挙党体制で原案作りへと突き進んでいる。自民党が審査会を改憲項目の擦り合せと発議の場にしようとしていることは明らかである。改憲案の発議に向かう審査会は開くべきではない。
  • 安倍首相の9条改憲発言は、安保法制の下で集団的自衛権行使を可能にした自衛隊を書き込むことであり、認められない。また、集団的自衛権を全面的に行使できるようにしようとしているのではないか。
  • 安倍政権は、武器輸出三原則を撤廃し、軍学共同を進めている。こうした下で自衛隊を憲法に明記すれば、日本社会の軍事化を一層推し進めることになる。憲法の平和主義そのものを破壊し、二度と戦争をしないことを国の基本としてきた戦後日本社会の在り方を根底から変えるものだ。
  • そもそも安倍首相は、96条の改正によって憲法改正のハードルを下げ、その次に9条に手を付けようとしたが、「やり方が姑息」との国民の批判にあうと、次は災害を理由に緊急事態条項が必要だと言い出した。しかし、「災害を憲法改正のダシにするな」と批判されたため、今まで一言も触れてこなかった教育無償化を持ち出した。こうした安倍首相の姿勢に対し、憲法の私物化との声が上がるのも当然だ。  
  • 緊急事態条項について、3月23日の参考人質疑で全参考人が濫用の危険性を指摘し、任期延長を不要とする意見が大半だった。緊急事態条項を必要とする安倍首相や自民党議員の議論は、この審査会の議論の到達点を無視するものである。
  • 内心を処罰できる共謀罪法案は、具体的に危険な行為がなければ処罰できないとする刑法の大原則を根底から覆し、表現の自由をはじめ、憲法が保障する国民の権利を幾重にも侵害するものである。プライバシー権に関する国連特別報告者が示した、「同法案が表現の自由への過度の制限になる」との強い懸念を重く受け止めるべきである。 
  • 自民党改憲草案は、97条を全文削除している。これは基本的人権の尊重という憲法の目的を真っ向から否定するもので、ここに自民党の本音が現れている。
  • 日本国憲法は、30カ条にもなる豊かで先駆的な人権条項を明記しており、この内容は戦後70年間、国民の幾多の戦いによって深められてきた。今求められているのは、医療・介護・子育て・教育など、暮らしのあらゆる場面で憲法を実現させる政治を行うことで、憲法を変えることではない。

足立 康史君(維新)

  • 我が党が憲法改正原案に教育無償化を取り上げたのは、教育の機会均等の徹底とともに、少子化対策としての就学前教育から高等教育までの教育無償化を国づくりの柱とするためである。  
  • 教育の機会均等について、現行憲法に一定の規定はあるが、子どもの貧困は深刻化する一方である。個人が自立して切磋琢磨できる環境を確保するため、我々は、26条1項の後半に「経済的理由によつて教育を受ける機会を奪われない」と明記した。  
  • 義務教育の無償は既に憲法に明記されているが、無償化の範囲に焦点を当てたい。我々は、幼児教育から高等教育に至るまで法律の定めるところにより無償とする案を公表しており、学校教育法1条のいわゆる「1条校」に限らず、幼児教育から高等教育に至るまで体系的、組織的に行われる全ての教育について無償とする法案も提出している。  
  • 「無償」の意味について、我々は、支援限度額の導入を許容するとともに、私立校授業料の上限設定が望ましいと考えている。  
  • 教育無償化を巡る論点は三つある。1点目は、教育無償化は法律と予算で実現可能であり憲法改正は不要との意見がある。憲法で教育無償化を定めれば、時の政権の政策変更の影響を受けずに済み、政策の優先順位も上がり、恒久的な無償化の実現が容易となる。小・中学校の無償が憲法に規定され、実現している一方、保育を含む幼児教育は、憲法の規定がないため、財源不足等を背景に待機児童問題が解決されていない。そもそも、法律でできることは法律で対応すべきと言うならば、現行憲法の義務教育無償の規定は不要となる。現行憲法を否定する反立憲主義との謗りを免れない。  
  • 2点目は、教育無償化を憲法に規定する前に財源を議論せよとの意見がある。小・中学校の無償化がなぜ実現できたのかを考えれば、問題は財源ではなく、政策の優先順位であることは明らかである。財源を理由に教育無償化の憲法改正を否定するのは、言い訳に過ぎない。無償化の財源は、幼児教育は地方、高等教育は国の責任で確保すべきである。幼児教育無償化の財源は、行財政改革で生み出すべきであり、大阪等では実現しつつある。高等教育無償化の財源は、行財政改革や事業承継税制を完備した上で相続財産の一部により確保すべきである。勤労者と事業者に負担が集中し、税を保険と偽る「子ども保険」には反対である。  
  • 3点目は、高校までの無償化は賛成だが、大学の無償化は個人の私的利益につながるから反対だとの意見であるが、生産性のスピルオーバー効果を踏まえれば、高等教育が社会全体に利益をもたらすことは言うまでもない。また、子どもの教育費は高等教育まで国が面倒を見るという明確なメッセージを発信することが、少子化対策の肝であり、社会の発展に資すると考える。

照屋 寛徳君(社民)

  • 自民党憲法改正草案は、プライバシー権、知る権利、環境権、犯罪被害者の権利など4つの新しい人権を定め、Q&Aは「時代の変化に対応するため」「国民の権利保障を一層充実していくため」と説明しているが、一方で基本的人権の本質を規定した97条を削除しており、自民党の主張する新しい人権は改憲目的の方便であり、基本的人権の尊重にも反すると批判せざるを得ない。  
  • 社民党は、環境権、知る権利、アクセス権、プライバシー権、犯罪被害者の権利、家族・家庭・共同体の尊重などの新しい人権を憲法に明記する必要は全くないと考える。新しい人権のほとんどは、13条、25条等によって解釈上認められるし、個人尊重の原理に基づく13条の幸福追求権は将来生起し得る新しい人権にも対応できる根拠となる一般的かつ包括的な権利である。  
  • 教育の無償化について、憲法は、無償化の範囲を広げることを禁じていない。我が国が批准している国際人権規約でも高等教育無償化の漸進的導入は認められている。だからこそ民主党政権下で高校授業料無償化等が実現した。それに対し、理念なき選挙目当てのばらまき等と批判し、所得制限を設けたのは安倍政権である。  
  • 多くの憲法学者も、教育無償化という政策目的の実現と憲法改正には合理的な関連がないと論述している。
  • 多くの国民が強く求めているのは、早期の高等教育無償化の政策実現であり、改憲ではない。高等教育無償化は、法律と予算措置により可能である。憲法改正の国民投票には1回につき約850億円を要すると言われており、これを教育無償化の財源に回した方がよいとの主張もある。  
  • 環境権について、自民党憲法改正草案25条の2の内容では、新しい人権に名を借りて、国民に新たな環境保全義務を課すことになりかねない。  
  • 沖縄では、多くの野生生物が安全保障体制維持のために絶滅に追いやられようとしている環境権問題がある。

●委員からの発言の概要(発言順)

中谷 元君(自民)

  • 大平委員から統合幕僚長の発言は憲法を逸脱するものであり、罷免すべきと発言があった。自衛官は憲法尊重擁護義務があるが、憲法には改正規定もあり、また、個人としても言論の自由があり、国民の一人として憲法の内容やあるべき姿について意見を述べること、求められれば軍事専門家としての意見を述べることも許されるべきである。まして、統合幕僚長の発言は、「統合幕僚長という立場から申し上げるのは適当ではない」と断った上で、個人として、自衛隊が未だに一部の憲法学者や政党から違憲と言われ、否定されているという現実を踏まえて率直な思いを述べただけであり、何ら問題はない。  
  • 山尾委員から、自衛隊を今さら合憲化する必要があるのかという意見があった。自衛隊を違憲と主張する人がおり、曖昧さを引きずったままだと自衛隊の活動の根拠も曖昧なままとなる。この際、自衛隊の地位、役割、権限、シビリアンコントロールとしての国会の統制などを明記する憲法改正は必要である。  
  • 安倍総裁のラジオでの発言は、自民党総裁として憲法のあり方、まとめ方を発言したものであり、政党の中で政策を作り、国民に訴えることは総裁としては当然やるべきことである。国会では総理大臣として一貫して「この議論は憲法審査会でやるべき」と述べている。総理に縛られることなく、各党各会派が真摯に憲法を議論すべきである。

武正 公一君(民進)

  • 総理のラジオ番組での発言、統合幕僚長の発言があり、大きな波紋が広がっている。これ以上波紋が広がれば、審査会として何らかの意思表明が必要かと思う。  
  • 統合幕僚長の発言は、シビリアンコントロール、憲法擁護義務からも問題がある。  
  • 環境権については、国等の責務、政策目標としてこれまでも政府、国会で地球温暖化対策の必要などに取り組んできた。こうした面の憲法との関わりが肝要である。  
  • 知る権利について、民進党は、特定秘密保護法の施行を受けて、公文書管理法、情報公開法の提出を行ってきた。国境なき記者団の発表では、世界の報道自由度ランキングについて、平成21年の世界11位が平成28、29年には72位に後退したことを指摘しておく。  
  • 教育を受ける権利について、財源論は引き続き政府、与党の主導が必要であるが、民進党は敢えて憲法に教育無償化を規定すべきかという観点から取り組んで行きたい。  
  • 忘れられる権利、プライバシー権などに言及があったが、共謀罪も内心の自由に関わる問題である。プライバシー権の関わりで、個人情報保護とビッグデータ活用、マイナンバー利用の点で齟齬がないように取り組む必要がある。

古屋 圭司君(自民)

  • 総裁と自民党は、「自衛隊違憲論」に考えが変わったのかとの指摘があったが、自民党は一貫して自衛隊は合憲だと考えている。  
  • 安倍総裁の発言は、「自衛隊は、命がけで日本を守り抜く責務を果たし、国民の信頼は9割を超えている。しかし、多くの憲法学者や一部の政党には自衛隊は違憲であると考えている者が今なお存在する。自衛隊は違憲かもしれないが何かあれば命を守ってほしい、というのはあまりに無責任。自衛隊の存在を憲法に位置付け、自衛隊が違憲かもしれないという議論の生まれる余地をなくすべき」という趣旨である。したがって、指摘は全く当たらない。

細野 豪志君(民進)

  • 民進党は、教育無償化についてまず法律から始めるという立場であり、憲法に書くか否かは党内で議論中であるので、個人的な意見を述べる。  
  • 教育無償化の検討においては、まず、帝国議会で無償の対象を拡大した26条の制定経緯について共通認識を持つ必要がある。財政状況が厳しい当時にあって、かなり先進的な条文であったと言える。  
  • ほぼ全ての子どもが幼児教育を受けている現状と、幼稚園児・保育園児の親の所得が小学生・中学生の親に比べて低いケースが多いことからすれば、幼児教育の無償化には十分合理的な理由があり、憲法への明記は十分検討に値する。97%が進学する高校についても同様である。  
  • 一方で、高等教育の無償化は問題が多い。進学せずに働いて納税をしている多くの若者がいることを踏まえると、全ての無償化ではなく、経済的な状況による差をなくすことに重点を置くべきである。  
  • 教育無償化に係る憲法改正に当たっては、「公の性質を有する教育」の無償化であることを26条に規定するとともに、89条の「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し」を削除することで憲法上の疑義をなくすべきである。  
  • 前回の審査会で中谷幹事が述べた緊急事態における私権制限の事例は、現行の災害対策基本法等で対応できる。不備があっても、憲法上は「公共の福祉」による制約が可能であり、法改正で対応できる。もし反論があれば聞きたい。

根本 匠君(自民)

  • 新しい人権の憲法への明記について、どの権利を憲法に書くのか、どの程度規定を具体的にするのかといった点で意見を一致させることは容易ではない。  
  • 将来新たな権利が主張された時、その都度憲法を改正するのかという点も検討が必要である。  
  • 新しい人権に対応して整備された法律が憲法と一体となり体系を成すことで、憲法改正によらず立法で対応できる可能性があることは考慮すべきである。  
  • 現行憲法の問題点や是正手段として憲法改正が適当かという点も検討した上で、議論する内容を絞り込むことが重要である。  
  • 憲法に「教育は全ての国民に開かれたものであるべき」という理念を書き込むべきではないか。その理念を実現するための制度(無償化の範囲、所得制限の有無等)は法律で整備していく。今の世代で恒久財源を確保し、教育を受ける世代に負担を先送りしないことが重要である。  
  • 私学助成について、89条の背景や法律整備により私学に公の支配が及んでいること、裁判例、国民の理解等を踏まえ、合憲であることが文理上も明らかになるように改正すべきと考える。

辻元 清美君(民進)

  • 自衛隊制服組トップの発言に対する中谷幹事の見解に反論する。当該発言は、憲法改正に賛成するととられるものである。自衛隊法では、一自衛官であっても、政治の方向性に影響を与える意図で特定の政策を主張・反対することは認められていない。自衛隊法違反の指摘がされていることを重く受け止めてもらいたい。  
  • 「多くの憲法学者が自衛隊は違憲と言うので」との発言があったが、憲法学者だけでなく、元内閣法制局長官や元最高裁判所長官が安保法制は憲法違反だと発言しても、政府は「一私人」の発言だとして考慮しなかった。御都合主義ではないか。  
  • 高校授業料の無償化法案を提出した際、自民党は「ばらまき」と反対し、安倍政権は所得制限を加えた。一方、憲法改正による教育無償化は進めると言う。「ばらまき」批判との関係はどうなるのか。憲法改正のための方便と受け止められかねない憲法議論は、不幸だ。  
  • 法律でできることは法律でというのは普遍的な原則だと思う。我が党が教育無償化の法案を提出した際は、日本維新の会の賛成を期待する。  
  • 情報公開や知る権利に関し、南スーダンPKO日報廃棄問題や加計学園に関する文書の問題など政府の隠蔽体質は問題である。憲法審査会として現状を調査し、警鐘を鳴らすべきである。

太田 昭宏君(公明)

  • 生命倫理問題、科学技術と人間の尊厳の問題は、危機感を持って議論していかなければならない。  
  • 科学技術の進歩と生命倫理、学問の自由についての斉藤委員の問題提起について、私は全く同感である。  
  • 生殖医療並びに遺伝子操作及び臓器移植に関する技術の濫用を防ぐため、生命倫理を新しい国民の権利として構成できるか、そして新しい権利としてではなく、国として、このような技術の利用において、常に生命・身体の安全が確保され、個人の尊厳が保持され、並びに社会秩序が維持されるように努めるという規定について、将来を見据えて論議していかなければならない。
  • 第4次産業革命を経て世界が激変していると指摘されている。また、哲学の世界においても、大きな時代・社会の変革期との認識がある。科学技術の進展の中、2030年以降自立型のAIが誕生すると見込まれており、人間とは何かが問われている。将来どういった社会を想定し、何を原則として確保しておかないといけないのか。このような問題意識を共有して、憲法審査会で重厚な論議をしていただきたいと思う。

山尾 志桜里君(民進)

  • 自衛隊の憲法適合性について、異なる意見があるという前提は共有しており、疑義の払拭や、明文化の必要性の有無について、議論の余地があることは理解する。しかし、この論点と、合憲化する必要性の有無の論点は全く別のものである。 
  • 合憲化する必要性の有無という論点は、自衛隊合憲論の立場とは両立しがたく、合憲論に立つのであれば合憲化すべきという説明は正確ではない。明文化あるいは疑義を払拭する必要性があると言うべきである。

上川 陽子君(自民)

  • 憲法には、刑事被告人の権利について手厚い規定が設けられているが、犯罪被害者等にどのような権利があり、どのような支援を受けるべきかについて明確な定めがなく、権利保護の十分な基盤もなかった。  
  • 少しずつ犯罪被害者等の置かれた過酷な状況に国民の理解が広がり、犯罪被害者等給付金制度や意見陳述制度の導入、犯罪被害者等基本法の制定、被害者参加制度等の導入等が実現してきた。犯罪被害者等の権利利益の保護は、現在、憲法に規定されている諸権利と同様の価値を有するに至ったと言えるのではないか。  
  • しかし、今なお、報道や加害者による手記の発表等により犯罪被害者等の名誉や生活の平穏が害されており、より一層の犯罪被害者等の権利の尊重が求められる。  
  • 基本法に掲げられた国民的要請が憲法上の人権に並び立つほどに高まっているものは数少ないが、犯罪被害者等の権利利益の保護はまさにその一つである。  
  • 犯罪被害者等の権利は、個人の尊厳として、国、自治体、各個人間で尊重されるべき権利であるとともに、国や自治体が被害者の平穏な生活を取り戻すためにあらゆる支援をすべき生存権、社会権の側面を持つ新しい人権であり、憲法上明記すべきである。

赤嶺 政賢君(共産)

  •  統合幕僚長の改憲発言は、憲法遵守義務に反し、文民統制の原則を侵すものである。個人としての発言といっても不問にできず、罷免を求める。当該発言は、軍事組織の政治介入につながるものである。  
  • 18日の審査会において、「首相発言に縛られない」との認識が中谷幹事から示されたが、当日、自民党は、憲法改正推進本部の体制を強化するなど、憲法改正に向けて動いている。首相自身、「具体的な案は審査会で議論すべき」と発言しておきながら、首相主導で改憲案をまとめようとしている。憲法尊重擁護義務を負う首相がメディアを利用して改憲論議を喚起するなど言語道断である。  
  • 憲法を巡る最大の問題は、現実の政治が憲法の平和・民主主義の原則と乖離していることである。憲法前文を含む全条項を守り、平和・民主主義の原則を現実の政治に生かすことこそ、政治に求められる責任である。  
  • 基地が集中する沖縄では米兵による犯罪等が県民の命と暮らしを脅かしているが、地位協定に阻まれ、知事や警察も現場に入れず、住民の不安は解消されない。憲法で保障された人権より安保が優先される現状を正すことこそ、政治に求められていることである。

平沢 勝栄君(自民)

  • 統合幕僚長の発言に批判的な委員の意見に反論したい。  
  • 自衛隊について、憲法学者の7割近くや一部の政党に違憲との見解があるが、そういった中でも自衛隊は命がけで働いており、国民の9割以上が信頼している。  
  • 違憲との一部の見解は、自衛隊員の士気にも影響しかねない。統合幕僚長の発言は、あくまで質疑の中で質問があったから答えたのであり、統合幕僚長の立場で言うのは適当ではないとして、一自衛官として発言したものである。また、その内容も当然のことを言っただけであり、問題はない。  
  • 平和安全法制に対しても違憲との学者の評価があったが、憲法学者のほとんどは自衛隊を違憲と言っているため、同法制を違憲と言うのも当然である。政治家は現実と向き合っており、学者のように神学論争をして憲法違反だと言うことはできない。  
  • 自衛隊の存在を憲法上位置付けることは、自衛隊が違憲かもしれないという意見が起こらないようにし、自衛隊員に誇りと自信を持って仕事をする環境を整備することである。それが政治家の任務である。

足立 康史君(維新)

  • 細野委員から、教育無償化を憲法に書くかは党内で議論中であるとのコメントがあった。民進党の立場、議論の状況等について、武正筆頭幹事から紹介してほしい。  
  • 辻元幹事から、法律でできることは法律でというのは普遍的原則であるとの反論があったが、理由が示されないと議論が深まらない。  
  • また、民進党から教育無償化法案が提出された際には諸手を挙げて賛成するようにとの発言があった。我が党は既に参議院に法案を提出しており、まずそれについて検討するのが本来の筋である。  
  • 89条の問題について細野委員等から発言があった。我が党の改正案でも、26条3項前段に「法律に定める学校における教育は、全て公の性質を有するものであり」と規定し、89条との関係で疑義が生じないようにしてあることを付言しておきたい。  
  • 山尾委員が自衛隊の合憲性について述べているが、狭量な論理を持ち出して議論を縛るのは、3分の2の合意をする気がないとしか思えない。発議に向けた有意義な提案をお願いしたい。

中谷 元君(自民)

  • 統合幕僚長の憲法に関する発言について、確かに自衛隊法に政治的行為を制限する規定はあるものの、今回は、記者からの質問に対して、一自衛官として個人の見解を述べたものであり、問題はないと考える。  
  • 緊急事態について、現行法にも地方自治体に対する是正の指示や代執行の規定はあるが、地方自治体がその措置に従わない場合の規定はない。しかも、「地方自治の本旨」を損なわない限りでの対応という制約もある。このため、緊急事態における権限集中について議論する余地があると考える。  
  • 緊急事態において、津波で役所が流されたり、首長が死亡したりするなど、行政機能そのものが失われるといった一刻の猶予もない事態も起こり得る。また、権限があっても、その行使をためらう地方自治体もある。そのため、緊急事態条項を憲法に規定することについての検討をお願いしたい。

宮崎 政久君(自民)

  • 所有者不明の土地の全国への広がりは、所有者の探索に莫大な費用と時間を要し、自治体関係者を悩ませるとともに、民間の土地取引にも影響を及ぼし、地方創生や地方活性化を阻害することがある。今後大量相続時代を迎える状況を踏まえ、国土の狭い我が国の将来の国づくりに資する憲法の条項として、財産権に関して、公共財である土地の所有者には土地を適切に管理・使用する責務があることを明示する規定を置くべきであると考える。  
  • 29条2項の「公共の福祉」の内容は一義的に明確とは言えず、所有権の制約という点では大きなハードルがある。  
  • 東日本大震災の復興の過程でも、所有者不明の土地は大きな課題となった。  
  • 土地所有権の登記は権利者による申請主義によっており、相続後放置される事例が多い。後の世代で土地の活用を必要とする場合、時間も費用も膨大となる。  
  • 土地は、所有権を認められているが、国土の一部として公共財としての本質を持つ。土地の所有権者は、公共物である所有物を適切に管理・使用することに一定の強い責務があると言うべきである。

山田 賢司君(自民)

  • 次回、9条をテーマに、各党から意見を持ち寄って議論してはどうか。  
  • 統合幕僚長は記者から問われて答えただけであり、答えてはならないとなると、取材の自由、国民の知る権利の侵害になる。現場の人がどう思っているかは国民の知りたいことではないか。  
  • 新しい人権は、特に必要がなければ憲法に明記する必要はないと思うが、犯罪被害者の人権については考慮する必要がある。  
  • 最大の犯罪被害者は拉致被害者である。これに対して何らの手段を講じなくていいのか。在外邦人の保護・救出は領域国の同意が前提となっているが、拉致した国が救出のための自衛隊の派遣に同意するわけがない。国家犯罪により他国に連れ去られた人は領域国の同意なく救出できるようにしなければならない。そのため、立法府の意思として、拉致被害者に限定して、解釈変更でもいいが、だめなら明文の規定で救出できるようにしなければならない。

細野 豪志君(民進)

  • 中谷幹事から緊急事態における地方自治との関係について発言があったが、私は地方自治との関係においても十分対応し得るとの理解である。そこで、議論を深めるため、緊急事態の具体的な事例において、現行法でできないこと、法改正すればできること、現行憲法上対応できないことを整理して、書面で提出していただきたい。  
  • 船田幹事から自民党を代表して同性婚について発言があり、驚いた。私は、24条は同性婚を禁止していないと解釈しているが、「両性」との書き方をしない方が良いとの議論は十分あり得ると思う。ただし、現状は差別解消やパートナーシップの結論さえ出ておらず、憲法改正よりもずっと前の段階にある。我々は前向きに議論をしていきたいので各党間でも議論を進めてもらいたい。その中で、24条を改正する議論になれば大いに議論する必要がある。  
  • 統合幕僚長が政治的影響のある発言を行うことには議論が必要である。政治的影響のある発言を制服組が慎んできたからこそ、自衛隊の信頼がある。制服組の思いは我々が踏まえればいいのであって、自衛隊の皆さんが発言をしなくても議論が前に進むような状況を作ることが政治の責任である。

高木 宏壽君(自民)

  • 憲法施行後70年で日本を取り巻く社会情勢は大きく変わった。憲法の規範性を維持する観点からも、改正の発議案を国民に提示するための具体的議論を始めていく時期に来ている。  
  • 秘密を知られない権利は、全ての人が享有する人格権である。先般、最高裁は、インターネット上の情報の削除について厳格な要件を求める初の統一判断を示した。なお、その第一審判決では、国内で初めて、過去の犯罪を社会から忘れられる権利があるとの言及があった。  
  • 忘れられる権利は、EUの司法裁判所では認められている。  
  • 忘れられる権利は、本人が更生してやり直すためにも意義がある。本人の意思にかかわらずインターネット上に半永久的に残る記録について、忘れられる権利を含め、現在の高度情報化社会に適したプライバシー権の在り方を議論する必要がある。

鬼木 誠君(自民)

  • 権利の濫用や訴訟の乱発は行政を停滞させるため、憲法に権利条項を増やすことには慎重であるべきである。合憲判決が積み重ねられていても背景の違う1件の違憲判決によって、違憲無効となってしまう。立法や行政の現場では、条例制定の際に違憲判決や訴訟をおそれて萎縮している。  
  • 憲法への行政や立法の配慮、司法による立法と行政へのチェックは三権分立の本質であり、大事なことだが、度が過ぎており、バランスの悪さを正したい。  
  • 権利と権利の不均衡、権利と義務の不均衡を是正したい。自由と権利を勝ち取ってきた背景のある欧米諸国と異なり、日本人には「権利には義務、自由には責任が伴う」という意識が比較的欠けているので、そのような意識を持つ憲法にしたい。  
  • 個別政策を憲法に規定することには慎重であるべきである。政策の細部には様々な議論・賛否があり、何より財源が必要である。それらを飛ばして結論だけを義務付けることは避け、法律で実現すべきである。

奥野 総一郎君(民進)

  • 世界各国から、日本の「知る権利」について懸念が示されている。報道の自由度ランキングでは、2010年の11位から、今年はG7で最下位の72位まで下がった。特定秘密保護法の存在やメディア内の自己規制の増加、政権側がメディア敵視を隠さなくなっていることなどが原因とされる。国連人権理事会の暫定調査報告でも、同様の指摘がされている。  
  • 自民党憲法改正草案には、表現の自由を制限する規定がある。同草案を前提に議論するのは問題である。  
  • 「知る権利」には、公権力に対し積極的に情報開示を求めていく情報開示請求権という側面がある。情報公開法制はあるが、文書の隠蔽、黒塗り、非開示、特定秘密による開示拒否などの問題が指摘されている。また、広義の特殊法人(NHK、地方共同法人など)については、情報公開法制がなく、穴がある。  
  • 現行の情報公開法制の問題点を踏まえれば、情報開示請求権としての「知る権利」を憲法上明記し、網羅的に一層の情報公開を促すべきではないか。また、個人情報保護の観点から、知る権利とプライバシー権をセットで規定し、憲法の中で開示・非開示の調整を図るべきではないか。 
  • 教育の無償化には賛成だが、財源の議論を憲法より先にやるべきである。

土屋 正忠君(自民)

  • 現行憲法下においても人権は相当保障されている。  
  • 現行憲法における最大の矛盾は、自衛隊と9条の関係である。この問題は解釈で解決されてきたが、時代の変遷とともに自衛隊の存在を憲法に明記すべき時が来たと考える。
  • 地方自治について、公的支出の6割を地方自治体が執行しており、その意味で、日本人の生活は地方自治体にあると言える。地方自治の議論は様々な多様性を持った重層的なものであることから、憲法改正論議の際には、憲法事項なのか、法に委ねるべきかを含め、知事、市町村長、県議会議員、市議会議員などとも十分に議論するなど、慎重で分厚い議論が必要である。