平成12年5月11日(木)(第9回)

◎会議に付した案件

1.日本国憲法に関する件(日本国憲法の制定経緯)

 日本国憲法の制定経緯に関して締めくくりの自由討議を行った。

2.「憲法調査会に望むもの」論文募集の結果報告

中山会長から論文募集の結果について報告があった。なお、優秀論文については会議録に参照掲載することに協議決定した。

◎各委員の発言の概要(発言順)

保岡 興治君(自民)

  • 現行憲法は、日本に主権のない占領下において、GHQによって極めて短期間の間に作られたものであることは明らかだ。
  • 前文は、アメリカ合衆国憲法などを下敷きに作成されたもので、日本の国情に合わず不適当である。
  • これからは日本のあるべき姿、特に安全保障体制の見直し、危機管理及び地球環境問題への対応についての論議を行っていくべきだ。

石毛 えい子君(民主)

  • 現行憲法の制定によって確立された人権規定であるが、国際関係の視点から、これが十分なものであるかどうかを検証する必要がある。
  • 憲法の規定を具現化している個別法についても検証が必要だ。

平田 米男君(明改)

  • 「押しつけ」を根拠とした改憲論や創憲論は、もはや否定されたものと思う。現行憲法は、制定時から国民憲法であった。
  • 芦田修正の意味は大きい。第9条の解釈については原点に立ち返って論憲を行うべきである。

佐々木 陸海君(共産)

  • 現行憲法は、その制定過程において軍国主義から民主主義へ移行する激動期における内外の世論が反映されたものであり、「押しつけ」論は、そうした歴史認識に欠けている。
  • 安全保障は、軍事によらない平和秩序の確立によって行われるべきである。

中村 鋭一君(保守)

  • 先の大戦の呼称を「アジア解放のための大東亜戦争」とするべきだと主張する著名な学者もいるように、現行憲法に対する見解というのは、それを論ずる人によって随分と違うものである。

達増 拓也君(自由)

  • 現行憲法は、アメリカとの間の2国間条約のようなものである。
  • 今日まで現行憲法が改正されずにきたのは、憲法が硬性であることに加えて憲法改正についての国民意思の統合がなされてこなかったからである。

深田  肇君(社民)

  • 「押しつけ」論は、もはや問題にならない。
  • 現行憲法の精神を具現化していくことが大切であり、そのための調査が求められる。
  • 今後の調査に当たっては、@無所属議員の調査会への参加、A憲法訴訟についての調査、B憲法が「新しい権利」の障害となってきたか否かの調査、C歴代政権の憲法についての認識の調査が必要と考える。

葉梨 信行君(自民)

  • いわゆる松本私案は、英国的立憲君主制を目指した開明的な案であり、再評価すべきものと考える。
  • 現行憲法は、我が国の伝統文化を置き去りにしてしまったため、最近の少年犯罪に見られるように、日本人の心の深い部分にマイナスの影響を与えている面もある。
  • 第9条第2項の改正と21世紀にふさわしい国民憲法の制定が必要である。

藤村  修君(民主)

  • 現行憲法の制定は、当時の国内外情勢の大転換という社会的背景があって初めて可能になったものと考えられるが、今日の日本が転換の岐路にさしかかっているという認識は、希薄なのではないか。
  • 国内外の状況を勘案し、おかしい点については修正していくべきである。
  • 「押しつけ」は否定できないが、当時の日本における民主主義の未熟さにかんがみれば、それが好結果を生み、国民に受け入れられていったと考えられる。

杉浦 正健君(自民)

  • 時代の大きな転換点を迎え、将来の日本はいかにあるべきかを考える出発点として、憲法改正についての前向きな検討を早急に行うべきである。

石田 勝之君(明改)

  • 「押しつけ」は否定できないが、それが即改憲には結び付かない。制定以降、国民の憲法として認知されたものと考える。
  • 社会情勢の変化と憲法との関わり及び改憲に向けての国民の関心の高まりにかんがみれば、憲法改正についての建設的かつ前向きな議論を望む。

石破  茂君(自民)

  • 「押しつけ」は存在したが、だからといって現行憲法が無効であると考えるべきではない。
  • 冷戦終了後における日本の国際的立場及び役割を重視するとともに、憲法変遷論についても十分な検討が必要である。

田中 眞紀子君(自民)

  • 戦争責任に対する認識及び天皇制の在り方について、タブー視せずに、国民全体での論議が必要である。

高市 早苗君(自民)

  • 第96条の規定は憲法改正を予定するものであり、したがって、改憲を前提とする主張を異端視すべきでない。
  • 国民の幸せと国の発展のため、日本の将来をどうすべきかを議論することは、国会議員の責務である。

島  聡君(民主)

  • 「押しつけ」の存在は事実であるが、その中で天皇制を護持するため当時の人々が様々な努力をして受け入れる決断をし、その後維持された事実を重視すべきである。
  • 現行憲法が冷戦以前に制定されたことにかんがみれば、第9条第2項を再検討すべきである。
  • 地方自治について、道州制の導入及び直接民主制の導入について検討すべきである。

柳沢 伯夫君(自民)

  • 第9条の改正を論議するに当たっては、国際社会の理解が不可欠であるという認識が必要である。
  • 一国平和主義は現実的ではなく、国際的な集団安全保障体制の確立を目指すべきである。

中曽根 康弘君(自民)

  • 日本独立直後、吉田首相は、内心では憲法改正をしなければならないと考えていた。
  • 主権在民である以上、憲法は国民自身が作るべきである。我が国は、国家の基礎構造を堅固なものにして、他国から軽視されない国家となるべきだ。
  • 来る総選挙においては、本院議員は、憲法や教育基本法に関する態度を明確にし、国民の判定を求めるつもりで行動すべきである。

中野 寛成君(民主)

  • 制定後50年余にわたって憲法はしっかりその役割を果たしてきたのであり、憲法無効論は暴論と言わざるを得ない。
  • ドイツのように憲法裁判所を設けることにより、特定問題について憲法裁判所の判断を仰ぎ、次いでその判断に基づいた憲法改正を行うことも可能となる。

穂積 良行君(自民)

  • 現行憲法は、我が国の戦後の発展に大きく寄与してきた。
  • 現在、憲法の掲げる三原則はいずれも大きな問題に直面しているが、これらの諸問題は「共生」思想の見地に立って解決されるべきである。

横内 正明君(自民)

  • 共産党は、制憲議会において現行憲法に反対したが、現在は全く逆転した態度をとっている。いつ、いかなる手続でこのように態度を変化させたのか。
  • 芦田修正の趣旨が明らかになった以上、これを憲法改正に反映させるべきである。

春名 直章君(共産)

  • 我が党は、一貫して、我が国が自衛権を有するという主張をしている。
  • 憲法無効論はもはや通用せず、「押しつけ」を理由とする改憲論は力を失っている。
  • 現行憲法は、内外の支持を得て、しっかり定着したものである。極めて先駆的な価値を有する憲法の理念に現実を合わせていく努力をすることが、重要である。

奥野 誠亮君(自民)

  • 現行憲法の制定に関し、GHQはさまざまな命令、介入、検閲等を行った。誇りある民族であれば、自らの憲法は自ら作るべきである。

太田 昭宏君(明改)

  • 現行憲法の掲げる三原則は、それが普遍の原理であると同時に、当時の国民を感動させるものであったことが、今日に至る支持の基盤になっている。
  • しかし、極めて短期間で制定されたため、近代憲法の思想的基盤であるヨーロッパ近代文明と伝統的な日本文化の激突をどう調和させるかという問題が、未解決のまま今日まで残されている。

小泉 純一郎君(自民)

  • 憲法はできるだけ分かりやすい記述にすべきであり、第9条を軍隊の保持、国際協調への対応ができるように、明確な表現で改正すべきである。
  • 憲法改正が国民の理解を得るための足がかりとして、首相公選制を導入すべきである。

平沼 赳夫君(自民)

  • 現行憲法は、占領政策を円滑に遂行するために押しつけられたものであるから、法治国家としてけじめをつける必要がある。
  • 真の独立国家たるために国民の手による新たな憲法を制定すべきである。

前原 誠司君(民主)

  • 個別的自衛権と集団的自衛権に差異はないので、両者を区別する政府の解釈は誤っている。両者を含んだ概念としての自衛権を憲法に明記すべきである。

中川 昭一君(自民)

  • 現行憲法は占領下で主権がない状況下で制定され、我が国自身が制定したものではなく、また、その後国民による確認行為もなされていない。
  • 憲法の規定に現実を合わせるという議論はナンセンスであり、現実を踏まえ、あるべき規定と残すべき規定を吟味し、自由にゼロから議論していくべきである。

西田  猛君(保守)

  • 時代のニーズに合った改正を行うことこそ、憲法を尊重することである。
  • 国際平和協力に積極的に参加する規定を明記すべきである。

安倍 晋三君(自民)

  • 前文では「諸国民の公正と信義」を信頼しており、安全保障の概念が欠落しているので、前文の見直しが必要である。
  • 集団的自衛権というものは自然権であり、「保有しているが行使できない」とする政府解釈はおかしい。

東中 光雄君(共産)

  • 制定経緯から見て現行憲法を無効と評価する参考人はおらず、また、憲法の内容は「押しつけ」ではない。
  • 本調査会では改正のための議論をするのではなく、調査に徹するべきである。

船田  元君(自民)

  • 憲法が現実とそぐわない点は改正すべきであり、迅速に対応するためには部分修正が望ましい。特に、首相公選制の導入、二院制の在り方を検討すべきである。
  • 集団的自衛権の行使に関しては国民のコンセンサスを得るのに相当時間もかかるので、第9条の議論は、個別的自衛権、集団的安全保障にとどめるべきである。

奥田 幹生君(自民)

  • 国民主権、基本的人権の尊重、侵略国家とならないことを確認した上で、憲法が現実に対応していない点を今後の検討項目として整理し、議論していくべきである。

岩國 哲人君(民主)

  • 占領下に制定された憲法は長続きさせるべきでなく、自分達で作り直すべきである。
  • 憲法を改正するには一票の価値が不平等であってはならず、まず、公平な環境を作るべきである。

山崎  拓君(自民)

  • 憲法を改正するに当たっては、一国平和主義でなく安全保障面での国際貢献も行うこと、他人の人権を尊重することが不可欠である。また、自衛権を明記すべきである。
  • 憲法改正については、次回の参院選で各党が基本姿勢を示し、その後の総選挙で各党が改正案を示し、国民の審判を仰ぐべきである。その後、衆参両院合同で改正案を検討していくべきである。

二見 伸明君(自由)

  • 第9条第1項の精神は堅持するが、侵略戦争をしないことを明記した方がよい。また、第9条第2項には、国連平和活動への協力を明記すべきだ。
  • 次国会では、この国会の議論を蒸し返さずに具体論の議論をすべきであり、5年後には一定の方向が出せるように議論を進めるべきだ。

伊藤  茂君(社民)

  • 新しい国家、社会の設計図をどうするかという観点から憲法論議をすべきだ。
  • アジアでの共通の安全保障をどうするかについて議論すべきだ。

三塚  博君(自民)

  • 現行憲法の三原則は維持しつつ、自衛隊の存在、核廃絶への決意を明記すべきだ。
  • 世界の軍事費の10%を削減し、その分を核廃絶と地球環境保全にまわすべきだ。

鹿野 道彦君(民主)

  • 「押しつけ」論にこだわらず、次の世代に対する責任と使命をもって議論を進めるべきだ。
  • 21世紀は分権と自治の時代であることを認識して議論すべきだ。

石井  一君(民主)

  • 衆議院とは異なった参議院の在り方(参議院に現在の各種審議会の委員のような専門家を集結させる等)、首相公選制の導入を検討すべきだ。
  • 自衛隊の存在、循環型社会の理念を憲法に明記すべきだ。