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平成二十年六月十八日提出
質問第五八七号

死刑執行と裁判員制度に関する質問主意書

提出者  保坂展人




死刑執行と裁判員制度に関する質問主意書


 六月十七日、鳩山邦夫法務大臣による四回目の死刑執行が行われた。
 昨年八月の大臣就任以来、十二月、二月、四月、六月と規則正しい隔月行事のように死刑執行が続いている。「国民の多くは死刑存置」という世論調査の動向によりそって、鳩山大臣と法務省は「粛々と」処刑を続けていくつもりのようだ。一方で、裁判員制度のスタートが来年の五月に近づいている。認知率は、国民の九十五%と向上したが「やりたくない」「できればやりたくない」という人が八十二%となっている。国民世論を重視するのであれば、裁判員制度の実施を前に国民の戸惑いや逡巡が深まっているのはなぜか、大いに議論するべきであろう。事態の重要性に鑑み、ここに質問主意書を提出する。質問に対しての答弁は、真摯に、ひとつひとつていねいに回答されることを望んでいる。

一 鳩山大臣は執行後の記者会見や国会答弁などで「粛々と死刑を執行しております」と語っている。ところで、「粛々」を辞書でひくと「つつしむさま」「静かにひっそりしたさま」「ひきしまったさま」「おごそかなさま」(広辞苑)とあるが、「死刑執行」のどこが「粛々」なのか理解に苦しむ。大臣の言語感覚で「死刑執行を粛々と行いました」と語る時、「粛々」という言葉にどのようなイメージと語感をこめて、何を伝えようとしているのか。
二 「宮崎勤死刑囚の再審を準備している」という弁護人からの書面を鳩山大臣は受領しているが、「実際には再審請求の手続きは行われていないので、執行の妨げにはならなかったと判断した」旨、法務省から聞いている。とすれば、確定死刑囚の再審請求を準備していると弁護人が法務大臣に書面で伝達することで、法務当局が執行を見合わせるのではなくて、むしろ再審請求の実際の手続きが行われる前に執行を前倒しにするということもありえるのではないか。
三 宮崎勤死刑囚は、一九九六年から精神疾患の治療に用いられる向精神薬を継続的に投与され、九九年には統合失調症の治療用の向精神薬も使用している旨の東京拘置所の回答書が控訴審に提出されたのは事実か。それから十年、死刑執行に至った六月十七日まで、精神疾患の治療は続いていたのか。
四 宮崎勤死刑囚の執行にあたっては、「受刑能力」の有無が大きな論点となる。刑事局長は、直近の治療状況について「プライバシー」と確答を避けたが、精神鑑定でも「責任能力」をめぐって判断が分かれたケースだけに、明確に答えてもらいたい。東京拘置所の医師は、宮崎勤死刑囚に対して精神疾患の有無をどう判断していたのか。また、精神疾患についての投薬治療を過去十年間、どのように行ってきたのかを答弁されたい。その上で、「受刑能力あり」の判断の当否が議論出来るものと考えるが如何か。
五 刑事訴訟法四七九条は、「死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によって執行を停止する」とある。以下、死刑執行手続きと受刑能力について具体的に質問したい。
 1 執行命令前に、命令対象予定者の「心神喪失の状態」を調査しているか。している場合は、誰が、どのように調査しているか。医師等の専門家の判断を経ているか。調査結果は文書になって記録されているか。
 2 「心神喪失の状態」は、誰が、何を根拠に判断するか。
 3 これまで「心神喪失の状態に在る」として、法務大臣の命令によって執行を停止した事例は、戦後あるか。ある場合はいつ、どのような事例で、何件か。
 4 「心神喪失の状態に在る」として法務大臣の命令によって執行を停止した事例がある場合、「停止」状態は、どのような手続きを経て解除されるのか。
 5 執行時に心神喪失状態にあるか否かを判断する資料は、「執行始末書」(刑事訴訟法四七八条)などに添付されているか。
六 今回の宮崎勤死刑囚への執行にあたり、法務大臣は自ら「妙な言い方だが、自信と責任をもって執行できるという人を選んだ」と記者会見で語っている。個別死刑囚の執行について「世間を震撼させた凶悪事件」を想起させながら、言及するのは異例のことだが、ここまで自らの決断を公の場で語っているのであれば、以下具体的に答えてもらいたい。
 1 法務大臣は、宮崎勤死刑囚に対する執行命令を発する際に、宮崎勤死刑囚の「心神喪失の状態にあるか否か」を判断する資料を検討したか。検討した場合、その資料の作成者は誰で、どのような内容だったか。
 2 法務大臣は、宮崎勤死刑囚が心神喪失の状態に在るか否かについて調査したか。調査した場合は、どのように調査したか。
 3 法務大臣は、宮崎勤死刑囚が心神喪失の状態に在るか否かについて判断したか。判断した場合、その判断結果はどうだったか。判断した根拠は何か。
 4 執行命令を発するに際して、宮崎勤死刑囚に対して、外部医師等の専門家に「心神喪失の状態」に在るか否か調査・診断をさせたことがあるか。そのような調査・診断があった場合、誰にさせたか。その結果はどうだったか。
 5 執行命令を発するに際して、宮崎勤死刑囚に対して、東京拘置所の医師に調査・診断をさせたことがあるか。させた場合、その結果はどうだったか。
七 死刑執行の告知は当日の朝、行われる。衆議院法務委員会の東京拘置所刑場視察にあたって、東京拘置所所長は処刑が行われる刑場の観音像の前で「これから死刑を執行する」と宣告すると説明したが、それから実際に絞首刑が実施されるまでの時間は短く「数分ではないか」と説明した。されば、死刑囚による「異議申し立て」は不可能ではないかと考え、以下具体的に質問する。
 1 法務大臣の執行命令を受けた死刑確定囚は、刑事訴訟法五〇二条に基づき、執行に関して異議を申し出ることはできるか。
 2 法務大臣の執行命令を受けた死刑確定囚が、刑事訴訟法四七九条等に違反する違法な執行命令に対して、その違法性を争う手段は法律上用意されているか。用意されている場合、どのような法律と手続きで行われるのか。
 3 現在のように執行直前に執行命令が告知されている場合、死刑確定囚は執行に関して異議を申し出たり、執行命令の違法性を争うことができないのではないか。
 4 現在のように執行直前に執行命令が告知されている場合、死刑確定囚は執行命令について弁護士等に相談する機会を奪われているが、これは、手続きのあらゆる段階においても弁護士の適切な援助を受ける権利を保障した「死刑に直面している者の権利の保護の保障の履行に関する国連決議」(一九八九年十二月十五日国連総会決議四四・一六二)に反しないか。
八 昨年十二月十八日には国連総会で「死刑執行停止決議」が行われた。また、日本が理事国に再選された人権理事会でも多くの国から「死刑執行停止」について、政府は見解を求められ、政策転換を促されたと聞く。以下、具体的に答えられたい。
 1 日本政府は二〇〇八年二月一日、国連人権理事会第二回理事国選挙の立候補に際して、人権は普遍的な価値であることを認め、相互の理解と尊重に基づく対話と協力の促進によって、人権を尊重していくことを誓約していると理解しているが、それでよろしいか。
 2 二〇〇八年五月九日に実施され、五月十四日にまとめられた日本のUPR作業部会のレポートの六十−十二項によれば、イギリス・ルクセンブルク・ポルトガル・アルバニア・メキシコ・スイス・イタリア・オランダ・トルコの合計九ヶ国から死刑の廃止ないしは執行停止に関連する勧告を受けたものと理解しているが、それでよろしいか。
 3 今回の各国政府の勧告の中には「停止や廃止を視野に入れて死刑について緊急に検討すること(英国)。」「死刑執行に正式な停止期間を導入することを優先事項として検討すること(アルバニア)。」「死刑執行に停止期間を設けることについて再度検討すること(メキシコ)。」「死刑確定者の権利擁護を保証する措置を規定している国際(人権)基準を尊重すること、死刑を徐々に制限すること、死刑対象の犯罪を減らすこと、死刑廃止を視野に入れて、死刑執行に停止を設けること(イタリア)。」など、必ずしも直ちに死刑の執行停止を求めたものではなく、その「検討」を求めたものが含まれているが、そのような理解でよろしいか。
 4 二〇〇八年六月十二日、国連人権理事会第八会期本会議において、日本の人権状況に関する審査報告書が採択されたが、この採択に先立ち、日本政府は、報告書に示された、死刑の廃止ないし執行停止を行うべきこと、少なくともそのような検討を行うべきとする勧告六十−十二のすべての勧告について、これを受け入れないという意思を明確にした。
  日本政府は、我々は死刑の執行停止の立場に立たないとして、執行停止の勧告を受け入れなかっただけでなく、国連条約の中で死刑廃止を求めた第二選択議定書だけについては他の人権条約・議定書と異なり、批准の検討すらしないと明言したものと理解しているが、そのような理解でよろしいか。
 5 一九八二年七月二十七日に規約人権委員会によって採択された「一般的意見六(16)(六条・生命に関する権利)」によれば、「第六条第二項ないし第六項からすると、締約国は、死刑を完全に廃止することを義務づけられているわけではないが、その行使を限定すること、特に、「最も重大な犯罪」以外の犯罪に関しては死刑を廃止すること、が義務づけられている。従って締約国は、このことに照らしてその刑法を検討することを考えるべきであるし、いずれにしても、死刑の適用を「最も重大な犯罪」に限定しなければならないのである。本条はまた、廃止が望ましいことを強く示唆する(第二項及び第六項)文言で一般的に[死刑]廃止に言及する。委員会は、[死刑]廃止のあらゆる措置が第四十条の意味における生命に対する権利の享受についての進歩と考えられるべきであり、それについては是非委員会に報告されるべきである、と結論する。」としている。
  この一般的意見によれば、わが国は自由権規約の締約国として死刑を普遍的な人権・生命の権利に関する問題としてとらえ、死刑の廃止に向けて適用を制限し、執行を停止していくことを少なくとも検討していく自由権規約上の責務を負っているのではないか。
 6 日本は、国際人権(自由権)規約委員会(一九九三年、一九九八年)や拷問禁止委員会(二〇〇七年)から、死刑の廃止に向けてその適用を制限し、さらには死刑の執行をすみやかに停止するようにと度重なる勧告を受けている。
  にもかかわらず、近年死刑判決および死刑執行が急増し、昨六月十七日にも新たに三名について死刑が執行され、鳩山法務大臣が就任して以来の死刑執行数が十三名にも達するという大量処刑が敢行されている。
  このような政府の姿勢は、人権は普遍的な価値であることを認め、相互の理解と尊重に基づく対話と協力の促進によって、人権を尊重していくことを人権理事会に対して誓約した立場と明らかに矛盾しているのではないか。
 7 日本は、人権分野における国際貢献をより一層強化していくという立場から、自ら人権理事国に立候補し、アジア地域より選出され、作業部会における審査後の五月二十一日には再選されている。すなわち、日本は人権理事会の審査に対して誠実に対応することを国際社会に宣言し、理事国となったのである。にもかかわらず、日本が抱える最大の人権問題ともいえる死刑制度についてのこれらの勧告を拒絶したこと、とりわけ勧告の方向で「検討」することすら拒否したことは、自由権規約の下で締約国に課された条約上の義務に反するばかりか、日本政府が人権に対する基本的な理解を欠いている事実を露呈し、国際社会における日本政府の地位と信用を大いに傷つけたものであるとは考えないか。
  死刑の執行を停止することこそが国際社会において日本が名誉ある地位を占め、世界各国から尊敬されるような国となるために必須であるとは考えないのか。
九 鳩山大臣がぬいぐるみに入った「サイバンインコ」は、およそ政府と国民の間の意識のズレを示している象徴的なキャラクターだと考える。「サイバンインコ」に大臣が入ることで、国民にとって裁判員制度が身近になると考えた理由を述べられたい。裁判員制度の実施前に、死刑執行を「粛々と」と言いながら半年で十三人を処刑した大臣が、「サイバンインコ」の中に入っているところを国民は好意的に評価し、裁判員制度の参加意欲を高めているという声は、政府に届いているか。
十 ところで、法務省は裁判員制度の広報のために、過去いくらの予算を費消したか。この「サイバンインコ」などのキャラクターはどの予算でまかなわれていて、いくらかかっているのか。
十一 裁判員制度の認知率があがり、参加意欲が減退している数字が各種調査であがってきている。「知れば知るほど嫌になる」というのでは、広報は逆宣伝だということになる。いったいなぜ、参加意欲があがらないのか。
十二 市民の司法参加といいつつ、模擬裁判を見ると裁判のプロである裁判長に対して、しっかりと意見や異議申し立てをすることの出来る評議が行われていない。そもそも学校教育に「法教育」の蓄積はなく、また職員会議で教員が挙手することすら禁止する東京都のような上意下達体質が浸透する教育現場で、「自ら意見を言う国民」は育成されるのか。
十三 現在、全国各地で模擬裁判が実施されているが、何人かの被害者が死亡して「死刑か、無期懲役か」を争う事件については行われていないと聞く。実際の裁判員裁判では、対象となる重大な被害を生じた残虐な殺人事件などについて模擬裁判を行わない理由は何か。

 右質問する。



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