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平成三十年十一月十四日提出
質問第六二号

漢方薬の処方および患者自己負担に関する質問主意書

提出者  柚木道義




漢方薬の処方および患者自己負担に関する質問主意書


 漢方医学および漢方薬は、確かにその起源は大陸にあるが、国内で永年研究・実証がなされてきたわが国独自に発展を遂げた医学・医薬品であり、現在では日本の漢方医学は今日の中国の伝統医学「中医学」や韓国の伝統医学「韓医学」とは明確に異なっている。病気の診断法や医薬品の処方も明治以来わが国に導入された西洋医学とは考え方が大きく違い「陰陽」「虚実」「六病位」「気血水」「五臓」などの理念に基づき病気自体でなく全身を診断している。
 そして、漢方薬は植物由来の原料を組み合わせ、それぞれの人の特徴や病期に合わせてきめ細やかにオーダーメイド処方がされている。例えば同じ人でも風邪の症状に応じた処方例として、初期症状が現れた段階(六病位で言う「太陽病」)には「桂枝湯(けいしとう)」または「麻黄湯(まおうとう)」、症状が少し進み体がだるくなったり食欲がなくなったりした段階(六病位で言う「少陽病」)では「小柴胡湯(しょうさいことう)」、風邪の症状が現れて高熱が出たり口が乾いたり便秘になったりした段階(六病位で言う「陽明病」)では「白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)」、症状がさらに進み体がだるく食欲もなく、下痢をしたり体が冷える段階(六病位で言う「太陰病」)では「人参湯(にんじんとう)」、風邪の症状が強くなって全身の倦怠感が強く、手足が冷える場合(六病位で言う「少陰病」)は「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」、風邪をこじらせて寝込んでしまった場合(六病位で言う「厥陰病」)には「茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)」がそれぞれ処方されることがある。また、風邪の初期段階で「虚」(やせ型、水太り、疲れやすい、ストレスに弱いなど)の人には「桂枝湯(けいしとう)」が処方される例があるが「実」(筋肉質、固太り、疲れにくい、ストレスに強いなど)の人には「麻黄湯(まおうとう)」)が処方される例があるなど、人によって処方は異なっている(なお本質問主意書での漢方薬の処方はあくまで例であって、同じような「証」(体質・病態)でも医師の処方が異なる場合があることをお断りしておく)。
 この漢方薬の処方及び患者自己負担に関し、以下質問する。

一 平成二十九年十月二十五日の財政制度等審議会財政制度分科会にて薬剤自己負担の引き上げについて議論され、風邪のひきはじめに効く「葛根湯(かっこんとう)エキス」を例として、患者が一般用医薬品として薬局で購入する場合と、医療用医薬品として医師から処方される場合とで患者負担が異なることが指摘された。
 この「葛根湯エキス」は、後漢・三国時代の中国で編纂された伝統医学の古典『傷寒論』にも掲載されている、煎じ薬としての「葛根湯」に含まれる成分を顆粒や錠剤、ドリンク剤等として飲みやすくしたものである。昭和四十二年に医療用医薬品として薬価収載されて以来多くの医師が「葛根湯エキス」を処方しており、風邪のひきはじめに、患者の体質や他剤投与の状況を見て副作用も考慮しながら処方されていた。この「葛根湯エキス」が一般用医薬品としてドラッグストアなどで広く販売されると、一部の患者から「葛根湯エキスが効かない」という声が出ていると聞く。もともと葛根湯も葛根湯エキスも風邪のひき始め(「六病位」で言う「太陽病」)に効く薬であって、症状が進んで汗を大量にかいている状態では効かないし、やせ型、水太り、ストレスに弱いなどの「虚」の人にも効きにくい薬だからである。
 葛根湯及び葛根湯エキスをはじめ漢方薬は今後も専門の医師による適切な診察と指導のもとに「陰陽」「虚実」「六病位」「五臓」などに基づいて医療保険の枠内で適切に処方されるべきであり、かりに一般用医薬品に移行させ漢方医学を知らない患者が自らの症状や体質などへの理解なく購入・服薬すれば副作用や不要な服薬により患者の健康・病状に重大な問題を引き起こすと考えるが、見解如何。
二 わが国では癌が死亡原因の一位として続いており、例えば抗がん剤治療の際の副作用としてひどい口内炎が出た場合に「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」など漢方薬が処方され、がん治療そのものや患者のQOL(生活の質)の改善に役立っている。また大腸がん手術の後の管理において「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を服用した患者ではプラセボ群と比較して在院日数が約四日間短縮したという研究がある。また消化器手術後に「術後イレウス(腸管癒着)」となった患者に同じく「大建中湯」を投与した場合に非投与群と比較して医療費が約十五万円削減され健康アウトカムも改善されたという研究もあり、在院期間の短縮と医療費の削減に漢方薬の効果が期待されるところである。
 一方、人口の高齢化にともない高齢者のフレイル(加齢とともに運動機能や認知機能が低下する状態)が広く心配されているところであるが、漢方医学ではフレイルに近い概念として老化を「腎虚」とし、これに効く漢方薬として例えばしびれ・いたみ・むくみ・頻尿・排尿困難・目のかすみに「八味地黄丸(はちみじおうがん)」や「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」などが処方され、習慣性便秘に「麻子仁丸(ましにんがん)」が処方され、胃炎・食欲不振・心窩部膨満感には「六君子湯(りっくんしとう)」、イライラ・神経過敏に「抑肝散(よくかくさん)」がそれぞれ処方され効果がある例がある。
 このようにこれからのわが国にとって漢方医学と漢方薬は重要で、ますます研究開発と普及を進める必要があり、あわせて漢方医学的診断により処方される漢方薬をこれからも医療用医薬品として存続させ、患者の治療手段として存続させる必要があると考えるが、見解如何。
三 漢方薬を医療用医薬品として存続させても、患者の自己負担率が引き上げられると患者の経済的負担が増加し、漢方医学による治療の機会を奪うことにつながる。日本オリジナルの漢方医学・漢方薬の発展のためには今後も医療用医薬品として他の医薬品と同等の患者自己負担のもとで処方されていくことが必要だと考えるが、見解を伺う。

 右質問する。



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