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令和三年四月二十八日提出
質問第一二二号

医療事故調査制度の運用改善と見直しに関する質問主意書

提出者  阿部知子




医療事故調査制度の運用改善と見直しに関する質問主意書


 医療事故調査制度は、二〇一四年六月十八日に成立した改正医療法に盛り込まれ、翌二〇一五年十月の施行に伴いスタートした制度である。医療事故が発生した医療機関において「管理者が医療事故に該当すると判断したとき」は院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関である医療事故調査・支援センター(以下、センター)が収集・分析することで再発防止と医療の安全を確保するものとされており、いわば医療機関の自主・自立性を重視した制度となっている。
 以来、五年半が経過したが、果たして当該制度は被害者や遺族をはじめとする国民の期待に応えうる実態となっているだろうか。昨今メディアで伝えられるのは、遺族が申し入れても調査されない、調査しても十分な説明もされないという実態ばかりである。
 当初予想された事故報告件数ともかけ離れており、医療被害者の支援に取り組む市民団体からも、改正医療法で目指した医療安全の確立・医療事故防止の実現にはほど遠いと、制度の抜本的な改革を望む声が上がっている。
 これらを踏まえて以下、質問する。

一 医療事故調査制度がスタートしてからすでに五年半が経過したが、二〇二一年三月末時点の医療事故調査制度の現況報告によれば、事故報告件数は二千十八件である。厚生労働省は、医療事故報告数の推計を年間千三百件から二千件としていたが、実際は五年半でようやく二千件、年間に直すと約三百件である。
 当初の推計と実数の乖離について、試算根拠を示して説明されたい。
二 二〇二一年三月に出された「医療事故調査・支援センター二〇二〇年年報」(以下、年報)では、二〇二〇年に医療機関が「医療事故」に該当するか否かを相談し、実施されたセンター合議は六十件であった。そのうち「医療事故として報告を推奨する」と医療機関に助言した件数は三十五件だったが、助言に従って報告された件数は二十一件(六十・〇%)、報告されなかった件数は十四件(四十・〇%)であった。ちなみに報告されなかった数は、二〇一六年は四件(十二・五%)、二〇一七年は十八件(四十七・四%)、二〇一八年は九件(二十四・三%)、二〇一九年は十四件(三十七・八%)とその割合は増える傾向にある。
 センター合議に基づく助言を無視して医療事故調査を実施しないことは、結果として多くの事例が調査されないまま放置されることになり、医療安全と再発防止を目的とする本制度の否定につながるものである。こうした事例が少なくない実態について政府はどのように認識しているのか。
三 遺族等からの相談内容を見ると、「医療事故に該当するか否かの判断」が七十二件(遺族などからの相談全体の七十五・〇%)で、依然として大部分を占めている。遺族等から相談があった場合は、センター合議をしたうえで報告すべき医療事故と疑われる場合には、医療機関に対して院内調査を勧告し、調査が行われない場合にはセンターが独自に調査できるよう、権限の強化を図るべきと考えるがどうか。
四 医療機関による院内調査とセンターによる調査が実施された場合において、双方の調査結果に相違があったときには、センターは医療機関に対して、上記の相違点等に関する補充の院内調査を実施し、その結果をセンター及び遺族等に報告することを指導、勧告できるようにすべきと考えるがどうか。
五 報告対象となる医療事故は、「医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」のうち、「管理者が予期しなかったもの」(医療法第六条の十)に限定されているところであるが、「予期の可否判断」については、当該患者の臨床経過等を踏まえ、個別具体的に判断すべきである。ところが事前の説明書に手術の合併症を挙げ、全て管理者が予期していたものとして事故調査を回避する医療機関があると聞くが、改めて制度の趣旨・目的はもちろん、調査対象となる「医療事故」の定義を周知徹底すべきと考えるがどうか。
六 患者団体の調査では、提訴がなされた後に当該患者が死亡した為、遺族が事故調査の開始を求めたところ、訴訟が係属していることを理由に、調査を行わないと回答した事例があった。しかし、医療事故調査を開始する要件は、医療法第六条の十に定義されているところであり、訴訟事実が、調査を行わない、あるいは中断する事由とならないことは明白である。ところが、実際には、民事責任を追及される可能性、紛争となる可能性、訴訟係属を理由として調査を行わないとの対応をとっている医療機関が依然存在することについて、政府の見解を示されたい。
七 年報では、二〇二〇年の院内調査報告件数三百五十五件のうち、解剖の実施件数は百三十一件(三十六・九%)であった。うち、病理解剖百一件(七十七・一%)、司法解剖二十九件(二十二・一%)であり、Ai(死亡時画像診断)の実施件数は百二十二件(三十四・四%)であった。どちらも四割に満たないばかりか、解剖例の二割は事件性が疑われる司法解剖である。
 死亡の原因究明には解剖が有用であることは論をまたない。院内調査全例に解剖、あるいは最低でもAiの実施を義務付けるべきと考えるがどうか。
八 事故の経過において、患者側と医療機関側の記録や認識が異なっている場合が少なくないが、医療機関の主張する事実のみを前提にして事故調査を行うことは事実誤認を招く。医療事故が疑われた時に、カルテや診療記録を示して患者側に説明し、患者等の意見を聴取する仕組みを院内調査に先立ち、医療機関に義務付けるべきと考えるがどうか。
九 センターは、収集した院内調査報告書を整理・分析して、再発防止策として提言をまとめ、公表しているが、個別の院内調査報告書及びセンターが実施した調査報告書は公表されていない。しかし再発防止・医療安全のために有意義な情報であり、それらについても国民が共有することが望ましい。個人や医療機関等が特定されないように配慮したうえで、要約版を公表するシステムを創設すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
十 年報をまとめた、一般社団法人日本医療安全調査機構理事長の高久史麿氏は、冒頭挨拶で「本制度は、医療事故が発生した医療機関が自ら調査を行い、原因を究明することで医療の安全の確保と質の向上を図ることを基本としており、医療への信頼が基盤となっています。この信頼に応えるために各医療機関は、院内調査の公正性、専門性を十分に考慮して質の高い院内調査を行う必要があります。」と述べている。
 原因の究明をおろそかにして再発防止はなく、遺族等の真実を知りたいという願いを無視すれば、紛争を防ぐことはできない。しかし、九百床以上の大病院でも約三割は報告していない実態が明らかになっている。こうした現状が、医療機関の自発的調査に委ねていることに起因するとすれば、そもそも医療安全の文化が未だ根付いていないということであり、抜本的な制度の見直しに向けた検討が必要と考えるがどうか。

 右質問する。

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