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昭和四十三年二月六日提出
質問第四号

 ベトナム戦争収拾への方途と政府の対外政策に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和四十三年二月六日

提出者  川崎秀二

          衆議院議長 石井光次郎 殿




ベトナム戦争収拾への方途と政府の対外政策に関する質問主意書


一 一月三十日以来の南ベトナムの戦局はきわめて重大である。いわゆるベトコン、民族解放戦線は全土の主要都市に対する攻撃を開始し、米軍の掃討作戦にもかかわらず、なお多くの都市を占領し、北部の古都ユエでは民主民族連合戦線なるものが結成され、その全国指導委員会が「南ベトナムに和平を回復し外国軍隊を引揚げさせ、独立、民主、平和、中立のベトナムを建設するための政権樹立」を呼びかけている。
  わが外務省は、これについて事態は平静化に向かつていると公式に表明したが、在サイゴン日本大使館と米国大使館筋の情報のみに基づくことは判断に慎重を欠くこととなり、日本新聞特派員の通信及び外国通信は事態の重大性を訴えているが、政府は広く情報を収集して国民に事態のすう向を知らしむべきであると考えるがいかん。
二 私は去る一月二十二日、自由民主党幹事長を通じ、ベトナム戦争の和平機運促進に関する意見書を提出し、これに先だち、党総務会において所信を開陳した。
  その第一の要点は、昨年一年間を通じて、アメリカのたびかさなる和平呼びかけにも反して、いつさい和平を拒否していた北ベトナムが、昨年末に至り、チン外相の言明で「アメリカが無条件に北爆を停止するならば、和平のテーブルにつく用意がある」とはじめて和平交渉の意思を明らかにした。これは、国連事務総長ウ・タント氏が国連総会及び各種の会合で数十回にわたり、ベトナム和平の道は、北爆の停止であることを力説したことが立証されたことを意味する。
  私は、北爆の停止が、和平の唯一の端緒であることを二十五日の自民党総務会においても主張し、三木外相も、北爆停止は何人も賛成である。ただし、北ベトナムも、和平会談の途上に、南への補給浸透を中止するとか、その他の保証を明らかにする必要があると言明され、私はアメリカにも、北ベトナムにも双方に日本が呼びかけるべきであると主張したが、その後、具体的声明もなく、時日はむなしく流れ、アメリカと北ベトナムの相互不信は、ついに、南ベトナムにおける解放戦線の総反抗となつて現われた。
  この間の日本政府は、能動、積極的に和平への努力を具体的にしたとは思えないがいかん。また、将来事態が変化し、和平への見とおしがある際にも「北爆の停止」が先行すべきものと思うが政府の見解を聞きたい。
三 もちろん、ベトナム戦争の収拾は、当事者たるアメリカと北ベトナムの双方に相互不信がある以上、にわかに進展するいわれはない。しかしながらいちるの光明を見出した場合は、当事者の大国たるアメリカの態度が混迷を打開する第一のかぎである。
  ジョンソン大統領は、北ベトナム外相の真意を捕そくしがたいとして一月初旬以来、打診をつづけ、中旬に至り、「アメリカの態度はサンアントニオ演説が基礎でありこれが不動の方針である。」と言明し、和平会談への代償を要求したが、元来、常識として、会談のはじまる前に大国が小国に向かつて代償要求は無理のように思われる。政府の方針を、外相の外交演説に見ても、ほとんどジョンソン大統領の所見と同工異曲であつて、ソ連、フランスはもとより、多年米国と同盟血縁的関係にあるイギリスのウイルソン首相の「北爆停止が先決」とする主張にも及ばないのはいかにも対米追随を国民に印象づけ、わが国の独自性を喪失すると見られるがいかん。
四 ベトナム戦争を民族戦争と見るか、単なる反共戦争と見るかは、論者により異なり必ずしも単一に割切ることはできない。
  しかしながら、三年前、アメリカが南ベトナム政府の要請に応じて、「南ベトナムの治安を確保し、テロ行為を掃討して秩序を回復する」ことを使命とし、さらにアジアにおける共産主義の侵食を食いとどめる聖戦であると言明したころより、今日の戦闘状況及び社会事情が、微妙に変化していることにも注目しなければならない、
  アメリカはジュネーブ協定に制約されて、マクナマラ前国防長官のいう「限定戦争」のワク中で苦闘し、ぼう大、優秀なる機械力を駆使して、個々の戦闘で有利を占めても、戦争完勝への最後の手段を持たず、いわゆる、手づまりの戦争を繰り返し、また、南ベトナムの人心をは握するに至つていない。長期にわたる戦争は一般ベトナム人をして一日も早く戦争の痛苦からのがれ、ベトナム人自身による解決を図らんとする風潮が台頭しつつあることが看取される。
  私は、ベトナム戦争の性格は、反共戦争の性格から、次第に民族戦争への性格に濃厚に移行し、この戦争収拾の主役は、ベトナムの民衆であること、戦争は武力で終らず政治的解決以外にないと信ずるが、政府の見解を承りたい。
五 一月はじめ、かすかな和平の希望があつた際、私はベトナム戦争は収拾か、拡大かの岐路に立つて、いると判断した。完勝を望めないアメリカに、また、抗戦の士気衰えざる北ベトナムも、北爆と諸般の事情により疲弊し、長期戦争を呼号するもこれにも限界ありと見たからである。この機運が遠のけばベトコン及び北ベトナムの反抗が起こり、さらに軍事力を持つアメリカはさらに兵力を増強し、解決の困難性から、大陸におけるエスカレーションと冒険を試みるかも知れず、勢のおもむくところ米、中武力衝突の惨事を招来する危険性がないとは限らないからである。その際の戦禍は、ひとり当事者のみでなく、米、中の谷間にある日本の頭上にふりかかることは必至である。
  日本民族の安ねいも、繁栄も一瞬にして土崩瓦解することは必至である。
  現在、中共は一般にベトナム戦争に介入しない、その可能性は将来もないと見られているが、周恩来首相の言明では介入への三つの場合があげられていることも想起しなければならず、この際おそれるのは、アメリカの軍事力過信であり、米、中衝突の危機を回避することは、わが国の国益を守る第一の哲理であり、世界の悲願でもあると思うが、これを未然に防止するための政府の具体策を承りたい。
六 古来「国大なりといえども、戦を好めば必らずほろぶ」という。第一次、第二次大戦のドイツ、第二次大戦の日本はその例である。
  私は、アメリカを好戦国とは断じて思わない。むしろ、すぐる両大戦の場合、彼は常に受身であつて、さきには欧州の惨禍を傍観し得ずして最後に起ち、後には真珠湾攻撃の奇襲を喫して、はじめて、全国民がわいて参戦した。従来の歴史は、常に平和と自由を愛好し、他国の難に参じたのはアメリカの歴史である。
  しかし、今回のベトナム戦争は、ベトナムが他国により侵略されたのでなく、アジア将棋倒しといういわゆる、ドミノ理論を採用して介入した点、また、その後、収拾がつかぬまま戦線をエスカレートした点に、大義名分に曇りがある。
  しかし、アメリカは依然、民主国家の名に恥じぬ動静を国民と議会の中に反映している。一部の急激なる反戦論者は別として、多年アメリカ議会の外交委員長の職にあるフルブライト氏は、何十回となくベトナム政策を批判し、近次の言説は「アメリカは軍力でベトナムを納骨堂としても、アジア人に永久の恨みを買うであろう」といい、政治評論家ウオルター、リップマン氏も「巨象も蚊の大群を制し得ない」とベトナム戦争を評している。アメリカの民主主義が、なお健在な証左である。
  日本は、アメリカの友邦であり、自由民主党は特に日本において自由と平和を愛好し、議会政治をまもる総本山として、アメリカ議会政治の盟友である。親友とは、友人の危局に際してこれを裏切らず、同時に好言をもつてへつらう者であつてはならない。日本はこの友人のために多極化した世界の現状を直視すべきことを直言すべきものと考えるが、首相の見解を伺いたい。
七 長期の見とおしとして再び戦局が重大化した以上、アメリカ大統領選挙までに和平へのきざしは、事実上期待薄であろう。しかし和平への手がかりは、あらゆる方法を求めて根強く展開さるべきである。三木外相は「日本こそアメリカの政策に影響をもたらす筆頭の国」と言明したがこれを実現するための所信を聞きたい。
  また、西村民社党委員長が、ベトナム問題にからんで、佐藤首相の訪ソ実現をうながしているが、この際、各種の建設的提案に耳を傾けるべきである。また、ソ連、フランス、イギリス、日本、その他調停国の結集に乗り出すべきである。また、将来、アメリカと北ベトナムの間に、和平の機会があれば、当然、南ベトナム政府と解放戦線、あるいは、民主平和戦線との会議も平行して行なわれねばならず、その際、ベトコンは北ベトナムの手先で、民衆の支持はまつたくなく、南ベトナム政府は唯一の民衆を代表するものとするアメリカの論理の変更なくしては、和平は困難である。
  長期的展望として、南ベトナムは連立政権の樹立、中立の厳守、アメリカ軍及び北ベトナムの撤退の時期明示、アメリカ軍に代わる国連監視機構(実力を具有する)の下での自由選挙による議会政治の実現という法則以外にないと考えるが、これらの問題についての政府の考えを聞きたい。
八 近来、政府の外交方策及び国防施策が、国民の理解への努力、野党各派への対話精神に欠けているかに見えるのは残念である。安保問題でも、民社党、公明党は、安保固定化には反対しているが、延長には絶対反対しているのではない。エンタープライズ寄港をめぐる紛争でも、核兵器積載の疑のある空母寄港という国民の本能的嫌悪感をぬぐいさる努力に欠けたことは、紛争を大きくし、後に木村官房長官の常識的発言となつたと考えるがいかん。
  佐藤首相は、時局重大の今日、ニイチェのいうごとく、「山上に立てるものの厳しさに堪えよ」の精神を忘れず、単に国防思想の普及と強化(もちろん必要であるが)のみに力点をおくことなく、むしろ外交の展開こそ、最上の防衛手段なりと信じて、国民へ、わが国の平和姿勢のあり方を説明すべきものと考えるがいかん。

 右質問する。





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