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平成二年十一月五日提出
質問第六号

 ジクロロエチレン等による地下水汚染に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  平成二年十一月五日

提出者  寺前 巖

          衆議院議長 櫻内義雄 殿




ジクロロエチレン等による地下水汚染に関する質問主意書


 最近、発がんの疑いのある有機塩素化合物一、一 ― ジクロロエチレン等による水道水源用井戸や地下水の汚染が社会問題となっている。今年四月、厚生省通知に基づいて東京都多摩水道対策本部が一、一 ― ジクロロエチレンの実態を調査したところ、立川市内七ヶ所の給水栓口の一ヶ所からWHO(世界保健機関)の飲料水水質ガイドライン(一中〇・〇〇〇三mg)を一・二倍上回る〇・〇〇〇三六mg/が検出された。さらに柴崎浄水所の十三ヶ所の水道水源深井戸を調査したところ、その一ヶ所からWHOガイドラインを約十八倍も上回る〇・〇〇五三mg/が検出され、同対策本部は直ちにこの井戸からの揚水を停止している。また、愛知県扶桑町にある尾張北部水道企業団では今年三月、十五ヶ所の水道水源用井戸を調査したところ、最高濃度〇・〇〇五二mg/を始めWHOガイドラインを上回る井戸が五本発見された。同企業団は、WHOガイドラインに基づいて直ちに三水源の取水を停止しましたが、愛知県を通じ、厚生省に問い合わせた結果に基づいてWHOガイドラインの三倍の「新基準」を設定するとともに、県水による希釈措置をとり六月から取水を再開した。
 そもそも各地で、ジクロロエチレンによる水道水源用井戸の汚染が明らかになったのは、厚生省通知「トリクロロエチレン等による地下水汚染について」によるジクロロエチレンの汚染実態の把握によるものだが、この厚生省通知のもとになっているのは、環境庁が八八年度に実施した「地下水汚染実態調査結果」である。この「調査結果」では、三種類のジクロロエチレンがいずれも検出率が高く、また、一、一 ― ジクロロエチレン及びcis ― 一、二 ― ジクロロエチレンがWHOガイドライン、EPA(米国環境保護庁)基準値(一中〇・〇〇七mg)を超えるものがみられ、地下水汚染の拡大が懸念される状況であるとしている。一、一 ― ジクロロエチレンの検出状況は、七県市(宮城、富山、長野、福岡、熊本、横浜市、京都市)の調査井戸三百五十九本中、WHOガイドラインを超過したのが三十八本(一〇・六%)で、その最高濃度は横浜市から検出された百八十七倍の〇・〇五六mg/であった。また、水道水源に一〇〇%地下水を利用している熊本市が、今年六月行った地下水質調査結果では、五十六ヶ所中十ヶ所から一、一 ― ジクロロエチレンが検出され、最高濃度はWHOガイドラインの二百三十三倍の〇・〇七mg/となっている。
 一、 一 ― ジクロロエチレンの人への影響は、環境庁の化学物質水質保全検討会資料をみても、頭痛、視覚障害、疲労、知覚神経障害、肝臓障害があり、人への発がんの疑いがあるとしている。WHOガイドラインも発がんの疑いのあるトリクロロエチレン(〇・〇三mg/)の百倍厳しい許容濃度としている。通産省資料の製造輸入量をみると、トリクロロエチレン(六万三千トン)、テトラクロロエチレン(十一万七千トン)は、八九年の水濁法等の改正による規制で減少しているが、何ら規制されていない一、一 ― ジクロロエチレンは有機塩素系溶剤一、一、一 ― トリクロロエタンの原料として十一万トン以上、塩化ビニリデン樹脂(ラップ等)の原料として五万トン弱の合計十六万トン以上と急激な伸びを示している。
 また、一、一 ― ジクロロエチレンによる地下水汚染の経路は、さきの環境庁の化学物質水質保全検討会の「調査結果」によると、@トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの分解、A一、一、一 ― トリクロロエタンの分解が関与している可能性が高いと考えられるとしている。
 今日の一、一 ― ジクロロエチレンによる水道水源用井戸や地下水の深刻な汚染は、半導体工場が大量に使用しているトリクロロエチレン等の有機塩素系溶剤を八九年十月の水濁法、廃棄物処理法等による有害物質として規制するまで、長期間にわたって汚染の拡大を見過ごしてきた結果であり、政府と大企業の責任は重大である。しかも、一、一 ― ジクロロエチレンについては、我が国ではいまだに水質基準さえ定めておらず政府の対策の遅れは一層重大である。
 一、 一 ― ジクロロエチレン等による水道水源用井戸や地下水の汚染源の解明とトリクロロエチレン等の排出規制の強化や汚染土壌の除去等の対策は緊急を要すると考える。
 従って、次の事項について質問する。

一 地下水汚染機構の究明と水道水源用井戸等の汚染実態調査の公表について
 1 環境庁の八八年度地下水汚染実態調査に対する化学物質水質保全検討会報告では、「ジクロロエチレンによる地下水汚染については、地下中におけるトリクロロエチレン等の生物的又は非生物的分解が関与している可能性が高いと考えられる」が、地下中でのトリクロロエチレン等の分解によるジクロロエチレンの生成機構が「未解明の部分も多い」としている。熊本市の場合のように、テトラクロロエチレンの検出値が一・七mg/の湧水地から〇・〇七mg/という高濃度の一、一 ― ジクロロエチレンが検出されている。また、愛知県扶桑町のように、一、一、一 ― トリクロロエタンの検出値が〇・〇一五mg/の水道水源用井戸から〇・〇〇五二mg/という高濃度の一、一 ― ジクロロエチレンが検出されている場合もある。しかし、汚染機構が未解明とされていることから、発生源の原因者責任の特定を困難にしている。
   従って、政府は、飲料水の安全確保のため、自ら必要な予算措置を講じて本格的な調査を行い、ジクロロエチレンによる地下水の汚染機構を早急に解明すべきではないか。
 2 環境庁は、八八年度にトリクロロエチレン等が比較的に多く検出されている七県市に委託し、ジクロロエチレン等の地下水汚染状況を調査している。しかし、トリクロロエチレン等の地下水汚染は全国的に拡大しており、既にトリクロロエチレン等が高濃度で検出されている地域を重点にしながらも全国的な実態調査が必要ではないか。
   また、環境庁の実態調査結果を受けて、厚生省は八九年十二月、水道事業、水道用水供給事業及び専用水道において、これまでトリクロロエチレン等三物質が検出されたことのある水源に係る浄水のジクロロエチレン等の測定を指示している。従って、水道水源用井戸等の測定の実施及び結果の公表を早急にすべきではないか。
二 国民の安全な飲料水を確保するための対応について
  水質調査の結果、一、一 ― ジクロロエチレン等の汚染物質が検出された場合、国民の安全な飲料水を確保するためにより厳格な対応が必要となっている。東京都多摩水道対策本部の対応は、給水栓水からWHOガイドラインを上回る〇・〇〇〇三六mg/の一、一 ― ジクロロエチレンが検出され、水源井戸から〇・〇〇五三mg/が検出された段階で、「井戸の値は、EPAの基準以下であったが、これまでの経過や安全を考慮して給水栓でWHOのガイドライン値をクリアーすることを基本とし」給水栓に影響を及ぼしている井戸からの揚水を直ちに停止している。一方、愛知県扶桑町の尾張北部水道企業団の対応は、八ヶ所の水源中最高濃度〇・〇〇五二mg/を始め三ヶ所からWHOガイドライン値以上の一、一 ― ジクロロエチレンが検出され、愛知県の指導を受け三ヶ所の給水を中止した。その後、愛知県を通じ厚生省に問い合わせ、「EPAの基準を超えないように」という回答をもとに、「自主基準」の〇・〇〇一mg/を設定し、県水の希釈措置等も講じ給水を再開している。
  厚生省は、WHOガイドラインの知見が八四年と古く、EPA基準の知見が八七年と新しいので、EPAの基準を適用するとしているが、厚生省の事務連絡文書も示しているとおり、WHOガイドラインは「発がん性を考慮して〇・〇〇〇三mg/というガイドライン値を設定している」ものであり、EPAの基準は「発がん性の評価においてグループC(ヒトに対して発がん物質である可能性をもつ物質)に分類していることから一般毒性に基づいた〇・〇〇七mg/という値を定めている。
  いずれにしても、WHOは九一年度をめどに現在の四十四項目を百六項目にすべくガイドラインの大幅見直しを図っており、EPAも同時に現在の二十二項目を八十三項目に拡大すべく基準項目の見直しを進めている。
  従って、厚生省がWHOのガイドラインが全く当てにならないとしているならともかく、WHOのガイドラインの見直しによる一、一 ― ジクロロエチレンの確定値が示されるまで、国民の安全な飲料水を確保するため、東京都多摩水道対策本部が示したようなWHOの基準値での指導が図られるべきではないか。
三 水質基準の見直しについて
  厚生省は八九年度から三ヶ年計画で水道水の水質基準の見直しを進めている。水質基準は、水道法に基づいて現在二十六項目について基準が設定されているが、発がん性が疑われている有機塩素系溶剤のトリクロロエチレン等や水道水中で塩素と有機物が化合してできるトリハロメタン等は暫定的な水質基準になっており、百種類以上も使用されているゴルフ場の農薬もたったの二十一種類に暫定的水質目標が定められているにすぎない。また、今回問題となっている一、一 ― ジクロロエチレン等は何らの国内的な水質基準も設定されていない。
  従って、今回の水質基準の見直しに当たっては、WHOのガイドラインやEPAの基準の見直しともあいまって抜本的な見直しが求められており、発がん性が疑われているトリクロロエチレンやトリハロメタン、EPAで発がん性が指摘されているゴルフ場の農薬についても水質基準を明確にすべきではないか。また、一、一 ― ジクロロエチレン等については水質基準を設定すべきではないか。
四 排出規制の強化と汚染土壌の除去等の対策について
 1 環境庁の八九年度の「トリクロロエチレン等の排出状況及び地下水等の汚染状況について」のまとめをみると「なお管理目標を超過する事業場がみられるほか、地下水についても暫定水質基準を超えている井戸が依然として各地でみられており、その汚染が周辺に広がりをもっていることが確認されている」としている。熊本市の地下水質調査結果では、IC工場の井戸のトリクロロエチレンが八五年度〇・〇二四mg/だったものが、九〇年度には〇・一六mg/と水道水の暫定水質基準値(〇・〇三mg/)を超えている。また、ドライクリーニング店の井戸では、テトラクロロエチレンが八五年度で〇・三九mg/だったが、九〇年度でも依然〇・二六mg/と暫定水質基準値(〇・〇一mg/)を大きく上回っている。この状況は、八四年に厚生省がトリクロロエチレン等に係る水道水の暫定水質基準を設定し、環境庁が排出に係る暫定指導指針を設定し、排出抑制の行政指導を行い、さらに八九年に水濁法等を改正し有害物質としての規制を行っているが、依然十分な効果を上げていないことを示している。
   従って、改めてIC工場等でのトリクロロエチレン等三種の溶剤の保管、使用及び排出等の実態調査を行い、適正な排出を確保するよう指導を強化すべきではないか。
 2 また、一、一 ― ジクロロエチレンは、「トリクロロエチレン等の生物的又は非生物的分解が関与している可能性が高い」とされているが、あまりにも地下水から高濃度で検出されており、一、一 ― ジクロロエチレン単独で汚染している可能性も高い。従って、塩化ビニリデン樹脂や一、一、一 ― トリクロロエタンを製造するために一、一 ― ジクロロエチレンを使用している化学工場等の保管、使用及び廃棄等の実態調査を行い、適正な使用を指導すべきではないか。
 3 通産省の資料によると、トリクロロエチレン等の供給量は、トリクロロエチレンが八八年度の約七万二千トンをピークに減っており、テトラクロロエチレンも八九年度約十一万七千トンと減少しているが、一、一、一 ― トリクロロエタンは八八年度約十三万八千トンに対して八九年度約十六万四千トンと激増している。この状況は、水濁法や化審法等の法規制のかかったトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンから法規制のかかっていない一、一、一 ― トリクロロエタンに需要が高まったことを示している。一、一、一 ― トリクロロエタンの使用量の増大は、一、一、一 ― トリクロロエタンの濃度が比較的高ければ、一、一 ― ジクロロエチレンが高濃度で検出されている愛知県扶桑町のような地下水汚染が一層拡大することになる。また、一、一、一 ― トリクロロエタン(別称メチルクロロホルム)は、今年六月のオゾン層保護を目的とした「モントリオール議定書第二回締約国会議」で、九三年生産凍結、二〇〇五年全廃が決まっている。
   従って、一、一 ― ジクロロエチレンによる地下水汚染を防止するためにも、一、一、一 ― トリクロロエタンの代替品を早急に開発するとともに、水濁法等の有害物質に指定し排出の規制強化を図るべきではないか。
 4 トリクロロエチレン等による地下水汚染が全国的に拡大しているなか、汚染経路を解明して、汚染原因を早急に取り除くことが、新たな一、一 ― ジクロロエチレン等による汚染を防止するためにも重要になっている。熊本市の湧水地で〇・〇七mg/という高濃度の一、一 ― ジクロロエチレンが検出されたのは、上部にトリクロロエチレンの廃油が投棄されたのではないかといわれており、調査のうえ汚染土壌の除去等の対策が検討されている。全国的にも、トリクロロエチレン等の廃油の不法投棄等で地下水汚染を引き起こしている。問題は、一般的に法規制はかかっていても、具体的な工場や投棄現場からの汚染源の究明が困難で、原因の特定と除去が難解なことにある。また、それを口実に汚染源の究明を回避している面もある。
   従って、あくまでも汚染経路の究明、汚染を防止する立場からマニュアルを策定し、具体的に汚染土壌の除去、地下水の汚染物処理等を指導すべきではないか。
   また、汚染の原因者が特定できない、又は汚染物を長期間放置することが新たな汚染拡大につながるとして汚染物を除去する自治体に対して、国は援助制度を確立すべきではないか。

 右質問する。





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