衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成十一年二月十八日提出
質問第九号

薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する質問主意書

提出者  中川智子




薬害クロイツフェルト・ヤコブ病問題に関する質問主意書


 一九九八年十二月十四日提出の質問主意書に対し、送付された答弁書では質問事項に答えていない箇所が多く、不十分である。また委員会質問でもその答弁で「裁判中で公開できない」として情報公開を頑に拒む態度は、薬害を繰り返した厚生省の一貫した態度であり極めて不誠実であると考える。
 宮下厚生大臣は二月九日の所信表明のなかで、「国民の健康や安全を守ることは、厚生行政の原点であり・・・」と述べているが、厚生省は裁判で法的責任論に対する主張をする前に、まず厚生行政の原点に戻って責任を全うすべきである。
 事実は司法の場に限らず、行政を監督する場でもある国会でも明らかにされるべきである。
 従って、次の事項について質問する。

一 厚生省は一九七三年に、人の死体から作ったヒト乾燥硬膜を「医療用具」として輸入販売の承認をしている。病死した人の死体から取って病原体などが付着している可能性のある乾燥硬膜を「医薬品」や「生物製剤」としてではなく、「医療用具」としたのはなぜか。また、当時「医療用具」に副作用情報等の報告義務はあったか。
二 B・ブラウン社は、一九八七年四月の米国食品医薬品局(以下「FDA」という)の警告の直後、問題となったヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」の滅菌方法を、安全性の高いアルカリ処理に変更している。しかし、厚生省は昨年一月の医薬安全局審査管理課長補佐へのテレビ番組のインタビューでも明らかなように、その事実さえ知らず、重要性の認識も全くない。そして危険な硬膜を放置している。ちなみに裁判の原告である谷さんは、一九八九年にアルカリ処理前の危険な硬膜の移植手術を受けている。厚生省は輸入販売業者からFDA警告やアルカリ処理の報告等を受けていたのか。
三 輸入販売業者に報告義務があるのに報告を怠っていたのであれば、厚生省は業者を厳しく追求すべきである。当時、報告義務がなかったのであれば、「医薬品」や「生物製剤」ではなく、「医療用具」とした当時の厚生省の判断に瑕疵があったと考えられるがどうか。
四 厚生省は、一九九六年七月十日にFDAへ緊急ファックスをしている。それによると「一九八〇年代に硬膜移植手術を受けたクロイツフェルト・ヤコブ病患者がこれまでに九人みつかっている。このことは、ヒト乾燥硬膜とクロイツフェルト・ヤコブ病発病とに関連があるということをうかがわせているように見える。(中略)この(全国疫学)調査の過程で、FDAが(警告)措置をとったことを聞き及んだ。(中略)この問題で米国の状況についての情報はわれわれには決定的に重要であり、それによってわれわれが適切な決定を下せるようになると確信している。」とし、これに対する回答で、硬膜移植とクロイツフェルト・ヤコブ病との関係及び諸外国のとった警告等を確信することになる。
 1 「米国の状況についての情報はわれわれには決定的に重要であり・・・」と認識したのはいつの時点か。また、どのような方法で聞き及んだのか。
 2 一九九六年七月に、「決定的に重要であり、それによってわれわれが適切な決定を下せるようになると確信している」と緊急ファックスまでしておきながら、一九九七年三月二十七日のWHOの勧告まで緊急命令を出さなかったのはなぜか。
 3 厚生省は、「全国疫学調査の段階でFDAが警告措置をとったことを聞き及んだ」とし、FDAへの緊急ファックスをする前に、警告等の情報を既に知っている。しかし、WHOの勧告まで緊急措置をとらなかったことを考えると、わざわざ緊急ファックスしたことが何のためか理解できない。何か他に意図があるようにも考えられるが、何のために緊急ファックスしたのか。
五 厚生省は、一九九七年九月二十二日大津地裁に提出した準備書面で、「世界で一例のみの報告がされた時点では、ヒト乾燥硬膜をクロイツフェルト・ヤコブ病との関係が予見可能であったとすることは適当でなく」とし、責任を回避している。しかし、厚生省はCDCの初症例報告後、ただちに調査をしていない。そして九年後のFDAへの緊急ファックスで、硬膜移植とクロイツフェルト・ヤコブ病との関係等を一応確信したことになる。しかし、一九九六年時点というのは既に多数の症例報告がされている。例えば初症例後、一九八九年のニュージーランドの症例を始めとして、イタリア、イギリス、日本、スペインなどの症例が報告されていて、合計十六例の文献例がある。ちなみに国内では一九九一年の新潟医大の症例報告、一九九三年の滋賀医大の症例報告、一九九四年の虎の門病院の症例報告が既にされており、世界で一例のみではない。準備書面でいう「予見可能であったとすることが適当でなく」というのはどの時点のことなのか答えよ。
六 一九七四年にコロンビア大学のデュフィらが「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」で、初めて角膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病感染例を報告している。また、一九七六年の厚生省特定疾患スローウイルス感染と難病発症機序に関する研究班は、テーマの一つにクロイツフェルト・ヤコブ病をとりあげている。一九八五年には厚生省特定疾患「遅発性ウイルス感染」調査研究班が、成長ホルモン投与によるクロイツフェルト・ヤコブ病発症を報告している。
 1 クロイツフェルト・ヤコブ病に関する研究をいつから始め、どの様な調査(例えばクロイツフェルト・ヤコブ病患者から動物への感染の実験から、硬膜材料からの感染報告等)かを全て答えよ。なお脳病理や脳外科関係者に対する注意喚起等の記載も明らかにされたい。
 2 厚生省は、クロイツフェルト・ヤコブ病に関しては、かなり前から調査研究しているようだが、省内でこの病気の重要性を認識したのはいつからか。
 3 調査報告書には外国の情報もかなりあるようだが、外国の情報等はどのようにして入手しているのか。
 4 日本の調査報告等は外国に送ったりしているか。
 5 厚生省は早くから研究費を投じ研究をし、その結果についても報告している。このことから厚生省は早くから医原性クロイツフェルト・ヤコブ病の危険性を十分認識していたと考えられるが、これらの研究は何のために行っていたか答えよ。
 6 また、このような研究をしていてなぜ「(予見可能であったとすることが)適当でなく」なのか答えよ。
七 一九九七年五月六日の厚生委員会議録の保健医療局長の答弁で「CDCの第一回目のレポートについても予研の中でディスカッションがされたようにはお伺いをいたしておりますけれども・・・」と答弁しているが、その内容について答えよ。
  また、厚生省大臣官房総務審議官が「国立感染症研究所におきまして、それぞれの時点におきましてはそれぞれの事情があったものと考えますが、これまで危機管理という面において必ずしも適切な対応がとられていなかったのじゃないかという御批判につきましては、その体質が隠ぺい的であったというよりも、私どもとしましては、研究所自体に行政組織として健康危機管理という事象に取り組む意識というのが必ずしも十分ではなかったのではないかという、その点について反省すべきものであるというふうに考えております。」と答弁している。そして、一九九八年九月八日の厚生委員会の答弁で厚生省は、「輸入業者の関連情報を入手できておれば、あるいは国立予防衛生研究所が把握していた関連情報が厚生省に届いておればという話はあると思います。(中略)一般論として言えば、何らかの行政上の判断に資するという可能性はあったというふうに認識しております。そうした点において、予研と本省との間の連絡体制というのが不十分であった、あるいは薬事法上の取り扱いというのが今の目で見れば問題があったということは事実だと思います。」と答弁している。また「情報をつかんだけれどもそれを生かすだけの能力がなかったということを認めているわけですね。」という質問に対し、「事実としてはそのとおりだと思います。」と答弁している。
  要するに厚生省の対応に落ち度を認めているにもかかわらず、本年二月四日の予算委員会では一転してそのことに触れず、まるで非がないかのように繰り返し答弁している。裁判に不利にならないようにという態度であるなら、かえって厚生省に対する信頼を失墜させると考えるがどうか。
八 民事訴訟法第一六三条の「当事者照会」は、訴訟の係属中に当事者が、主張または立証を準備するためには、相手方から事件に関する情報を入手しなければ十分な主張をすることができない、または立証方法についての手掛かりを得ることが困難な場合があるので、相手方に情報の提供を求めることができる規定である。
 1 薬害訴訟の原告は、当時の担当者の当事者照会をしているが、すでに退職していてプライバシーの侵害に当たるとして厚生省はこれに応じていない。ちなみに当時の薬務局長は現在環境衛生金融公庫の理事長をしている。公職に就いているのになぜ応じられないのか。また、当時重要な立場にあった薬務局の担当者の守られなければならないプライバシーとは何か答えよ。
 2 この規定は、訴訟の係属中にあっては、当事者は訴訟を適正かつ迅速に完結させるため、相互に協力すべき関係に立っているということが言えるが、厚生省が当事者照会に応じないというのは、訴訟を適正かつ迅速にさせないことになるが、それでもプライバシーが優先するのか。
 3 厚生省がプライバシーを理由に、当事者照会にどうしても応じられないとすると、訴訟を適正かつ迅速にするためにどのような形で相手方に情報を提供できるか。または、適正かつ迅速にしたくないのか。
 4 訴訟の原告の中には、患者本人がいる。この病気は発症すると、わずか一、二年で亡くなると言われている。被告がいたずらに裁判を長引かせることは許されないが、係属中に原告が亡くなった場合、長引かせた責任は誰が負うのか。
九 昨年十二月二十五日厚生省は、ヒト組織の収集・提供を行う非営利の機関として、ヒューマンサイエンス振興財団が担当することを発表している。また、二月五日の新聞各紙が、ヒト組織を商品化する会社設立と報じている。ヒト組織を使った薬害が解決も救済もされないままで、また、情報の開示がないままでは、国民の理解や信頼を得られるはずがないと考える。今やるべきことは、患者の救済と事実の解明であると考えるがどうか。
  厚生省は本来国民の健康や安全を守る省であり、常に国民側にたち安全が確認されるまでは許可しない、使用しないという姿勢を保つべきである。しかし、残念ながら数々の薬害や公害の歴史を見ると、たとえ犠牲者が出ても因果関係が証明されるまで、また、危険であると確認されるまで、許可し、使用し続けるという態度をとっているとしか考えられない。これでは厚生行政への国民の信頼が得られるとは考えられない。
  二月四日の予算委員会で厚生大臣は、「これは薬害と申しますか、硬膜の使用によるヤコブ病でございますので・・・」、「悲惨な事件」と述べている。まさに薬害クロイツフェルト・ヤコブ病は悲惨な事件である。
  すべての質問に速やかに答えられることを切望する。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.