答弁本文情報
平成四年十二月一日受領答弁第四号
内閣衆質一二五第四号
平成四年十二月一日
衆議院議長 櫻内義雄 殿
衆議院議員松浦利尚君提出国政調査権と守秘義務等との関係に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員松浦利尚君提出国政調査権と守秘義務等との関係に関する質問に対する答弁書
一について
いわゆる国政調査権は、御指摘のとおり憲法第六十二条に由来するものであり、国政の全般にわたってその適正な行使が保障されなければならないことはいうまでもないところである。
一方、国家公務員に課されている守秘義務も憲法第六十五条によって内閣に属することとされている行政権に属する公務の民主的かつ能率的な運営を確保するためのものである。
そこで、国政調査権と国家公務員の守秘義務との間において調整を必要とする場合が生ずるが、両者の関係は、常に一方が他方に優先するというようなものではなく、国政調査権に基づく要請にこたえて職務上の秘密を開披するかどうかは、守秘義務によって守られるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益とを個々の事案ごとに比較衡量することにより決定されるべきものと考えている。
個々の事案について右の判断をする場合において、国会と政府との見解が異なる場合が時に生ずることは避け得ないところであろうが、政府としては、国会の国政調査活動が十分その目的を達成できるよう、政府の立場から許される最大限の協力を行ってまいりたい。
個々の事案についての守秘義務によって守られるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益との比較衡量は、当該事案を所管している省庁が行うこととなるが、守秘の対象となるべき事案の性格は千差万別であることから、あくまでもその時点で個別具体的に判断せざるを得ず、あらかじめ一定の基準等を示すことは困難であると考えている。
一についてにおいても述べたとおり、政府としては、国会の国政調査活動が十分その目的を達成できるよう、政府の立場から許される最大限の協力を行ってまいりたいと考えているが、秘密の開披に関して国会と政府の見解が異なることとなった場合、当該事案が議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(昭和二十二年法律第二百二十五号)に基づく手続の対象となっているときには、同法第五条に定めるところに従うこととなり、また、当該事案がそのような対象となっていないときであっても、政府の見解の当否について国会における審議等を通じて政治上の批判にさらされるのであるから、国政調査権に基づく要請に応じて秘密を開披するかどうかの判断を政府が行うからといって国会の各議院の国政調査権の実効性が損なわれるものではないと考えている。
刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第五十三条第一項の訴訟記録は、被告事件の終局裁判の裁判書並びにその判断の基礎及び手続を明らかにする書類を編てつしたものであるが、議院又は委員会から国政調査権に基づき被告事件終結後の訴訟記録それ自体の提出要求があった場合においてこれに応ずることは、特定の被告事件の審理及び裁判を国政調査の対象とする事態を生じさせる結果となり、司法権の独立を侵害するおそれがあるので、訴訟記録それ自体を提出することは差し控えるべきものと考える。
なお、被告事件終結後における訴訟記録の閲覧について定めた刑事訴訟法第五十三条第一項は、裁判の公開の原則に沿って被告事件の裁判の公正を事後的に担保しようとする趣旨の規定であって、国政調査権に基づく訴訟記録の提出要求に関して規定したものではない。