第一八五回
衆第八号
国の責任ある財政運営の確保等に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条−第四条)
第二章 財政運営中長期戦略の策定等(第五条−第十一条)
第三章 公会計基準の設定(第十二条)
第四章 財政検証委員会(第十三条−第三十四条)
第五章 補則(第三十五条−第四十条)
第六章 罰則(第四十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、内外の経済社会情勢の変化に応じ、中長期的に持続可能な財政運営を確保することが極めて重要であることに鑑み、国の財政運営に関し、基本原則を定め、及び国の責務を明らかにするとともに、財政運営中長期戦略の策定等、公会計基準の設定、財政検証委員会の設置その他の国の財政会計制度改革(国の予算及び決算その他国の財政及び会計の基本に関する制度の改革をいう。)を実施することにより、国の責任ある財政運営の確保等を図り、もって国民経済の発展及び国民生活の向上に寄与するとともに、世代間における負担の公平の確保に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「公会計基準」とは、予算財務諸表及び決算財務諸表並びに独立行政法人等(法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人及び特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人(政令で定めるものを除く。)をいう。以下この項及び第三十二条において同じ。)の財務の状況の見積り及び財務の状況を記載する書類の作成の基準、独立行政法人等であって国の事務及び事業と密接な関連を有するものとして第十条第二項第二号及び第十一条第二項第二号の規定により国の一般会計及び特別会計につき連結して記載されるべきもの(以下「連結対象独立行政法人等」という。)の範囲その他国及び独立行政法人等における会計に係る処理、表示及び開示に関する基準をいう。
2 この法律において「国の基礎的財政収支額」とは、第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を控除して得た額をいう。
一 一般会計及び特別会計に係る歳入で一般会計及び特別会計の相互間の重複額を控除した純計によるものから公債の発行収入金及び借入金の額を控除して得た額
二 一般会計及び特別会計に係る歳出で一般会計及び特別会計の相互間の重複額を控除した純計によるものから公債及び借入金の償還金及び利子、公債の発行及び償還に関する諸費等の額を控除して得た額
(国の財政運営の基本原則)
第三条 国の財政運営は、次に掲げる事項を基本原則として行われなければならない。
一 国の歳入及び歳出の不断の見直しを通じて、一会計年度における国の基礎的財政収支額の黒字化が図られるようにすること。
二 国の資産の保有の必要性を厳格に判断しつつこれを適正に管理し、及び有効に活用するとともに、国の債務の残高を低減させるようにすること。
三 将来の世代に配慮し、国の純資産の額について、一定の水準が維持されること。
四 経済社会情勢の著しい変動等による国の歳入の減少又は歳出の増加が国の財政に与える影響の軽減が図られるようにすること。
五 税負担に係る水準ができる限り安定的に維持され、かつ、その変更が国民にとって予見可能であるようにすること。
(国の責務)
第四条 国は、前条に定める基本原則(以下「基本原則」という。)にのっとり、国の責任ある財政運営を確保する責務を有する。
第二章 財政運営中長期戦略の策定等
(財政運営中長期戦略)
第五条 政府は、基本原則にのっとり、及び世代間負担評価報告書(第二十八条第一項に規定する報告書をいう。)の内容を勘案し、十年ごとに、十年を一期とする国の責任ある財政運営の確保に関する計画(以下「財政運営中長期戦略」という。)を定めなければならない。
2 財政運営中長期戦略には、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 国の歳入歳出総額、基礎的財政収支額、資産の総額及び債務の残高並びに純資産の額に関する目標
二 前号の目標を達成するため政府が講ずべき施策に関する基本的な方針
三 前二号に掲げるもののほか、当該財政運営中長期戦略に係る前項の期間における国の責任ある財政運営の確保を図るため必要な事項
3 内閣総理大臣は、財政運営中長期戦略の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、財政運営中長期戦略の案を作成しようとするときは、次条第一項の規定により財政検証委員会が作成する報告書の内容を踏まえるとともに、あらかじめ、当該財政運営中長期戦略の案と基本原則及び当該報告書の内容との整合性に関する財政検証委員会の意見を聴かなければならない。
5 政府は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、速やかに、次条第一項の報告書を添付して財政運営中長期戦略を国会に報告するとともに、公表しなければならない。
6 政府は、前項の規定により財政運営中長期戦略を国会に報告するときは、国会に対し、当該財政運営中長期戦略と基本原則及び次条第一項の報告書の内容との整合性について説明しなければならない。
7 政府は、経済社会情勢の変化を勘案し、及び財政運営短期戦略(第七条第一項に規定する計画をいう。)の実施状況を踏まえ、少なくとも二年ごとに、財政運営中長期戦略の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
8 第三項から第六項までの規定は、財政運営中長期戦略の変更について準用する。この場合において、同項中「整合性」とあるのは、「整合性並びにその変更の理由」と読み替えるものとする。
(財政運営中長期戦略に係る経済の現況及び見通しに関する報告書)
第六条 財政検証委員会は、前条第一項の規定による財政運営中長期戦略の策定に先立って、次に掲げる事項について、その現況及び当該財政運営中長期戦略に係る同項の期間における見通しに関する報告書を作成しなければならない。
一 国内総生産(国際連合の定める基準に準拠して財政検証委員会が作成する国民経済計算の体系における国内総生産をいう。)
二 全国消費者物価指数(総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数をいう。)
三 市場金利
四 完全失業率(総務省において作成する労働力統計における完全失業率をいう。)
五 国際収支
六 その他政令で定める事項
2 財政検証委員会は、前項の報告書を作成したときは、速やかに、これを内閣総理大臣に送付するとともに、公表しなければならない。
3 財政検証委員会は、経済社会情勢の変化その他の事情により必要があると認めるときは、第一項の報告書の内容の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
4 第二項の規定は、第一項の報告書の変更について準用する。
(財政運営短期戦略)
第七条 政府は、毎年度、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第十七条各項の送付に先立って、財政運営中長期戦略にのっとり、当該年度の翌年度(次項及び次条第一項において「対象年度」という。)における国の責任ある財政運営の確保に関する計画(以下「財政運営短期戦略」という。)を作成しなければならない。
2 財政運営短期戦略には、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 第五条第二項第一号の目標の達成状況及び同項第二号の基本的な方針の実施状況(当該目標の達成の見通し及び当該目標を達成するため実施しようとする施策の方針を含む。)
二 対象年度における予算の基本方針(国の歳入歳出総額の見込額及び歳入歳出の概要、税制の改革の概要(第四号に係るものを除く。)並びに重点的に実施しようとする施策を含む。)
三 対象年度を超えて支出することが見込まれる施策
四 対象年度において講じようとする租税特別措置の概要
五 前各号に掲げるもののほか、対象年度における国の責任ある財政運営の確保を図るため必要な事項
3 内閣総理大臣は、財政運営短期戦略の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、財政運営短期戦略の案を作成しようとするときは、次条第一項の規定により財政検証委員会が作成する報告書の内容を踏まえるとともに、あらかじめ、当該財政運営短期戦略の案と財政運営中長期戦略及び当該報告書の内容との整合性に関する財政検証委員会の意見を聴かなければならない。
5 政府は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、次条第一項の報告書を添付して財政運営短期戦略を国会に提出し、その審議を受け、議決を経なければならない。
6 財政運営短期戦略は、先に衆議院に提出しなければならない。
7 政府は、第五項の規定により財政運営短期戦略を国会に提出したときは、当該財政運営短期戦略と財政運営中長期戦略及び次条第一項の報告書の内容との整合性について説明しなければならない。
8 財政運営短期戦略の国会の議決に関しては、国の予算の議決の例による。
9 政府は、第五項の議決を経たときは、速やかに、財政運営短期戦略を公表しなければならない。
10 政府は、第五項の議決があった日から起算しておおむね六月後に、及び国の補正予算を作成しようとするときは当該国の補正予算の作成に先立って、財政運営短期戦略の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
11 政府は、必要があると認めるときは、財政運営短期戦略の見直しを行い、必要な変更を加えることができる。
12 第三項から第九項までの規定は、財政運営短期戦略の変更について準用する。この場合において、第七項中「整合性」とあるのは、「整合性並びにその変更の理由」と読み替えるものとする。
(財政運営短期戦略に係る経済及び財政の現況及び見通しに関する報告書)
第八条 財政検証委員会は、前条第一項の規定による財政運営短期戦略の作成に先立って、次に掲げる事項について、その現況及び当該財政運営短期戦略に係る対象年度の前年度以後四年度間における見通しに関する報告書を作成しなければならない。
一 第六条第一項各号に掲げる事項
二 国の歳入歳出総額
三 国の基礎的財政収支額
四 国の資産の総額及び債務の残高
五 国の純資産の額
六 その他政令で定める事項
2 財政検証委員会は、前項の報告書を作成したときは、速やかに、これを内閣総理大臣に送付するとともに、公表しなければならない。
3 財政検証委員会は、経済社会情勢の変化その他の事情により必要があると認めるときは、第一項の報告書の内容の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
4 第二項の規定は、第一項の報告書の変更について準用する。
(財政運営短期戦略に従った国の予算の作成等)
第九条 内閣は、財政運営短期戦略に従い、国の予算を作成するものとする。
2 財務大臣は、財政法第十八条第一項の規定により国の歳入、歳出、継続費、繰越明許費及び国庫債務負担行為の概算を作製しようとするときは、あらかじめ、これらと財政運営短期戦略との整合性に関する財政検証委員会の意見を聴かなければならない。
(予算財務諸表)
第十条 内閣は、国の予算を作成するときは、政令で定めるところにより、公会計基準に基づいて予算財務諸表を作成しなければならない。
2 予算財務諸表には、次に掲げる事項を記載するものとする。
一 国の一般会計及び特別会計における資産及び負債の状況、事務及び事業の実施に伴い発生する費用及び収益、純資産の変動の状況、現金の収納及び支払の状況その他の財務の状況の見積り並びに当該見積りを補完し、及び説明するために必要となる事項(公債及び借入金の内容並びにこれらに係る費用に関する事項を含む。)
二 国の一般会計及び特別会計並びに連結対象独立行政法人等を連結した財務の状況の見積り
3 財務大臣は、予算財務諸表の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 財務大臣は、予算財務諸表の案を作成しようとするときは、あらかじめ、当該予算財務諸表の案と財政運営短期戦略との整合性に関する財政検証委員会の意見を聴かなければならない。
5 内閣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、政令で定めるところにより、予算財務諸表を国の予算とともに国会に提出し、その審議を受け、議決を経なければならない。
6 第七条第八項の規定は、予算財務諸表について準用する。
7 政府は、第五項の議決を経たときは、速やかに、予算財務諸表その他国の財務の状況の見積りを適切に示す情報として政令で定めるものを公表しなければならない。
(決算財務諸表)
第十一条 内閣は、毎会計年度、国の歳入歳出決算の作成に併せて、政令で定めるところにより、公会計基準に基づいて決算財務諸表を作成しなければならない。
2 決算財務諸表には、次に掲げる事項を記載するものとする。
一 国の一般会計及び特別会計における資産及び負債の状況、事務及び事業の実施に伴い発生した費用及び収益、純資産の変動の状況、現金の収納及び支払の状況その他の財務の状況並びにこれらを補完し、及び説明するために必要となる事項(公債及び借入金の内容並びにこれらに係る費用に関する事項を含む。)
二 国の一般会計及び特別会計並びに連結対象独立行政法人等を連結した財務の状況
3 財務大臣は、決算財務諸表の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、決算財務諸表を、国の歳入歳出決算とともに会計検査院に送付し、その検査を受けなければならない。
5 内閣は、政令で定めるところにより、前項の検査を経た決算財務諸表を国の歳入歳出決算とともに各議院に提出し、その審議を受け、議決を経なければならない。
6 決算財務諸表の各議院の議決に関しては、国の歳入歳出決算の議決の例による。
7 政府は、第四項の検査を経たときは、速やかに、決算財務諸表その他国の財務の状況を適切に示す情報として政令で定めるものを公表しなければならない。
第三章 公会計基準の設定
第十二条 財政検証委員会は、企業会計の慣行を参考として、公会計基準を定めなければならない。
2 財政検証委員会は、公会計基準を定めようとするときは、あらかじめ、公会計基準審議会の意見を聴かなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
3 財政検証委員会は、公会計基準を定めたときは、速やかに、これを公表しなければならない。これを変更したときも、同様とする。
第四章 財政検証委員会
(設置)
第十三条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第三項の規定に基づいて、財政検証委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2 委員会は、内閣総理大臣の所轄に属する。
(任務)
第十四条 委員会は、内外の経済及び財政の動向を踏まえ、財政運営中長期戦略及び財政運営短期戦略の確実な実施の確保を図るとともに、国等の会計に係る処理、表示及び開示の適正化及び透明化を図ることを任務とする。
(所掌事務)
第十五条 委員会は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
一 第五条第四項、第七条第四項及び第十条第四項並びに第三十五条第三項の規定による事務
二 第六条第一項及び第八条第一項の報告書の作成及び公表に関すること。
三 公会計基準の設定に関すること。
四 内外の経済動向の分析に関すること。
五 経済活動及び社会活動についての経済理論その他これに類する理論を用いた研究(大学及び大学共同利用機関におけるものを除く。)に関すること。
六 国民経済計算に関すること。
七 所掌事務に係る国際協力に関すること。
八 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき委員会に属させられた事務
(職権行使の独立性)
第十六条 委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。
(組織等)
第十七条 委員会は、委員長及び委員四人をもって組織する。
2 委員長及び委員は、人格が高潔であって、経済、財政又は会計に関して高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
(任期等)
第十八条 委員長及び委員の任期は、五年とする。ただし、補欠の委員長又は委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員長及び委員は、再任されることができる。
3 委員長及び委員の任期が満了したときは、当該委員長及び委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。
4 委員長又は委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、前条第二項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員長又は委員を任命することができる。
5 前項の場合においては、任命後最初の国会において両議院の事後の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認を得られないときは、内閣総理大臣は、直ちに、その委員長又は委員を罷免しなければならない。
(身分保障)
第十九条 委員長及び委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。
一 破産手続開始の決定を受けたとき。
二 この法律の規定に違反して刑に処せられたとき。
三 禁錮以上の刑に処せられたとき。
四 委員会により、心身の故障のため職務を執行することができないと認められたとき、又は職務上の義務違反その他委員長若しくは委員たるに適しない非行があると認められたとき。
(罷免)
第二十条 内閣総理大臣は、委員長又は委員が前条各号のいずれかに該当するときは、その委員長又は委員を罷免しなければならない。
(委員長)
第二十一条 委員長は、委員会の会務を総理し、委員会を代表する。
2 委員会は、あらかじめ委員のうちから、委員長に事故がある場合に委員長を代理する者を定めておかなければならない。
(会議)
第二十二条 委員会の会議は、委員長が招集する。
2 委員会は、委員長及び二人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。
3 委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。
4 第十九条第四号の規定による認定をするには、前項の規定にかかわらず、本人を除く全員の一致がなければならない。
5 委員長に事故がある場合の第三項の規定の適用については、前条第二項に規定する委員長を代理する者は、委員長とみなす。
(事務局)
第二十三条 委員会の事務を処理させるため、委員会に事務局を置く。
2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。
3 事務局長は、委員長の命を受けて、局務を掌理する。
4 事務局の内部組織は、政令で定める。
(政治運動等の禁止)
第二十四条 委員長及び委員は、在任中、政党その他の政治団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。
2 委員長及び委員は、在任中、内閣総理大臣の許可のある場合を除くほか、報酬を得て他の職務に従事し、又は営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行ってはならない。
(秘密保持義務)
第二十五条 委員長及び委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職務を退いた後も、同様とする。
(給与)
第二十六条 委員長及び委員の給与は、別に法律で定める。
(公会計基準審議会)
第二十七条 委員会に、公会計基準の設定に関する事項を調査審議させるため、公会計基準審議会を置く。
2 公会計基準審議会は、委員十人以内で組織する。
3 委員は、会計に関する実務に精通する者及び学識経験のある者のうちから、委員会が任命する。
4 委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
5 委員は、再任されることができる。
6 委員は、非常勤とする。
7 前各項に定めるもののほか、公会計基準審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
(世代間負担評価報告書の作成及び公表)
第二十八条 委員会は、三年ごとに、人口構造の変化等我が国の経済社会情勢の変化、国際情勢の変化等が国の財政運営に及ぼす影響を踏まえ、次に掲げる事項について、その現況及び世代間負担評価期間における見通しに関する報告書(以下この条において「世代間負担評価報告書」という。)を作成しなければならない。
一 人口構造
二 第八条第一項各号に掲げる事項
三 社会保障制度に係る負担
四 労働に関する事情
五 その他政令で定める事項
2 前項の世代間負担評価期間は、世代間負担評価報告書が作成される年以降おおむね五十年間とする。
3 委員会は、第一項の規定により世代間負担評価報告書を作成したときは、速やかに、これを内閣総理大臣を経由して国会に報告するとともに、公表しなければならない。
(選挙時における経済及び財政の現況及び見通しに関する報告書の作成及び公表)
第二十九条 委員会は、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙が実施されるときは、その期日の公示の日までに、第八条第一項各号に掲げる事項について、その現況及び当該日の属する年度以後四年度間(当該日が一月から三月に属する場合には、当該日の属する年度以後五年度間)の見通しに関する報告書を作成するとともに、公表しなければならない。
(勧告等)
第三十条 委員会は、財政運営中長期戦略及び財政運営短期戦略の確実な実施の確保を図るため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、財政運営中長期戦略及び財政運営短期戦略の実施に関する重要事項について勧告し、及びその勧告に基づいてとった措置について報告を求めることができる。
(内閣総理大臣に対する意見の申出)
第三十一条 委員会は、内閣総理大臣に対し、国の責任ある財政運営の確保を図るための施策についての意見を述べることができる。
(資料の提出要求等)
第三十二条 委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長又は独立行政法人等の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
(国会に対する報告)
第三十三条 委員会は、毎年、内閣総理大臣を経由して国会に対し所掌事務の処理状況を報告するとともに、その概要を公表しなければならない。
(規則の制定)
第三十四条 委員会は、その所掌事務について、法律若しくは政令を実施するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、財政検証委員会規則を制定することができる。
第五章 補則
(選挙時における政策費用計算)
第三十五条 政治団体(政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第三条第一項に規定する政治団体をいう。)のうち政党(同条第二項に規定する政党をいう。)その他政令で定めるものは、総務大臣に対し、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙について公表した国政に関する重要政策及びこれを実現するための基本的な方策等の内容に基づき国の予算を作成するとした場合におけるその国の予算に係る予算財務諸表の作成その他必要な協力を求めることができる。
2 総務大臣は、前項の規定による求めがあったときは、財務大臣に対し、当該求めに係る予算財務諸表の作成その他参考となるべき資料又は情報の提供を求めるものとする。
3 財務大臣は、前項の規定による求めに応じて予算財務諸表を作成するときは、委員会の意見を聴いて、予算財務諸表の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の適用除外)
第三十六条 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による手続については、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成十四年法律第百五十一号)第三条及び第四条の規定は、適用しない。
(電磁的記録による作成)
第三十七条 この法律又はこの法律に基づく命令の規定により作成することとされている書類等(書類、調書その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。次条において同じ。)については、当該書類等に記載すべき事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして財務大臣が定めるものをいう。次条第一項において同じ。)の作成をもって、当該書類等の作成に代えることができる。この場合において、当該電磁的記録は、当該書類等とみなす。
(電磁的方法による提出)
第三十八条 この法律又はこの法律に基づく命令の規定による書類等の提出については、当該書類等が電磁的記録で作成されている場合には、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって財務大臣が定めるものをいう。次項において同じ。)をもって行うことができる。
2 前項の規定により書類等の提出が電磁的方法によって行われたときは、当該書類等の提出を受けるべき者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該提出を受けるべき者に到達したものとみなす。
(政令への委任)
第三十九条 この法律に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。
(地方公共団体の措置)
第四十条 地方公共団体は、この法律の規定の趣旨にのっとり、地方公共団体の責任ある財政運営の確保を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
第六章 罰則
第四十一条 第二十五条の規定に違反してその職務上知ることのできた秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第十条の規定は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成二十五年法律第二十八号)附則第二号に定める日から施行する。
(適用区分)
第二条 第九条及び第十条の規定は平成二十七年度の国の予算から、第十一条の規定は平成二十六年度の国の歳入歳出決算から適用する。
(最初の委員長及び委員の任命)
第三条 この法律の施行後最初に任命される委員会の委員長及び委員の任命について、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、第十八条第四項及び第五項の規定を準用する。
(財政構造改革の推進に関する特別措置法等の廃止)
第四条 次に掲げる法律は、廃止する。
一 財政構造改革の推進に関する特別措置法(平成九年法律第百九号)
二 財政構造改革の推進に関する特別措置法の停止に関する法律(平成十年法律第百五十号)
(国会法の一部改正)
第五条 国会法(昭和二十二年法律第七十九号)の一部を次のように改正する。
第六十九条第二項中「原子力規制委員会委員長」の下に「、財政検証委員会委員長」を加える。
(特別職の職員の給与に関する法律の一部改正)
第六条 特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)の一部を次のように改正する。
第一条第十四号の次に次の一号を加える。
十四の二 財政検証委員会の委員長及び委員
別表第一官職名の欄中「大臣政務官」を
「 |
大臣政務官 |
|
|
財政検証委員会委員長 |
」 |
に、「公害等調整委員会の常勤の委員」を
「 |
財政検証委員会委員 |
|
|
公害等調整委員会の常勤の委員 |
」 |
に改める。
(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の一部改正)
第七条 行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の一部を次のように改正する。
第十二条中「国家公安委員会規則」の下に「、財政検証委員会規則」を加え、「国家公安委員会、公害等調整委員会」を「国家公安委員会、財政検証委員会、公害等調整委員会」に改める。
(特別会計に関する法律の一部改正)
第八条 特別会計に関する法律(平成十九年法律第二十三号)の一部を次のように改正する。
第十九条及び第二十条を次のように改める。
第十九条 特別会計に関する財務情報の開示については、国の責任ある財政運営の確保等に関する法律(平成二十五年法律第▼▼▼号)の定めるところによる。
第二十条 削除
(統計法の一部改正)
第九条 統計法(平成十九年法律第五十三号)の一部を次のように改める。
第六条中「内閣総理大臣」を「財政検証委員会」に改める。
(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正)
第十条 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部を次のように改正する。
第三条のうち特別職の職員の給与に関する法律第一条第十四号の次に一号を加える改正規定中「第一条第十四号」を「第一条第十四号の二」に改め、第十四号の二を第十四号の三とする。
第二十九条のうち行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第十二条の改正規定中「国家公安委員会規則」を「財政検証委員会規則」に、「公正取引委員会、国家公安委員会」を「国家公安委員会、財政検証委員会」に改める。
第四十四条のうち内閣府設置法第四条第三項第五十九号の次に一号を加える改正規定中「第四条第三項第五十九号」を「第四条第三項第五十九号の二」に改め、第五十九号の二を第五十九号の三とする。
第四十四条のうち内閣府設置法第十六条第二項の改正規定中「大臣委員会等」を「財政検証委員会」に改める。
第四十四条のうち内閣府設置法第六十四条の表の改正規定中「国家公安委員会」を「財政検証委員会」に改める。
(内閣府設置法の一部改正)
第十一条 内閣府設置法の一部を次のように改正する。
第四条第三項第一号を次のように改める。
一 削除
第四条第三項第五号及び第六号を次のように改める。
五及び六 削除
第四条第三項第五十九号の次に次の一号を加える。
五十九の二 国の責任ある財政運営の確保等に関する法律(平成二十五年法律第▼▼▼号)第十五条に規定する事務
第十六条第二項中「大臣委員会等」の下に「、財政検証委員会」を加える。
第六十四条の表国家公安委員会の項の次に次のように加える。
財政検証委員会 |
国の責任ある財政運営の確保等に関する法律 |
(関係法律の整備等)
第十二条 附則第四条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に伴い必要な関係法律の整備その他必要な事項については、別に法律で定める。
理 由
内外の経済社会情勢の変化に応じ、中長期的に持続可能な財政運営を確保することが極めて重要であることに鑑み、国の責任ある財政運営の確保等を図るため、国の財政運営に関し、基本原則を定め、及び国の責務を明らかにするとともに、財政運営中長期戦略の策定等、公会計基準の設定、財政検証委員会の設置その他の国の財政会計制度改革を実施する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、平年度約一億円の見込みである。