第一九八回
衆第二七号
視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条−第八条)
第二章 基本的施策(第九条−第二十条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての視聴覚障害者等が、円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに意思疎通を行うことのできる社会を実現するため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策について、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 視聴覚障害者等 視覚障害、聴覚障害、言語機能又は音声機能の障害その他の障害のため、情報を取得し若しくは利用すること、意思を表示すること又は他人との意思疎通を図ることに支障がある者
二 視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段 手話、点字、触手話(触覚により認識することができる手話をいう。次号において同じ。)、拡大文字、筆記、音声、平易な表現その他の視聴覚障害者等が情報を取得し若しくは利用し、その意思を表示し、又は他人との意思疎通を図るための手段
三 意思疎通支援者 手話通訳、点訳(文字を点字に訳すことをいう。)、盲ろう者向け通訳(点字、触手話その他の視覚及び聴覚に障害のある者が他人との意思疎通を図るための手段を用いて通訳をすることをいう。)、要約筆記(口述を要約して筆記することをいう。)、文字通訳(音声を文字に変換することをいう。第二十条において同じ。)又は音訳(文字を音声に変換することをいう。)を行う者その他の視聴覚障害者等と他人との意思疎通を支援する者
(基本理念)
第三条 視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
一 全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現すること。
二 視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保が視聴覚障害者等の自立した日常生活及び社会生活を確保する上で重要であることに鑑み、可能な限り、本人が選択する視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の利用の機会が確保されること。
(国及び地方公共団体の責務)
第四条 国及び地方公共団体は、前条に定める基本理念にのっとり、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策を総合的かつ計画的に実施する責務を有する。
(事業者の責務)
第五条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保への配慮に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策に協力しなければならない。
(国民の責務)
第六条 国民は、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の重要性に関する関心と理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が実施する視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策に協力するよう努めなければならない。
(基本計画等)
第七条 政府は、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する基本的な計画(以下この条において「基本計画」という。)を策定しなければならない。
2 都道府県は、基本計画を基本とするとともに、当該都道府県における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の状況等を踏まえ、当該都道府県における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する基本的な計画(以下この条において「都道府県計画」という。)を策定するよう努めなければならない。
3 市町村は、基本計画(都道府県計画が策定されているときは、基本計画及び都道府県計画)を基本とするとともに、当該市町村における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の状況等を踏まえ、当該市町村における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する基本的な計画(以下この条において「市町村計画」という。)を策定するよう努めなければならない。
4 基本計画は、手話言語法(令和元年法律第▼▼▼号)第五条第一項に規定する手話基本計画と一体のものとして策定することができる。
5 都道府県計画は、手話言語法第五条第二項に規定する都道府県手話計画と一体のものとして策定することができる。
6 市町村計画は、手話言語法第五条第三項に規定する市町村手話計画と一体のものとして策定することができる。
7 内閣総理大臣は、関係行政機関の長に協議するとともに、障害者政策委員会の意見を聴いて、基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
8 都道府県(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下この項及び次項において「指定都市」という。)を含む。)は、都道府県計画(指定都市にあっては、市町村計画)を策定するに当たっては、障害者基本法第三十六条第一項の合議制の機関の意見を聴かなければならない。
9 市町村(指定都市を除く。)は、市町村計画を策定するに当たっては、障害者基本法第三十六条第四項の合議制の機関を設置している場合にあってはその意見を、その他の場合にあっては視聴覚障害者等その他の関係者の意見を聴かなければならない。
10 政府は、基本計画を策定したときは、その要旨を公表しなければならない。
11 第二項又は第三項の規定により都道府県計画又は市町村計画が策定されたときは、都道府県知事又は市町村長は、その要旨を公表しなければならない。
12 第七項及び第十項の規定は基本計画の変更について、第八項及び前項の規定は都道府県計画の変更について、第八項、第九項及び前項の規定は市町村計画の変更について、それぞれ準用する。
(法制上の措置等)
第八条 政府は、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第二章 基本的施策
(視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段を用いることのできる医療従事者等の確保等)
第九条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等が、必要な情報の提供を受けた上で適切な保健医療サービス及び福祉サービスを受けられるようにするため、保健、医療又は福祉の業務に従事する者であって視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段を用いて視聴覚障害者等と意思疎通を図ることができるものの確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
2 保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者は、視聴覚障害者等の意向を十分に尊重して保健医療サービス又は福祉サービスを提供するため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、意思疎通支援者の配置その他の取組を行うよう努めなければならない。
3 国及び地方公共団体は、前項の取組を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(教育における人的体制の整備等)
第十条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等が、その能力及び年齢に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段を用いて視聴覚障害者等と意思疎通を図ることができる教職員の確保、養成及び資質の向上等の人的体制の整備並びに視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段を用いた教材の充実、学校施設における視聴覚障害者等の意思疎通を支援する機器の設置等の物的条件の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
2 学校の設置者は、その設置する学校において視聴覚障害者等である児童及び生徒が円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるようにするため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、意思疎通支援者の配置その他の取組を行うよう努めなければならない。
3 国及び地方公共団体は、前項の取組を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
4 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等である子どもに対する療育その他これに関連する支援に関し、前三項の施策に準じた施策を講ずるものとする。
(視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による職業相談等)
第十一条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等の職業選択の自由を尊重しつつ、視聴覚障害者等がその能力に応じて適切な職業に従事することができるようにするため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介の実施その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 視聴覚障害者等を雇用する事業主は、その雇用する視聴覚障害者等の職務の円滑な遂行に資するため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、意思疎通支援者の配置その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
3 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等を雇用する事業主に対して、その雇用の促進及び継続を図るため、前項の措置に要する費用の助成その他の必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(公共的施設における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供等)
第十二条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるため、自ら設置する官公庁施設、交通施設(車両、船舶、航空機等の移動施設を含む。次項において同じ。)その他の公共的施設において、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、意思疎通支援者の配置その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 交通施設その他の公共的施設を設置する事業者は、視聴覚障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性を向上させるため、当該公共的施設において、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、意思疎通支援者の配置その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(スポーツ、文化芸術等に関する活動における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供等)
第十三条 国及び地方公共団体は、スポーツ施設又はレクリエーション施設における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供及び意思疎通支援者の配置その他の視聴覚障害者等が円滑にスポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするための取組に対する支援を行うよう努めなければならない。
2 視聴覚障害者等による文化芸術活動及び読書活動における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策については、別に法律で定めるところによる。
(災害時における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の伝達等)
第十四条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等が地域社会において安全にかつ安心して生活を営むことができるようにするため、災害時における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報、予報及び警報の伝達に関する体制の整備、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による犯罪に係る通報のための体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
(選挙等における配慮)
第十五条 国及び地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより行われる選挙、国民審査又は投票において、視聴覚障害者等が円滑に投票できるようにするため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、投票所における意思疎通支援者の配置その他の必要な施策を講ずるものとする。
(司法手続における配慮等)
第十六条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等が刑事事件若しくは少年の保護事件に関する手続その他これに準ずる手続の対象となった場合又は裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係人となった場合において、視聴覚障害者等がその権利を円滑に行使できるようにするため、意思疎通支援者の配置その他の措置により視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段に関する研修その他の必要な施策を講ずるものとする。
(相談支援における視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供等)
第十七条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等に対する相談支援を適切に行うことができるようにするため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段により視聴覚障害者等からの相談に応ずる者の配置及び養成その他の必要な施策を講ずるものとする。
(国及び地方公共団体による視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供)
第十八条 第九条から前条までに定めるもののほか、国及び地方公共団体は、その事務又は事業の遂行に当たり、視聴覚障害者等の利便の増進が図られるよう、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段による情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
(意思疎通支援者の確保及び資質の向上)
第十九条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等に対する意思疎通の支援が適切に行われるよう、意思疎通支援者の養成及び研修の充実を通じた意思疎通支援者の資質の向上、視聴覚障害者等の求めに応じて派遣される意思疎通支援者の確保その他の必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(意思疎通支援機器の研究開発等)
第二十条 国及び地方公共団体は、視聴覚障害者等が利用しやすい電子計算機及びその関連装置その他視聴覚障害者等の意思疎通を支援する機器の研究開発及び普及の促進並びに電話リレーサービス(映像の送受信の機能を有する情報通信機器を利用して手話通訳又は文字通訳を行うことにより、聴覚障害者と他人との意思疎通を仲介する役務をいう。)の提供、放送事業者による身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成五年法律第五十四号)第二条第二項に規定する解説番組及び同条第三項に規定する字幕番組の提供その他の視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段を利用した電気通信及び放送の役務の提供の促進に必要な施策を講ずるものとする。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
(検討)
第二条 国は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(障害者基本法の一部改正)
第三条 障害者基本法の一部を次のように改正する。
第三十二条第二項に次の一号を加える。
五 視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する法律(令和元年法律第▼▼▼号)の規定によりその権限に属させられた事項を処理すること。
(内閣府設置法の一部改正)
第四条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)の一部を次のように改正する。
第四条第三項第四十四号の二の次に次の一号を加える。
四十四の三 視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する基本的な計画(視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する法律(令和元年法律第▼▼▼号)第七条第一項に規定するものをいう。)の策定及び推進に関すること。
理 由
全ての視聴覚障害者等が、円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに意思疎通を行うことのできる社会を実現するため、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策について、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、視聴覚障害者等の意思疎通等のための手段の確保の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。