第一九八回
衆第二八号
多文化共生社会基本法案
目次
第一章 総則(第一条−第十一条)
第二章 多文化共生基本計画等(第十二条・第十三条)
第三章 基本的施策
第一節 国の施策(第十四条−第十八条)
第二節 地方公共団体の施策(第十九条)
第四章 多文化共生社会の形成の推進に係る体制の整備(第二十条・第二十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、我が国における近年の在留外国人の増加に伴い、その人権を尊重しつつ、在留外国人が日常生活、社会生活及び職業生活を国民と共に円滑に営むことができる環境の整備を図ることが重要な課題となっていることに鑑み、多文化共生社会の形成に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、多文化共生社会の形成に関する施策の基本となる事項を定めることにより、多文化共生社会の形成に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって文化の多様性の確保及び地域の活力の向上に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「在留外国人」とは、我が国に住所を有し適法に在留する外国人をいう。
2 この法律において「多文化共生社会」とは、国民及び在留外国人の一人一人が、社会の対等な構成員として、国籍及び社会的文化的背景を認め合い、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する社会をいう。
(基本理念)
第三条 多文化共生社会の形成は、国民及び在留外国人の人権が尊重されることを前提としつつ、在留外国人を包摂できる社会の実現を図ることを旨として、行われなければならない。
2 多文化共生社会の形成は、在留外国人の増加による社会経済情勢の変化に配慮しつつ、行われなければならない。
(国の責務)
第四条 国は、前条に定める多文化共生社会の形成についての基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、多文化共生社会の形成に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、多文化共生社会の形成に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(事業者の努力)
第六条 事業者は、基本理念に配意してその事業活動を行うとともに、国又は地方公共団体が実施する多文化共生社会の形成に関する施策に協力するよう努めなければならない。
(国民の努力)
第七条 国民は、地域、職域、学校その他の社会のあらゆる分野において、基本理念にのっとり、多文化共生社会の形成に寄与するよう努めなければならない。
(在留外国人の努力)
第八条 在留外国人は、日常生活、社会生活又は職業生活を国民と共に円滑に営むため、日本語を習得し、その居住する地域の文化及び慣習について理解を深めるとともに、子に教育を受けさせるよう努めなければならない。
(関係者相互の連携及び協働)
第九条 国、地方公共団体、事業者その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協働するよう努めなければならない。
(法制上の措置等)
第十条 政府は、多文化共生社会の形成に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告等)
第十一条 政府は、毎年、国会に、多文化共生社会の形成の状況及び政府が講じた多文化共生社会の形成に関する施策についての報告を提出しなければならない。
2 政府は、毎年、前項の報告に係る多文化共生社会の形成の状況を考慮して講じようとする多文化共生社会の形成に関する施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。
第二章 多文化共生基本計画等
(多文化共生基本計画)
第十二条 政府は、多文化共生社会の形成に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、多文化共生社会の形成に関する施策に関する基本的な計画(以下この条及び次条第一項において「多文化共生基本計画」という。)を定めなければならない。
2 多文化共生基本計画は、多文化共生社会の形成に関する施策を総合的かつ計画的に推進するための基本的な事項その他必要な事項について定めるものとする。
3 総務大臣は、多文化共生基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 総務大臣は、多文化共生基本計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長と協議しなければならない。
5 総務大臣は、第三項の閣議の決定があったときは、遅滞なく、多文化共生基本計画を公表しなければならない。
6 前三項の規定は、多文化共生基本計画の変更について準用する。
(地域多文化共生計画)
第十三条 都道府県及び市町村(特別区を含む。次項及び第二十一条において同じ。)は、単独で又は共同して、多文化共生基本計画を勘案し、その区域における多文化共生社会の形成に関する施策の推進に関する計画(同項及び同条において「地域多文化共生計画」という。)を定めるよう努めなければならない。
2 都道府県及び市町村は、地域多文化共生計画を定め、又は変更したときは、遅滞なく、これを公表するよう努めなければならない。
第三章 基本的施策
第一節 国の施策
(国籍又は社会的文化的背景が異なることを理由とする差別の禁止)
第十四条 国は、その事務又は事業を行うに当たり、国籍又は社会的文化的背景が異なることを理由として国民と不当な差別的取扱いをすることにより、在留外国人の権利利益を侵害してはならない。
(差別に関する相談及び紛争の防止等のための体制の整備)
第十五条 国は、在留外国人その他の関係者からの国籍又は社会的文化的背景が異なることを理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、国籍又は社会的文化的背景が異なることを理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。
(教育及び啓発等による国民の関心と理解の増進等)
第十六条 国は、多文化共生社会の形成に関する教育及び啓発、国民と在留外国人との交流の促進等により、多文化共生社会の形成について国民の関心と理解を深め、在留外国人の社会的文化的背景が尊重されることとなるよう必要な措置を講ずるものとする。
(日本語等の習得の機会の確保等による生活の円滑化)
第十七条 国は、在留外国人に対する日本語等の習得の機会の確保、情報の提供等により在留外国人が日常生活、社会生活又は職業生活を国民と共に円滑に営むことができるよう必要な措置を講ずるものとする。
(未成年の在留外国人に対する教育の機会の確保)
第十八条 国は、学齢期(満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満十五歳に達した日の属する学年の終わりまでの期間をいう。)にある在留外国人に対する就学の機会その他の未成年の在留外国人に対する教育の機会が確保されるよう必要な措置を講ずるものとする。
第二節 地方公共団体の施策
第十九条 地方公共団体は、前節の国の施策を勘案し、その地域の特性に応じた多文化共生社会の形成に関する施策の推進を図るよう努めなければならない。
第四章 多文化共生社会の形成の推進に係る体制の整備
(多文化共生推進会議)
第二十条 政府は、多文化共生社会の形成に関する施策の総合的、一体的かつ効果的な推進を図るため、多文化共生推進会議を設け、総務省及び法務省、外務省、文部科学省、厚生労働省その他の関係行政機関相互の連絡調整を行うものとする。
(都道府県及び市町村の多文化共生審議会等)
第二十一条 都道府県及び市町村に、地域多文化共生計画その他の多文化共生社会の形成の推進に関する重要事項を調査審議させるため、条例で定めるところにより、審議会その他の合議制の機関を置くことができる。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。
(多文化共生社会の形成に関する施策を総合的に推進するための行政組織の在り方の検討)
第二条 政府は、多文化共生社会の形成に関する施策を総合的に推進するため、多文化共生庁の設置等行政組織の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(外国人の在留資格及び難民の保護の在り方の検討)
第三条 政府は、この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行の状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、更なる多文化共生社会の形成の推進を図る観点から、外国人の在留資格及び難民の保護の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
2 前項の検討を行うに当たっては、外国人の子の福祉に配慮しなければならない。
理 由
我が国における近年の在留外国人の増加に伴い、その人権を尊重しつつ、在留外国人が日常生活、社会生活及び職業生活を国民と共に円滑に営むことができる環境の整備を図ることが重要な課題となっていることに鑑み、多文化共生社会の形成に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、多文化共生社会の形成に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定める等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。