第二〇八回
衆第八号
子どもの最善の利益が図られるための子ども施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条−第七条)
第二章 子ども施策基本計画等(第八条・第九条)
第三章 子ども施策の基本となる事項
第一節 総則(第十条−第十二条)
第二節 子どもの生活を経済的に安定させるための施策(第十三条−第十六条)
第三節 希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現のための施策(第十七条−第二十条)
第四節 子どもの生存と安全を保障するための施策(第二十一条−第二十四条)
第五節 教育を受ける権利等を保障するための施策(第二十五条−第二十八条)
第六節 特別の支援を必要とする子どもに関する施策(第二十九条−第三十一条)
第七節 補則(第三十二条・第三十三条)
第四章 子どもの権利擁護委員会及び都道府県等における合議制の機関等
第一節 子どもの権利擁護委員会(第三十四条−第五十二条)
第二節 都道府県等における合議制の機関(第五十三条)
第三節 補則(第五十四条−第五十六条)
第五章 子ども省の設置についての法制上の措置等(第五十七条)
第六章 罰則(第五十八条−第六十条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され、及び社会全体で子どもの成長を支援する社会を実現するため、児童の権利に関する条約の理念にのっとり、子ども施策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、子ども施策基本計画等の策定、子ども施策の基本となる事項、子どもの権利擁護委員会及び都道府県等における合議制の機関等並びに子ども省の設置についての法制上の措置等に関する事項について定めることにより、子ども施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「子ども施策」とは、子育て、教育、福祉、保健、医療、雇用、少子化対策その他の分野における子どもに関する施策をいい、当該施策の性質上子どものほか若者を対象とすることが適当である場合にあっては、若者に関する施策を含むものとする。
(基本理念)
第三条 子ども施策の推進は、全ての子ども(子ども施策の対象となる若者を含む。以下この条において同じ。)の最善の利益が図られ、その人権を保障することを旨として行われなければならない。
2 子ども施策の推進は、全ての子どもについて、個人としての尊厳を重んじ、不当な差別的取扱いを受けることがないようにすることを旨として行われなければならない。
3 子ども施策の推進は、全ての子どもについて、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を保障し、その意見を十分に尊重することを旨として行われなければならない。
4 子ども施策の推進は、保護者の経済的な状況により子どもの成長が左右されることのないようにすることを旨として行われなければならない。
5 子ども施策の推進は、希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現を図るため、必要な支援が切れ目なく行われることを旨として行われなければならない。
6 子ども施策の推進は、全ての子どもの命を守り、その生存と安全を保障することを旨として行われなければならない。
7 子ども施策の推進は、全ての子どもについて、その生まれ育った環境や家族の状況、障害の有無等にかかわらず教育を受ける権利を保障するとともに、その成長する環境を整えることを旨として行われなければならない。
8 子ども施策の推進に当たっては、個人の権利利益が不当に害されることのないようにしつつ情報通信技術の活用等を行うとともに、子育て支援、子どもに対する教育、福祉サービス等の提供を行う関係者との連携の確保が図られなければならない。
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、子ども施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、その区域内における子ども施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(国民の責務等)
第六条 国民は、子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され、及び社会全体で子どもの成長を支援する社会の実現に寄与するよう努めなければならない。
2 学校、地域その他の場において子どもに関係する者は、その職務と責任に応じて、これらの場における子どもに影響を及ぼす事項について、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を設け、その意見が当該事項に反映されるよう努めなければならない。
(法制上の措置等)
第七条 政府は、子ども施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
第二章 子ども施策基本計画等
(子ども施策基本計画)
第八条 政府は、基本理念にのっとり、子ども施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、子ども施策に関する基本的な計画(以下この条及び次条第一項において「子ども施策基本計画」という。)を定めなければならない。
2 子ども施策基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 総合的かつ長期的に講ずべき子ども施策の大綱
二 前号に掲げるもののほか、子ども施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 子ども施策基本計画の策定に当たっては、各種の施策相互の有機的な連携が図られるよう配慮するものとする。
4 内閣総理大臣は、子ども施策基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
5 内閣総理大臣は、前項の規定により子ども施策基本計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、内閣府令で定めるところにより、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を設け、その意見を子ども施策基本計画の案に反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
6 政府は、子ども施策基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、インターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
7 政府は、第十二条第二項に規定する評価及び児童の権利に関する条約の履行の状況についての国際的評価を勘案し、おおむね五年ごとに、子ども施策基本計画の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
8 第三項から第六項までの規定は、子ども施策基本計画の変更について準用する。
(都道府県子ども施策基本計画)
第九条 都道府県は、子ども施策基本計画を勘案して、当該都道府県の区域における子ども施策に関する基本的な計画(以下この条において「都道府県子ども施策基本計画」という。)を定めなければならない。
2 都道府県子ども施策基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 都道府県の区域において総合的かつ長期的に講ずべき子ども施策の大綱
二 前号に掲げるもののほか、都道府県の区域における子ども施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 都道府県知事は、都道府県子ども施策基本計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を設け、その意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
4 都道府県は、都道府県子ども施策基本計画を定めたときは、遅滞なく、これをインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
5 前二項の規定は、都道府県子ども施策基本計画の変更について準用する。
第三章 子ども施策の基本となる事項
第一節 総則
(予算の確保)
第十条 国は、国内総生産の額に占める子ども施策に関する公費の支出の割合が諸外国に比べ低いことをも踏まえ、当該割合が三パーセント以上となるよう、第十三条第一項及び第十四条に規定する措置その他のこの章に規定する子ども施策を実施するために十分な予算を確保するものとする。
2 地方公共団体は、前項の趣旨を踏まえ、この章に規定する子ども施策を実施するために十分な予算を確保するものとする。
(子どもの意見の反映)
第十一条 国及び地方公共団体は、子ども施策の策定及び実施に関する事項について、子どもの年齢及び発達の程度に応じて、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を保障し、その意見を子ども施策に反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
(子ども施策の実施状況に関する評価等)
第十二条 子どもの権利擁護委員会は、子ども施策の推進を図るため、子どもの自殺死亡率その他の子どもの権利の擁護の状況に関する指標を策定するものとする。
2 子どもの権利擁護委員会は、国内総生産の額に占める子ども施策に関する公費の支出の割合並びに前項の指標及び子どもの貧困率(子どもの貧困対策の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十四号)第八条第二項第二号の子どもの貧困率をいう。第十五条第二項において同じ。)その他の指標並びにこれらの指標に係る子ども施策の実施状況について、定期的に国際比較を含めた評価を行い、その結果をインターネットの利用その他適切な方法により公表しなければならない。
第二節 子どもの生活を経済的に安定させるための施策
(児童手当の拡充等)
第十三条 国は、社会全体で全ての子どもの成長を支援するため、児童(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者をいう。)を養育している全ての者に対し、児童手当法(昭和四十六年法律第七十三号)による児童手当(同法附則第二条第一項の特例給付を含む。)を支給するために必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、独立して生計を営む児童に対する経済的支援の在り方についても検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(低所得者世帯の子育ての支援)
第十四条 国は、低所得者世帯の子育てに係る負担の軽減を図るため、次に掲げる事項を旨として児童扶養手当法(昭和三十六年法律第二百三十八号)による児童扶養手当の制度を拡充するために必要な措置を講ずるものとする。
一 児童(児童扶養手当法第三条第一項に規定する児童をいう。)の属する全ての低所得者世帯に対して支給すること。
二 支給する手当の額を増額すること。
(子どもの貧困対策)
第十五条 国及び地方公共団体は、子どもの現在及び将来が保護者の経済的な状況その他の生まれ育った環境によって左右されることのないよう、子どもの貧困対策に必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、前項の施策を講ずるに当たっては、将来において達成すべき子どもの貧困率の低下についての具体的な数値目標を設けるものとする。
(養育に必要な費用の支払の確保等)
第十六条 国及び地方公共団体は、親の離婚後における子どもの成長に資するよう、親の離婚後における子どもについての扶養義務の履行の確保のため、離婚後に子どもを監護しない親が支払うべき当該子どもの養育に必要な費用の支払の確保のための制度の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
第三節 希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現のための施策
(妊娠、出産、育児及び子どもの成長に関する切れ目のない支援)
第十七条 国及び地方公共団体は、家族等を取り巻く環境の変化、多胎妊娠や多子世帯に係る課題等に対応するとともに、希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現を図るため、妊娠、出産、育児及び子どもの成長に関する医療、福祉、保健、子育て及び教育に係る支援が切れ目なく行われるよう必要な施策を講ずるものとする。
(不妊治療に係る支援)
第十八条 国及び地方公共団体は、希望する者が安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現を図るため、不妊治療に係る費用の負担の軽減、不妊治療のための休暇制度の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
(待機児童に関する問題の解消等)
第十九条 国及び地方公共団体は、待機児童(保育所又は認定こども園における保育等を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る子どもであって保育所又は認定こども園における保育等が行われていないものをいう。)に関する問題の早急な解消のために必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、保育、小学校就学前の子どもに関する教育等の業務に従事する者の確保を通じて子ども・子育て支援(子ども・子育て支援法(平成二十四年法律第六十五号)第七条第一項に規定する子ども・子育て支援をいう。)の水準の向上を図るため、その業務に従事する者の賃金をはじめとする処遇の改善その他の必要な施策を講ずるものとする。
(仕事と子育ての両立が可能な環境の整備)
第二十条 国及び地方公共団体は、子どもの保護者がその仕事と子育てを両立することができる環境の整備を図るため、時間外労働の制限その他の適正な労働時間の確保、子どもその他の家族のための休暇制度の整備、育児休業等をする者がその雇用形態にかかわらず必要な支援を受けられるようにするための措置その他の必要な施策を講ずるものとする。
第四節 子どもの生存と安全を保障するための施策
(虐待の防止等)
第二十一条 国及び地方公共団体は、性的虐待を含む虐待によって子どもの生命等が侵害され、又はその心身の成長や人格の形成が阻害されることのないよう、子どもに対する虐待の防止及び早期発見、虐待を受けた子どもの保護等のために必要な施策を講ずるものとする。
(社会的養護の拡充等)
第二十二条 国及び地方公共団体は、児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)第二条に規定する児童虐待(第五十条第一項第二号において単に「児童虐待」という。)を受けた子ども等の社会的養護に関し、特別養子縁組(民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二第一項に規定する特別養子縁組をいう。)その他の養子縁組、里親(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六条の四に規定する里親をいう。第三項において同じ。)への委託等により家庭における養育が確保されるよう必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、前項に定めるもののほか、社会的養護による子どもの養育ができる限り家庭的な環境の下で行われるよう必要な施策を講ずるものとする。
3 国及び地方公共団体は、社会的養護を要する子ども及びケアリーバー(里親に委託する措置、児童養護施設(児童福祉法第四十一条に規定する児童養護施設をいう。)に入所させる措置等が解除された子ども及び若者をいう。)が学び、成長し、及び自立するための支援及び環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
(子どもが性犯罪及び性暴力の当事者とならないための取組)
第二十三条 国及び地方公共団体は、子どもが性犯罪及び性暴力の被害者、加害者及び傍観者とならないようにするため、子どもの発達段階に応じて必要な教育、啓発、相談支援等が行われるよう必要な施策を講ずるものとする。
(子どもの死亡の原因の調査)
第二十四条 国及び地方公共団体は、虐待、事故、犯罪、災害その他の子どもの生活に危害を及ぼす事象において死亡した子どもの死亡の原因を明らかにするための調査を関係機関の連携の下で行う体制の整備その他の当該事象における子どもの死亡の防止を図るために必要な施策を講ずるものとする。
第五節 教育を受ける権利等を保障するための施策
(小学校就学前の子どもに対する教育及び保育の充実)
第二十五条 国及び地方公共団体は、幼児期の教育及び保育が生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることに鑑み、小学校就学前の子どもの成長に資する良好な教育及び保育に係る環境の整備その他の小学校就学前の子どもに対する教育及び保育の充実を図るため、必要な施策を講ずるものとする。
(学校教育に係る支援等)
第二十六条 国及び地方公共団体は、全ての子ども及び若者について、その生まれ育った環境にかかわらず教育を受ける権利を保障するため、次に掲げる措置その他の必要な施策を講ずるものとする。
一 義務教育諸学校における学校給食を無償とする措置
二 高等学校等の全ての生徒に係る授業料等を無償とする措置
三 大学、高等専門学校(第四学年及び第五学年に限る。)、専門課程を置く専修学校等(以下この号において「大学等」という。)の授業料等の負担の軽減を図るための措置、大学等の学生又は生徒に対する学資の支給の拡充、所得連動返還型無利息奨学金制度(無利息で学資としての資金の貸与を行う措置並びに当該資金の返還の期限及び方法を当該貸与を受けた者の収入の状況その他の事情を勘案したものとする措置をいう。)の拡充等による修学の支援
四 多様な教育の機会を確保するための次に掲げる措置
イ 不登校の児童又は生徒に対する学校以外の場における教育の機会の提供
ロ 夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供
ハ 子どもの学習・生活支援事業(生活困窮者自立支援法(平成二十五年法律第百五号)第三条第七項に規定する子どもの学習・生活支援事業をいう。第二十八条第二項において同じ。)による学習の援助の拡充
2 国及び地方公共団体は、全ての子どもがきめ細やかな教育を受けられるよう、小学校等のほか中学校、高等学校等における少人数の児童又は生徒による学級の編制その他の必要な施策を講ずるものとする。
3 国及び地方公共団体は、大学の入学者の選抜の公平性及び公正性の確保等を踏まえた高大接続改革(高等学校等における教育、大学の入学者の選抜及び大学における教育に関する一体的な改革をいう。)の推進のために必要な施策を講ずるものとする。
(いじめの防止)
第二十七条 国及び地方公共団体は、いじめによって子どもの生命、心身及びその教育を受ける権利等が侵害され、又はその成長や人格の形成が阻害されることのないよう、いじめの防止及び早期発見並びにいじめを受けた子どもの心身のケアその他のいじめへの対処等のための必要な施策を講ずるものとする。
(子どもの居場所の確保)
第二十八条 国及び地方公共団体は、学校が子どもの生活において多くの時間を過ごす場所であるという観点から子どもが学校で安心して過ごせるよう、心理、福祉等に関する専門的知識を有する者等の配置その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、子どもが成長する過程に応じた安全で安心な居場所を確保するため、児童館その他の児童厚生施設(児童福祉法第四十条に規定する児童厚生施設をいう。)の整備、放課後児童健全育成事業(同法第六条の三第二項に規定する放課後児童健全育成事業をいう。)、子どもの学習・生活支援事業、放課後等デイサービス(同法第六条の二の二第四項に規定する放課後等デイサービスをいう。)その他の子どもの成長する過程に応じた学校以外の子どもの居場所に係る施策の総合的な策定、中学校、高等学校等の生徒等の居場所の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
第六節 特別の支援を必要とする子どもに関する施策
(特別の支援を必要とする子どもが学び、成長するための支援及び環境の整備等)
第二十九条 国及び地方公共団体は、障害児、発達障害児、医療的ケア児その他の特別の支援を必要とする子どもが特別の支援を必要としない子どもと同様に学び、成長するための支援及び環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
(ヤングケアラーの負担の軽減)
第三十条 国及び地方公共団体は、ヤングケアラー(ケアラー(高齢、身体上又は精神上の障害、疾病等により援助を必要とする親族等に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を行う者をいう。)のうち、その援助を行うことにより、その年齢及び発達の程度に比して過重な負担を受けている子どもをいう。以下この条において同じ。)の負担を軽減するため、ヤングケアラーの属する家庭の家事の補助、ヤングケアラーの家族に対する福祉サービスの提供、ヤングケアラーに対する相談体制の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。
(修学及び就業のいずれもしていない子ども、若者等の支援)
第三十一条 国及び地方公共団体は、義務教育終了後に修学及び就業のいずれもしていない子ども、若者等であって、社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対して必要な支援が行われるよう、それらの者の実態の把握のための措置、子ども・若者育成支援推進法(平成二十一年法律第七十一号)第一条に規定する子ども・若者育成支援の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。
第七節 補則
(子育て等の分野における情報通信技術の活用等)
第三十二条 国及び地方公共団体は、個人情報の適正な取扱いの確保が図られ、個人の権利利益が不当に害されることのないようにしつつ、子育て、教育、福祉その他の分野において高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。
(関係者の連携)
第三十三条 国及び地方公共団体は、この章に規定する施策を講ずるに当たっては、子育て支援、子どもに対する教育、福祉サービス等の提供等を行う特定非営利活動法人、民間事業者その他の関係者との連携を図るものとする。
第四章 子どもの権利擁護委員会及び都道府県等における合議制の機関等
第一節 子どもの権利擁護委員会
(設置)
第三十四条 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第三項の規定に基づいて、子どもの権利擁護委員会(以下この章及び附則において「委員会」という。)を置く。
2 委員会は、内閣総理大臣の所轄に属する。
(任務)
第三十五条 委員会は、児童の権利に関する条約の理念にのっとり、子どもの権利が擁護されているかどうかの実態及び子ども施策の実施状況を監視すること並びに子どもによる意見の表明に関する代弁その他の支援を行うことにより、子どもの権利の擁護及び子ども施策の推進を図ることを任務とする。
(所掌事務)
第三十六条 委員会は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
一 社会において子どもが置かれている状況、子どもの権利が擁護されているかどうか及び子ども施策の実施状況について、実態の調査並びに情報の収集、整理、分析及び提供を行うこと。
二 子どもの権利の擁護又は子ども施策の推進を図るため、必要があると認めるときは、関係行政機関の長に意見を述べ、又は勧告をすること。
三 国が行う子ども施策に関する子どもによる意見の表明に関する代弁その他の支援を行うこと。
四 児童の権利に関する条約に関する教育及び学習の振興並びに知識の普及並びに子どもの権利に関する意識の啓発を行うこと。
五 都道府県及び市町村に対し、子どもの権利の擁護及び子ども施策の推進に関し必要な情報の提供、助言その他の支援を行うこと。
六 前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき委員会に属させられた事務
2 委員会は、前項の事務を行うに当たっては、子どもを主な構成員とする意見交換のための場を設けること等により、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を確保し、並びに子どもの意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
(職権行使の独立性)
第三十七条 委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う。
(組織等)
第三十八条 委員会は、委員長及び委員四人をもって組織する。
2 委員のうち二人は、非常勤とする。
3 委員長及び委員は、人格が高潔で識見の高い者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
4 委員長及び委員には、子どもの権利の擁護に関する学識経験又は実務経験を有する者が含まれるものとする。
(任期等)
第三十九条 委員長及び委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の委員長又は委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員長及び委員は、再任されることができる。
3 委員長及び委員の任期が満了したときは、当該委員長及び委員は、後任者が任命されるまで引き続きその職務を行うものとする。
4 委員長又は委員の任期が満了し、又は欠員を生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、内閣総理大臣は、前条第三項の規定にかかわらず、同項に定める資格を有する者のうちから、委員長又は委員を任命することができる。
5 前項の場合においては、任命後最初の国会において両議院の事後の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認が得られないときは、内閣総理大臣は、直ちに、その委員長又は委員を罷免しなければならない。
(身分保障)
第四十条 委員長及び委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがない。
一 破産手続開始の決定を受けたとき。
二 この法律の規定に違反して刑に処せられたとき。
三 禁錮以上の刑に処せられたとき。
四 委員会により、心身の故障のため職務を執行することができないと認められたとき又は職務上の義務違反その他委員長若しくは委員たるに適しない非行があると認められたとき。
(罷免)
第四十一条 内閣総理大臣は、委員長又は委員が前条各号のいずれかに該当するときは、その委員長又は委員を罷免しなければならない。
(委員長)
第四十二条 委員長は、委員会の会務を総理し、委員会を代表する。
2 委員会は、あらかじめ常勤の委員のうちから、委員長に事故がある場合に委員長を代理する者を定めておかなければならない。
(会議)
第四十三条 委員会の会議は、委員長が招集する。
2 委員会は、委員長及び二人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない。
3 委員会の議事は、出席者の過半数でこれを決し、可否同数のときは、委員長の決するところによる。
4 第四十条第四号の規定による認定をするには、前項の規定にかかわらず、本人を除く全員の一致がなければならない。
5 委員長に事故がある場合の第二項の規定の適用については、前条第二項に規定する委員長を代理する者は、委員長とみなす。
(専門委員)
第四十四条 委員会に、専門の事項を調査させるため、専門委員を置くことができる。
2 専門委員は、委員会の申出に基づいて内閣総理大臣が任命する。
3 専門委員は、当該専門の事項に関する調査が終了したときは、解任されるものとする。
4 専門委員は、非常勤とする。
(事務局)
第四十五条 委員会の事務を処理させるため、委員会に事務局を置く。
2 事務局に、事務局長その他の職員を置く。
3 事務局長は、委員長の命を受けて、局務を掌理する。
(政治運動等の禁止)
第四十六条 委員長及び委員は、在任中、政党その他の政治団体の役員となり、又は積極的に政治運動をしてはならない。
2 委員長及び常勤の委員は、在任中、内閣総理大臣の許可のある場合を除くほか、報酬を得て他の職務に従事し、又は営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行ってはならない。
(秘密保持義務)
第四十七条 委員長、委員、専門委員及び事務局の職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職務を退いた後も、同様とする。
(給与)
第四十八条 委員長及び委員の給与は、別に法律で定める。
(資料の提出その他の協力)
第四十九条 委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、国立大学法人(国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人をいう。)の学長又は理事長、独立行政法人国立高等専門学校機構の理事長及び公立大学法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第六十八条第一項に規定する公立大学法人をいう。)の理事長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他の協力を求めることができる。この場合において、当該求めを受けた者は、正当な理由がある場合を除き、その求めに応じなければならない。
2 委員会は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、同項の協力を依頼することができる。
(子どもの権利侵害が疑われる場合の調査等)
第五十条 委員会は、子どもの権利の侵害に係る事案で次に掲げるもの(以下この条及び次条第一項において「特定侵害事案」という。)があったことが疑われる場合において、その特定侵害事案と同種又は類似の特定侵害事案の発生の防止を図るため必要があると認めるときは、その原因を究明するための調査を行うものとする。
一 いじめ防止対策推進法(平成二十五年法律第七十一号)第二十八条第一項に規定する重大事態
二 児童虐待
三 前二号に掲げるものに準ずるものとして子どもの権利擁護委員会規則で定めるもの
2 委員会は、前項の調査を行うため必要な限度において、次に掲げる処分をすることができる。
一 特定侵害事案に関係があると認められる者(以下この項及び第四項において「関係者」という。)から報告を徴すること。
二 特定侵害事案の現場、関係者の事務所その他の必要と認める場所に立ち入って、書類その他の特定侵害事案に関係のある物件を検査し、又は関係者に質問すること。
三 関係者に出頭を求めて質問すること。
3 委員会は、必要があると認めるときは、委員長、委員、専門委員又は事務局の職員に前項各号に掲げる処分をさせることができる。
4 前項の規定により第二項第二号に掲げる処分をする者は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
5 第二項又は第三項の規定による処分の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(関係行政機関の長等に対する勧告)
第五十一条 委員会は、前条第一項の調査を完了した場合において、必要があると認めるときは、その結果に基づき、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対し、当該調査に係る特定侵害事案と同種又は類似の特定侵害事案の発生を防止するため講ずべき施策又は措置について勧告することができる。
2 前項の規定による勧告を受けた関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関は、当該勧告に基づき講じた施策又は措置について委員会に報告しなければならない。
(規則の制定)
第五十二条 委員会は、その所掌事務について、法律若しくは政令を実施するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、子どもの権利擁護委員会規則を制定することができる。
第二節 都道府県等における合議制の機関
第五十三条 都道府県(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(第四項において「指定都市」という。)を含む。以下この項及び第五十五条第一項において同じ。)に、次に掲げる事務を処理するため、審議会その他の合議制の機関を置く。
一 当該都道府県において子どもの権利が擁護されているかどうか及び当該都道府県における子ども施策の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、当該都道府県の関係機関に勧告すること。
二 委員会に対し、子どもの権利の侵害に係る事案その他子どもの権利の擁護及び子ども施策の推進に関し必要な情報の提供を行うこと。
三 子どもによる意見の表明に関する代弁その他の支援を行うこと。
四 子どもの権利の侵害に関する相談に応じ、必要な助言及び支援を行うこと。
五 子どもの権利の侵害に関する救済の申立てを受け、必要な調査を行い、当該調査の結果に基づき、当該都道府県の関係機関への勧告その他の手段によりその解決を図ること。
六 児童の権利に関する条約に関する教育及び学習の振興並びに知識の普及並びに子どもの権利に関する意識の啓発を行うこと。
2 前項の合議制の機関が同項の事務を行うに当たっては、子どもを主な構成員とする意見交換のための場を設けること等により、子どもの意見を聴く機会及び子どもが自ら意見を述べることができる機会を確保し、並びに子どもの意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
3 前項に定めるもののほか、第一項の合議制の機関の組織及び運営に関し必要な事項は、条例で定める。
4 市町村(指定都市を除く。以下この項及び第五十五条第二項において同じ。)は、条例で定めるところにより、次に掲げる事務を処理するため、審議会その他の合議制の機関を置くことができる。
一 当該市町村において子どもの権利が擁護されているかどうか及び当該市町村における子ども施策の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、当該市町村の関係機関に勧告すること。
二 委員会に対し、子どもの権利の侵害に係る事案その他子どもの権利の擁護及び子ども施策の推進に関し必要な情報の提供を行うこと。
三 子どもによる意見の表明に関する代弁その他の支援を行うこと。
四 子どもの権利の侵害に関する相談に応じ、必要な助言及び支援を行うこと。
五 子どもの権利の侵害に関する救済の申立てを受け、必要な調査を行い、当該調査の結果に基づき、当該市町村の関係機関への勧告その他の手段によりその解決を図ること。
六 児童の権利に関する条約に関する教育及び学習の振興並びに知識の普及並びに子どもの権利に関する意識の啓発を行うこと。
5 第二項及び第三項の規定は、前項の規定により合議制の機関が置かれた場合に準用する。
第三節 補則
(連携及び協力)
第五十四条 委員会並びに前条第一項及び第四項の合議制の機関は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。
(都道府県等の支弁)
第五十五条 第五十三条第一項の合議制の機関に要する費用は、都道府県の支弁とする。
2 第五十三条第四項の合議制の機関に要する費用は、市町村の支弁とする。
(費用の補助)
第五十六条 国は、政令で定めるところにより、前条の費用の全部又は一部を補助することができる。
第五章 子ども省の設置についての法制上の措置等
第五十七条 政府は、子ども施策の総合的な推進を図るため、次に掲げる事務をつかさどる子ども省の設置について、必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
一 子ども施策に関する行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務
二 内閣府が所掌する事務のうち次に掲げる事務
イ 青少年の健全な育成に関すること。
ロ 子ども・若者育成支援に関すること。
ハ 少子化の進展への対処に関すること。
ニ 子ども・子育て支援給付その他の子ども及び子どもを養育している者に必要な支援に関すること。
ホ 認定こども園に関する制度に関すること。
ヘ 子どもの貧困対策に関すること。
三 文部科学省が所掌する事務のうち次に掲げる事務
イ 生涯学習に関すること(子どもに係るものに限る。)。
ロ 地方教育行政に関すること。
ハ 初等中等教育(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び幼保連携型認定こども園における教育をいう。)に関すること。
ニ 学校保健、学校安全、学校給食及び災害共済給付に関すること。
ホ 社会教育に関すること(子どもに係るものに限る。)。
四 厚生労働省が所掌する事務のうち次に掲げる事務
イ 育児又は家族介護を行う労働者の福祉の増進その他の労働者の仕事と生活の両立に関すること。
ロ 児童の保育に関すること。
ハ 児童の養護その他児童の保護及び虐待の防止に関すること。
ニ 児童のある家庭の福祉の増進に関すること。
ホ 福祉に欠ける母子及び父子並びに寡婦の福祉の増進に関すること。
ヘ 児童の保健及び妊産婦その他母性の保健の向上に関すること。
ト 障害児の福祉の増進に関すること。
五 前各号に掲げるもののほか、これらと一元的に行うことが国民の利便性の向上及び政府全体の業務の効率化に資する事務
2 子ども省が前項の事務を行うに当たっては、子ども施策の総合的かつ一体的な推進を図るため、文部科学省その他の関係行政機関との緊密な連携を図るものとする。
3 第一項の措置を講ずるに当たっては、前項の緊密な連携が図られるよう、配慮がなされなければならない。
第六章 罰則
第五十八条 第四十七条の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第五十九条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第五十条第二項第一号又は第三項の規定による報告の徴取に対して虚偽の報告をしたとき。
二 第五十条第二項第二号又は第三項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はこれらの規定による質問に対して虚偽の陳述をしたとき。
三 第五十条第二項第三号又は第三項の規定による質問に対して虚偽の陳述をしたとき。
第六十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同条の刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第十二条、第四章、第六章及び附則第三条の規定は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(任命のために必要な行為)
第二条 第三十八条第三項の規定による委員会の委員長及び委員の任命のために必要な行為は、第四章の規定の施行前においても行うことができる。
(委員長及び委員の任命手続の特例)
第三条 第三十九条第四項及び第五項の規定は、第四章の規定の施行後最初に任命される委員会の委員長及び委員の任命について準用する。
(関係法律の整備)
第四条 この法律の施行に伴う関係法律の整備については、別に法律で定める。
理 由
子どもの最善の利益が図られ、その人権が保障され、及び社会全体で子どもの成長を支援する社会を実現するため、児童の権利に関する条約の理念にのっとり、子ども施策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、子ども施策基本計画等の策定、子ども施策の基本となる事項、子どもの権利擁護委員会及び都道府県等における合議制の機関等並びに子ども省の設置についての法制上の措置等に関する事項について定めることにより、子ども施策を総合的かつ計画的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、平年度約三十四億円の見込みである。