衆議院

メインへスキップ



第二〇八回

衆第三五号

   自動車産業における脱炭素化の推進に関する法律案

 (目的)

第一条 この法律は、我が国における二千五十年までの脱炭素社会(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)第二条の二に規定する脱炭素社会をいう。次条第一項において同じ。)の実現が重要な課題であることに鑑み、我が国の基幹的な産業である自動車産業における脱炭素化の推進に関し、基本理念を定め、国の責務を明らかにするとともに、自動車産業における脱炭素化の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、自動車産業における脱炭素化を総合的かつ一体的に推進し、もって自動車産業の国際競争力の維持及び強化を図り、あわせて我が国の経済の発展に寄与することを目的とする。

 (定義)

第二条 この法律において「脱炭素化」とは、脱炭素社会の実現に寄与することを旨として、社会経済活動その他の活動に伴って発生する温室効果ガス(地球温暖化対策の推進に関する法律第二条第三項に規定する温室効果ガスをいう。以下同じ。)の排出の量の削減並びに吸収作用の保全及び強化を行うことをいう。

2 この法律において「電動自動車」とは、燃料電池自動車(燃料電池を利用して発生させた電気を動力源とする自動車で内燃機関を有しないものをいう。)その他の地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第百四十九条第一項第一号に掲げる電気自動車(以下単に「電気自動車」という。)及び同項第三号に掲げる充電機能付電力併用自動車その他の同号に規定する電力併用自動車並びにこれらに相当する二輪車をいう。

 (基本理念)

第三条 自動車産業における脱炭素化の推進は、電動自動車の普及の促進並びに水素と二酸化炭素を合成して製造される燃料、燃料としての水素その他の脱炭素化に資する燃料の実用化及び水素を燃料として用いる内燃機関の実用化の促進その他の脱炭素化に資する自動車に関するあらゆる取組を適切に組み合わせることにより、総合的に行われなければならない。

2 自動車産業における脱炭素化の推進は、蓄電等の機能を備えている電動自動車の普及が分散型エネルギー社会(地域における再生可能エネルギー電気(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成二十三年法律第百八号)第二条第一項に規定する再生可能エネルギー電気をいう。以下同じ。)の発電並びにその発電された再生可能エネルギー電気の当該地域における効率的な融通及び利用等により、地域でエネルギーを確保できる社会をいう。第八条において同じ。)の実現に寄与することに鑑み、地域における脱炭素化を促進するためのまちづくりに関する他の施策との有機的な連携が図られつつ、行われなければならない。

3 自動車産業における脱炭素化の推進は、自動車には多数の部品が使用され、また、自動車産業が他の多くの産業と密接な関連を有するものであること等を踏まえ、ガソリン自動車(ガソリンを内燃機関の燃料として用いる自動車をいう。)、電気自動車その他の自動車の種類にかかわらず、自動車に係るライフサイクルアセスメント(自動車の製造(原材料の調達、部品及び塗料の製造等を含む。以下同じ。)、使用、再生利用、廃棄等の各段階を通じた自動車に係る温室効果ガスの総排出量その他の環境への負荷についての総合的な評価をいう。)の観点から、総合的かつ効果的な温室効果ガスの排出の量の削減その他の環境への負荷の低減が図られることを旨として、行われなければならない。

4 自動車産業における脱炭素化の推進は、自動車の製造及び電気自動車の走行に電気が不可欠であることに鑑み、再生可能エネルギー電気の発電及び脱炭素化に資する燃料を用いた火力発電の推進等による発電における脱炭素化の推進と併せて、一体的に行われなければならない。

5 自動車産業における脱炭素化の推進に当たっては、自動車産業において多数の労働者が雇用され、また、自動車産業が高度なものづくり技術を有する多くの中小企業に支えられていることに鑑み、脱炭素化に伴う自動車産業に係る産業構造の転換が円滑に行われるよう、労働力の公正な移動の確保が図られるとともに、中小企業に対する適切な支援が行われなければならない。

6 自動車産業における脱炭素化の推進に当たっては、自動車産業の国際競争力の維持及び強化に資するよう、炭素国境調整措置(各国の地球温暖化対策の差異を勘案して、公平な競争を確保するため、輸出入に際し行う製品に係る温室効果ガスの排出の量に応じた金銭の賦課等の措置をいう。)の導入等の自動車産業における脱炭素化についての国際的な取組において我が国が主導的な役割を担うことを旨として、国際協力が図られなければならない。

 (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、自動車産業における脱炭素化の推進に関する施策を総合的かつ一体的に策定し、及び実施する責務を有する。

 (法制上の措置等)

第五条 政府は、自動車産業における脱炭素化の推進に必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。

 (年次報告)

第六条 政府は、毎年、国会に、政府が自動車産業における脱炭素化の推進に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない。

 (電動自動車の普及及び脱炭素化に資する自動車の開発等の促進)

第七条 国は、電動自動車の普及を促進するため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。

 一 電動自動車の普及に係る最新の海外の知見を踏まえ、電動自動車について、その取得に要する費用の補助の拡充、税制上の優遇措置の拡充、有料道路に係る料金の減額等により、その取得等に係る負担の大幅な軽減を図ること。

 二 電動自動車の充電等が容易となるよう、自動車に係る既存のエネルギー供給網である給油所、共同住宅その他の住宅等における電動自動車の充電等に必要な施設及び設備の整備を促進すること。

 三 電動自動車の蓄電池の製造に必要な原材料の確保及びこれに代替する素材の開発の支援を行うこと。

 四 電動自動車の整備等に関する専門的な知識又は技能を有する自動車整備士その他の人材の育成及び確保を図ること。

2 国は、脱炭素化に資する自動車の開発又は技術の改良を促進するため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。

 一 脱炭素化に資する自動車に関する幅広い技術の研究開発(脱炭素化に資する燃料及び水素を燃料として用いる内燃機関に関する先端的な研究開発を含む。)、技術の高度化並びに人材の育成及び確保に関する支援を行うこと。

 二 脱炭素化に資する自動車の部品を製造する事業者に対する支援を行うこと。

 三 事業者の技術の活用及び創意工夫の十分な発揮を妨げるような規制の撤廃又は緩和を速やかに推進すること。

 (地域における脱炭素化を促進するためのまちづくりの観点からの措置)

第八条 国は、蓄電等の機能を備えている電動自動車と住宅との間の電気の融通等が分散型エネルギー社会の実現に寄与するとともに、災害時においても有用であること等に鑑み、地域における脱炭素化を促進するためのまちづくりの観点から、地方公共団体と連携して、蓄電等の機能を備えている電動自動車の普及の促進、住宅における再生可能エネルギー電気の発電及び蓄電池の普及の促進等を図るために必要な措置を一体的に講ずるものとする。

 (自動車の製造等の各段階における脱炭素化)

第九条 国は、自動車に係る温室効果ガスの総排出量の削減その他の環境への負荷の低減が図られるよう、製鉄における水素の使用の実用化の促進その他の自動車の製造、使用、再生利用、廃棄等の各段階における脱炭素化を促進するために必要な措置を講ずるものとする。

 (自動車の製造等に必要な電気の発電における脱炭素化)

第十条 国は、自動車の製造及び電気自動車等の走行に使用する電気の発電における脱炭素化を図るため、再生可能エネルギー電気の発電及び利用並びに火力発電の燃料としての水素及びアンモニアの活用等の新たな取組の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。

 (労働力の公正な移動等)

第十一条 国は、脱炭素化に伴う自動車産業に係る産業構造の転換の円滑化を図るため、次に掲げる措置その他の措置を講ずるものとする。

 一 労働力の公正な移動が確保されるよう、雇用の安定及び雇用機会の創出を図ること。

 二 中小企業に対する経営支援及び事業転換の支援を行うこと。

 (国際協力の推進)

第十二条 国は、自動車産業の国際競争力の維持及び強化に資するよう、脱炭素化に資する自動車に関する技術及び規制に係る国際標準化の枠組みにおける我が国の主導的な役割の確保並びに自動車産業における脱炭素化に関する技術協力その他の国際協力の推進に必要な措置を講ずるものとする。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。


     理 由

 我が国における二千五十年までの脱炭素社会の実現が重要な課題であることに鑑み、我が国の基幹的な産業である自動車産業における脱炭素化の推進に関し、基本理念を定め、国の責務を明らかにするとともに、自動車産業における脱炭素化の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、自動車産業における脱炭素化を総合的かつ一体的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.