第二〇八回
参第三号
賃金水準の上昇を伴う経済成長等を図るために講ずべき税制上の措置に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条)
第二章 消費税の税率等に関する措置(第二条・第三条)
第三章 法人課税等に関する措置(第四条・第五条)
第四章 個人所得課税等に関する措置(第六条・第七条)
第五章 自動車の保有等に係る課税等に関する措置(第八条)
附則
第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、我が国経済が長期にわたり低迷している現状において、国民の間に生じている経済的格差を是正しつつ、賃金水準の上昇を伴う経済成長を図ることが、我が国の経済社会の持続的な発展のために緊要な課題であることに鑑み、消費課税、法人課税、個人所得課税等に関し講ずべき措置について定めるものとする。
第二章 消費税の税率等に関する措置
(消費税の税率の引下げのための措置)
第二条 現下の経済状況を好転させるための当分の間の措置として、消費税(地方消費税を含む。第四条第一項において同じ。)の税率を一律に百分の五とするため、消費税の税率を引き下げる特例を設けるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を速やかに講ずるものとする。この場合において、当該特例を設けることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことのないようにするものとする。
2 前項の特例は、この法律の施行後六月以内に実施されるものとする。
3 政府は、第一項の特例の実施に当たっては、消費税の税率の変更に伴う事業者の負担を軽減するために必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
4 第一項の特例は、名目賃金上昇率が物価上昇率を安定的に年二パーセント以上上回っていることその他の客観的な事情により経済状況が好転していると認められるに至るまで継続されるものとする。
(消費税の適格請求書等保存方式に係る制度の導入の中止)
第三条 消費税の仕入税額控除に関する適格請求書等保存方式に係る制度の導入は取りやめるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
第三章 法人課税等に関する措置
(賃金の引上げを支援するための措置)
第四条 政府は、賃金水準が上昇しないことが我が国経済の長期にわたる低迷の主たる原因であることに鑑み、より多くの法人における賃金の引上げを促す観点から、人件費比率(法人における売上高に対する人件費の割合をいう。次項第一号及び第二号において同じ。)及び雇用者一人当たりの平均所定内給与額が上昇している法人に対する法人事業税、固定資産税及び消費税の軽減措置その他雇用者の賃金の引上げを支援するための法人課税等に関する措置について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。この場合において、当該措置を講ずることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことのないようにするものとする。
2 前項の軽減措置については、次に定めるところによるものとする。
一 人件費比率の上昇に係る要件を定めるに当たっては、産業分野ごとの特徴を踏まえること。
二 人件費比率及び雇用者一人当たりの平均所定内給与額の上昇に係る要件を定めるに当たっては、当該事業年度における前事業年度に対する上昇率によることを原則としつつ、前事業年度以前の事業年度においてこれらが上昇した法人に配慮すること。
三 事業主の負担を伴う社会保険への加入率の向上に寄与するものとなるようにすること。
(デジタル化投資及び脱炭素化投資を促進するための措置)
第五条 政府は、デジタル化投資(デジタル社会(デジタル社会形成基本法(令和三年法律第三十五号)第二条に規定するデジタル社会をいう。)の形成に資する投資をいう。以下この条において同じ。)及び脱炭素化投資(脱炭素社会(地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第百十七号)第二条の二に規定する脱炭素社会をいう。第八条第三号において同じ。)の実現に資する投資をいう。以下この条において同じ。)の促進によって経済成長を促す観点から、デジタル化投資又は脱炭素化投資による事業の生産性の向上に寄与する設備等の取得についてハイパー償却制度(累計で資産の取得価額の百分の百に相当する金額を超える額を損金の額に算入することができる制度をいう。)を導入することその他のデジタル化投資及び脱炭素化投資を促進するための法人課税に関する措置について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。
第四章 個人所得課税等に関する措置
(金融所得課税等に関する措置)
第六条 政府は、税負担の公平性及び経済的格差の是正の観点から、次に掲げる措置その他の個人所得課税に関する措置について検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。
一 分離課税である金融所得に対する課税については、総合課税に移行すること。
二 少額投資非課税制度(一定の口座を通じた少額の投資に係る非課税の制度をいう。)及び個人型確定拠出年金制度を拡充すること。
(給付付き税額控除の導入)
第七条 低所得者及び中堅所得者に配慮する観点から、給付付き税額控除(給付と税額控除を適切に組み合わせて行う仕組みその他これに準ずるものをいう。)であって次に定めるところにより行われるものを導入するものとし、政府は、このために必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする。
一 給付付き税額控除額(所得税の額から控除すべきものとして就労による所得の額を基礎として定める額をいう。以下この号及び次号において同じ。)を所得税の額から控除し、かつ、給付付き税額控除額について当該控除をしてもなお控除しきれない額があるときは当該控除しきれない額に相当する金銭の給付を行うこと。
二 就労の促進に資するため、給付付き税額控除額は、所得の額が一定の額以下である者については就労による所得の額の逓増に応じて逓増するようにすること。
2 政府は、前項の措置を講ずるに当たっては、同項第一号の給付の額の全部又は一部をその給付を受ける者の負担すべき社会保険料に充当することができることとする措置について検討するものとする。
第五章 自動車の保有等に係る課税等に関する措置
第八条 自動車が交通手段として国民一般に普及している現状において、自動車の保有等に係る国民の税負担その他の経済的負担が重いこと並びに我が国の基幹的な産業である自動車製造業、自動車販売業その他の自動車関連産業のみならず国民生活及び我が国経済にその経済的負担の及ぼす影響が大きいことに鑑み、次に掲げる措置を行うものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする。この場合において、当該措置を講ずることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことのないようにするものとする。
一 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第九十条の十一から第九十条の十一の三までに規定する自動車重量税率の特例を廃止すること。
二 自動車税の環境性能割及び軽自動車税の環境性能割は、被けん引自動車に対しては課さないこと。
三 前号に掲げるもののほか、自動車税及び軽自動車税の課税については、脱炭素社会の実現に資する等のための見直しを行いつつ、簡素化及び負担の軽減を図ること。
四 所得税並びに個人の道府県民税及び市町村民税の額の計算に当たって、任意自動車保険の保険料を控除の対象とする制度を導入すること。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
(検討)
2 政府は、我が国の現在及び将来の経済社会に対応する税制並びに持続可能な財政構造及び社会保障制度の確立を図る観点から、国と地方を通じた税制に関する抜本的な改革及び関連する諸施策について検討し、その結果に基づき速やかに必要な措置を講ずるものとする。
理 由
我が国経済が長期にわたり低迷している現状において、国民の間に生じている経済的格差を是正しつつ、賃金水準の上昇を伴う経済成長を図ることが、我が国の経済社会の持続的な発展のために緊要な課題であることに鑑み、消費課税、法人課税、個人所得課税等に関し講ずべき措置について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。