第二〇八回
閣第三五号
国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案
(目的)
第一条 この法律は、我が国の大学の国際競争力の強化及びイノベーションの創出(科学技術・イノベーション基本法(平成七年法律第百三十号)第二条第一項に規定するイノベーションの創出をいう。第三条第二項第五号において同じ。)の促進を図るためには、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学について研究及び研究成果の活用のための体制を強化することが重要であることに鑑み、当該体制の強化の推進に関する基本的な方針の作成、国際卓越研究大学(第四条第五項に規定する国際卓越研究大学をいう。以下この条において同じ。)の認定、国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化を目的とする事業の実施に関する計画の認可、当該事業に関する国立研究開発法人科学技術振興機構(以下「機構」という。)による助成等について定め、もって科学技術の水準の向上並びに学術及び社会の発展に寄与することを目的とする。
(大学における教育及び研究の特性への配慮)
第二条 国は、この法律の運用に当たっては、研究者の自主性の尊重その他の大学における教育及び研究の特性に常に配慮しなければならない。
(基本方針)
第三条 文部科学大臣は、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めるものとする。
2 基本方針には、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化の推進の意義及び目標に関する事項
二 次条第一項の国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学であることの認定に関する基本的な事項
三 第五条第一項に規定する国際卓越研究大学研究等体制強化計画についての同項の認可に関する基本的な事項
四 第七条に規定する国際卓越研究大学研究等体制強化助成に関し、機構が遵守すべき基本的な事項
五 科学技術の振興及びイノベーションの創出の促進に関する施策その他の関連する施策との連携に関する基本的な事項
六 その他国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化の推進に関する重要事項
3 基本方針は、科学技術・イノベーション基本法第十二条第一項に規定する科学技術・イノベーション基本計画との調和が保たれたものでなければならない。
4 文部科学大臣は、基本方針を定め、又は変更しようとするときは、関係行政機関の長に協議するとともに、総合科学技術・イノベーション会議の意見を聴かなければならない。
5 文部科学大臣は、基本方針を定め、又は変更したときは、当該基本方針を公表しなければならない。
(国際卓越研究大学の認定)
第四条 大学の設置者は、申請により、当該大学が国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれるものであることの文部科学大臣の認定を受けることができる。
2 前項の認定を受けようとする大学の設置者は、文部科学省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書に、次項各号のいずれにも該当していることを証する書類を添えて、文部科学大臣に提出しなければならない。
一 認定を受けようとする大学の設置者の名称及び主たる事務所の所在地
二 認定を受けようとする大学の名称及び所在地
三 その他文部科学省令で定める事項
3 文部科学大臣は、第一項の認定の申請があった場合において、その申請に係る大学が次の各号のいずれにも該当していると認めるときは、その認定をするものとする。
一 国際的に卓越した研究の実績として文部科学省令で定めるものを有していること。
二 経済社会に変化をもたらす研究成果の活用の実績として文部科学省令で定めるものを有していること。
三 先端的、学際的又は総合的な研究の実施に係る教員組織及び研究環境が整備されていることその他研究の体制が国際的に卓越した研究を展開するために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合していること。
四 大学の研究成果の提供を受けて当該成果を実用化しようとする民間事業者との連携協力のための体制が確保されていることその他研究成果の活用の体制が研究成果の経済社会における活用を促進するために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合していること。
五 国内外の先端的な研究及び研究成果を活用した新たな事業の創出の動向、社会の要請その他の大学を取り巻く状況を踏まえて研究及び研究成果の活用に必要な資金及び人材の確保及び配分並びに知的財産権の取得及び活用を行う体制が構築されていることその他運営体制が研究及び研究成果の活用を計画的に推進するために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合していること。
六 研究に関する業務の執行と管理運営に関する業務の執行との役割分担が適切に行われていることその他業務執行体制が研究及び研究成果の活用を組織的に推進するために必要なものとして文部科学省令で定める基準に適合していること。
七 国際的に卓越した研究及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用を持続的に発展させるために必要な財政基盤として文部科学省令で定めるものを有していること。
4 文部科学大臣は、第一項の認定をしようとするときは、総合科学技術・イノベーション会議及び科学技術・学術審議会の意見を聴かなければならない。
5 文部科学大臣は、第一項の認定をしたときは、遅滞なく、当該認定を受けた大学(以下「国際卓越研究大学」という。)の名称その他文部科学省令で定める事項を公表しなければならない。
6 文部科学大臣は、国際卓越研究大学が第三項各号のいずれかに該当しなくなったと認めるときは、第一項の認定を取り消すことができる。
7 第四項及び第五項の規定は、前項の規定による認定の取消しについて準用する。
(国際卓越研究大学研究等体制強化計画の認可等)
第五条 国際卓越研究大学の設置者は、当該国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化を目的とする次項第二号イからホまでに掲げる事業の実施に関する計画(以下この条において「国際卓越研究大学研究等体制強化計画」という。)を作成し、文部科学省令で定めるところにより、文部科学大臣に提出して、その認可を受けることができる。
2 国際卓越研究大学研究等体制強化計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 研究及び研究成果の活用のための体制の強化の目標
二 前号の目標を達成するために行う次に掲げる事業の内容、実施方法及び実施時期
イ 国際的に卓越した科学技術に関する研究環境の整備充実
ロ 優秀な若年の研究者の育成及び活躍の推進に資する活動
ハ 国際的に卓越した能力を有する研究者及び研究の支援又は研究成果の活用のために必要な技術者その他の文部科学省令で定める人材(ニにおいて「技術者等」という。)の確保
ニ 技術者等の育成に資する活動
ホ 研究成果の活用のために必要な事業を行うための環境の整備充実
三 前号イからホまでに掲げる事業を実施するために必要な資金の額及びその調達方法
四 その他文部科学省令で定める事項
3 文部科学大臣は、第一項の認可の申請があった場合において、その申請に係る国際卓越研究大学研究等体制強化計画が次の各号のいずれにも該当するものであると認めるときは、その認可をするものとする。
一 基本方針に適合するものであること。
二 円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること。
三 当該国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に資するものであること。
4 文部科学大臣は、第一項の認可をしようとするときは、内閣総理大臣及び財務大臣に協議するとともに、総合科学技術・イノベーション会議及び科学技術・学術審議会の意見を聴かなければならない。
5 文部科学大臣は、第一項の認可をしたときは、文部科学省令で定めるところにより、当該認可に係る国際卓越研究大学研究等体制強化計画の概要を公表しなければならない。
6 第一項の認可を受けた国際卓越研究大学の設置者(以下「認可設置者」という。)は、当該認可に係る国際卓越研究大学研究等体制強化計画を変更しようとするときは、文部科学省令で定めるところにより、文部科学大臣の認可を受けなければならない。
7 第三項から第五項までの規定は、前項の規定による変更の認可について準用する。
8 認可設置者は、第一項の認可に係る国際卓越研究大学研究等体制強化計画(第六項の規定による変更の認可があったときは、その変更後のもの。以下「認可計画」という。)に従い、第二項第二号イからホまでに掲げる事業を実施しなければならない。
(機構の業務の特例)
第六条 機構は、次に掲げる業務を行うことができる。
一 認可設置者が設置する国際卓越研究大学に対し、前条第二項第二号ハからホまでに掲げる事業に関する助成を行うこと。
二 前号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。
(機構の助成)
第七条 機構は、認可設置者が設置する国際卓越研究大学に対し、次条第一項に規定する実施方針に従って、認可計画に記載された第五条第二項第二号イからホまでに掲げる事業に関する助成(次条第一項において「国際卓越研究大学研究等体制強化助成」という。)を行わなければならない。
(国際卓越研究大学研究等体制強化助成の実施に関する方針)
第八条 機構は、基本方針に即して、文部科学省令で定めるところにより、国際卓越研究大学研究等体制強化助成の実施方法及び実施条件その他の国際卓越研究大学研究等体制強化助成の実施に必要な事項に関する方針(以下この項及び第三項において「実施方針」という。)を定め、文部科学大臣の認可を受けなければならない。実施方針を変更しようとするときも、同様とする。
2 文部科学大臣は、前項の認可をしようとするときは、内閣総理大臣及び財務大臣に協議するとともに、総合科学技術・イノベーション会議の意見を聴かなければならない。
3 機構は、第一項の認可を受けたときは、その実施方針を公表しなければならない。
(定期報告)
第九条 認可設置者は、文部科学省令で定めるところにより、定期的に、認可計画の実施状況について、文部科学大臣に報告しなければならない。
(報告又は資料の提出)
第十条 文部科学大臣は、認可計画の円滑かつ確実な実施を確保するため必要があると認めるときは、認可設置者に対し、認可計画の実施状況に関し、報告又は資料の提出を求めることができる。
(認可計画の認可の取消し)
第十一条 文部科学大臣は、認可設置者が次の各号のいずれかに該当するときは、第五条第一項の認可を取り消すことができる。
一 認可計画が第五条第三項各号のいずれかに該当しなくなったと認めるとき。
二 第五条第六項の規定による認可を受けないで認可計画を変更したとき。
三 認可計画に従って第五条第二項第二号イからホまでに掲げる事業を実施していないと認めるとき。
四 第九条の規定に違反したとき。
五 前条の規定による報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたとき。
2 第五条第四項の規定は、前項の規定による認可の取消しについて準用する。
3 文部科学大臣は、第一項の規定による認可の取消しをしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
(国の援助)
第十二条 国は、認可設置者に対し、認可計画の円滑かつ確実な実施に関し必要な助言その他の援助を行うものとする。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次条の規定は、公布の日から施行する。
(準備行為)
第二条 文部科学大臣は、基本方針を定めるために、この法律の施行の日前においても、関係行政機関の長に協議し、及び総合科学技術・イノベーション会議の意見を聴くことができる。
(検討)
第三条 政府は、我が国の大学の国際競争力の強化及びイノベーションの創出(第一条に規定するイノベーションの創出をいう。)を推進するためには、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学について、研究及び研究成果の活用のための体制を強化することに加え、研究及び研究成果の活用をより効率的かつ持続的に推進することができるように大学の経営管理体制の強化を図ることが重要であることに鑑み、教育及び研究に必要な資金、人材等の資源の確保及び配分その他の大学の経営に係る重要事項の決定及び実施に多様な専門的知見を有する者の参画を得られるようにするため、大学を設置する法人の機関の権限や構成の在り方、人材の確保の方策等について検討を行い、その結果に基づき法制上の措置その他の必要な措置を講じ、特に科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第四十九条の趣旨を踏まえて国立大学法人(国立大学法人法(平成十五年法律第百十二号)第二条第一項に規定する国立大学法人をいう。)の経営管理体制に係る改革を早急に進めるものとする。
(国立研究開発法人科学技術振興機構法の一部改正)
第四条 国立研究開発法人科学技術振興機構法(平成十四年法律第百五十八号)の一部を次のように改正する。
第四条及び第十条第三項中「第二十三条第五号」を「第二十三条第一項第五号」に改める。
第十八条中「第二十三条第一号」を「第二十三条第一項第一号」に、「同条第十二号」を「同項第十二号」に、「同条第五号」を「同項第五号」に改め、「限る。)」の下に「並びに同条第二項に規定する業務」を加える。
第二十三条に次の二項を加える。
2 機構は、前項の業務のほか、国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律(令和四年法律第▼▼▼号)第六条に規定する業務を行う。
3 機構は、国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律第七条に規定する国際卓越研究大学研究等体制強化助成の業務を行うに当たっては、同法第八条第一項に規定する実施方針に従って、第一項第六号に掲げる業務と前項に規定する業務(同法第六条第二号に掲げるものを除く。第三十二条第三項において「特別助成業務」という。)を一体的に実施しなければならない。
第二十五条第一項中「第二十三条各号」を「第二十三条第一項各号」に改める。
第二十七条第一項中「第二十三条第六号に掲げる業務(これに附帯する業務を含む。以下「助成業務」という。)」を「助成業務(第二十三条第一項第六号に掲げる業務及びこれに附帯する業務並びに同条第二項に規定する業務をいう。以下同じ。)」に改める。
第三十一条第一項第三号中「第二十三条第七号」を「第二十三条第一項第七号」に改める。
第三十二条第三項及び第七項中「第二十三条第六号」を「第二十三条第一項第六号」に改め、「掲げる業務」の下に「及び特別助成業務」を加え、同条第八項中「第二十三条第六号」を「第二十三条第一項第六号に掲げる業務及び特別助成業務」に改め、「「前条第一項第四号」の下に「に掲げる業務」を加える。
第四十二条第二号中「第二十三条」を「第二十三条第一項及び第二項」に改める。
(地方税法の一部改正)
第五条 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第七十三条の四第一項第十八号及び第三百四十九条の三第二十項中「第二十三条第一号」を「第二十三条第一項第一号」に、「同条第一号」を「同項第一号」に改める。
(文部科学省設置法の一部改正)
第六条 文部科学省設置法(平成十一年法律第九十六号)の一部を次のように改正する。
第七条第一項第六号中「の規定」を「及び国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律(令和四年法律第▼▼▼号)の規定」に改め、同条第二項中「前項」を「前三項」に改め、同項を同条第四項とし、同条第一項の次に次の二項を加える。
2 文部科学大臣は、大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関して高い識見を有する外国人(日本の国籍を有しない者をいう。次項において同じ。)を科学技術・学術審議会の委員に任命することができる。
3 前項の場合において、外国人である科学技術・学術審議会の委員は、科学技術・学術審議会の会務を総理し、科学技術・学術審議会を代表する者となることはできず、当該委員の数は、科学技術・学術審議会の委員の総数の五分の一を超えてはならない。
理 由
我が国の大学の国際競争力の強化及びイノベーションの創出の促進を図るためには、国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学について研究及び研究成果の活用のための体制を強化することが重要であることに鑑み、当該体制の強化の推進に関する基本方針の作成、国際卓越研究大学の認定、国際卓越研究大学の研究等の体制の強化のための事業の実施に関する計画の認可、当該事業に関する国立研究開発法人科学技術振興機構による助成等について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。