第二一六回
衆第一号
賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するために所得税に関し講ずべき措置に関する法律案
(趣旨)
第一条 この法律は、物価が上昇し、日常生活を営むのに必要な費用が増加している現下の経済状況において、名目賃金の水準の上昇に伴うその上昇率を上回る率の国民の所得税の負担の増加及び現行の所得税制度がもたらす国民の就労の抑制(以下「賃金上昇を上回る所得税の負担増加等」という。)が国民生活及び国民経済に悪影響を及ぼしていること等に鑑み、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の保障に資する観点から、賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するために所得税に関し講ずべき措置について定めるものとする。
(現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するための措置)
第二条 現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するため、令和七年分以後の所得税について、次に掲げる措置を講ずることにより所得税の課税最低限(所得税が課される最低限度の所得額をいう。次条第二項において同じ。)を引き上げるものとし、政府は、このために必要な法制上の措置を講ずるものとする。
一 平成七年度の地域別最低賃金(最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第九条第一項に規定する地域別最低賃金をいう。以下同じ。)の平均額に対する令和六年度の地域別最低賃金の平均額の比率に基づき基礎控除の最高控除額及び給与所得控除の最低控除額の合計額を百三万円から百七十八万円に引き上げること。
二 扶養親族のうち年齢十六歳未満の者に対する扶養控除を導入すること。
三 特定扶養親族(所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第二条第一項第三十四号の三に規定する特定扶養親族をいう。以下この号において同じ。)に係る扶養控除の適用を受けるための特定扶養親族の合計所得金額の上限額を引き上げること。
2 前項に定めるもののほか、政府は、この法律の施行後速やかに、現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するため、物価上昇率、名目賃金上昇率、地域別最低賃金の平均額の上昇率、租税収入の動向等を勘案して、所得税の税率構造における各税率区分の幅を定める金額の引上げ及び税率区分の細分化その他現下の経済状況における賃金上昇を上回る所得税の負担増加等を緩和する措置について検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
3 政府は、前二項に定める措置を講ずる場合においては、当該措置を講ずることにより地方公共団体の財政状況に悪影響を及ぼすことのないようにするものとする。
(継続的な検討)
第三条 政府は、前条第一項第一号に定める合計額について、地域別最低賃金の平均額の上昇等に応じて、その引上げについて不断に検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
2 前項に定めるもののほか、政府は、前条に定める措置が講ぜられた後においても、賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処する観点から、毎年、物価の状況、名目賃金の水準、地域別最低賃金の平均額の状況、国民の所得税の負担の状況等を踏まえ、所得税の課税最低限の引上げ、所得税の税率構造の見直し等を行う必要の有無及びその内容について検討を行い、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
3 前条第三項の規定は、前二項に定める措置を講ずる場合について準用する。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
理 由
物価が上昇し、日常生活を営むのに必要な費用が増加している現下の経済状況において、賃金上昇を上回る所得税の負担増加等が国民生活及び国民経済に悪影響を及ぼしていること等に鑑み、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の保障に資する観点から、賃金上昇を上回る所得税の負担増加等に対処するために所得税に関し講ずべき措置について定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。