第二一七回
閣第四九号
盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律案
目次
第一章 総則(第一条・第二条)
第二章 盗難特定金属製物品の処分の防止のための特定金属くず買受業に係る措置(第三条−第十四条)
第三章 指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止(第十五条)
第四章 特定金属製物品の盗難の防止に資する情報の周知(第十六条)
第五章 雑則(第十七条−第二十条)
第六章 罰則(第二十一条−第二十五条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、特定金属製物品の窃取を防止するためには盗難特定金属製物品の処分を防止することが重要であることに鑑み、特定金属くず買受業について買受けの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずるとともに、併せて指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止すること等により、特定金属製物品の窃取の防止に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定金属製物品 特定金属(銅その他犯罪の状況、当該金属の経済的価値その他の事情に鑑み、当該金属を使用して製造された物品の窃取を防止する必要性が高い金属として政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)を使用して製造された物品のうち、主として特定金属により構成されているものをいう。
二 盗難特定金属製物品 窃取された特定金属製物品をいう。
三 特定金属くず 主として特定金属により構成されている金属くず(物品を製造する過程において生ずるもの及び古物営業法(昭和二十四年法律第百八号)第二条第一項に規定する古物に該当するものを除く。)をいう。
四 特定金属くず買受業 特定金属くずの買受け(買受けの対価として金銭以外の財産上の利益を提供する場合を含む。以下同じ。)を行う営業をいう。
五 指定金属切断工具 ケーブルカッター、ボルトクリッパーその他の特定金属を切断することができる工具であって、一般消費者が通常生活の用に供することが少ないと認められ、かつ、特定金属製物品の窃取の用に供されるおそれが大きいものとして政令で定めるものをいう。
第二章 盗難特定金属製物品の処分の防止のための特定金属くず買受業に係る措置
(特定金属くず買受業の届出)
第三条 特定金属くず買受業を営もうとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、営業所(特定金属くずの買受けを行う営業所をいう。第十三条第一項を除き、以下同じ。)ごとに、氏名又は名称、住所、営業所の所在地その他国家公安委員会規則で定める事項を、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に届け出なければならない。この場合において、届出には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。
2 前項の規定による届出をした者は、当該営業所の所在地における特定金属くず買受業を廃止したとき、又は同項の規定により届け出た事項(営業所の所在地を除く。)に変更があったときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、その旨を公安委員会に届け出なければならない。この場合において、届出には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。
(届出番号等の通知)
第四条 公安委員会は、前条第一項の規定による届出があったときは、当該届出に係る営業所を識別するための番号、記号その他の符号(次条第一項において「届出番号等」という。)を当該届出をした者に通知しなければならない。
(氏名等の表示)
第五条 第三条第一項の規定による届出をした者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、営業所ごとに、公衆の見やすい場所に、その氏名又は名称、届出をした公安委員会の名称及び届出番号等(次項において「氏名等」という。)を表示しなければならない。
2 第三条第一項の規定による届出をした者は、その事業の規模が著しく小さい場合その他の国家公安委員会規則で定める場合を除き、国家公安委員会規則で定めるところにより、その氏名等を電気通信回線に接続して行う自動公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。第十六条において同じ。)により公衆の閲覧に供しなければならない。
(名義貸しの禁止)
第六条 第三条第一項の規定による届出をした者は、自己の名義をもって、他人に特定金属くず買受業を営ませてはならない。
(本人確認)
第七条 特定金属くず買受業を営む者は、特定金属くずの買受けを行おうとするときは、国家公安委員会規則で定める方法により、買受けの相手方の本人特定事項(当該相手方が自然人である場合にあっては氏名、住居(本邦内に住居を有しない外国人で国家公安委員会規則で定めるものにあっては、国家公安委員会規則で定める事項)及び生年月日をいい、当該相手方が法人である場合にあっては名称及び本店又は主たる事務所の所在地をいう。次条第一項において同じ。)の確認(以下「本人確認」という。)を行わなければならない。ただし、過去に買受けの相手方となったことがある者からの買受けを行う場合であって当該買受けに係る代金の支払をその者の預金又は貯金の口座への振込みにより行うときその他の国家公安委員会規則で定める場合は、この限りでない。
2 特定金属くず買受業を営む者は、買受けの相手方の本人確認を行う場合において、会社の代表者が当該会社のために当該特定金属くず買受業を営む者との間で買受けに係る取引を行うときその他の当該特定金属くず買受業を営む者との間で現に当該取引の任に当たっている自然人が当該相手方と異なるとき(次項に規定する場合を除く。)は、当該相手方の本人確認に加え、当該取引の任に当たっている自然人についても、前項の国家公安委員会規則で定める方法により、本人確認を行わなければならない。
3 買受けの相手方が国、地方公共団体、人格のない社団又は財団その他政令で定める者である場合には、当該相手方のために当該特定金属くず買受業を営む者との間で現に当該買受けに係る取引の任に当たっている自然人を買受けの相手方とみなして、第一項本文の規定を適用する。
(本人確認記録の作成等)
第八条 特定金属くず買受業を営む者は、本人確認を行った場合には、直ちに、国家公安委員会規則で定める方法により、当該本人確認に係る本人特定事項、当該本人確認のためにとった措置その他の国家公安委員会規則で定める事項に関する記録(次項において「本人確認記録」という。)を作成しなければならない。
2 特定金属くず買受業を営む者は、本人確認記録を、当該本人確認に係る買受けの行われた日から三年間保存しなければならない。
(取引記録の作成等)
第九条 特定金属くず買受業を営む者は、特定金属くずの買受けを行った場合には、直ちに、国家公安委員会規則で定める方法により、当該買受けの相手方の氏名又は名称、当該買受けの期日及び内容その他の国家公安委員会規則で定める事項に関する記録(次項において「取引記録」という。)を作成しなければならない。
2 特定金属くず買受業を営む者は、取引記録を、当該取引に係る買受けの行われた日から三年間保存しなければならない。
(警察官への申告)
第十条 特定金属くず買受業を営む者は、取引の態様その他の事実に照らして、買受けに係る特定金属くずが盗難特定金属製物品に由来するものである疑いがあると認めたときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。
(指示)
第十一条 公安委員会は、特定金属くず買受業を営む者又はその代理人、使用人その他の従業者(次条及び第二十五条において「代理人等」という。)がその営み、又は従事する特定金属くず買受業に関し、この法律若しくはこの法律に基づく命令又は他の法令の規定に違反したと認める場合において、当該特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分を防止するため必要があると認めるときは、当該特定金属くず買受業を営む者に対し、本人確認の確実な実施を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
(営業停止命令)
第十二条 公安委員会は、特定金属くず買受業を営む者若しくはその代理人等がその営み、若しくは従事する特定金属くず買受業に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令若しくは他の法令の規定に違反したと認める場合において当該特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分を防止するため特に必要があると認めるとき、又は特定金属くず買受業を営む者が前条の規定による指示に違反したと認めるときは、当該特定金属くず買受業を営む者に対し、六月を超えない範囲内で期間を定めて、当該特定金属くず買受業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
(報告徴収及び立入検査)
第十三条 公安委員会は、この章の規定の施行に必要な限度において、特定金属くず買受業を営む者に対し、その営業に関し報告若しくは資料の提出を求め、又は警察職員に、営業所若しくは特定金属くずの保管場所に立ち入り、特定金属くず、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする警察職員は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(盗難特定金属製物品に関する情報の提供)
第十四条 公安委員会は、特定金属くず買受業を利用した盗難特定金属製物品の処分の防止に資するため、第三条第一項の規定による届出をした者に対し、盗難特定金属製物品に関する情報を電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成十四年法律第二十六号)第二条第一号に規定する電子メールをいう。)の送信、印刷物の配布その他の適切な方法により提供するよう努めなければならない。
第三章 指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止
第十五条 何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、指定金属切断工具を隠して携帯してはならない。
第四章 特定金属製物品の盗難の防止に資する情報の周知
第十六条 警視総監又は道府県警察本部長、方面本部長及び警察署長は、特定金属製物品の盗難の防止に資する情報を、電気通信回線に接続して行う自動公衆送信の利用、印刷物の配布その他の適切な方法により、太陽光発電設備を設置する者その他の特定金属製物品につき盗難に遭うおそれが大きい者に周知するよう努めなければならない。
第五章 雑則
(方面公安委員会への権限の委任)
第十七条 この法律の規定により道公安委員会の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、方面公安委員会に委任することができる。
(経過措置)
第十八条 この法律の規定に基づき政令又は国家公安委員会規則を制定し、又は改廃する場合においては、それぞれ政令又は国家公安委員会規則で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要とされる範囲内において、所要の経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)を定めることができる。
(国家公安委員会規則への委任)
第十九条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のための手続その他この法律の施行に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。
(条例との関係)
第二十条 この法律の規定は、地方公共団体が、この法律に規定するもののほか、金属くずの買受けに関し条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない。
第六章 罰則
第二十一条 第十二条の規定による命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第二十二条 第十五条の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
第二十三条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第三条第一項の規定による届出をしないで特定金属くず買受業を営んだとき。
二 第六条の規定に違反したとき。
第二十四条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第三条第一項の規定による届出に関し虚偽の届出をし、又は同項の添付書類であって虚偽の記載のあるものを提出したとき。
二 第三条第二項の規定に違反して届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は同項の添付書類であって虚偽の記載のあるものを提出したとき。
三 第十三条第一項の規定による報告若しくは資料の提出をせず、若しくは虚偽の報告をし、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をしたとき。
第二十五条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人等が、その法人又は人の業務に関し、第二十一条又は前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 附則第三条の規定 公布の日
二 第一章、第三章、第四章、第十八条、第十九条及び第二十二条並びに附則第五条及び第六条の規定 公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
(経過措置)
第二条 この法律の施行の際現に特定金属くず買受業を営んでいる者は、この法律の施行の日から起算して三月を経過する日までの間は、引き続き当該特定金属くず買受業を営むことができる。
2 前項の場合における第三条第一項の規定の適用については、同項中「特定金属くず買受業を営もうとする者は」とあるのは、「この法律の施行の際現に特定金属くず買受業を営んでいる者は、この法律の施行の日から起算して三月を経過する日までに」とする。
(政令への委任)
第三条 前条に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。
(検討)
第四条 政府は、この法律の施行後五年を目途として、第二章の規定の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、当該規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(出入国管理及び難民認定法の一部改正)
第五条 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)の一部を次のように改正する。
第五条第一項第九号の二中「罪又は」を「罪、」に、「罪に」を「罪又は盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(令和七年法律第▼▼▼号)第二十二条の罪に」に改める。
第二十四条第四号の二、第二十四条の三第三号、第六十一条の二の二第一項第二号及び第六十一条の二の四第一項第八号中「罪又は」を「罪、」に、「罪に」を「罪又は盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律第二十二条の罪に」に改める。
(出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律の一部改正)
第六条 出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律(令和六年法律第六十号)の一部を次のように改正する。
第一条のうち出入国管理及び難民認定法第二十二条の四第一項中第十号を第十二号とし、第九号を第十一号とし、第八号を第十号とし、第七号の次に二号を加える改正規定中「罪又は」を「罪、」に、「罪に」を「罪又は盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律第二十二条の罪に」に改める。
理 由
特定金属製物品の窃取を防止するためには盗難特定金属製物品の処分を防止することが重要であることに鑑み、特定金属くず買受業について買受けの相手方の氏名等の確認を義務付ける等の措置を講ずるとともに、併せて指定金属切断工具を隠して携帯する行為を禁止する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。