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   水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法案要綱


第一 前文
   水俣湾及び水俣川並びに阿賀野川に排出されたメチル水銀により発生した水俣病は、八代海の沿岸地域及び阿賀野川の下流地域において、甚大な健康被害と環境汚染をもたらすとともに、長年にわたり地域社会に深刻な影響を及ぼし続けた。水俣病が、今日においても未曾(ぞ)有の公害とされ、我が国における公害問題の原点とされるゆえんである。
   水俣病の被害に関しては、公害健康被害の補償等に関する法律の認定を受けた方々に対し補償が行われてきたが、水俣病の被害者が多大な苦痛を強いられるとともに、水俣病の被害についての無理解が生まれ、平穏な地域社会に不幸な亀(き)裂がもたらされた。
   平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決において、国及び熊本県が長期間にわたって適切な対応をなすことができず、水俣病の被害の拡大を防止できなかったことについて責任を認められたところであり、政府としてその責任を認め、おわびをしなければならない。
   これまで水俣病問題については、平成七年の政治解決等により紛争の解決が図られてきたところであ
るが、平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決を機に、新たに水俣病問題をめぐって多くの方々が救済を求めており、その解決には、長期間を要することが見込まれている。
   こうした事態をこのまま看過することはできず、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々を水俣病被害者として受け止め、その救済を図ることとする。これにより、地域における紛争を終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する。
第二 総則
 一 目的
   この法律は、水俣病被害者を救済し、及び水俣病問題の最終解決をすることとし、救済措置の方針及び水俣病問題の解決に向けて行うべき取組を明らかにするとともに、これらに必要な補償の確保等のための事業者の経営形態の見直しに係る措置等を定めることを目的とすること。    (第一条関係)
 二 定義
   関係事業者、公的支援等この法律に必要な定義を行うこと。           (第二条関係)
 三 原則及び責務
 1 この法律による救済及び水俣病問題の解決は、継続補償受給者等に対する補償が確実に行われること、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること及び関係事業者が救済に係る費用の負担について責任を果たすとともに地域経済に貢献することを確保することを旨として行うこと。
 2 国、関係地方公共団体、関係事業者及び地域住民は、それぞれの立場で、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済され、水俣病問題の解決が図られるように努めなければならないこと。
                                    (第三条及び第四条関係)
第三 救済の方針等
 一 救済方針の決定
   政府は、関係県の意見を聴いて、過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、かつ、四肢末梢(しょう)優位の感覚障害を有する者及び全身性の感覚障害を有する者その他の四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者を早期に救済するため、一時金、療養費及び療養手当の支給に関する方針(以下「方針」という。)を定め、公表するものとすること。同方針には救済措置の対象とならない者、四肢末梢優位の感覚障害を有する者に準ずる者かどうかについて、口の周囲の触覚若しくは痛覚の感覚障害、舌の二点識別覚の障害又は求心性視野狭窄(さく)の所見を考慮するための取扱いに関する事項及び費用の負担その他必要な措置に関する事項等を定めるものとすること。
 二 一時金の支給
   一時金については、関係事業者の同意を得て、関係事業者がその支給を行うものとすること。
 三 支給事務の委託
   関係事業者は、第六の一の法人に、一時金の支給に関する事務を委託することができること。
 四 水俣病被害者手帳
   政府は、方針において、関係県が水俣病にも見られる神経症状に係る医療を確保するためこの法律の施行の際に現にその医療に係る措置を要するとされている者に対して交付する水俣病被害者手帳に関する事項を定めるものとすること。                   (第五条及び第六条関係)
第四 水俣病問題の解決に向けた取組等
 一 政府、関係県及び関係事業者は、相互に連携を図りながら、水俣病問題の解決に向けて次に掲げる事
項に早期に取り組まなければならないこと。
  1 救済措置の実施
  2 水俣病に係る認定等の申請に対する処分の促進
  3 水俣病に係る紛争の解決
  4 水俣病に係る新規認定等の終了
 二 政府、関係県及び関係事業者は、救済措置の開始後三年以内を目途に救済措置の対象者を確定し、速やかに支給を行うよう努めなければならないこと。
 三 政府及び関係県は、救済措置及び解決に向けた取組の周知に努めるものとすること。(第七条関係)
第五 公的支援を受けている関係事業者の経営形態の見直し
 一 事業再編計画
 1 環境大臣は、公的支援を受けかつ債務超過である関係事業者が一時金を支給する場合において、必要があると認める場合には、当該関係事業者を特定事業者に指定すること。
 2 特定事業者は、個別補償協定の給付を将来にわたり確保するための事業再編計画を作成し、環境大臣の認可を受けること。
 3 事業再編計画の記載事項等について規定すること。
 4 事業会社の事業計画が、特定事業者の事業所が所在する地域における事業の継続等により当該地域の経済の振興及び雇用の確保に資するものであること等の認可に当たって必要となる要件を定めること。
                                    (第八条及び第九条関係)
 二 事業譲渡に関する特例等
   特定事業者がその財産をもって債務を完済することができないときは、会社法第四百四十七条第一項並びに第四百六十七条第一項第一号及び第二号の規定にかかわらず、事業再編計画に従って行う事業譲渡及び資本金の額の減少を裁判所の許可を得て行うことができること。特定事業者が債務超過であることのみを許可の要件とし、その他所要の手続を定めること。      (第十条及び第十一条関係)
 三 事業会社の株式の譲渡
   特定事業者は、事業会社の株式を譲渡するときには、環境大臣の承認を得なければならないこと。その手続を定めるとともに、承認に当たって必要となる要件を定めること。     (第十二条関係)
 四 事業会社の株式譲渡の暫時凍結
   事業会社の株式譲渡は、救済の終了及び市況の好転まで、暫時凍結すること。  (第十三条関係)
 五 特定事業者に対する監督等
  1 特定事業者の監督に関する規定を設けること。
  2 詐害行為取消権等の特例を設けること。          (第十四条から第十六条まで関係)
第六 基金
 一 補償支給業務に関する基金
  1 環境大臣が指定する法人に補償支給業務に関する基金を設置すること(特定事業者から法人が徴収した金額を充当)。
  2 法人は、将来にわたる補償支給業務に必要な金額を特定事業者から徴収すること。
 二 監督規定
   一の法人の監督に関する規定を置くこと。         (第十七条から第二十九条まで関係)
第七 雑則
 一 課税等の特例
   特定事業者に対する法人税等の特例を設けること。     (第三十条から第三十二条まで関係)
 二 特定事業者に対する支援の実施等
   環境大臣及び関係県は、特定事業者が一時金の支給を円滑に行うことができるよう、支援について所要の措置を講ずるとともに、環境大臣は、関係金融機関等に対して支援の継続を要請するものとすること。                            (第三十三条及び第三十四条関係)
 三 地域の振興等
   政府及び関係地方公共団体は、必要に応じ、特定事業者の事業所が所在する地域において事業会社が事業を継続すること等により地域の振興及び雇用の確保が図られるよう努めるものとすること。
                                      (第三十五条関係)
 四 健康増進事業の実施等
   政府及び関係者は、指定地域及びその周辺の地域において、地域住民の健康の増進及び健康上の不安の解消を図るための事業、地域社会の絆(きずな)の修復を図るための事業等に取り組むよう努めるものとすること。                                   (第三十六条関係)
 五 調査研究
   政府は、指定地域及びその周辺の地域に居住していた者の健康に係る調査研究その他メチル水銀が健康に与える影響及びこれによる症状の高度な治療に関する調査研究を積極的かつ速やかに行い、その結果を公表するものとすること。公表に当たっては、適切な配慮がされなければならないこと。調査研究の実施のための手法の開発を図るものとすること。              (第三十七条関係)
第八 罰則
   第六の一の法人の職員の秘密保持義務違反等について所要の罰則を規定すること。
                              (第三十八条から第四十二条まで関係)
第九 その他
 一 施行期日
   この法律は、公布の日から施行すること。                 (附則第一条関係)
 二 水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の一部改正等
   臨時水俣病認定審査会の再開等所要の規定の整備を行うこと。   (附則第二条及び第三条関係)


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