第1号 令和7年3月13日(木曜日)
本国会召集日(令和七年一月二十四日)(金曜日)(午前零時現在)における本委員は、次のとおりである。会長 枝野 幸男君
幹事 上川 陽子君 幹事 寺田 稔君
幹事 船田 元君 幹事 山下 貴司君
幹事 武正 公一君 幹事 津村 啓介君
幹事 山花 郁夫君 幹事 馬場 伸幸君
幹事 浅野 哲君
井出 庸生君 稲田 朋美君
井野 俊郎君 大野敬太郎君
小林 鷹之君 柴山 昌彦君
新藤 義孝君 高市 早苗君
葉梨 康弘君 平沢 勝栄君
古川 禎久君 古屋 圭司君
細野 豪志君 三谷 英弘君
森 英介君 山口 壯君
山田 賢司君 五十嵐えり君
岡田 悟君 奥野総一郎君
重徳 和彦君 階 猛君
柴田 勝之君 平岡 秀夫君
藤原 規眞君 松尾 明弘君
谷田川 元君 吉田はるみ君
米山 隆一君 青柳 仁士君
阿部 圭史君 和田有一朗君
平岩 征樹君 福田 徹君
河西 宏一君 浜地 雅一君
平林 晃君 大石あきこ君
赤嶺 政賢君 北神 圭朗君
令和七年三月十三日(木曜日)
午前十時開議
出席委員
会長 枝野 幸男君
幹事 上川 陽子君 幹事 寺田 稔君
幹事 船田 元君 幹事 山下 貴司君
幹事 武正 公一君 幹事 津村 啓介君
幹事 山花 郁夫君 幹事 馬場 伸幸君
幹事 浅野 哲君
稲田 朋美君 井野 俊郎君
大野敬太郎君 草間 剛君
小林 茂樹君 小林 鷹之君
柴山 昌彦君 島田 智明君
新藤 義孝君 高市 早苗君
葉梨 康弘君 平沢 勝栄君
古川 禎久君 古屋 圭司君
細野 豪志君 森 英介君
山口 壯君 山田 賢司君
安藤じゅん子君 五十嵐えり君
岡田 悟君 奥野総一郎君
重徳 和彦君 階 猛君
篠田奈保子君 柴田 勝之君
平岡 秀夫君 藤原 規眞君
松尾 明弘君 谷田川 元君
米山 隆一君 青柳 仁士君
阿部 圭史君 和田有一朗君
平岩 征樹君 福田 徹君
河西 宏一君 浜地 雅一君
平林 晃君 大石あきこ君
赤嶺 政賢君 北神 圭朗君
…………………………………
衆議院法制局長 橘 幸信君
衆議院憲法審査会事務局長 吉澤 紀子君
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委員の異動
三月十三日
辞任 補欠選任
井出 庸生君 島田 智明君
三谷 英弘君 草間 剛君
五十嵐えり君 安藤じゅん子君
吉田はるみ君 篠田奈保子君
同日
辞任 補欠選任
草間 剛君 三谷 英弘君
島田 智明君 小林 茂樹君
安藤じゅん子君 五十嵐えり君
篠田奈保子君 吉田はるみ君
同日
辞任 補欠選任
小林 茂樹君 井出 庸生君
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本日の会議に付した案件
日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(「選挙困難事態」の立法事実)
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○枝野会長 これより会議を開きます。
日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。
本日は、選挙困難事態の立法事実について自由討議を行います。
本日の議事について申し上げます。
まず、幹事会の協議に基づき、衆議院法制局当局から説明を聴取し、その後、自由討議を行うことといたします。
では、衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局橘幸信局長。
○橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。
本日は、枝野会長を始め幹事会の先生方の御指示により、選挙困難事態における立法事実についてのこれまでの議論の概要について御報告をさせていただくことになりました。どうかよろしくお願い申し上げます。
まず、本日のテーマの位置づけにつきまして、お手元配付の資料1に基づき御報告をさせていただきます。
本審査会におきましては、令和四年の通常国会以降、国内外の様々な事情を背景として、緊急事態をテーマとする議論が度々行われてまいりました。その過程で、次第に緊急事態における国会機能維持に議論が収れんし、議員任期延長、オンライン国会、臨時会の召集期限、解散権の制限といった問題などが議論されてまいりました。特に、国政選挙の適正実施が困難な事態において、選挙期日を延期し、その間における議員不在を解消するための方策としての議員任期延長の問題が集中的に議論されてきたことは、先生方御承知のとおりです。
他方、そのような議論を経た現在においてもなお、一方では、もはや条文化に入る段階だとの御主張が、他方では、まだまだ議論が煮詰まっていないとの御主張が対峙し、必ずしも共通の認識が醸成されるには至っていないようにも思われます。
このような状態に鑑みて、枝野会長を始め幹事会の先生方におかれましては、まず、各党各会派共に一致できる国会機能維持という共通テーマを設定した上で、ただいま申し上げました議員任期延長のテーマについては、任期延長の是非といった最終的な制度設計のレベルで議論を闘わせるのではなくて、まず、そのような憲法政策、すなわち憲法改正に関する制度設計の前提となる論点を、枝野会長のお言葉をかりるといわば因数分解する形で抽出して、一つ一つについて焦点を絞って議論し、果たして共通認識が得られるのかどうかを詰めていくのが建設的かつ効率的な議論に資するのではないかと考えられた次第です。
すなわち、まず、本日のテーマである、そもそも選挙困難といったような事態は起こり得るのかといった基本的な立法事実の有無に関する問題について議論をし、しかる後に、仮にそのような事態が発生し得るとした場合においても現行憲法に規定されている参議院の緊急集会で対応することはできるのかできないのかといった議論に進み、さらに、もし緊急集会でも対応できない場面があり得るということになった場合に、そのような事態に対応するためにはどのような制度が必要か、合理的かといった制度設計の議論に進んでいく、このような論理的な順番で論点を明確に区分して議論をしていくべきではないかということでございます。
このような観点から、今回は選挙困難事態の立法事実に限って議論をし、次回は参議院の緊急集会の射程に限定して議論をするということが合意されているところです。
以上のことを念頭に、本題の御報告に入ってまいりたいと思います。
A3横長の資料2と、これに関するバックデータを掲載した参考資料、この両方を御覧いただきながら、あくまでも本日のテーマに絞って、そのポイントを御報告させていただきます。
まず、選挙困難事態については、資料2の一、「前提」にございますように、これを肯定する立場からは、次のように定義されております。自然災害や感染症蔓延、武力攻撃、テロ・内乱、その他これらに匹敵する事態といったいわゆる緊急事態において、国政選挙の適正な実施が、一つ、選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において、かつ、二つ、七十日を超えて困難であることが明らかであると認められるときとされています。冒頭の自然災害などの緊急事態の例示はその原因を幅広く表現したものですから、法的な要件としては、広範性要件と長期性要件、この二つでもって構成されていると言ってよいかと思います。
これに対して、選挙困難事態の存在について否定的なお立場からの総論的な批判として、特に広範性要件について、どの程度の選挙区において選挙執行不能な場合を指すのか曖昧であるとの御指摘がなされているところです。
その上で、その立法事実の存否といった核心的な論点に入ってまいります。すなわち、広範性要件や長期性要件を満たすような事態は過去に生起したことがあるのか、また、近い将来に発生するといった予測があり得るのかといった論点です。
資料2の二、1の(1)及び(2)を御覧ください。
このような事態を肯定するお立場からは、東日本大震災を例に挙げた上で、そのときは統一地方選挙がその直後に予定されており、多くの地方議員、首長の選挙が延期され、かつ、その任期の延長が特例法で措置されたところであり、もしこのような大震災の直後に国政選挙が予定されていたと仮定すれば、これは、広範な地域で長期間にわたって選挙が実施できない場合、すなわち、先ほど定義した選挙困難事態に該当する典型的な事例であるとの意見が述べられてまいりました。
より具体的には、参考資料を御覧ください。
まず、二ページ及び三ページに掲載した、東日本大震災の際の地方選挙の特例と、実際の選挙期日の一覧表を前提とした上で、すぐ資料をおめくりいただいて恐縮ですが、六ページ及び七ページに、もしこのような大震災が衆議院議員の総選挙あるいは参議院議員の通常選挙の直前に発生したとするならば、どの程度の選挙区でどの程度の期間議員が選出されないことになるのかを試算してみたものです。
二〇二一年の衆議院総選挙に当てはめてみますと、総定数四百六十五人のうち、当初予定の選挙期日に選挙されない議員が六十九名、総議員の約一五%ほど出てしまうこと、それが一月後あるいは二月後と順次選挙が実施されていき、最終的に全国会議員が出そろうのは発災から八か月後、当初の選挙期日からでも七か月後になってしまうことが示されております。
七ページの参議院の場合には、全国比例がございますから、全国全ての投票区で投票が終わらないと、比例区の議員は一人も確定しないということになります。したがって、選出議員六十七名に対して選出されない議員が五十八名と、ほぼ半数近く出てしまうことになります。
さらに、十二ページには、将来の発生予測と被害想定が公表されております南海トラフ地震と首都直下地震について同様の試算をしてみた表を掲載してございますが、衆議院の場合ですと、いずれも総定数の二八・六%とか二三・九%といった議員が影響を受ける、このような数字が出てございます。
これに対して、立法事実に否定的なお立場からは、一つ、同じ数字でも、まず、総定数四百六十五人のうち八五%以上に及ぶ三百九十六人の衆議院議員がちゃんと選出されていること、このことに注目すべきであるという御指摘とともに、二つ、先ほどの六ページの一覧表をもう少し細かく見てまいりますと、実は、地震発生後七十九日後、本来の選挙期日からでいいますと三十五日後の段階、この表では、繰延べ投票2、十二月五日と記した欄ですけれども、この段階で、既に六十九人中の四十四人が選挙され、残りは僅か二十五人にまで減っていること、これらの事実を指摘した上で、東日本大震災は広範性要件を満たすような事態ではなく、選挙執行が可能な地域では粛々と選挙を行うべきとの反論がなされているところです。
さらに、この参考資料の九ページに、一九四五年八月の敗戦から約八か月後の、翌年、一九四六年四月十日の衆議院議員総選挙実施までの年表を掲載してございます。この選挙は、憲法改正案を議論する衆議院議員を選出した、いわゆる制憲議会選挙ともいうべき選挙であり、婦人参政権が認められた中で行われた初めての総選挙でございました。
次の十ページには、この選挙に関する新聞記事、続々と名簿漏れが出たとか、再選挙を求める声もあったとの記事を掲載してございますが、しかし、全国一斉の選挙があの悲惨な敗戦から間もなくの時期に執行可能だったことを示す事例であるとの御主張もなされているところです。
以上を総括すると、それぞれの御主張の背景には異なるものが念頭にあるように思われます。すなわち、肯定説の背景にあるのは、国政選挙は全国可能な限り一斉に行われるべきであるとの選挙の一体性、あるいは全国一律の選挙の要請が、他方、否定説の背景にあるのは、選挙が執行可能な地域では粛々と選挙は行われるべきであるという憲法上の選挙権保障の要請でございます。実際に選挙を経験されている先生方がこの二つの要請についてどのように考えるかが議論の大きなポイントになるように拝察いたします。
次に、一定の地域で選挙の執行が困難となる事態が発生した場合でも、法律レベルでの対応が可能であり、それで十分に合理的な対応策と評価できるのであれば特段の支障は生じないわけですから、法律による対応可能性が問題となってまいります。
これまで本審査会で議論が展開されてきたのは、繰延べ投票による対応の可否とこれに対する評価です。
参考資料の十三ページを御覧願います。
まず、繰延べ投票とは、公選法五十七条に定められている制度で、天災その他避けることのできない事故により投票所において投票を行うことができないときなどにおきまして、投票期日を繰り延べ、選挙が執行できるような状態になってから投票を行うというものです。
この制度のポイントを幾つか挙げれば、一つ、一旦、選挙期日が告示、公示された後に、その定められた選挙期日後に投票を繰り延べるものであること、二つ、繰り延べられるのは、選挙そのものではなく、特定の投票区における投票であること、三つ、その判断は都道府県の選挙管理委員会が行うこと、四つ、繰り延べられた投票は、できるだけ早期に行うべきとはされていますが、法的にはその繰延べできる期限に制限はないこと、このような点が指摘できるかと思います。
参考資料十四ページには、国政選挙において繰延べ投票が実施された二つの事例、いずれも参議院議員の通常選挙の事例ですが、それを掲げております。そのときの選挙戦の様子について、当時の選挙事務執行者の感想も掲載してございますので、御参照いただければ幸いでございます。
このような繰延べ投票について、特に議論されてきた論点を参考資料の十六ページから十七ページに掲げておきましたが、特に、論点2の選挙運動期間が延々と続くことになることや、論点4の選挙期日の公示前に事態が発生した場合には繰延べの対象となる選挙期日がいまだ定まっていないがどうするのかといった論点が、これまで本審査会で何度か指摘されてきたところです。
さて、以上の繰延べ投票の制度について、選挙困難事態の立法事実に否定的なお立場からは、資料2の二、2の(1)にございますように、一つ、繰延べ投票に地域や期間の限定は法律上なく、広範かつ長期の選挙困難なケースにもこの制度で十分に対応できること、二つ、選挙権保障の観点からは、選挙が実施できる地域では選挙期日に原則どおり選挙を行うべきであり、また、そもそも憲法五十六条一項の定める定足数三分の一の議員が選出されれば衆議院は成立し、機能し得ること、三つ、さらに、被災地選出議員が不在となることについても、憲法上、国会議員は全国民の代表であり、どこから選ばれようが被災地の事情も含めて政策判断することが求められていることなどがその理由として主張されてきたところでございます。
これに対して、選挙困難事態の立法事実を肯定するお立場からは、一つ、繰延べ投票は本来、ごく限られた投票所で、かつ、短期間の投票の繰延べを想定した制度であり、延々と選挙運動が延びるようなことなどは被災地感情にも鑑みればとても現実的ではないこと、二つ、また、三分の一の議員がいればよいと考えるのは形式的過ぎるし、全国民の代表とは、全国あまねく地域の実情に通暁した議員が全国民の縮図として選出されるべきとのいわば社会学的な代表の意味も持つことなどに照らすと、被災地選出議員がいないことは問題であること、このような反論がなされてきたところでございます。
なお、選挙困難事態の立法事実に否定的なお立場からは、参考資料十九ページにございますように、災害に強い選挙制度の整備を平時から行っていくべきであるとの御主張がなされております。
これに対して、選挙困難事態の立法事実を肯定するお立場からは、それはそのとおりであり全く否定するものではないが、しかし、それでも想定外の事態は生じ得るのであるといった応答がなされてきたところでございます。
以上、先生方の御議論の前座として、選挙困難事態に関する立法事実について、これまでの本審査会における議論の概要につきまして、事務方として公平、客観的に御報告申し上げたつもりでございます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
○枝野会長 以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終わりました。
―――――――――――――
○枝野会長 これより自由討議に入ります。
この自由討議につきましては、幹事会の協議に基づき、まず、各会派一名ずつ大会派順に発言していただき、その後、各委員が自由に発言を行うことといたします。
発言の中には、事実確認等のため、衆議院法制局当局に対する質疑を含めても結構です。
それでは、まず、各会派一名ずつによる発言に入ります。
発言時間は七分以内といたします。
発言時間の経過につきましては、おおむね七分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。
発言は自席から着席のままで結構でございます。
発言の申出がありますので、順次これを許します。船田元さん。
○船田委員 自由民主党の船田元であります。
自由民主党を代表して、意見を述べたいと思います。
まず、今国会最初の審査会が円満に開催されたことにつきましては、枝野会長、武正筆頭幹事を始め各会派の先生方の御尽力でありまして、感謝を申し上げたいと思います。
最初に、これまでの経緯を簡単に振り返りますと、審査会では、新型コロナの蔓延やロシアによるウクライナ侵略などを受けまして、緊急時においても国会機能を維持しなければならない、こういう観点から議論が開始をされました。
そして、令和四年以降毎週のように審査会を開催する中で、オンライン審議の議論を契機に緊急事態全般に議論が進展をし、参考人質疑あるいは二回にわたる論点整理が行われるなど、慎重かつ着実に議論が積み重ねられてきたと思います。
その結果、選挙困難事態における選挙期日、議員任期の特例と前議員の職務権限行使については、自民、公明、維新、国民、有志の五会派においてほぼ合意を得るに至っております。
我々と異なる考え方を持つ先生方との討議の中で論点が明確化し、議論がより深まったという点も少なくございません。このように濃密な議論を経て丁寧に積み上げてきた成果を無視することなく、国民の幅広い理解を得て、憲法改正原案の条文起草につなげたいと考えております。
なお、選挙困難事態の立法事実を検証するという本日のテーマの設定は、これまでの議論の積み重ねを踏まえたものでありまして、これにより論点が一層整理されるものと期待をしています。
今回のテーマに関し、最も意見の対立があるのは、選挙の実施に支障がある選挙区の割合が一体どれぐらいであれば選挙困難事態と言えるのかという点であります。
本日配付されている資料によりますと、例えば東日本大震災では、衆議院では定数四百六十五名のうち六十九名、これは全体の約一四・八%に影響があるとされており、少なくとも東日本大震災については該当すると考えております。
一方、三分の一の定足数、これは憲法五十六条一項に定められておりますが、この定足数を満たせば、国会を召集しても審議をし議決をすることが可能であることから、仮に選挙困難事態が発生をしても、予定どおり選挙を実施した上で、被災地では困難が解消され次第順次繰延べ投票で実施をすればよい、その方が選挙権の保障という要請にかなうという主張があることも承知をしております。
しかし、これでは、被災地域選出の議員がいない状態、いわば地域が偏った状態で選出された衆議院が誕生することになってしまいます。多様な民意、そしてとりわけ被災地の声が十分に反映されているとは言えません。
また、現職の総理大臣の選挙区が被災地だった場合、総選挙後の特別会では異なる総理を指名せざるを得ませんが、災害対応や復旧復興に全力を注ぐべき重要な局面で、円滑な行政活動の遂行に支障が出るということも考えられます。
そして、三分の一ほどだけで衆議院として災害関連の法案や予算の審議を行う中で、一人また一人などと、ぽつりぽつりと選出議員が増えていって、東日本大震災のシミュレーションでは、発災から約八か月、本来の選挙日からでも約七か月後にようやく、同一の選挙から選ばれた議員が顔をそろえるということになるわけです。
これでは、万全な体制で緊急事態対応を行うということができないとともに、このような状態は選挙の一体性を欠く、つまり、一定の時点の民意に基づいて同じ選挙で選ばれたものではなく、適正な選挙とは言えないと考えられます。このことは、机上で論理を組み立てる学者ではなく、実際に選挙を戦い抜き、民意に支えられた我々だからこそ分かることであり、我々の肌感覚として直感できるものではないかと思います。
また、繰延べ投票は、あくまでも狭い範囲で短期間選挙を延期するものにすぎず、我々が想定しているような影響が広範かつ長期にわたる大規模災害には対応できないと言わざるを得ません。
そもそも、繰延べ投票は、既に選挙期日の公示が行われていることが前提とされており、そろそろ任期満了を迎えるといった段階で大災害が発生したようなケースには繰延べ投票は適用できません。こうした場合にもあえて繰延べ投票を活用するとすれば、ダミーの選挙期日を公示するということになるかもしれませんが、このような選挙、繰延べ投票の在り方は本来の制度趣旨にかなうものではないと思います。
さらに、投票行動への影響も無視できません。既に被災地以外の選挙結果が出ていることから、繰延べ投票に当たっては、その結果を踏まえて投票が行われることが懸念されます。広範囲かつ長期にわたる選挙困難事態ではその影響は甚大なものとなり、本来の期日に全ての選挙が行われていた場合と比較して異なる結果になることも十分あり得ると考えられます。
一方、当初の選挙の結果が僅差だった場合は、当落線上にある候補者の選挙運動が混乱することも予想されます。実際に、昭和四十九年の参議院全国区における繰延べ投票の例では、災害の復興作業中にもかかわらず、この災害は三重県の伊勢市を中心とした水害と聞いております、その作業中にもかかわらず、当落線上の候補者が一斉に被災地で選挙運動を始めたことで大いに混乱を来したという記録もございます。
なお、災害に強い選挙環境というお話もありますが、これは確かに重要であります。しかし、想定を超える大災害が起きることもまた事実であって、実際、我々はこれを何度も未曽有の災害として経験をしてきたわけであります。
以上のことを踏まえますと、選挙困難事態に関する立法事実は十分に存在すると言え、万が一の場合に備えるためにも、選挙期日、議員任期特例の制度を創設し、どのような事態にあっても国会機能を維持できる仕組みを整えていくべきである、このように考えております。
今後、より議論を深めた上で、憲法改正の実現に向けて是非次のステップに進んでいきたい、このように考えております。
以上であります。
○枝野会長 次に、山花郁夫さん。
○山花委員 立憲民主党の山花郁夫でございます。
今、船田幹事から、積み上げてきたものがあるというお話でございますけれども、私どもからすると、視点として欠落しているものがあるのではないかという認識でございます。
憲法十五条に選挙権についての規定があります。この選挙権というのは、有権者団の構成員としての公務であるとともに、このような公務に参与することを通じて国政に関する自己の意思を表明することができるという個人の主観的権利でもあるといういわゆる二元説が通説的な見解と言っていいでしょう。
芦部教授も、選挙権が、アメリカの判例、学説流に言えば、表現の自由と密接に関連し、平等権保護条項等によって保障される優越的権利だということであるとされています。この論文は投票価値の平等に関するものではありますけれども、司法審査が行われる場合には厳格な合理性基準によるべきだとされています。
ところで、視点として落ちているのではないかと思われる点ですけれども、憲法四十五条で、衆議院については解散がなければ任期は四年、四十六条で、参議院については任期は六年で、三年ごとの半数改選と規定されています。
十五条と四十五条、四十六条を併せて読めば、衆議院については最長で四年以内に、参議院については三年ごとに代表者を選出するということが選挙権の主観的権利の内容となっていると言うことができます。
選挙困難事態において議員任期を延長するということは、ルールを変更するというだけではなくて、選挙権を行使し得る期間について制限を加えるということになりますから、その意味で、任期延長問題というのは、かつて参考人でここで御意見をいただいた学者の方のお言葉をかりれば、ルールと原理が交錯する問題と言うことができると思います。
さて、選挙困難事態の具体例として、今、船田委員からは東日本大震災が挙げられました。また、阪神・淡路大震災などが議論されてきましたけれども、この二つのケースで特例法を制定したではないかという議論がございます。
形式的には、地方の首長だとか議員というのは、この任期は憲法上のものではなくて法律上のもの、地方自治法上のものですから、法律、特例法によったというものですけれども、より重要な点は、首長は当該地方公共団体の有権者から直接公選されるものであること、地方議会議員については一般に大選挙区制度が取られていることなどから、選挙そのものが定数全部にわたってなし得ないという事情であります。
これに対して、これら二つの震災は、災害としては甚大なものであったということは間違いありませんけれども、地方議会のように、衆議院議員が一人も選出できないというような事態ではないことが、地方選挙の特例の場合とは大きく異なるということが言えます。
東日本大震災に関しては、先ほどこれは立法事実になるのだという御指摘ですけれども、仮にこのタイミングで総選挙があったとしても、八割強の議員は選出できると試算されておりますところ、このようなケースで任期延長を行うということは、八割強の有権者の選挙権を行使し得る機会を制限する、延期をするということを意味しています。
選挙の一体性という御指摘もありますが、民主制のプロセスそのものである選挙権の意義であるとか法的性質ということからすると、全部について選挙権行使の機会を停止する、制限するよりも、繰延べ投票などの方法により選挙の時期をずらすということの方が、より制限的でない、他の選び得る手段だと考えられます。
もっとも、この議論は法律の違憲審査の局面ではありません。立法論であるとか憲法改正論としては、したがって、比例原則だとか比較衡量で考えることが適切なのかもしれません。そうだとしても、一部地域で選挙を行うことが困難であることをもってより多くの地域の選挙権を制限するというのは、比較衡量、比例原則の観点からも明らかにバランスを失していると言わざるを得ないと思われます。
このようなことから、大規模災害のケースを立法事実として想定することは難しいのではないかと考えられます。
これに対して、感染症の全国的な蔓延が深刻な事態となった場合というのを想定すると、投票所で密になるであるとか不要不急の外出を控えるなどの状況というのは、これは一部地域だけじゃなくて、日本全国において選挙が困難になるという可能性は、これはゼロではないのかもしれません。
しかし、これも先般御指摘をさせていただきました。現行の公職選挙法を前提にして議論がされている。つまり、下位の規範である法律の規定を根拠に、上位の規範である憲法の説明をしてしまっているように思われます。すなわち、投票日を定めて、入場券を郵送し、その場所に足を運んで自書で候補者の氏名を記入するというやり方を前提に選挙が実施をできないという結論を出してしまっているのではないかということです。
憲法の方が言うまでもなく上位の規範ですから、その規範が求めていることが現行法で難しいということであれば、順序としては、公職選挙法の改正などにより憲法の求める価値を実現するのが立法府の役割であると考えます。避難所、避難場所でも投票ができるようにする方法を模索することであるとかインターネット投票などの方法で大規模災害などのときでも公正な選挙が確保できるような仕組みを追求することなどを検討することが、論理的に先行すべきことと考えられます。
このような手を尽くした上で、いかんともし難い事態があるのだということが確認されて初めて、そのことが立法事実となります。
その意味で、私どもとしては、現時点では立法事実が確認できないと申し上げて、意見表明といたします。
○枝野会長 次に、馬場伸幸さん。
○馬場(伸)委員 日本維新の会の馬場伸幸です。
本日ようやく、今国会で初めてこの席に着くことができました。昨年の十二月十九日以来、約三か月ぶりです。
私たちは閉会中審査の開催を強く訴えてきましたが、かなわず、前通常国会後の九か月間では、解散・総選挙があったとはいえ、本審査会で実質審議が持たれたのは、昨年末の一回、約二時間のみの寒々しい有様です。
国民の命と暮らしや国家の主権を守るための基本法たる憲法に不断に向き合い、時代に即したものに作り上げていくことは立法府に課せられた重大な責務ですが、本予算案の審議中は審査会を開かないという因習にあぐらをかき、サボタージュを決め込んでいるのが実態です。総理、閣僚が出席しない本審査会が予算審議に影響する道理はありません。
枝野審査会長は、一月十九日付、メディアのインタビューで、予算委員会理事と憲法審査会幹事を兼任し両立不可能な議員がいるだとか、少数会派の場合は予算委員会が連日開かれている中で憲法論議もしっかり対応するのが困難などと述べ、あしき慣習の正当性を強調されていました。しかし、令和四年の常会では当時の森審査会長の差配によって予算審議中の二月十日に本審査会での実質討議が始まった例を見れば、へ理屈にすぎません。
今国会においては、幹事懇談会で三月六日に第一回審査会の開催を申し合わせながら、その後、参議院予算委員会の基本的質疑を理由に一週間先送りされました。参議院の予算審議は本審査会には関係がないはずです。
枝野会長には、衆議院での予算審議中に本審査会を開くことにどのような支障があるのか幹事会でしっかり検証し主権者たる国民に公明正大に説明するよう、真摯な取り計らいを強く求めます。
本日は、枝野会長の主導により、緊急事態条項で想定される国会機能維持のための選挙困難事態の立法事実がテーマに据えられました。
本審査会での実質討議はこの三年間で計四十九回行われましたが、議論の大半が緊急事態条項に費やされました。論点は出尽くしており、国会議員の任期延長は、緊急政令制定や緊急財産処分等と併せ、合意形成に最も近づいているテーマです。ゆえに、次回二十七日のテーマ、参議院の緊急集会の射程しかり、壊れたテープレコーダーのごとく議論を繰り返す意義は見出せません。
日本維新の会は、一昨年六月、国民民主党、有志の会とともに緊急事態条項の条文案を策定しました。方向性は、自民、公明両党と大きな乖離がありません。私たちは、起草委員会を設置し、この条文案を土台に改正原案の作成に入るべきだと訴えていますが、特定会派による条文案提出は議論が引っ張られてしまうため認められないという申合せにより、日の目を見ないままです。
この不文律は、令和五年の第二百十一回国会において幹事懇で確認されたもので、総選挙を経て院の構成が変わった現在も有効なのか甚だ疑問です。この際、条文案の提出を認めるよう各会派に建設的な対応を求めます。議論が引っ張られるというなら、各会派が条文案を出し合って、起草委員会で最大公約数の集約に努め、反対会派は堂々とその論陣を張ればいいのです。
しかるに、枝野会長はメディアのインタビューで、起草委員会設置について、審査会での議論が繰り返されるだけ、やってる感を出すだけで実質的な意味はないと一蹴しました。納得できません。同じ議論を蒸し返し、やってる感を出そうとしているのは枝野会長自身ではないでしょうか。
立憲民主党は、大規模自然災害のみに焦点を当て、選挙困難事態の重大な立法事実に目を背けてきました。日本が他国から武力攻撃を受け戦争に突入したら、全国一律、同時に行われるべき国政選挙が長期にわたり困難な状態が続きかねないケースを置き去りにしているのです。
ロシアによる侵略が三年を超えたウクライナの現実を見てください。憲法等の規定に基づき、大統領及び国会議員の選挙が延期され、任期も延長されています。その理由の第一に、目の前の有事対応を優先せざるを得ないこと、第二に、領土が不法占領されている地域では物理的に選挙が実施できず選挙の一体性を欠くこと、第三に、今前線で身を賭して国を支えている多くの兵士たちは国の行く末を決める選挙に参加できず、選挙結果の正統性に疑義が生じることなどが考えられます。ゼレンスキー大統領の政敵、ポロシェンコ前大統領も、戦時下での選挙には断固反対の立場を表明し、戒厳令下での選挙実施禁止令の支持を明言しています。
今日のウクライナは明日の日本という観測がざれごとでないことは、日本を取り巻く安全保障環境を踏まえれば明らかであり、選挙困難事態に立法事実はないとする立憲民主党の主張は妄想にすぎません。改憲にブレーキをかけるために確信犯的に国家有事の生起に目を伏せているなら言語道断です。
翻って、自民党は、九日の党大会で決定した令和七年運動方針に、緊急事態条項や自衛隊明記に関する条文案を起草し、改憲の早期実現に邁進すると明記しました。しかし、前年にはあった年内に実現という期限は消え、石破総理も総裁演説で憲法に触れずじまいでした。
やるやるとポーズを取り繕うことはもう結構です。本院は少数与党となり、憲法改正の国会発議に至る道が険しいことは承知していますが、少しでも前に進めていく気概と行動を示していただきたい。
立憲主義、民主主義の根幹にある国民主権を具現化することこそ国民投票です。立法府にそれを妨げる権利はありません。一向に重い腰を上げない自民党と、国民投票阻止にいそしむ立憲民主党、肝腎要の与野党の両第一党の姿勢は、国会議員たる権力者による権利の濫用にほかなりません。
枝野会長はメディアのインタビューで……
○枝野会長 発言時間が終了いたしました。お約束はお守りください。
○馬場(伸)委員 安倍、岸田両元総理が改憲実現の目標期限を掲げていたことはピント外れで憲法論議を停滞させた旨説きました。ゴールを定めるべきではないとの主張ですが、各会派による放談会をいつまで漫然と続ける了見なのでしょうか。
本日は遅ればせながらのキックオフです。国会発議を実現させるゴールを明確にし、それに向けたロケットスタートを切ることを各会派と枝野会長に切に要望し、私の発言を終わります。
○枝野会長 約束の時間から五十五秒延長しております。お約束をお守りください。
次に、浅野哲さん。
○浅野委員 国民民主党の浅野哲です。
本日の審査対象は、選挙困難事態の立法事実についてであります。私は、選挙困難事態に係る一体性要件について、任期特例の必要性についての二点について意見を申し述べます。
初めに、繰延べ投票制度について触れ、選挙の一体性の観点から意見を述べます。
私は、繰延べ投票の制度本来の趣旨は、まさに選挙の一体性の担保にあると考えています。これは、災害等の選挙困難事態が発生し、施行日に投票が行えない場合であっても、全選挙区での選挙が同時に実施されたものとみなす制度だという点において、疑いようのないことです。しかし、戦争や内乱、自然災害、感染症蔓延など、選挙が困難な状況が数か月以上の長期に及ぶような事態においては、繰延べ投票制度では選挙の一体性を担保することはできないと考えます。
憲法審査会事務局の試算によれば、東日本大震災直後の地方選挙実績に基づき衆議院選挙が行われた場合の影響を試算すると、衆議院定数の一四・八%に当たる六十九名分の議席が施行日時点で空席のままとなる見通しです。同時に、全ての議席が確定するまでに半年以上の期間を要するとの試算結果も示されました。また、今後想定されている南海トラフ地震や首都直下型地震で予想される影響は、それぞれ二八・六%、百三十三名分、二三・九%、百十一名分もの議席が施行日時点で空席のままとなる見通しです。
そもそも、国政選挙においては、衆院選直後の特別国会において首班指名選挙が行われることの重要性や、災害、紛争、感染症蔓延等の選挙困難事態に直面する地域から選出された議員がいない状態の議会に民主的正統性、社会学的代表性があるかなどの議会の正統性に関する論点が残っております。
したがって、国政選挙直後に国会が召集される時点で全ての議席が確定していることは大前提とすべきであり、その一体性が担保できないことを選挙困難事態の認定要件とすることには合理性があると考えます。
次に、任期特例の必要性についてです。
既に法制局から示されたとおり、東日本大震災や阪神・淡路大震災直後の地方選挙では、震災特例法により多くの地域で地方選挙の選挙期日が延期され、選挙が実施されるまでの期間、地方議員や首長の任期が延長されました。
一方、本審査会では、これまで参議院の緊急集会による補完論も他会派から度々主張されてきましたが、私は今回、衆議院の任期特例が必要との立場から、以下、意見を申し述べます。
まず、参議院の緊急集会は、憲法五十四条の二項、三項に規定されておりますが、同条一項には、衆議院解散の日から七十日以内に特別国会を召集することが定められています。法文構造上、参議院の緊急集会は、衆議院が解散されてから特別国会が召集されるまでの間に緊急の必要が生じた場合に、内閣からの要請に応じて開催されることが想定されていると解釈するのが適当です。
そもそも、約八十年前に帝国議会で行われた帝国憲法改正案の審議において、衆議院議員不在時に発生した緊急事態に対処する方法として、当初は閣令で対応することが提案されたものの、民主政治の徹底と国民の権利保護の観点から、内閣ではなく国民代表である参議院の緊急集会が選択されたという経緯があります。
したがって、憲法五十四条には民主政治の徹底と国民の権利保護の理念が内包されており、それを具現化するための規定として、まずは衆議院不在期間に限度が設けられたと考えることができます。この限度を超える期間、言い換えれば、現行憲法が想定する範囲を超える期間にわたって衆議院が機能しないことが想定される場合には、任期特例による二院制保持の正統性は、権力の偏在是正や固定化を回避する観点からも主張できるものと考えます。
ここで法制局に質問いたします。答弁は、発言の後、お願いいたします。
参議院の緊急集会による暫定的な対応が許容される期間について、これまでどのような議論が交わされたのか、概略を御紹介ください。
以上、大規模な自然災害や戦争、テロ、内乱、感染症蔓延など、選挙を実施することが難しい期間が一定期間以上継続する場合、繰延べ投票制度や参議院の緊急集会のみでは選挙の一体性及び議会の正統性を担保することは難しいのではないかと考えます。そのような状況下でも国会機能を維持するために、国会議員の任期特例を設けるべきであることを改めて主張し、私の発言を終わります。
○枝野会長 ただいまの浅野さんの発言のうち、法制局当局に対する質問はまさに次回のメインテーマでもございますが、持ち時間がまだ残っておりますので、浅野君の時間の範囲内で、橘局長、御答弁ください。
○橘法制局長 それでは、会長の御指示に基づきまして、浅野先生の御質問に対する御回答を申し上げます。
参議院の緊急集会の対応期間につきましては、まず、二つの場面を整理して考える必要があるかと存じます。
一つは、総選挙の実施が見込まれている場合です。
この場合には、多くの学説は、憲法五十四条の条文構造、すなわち、一項と二項の連関構造を前提に、緊急集会の対応期間は基本的に四十日、最大でも七十日と考えているようです。
もう一つは、総選挙の実施が五十四条一項の期間内に見込まれないような場合です。
すなわち、選挙の一体性による選挙困難事態の発生を容認するか、あるいは、三分の一の定足数を満たす議員を欠くほどの、より異常な事態の発生によって、衆議院が成立しないあるいは機能しないような状況の発生を前提とした場合に、緊急集会で対応できるのかといった問題意識と言えるかと存じます。このような場合においても、五十四条一項、二項の連関構造を前提とした期間制限がかかるのかといった論点であり、本審査会で議論してきたのはまさしくこの局面であるかと存じます。
多くの先生方からは、今申し上げたような条文構造に照らして、緊急集会の対応期間には総選挙実施が見込まれる場合と見込まれない場合両方に限界があると文理上は解釈せざるを得ない、だから、議員任期の特例その他何らかの対応を考える必要がある、そのような意見表明が一方ではなされてまいりました。
他方、一つ、五十四条一項の期間限定の本来の趣旨は従来の政権の居座り防止にあるのであって、緊急集会の対応期間が限定されているかのように見えるのは、その間接的、派生的な効果にすぎない、二つ、そもそも緊急事態の法理によって、現行の条文で対応できないように思われる場合には、それを乗り越えることすらも許容されるなどの理由によって、緊急集会の対応期間に限定はない、このような意見も表明されているところと存じます。
以上です。
○枝野会長 次回においてこの論点について集中的に議論したいと思いますので、できるだけ本日のテーマに沿った御発言を今後もよろしくお願いいたします。
次に、平林晃さん。
○平林委員 公明党の平林晃と申します。
本日、初めて会派発言をさせていただきます。これまでの議論の過程あるいは本日の主張と重なる部分もあろうかと思いますけれども、御容赦いただけたらと思います。
言うまでもなく、近年の日本において、災害は、いつ起きるかではなく、いつもどこかで起きているような、そんな状況になってしまっていると考えております。感染症の蔓延も予断を許しません。安全保障事態も懸念されます。こうした緊急事態が国政選挙を目前に控えた時期に発生した場合にどのように対応するかを定めておくことは、立法府が果たすべき当然の責務と考えております。
憲法五十四条一項において、衆議院が解散された場合、解散の日から四十日以内に総選挙を実施し、その選挙の日から三十日以内に特別国会を召集しなければならないこととされております。本規定に基づけば、合計七十日の衆議院議員不在期間が許容されていると捉えることができるということだと思います。
ところが、緊急事態が広範なエリアにおいて発生し、これらの選挙区において七十日以内に衆議院議員の選出が困難となった場合、こうした事態が選挙困難事態と言えるのかどうか、このことについて意見を申し述べます。
国難とも言える東日本大震災において選挙の実施が困難となったのは、比例区の三ブロック、十五小選挙区でした。これら選挙区における合計定数は、二〇二一年の第四十九回総選挙で六十九名、二〇二四年の第五十回総選挙では六十七名となっております。これは、現国会におきまして、日本維新の会三十八名と国民民主党・無所属クラブ二十八名を合わせた六十六名を超える人数であります。
このような状態において、公明党がこれまで主張してきたことは、一斉投票、あるいは選挙の一体性についての配慮であります。すなわち、特定の投票区のみで投票を延期した場合、当初日程で得られ公知となった選挙結果は、実施されていない投票に対して影響を与えることとなります。このことが選挙の一体性を害することとなる、この考え方を我が党は示してまいりました。
その上で、本日、加えて指摘したい点は、首班選挙への影響であります。
憲法五十四条一項において、選挙の日から三十日以内に特別国会を召集するとされているのは、直近の民意を反映して首班選挙を直ちに行う必要があるからであります。一定数の議員が欠員となっている状態において特別国会を召集して、選ばれた内閣総理大臣が直近の民意を反映していると言えるのかどうか、この点を慎重に考える必要があると考えております。
例えば、昨年十月の第五十回総選挙におきまして、当該解散の後から投開票日までの間に東日本大震災が起きたとします。本日配付した資料を御覧いただけたらと存じます。一番左上に政党名があり、その右に現有議席が示してございます。その左に、震災の欠員で影響を受ける党派別の人数を示してございます。参考までに、中段に、震災影響を小選挙区と比例区の別に示しているところでございます。
一番上の表に戻りまして、現有議席から震災シミュレーションで影響を受ける真ん中の列の議員数を差し引いたものが、召集日に決定をしている議員の数ということになります。
その結果を与野党別に示したものが、一番下にあります小さな表でございます。左が現在の議席数、右側が震災の影響を受けた場合です。与党は二十八減り、野党は三十九減るということになります。数値を示しておりませんが、与野党の差は、左では二十一で、右が十ということになっております。議員全体の減り方は、四百六十五から三百九十八で、一四・四%の減となっておりますけれども、与野党の議席数の差は、左が二十一で右が十ということで十一減っておりまして、二十一分の十一、五二・四%も減っているということとなります。
要するに、緊急事態によって生じる欠員が、全体の結果に押しなべて一様に生じるものではなく、地域の特性に応じたものになるということであり、このことに着目する必要があると考えております。
更に付言すれば、先ほども御発言ありましたけれども、首相候補になり得る議員が当該選挙を終えていない可能性も否定できません。このように考えますと、緊急事態による議員の欠員は、延期して実施されるであろう選挙に影響を与えるだけではなくて、首班選挙の正統性にも影響を与えることとなります。
続いて、投票を長期間繰り延べることによって対応することの問題点についても意見を申し述べます。
繰延べ投票の延期期限は公選法に規定されておりませんので、東日本大震災のように八か月後の実施も、法令上は問題ないこととなります。ただし、非常に長い繰延べということになり、選挙運動期間もとても長くなります。過去の国政選挙、先ほど船田委員の方から昭和四十九年の御発言がございまして、そのようなことも私も認識をしているところでございます。繰延べ投票は、速やかに全体の選挙の結果を得るためにもできるだけ早期に行うべきとされておりまして、せいぜい数週間程度の延長に適用されるべき制度であると考えますし、また、これも発言があったところでございますが、選挙の公示前であれば、そもそも繰延べ投票は適用できないということも指摘させていただきます。
以上、選挙困難事態に関する立法事実について意見を申し述べてまいりましたが、一部地域の欠員が首班指名選挙にまで与える影響を考えますと、選挙困難事態の立法事実が存在することは否定され得ないのではないかと申し上げまして、意見陳述とさせていただきます。
ありがとうございました。
○枝野会長 次に、大石あきこさん。
○大石委員 れいわ新選組の大石あきこです。
本日の意見表明に当たり、この数年の衆議院、参議院両方の憲法審を拝見しました。また、改憲派の条文草案も拝見しました。本日も法制局なり皆さんの御意見も聞きましたが、その結果として二つの結論を導きました。
一つは、選挙困難事態の立法事実は一切ないことです。二つ目は、改憲派の方々の改憲草案は、内閣と衆議院の居座りを許すゾンビ改憲草案であり、現憲法の立法事実である、内閣と衆議院の居座りを許して米開戦に至ったという過去の歴史の再発防止の設計を潰す違憲提案です。しかも、天然、無自覚ではなく、意図的に潰すという流れで、危険極まりないものです。
したがって、この議論をしっかりと打ち切る必要があり、枝野会長には、これ以上の議題としないことを強く求めます。
もう少し詳しく説明します。
衆議院法制局の説明資料では、選挙困難事態の定義は二つから成ると。一つには、選挙の一体性が害される広範性の要件、二つ目には、七十日超の長期性の要件から成るとされています。
その一つ目、選挙の一体性については、改憲の立法事実とは言えません。
まず、前提として、私も皆さんも衆議院議員、これは、国民に選定され、罷免される存在です。私たちの選定と罷免は国民固有の権利であると憲法十五条は言っています。任期延長はこの国民の権利を奪うものですから、そうなら、それに足る理屈が必要ですけれども、それは存在しません。
憲法学者の長谷部恭男先生も、衆議院、参議院の憲法審で、最高裁の判例を引用しつつ、そもそも選挙困難がない選挙区も含めて丸ごと延期をすることはやはり許されないとおっしゃっています。
例えば、近畿で災害が起きて、それが選挙権行使が事実上不可能であったときでも、九州エリアの方々は選挙ができるならば、日本全国で衆議院の任期延長をしましょうは許されないよということです。当たり前です。
それから、本日、法制局や公明党の方からも、選挙が、大規模災害があったときの選ばれない割合みたいなものを出されているけれども、その割合の議論はほとんど意味がないですよ。やはりたくさんの仮定が入っていますし、そのシミュレーションには。そして、現在の問題がある選挙制度や選挙の在り方を前提に置き続けるような、必ずその世界観が入らざるを得ないんですね。つまりは、誘導が入りますので、それらしい誘導なので、危険なものであると言えます。
学者と政治家は覚悟が違うなどと言っている会派もありますけれども、これは覚悟の違いではなくて、受益があるかどうかの違いです。任期延長という受益があるからこそ、衆議院議員の居座りが起きる。それを排除する規定を現憲法は設けており、現憲法はさすがなんですね。
自民の船田幹事と維新の馬場幹事に聞きたいんですけれども、選挙の一体性、選挙という国民固有の権利を奪うほどの正当性があるというのは憲法何条に支えられるのでしょうか。
選挙困難事態の定義の二つから成る二つ目です。七十日超の長期性の要件について。
憲法五十四条一項で、参議院の緊急集会が七十日間しか開催できないからという論が存在するかのように、この衆議院の憲法審で話されていますけれども、そのような主張をしているのはごくごく僅かな方々です。日本において、衆議院の憲法審の改憲派の方々と、参議院憲法審の維新の方々と、衆議院憲法審に来られた、日本に数えるほどしかいない、安保法制の集団的自衛権が合憲と言っている大石先生だけです。名前が同じ大石で恐縮なんですけれども、主張は逆のようでした。
憲法学者の長谷部恭男先生は、衆参の憲法審査会で、五十四条一項の、解散から総選挙までの四十日と選挙後の特別国会召集までの三十日は、内閣の居座りを排除するための規定で、緊急集会の開催権限とは関係がないとおっしゃっています。そして、参院憲法審では、土井真一先生とともに、七十日間限定という解釈は憲法違反の解釈ですとまでおっしゃっています。
学者だけではなく、参議院の憲法審査会では様々な議員がまともな議論をしています。つまりは、参議院緊急集会をつくったときの立法事実や経緯をちゃんと議論しているんですよ。当時の日本政府とGHQの協議の中で、天災とか災害とか予期し得ない緊急事態とか、いっぱい議論していますよ。太平洋戦争の末期には南海トラフの震災もありました。そうした議論を基につくられた五十四条第二項の参議院の緊急集会が、大災害を想定していないはずもないし、七十日しか開催できないわけではなく、論理は既に破綻しています。
逆に、そうであるなら、参議院の緊急集会を使って内閣が居座れるんだという論を展開されている方もいらっしゃるんですけれども、それは承知しているんですけれども、あくまで災害時、緊急時なのですから、あえてフルスペックではなく小さめの制度につくって、一刻も早く衆議院選挙をやる復元力を確保した設計になっていますし、このようなことももう議論済みですね。
改憲派が言うような想定外の抜け穴は存在しないんです。したがって、改憲派の任期延長案は、デメリットはあるんですけれども、メリットがないんですよ。壊れたテープレコーダーがとか維新の馬場さんは本日もおっしゃっていたけれども、あなた方です。論理的に結論は出ていますので、今こそ打ち切るときです。
何事も議論はいいことだとざっくり毎週やられても、これは国民にとって迷惑でして、国会は一つしかないし、毎週毎週こんな論外の会議を開かれては困ります。ほかに、国民経済を救うためのこと、又は、災害時でも選挙が実施され、選挙権が行使できるための委員会を開いたりしなければいけないですから、そういうことを変えていけば、先ほど出しておられるシミュレーションも結果が変わってくるということですね。
改めて会長には、毎週開催はせず、任期延長改憲の議論は打ち止めを求めます。
以上、私の意見陳述を終わります。
○枝野会長 大石さん、今の話の途中で、船田幹事と馬場幹事に御質問と受け止めてよろしいですか。
○大石委員 はい。
○枝野会長 しかし、今、大石委員の持ち時間が切れるところでございますので、今の御答弁は、各会派一巡が終わったところで、もし可能であればそれぞれお答えください。よろしいですか。
○大石委員 はい。ありがとうございました。
○枝野会長 次に、赤嶺政賢さん。
○赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。
私は、これまで、憲法について、国会がやるべきは、改憲の議論ではなく、憲法の原則と乖離した現実の政治を正す議論だと主張してきました。その中で、憲法審査会でも、憲法の上に日米安保条約地位協定があり、その下で沖縄県民の人権がじゅうりんされている問題を繰り返し取り上げてきました。他の委員からも、同性婚や選択的夫婦別姓や、貧困と格差、冤罪と再審法の問題などについて意見が出されてきました。国会は、こうした憲法と乖離した現実を正す議論こそやるべきであり、改憲につながる議論はやるべきではないと改めて申し上げておきます。
その上で、いわゆる選挙困難事態について意見を述べます。
まず指摘しておきたいのは、この議論は自民党が主張する緊急事態条項と一体のものだということです。
二〇一二年の自民党の改憲草案は、憲法に緊急事態の条文を設け、内閣による緊急政令や緊急財政処分、地方自治体への指示権を明記し、その上で国会議員の任期延長を規定しています。
二〇一八年にまとめた四項目の改憲案でも、緊急事態対応として、内閣の緊急政令権と任期延長を挙げています。
さらに、自民党の憲法改正実現本部が昨年九月にまとめた論点整理でも、九条改憲に並んで緊急政令が重要なテーマだと述べています。
自民党の緊急事態条項の目的が、緊急政令や緊急財政処分など、国会の権能を奪い、内閣に権限を集中させることにあることは明らかです。選挙困難事態や国会議員の任期延長の議論は、こうした内閣の独裁体制を支えるために、時の政権が恣意的に国会の多数を維持するためのものにほかなりません。
二〇二三年五月十八日の憲法審査会で参考人として意見陳述した長谷部恭男早稲田大学教授は、国会議員の任期延長について、任期の延長された衆議院と、それに支えられた従前の政権とが長期にわたって居座り続ける、緊急事態の恒久化を招くことになりかねないと批判しています。
任期延長の議論は、自民党が狙う緊急事態条項の議論と地続きであり、権力の濫用と恣意的な延命に用いられる危険性は極めて重大です。
そもそも、任期とは、ある一定の者がその地位にとどまり権力が集中することを防ぐためのものです。国民主権に基づく議会制民主主義の下では、国会議員の任期満了が来たら選挙を行い、国民の意思を議会に反映させることによって、権力を民主的にコントロールしようというものです。これは、国民主権と民主主義に基づく近代立憲主義の大原則です。
日本国憲法は、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動するとしています。その下で、衆議院の任期を四年、参議院を六年と定め三年ごとの半数改選とすることで、定期的な民意の反映と権力の民主的な統制を求めています。そのためにも、いかなる場合であっても選挙権は絶対に保障されなければなりません。
ましてや、国民の選挙権行使の機会を奪う場合をあらかじめ定めておくなどということが許されるはずがありません。選挙困難事態といいますが、これは、国政選挙ができなかったという事態は一度もこれまで起きていません。仮定の上に仮定を重ねて議論することの問題は、これまで、憲法審査会に出席した災害や憲法の専門家が繰り返し述べてきたことです。
二〇一七年三月二十三日の審査会で、永井幸寿弁護士は、想定外の事態のために制度を設けると、更に想定外が広がり、際限なく広がっていくと警告しています。
二〇二二年二月二十四日の審査会でも、高橋和之東大名誉教授は、極端な事例を出せば出すほど、権限をどこかに大幅に移譲する以外に解決の方法がなくなっていく、極端な事例を持ち出して議論をすると間違う危険が強いと述べています。
この専門家の指摘を正面から受け止めるべきだと申し上げて、発言を終わります。
○枝野会長 次に、北神圭朗さん。
○北神委員 有志の会の北神圭朗です。
いろいろ聞いていますと、立法事実というのは、単純に過去に起きた事実しか認めないというような議論に若干違和感を感じています。具体的には、実際に国会が機能を発揮できないほどの選挙困難事態というのは本当にこれまであったのかねといった疑問が呈されています。
確かに、芦部教授によりますと、立法事実とは、法律の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実と定義づけられています。しかし、この一般的事実というのは、単に過去に生じた事実だと狭く捉えるものではないと思います。むしろ、科学的検証などにより、将来に生じ得る事態も含めた概念だと思います。そうでないと、まず繰延べ投票をやって、問題があればまた考えていいじゃないかといったような、一度痛い目に遭わなければ法律は一切できないことになってしまうからです。そんなことで、果たしてまともな危機対応ができるのでしょうか。
この点、橘法制局長の「立法学講義」という御著書にこう書かれています。立法事実とは、単なる生のデータではなく、そこから抽象的な事実を、仮定も置きながら、抽出、構成し、立法目的や立法手段の合理性を支えるものとして立案者において再構成された、理論的、そして価値観の入った規範的なものであるとし、そうでなければ、現に生じていない、予測された将来の事象に対応するような立法などは、そもそも立法事実がないということになってしまいかねないではないかと。
同様に、元早稲田大学教授の西原博史先生も、異常事態として、ある現実に着目するとき、それは徹頭徹尾規範的な決断であると、立法事実は単なる事実ではなく価値判断を加えた概念である旨述べています。
こうした観点から、選挙困難事態に関する立法事実については、地震学者が、今後三十年以内に七〇%から八〇%程度の確率で南海トラフ、首都直下型地震が起こり得るという予測を示している、そして、これらは東日本大地震の規模を上回る地震、津波の可能性が高いと警鐘を鳴らしています。
となれば、事実としては、東日本大震災で選挙ができなかったのは、確かに、国政ではなく自治体選挙が、被災県三県を中心に七か月間の期間でありました。しかし、立法事実を考える上で、今申し上げた地震学の知見を踏まえれば、将来については、自治体以外の国政の選挙についても、被災県三県を超える規模で七か月間以上延期され得るという抽象的な事実を抽出することができることは、決して飛躍ではないと私は思います。
実際、事務局の試算によりますと、南海トラフの場合は、先ほどあったように、衆議院総定数の二八・六%、首都直下型の場合は二三・九%が欠員になります。三割近くの欠員が出ることは、選挙の一体性はもとより、国会が憲法上求められる体制や機能も損なわれると考えるのは自然ではないでしょうか。
加えて、今後、新型コロナ感染を上回る感染症が蔓延するだろうという疫病学の予測もあります。台湾有事に関する専門家たちの予想もあります。これらを考慮に入れると、いよいよ立法事実があるということになるのではないでしょうか。
これに対して、いやいや、三割近く議員がいなくても、憲法第五十六条では、「両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」と規定しているので、問題はないとの指摘があります。しかし、この条文は、あくまで国会の中の会議の定足数を規定するものであって、全体の国会の総定数のことを指したものではありません。これをもって、三分の一の議員さえいれば国会の体制として十分に役割を果たせると解釈するのはやや無理があります。
また、第四十三条を根拠に、被災地選出の国会議員がいなくても、その他の地域の議員が全国民の代表として十分被災地の声を届けられるという指摘もあります。確かに、全国民の代表の解釈として、議員は、一部の選挙民ではなく国民全体を代表するというのが通説です。しかし、今やこの学説においても、具体的な選挙民と議員の意思が一致する、合致することが重視されています。つまり、議員は、国民全体だけではなく、そこの具体的な選挙民の思いを反映することも、代表するんだという考え方が今や一般的です。
実際、地元選出の国会議員が被災地の地理や住民の文化、慣習をよく理解しているはずです。首長、自治体議員、地域の皆さんとの人脈や信頼関係もあります。有事の際にそういう議員がいるのといないのとでは、国会での議論あるいは内閣に対する要望内容なども大分私は変わっていくと思います。災害対策の内容も変わります。それが効果的に実行されるか否かにも大きく影響するでしょう。幾ら、被災地外の国会議員が理念的に全国民の代表だといっても、こうした役割を効果的に発揮するとはとても思えません。
以上、今後、被災地において三割程度の議員欠員が出ることは合理的に予想できる、そうした事態を避けなければ国会が機能を十分に発揮できないことを明らかにしたつもりであります。
そもそもの我々の提案の目的は、やはり、災害などの有事のときにはどうしても行政権が非常に権力を集中的に振る舞う可能性が高い、そういったときに立法府としてしっかりとこれを牽制する役割を果たさなければいけないという意味で、国会の機能を維持しなければいけないという考えであります。選挙困難事態の立法事実は、そういうことで明確にあると私は考えています。
なお、傍証になりますが、ドイツ、カナダ、イタリア、スウェーデン、ウクライナ等で、我々が提案しているような議員任期延長のための憲法規定が存在します。これらの国では、まさしく立法事実が認められていることでしょう。
そういう意味では、例えば憲法九条のように、何か世界から際立った独創的な主張をしているわけではないということを申し上げて、私の意見といたします。
○枝野会長 次に、委員各位による発言に入りますが、その前に、ただいまの一巡の御発言の中で馬場さんと大石さんから私への御要望がございましたが、それにつきましては、船田代理そして野党筆頭と御相談の上、幹事会で後刻協議をいたします。
次に、大石委員からの質問に対し、船田委員、御回答できますか。
○船田委員 先ほど大石委員から御質問のありました、選挙の一体性の要請はどこにあるのかということですが、御承知のように、憲法四十三条、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と書いております。これは平たく解釈をすれば、やはり、全選挙区から選ばれる人が議員として存在をして、そしてそれが全国民を代表するということになるべきだと思っております。
もちろん、先ほど北神先生もちょっと御指摘がありましたように、一人の議員が全国民を代表するというふうにも解釈はできますけれども、現代のこの解釈の在り方としては、やはり全国民の代表という点では、選挙区を全て選ばれる議員で構成をされるということが極めて重要な要請だと思っております。
それから、実体的に一体性を捨て去りますと、結局、選挙というのは繰延べでやらざるを得なくなると思います。ただ、繰延べの問題点は、先ほど私が申し上げましたように、最初の選挙の結果が出た後、繰延べで投票が行われていくと、その最初の選挙の結果が、その次の繰り延べられた期日における選挙の結果に影響を与えるということ。これは、投票の秘密との関連もあって、放置はできない問題であると思っております。
それから、そういった、ある意味でゆがんだ形での投票が行われ、そしてそれによって衆議院が構成された場合、首班指名というのは、そのゆがめられた状況の中で首班指名が行われるという危険性がありますので、そういった点でも、やはり選挙の一体性というのは実体的にも私は確保すべきである、このように思っております。
○枝野会長 馬場さん、御回答されますか。
○馬場(伸)委員 大石さんから、るる御質問がありました。
今日冒頭で橘局長がお配りをした資料2をもう一度御覧いただきたいと思いますが、我々は、選挙困難事態の定義というものを、一、「前提」のところに書かせていただいております。緊急事態により、国政選挙の適正な実施が、広範性の要件において、長期性要件に基づいた困難であるということが明らかであると認められるときということを大前提条件としての定義と位置づけています。
その上で、よく聞かれるのが、それなら、どういう想定外のことが起こるんでしょうかということを聞かれることがありますけれども、想定外というのは、想定できないから想定外であるわけであります。
いみじくも、東日本大震災のときに、枝野会長が当時官房長官をお務めになられておられまして、日々の記者会見で、テレビカメラの前で、記者の質問に対して、それは想定外です、それは想定外ですと、何度も想定外という言葉をお使いになられました。
この地球上に起こる全てのことを我々が想定できているというわけではありませんので、ですから、そこは、どういうことが起こっても対応していけるという体制をつくるべきであるというのが、我々の全ての憲法条文に対する考え方のベースになっているということを申し上げておきたいと思います。
もう一点、大石さんが、こういったことは時間の無駄なのでこの議論も打ち切るべきだ、そうおっしゃっておられましたが、それには全く同感です。
もう既に、三年間で五十回にわたる、緊急事態条項についての議論を積み重ねてきておりますし、我々は、国民民主党さん、有志の会の皆さんと条文策定にも着手をいたしました。
ですから、もう議論する余地はないと今日も申し上げたと思いますけれども、大石さんの御提案どおり、議論を打ち切って採決をするべきであるということに同意を是非お願いしたいというふうに思います。
○枝野会長 大石さん、一分程度でコメントされるか、それとも、自由討議の一環として五分程度お話しされるか、どちらにされますか。
○大石委員 では、後の五分でまとめて。
○枝野会長 自由討議、三分のところで、では、後ほど。三分でした、ごめんなさい。
○大石委員 再質問になるんですけれども、そのときは。それはやっていいんですね。
○枝野会長 はい、それで結構です。
○大石委員 分かりました。
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○枝野会長 発言を希望される委員は、お手元にある名札をお立ていただき、会長の指名を受けた後、御発言ください。
発言は自席から着席のままで結構でございます。
なお、発言の際には、所属会派及び氏名をお述べいただくようお願いいたします。
発言が終わりましたら、名札を戻していただくようお願いいたします。
また、幹事会の協議に基づき、一回当たりの発言は、ごめんなさい、三分以内といたします。質疑を行う場合は、一回当たりの発言時間は答弁時間を含めて五分程度となるよう御配慮ください。委員各位の御協力をお願い申し上げます。
発言時間の経過につきましては、それぞれおおむね三分経過時、五分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。
それでは、発言を希望される委員は、名札をお立てください。
○柴田委員 立憲民主党の柴田勝之です。
公明党の委員の方に御質問いたします。
選挙困難事態の要件の一つに、選挙の一体性が害されることが挙げられております。私は弁護士を三十年やっておりますが、憲法の教科書で選挙の一体性が必要という説は見たことがありません。
この点について、資料としてお配りした参議院憲法審査会会議録の(3)ページで、憲法学の第一人者である長谷部教授は、全国一律でなければいけない要請というのは憲法上それほど強いものではないとされています。そして、令和六年五月八日の参議院憲法審査会において、公明党の西田幹事も、民主的正統性を確保するには選挙を実施することが肝要であり、それがすぐには可能でない場合に、繰延べ投票ではなぜ駄目なのか、なぜ全国一律の投票でなければならないのか、必ずしも判然としない、また、仮に選挙実施困難事態となっても、任期の延長は不要、繰延べ投票の活用によりできるだけ早期の選挙実施とすればよいとされており、同月十五日の同審査会でも、公明党の塩田委員が、長谷部教授の意見を引用して、同じ趣旨の意見を述べられています。
また、選挙困難事態のもう一つの要件に挙げられている七十日について、資料の(1)ページで、長谷部教授は、選挙権の制限は必要最小限度でなければならないとされ、(2)ページで、憲法五十四条が七十日という日数を限っているのは、いつまでも選挙をしないで政権に居座るようなことを防ぐ趣旨であって、緊急集会七十日限定説を根拠に任期を延長して政権居座りを認めるのはまさに本末転倒であると厳しく批判しておられます。そして、令和五年六月七日の参議院憲法審査会で、公明党の西田幹事は、長谷部教授の意見を引用した上で、衆議院議員の任期延長には民主的正統性の問題があるという御意見を述べられています。
これらの点について、当審査会における公明党委員の御発言は、参議院での公明党委員の発言とは全く逆のように思われますが、参議院の委員の発言は誤りということなのか。誤りでないとすれば、衆議院と参議院の発言の整合性をどう説明されるのか。選挙の一体性や七十日を根拠に国民の選挙権を制限する、しかも、憲法に定められた国会議員を選ぶ権利を、投票可能な地域も含めた全国の選挙区で一律に停止してしまう、そういうことの民主的正統性の問題について、公明党としてどのような見解をお持ちなのか、明らかにしていただきたく、質問いたします。
以上です。
○浜地委員 御質問がありましたので、お答えをしたいと思っております。
まず、参議院の我が党の委員がそういうような発言をしていることは私も承知をしておりますが、これまで、公明党会派として、そういった参議院の発言が公式な党の発言として公表しているということはございません。
その上で、私自身の意見を述べますが、私も弁護士でございますので意見を述べさせていただきますが、まず、要は、投票の同時性の憲法上の要請、先ほど十五条を引かれまして、これは国民固有の権利でありますので、とにかく、すべからく選挙ができるところは行ったらいいという解釈も成り立とうかと思います。しかし、片や、憲法四十四条、これは選挙権の付与に関する規定でありますけれども、基本的にはここでは、平等に、要は差別をしてはならないという表記もあるわけでございます。そして、現在は、投票価値の平等というところが、では、どこに表れているかというと、これは十四条等に表れているわけであります。
したがいまして、投票の同時性、同時期にしっかりとした同じ前提の下で投票するという、いわば価値の平等というものは憲法上にも根拠を見出せるんじゃないかというふうに私自身は思うところであります。
先ほど、国民民主の浅野さんも発言されておりましたが、繰延べ投票が、結局、選挙そのものでなく、選挙期日を繰り延べる、しかし、投票日は元々設定された日というふうにみなすということであります。こういった趣旨からも、繰延べ投票の制度で、同じ投票日とみなされないような期間を超えて行うことはなかなか難しいんじゃないかと私自身は思うところでございます。
以上です。
○枝野会長 柴田さん、もしあれば、短く。
○柴田委員 私の質問にお答えいただいていないと思うんですが、参議院と衆議院で矛盾していることは多分お認めになったと思うんですが、参議院ではなくて衆議院の委員がおっしゃっていることが党の見解なんですかということを御質問しております。
○枝野会長 浜地委員、幹事会オブザーバーですので、御承知のとおり、できるだけ各党派の中で党派としての見解をまとめてきてください、そして、それに基づいて御発言くださいと申し上げております。即答でできなければ次回でも結構ですが、参議院での御党の委員の御発言と全体としての整合性について御説明をいただければと思います。
○浜地委員 選挙公約等では、いわゆる議員任期の延長も含めてしっかりと考慮していくと。ですから、党全体としてそれを否定しているような見解は、我が党としては述べたことはございません。これについて検討していくというのが我が党の見解でございます。
○枝野会長 今の最後のところ、党の見解でよろしいですね。
○浜地委員 そうです。
○枝野会長 はい、分かりました。
○上川委員 自由民主党の上川陽子です。
立憲民主党の委員に質問をいたします。
選挙困難事態の発生可能性を判断するに当たりましては、選挙とはどういうものか、再確認をしていく必要があると考えます。すなわち、選挙ができる、できないというのは、単に投開票の可否という一点のみで判断すべきではないという問題提起です。
選挙というものはプロセスが重要であります。つまり、民主主義における代表者の選出においては、一、候補者が選挙運動を行い、二、有権者とコミュニケーション、対話を行って政策や人物を理解してもらい、三、有権者が納得した上で、四、誰に投票するかを決め、そして五、実際に投票を行うという一連のプロセスが重要であります。このプロセスが全体として機能して初めて、選挙が適正に実施されたと評価し得るものと考えます。
大規模災害時に被災地で選挙運動を行うことは、およそ不可能であります。懸命に復旧に取り組んでいらっしゃいます被災者の方々に向かってビラを配ったり、街頭演説を行ったりすることなど、到底考えられません。さらに、全国が一丸となって復旧に全力を傾注する状況であり、直接の被災地以外であっても、選挙運動を行う雰囲気ではありません。また、自治体職員も被災地の応援に当たるため、選挙事務の執行に困難を来します。
これらの点を踏まえると、プロセスとしての選挙を実施できない地域は、試算よりもかなり広範囲に及ぶものと考えられます。投開票だけであれば何とか可能な地域であっても、プロセスとしての選挙としては薄っぺらいものにならざるを得ません。
コロナ禍におきましては、外出や人と人との接触に大幅な制限が設けられました。このような状況では、候補者と有権者が直接触れ合って対話や議論を重ねるという選挙運動における本質的な部分が欠けざるを得ません。
私自身の経験として、コロナ禍の二〇二〇年四月、地元静岡で衆議院の補欠選挙が行われましたが、通常の選挙運動は一切できませんでした。静岡選出の議員として、民主主義の基盤である選挙のプロセスがこのようなものであってよいのか、非常に危惧を覚えました。
より毒性の強い感染症が大規模に蔓延し、外出が禁止される場合には、プロセスとしての選挙は全く実施できないことになります。
そこで、立憲民主党の委員に対して御質問いたします。
東日本大震災のような大規模災害が発生した場合、選挙運動ができると考えるのでしょうか。こうした場合、御自身が被災地でどのような選挙運動を行うつもりか、御見解をお伺いいたします。
○枝野会長 じゃ、山花さん、二分程度でお願いします。
○山花委員 まず、これまで繰延べ投票ということで提起をさせていただいてまいりましたけれども、これまでの議論の中で、例えば、今御指摘があったように、恐らくブロック単位で選挙がなかなか難しいよねというような事態が生じることもあろうかと思います。
その場合に、例えばブロック単位で投票日を変更するというような法改正であるとか、また、繰延べ期間が長くなった場合、先ほども説明がありました、選挙運動がずっと続いてしまうではないかということで、これは、何らかの対応をする、法改正を検討する余地、必要というのはあるのかなというふうに考えております。
また、先ほど来、若干ここはかみ合わないところがあるのかもしれませんけれども、私どもは、選挙ができるところはやはり選挙権の中身として四年なり三年以内にやるというのが一つの主観的権利になっていると思っておりますので、そこについては実施をする。そして、今あった、プロセスとしての選挙のところについては、これも繰り返しになるかもしれません、投票のところについてちょっと力を入れてしゃべってきたかもしれませんけれども、選挙運動も含めて、そういった事態にどうやって対応できるような運動ができるのかということを、まさに公職選挙法などで検討されるべき課題ではないかと考えております。
○大石委員 れいわ新選組、大石あきこです。
先ほど、船田幹事と維新の馬場さんにお伺いしたことの、私の改めての見解なんですけれども、私が冒頭主張したのは、憲法十五条は非常に重いよということを言っているんです。国民固有の権利である、衆議員を国民が選ぶということ、これはむちゃくちゃ重くて、それを上回る理屈があるんですかというようなお話をしたんですよ。
馬場さんがおっしゃったのは、資料2の構成要件、選挙困難事態の定義が二つありますねと言っていて、まさにその二つが立法事実がないんじゃないんですかという質問なので、答えになっていませんでした。
自民党の船田さんは、お答えになっていたんですけれども、一体性の話で、あった方がいいというのはそうだと思いますよ。だけれども、やはり、憲法十五条、国民がまず選挙で選んで始まるんだというところに対して、それを上回るような理屈ではなかったと考えております。
それから、改めて再質問なんですけれども、維新の馬場さんなんですけれども、また有志の北神さんにも同様にお聞きしたいんですけれども、そのお二人の今日の主張では、非常に、安全にも安全を重ねて、この任期延長をやった方がいいんじゃないかというようなお話だったと思うので、そういう話を聞いているときに、少なくとも二点思い立ったんですが、安全に安全を重ねる議論であれば、原発が有事のときに危険だという指摘というのはよくなされているわけですけれども、原発が危険だということに関しても言及されているのであれば論理的一貫性があり得るのかもしれないと思ったんですけれども、お二人はそれについてどう考えるか。
原発以外にもう一つ、地元をよく知る被災地の人が任期延長で議員にならなきゃいけないとおっしゃっているんですけれども、もしその方が亡くなったときという想定は、安全に安全を重ねるなら、したのでしょうか。やはり、その場合、被災地から選挙をして選ばないといけないと思うんですが、そこの想定をしたことがあるのかというのはお聞きしたいです。
それから、有志の北神さんが、立法事実という定義に関して、単に過去に生じたものというのは限定的だとおっしゃっているんですけれども、少なくとも有識者や、私もですが、単に過去に生じたことしか立法事実にしちゃいけないとは言っていなくて、蓋然性であったり総合的なバランスで立法事実を定義しているので、ちょっとそういう立法事実が、違う側の考え方の方の解釈を狭めているのではないかなと思いました。
以上です。
○枝野会長 今、最初の質問は馬場さんにでいいんですね。それで、北神さんには最後の一つ。
○大石委員 いえ、お二人、共に。
○枝野会長 最初の二つをお二人。
○大石委員 はい。安全に安全を重ねているということ。
○枝野会長 はい、分かりました。
じゃ、馬場さんには二つ質問が行っていますが、二分程度で申し訳ありませんが、お願いします。
○馬場(伸)委員 すばらしい御指摘を大石さんからいただいたと思います。
大石さんがるるおっしゃったようなことがいわゆる想定外の部分だと思いますから、そういった想定外が起こったときにどうするかという手だてを我々は考えているわけであります。
今日大活躍されている長谷部教授と同じグループだと言われていました東大の高橋和之教授は、この審査会に来られたときに、想定外のことが起こったときに、学者である高橋先生は、どういうふうに想定外に対応するべきだと思われますかという質問に対して、考えられないことが起こったときは、政治家が政治の場で決めるべきである、そういうことをおっしゃっています。
ただ、そのことについて、先に想定外が起こるという手だてを行うべきであるということを我々は主張しているわけでありますし、現実的に、今日の私の発言の中でも申し上げましたが、ウクライナでは大統領選挙も国会議員の選挙も延長になっているんですね。ですから、そういうことが起こるということは世界に絶対ないと……(大石委員「原発のことを聞いています」と呼ぶ)いや、だから、原発のこともそうですし、そういういろいろなことを、やはり想定外という中に包含しておかなければならない、それが我々の考え方です。
○枝野会長 不規則発言は、大石さん、おやめください。
じゃ、北神さん、二分程度で申し訳ありません。
○北神委員 原発ですね。(大石委員「原発と、亡くなった方、被災地で、衆議員、亡くなった場合」と呼ぶ)亡くなった人。
原発についても私は同じ考えで、これはやはり危機管理の発想なんですね。ですから、やはり、原発の危険性というものを科学的見地に基づいて考えなければいけないし、それに対して何か起きたときにどういう対応をするかということも考えないといけない。
我が国の問題は、原発を誘致するときにも、これは必ず、絶対、何の事故も起きないということを求められるわけですよ。そうすると、その過程で、いざ事故が起きたとき、要するに危機が生じたときにどう対応するかということを全く考えないというところが私は問題だというふうに思います。
二つ目の、亡くなる、それはそういうこともあり得るとは思いますけれども、その場合は、もう何とも対応できないと思います。だって、現に選挙もできないし、その方が生物学的に亡くなってしまうわけですから、それはもうやむを得ないというふうに思います。これは二点目です。
三点目は、立法事実、大石さんがどう考えているのかというのはちょっと分かりませんが、今までの議論を聞いていると、立法事実というのを非常に狭く解釈をして、皆さんからすれば仮定に仮定を置くというような話ですけれども、私が今日お話ししたように、地震学の科学的見地に基づいて、東日本大震災よりも規模の大きい、相当選挙にも影響してくる可能性があるということは合理的に予想される。
それを仮定に仮定を重ねているというふうに言われちゃうと、本来、立法事実というものの定義には逸脱してしまうんじゃないか。より抽象的に、可能性も含めて考えていかなければいけないというのが私の考えです。
○枝野会長 大石さん、申し訳ありませんが、十分今日は御発言の機会をつくりましたので、今日はここまでにしてください。
○細野委員 自民党の細野豪志でございます。
発言の機会をありがとうございます。
まず、今回は選挙困難事態の立法事実ということですので、一言申し上げますと、当時、私、官邸で補佐官をやっておりました。率直に申し上げて、あのときに国政選挙が来ていたとするならば、それはもう大混乱の中で強行するか、若しくは、憲法違反の疑いがある中で、実質的に延期せざるを得なかったというふうに思います。
例えば、先ほどの法制局の説明では、三比例ブロック、十五小選挙区ということでしたけれども、私は、それにとどまらなかった可能性があるのではないかと。具体的に申し上げると、例えば、自衛官も相当動員をされていましたし、警察、消防も全国から行っていた、自治体職員も動員されていた中でどうだったのかということも含めて検討すべきだと思います。
また、計画停電、東電管内はかなり行われていまして、それをまさに仕切っておられたのが枝野官房長官でしたけれども、果たして選挙ができたのかということも含めて、ややこれは机の上の議論になっていますので、実質的にどうなったかという議論もしていった方がいいと思います。
今日、私が武正筆頭幹事と少し議論したいと思うのは、これから憲法審査会をどのように運んでいくのかということで、一つ非常に重要な発言を枝野会長が二年前にされています。引用します。「どこかの党派の案をベースに議論するのではなく、議論の方向性を一致できそうなテーマは何なのかという点から全ての会派間で真摯に議論し、その合意に基づいて、会派間で段階的に方向性を確認しながら順次具体化していく。」と。これを中山調査会の合意形成プロセスというふうに表現をされています。
この考え方は、今も立憲民主党は変化がないのでしょうか。質問させていただきます。
○武正委員 細野委員から御質問をいただきました。ありがとうございます。
この会期で進めるに当たって、既に幹事懇談会などでも申し上げておりますが、それぞれ、やはり、党を代表して御発言をいただこうと。そのためにも、やはり、党内での議論、あるいは党内での情報共有、これにしっかりと時間をかけて、党を代表して発言していただこうじゃないかということで臨んでおりますことをまず申し上げたいというふうに思います。
その上で、当憲法審査会、これまでは、やはり、衆参三分の二以上の議員の発議でという憲法改正の条件がございますので、この憲法審査会でも、できるだけ多くの会派が合意する、あるいは一致する、そうした項目があればそれを探そうじゃないかということで来ているということだというふうに思っております。
ただ、今回、こうした形でちょうど六回、憲法審査会についてのテーマを既に幹事懇談会では合意をしております。その中で、今回と次回が選挙困難事態と、そしてまた参議院の緊急集会、そしてその後、二回については国民投票法の改正案について、そしてその後、解散権等について、あるいは臨時国会についてというようなテーマを決めております。
まだまだ、憲法審査会としてやるべきことについては、御案内のように、審査会規程にある三項目、憲法及び憲法に関わる基本的な法案についての調査などもあるわけですので、幹事懇談会などでは、憲法審査会でどんなテーマを扱ったらいいのか、それを是非出していただいて、それを基にこの憲法審査会というのを、今言った調査項目などの議論も進めていこう、こういったことを申し上げております。
以上です。
○枝野会長 細野さん、もしあれば、短く。
○細野委員 基本的には中山プロセスを維持するというふうに私は理解をいたしました。
枝野会長は、二〇一三年の文春に更にそれを詳しく書いておられて、中山報告書の中で多く述べられたという部分が、少なくともスタート台としては一致したものだったというふうに発言をされています。
そして、衆議院法制局の方に、それでは中山報告書の中で多く述べられた部分は何なのかということがまとめられましたので改めて振り返りますと、今議論された緊急事態における法制は、中山報告書という、枝野会長が高く評価をされ、そしてそこで議論されたプロセスの中の一致点、すなわち多く述べられたという項目に入っているということを申し上げたいというふうに思います。
ちなみに、憲法五十三条の臨時国会の召集の部分というのは、気持ちはよく分かるんですが、この中に入っていないんですね。ですから、もう一度スタート台を確認をして、中山報告書の一致点からスタートするということなのであれば、もう一度ここから幹事会でしっかりと議論していただきたい、このことを申し上げて、発言を終わります。
以上です。
○枝野会長 私が従来申し上げている私の個人的な考え方の基本は変わっておりませんし、中山調査会の調査報告書を高く評価しているという認識も私個人として変わっておりませんが、一方で、二〇一三年から既に十二年経過をしておりますので、その後のこの場等における様々な議論というものもその上に乗せた上で、今後どうするかということは各党の幹事の皆さんと御協議をして進めてまいりたいというふうに思っています。
○和田委員 日本維新の会の和田有一朗でございます。
私は、地元は実は神戸でございまして、一・一七、阪神・淡路の震災のときに、被災地の真ん中で、延期をされた統一地方選挙に出馬をした経験を持っています。候補者でございました。次に、三・一一、東日本の大震災のときも、私は被災地外の神戸で統一地方選挙に出馬をしている経験を持っています。ですから、二つとも議員あるいは候補者というような視点でこの経験を少し語りながらお話ししたいと思うんです。
このとき、一・一七、何が起こったかといいますと、まず電気、ガス、水道は止まって、道路は切れるし、鉄道は止まるし、電車は来ないし、何にもできない、駅立ちもできない、学校は避難所になっている、瓦れきの中で街頭もできない、ビラも配れない、こんな状況です。
そんな中で、じゃ、我々候補者、候補予定者は何をし始めたか。一・一七は、四月の、統一をやっておられる方は分かると思うんですが、直前で、最後の踏ん張りどころのときです。何をやるか。もう何にもできないので、ボランティアを始めました。水を配る。ホカロンを配った人もいます。パンを配った人もいます。弁当を配った人もいます。炊き出しをしました。風呂、温泉に連れていったこともありました。こんなことをやっていたんです。これが現場の選挙です、選挙ではありません、事前活動です。
お風呂屋さんを経営している人もいました、出ようとしている人で。この人、無料で開放せずに、お金を取ってお風呂を開けたんです。落ちました。町の人は何と言ったと思いますか。ああ、この人ね、無料で開放していたらトップ当選だったのにねと言われたんです。ホカロンを配った先生も、パンを配った先生も当選しました。これが現実です。みんな不安な中でやっていたんです。いつまでこんなことができ続けるかな、やれるだろうか、それは体力、財力、精神力、どれを取ってみても、こんなことが続くかなとみんな思っていました。
三・一一、これは、三月十一日、四月が選挙ですから、これも事前活動のピークです。このときに、私はもうチラシもポスティングもちょうどやっていたときだったんです。もうこれが止められなくて、まき切りました。そうしたら、すごい御批判をいただきました。街頭も街宣活動も自粛、普通でない選挙が始まって、多くの陣営は本戦中も自粛です。
こういう中で、私は思うんです、選挙は、投票ができるか否かではない、事前運動から始まって、投開票に至るまでのプロセスが必要なんだと。そのときに、投票や選挙モードにあるかということが有権者と共有できるかが重要だと思います。私は、二回経験した選挙戦を全国的な国政選挙に当てはめたときに、本当にこれが平等な選挙になって、選ばれたということを意味できるのかということ、今もって釈然としません。
そこでお伺いしたいことがあるんです、武正幹事に。
武正幹事は、一・一七のときに、埼玉県の県会議員の選挙に、私が東日本のときに被災地外で経験したような形で選挙をやっておられると思います。今の私の話を聞いて、幹事は率直にどうお感じに、かけているんじゃありませんよ、お感じになるのか、お伺いします。
○武正委員 和田委員、ありがとうございます。
私も、平成七年、県議会議員選挙、平成三年に立候補して次点で落選しておりますので、四年間の準備を経て挑戦する三か月前でございました。
地元でも活動していたんですが、地元の支持者の方に、あんた、こういうときこそちゃんと兵庫に行って現場を見てきなさい、ボランティアをというようなこともあって、当時、青年会議所が活動していましたので、それに応募して、十日後ぐらいですかね、現地に伺いました。
そのときに、尼崎の電気工事事業者の方と偶然行き会って、それで、二人でずっと一日、神戸市内を回ってそれぞれの対応をしました。本当に、三か月前の、県議選ということで、大変なそうした県議会の選挙を迎えられたというふうに思います。
ただ、今日我々が主張しているのは、有権者の皆さんの参政権それから投票権、これをやはり国民主権であれば第一に考えるべきであろうという主張でございます。
選ばれる側の、今言った選挙運動とか、あの東日本大震災のときも、私は埼玉でしたから、当然、計画停電の影響、また、候補者たちも自粛ということで、街宣車などを使わないでという申合せで、かなり選挙運動に影響が出たことは確かです。特に新人の候補者には多分影響があったと思います。
ただ、やはり、あくまでも大事なのは、有権者の側、そして投票する側の権利、そして、早くそうした代表を選んで、それぞれの復旧復興のための具体的な手続を進めてほしい、これが一にかかっての私たちの考えということでお伝えしたいと思います。
○枝野会長 和田さん、あれば、短くお願いします。
○和田委員 今そう言われましたけれども、有権者の側に立ってみると、これが本当に公正な選挙になるとは私は思えない。そういう意味で、やはり選挙困難事態であって、こういう状況では、やはり私は、立法事実はある、こういうふうに主張したいと思います。
それともう一点、最後に、大石委員が言われたように、やはりこれは議論を打ち切って採決をすべきだということに対して、枝野会長はお答えになっておられませんので、お答えを求めたいと思います。
○枝野会長 それについては、船田会長代理や武正野党筆頭と御相談の上、幹事会で協議をいたします。
大石さん、何度も御発言をされていますので、あと、長く札が立っている方は米山さんだけですので、時間がちょっと過ぎておりますが、米山さんまでやらせていただいて、今日は締めたいと思います。よろしいでしょうか。
○米山委員 御発言の機会をありがとうございます。
私は、今までの議論にコメントしつつ、選挙困難事態条項の濫用事例について発言させていただきたいと思います。
今ほど和田委員からお話があったことは、本当に大変だったと思いますが、まずもって、そういうときには繰延べ投票をするということであろうと思います。
また、上川委員からお話がございました、コロナ等でもちろん十全にできなかったんですけれども、しかし、本当に、じゃ、十全にできるときというのはあるのか。常に快晴で雨も降らない、そんなときでなければ選挙できないかというと、それは違うわけでして。やはり、いろいろな困難の中で、その中で折り合いをつけていく、要は、選挙の困難さと選挙をすることの利益の衡量といいますか、それを現実に合わせて満たしていくということであろうと思います。
今ほど来、幾つかの例が出ましたけれども、首都直下型で二三・九%、南海トラフで二八・六%ということでございますので、最大を見て三〇%。やはり、過半数ができないというような事態ではないということだと思います。逆に、過半数で選挙ができないような事態というのは、やはりなかなか科学的には想定し難いということであろうと思います。
また、馬場委員の言うような内乱やテロ、戦争においては、理念的にはもちろんそれは考え得ると思うんですけれども、一方で、国家機能が維持されているならば、それは選挙が可能であり、そういう中でも選挙をするということの価値というのはまた考えるべきことであろうと思います。逆に、国家機能が維持できていないような状況においては選挙困難事態条項の履行自体が困難なので、そのような事態において選挙困難事態の条項を履行するというのはある種の背理ではないかというふうに思います。
一方で、この選挙困難事態というのは、やはりそれは濫用のおそれというのは非常にあるわけでございまして、今出ている条項でということであれば、国会の三分の二を占める多数派がこれを承認する、内閣を選んで、さらに内閣が発議して、それを三分の二で承認するわけですので、これを国会でひっくり返すということはできない。そうすると、じゃ、一体ひっくり返す方法はあるのかというと、現行の憲法上はそれはなかなか考えづらい。
そうしますと、それこそ、先ほどちょっと例にも出ました、いや、コロナだから十全の対応ができない。何なら、インフルエンザが流行しているから十分な対応ができない。では、三分の二を持っている多数派がひたすらこの条項を使い続けて、ずっと権力を維持するということが可能になってしまうわけなんです。
そういった状況というのを、先ほど来、あらゆる状況を想定しなければならないという御意見があったわけなんですけれども、そうであるならば、そういう濫用的な状況というのもまた十分想定しなければならないということであろうと思います。
では、これに対応する条項を作ればいいではないかという御意見もあろうかと思うんですが、そうだとするならば、じゃ、一体性というものは一体どの程度の一体性というものが必要なのか。そもそも一体性とは何なのか。
私などの感覚では、そんなに、同時である必要はあるのか。そもそも、同時である必要があるというのであれば、現在の公職選挙法……
○枝野会長 まとめてください。
○米山委員 はい、失礼しました。
では、最後に質問させていただきたいんですけれども、駄目ですか。じゃ、まとめて終わらせていただきますが、一体であるというのであれば、公職選挙法五十七条一項の繰延べ投票自体が違憲になってしまうではないかということでございますので、やはり濫用事案についてきちんとした対応が取れていない、また、一体性というのは一体どこまで、何なのか、求められるのかということがない状態において、選挙困難事態ということを現在決めるような……
○枝野会長 まとめてください。
○米山委員 状況にはないというふうに考えております。
○枝野会長 予定した時間が経過いたしました。これにて自由討議は終了いたしました。
次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十一時五十二分散会