第8号 令和7年4月4日(金曜日)
令和七年四月四日(金曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 西村智奈美君
理事 小泉 龍司君 理事 津島 淳君
理事 中野 英幸君 理事 鎌田さゆり君
理事 黒岩 宇洋君 理事 米山 隆一君
理事 金村 龍那君 理事 円 より子君
井出 庸生君 稲田 朋美君
上田 英俊君 上川 陽子君
神田 潤一君 河野 太郎君
棚橋 泰文君 寺田 稔君
平沢 勝栄君 深澤 陽一君
森 英介君 山田 賢司君
若山 慎司君 有田 芳生君
篠田奈保子君 柴田 勝之君
寺田 学君 平岡 秀夫君
藤原 規眞君 松下 玲子君
萩原 佳君 藤田 文武君
小竹 凱君 大森江里子君
平林 晃君 本村 伸子君
吉川 里奈君 島田 洋一君
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法務大臣政務官 神田 潤一君
参考人
(国士舘大学法学部教授) 吉開 多一君
参考人
(日本弁護士連合会前副会長) 坂口 唯彦君
参考人
(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 樋口 亮介君
参考人
(成城大学法学部教授) 指宿 信君
参考人
(京都大学大学院法学研究科教授) 池田 公博君
法務委員会専門員 三橋善一郎君
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委員の異動
四月四日
辞任 補欠選任
井出 庸生君 深澤 陽一君
棚橋 泰文君 山田 賢司君
同日
辞任 補欠選任
深澤 陽一君 井出 庸生君
山田 賢司君 棚橋 泰文君
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四月二日
選択的夫婦別姓制度を直ちに導入することを求めることに関する請願(吉良州司君紹介)(第七二四号)
同(三角創太君紹介)(第八三〇号)
は本委員会に付託された。
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本日の会議に付した案件
情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第三〇号)
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○西村委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、国士舘大学法学部教授吉開多一さん、日本弁護士連合会前副会長坂口唯彦さん、東京大学大学院法学政治学研究科教授樋口亮介さん、成城大学法学部教授指宿信さん、京都大学大学院法学研究科教授池田公博さん、以上五名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れれば幸いでございます。よろしくお願いいたします。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、吉開参考人、坂口参考人、樋口参考人、指宿参考人、池田参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。
それでは、まず吉開参考人にお願いいたします。
○吉開参考人 国士舘大学の吉開と申します。
本日は、このように意見を述べる機会をいただきましたことに、まず御礼申し上げます。
私は、平成九年から十七年間、検事として、主に捜査、公判の現場で仕事をしておりました。警察と連携して捜査をしたこともございますし、検察官独自捜査事件の主任として自ら令状請求をした経験もございます。平成二十六年に退官しまして、現職に転じました。元々警察官志望の学生が多い大学であるため、現在は、検事時代の経験を踏まえて、警察官志望の学生を多く指導しながら、刑事訴訟法や刑事政策について研究をしております。
本日は、私の経験した限りではございますが、令状の実務も踏まえながら、情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法改正につき、本法案に賛成の立場から意見を申し上げたいと思います。
今回の改正では、令状について、電磁的記録により発付、執行することが可能になると理解しております。
情報通信技術が極めて高度に発達している現在において、刑事司法だけが取り残されている状態にあります。私が検事を退官してから丸十一年が経過しておりますが、令状の発付を受け執行する方法は、当時と変わりがなく、紙媒体を利用していると承知しております。
令状の発付を受けるには、令状担当裁判官の審査が必要です。令状審査では、それまでに捜査機関が収集した証拠を疎明資料とし、犯罪の嫌疑があることや、強制処分の必要性、相当性などを裁判官に確認してもらわなければなりません。現状では、この疎明資料は紙媒体でなければならないので、書類のデータを作成するだけでは足りず、紙にプリントアウトし、作成者が署名押印し、さらに各ページに割り印をするということをやっております。
犯行場所の状況は、関係する地点の距離を測ったり写真を撮影して、検証調書あるいは実況見分調書を作成することで証拠化されます。特に、殺人事件など重要な事案では、犯行場所について念入りな証拠化が必要になりますので、写真の枚数だけで百枚を超えたり、調書自体が数百ページに及ぶこともあります。そのような場合でも、警察官は、一枚一枚写真を現像し、のりで紙媒体に貼り付けるとともに、写真に割り印をし、さらに各ページにも割り印をして、検証調書あるいは実況見分調書を作成しておりました。
これらは、言うまでもなく、紙媒体の調書の改ざんを防止するために行われているものではありますが、そもそも、当初に作成した書類のデータに改ざん防止措置が講じられるのであれば、そのデータ自体を証拠として利用すれば足りるのですから、現在のやり方は膨大な時間をかけて不要な作業を強いていることになります。
令状審査が紙媒体で行われるため、現状では、捜査機関は作成した疎明資料を裁判官の下に持参しなければなりません。警察署、検察庁と裁判所が離れていたり、交通が渋滞したりしますと、片道の移動だけで一時間以上かかることもあります。さらに、令状が発付されても、今度はそれを持参して戻ってくる時間もかかります。
例えば、路上で違法薬物を使用している疑いがある人がいたり、犯罪に関連する重要な証拠物を所持している疑いのある人を警察官が発見したとします。任意の協力を拒まれた場合、一刻も早く令状の発付を受けなければなりません。しかし、現状では、一部の警察官が先ほどのような紙媒体を作成し、裁判官の下に持参し、令状が発付されて戻ってくるまでの間に、別の警察官がその人物の説得を続けて逃亡を防止するなどの措置を講じるしかありません。最初に疑わしい人物を見つけてから令状が執行されるまでに四、五時間かかることもございます。刑事訴訟法では、こうした留め置きの適法性が論点の一つとなっております。
このときの警察官の対応によっては、違法に留め置いたとして、収集した証拠の証拠能力が否定されることもあります。また、令状審査に時間がかかっている間にその人物に逃亡されてしまうリスクもあります。これでは逃げ得を許すことにもなりかねません。電磁的記録による令状の発付、執行は、特にこうした緊急性を要する事案で有効だと考えられます。
同時に、紙媒体の作成作業などが省略されることで、長時間にわたる留め置きは不要になり、裁判官による令状審査の開始も早くなると予想されます。そして、裁判官が令状請求を却下するのであれば、それ以上に留め置きを正当化することはできなくなりますので、疑われた人の行動の自由を保障することにもつながります。その結果、司法的抑制が更に実効性を増すことも期待されます。
今後の少子高齢化は、警察の現場にも大きな影響を及ぼす可能性があります。警察官志望の学生を指導しておりますと、そもそも厳しい仕事であることもありますが、だんだんと志望者が減少しているように感じております。優秀な人材は争奪戦になっているようにも見受けられます。仮に現場の警察官の数が十分に確保できなくなれば、これまでのやり方を維持することはできなくなるかもしれません。捜査の効率化、円滑化は、社会の安全を守るためにも、引き続き真剣に検討しなければならない課題だと考えております。
なお、捜査の効率化、円滑化が、対象になる人たちの権利を不当に侵害する結果を招くのではないかという御懸念もあるかもしれません。
しかし、電磁的記録により令状の発付を受けるようになっても、裁判官の審査基準が変わるわけではありません。今回の改正で効率化、円滑化されるのは、紙媒体の作成作業と裁判所までの往復に費やす時間を省くことだと考えられます。そして、これらは、省くことに合理的な理由があると言えます。
また、証拠物やデータは、実務では客観的証拠と言われるものになります。客観的証拠をできる限り収集し、十分に分析した上で捜査を進めていくことは、供述に依存しない、適正な捜査を実現するためにも重要だと言うことができます。
さらに、検察官が起訴をして刑事裁判になった場合、証拠物やデータは公判前整理手続における証拠開示の対象になり、被告人、弁護人もその内容を確認することができます。最近では、開示されるデータが膨大な量になるため公判前整理手続に時間がかかっているという話も耳にしますが、客観的証拠は被告人、弁護人の防御権を守るためにも必要だと言うことができます。
対象になる人たちの権利を不当に侵害しないように、憲法によって保障された令状主義の要件や手続を捜査機関に遵守させつつ、証拠物やデータを押収させることは、捜査の適正化を図り、被告人、弁護人の防御権を確保する上でも重要な意義を持つと考えます。
私の意見は以上です。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○西村委員長 ありがとうございました。
次に、坂口参考人にお願いいたします。
○坂口参考人 坂口でございます。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
日弁連は、各種技術の進展に伴う刑事手続のデジタル化には賛成でございます。しかし、現在の法案は、捜査機関の利便に資する多くの制度を創設する一方で、国民のプライバシーの権利や被告人の防御権を軽視し、バランスを欠いた内容になっているというふうに考えております。そのため、主に二つのポイントについて修正を強くお願いしているところでございます。
一つ目のポイントは、電磁的記録の収集に関する国民のプライバシー等の保護というところでございます。
捜査機関は、現行法上の電磁的記録の押収や任意捜査による電磁的記録の収集に加え、この度創設される電磁的記録提供命令制度により大量の電磁的記録を収集、蓄積、利用することができるようになります。
しかし、今日、個人や企業が所持、利用するスマートフォン、パソコン、クラウド、これは今日お集まりの議員の皆さんもそうだと思いますが、大量のプライバシー情報がパソコンやクラウドには入っているということになります。もちろん、議員の皆様だけではなくて、業務上の秘密、企業、それから個人の方の情報もございます。情報技術の進展に対応するための刑事法の整備というのはもちろん必要なことだと思いますけれども、プライバシーの権利を始めとする市民の方の権利を保護するための修正がなされなければならないというふうに考えております。
日弁連は、昨年三月十四日に表明した意見書の中で六つの提案をさせていただいております。本日は、時間の関係もございますので、要点のみ申し上げます。
まずは、犯罪と関係のない情報をできる限り収集しないという観点からの手当てが必要でございます。
実務上、電磁的記録が入った携帯電話機やパソコンが差し押さえられる場合、令状には、本件に関係あると思料されるといった文言や、これらに関連する文書、物件といった包括的な記載があることから、被疑事実と関連性の乏しい電磁的記録の差押えが行われているという現状がございます。
そうしますと、捜査機関は、犯罪とは無関係なプライバシー情報を収集し、それを濫用するということも実態としてございます。取調べの一部が可視化されたことによって、議員の皆さんも、プレサンス事件でありますとか、ほかの取調べの事件が一部オープンになっているものを御覧になったこともあると思います。取調べにおいて、事件と全く関係のない中学校時代の成績に触れて、その能力についてやゆをし、被疑者を侮辱した事例、また、被疑者の男女関係に言及して被疑者を侮辱し、知らせたくない人に知らせることを示唆して供述を迫った事例、被疑者のお子さんの精神疾患に言及して被疑者の態度、黙秘を非難した事例などが報告をされております。
このような状況の下で、市民のプライバシーや企業、労働組合の秘密が侵害されることを防止するためには、裁判所が厳格な令状審査をし、かつ令状で許可されたものだけを捜査機関が取得するとすることが不可欠だと思います。
そこで、まず、最低限、裁判所や捜査機関に対し、デジタル社会における個人情報保護の観点から、犯罪と関係のない個人情報をできる限り収集しないよう留意しなければならないということを明記すべきだというふうに考えます。
次に、不服申立ての機会を保障することが必要でございます。
不服申立てをするためには、情報を取得された個人又は団体がそのことを知る必要がございますが、本法案では、例えばクラウド事業者からある人の個人情報が提供された場合に、本人に何の通知もされないことになっています。それどころか、事業者に対し、無期限で、情報提供を行ったことを秘密にしておくよう命令する制度ということになっています。
不服申立ての機会を保障し、違法な処分を是正したり抑止したりする観点からも、情報収集をされた本人への通知制度を設けるとともに、秘密保持命令制度について、この命令について、秘密保持を命ずることができる期間を制限する、それが必要だと考えています。
さらに、違法で取得された電磁的記録を消去する仕組みが必要です。
法案では、違法な処分が取り消された場合にも、電磁的記録を消去する仕組みがなく、それは捜査機関に蓄積されていくことになります。しかし、それではプライバシー等の保護が不十分であることが明らかですし、不服申立ての意味がなくなってしまいます。電磁的記録提供命令や記録媒体の押収が取り消されたときは、消去が命じられるようにすべきというふうに考えます。
また、本法案は、憲法が保障している自己負罪拒否特権との関係でも問題がございます。
電磁的記録提供命令により供述を強要することはできないというふうにされておりますけれども、一方で、命令に違反すれば刑罰が科されますので、パスワード等の供述が事実上強要されるおそれがございます。電磁的提供命令の執行に当たっては、命令が自己の意思に反して供述することを命ずるものではないということを教示することを義務づける必要があるというふうに考えます。
以上が一つ目でございます。
二つ目のポイント、これはオンライン接見や電子化された書類の授受の点でございます。
私は、北海道の弁護士です。北海道では、弁護士の事務所から被疑者、被告人が収容されている警察署や拘置所まで車で何時間もかかるということがざらにございます。そして、特に冬期間は、天候により移動が不可能になったり、無理な移動をすれば命の危険も生じかねないということもございます。まさに命懸けで刑事弁護活動を行っているということになります。
また、北海道以外でも、例えば離島にある警察署などでは、弁護士が一回接見に行くだけでも丸一日かかる、泊まりがけになるということもございます。そのような地域では、とりわけオンライン接見の実現が切望されています。
全国のほぼ全て、五十七の弁護士会、弁護士会連合会がオンライン接見の早期の実現及び法制化を求める会長声明等を表明しています。
地理的な条件で接見に時間がかかるという場合でなくても、オンライン接見の必要がございます。もちろん、直接対面してやり取りをするということは非常に重要ですが、オンライン接見というやり取り、選択肢が増えますと、弁護士が被疑者、被告人に必要な援助をする機会の確保が格段に容易になります。そして、刑事手続を適正とするものに資することになると考えます。
弁護人が被疑者、被告人に面会をするために時間や労力を要するということは、その分、接見が遅れたり頻度が下がったりすることにより、冤罪の可能性が高まるということを意味します。そのようなことは本来あってはなりません。オンライン接見は、何より被疑者、被告人の権利のために重要であるというふうに考えます。
現在、一部の警察署などでは、試行として、電話などを使って被疑者、被告人と弁護人が話せる制度が実施されていますが、現在試行されている電話等による外部交通の問題の一つは、会話の秘密性が確保されていないということでございます。被疑者側の部屋の外には警察官が控えていらっしゃいますので、弁護人との会話を聞こうとすれば聞ける警察署が多いという問題がございます。そのような状況で行われますので、重要なことは話せない、話しにくいというところがございます。秘密性が確保されていないことで、せっかくの制度が十分利用されていないという課題も生じております。
これらの権利について、予算がないから権利化が実現できないというのは本末転倒だと思います。デジタル化に応じた弁護人の援助を受ける権利を保障するという観点からは、オンライン接見の条件整備を着実に進めていくということが必要です。全国の警察署や拘置所で一斉に進めるということになると予算上の手当てが難しいということはあるのかもしれませんが、そうであれば、計画的に設備を整備していって、近い将来のどこかで実現するということが重要でございます。
また、現在の法案は、身体を拘束された被疑者や被告人が電子化された書類の授受をするということができるとされておりません。弁護人が紙にプリントアウトをして、それを被告人に差し入れろということなのだと思いますが、これでは余計な時間も費用もかかります。刑事デジタル法の帰結がそういうことになると、デジタル化の名が泣くと思います。当事者であり刑事裁判に最も直接の利害関係を持つ被告人が証拠をそのままの形で見られないというのはおかしなことで、オンライン接見のほかに、電子化された書類の授受ということも重要な課題になると思います。
これらが直ちに全面的に実現するというのは難しいということだとしても、例えば附則などで将来的な実現に向けた道筋をつけていくということが必要だと思います。その際に重要なことは、現在試行されている電話等による外部交通の利用の妨げになっております秘密性の確保という観点を入れることと、段階的にこれらの制度を実現し、将来の権利化につなげるため、必要な取組を着実に進めていくこと、これを附則等で明記することだと思います。
身体を拘束されている被疑者、被告人が弁護人と接見し、物や書類を自由に授受できる接見交通権は、弁護人の援助を受ける権利の不可欠の要素と言えます。これらの点についてデジタル化がなされない限り、真の意味での刑事手続のデジタル化は実現しないと考えます。
国会議員の皆様におかれましては、立法府として、市民、国民の目線からこの法案を御審議いただきまして、適切な御修正をいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
以上でございます。(拍手)
○西村委員長 ありがとうございました。
次に、樋口参考人にお願いいたします。
○樋口参考人 御紹介にあずかりました樋口亮介と申します。
本日は、このような場で意見陳述を行う機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。
私は大学で刑法を教えておりまして、先般の法制審議会にて幹事として参加し、実体法の観点から発言させていただきました。
本日は、法案に賛成の立場から、新設される罪のうち二つについて意見を述べさせていただきます。
まず、電磁的記録文書等偽造等罪につきまして、直接のきっかけは、令状の電子化に関連して、電子令状の偽造に対応する必要があるとの問題意識でした。
従来の令状は紙媒体であったところ、電磁的記録の令状を認めると、その行使の際には令状データをタブレット等で名宛て人に表示するという形態が生じます。この形態を念頭に、電磁的記録としての令状として表示されるデータの外観を備えるようなデータを権限のない者が作成し、行使した場合に、適切な罰則を新設する必要があるのではないかという議論が進められました。
もっとも、このような問題意識のみでは、電磁的記録形態の令状の偽造への対応が必要であるとしても、電磁記録文書等の偽造を一般に処罰するのは過度に広範ではないか、例えば、軽犯罪法一条十五号の定める官公職の詐称等の罪を拡張すれば足りるのではないか、このような疑問も生じるところでございます。
しかし、現在ではスマートフォンが普及し、行為者がスマートフォンの画面に、作成権限がないのに作成されたデータを表示するといった事案も想定されるという形で、データとしての令状の表示という事案を超える当罰性が指摘できるところです。データを小型の電子機器で持ち歩き、その画面上に表示するというのは新たな現象であり、このような現象への対応が必要であり、立法事実は令状データの偽造に限られないと言えます。
もっとも、電磁的記録文書等偽造等罪の構成要件は、行為者自身が所持するデータ表示媒体の画面を相手方に示す事案だけに限られるわけではありません。行為者が送信するデータについて、受領者が所持する媒体で表示して閲覧する場合であっても適用可能である点で、必要性、相当性がなお問題になります。
例えば、私人が公務所の公式のSNSアカウントを乗っ取り、当該アカウントから公式の発表であると誤信させるようなデータを入力、送信し、閲覧者がその内容を読む場合、公電磁的記録文書等偽造及び偽造公電磁的記録文書等行使罪が成立すると思われるのです。ほかにも、権利義務又は事実証明に関するものに限定されるものの、私電磁的記録文書等偽造・行使罪が新設されますので、私人のメールアドレスを乗っ取って送信する、SNSアカウントを乗っ取って送信する事案も処罰対象になり得ます。
さらには、アカウントの乗っ取りがない場合であっても、データの発信主体が著名人と誤信させるに足りる外観を備えたデータの作成、受領者への発信行為について、権利義務又は事実証明に関するものと言えれば、偽造・行使罪が成立するように思われます。
これらの現象は、電磁記録文書等偽造等罪新設の議論の直接のきっかけであるところの令状データの偽造という現象とはかなり異なっているのは確かです。また、アカウントの乗っ取りという現象は以前から存在したわけですが、これについては不正アクセス禁止法による対応がなされています。ほかにも、著名人の発信の偽装は、それが財産の詐取に結びつくものであれば、刑法上の詐欺罪による対応が可能でしょう。
しかし、不正アクセス禁止法も詐欺罪も、データの発信主体を偽るようなデータの作成及び発信行為それ自体を処罰するものではありません。データの偽造及び偽造データの行使は、インターネット社会では以前から存在したのでしょうが、近時、その問題性が強く認識されていることは明らかです。
刑事罰の新設は、犯罪化することが要請されるような社会的現象の存在という立法事実が重要であると考えます。電磁記録文書等偽造等罪の新設は、刑事手続のIT化の一環として導入される電子令状の偽造という局面、スマートフォン等によるデータの持ち歩きと画面への表示が可能になったことから画面に表示させるデータの偽造という局面への対応、これらが立法事実になります。
しかし、それと同時に、データの発信主体を偽るデータの作成と発信というネット上の現象についても、アカウントの乗っ取りや詐欺といった対応を超えた対応の必要性が意識されるようになっていることもまた立法事実と見れば、その必要性は明らかでしょう。
そして、電磁的記録文書等偽造等罪という罪は、従前の文書偽造罪について蓄積されている判例を参照できるという点で、相当な立法との評価が可能です。
文書偽造罪の成立範囲については様々な議論が存在し、その限界線が一義的に明確とまで評することは困難であるのが実情とは思われるのですが、これは法律の解釈論の性質によるものであり、文書偽造罪固有の欠点というものではございません。
第二点、電磁的記録提供命令については、刑事訴訟法上の観点が重要ですが、間接罰及び両罰規定が法案になっておりますので、実体法の観点から、多少意見を述べさせていただきます。
間接罰の一般論として申し上げますと、一定の政策目的を達成するための義務づけについて、その履行を強力に担保することが必要であり、また、罰則を設けてもその弊害が許容範囲に収まるという意味での相当性が認められるかが問題になります。
電磁記録提供命令に罰則を設ける立法事実については、捜査の実情を知らない研究者が何かを申し上げることは容易ではありませんが、クラウドの利用が一般化した現在の社会生活への対応として、データ提出に非協力的な事業者に強制する必要性、及びデータを保護する暗号技術の著しい向上による捜査の困難状況への対応の必要性は認められるように感じられます。
また、相当性については、電磁記録提供命令の濫用にわたらない制度になっているとの刑事訴訟法上の評価によって基本的に基礎づけられると言えます。
実体法的観点から独自の相当性の評価に関する視点としては、被疑者、被告人を名宛て人にする義務履行の罰則による強制の当否という問題があります。
例えば、刑法典上の証拠偽造罪は犯人自身は主体にならないところ、学説では、犯人が自らの犯罪の証拠を隠滅することはやむを得ないとの発想があり、期待可能性がないと表現されているところです。この期待可能性の議論を被疑者、被告人を名宛て人とする電磁的記録提供命令に及ぼしますと、自らの犯罪の証拠を開示させることにつながる点で期待可能性が認められないとの議論が問題になり得ます。
しかし、例えば、特殊詐欺の被害金を隠匿するマネーロンダリングについては詐欺の犯人も処罰するとの立法がなされていることから明らかなのですが、期待可能性という視点をどこまで重視するかは立法政策に依存します。被疑者、被告人を名宛て人とする制度導入の必要性が高い場合、期待可能性の視点を後退させることも立法として可能と言うべきでしょう。
両罰規定について、一般論として言いますと、事業に関連して生じる違法行為について、事業者の刑事責任を問うことが必要、相当である場合に導入されるべきものです。
電磁記録提供命令について申し上げますと、データを保管する事業者の内部の従業員が個人の判断で命令に応じないとの意思決定をすることは通常考え難いように思われ、データ提供命令に応じない事業者自体の刑事責任を問うことが必要と考えられます。両罰規定を導入する場合、電磁記録提供命令の不履行の意思決定に関与した代表者、従業員等といった自然人と法人事業主に刑事罰が科されることになりますが、これは組織体による違法行為への対応として一般的なものであり、相当でないと評価されるものではありません。
私からの意見陳述は以上になります。御清聴ありがとうございました。(拍手)
○西村委員長 ありがとうございました。
次に、指宿参考人にお願いいたします。
○指宿参考人 おはようございます。成城大学から参りました指宿と申します。
本日は、意見陳述の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私は三十五年ほど、刑事訴訟法、法情報学、情報法などを教育、研究してまいりました。刑事訴訟法の分野では、これまで、取調べの可視化、録音、録画制度、証拠開示、あるいは最近話題になっています再審法、誤判救済問題等々を研究してまいりました。
情報通信技術の進展に関わりましては、主に情報学、法情報学の立場から、一九九八年ぐらいから、司法のIT化を熱心に唱える、そういう論考を数多く書いてまいりましたので、また、書籍も出版しておりますので、司法制度にITを利活用するという点については、全面的に、前提として賛成している次第です。
ところが、本日意見を述べさせていただきます電磁的記録提供命令、以下では省略して提供命令と申し上げますけれども、この点につきましては、反対の立場から意見を申し述べる所存です。
お手元に私の意見陳述資料がございますので、こちらを、細かい資料になっておりますので、要点をかいつまんでお話ししながら、私の意見を御説明させていただきます。
まず、今般の個人情報や通信情報に関わる提供命令の前提として、これまで、従来どういう手段が取られているかということを確認した上で、本提供命令の特徴というものをはっきりさせていきたいと思います。
スライドの二を御覧ください。
まず、現在存在する処分としましては、任意処分で捜査関係事項照会制度というものがございます。これは任意処分ですので強制することはできませんけれども、後ろにありますように、後ろに補足資料の一で捜査関係事項照会に関するデータをお示ししていますけれども、基本的に、事業者にとっては、照会状が来れば全部出すというのが実務であるというふうに承っております。
また、強制処分としましては、今回の提供命令の新設によって廃止されるとされています旧記録命令付差押えというものがございます。これは非常によく似た制度ですけれども、何が違うかということは、スライドの三に、提供命令を真ん中に置き、左側に記録命令付差押え、右側に捜査関係事項照会というものを置いて、分かりやすくしております。
例えば、処分内容ですけれども、これはいずれも、記録命令付差押えも事項照会も、電磁的記録の保管者から提出させる、提供させるという点で、ほとんど同種のものであります。違うのは、これに対して間接強制を加えるというところです。捜査関係事項照会は任意処分ですから当然ありませんけれども、現実には、照会状が来れば出すという実務が定着している。それに対して、記録命令付差押えには間接強制がないというところが大きな違いだろうというふうに思います。
また、保秘要請、処分の漏えい禁止につきましては、捜査関係事項照会には条文上これが明記されており、照会状の中の一番下に、下段にこれがはっきりと書かれています。これに対して、記録命令付差押えにはございません。この点が今回の提供命令の大きな特徴であり、しかも、これに違反した場合に罰則が加えられるというところが特徴であろうというふうに思います。
ただ、では、なぜこの新たな提供命令を創設するに至ったか。従来の記録命令付差押えや捜査関係事項照会でいかなる不具合があったのかという、立法事実が全く提出されていないところであります。
法制審議会に先立つ検討会では、エピソード的に捜査関係者からこのような支障があるというふうな物語が語られていますけれども、私が探したところ、捜査関係事項照会でどのような不具合があったか、あるいは記録命令付差押えでどのような、何件執行され、何件思うようなデータが取得できなかったかというような統計が全く提出されていないのが、今回の立法経緯の特徴であろうと思います。
具体的な問題としては、六点挙げております。
まず第一は、被処分者です。
今回の提供命令は、電磁的記録を保管する者と、これを利用してサービスを行っている事業者、この両方が対象になっているのが特徴であろうと思います。
捜査関係事項照会や記録命令付差押えは、ほぼ事業者を対象にしたものと想定されていますが、これが、被処分者が被疑者、被告人、またその家族も対象に含まれます。この点が大きな問題であろうと思います。
こうなりますと、当然、被疑者、被告人が本来有するべき権利利益がどのように保護されるか、あるいは、電気通信に関わるサービスを行う事業者の個人情報保護の義務がどのように担保されるかということが問題になるわけですけれども、それぞれについて十分な担保がなされているとは考えられません。他国の制度を挙げておきました。
また、提供されるべき対象データについても、特定性がございません。あらゆるデータが対象になっている。また、その種類、内容に制限がありません。大量に取得された場合の探索的な取得に対する歯止めがありません。
特に、今般の提供命令については、事前の令状請求に対する審査というものが用意されていますけれども、いかなる情報が取得されて保管されているかという事後的なチェック、事後的な保護手段が用意されていないのが今回の欠点として指摘できると思います。
三番目は、保秘要請ですね。
保秘要請の要件が抽象的に過ぎると思われます。また、保秘期間の定めもございません。また、保秘に対する被疑者、被告人側からの不服申立てがありません。同種の規定はドイツの刑事訴訟法にございますけれども、被疑者への通知延期は最大六か月で、延期はあくまで例外であるというふうに条文上定められています。また、違反に対する罰則も重過ぎるのではないかと思います。
四点目は、電磁的記録の保管、保存です。
これは、先般のGDPRの日本側の十分性認定に先立って、欧州側から指摘されていた問題です。捜査機関による個人情報の収集につき透明性に欠けるという指摘がございました。これは補足資料の二で詳細に説明しておりますので、こちらを御参照ください。
特に、電磁的記録に関わる、あるいは通信に関わる事業者からデータを押収した場合、そのデータ主体である個々人に対する告知の規定がございません。つまり、事業者側は不服申立てはできるけれども、データ主体である個々人は全く自分のデータが取得された、収集されたことに気づかないまま事態が推移する、捜査が推移するということがございます。これは各国で大きな問題となっており、やはり事後的なチェック、あるいはデータ主体に対する告知制度を設けるというような担保が取られているところです。
五点目としましては、先ほど来申し上げています間接強制ですね。
被疑者、被告人を被処分者に含める、今回の提供命令の対象とすることからしますと、これは黙秘権の侵害と重なってくるのだろうと思われます。
最後は、内容確認措置と必要な処分です。
今般の法案では、内容確認のため必要な処分ができるということになっていますけれども、これはいわゆるアクセス制御の解除を念頭に置いたものだろうと思われますが、これについて、例えばイギリス法では、パスワード開示要求を間接強制することは法的に認められていますが、一定の要件が課されています。国家安全保障、犯罪発生の防止、犯罪の探知、英国経済利益の保護といった要件が課せられているところです。
このように、各国の法制度を比較した丁寧な比較法的検討がされていないのが今般の立法経緯ではないかと思います。そうした点を、全体的評価として、スライドの十に掲げておきました。
また、電気通信事業者や通信に関わる事業者からデータを取得することが前提になっているところ、個人情報保護法の専門家が今般の法案作成の議論に参加していないという点も私は問題ではないかというふうに思いますし、そうした大量の個人情報を取り扱う大規模事業者等からの意見聴取も公的にはなされていないというふうに承知しています。これらの点は、先生方の方で、是非、この立法についてお考え直しいただきたい。
一言で申しますと、個人情報、通信情報を扱う大規模事業者に対する取得処分と被疑者等の管理する電磁的記録へのアクセスを同じ提供命令という一つの行政処分で一緒に立法しようとしたというところが、これがミスマッチなのではないかというふうに私としては評価している次第ですので、是非御検討いただきたいと思います。
以上です。(拍手)
○西村委員長 ありがとうございました。
次に、池田参考人にお願いいたします。
○池田参考人 皆さん、おはようございます。ただいま御紹介にあずかりました京都大学の池田でございます。
本日は、このように参考人として意見を述べる機会を与えていただきましたことを大変光栄に存じております。お礼を申し上げます。
私は、大学では刑事訴訟法の研究、教育に携わっております。そして、今回の法律案につきましては、法制審議会刑事法部会において委員として審議に加わりました。本日は、部会での議論を踏まえまして、法案に賛成の立場から意見を述べさせていただきます。
初めに、総論的に申し上げますと、刑事手続における情報通信技術の活用は、国民負担の軽減や、あるいは手続の適正さの一層の向上をもたらすことが期待されるものである一方、技術的手段への置き換えによって、構築する制度のいかんによっては、かえってその適正さを損なったり、あるいは手続の趣旨、目的の実現を損なうものとなるおそれもあります。
刑事手続の全般にわたり情報通信技術の導入を図る今般の法案も、個々の施策ごとにそうしたメリット、デメリットの比較検討を経て作成されたものと承知しており、その当否を始めとして、検討に値する論点は多岐にわたるものと承知しておりますが、本日は時間も限られておりますので、これまでの議論においての中心的な検討課題の一つとされてきた電磁的記録提供命令の導入について意見を申し上げたいと存じております。
以下、基本的に、お配りした資料に沿って話を進めさせていただきます。
まず、電磁的記録提供命令は、必要な電磁的記録を、その保管者に対して、当該命令をする者の管理に係る記録媒体に記録させ又は移転させる方法により提供することを命じることとされており、記録媒体の差押えを伴うことなく必要な電磁的記録を保全するものとされています。
電磁的記録提供命令は、とりわけ電磁的記録媒体をその対象とする差押えや現行法九十九条の二の規定する記録命令付差押えと比べると、差押えや記録命令付差押えが物の占有の取得を内容とするものであるのに対し、電磁的記録提供命令は、必要な記録そのもの、あるいは必要な記録の記録された記録媒体を提供させるものである点に違いがあります。一方で、電磁的記録の保全を目的とする点で、共通する性質を持っております。
このように、記録を保全するものであるという点で、通信内容を保全するための、通信傍受との同質性に思い至るかもしれません。
ただ、さきに述べた差押え等が、電磁的記録提供命令も含め、いずれも処分の時点で既に電磁的記録として存在する記録の保全に向けられたものであるのに対し、通信傍受は、処分の実施と並行して、いわばリアルタイムに発生する通信を対象とする点において、処分の性質に違いがあり、処分に及ぶ規律にもその性質に応じた差異が生じ得るものと考えられます。
そこで、その規律の内容について見てまいります。
捜査機関が電磁的記録提供命令をする場合、令状が必要とされ、そのための令状には、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法等の記載が求められています。これは、捜査機関に裁判官のあらかじめ発する令状に記載された範囲での電磁的記録の保全を認めるものであり、憲法第三十五条の令状主義の要請を受けたものです。
この趣旨に鑑みると、保全の認められる提供させるべき電磁的記録の範囲は、保管者の保管に係る被疑事実に関連性を有する電磁的記録に限定されることになります。そして、その対象は、現行の記録命令付差押えと同じく、必要な電磁的記録であり、電磁的記録提供命令となっても、その範囲に違いはありません。
他方で、確かに、現代の社会において用いられているデータの総量は以前に比べれば膨大なもので、それに応じて保全されるべき記録の容量も膨大なものになり得るわけですけれども、膨大であるということと、それが捜査や立証と無関係であるということとは当然には結びつかないものと考えられます。
次に、この電磁的記録提供命令は、その対象から被疑者が除外されておりません。そのために、場合によっては、被疑者に対し、自身に不利益な電磁的記録の提供を罰則の担保の下に命じることがあり得ることになります。それが憲法第三十八条第一項の定める黙秘権と抵触するとの指摘もあります。
ここで黙秘権が強要を禁じる供述とは、口頭によるか文書によるかを問わないものの、言語を用いた観念の表出などと理解されております。そのため、処分によって新たに観念の表出を強いるものでなければ、黙秘権の保障には抵触しないと考えられます。実際、通常の差押えにおいても、被疑者が既に作成した文書がその対象となることはあるものの、その場合も、黙秘権が禁じる供述の強要とはされていません。また、最高裁判所の判例は、酒気帯び運転のおそれがある者に対し呼気検査を実施することは、その供述を得ようとするものではないから、検査を拒んだ者を処罰しても憲法三十八条一項に違反するものではないとしています。
同様に考えれば、電磁的記録提供命令の対象も、既に存在する電磁的記録である以上、その提供を命じても供述の強要には当たらないと考えられますので、黙秘権の保障と抵触することとはなりません。
また、命じられる記録には、電磁的記録に付されたパスワードを解除して行うことも想定されていますが、新たにパスワードを伝えるように強いることを意味しないため、この場合も黙秘権には抵触しません。そのため、もちろん、そうした誤解の生じないようにする必要はあるものの、規定それ自体が憲法に違反するということにはならないものと考えられます。
また、電磁的記録提供命令は、記録の保管者に命じられるものである一方、それを保管させている者、便宜的に情報主体という言葉を使いますが、情報主体の知らないうちに記録が捜査機関に提供されてしまうことがその者の権利保障との関係で問題があり、処分がなされたことを情報主体に通知する旨の定めが必要との指摘もあります。
もっとも、従来、他人の保管する自分のものであっても押収等の対象とされることがありましたが、その場合に、その情報主体に通知すべき旨の規定は置かれていません。とりわけ、記録命令付差押えについては、まさに指摘されているような事態が生じることとなりますが、現在も同様の扱いとされております。
このように、現行刑事訴訟法は、被処分者、処分を受ける者以外の処分に利害を有する者には、処分実施の事実を伝えるものとはしていません。そして、電磁的記録提供命令の創設によっても、情報主体の地位は従前の記録命令付差押えの場合と異なるものではない以上、今回の法改正によってこれまでと異なる対応が求められることにはならないものと考えられます。
また、提供された電磁的記録の保管や消去に関する規律を設けるべきとの指摘もあります。
もっとも、これも先ほど述べたところと同様に、電磁的記録提供命令の創設によって、情報主体との関係で、記録命令付差押えが実施された場合と質的に異なる問題が生じるものではありませんので、ここでも、今回の法改正によって従前と異なる対応が求められることにはならないものと考えられます。
もちろん、そのこと自体の当否には様々な意見があろうかと思われます。特に、処分が違法として取り消された場合に、なお複製された記録が捜査機関の手元に残り、依然として利用可能とされることは不合理だとの考えもあり得るでしょう。
もっとも、最高裁判所の判例の内容ともなっている現在の基本的な考え方の下では、処分の違法は、その処分によって得られた資料等の利用可能性を当然に失わせるものではないとされています。そして、これは証拠一般に妥当する考え方であり、電磁的記録に限ったものではありません。さらには、証拠を保全する処分の性質にも様々なものがあり、それらの違いをも踏まえた検討が必要となると思われます。
したがって、仮に処分取消し後の記録の消去等を検討するのであれば、さきに述べた基本的な考え方に及ぼす影響も考慮に入れながら、さらには、電磁的記録に限定されない、刑訴法全体に及ぶ大がかりな検討が求められる作業という大規模な課題であるものと認識をしております。
以上で私の話を終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
○西村委員長 ありがとうございました。
以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○西村委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。井出庸生さん。
○井出委員 おはようございます。自由民主党の井出庸生と申します。
本日は、五人の先生方、誠にありがとうございます。
早速ですが、今日は、電磁的記録提供命令に絞って、先生方の御知見をいただきたいというふうに思います。
まず、池田先生に伺いたいと思います。
お話の中で、現行の記録命令付差押えと今度の提供命令というものは、処分の性質に違いはないというようなお話がございました。その一方で、これまでは媒体として取ってきたものを、今度は媒体ではなくて、情報そのものを取ってくるという変化があると思います。
特に、裁判所が令状を発付する際の令状審査については、媒体があるかないかで、例えば警察、検察官が書かなければいけない提出させるべき電磁的記録が、より限定されたものでなければいけないですとか、もっと言えば、今度の命令には罰則が伴いますので、裁判所もこれまで以上に慎重な令状審査が求められるのではないかなと思うんですが、その辺り、池田先生のお考えを聞きたいと思います。
○池田参考人 お答え申し上げます。
まず第一点は、媒体がついているかどうかによって、移転すべき、あるいは記録すべき情報の範囲に違いがあるかどうかということと理解しましたけれども、実際上は媒体の容量によって制約があると思いますけれども、現在も、媒体の容量は非常に、飛躍的に増大しておりますので、それが処分の性質に質的な差異をもたらすものではないと考えられます。やはり捜査あるいは立証に必要な記録を記録させるという点では共通の性質を持っていると考えてよいものと思われます。
二点目の、罰則があるので裁判官の審査が慎重になるのではないかということは、実際上はそのような効果が生じるだろうというふうには思われますけれども、従前の記録命令付差押えも、最終的には媒体を強制的に取得するという形で強制処分が実施されるものとされておりまして、だから安易な審査が行われていたとは思わないところであります。やはり審査の対象は、あくまで記録すべき記録が関連性の範囲にとどまっているかどうかということでありまして、その点に質的な差異はないものというふうに考えております。
○井出委員 ありがとうございます。
同じ質問を、法制審の幹事をされていた樋口先生にも伺いたいと思います。
令状審査に臨む裁判官の令状審査の在り方について、変化があるとお考えか、これまでと同じでいいとお考えか、そこを伺っておきたいと思います。
○樋口参考人 お答え申し上げます。
専門が刑法の見地でして、令状審査の実情を存じ上げるわけではないということはお断りさせていただきますけれども、事実上の効果として、罰則があることを意識するようになるという変化はあるでしょうけれども、理論面から見たときに、強制処分として許される範囲を審査するという、そのような運用自体には変化がないはずであるというふうに考えます。
○井出委員 吉開先生にも伺いたいと思います。
先生は平成二十六年まで検察官をされていたということで、今の、旧法の差押えの方は多分平成二十三年頃の法律議論であったかと思いますので、少し重なっているかなとも想像するところなんですが、先ほど申し上げました、検察官又は警察官が令状に記載すべき提出させる電磁記録というものについては、媒体があっても媒体がなくなっても変わらぬ記載でいいのか、それとも、媒体ではなくなるからより限定したものを書かなければいけないと考えるか、ちょっとその辺りを教えてください。
○吉開参考人 お答えいたします。
当時から、記録命令差押えのときから限定は行ってきたということですので、そこが今後変わるということもないと思います。
○井出委員 再び池田先生に教えていただきたいと思います。
先生のレジュメの(5)、電磁的記録の情報主体に対する通知の要否、これは、今の差押えの規律でも必要はないとされている。平成二十三年、民主党政権のときに立法審議があったものですが、その際、江田五月法務大臣は、手紙を押収するときに手紙の差出人にそのことを伝えるばかがどこにいるんだと。ばかとは言わなかったです、もっと丁寧な言い方をしたんですが、それはそのとおりだと思うんです。ただしかし、電磁的情報は、手紙というわけにはいかない。
それから、(6)なんですが、保管、消去というものが、物であれば、ある程度限られた場所に、スペースに保管しておくということは可能だと思いますが、データであれば、パソコンの中の話にメインはなってくるのかなと思います。
先生がおっしゃった、押収されたものが違法であったとしても直ちにその押収物の証拠能力は否定されないというお話は、昭和の五十三年の最高裁判例でそのとおりだと思いますし、法務大臣の答弁でも、そのような考え方をもって、先生が先ほどおっしゃったように、現行の刑事法にはなじまないとか、全体への影響というようなところも、それは法務省、法務大臣も指摘しているところです。
しかし一方で、もう御存じだと釈迦に説法で大変申し訳ありませんが、その最高裁判例は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があって、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合において、その証拠能力は否定されると。
このデータの話は、媒体とはいえ、それから指宿先生がおっしゃった任意の手法によって、データというものは、かなりのものはもう実際に捜査の中で使われていると思います。
では、それが今回の提供命令によってどれだけ広がるのか。広がる懸念もあるという御意見もあれば、もう既に広がっているだろうというような御意見もあります。
しかし、これまでの媒体とか物を基本にやってきた刑訴法の考え方から、物を取っ払うわけですね。そこはちょっと慎重に入らないと、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でない、この判例は、将来性に重きを置いているわけですね、将来起こり得ることにですね。
そのことは、ここで媒体という概念がなくなる提供命令が出るわけですから、将来のことを考えた慎重な取扱いというものは必要ではないかと思いますが、先生のお考えをいただきたいと思います。
○池田参考人 お答え申し上げます。
電磁的記録提供命令ということで、電磁的記録に着目した処分となることによって、違法収集証拠排除法則と呼ばれる考え方の適用の在り方に違いが生じるのではないかという御指摘と理解しております。
しかしながら、先ほどのお答えの繰り返しになるかもしれませんけれども、処分の目的はあくまで必要な電磁的記録の保全ということでありまして、媒体が関与しない、関わらないということによって、当然にそれが広がるということ、従前の記録命令付差押えの範囲と質的に異なる拡張をもたらすものではないと考えられます。
将来にわたる影響も踏まえて考慮すべきだという御指摘は、なるほど、確かにそのとおりだというふうに考えておりますけれども、そこで念頭に置かれておりますのは、現に起きた違法な捜査の在り方というものが将来にわたって反復されてはならない、そういうことを述べるものでありまして、過去に起きた具体的な捜査手法の当否を、どれだけ将来にわたって繰り返されてはならないかという観点から評価すべきものであって、電磁的記録提供命令が導入された後も、電磁的記録提供命令そのものについてそのような評価が当てはまるかどうかということを考えることになるのだと思っております。具体的になされた処分、その当否を論じることになるものと考えております。
以上です。
○井出委員 なかなか、では、今回の提供命令によって何を将来的に気をつけなければいけないかというところも、私自身もちょっと直ちに思い浮かぶものがないというのは、現時点ではそういう状況でございます。無論、これまでにあったように、そもそも令状自体が偽造であるとか、そういうものは論外だと思いますが、何か少し気をつけるべきところは、これから考えていかなきゃいけないと思います。
それから、先生のレジュメで保管、消去のところのお話を触れていただきましたので、ちょっと伺いたいと思います。
法務省、法務大臣の答弁の中でも、今回のものは現行の法律によって適切に保存されていくという話があって、御存じのとおり、裁判で確定したものについては確定記録法、不起訴のものについては不起訴の文書の保存の規定があったりするわけですけれども、中には警察から検察に送致されないものですとか、それも、いろいろ警察庁の通知等で、必要がなくなったら処分しろとか、DNA、指紋も被疑者が死んだら処分しろとか、そういうものはあるんですが、ここは非常に難しいところで、保存、消去の規定を設けて、消去をすれば二度と取り返しがつかない。
例えば、再審事件に関して言えば、ないないと言われていたものが結果的にあって、冤罪が数十年も後に、かかってしまっていることは問題ですけれども、晴らされるということもあって。
少しこの法律から外れるとはいえ、その関係性は非常に重要だと思いますが、捜査の記録や証拠物、文書の法整備の必要性というものについての先生のお考えをいただきたいと思います。
○池田参考人 お答え申し上げます。
捜査の過程で収集された物件がいつまで保管されるのか、必要がなくなったときにどのように処理されるのかということについて明確な規定がないというのは、御指摘のとおりであります。既に法務大臣等からも説明があったように、適切に保管されているという説明の範囲で運用されているものと承知しております。
これは、委員御指摘のとおりですけれども、今回の法改正に限った話ではなくて、刑事手続全般にわたる重要な課題であるとは考えておりまして、全般を見通した検討が求められるという点で、さきに述べたとおりの見解を持っております。
以上です。
○井出委員 ありがとうございます。
まだ少し時間があるので、今後の議論の参考のために、引き続き先生にお尋ねをしたいんです。
先ほどの最高裁判例を国会の答弁等で扱うときに、違法に収集されたものも直ちにその証拠能力を失うわけではない、その一方で、私が触れた、令状主義とかを没却する重大な違反があるのであれば、それはきちっとその証拠能力が否定されなきゃいけない。
私は、その両方をきちっと国会審議の中で、質問する方も質問し、答弁する方も答弁しなきゃいけないと思うんですけれども、そこをちょっと、先生の御見識だけいただいておきたいと思います。
○池田参考人 お答え申し上げます。
排除法則の適用の在り方について、これはなかなか個別の事案ごとに特徴がありまして、収集手続の違法の悪質さといいますか、そういうものは様々でございまして、研究者にとっても、なかなかこうだという一律の議論をすることが難しいという理解を持っております。
したがいまして、議論されることは非常に有意義だと思いますけれども、ルールとして明確化していくには、やはり電磁的記録提供命令の運用も含めて、事案の蓄積を待って、更に判断の精緻化を図っていくということと併せて議論されるべきことだろうというふうに考えております。
○井出委員 時間も参りました。
本日は、先生方、大変ありがとうございました。
○西村委員長 次に、鎌田さゆりさん。
○鎌田委員 おはようございます。
本日は、それぞれの専門家の皆様、貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。立憲民主党の鎌田と申します。
今回の法改正、これは、捜査機関の便宜に偏って、国民の権利利益の保護、実現という視点を欠いた不公平なものにしてはならないと私自身、本会議それから今週は火曜日にこの委員会でも議論がありました、そういったことを強く、やり取り、質疑を通して感じた一人として伺ってまいりたいと思います。
最初に、まず坂口参考人に伺いたいと思います。
日弁連さんでは、電磁的記録提供命令の執行をするときは、処分を受ける者に対し、この命令は自己の意思に反して供述をすることを命ずるものではないことを教示しなければならないものとするべきだという御意見ですけれども、それを明文で規定する必要性について、もう少し詳しく教えていただきたく存じます。
○坂口参考人 御質問ありがとうございます。
電磁的記録提供命令制度が供述を強制するものではないということは、法制審部会第十五回会議の法務省の参事官の御発言の中にも、当該電磁的記録について、解除するパスワードなども含めて、供述を命ずることはない、命ずる義務はないですという御回答をいただいており、この法案でも前提にはなっているんだと思うんですよね。
ただ、実際のところ、法律の知識がない市民の方が今回の命令を受けた場合に、例えばパスワードについても供述をしなきゃならないというふうに誤解を受けるということは十分あり得るということだと思うんです。誤解をしてしまって、パスワードを結果的に言うことを強制されてしまう。しかも、今回の命令は刑事罰も伴っておりますので。
そうすると、そういうことを防止するために、この命令の執行に当たって、命令が自己の意思に反して供述することを命ずるものではないですよという、ある意味当たり前のことをきちっと明確に伝えるということを明文で求めるという必要性を強く感じております。
少し例は異なりますけれども、例えば、映画とかドラマ等で、逮捕された被疑者の方に黙秘権の話とかあるいは弁護人を頼む権利の御説明がある場合がありますよね。ほかの制度でも、やはり一定の処分を受ける方が権利であるとか説明を受ける告知というのは、実際制度としても存在しますし、運用としてもございます。
やはり、今回の命令制度というのが広く新しい制度である以上、そういったことをしっかりルール化しておく必要があるというふうに、日弁連、私は考えております。
以上です。
○鎌田委員 ありがとうございました。
その第十五回の法制審での参事官の発言を私も議事録で拝見しまして、それが今回の法改正に反映されていないなという疑問は残っておりますので、ただいまの御意見は非常に尊重したいなという気持ちで伺いました。ありがとうございます。
次に、指宿参考人に伺いたいと思います。
法制審の刑事法部会設置に先立つ検討会、こちらも先ほどの意見陳述で御紹介をくださいまして、同検討会で取りまとめの報告書ができ上がりました。それも見ますと、検討会でまとめられた報告書で確認された基本的認識というものが、今回の法改正にどこに反映されているのか。全部とは言いませんけれども、なかなか反映がされ切れていないなという疑問を抱いていた一人として、うなずきながら先生のお話を伺っていたんですけれども。
そこで伺いたいのは、電磁的記録提供命令の執行をするときは、処分を受ける者に対して、この命令は自己の意思に反して供述をすることを命ずるものではないことを教示しなければならない旨を明文で規定することについて、例えば正当な捜査の妨げとなるなど何らかの弊害が生じるということは考えられますでしょうか、御意見を伺いたいと思います。
○指宿参考人 ありがとうございます。
先ほど御説明しましたように、今般の提供命令の処分の客体が、被疑者、被告人等の事件の当事者である場合と事業者である場合と二通り考えられると思うんですけれども、第三者の。特に第三者は事業者が予定されていると思いますが。前者については確かに、妨げになるということは捜査側からすると考えられると思いますけれども、後者の第三者の、いわゆる大規模データ収集事業者等についてはそういうことがないのではないかというふうに考えます。
○鎌田委員 ありがとうございました。
続けて指宿先生に伺いますけれども、捜査機関による電磁的記録の収集について、市民のプライバシー権など憲法上の権利を侵害する危険性をはらんでいて、果たして、私は、提案されている改正案、今のままでいいのかという危惧を現時点では抱かざるを得ない一人であります。
そこで、電磁的記録提供命令や記録媒体の押収は捜査の初期段階で行われることも想定されると思うんですね。そこで令状が概括的な記載になって、その結果、犯罪と無関係な情報まで捜査機関が収集する危険性は大きいように思われます。
電磁的記録の収集に当たっては、被疑事実との関連性を強く求めるなどの規定を設ける必要があると私は考えるんですが、先生の御意見はいかがでしょうか。
○指宿参考人 ありがとうございます。
大規模なデータ取得について司法による令状審査でどこまで歯止めがかけられるかという問題が問われているのだろうというふうに思います。
これは、いわゆる強制処分に対する事前規制というふうに学界では言われていますが、もはや事前規制ではコントロール、制御する、あるいは妥当な取得範囲を担保していくのは難しいのではないかということが共通の理解になっております。すなわち、これは事後的にチェックするしかない。
具体的な例を一つだけ申し上げますと、令和三年二月、最高裁決定で、通称FC2事件という電気通信サービス事業者に関わる事案で、わいせつ物の提供があったということで、その者が利用している海外のサーバーから大量の顧客の個人情報が取得されています。数万人規模のそのサービス事業者を利用している個々人の、例えば氏名、住所、クレジットカード、誕生日等々の個人情報が取得されています。これについて最高裁は、これは捜査の必要上致し方なかったということで、違法判断はしておりません。ただ、被告人側は、これは余りにも大規模過ぎるのではないかということで、上告でも争っておりました。
遡りますと、フロッピーディスクの時代に、最高裁は、フロッピーディスク一枚をデータを特定しないで押収しても、それは広範な情報取得に当たらないというふうに適法判断をしております。
ただ、今般のクラウドからの数万人の顧客情報の大量取得が、事後的に、そのデータがどのようにデータ主体に告知され、あるいは廃棄した、消去したというような処分がなされたということは全く不明なままであります。
私は同種の事件が多く発生しているのではないかというふうに想像しますけれども、これを正面切って争った被告人あるいは企業の方がそう多くはないために参照事例がないわけですけれども。議員御指摘の懸念は非常に正当なものであり、この問題を回避するといいますか、防止するには、やはり事後的な規制、押収したデータがきちんと保管、管理され、あるいは消去されているかということを担保するメカニズムが必要だと思います。
これが、GDPRの十分性認定に先立って、欧州委員会側からも、日本の捜査機関のデータ取得に対する透明性が欠如しているのではないかという指摘の前提にあったものと承知しています。
以上です。
○鎌田委員 ありがとうございました。大変参考になりました。
続きまして、池田参考人、池田先生に伺っていきたいと思います。
「証拠を保全する処分の取消し等と事後措置」と題されました先生の御論考を、少なくとも立憲民主党の法務委員は全員拝読させていただきました。柴田委員が御紹介をくださって、みんなで読ませていただきました。
そこで伺うんですけれども、電磁的記録提供命令や記録媒体の押収の処分が違法なものとして取り消されたとしても、電磁的記録は消去されないとすれば、犯罪と無関係な市民の個人情報を含む、違法な処分で収集された情報が捜査機関に蓄積されることになります。また、消去されないものであれば、わざわざ不服申立てをするメリットもないことから、違法な処分が放置されることになるように思われます。電磁的記録提供命令や記録媒体の押収の処分についても、処分の取消しに伴う電磁的記録の消去の仕組み、これを設ける必要性があるのではないかと考えるのですが、是非、先生の率直なところでの御見解を伺いたいと思います。
○池田参考人 お答え申し上げます。
まず、委員の先生方に拙稿をお読みいただきまして、大変お礼を申し上げたいと思います。
その上で申し上げますと、将来的な課題としては、やはり、電磁的記録に着目した保管、管理の仕組みというものは設けられてよいものだと思われます、考えられるものだというのが、将来的にはということでありますけれども。
やはり、現状は有体物に着目した規律が中心で、その見方で、それと整合的なものとして今回の法案も考えられておりますので、そこに、特に例えば電磁的記録提供命令のみに着目した何か別の仕組みを設けるとなりますと、それはそれとして全体の整合性を損なうという懸念もございます。
なので、見方の転換を図るのであれば、それは相応の議論の蓄積を待ってというのが私の率直な印象でございます。
○鎌田委員 ありがとうございます。
法制審での先生の御発言を追って拝読をさせていただきながら、やはりそこがマックスのところかなと。でも、池田先生にあえてお聞きしたんですけれども。でも、将来的にはというところが本当にせめてもの先生の絞り出しての今の御意見だったんだろうと拝察しながら拝聴させていただきました。ありがとうございます。
坂口参考人に再び伺いたいと思います。
先ほど北海道での刑事弁護の活動も御紹介をいただきました。立憲の弁護士では、こちらの篠田委員が同じく北海道で、片道三時間、四時間かけて、直ちにと、憲法に基づいて、行かなきゃいけないという、直ちに、直ちにということを頭で念じながら、車を飛ばして、飛ばしているというか適正な速度で車で向かうという、火曜日の質疑のときに篠田委員も自分の体験を紹介していたんですが。
坂口参考人に伺います。オンラインの接見及び電子化された書類の授受について条文で規定する必要性があると思うんですけれども、御見解について伺いたいと思います。
○坂口参考人 ありがとうございます。
今日資料でおつけした、二十四の六というところに、北海道における遠距離接見の例というのを紹介させていただいております。是非御覧いただきたいんですけれども、稚内で逮捕された被疑者に接見するために旭川の弁護士が向かうということになりますと、車で片道四、五時間かかります。ここには高速道路も全てつながっているわけではございません。大変不幸なことですけれども、実際に高速道路の移動中の交通事故、刑事事件の関係でお亡くなりになった北海道の弁護士がかつていらっしゃいました。
もう一つ言えることは、二十四の六にございますとおり、全国的に今、拘置支所の廃止の動きが進んでおります。これは北海道に限らず全国で、拘置支所、あるいは、昨日の朝日新聞の報道によりますと、女性の留置場が集約されているという報道もございました。
そのように、被告人、被疑者と弁護人との距離が、実質的にもそれから実際にもアクセスが本当に遠くなり、困難となっているということでございます。これをしっかり、御質問いただいた証拠の書類の授受という点も含めて、きちっと被疑者、被告人と弁護人とのアクセスというものを、この刑事デジタル化の流れに合わせて、両輪として進めていかなければならないということを本当に強く思います。
篠田議員からも力強い御発言をいただいておりますけれども、日弁連としても、しっかりこの権利の法制化に向けた最低限のことはきちっと立法府で決めていただきたいというのが強い願いでございます。
ありがとうございます。
○鎌田委員 修正というものが必要不可欠だなということを改めて感じました。
各参考人の皆様、ありがとうございました。
以上です。
○西村委員長 次に、藤田文武さん。
○藤田委員 日本維新の会の藤田文武でございます。
本日は、五名の参考人の皆様、お忙しいところ当委員会にお越しいただきまして、ありがとうございます。
それでは、質問に入らさせていただきます。
まず、樋口参考人にお聞きしたいと思います。
電磁的記録文書等の偽造罪については、元々の直接のきっかけは、令状等の偽造という現象から派生していってということというふうにお聞きをいたしました。
その上で、広がってくる中で、実際の個別ケース等もいろいろ考えられるわけでありますが、まず、この構成要件というのが明確かということをお聞きしたいと思います。
例えば、SNS上で表現行為が過度に広範に処罰されるということになると、表現の自由が不当に制約される、そういう懸念もありますが、その辺りについてのお考えを聞きたいと思います。
○樋口参考人 お答え申し上げます。
新設される電磁的記録文書等偽造等罪につきましては、個々の要件解釈に関しましては従前の文書偽造罪の要件解釈を直接に参照可能となっておりまして、その点によって明確性は担保されるというふうに考えます。
限界事例はもちろんありまして、一義的に常に明確とまでは申し上げることはできませんが、少なくとも、SNS上等においてデータの発信主体を偽る行為、要するにネット上での別人への成り済まし行為ですね。これに関して、あるいは、公電磁的記録についてはですけれども、公務所又は公務員について内容虚偽のデータを発信する行為、これらを処罰対象にすることが表現の自由の不当な制約と評価される、こういった事態は考えにくいように思われます。
○藤田委員 ありがとうございます。
ちょっと例えばの例で、著名人のSNSアカウントを誰かが乗っ取って、虚偽の投資実績を紹介したりして詐欺行為を行ったような場合、今回の電磁的記録文書等の偽造罪や不正アクセス禁止法、詐欺罪等様々な罰則規定の適用というのが入り組むと思うんですが、その適用関係というのは具体的にはどうなるのかというお考えを聞かせていただけたらと思います。
○樋口参考人 罰則新設に当たりましては、具体例を想起すること、こちらは非常に重要でございますので、非常に貴重な質問と承りました。
まず、SNSアカウントの乗っ取り行為に関しましては、従前から不正アクセス禁止法違反として処罰可能でございます。それから次に、当該アカウントを利用して、例えばですけれども、投資実績を紹介するデータを作成する、そういったデータをホームページに掲載したりメールを送信したりする行為ですね、これらが新設される電磁的記録文書等偽造罪あるいは行使罪に該当するというふうに考えられます。最後に、投資詐欺が成功に至れば刑法での詐欺罪であり、失敗に終わっても詐欺未遂罪になるかと思われます。
今般新設される罪について申し上げますと、データを作成した時点で偽造罪が成立する。この点で詐欺罪よりも成立時期は早まるということになります。
このように、従前から不正アクセス禁止法違反と詐欺罪が成立し、さらに、今般新設される電磁的記録文書等偽造罪、作成罪が成立し、四罪成立するわけですけれども、これらを一個の罪として扱うか別個の罪と扱うかに関しては、罪数という技術的な議論がございます。
○藤田委員 ありがとうございます。
次に、電磁的記録提供命令について、数名の参考人にお聞きしたいと思います。
先ほど来、この委員会でも、前回もそうだったんですが、妥当な押収範囲というのは、確かに範囲を限定するのは非常に難しい、技術的にも難しいというのは確かに分かるという中で、先ほど指宿参考人から事後的な抑制という観点のお話をいただいて、私も非常にそれは重要な指摘だなというふうに思うわけであります。
その御意見について、吉開参考人、現場をよく御存じかと思いますし、それから賛成の立場の池田参考人に御意見を頂戴したいと思います。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
大量にデータが取得されるということがかなり言われているようではございますが、それはいかんせん事件によるというのが現場の考え方ではないかと思います。
例えば会社絡みの組織的な犯罪ですと、データでなくても大量の書類を持ってくる必要がございます。データも大量になるのは、そのような組織的背景があるとか関係者が多数にわたる事件に限られると思いますので、常にデータが大量に取得されるというふうな前提が、私はちょっと違和感を感じるところでございます。
○池田参考人 お答えを申し上げます。
事後チェックということでいいますと、令状の記載自体が概括的であって漠然としているという問題もあれば、令状の記載に従わずに過度に広範囲に取得してしまったということもあろうかと思います。
いずれにしても、電磁的記録提供命令に対しては不服申立てが可能でありまして、そのような手段でまずは対応することが肝要であろうと思っております。
さらに、これまでにも議論に出ておりました違法収集証拠排除法則の文脈に照らして考えたときに、令状の記載の範囲を著しく超えたとかそういう問題があれば、その適用を通じて抑止を図っていくということもあり得るので、事後チェックという視点が重要であるということについてはそのとおりであろうと思っております。
○藤田委員 ありがとうございます。大変参考になりました。
それから、電磁的記録の保管や保存についての問題点を指宿参考人にも御指摘いただいて、なるほどなというふうに思ったわけでありますが、一方で、現行の記録命令付差押え等でも同じような問題があるということで、電磁的記録提供命令の個別の事案ではないというふうに理解したんですが。
そもそも論として、やはり、全てにおいてそういう保管、廃棄についての法整備をすべきというお立場か。いわゆる今回の電磁的記録提供命令は、例えば押収の手法が割と拡大されるから容易に広く押収できてしまう可能性や、又は間接強制がついているとかということから、個別の法律に特化してもやはりこの規定を作るべきというお考えかを、指宿参考人と坂口参考人にも聞かせていただけたらと思います。
○指宿参考人 ありがとうございます。
大量データ取得につきましては二つの問題があると思います。いわゆる犯罪関連証拠であるかどうかを確認する前段階として大量に収集されるということと、もう一つは個人情報の問題になります。
サービス提供事業者の場合、大量の無関係者の個人情報が含まれることは事前に想定されているわけですよね。例えば被疑者の氏名等で特定するとしても、顧客データを丸ごとダウンロードしなければならないということになると、例えば一万人の顧客がいる場合、九千九百九十九人のデータを削除しなければならないはずであります。ただ、データとしては一個となっているために、これをダウンロードするという、あるいは提供させるということになろうかと思いますけれども。じゃ、そのプロセスを誰が責任を持って行うかということは、現時点では一切これは捜査機関に委ねられてしまっている。これでは幾ら事前に令状で特定されていても、無関係情報が本当に消去されたのか、そのまま警察のサーバー等に残っているのかということが確認し得ないという問題であります。
先ほど最高裁判例について申し上げましたが、かつての最高裁判例は、一・三メガバイトのフロッピーディスクです。御紹介した令和三年の事例は、サービス事業者で七テラバイトのデータが取得されています、七千ギガですね。これを最高裁は適法と判断してしまったんですが、私はやはり時代遅れだと思います。余りにもデータの量が違うわけですね。
やはり、データの量に見合った事後的なチェック、とりわけ個人情報についてはそうした担保がないとならないというふうに思いますので、委員会の諸先生方におかれましては、是非とも安全弁を、事後的なチェックを設けていただきますよう、切に望む次第です。
○坂口参考人 御質問ありがとうございます。
御質問いただいた、いずれかというところのお答えで申し上げますと、いずれもということになるんだと思います。
まず、現状にまず問題があるというふうに考えております。現状行われている捜索、差押えが、被疑事実と関連しないものも含めた大量の情報が差し押さえられているということが前提になっていて、それの延長線上にあるこの電磁的記録提供命令制度が問題ないと言われても、やはりそこはきちっと慎重に検討する必要があるというのが一つ目でございます。
もう一つは、まさにこの法案の対象となっている大量の電磁的記録という、対象が更に広がるというところがございます。
現状と、まさに新しい制度であるという、二つのいずれの観点からも、日弁連としては、最低限、これは当たり前のことですけれども、犯罪と関係のない個人情報をできる限り収集しないという、ある意味当たり前のことをきちっとお約束いただきたい。そこは立法府の中できちっとルールとして決めていただきたいというのが日弁連のお願いでございます。
以上です。
○藤田委員 御主張はよく分かりました。ありがとうございます。
それから、違反への罰則の話も御指摘がありました。一年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金のお話ですが、ちょっと重過ぎるんじゃないかというのが指宿参考人からもありましたが。これについて、樋口参考人、それから指宿参考人、そして坂口参考人から、この軽重についての御意見をいただきたいと思います。
○樋口参考人 お答え申し上げます。
まず、法定刑の定め方の一般論としてですけれども、処罰対象の違法、責任の程度に応じて定められるべきというふうにも言えますけれども、そうは申しましても、現実に具体的な数字を特定することは容易ではございませんから、類似性を持つ既存の条文との比較が有用というのが実際のところかと考えます。
法案のうちの拘禁刑の方に関しましては、刑事訴訟法上の証言拒絶罪と同一というふうに定められておりまして、証拠の顕出の妨害という点で共通性を持つ点で、参照することが許されるというふうに考えます。罰金額の方は、こちらは高く定められているんですけれども、電磁的記録の保管者の資産が大きいということが想定されますので、既存の条文よりも罰金については重くするということも許されるというふうに考えます。
○指宿参考人 ありがとうございます。
私の資料ではスライドの六になります。保秘要請のところの罰則ですけれども、電磁的記録提供命令の比較対象になる、いわゆる提出命令、サピーナとかプロダクションオーダーの違反では、このような重い制裁は諸外国では見られないところなので、この点については比較法的に重過ぎるのではないかということ。それと、問題点として申し上げていますように、保秘要請の要件、保秘期間、保秘に対する不服申立ての制度がないことも併せて考える必要があろうかと思います。
以上です。
○坂口参考人 御質問ありがとうございます。
日弁連として、罰則自体の軽重というか、重さ軽さについてオフィシャルな検討や意見などを申し上げるというところは正式にはございませんので、ここからは私の個人的見解ということになりますが、そもそも罰則ということを前提とした枠組みになっているということ自体が、そうであれば、日弁連が修正をお願いしている各点についての、しっかりとした個人情報、プライバシーの保護、権利を守るための手当てが必要ということは強く思うところでございます。
以上です。
○藤田委員 五名の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。
○西村委員長 次に、小竹凱さん。
○小竹委員 国民民主党の小竹凱です。
本日は、五名の参考人の皆様、お忙しい中お越しいただきまして、ありがとうございます。
早速、質疑に入りたいと思います。
まずは、指宿参考人に伺いたいと思います。先ほど、先生、意見陳述の中で、一九九八年頃から刑事司法のデジタル化に向けて取り組まれておられたということで、私、九八年生まれの二十六歳ですので、大変恐縮でございますが、質問させていただければというふうに思います。
まず、先生が書かれた「法情報学の世界」という本の中で、いろいろ書かれておりました。ITのマイナスの側面というところについてお聞きしたいというふうに思います。
取調べの電磁的記録が広く聴取されることによって、取調べの映像が一般的に増えていくかというふうに考えられますが、その一方で、視聴する側に与えるバイアス効果というところについて先生がおっしゃられておりました。
特に、裁判員裁判制度など広くある中で、今後、刑事訴訟におけるデジタル証拠に特に映像が重視されていく中で、裁判官や裁判員に与える視覚情報による心理的バイアスが無視できないというふうに考えられておられるかと思いますが、映像の持つ暗黙的な誘導力に対して、どういった中立性の担保を検討すべきとお考えでしょうか。お考えがありましたら教えてください。
○指宿参考人 ありがとうございます。
本日の私の意見陳述とは直接関係しませんけれども、これまで、私、取調べの録音、録画の制度設計並びにその逆のインパクトについて論文を書いたり発言してまいりましたので、その観点から簡単に御紹介いたします。
私が取調べの録音、録画は進めるべき立場であったところ、映像インパクトに気づきましたのは、二〇〇七年ぐらいの頃だったと思います。
それはどういうことかと申しますと、アメリカの心理学者のラシター教授とその研究チームが、取調べの録音、録画映像を被験者に見せると、普通に音声やそれから書面で供述調書を読ませた場合よりも、任意性や信用性が高く評価されるという実験結果を論文にしたものがあるんです。心理学の論文ですので、法学の雑誌ではないんですけれども、複数出ているのに気づきました。
このラシター教授のチームは、市民もそういうふうに感じるだけでなく、これを、被験者を変えて、法執行官や現役の裁判官に見せても同じような効果が得られるということを発見しました。これを彼らは、カメラ・パースペクティブ・バイアスという、CPBと略しておりますけれども、そういう名称をつけました。
これを知りまして、私は、心理学者らと一緒に日本でも同じような同種の実験をしてみましたところ、やはり同じような傾向が出るということが確認できましたので、学会や法律雑誌等でこの問題を提起しました。
例えば、ニュージーランド警察は、このラシターらの研究結果を受けて、カメラを被疑者と取調べ官の横から撮影するという、ニュートラル方式と言われる、そういう撮影方法を取り入れているところです。
これは、人間は人が話しているのを正面から見ると、その人がしゃべっていることを信じてしまう、自らしゃべっているというふうに感じてしまう、これはもう避け難いバイアスなんですね。これを避けるためには横から撮影する方がいいだろうということで、より妥当な方法を取り入れたということでございます。
これまで日本の裁判例では、この映像インパクトを避けるために、例えば、音声だけを法廷で再生するとか、あるいは、取調べの様子を書き起こした、いわゆる書き起こしの文字を裁判官、裁判員が証拠として読むというような回避措置が取られているということを聞いております。
全ての裁判でそのような対応が取られているわけではございませんが、やはり、人間の心理というものはルール等で規制することは難しいものですので、やはりこうした、私どもの言葉で言うと、環境そのもの、条件そのものを、取得する場合の、取調べの様子を取得する環境を変えないと、なかなかバイアスを抑止することは難しいのではないかというふうに考えている次第です。
ありがとうございます。
○小竹委員 ありがとうございます。
まさに先生の、法と心理学の広い意味での研究のことだと思いますので、ちょっと、これをしゃべり過ぎると終わりそうなので、次のテーマに行きますが。
私が先日の本会議の際に、いわゆる今回の電磁的記録の情報提供命令がなされた際に、一番大きな情報源となるのはスマートフォンで、スマートフォンのロック解除を、提供命令すると、それは自己負罪拒否特権に当たるのではないかというようなことを言って、大臣からは、それはしないというような答弁をいただきましたが。
これまた指宿先生の論文に面白いことが書いてありまして、ロック解除も様々パターンがありまして、PINコード、いわゆる暗証番号であれば自己負罪拒否特権に当たるからなされないんだけれども、指紋認証でスマホがロックされていた場合、刑訴法の二百十八条三項の方で捜査機関が指紋を採取することが可能である。これが転用されれば、もしその方が指紋認証で解除可能なスマートフォンを使われていた場合、これは解除されるおそれがあるのではないかというようなことを書かれており、大変勉強になったところですが。
それ以外に、いわゆるある種、違法性がないところでロック解除が突破できるような方法、先生が思いつく中でほかにありましたら、是非教えていただきたいというふうに思います。
○指宿参考人 ありがとうございます。
被疑者の持つスマートフォンのロック解除については世界中で捜査機関が頭を悩ませているところですが、私の仄聞するところで、日本では、一番捜査機関が簡単にできる手段としては、顔認証のロック解除について、被疑者の同意を得ないまま顔の前にかざして直ちに解除している。あるいは、本人の顔写真撮影や指紋採取と、流れ作業で、任意という形で、指紋で解除させているなどの実態があるというふうに聞いているところです。
この点につきましては世界中で議論があるところで、今日の資料でも配付しておりますように、フランスは明文で、捜査機関は専門家の援助を得ることができる、そういう命令も発することができるという規定を置いておりますし、合衆国では令状によってこれを取得する、これといいますのは、パスコードであるとか指紋を取得するというような処分を導入しているところでございます。
○小竹委員 ありがとうございます。大変勉強になりました。
次の質問に入りますが、吉開参考人に是非お伺いしたいと思います。私、法務の分野が本当に素人でございまして、今回の法務委員会に当たりまして勉強させていただきまして、本当にたまたまなんですけれども、基本刑訴法の論点整理の本を買わせていただきまして、紹介のところに吉開先生の名前がありましたので、ありがとうございました。
質問に入らせていただきますが、刑事手続のIT化が進む中で、勾留とか拘禁の、身柄を拘束されている被疑者、被告人に対して、電磁的記録のアクセス、電子化された書類授受が定められておりませんが、これは処遇法とか施設の運営の観点から、こうしたデジタル防御環境の整備についてどのような制度課題があるとお考えでしょうか、お伺いします。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。また、拙著を読んでいただきまして、ありがとうございます。
なかなか施設関係、留置施設あるいは刑事施設に勾留されている被疑者、被告人に対して、デジタル環境にアクセスするというのが難しい課題になっているというのは私も聞いておりまして、どうしてもそういった施設は、内部での規律維持といいますか、いろいろな情報が入ってしまうことで中でちょっと混乱を招くということを防がなきゃいけないというふうな、そういった側面もございますので。ただ一方で、委員会などでも議論になっているというふうに承知しておりますが、デジタルでアクセスする必要性はあるだろうというのも否定できないところだとは思っております。
オンライン接見も同じようなところがあるかもしれませんが、そういった目標を定めつつ、そちらに向かって着々と進めていくというふうなことが求められるんじゃないかなというふうに思っております。
以上です。
○小竹委員 ありがとうございます。
今、オンライン接見の話が出ましたので、坂口参考人にも伺いたいと思います。
先ほどの意見陳述の中で、オンライン接見、計画的に設備を整備していくことが重要であるというふうにおっしゃられておりまして、私も、権利としてこれは確実に保障するべきだというふうに、同じ考えでございます。
その中で、タイムリーな接見や秘密性を確保した上での質の高い弁護活動を設計していく中で、先ほどおっしゃられた、計画的にとか段階的に、どういったことを具体的に考えられているのか、もう少し具体的に説明いただければと思います。
○坂口参考人 ありがとうございます。
オンライン接見に関して言いますと、意見陳述の中でも少し触れさせていただいた、今、一部非対面型の交通というのが始まっております。これは全国全ての警察で行われているわけではないんですが、弁護人が一定の、例えば拘置所の方にいる、あるいは検察庁の方にいて、警察の方にいらっしゃる被疑者とまさに電話でつなぐというところで、画面つきのものを東京と大阪では行われておりまして、それは弁護士会の負担でその設備をつけているんですけれども、それはモニター越しで話をするというところが行われておりまして、実際にそういった意味では一部試行は行われていて、これは法務省さんとも日弁連はお話をしながら順次拡大していくというような方向性でいろいろお話は、そこはある意味協力しながら進めているところなんです。
そういった警察での設備であるとか、法務省の所管の設備であるとか、そういったところをしっかり整備していく、設備として整備していく。そのときに、やはり先ほど申し上げた秘密性というところも一つの尊重していただきたい要素ということになりますし、そういったところをしっかり進めていくというところを、今回の修正でしっかり立法府の御意思として決めていただきたいというのが強いお願いでございます。
実際に、本会議の中でも話題になっておりますとおり、勾留質問や弁解録取のところなどにつきましては、そういったオンラインで行うということも設備として整えるということがこの法案の中に入っております。
そうであれば、被疑者、被告人と弁護人のアクセスができる、いわゆるオンライン接見であるとか、それから書証、証拠関係の電子的な記録のやり取りもしっかり整備していくということを、立法府の御意思として是非お定めいただきたいというのが切なるお願いでございます。
○小竹委員 ありがとうございます。
本当に段階的にではありますけれども、確実にここは迅速に進めていかなければならないというふうに思いますので、ありがとうございます。
次の質問に入りますが、池田参考人に伺いたいと思います。
池田先生も刑事司法現場のIT化について様々書かれておりました。刑法雑誌の中で書かれておりまして、刑事手続のIT化について、紙や対面が物理的要素を必須としてきた従来の手続、存在形態自体に意味があるのではないか。そして、オンラインで証人尋問する場合と比べて、実際に、現実に法廷に出頭させる方が、裁判所としての、直接観察できますので、信頼性であったり評価性が高まり、直接対面を通じて手続が行われること自体に意味があるというふうに書かれておりました。
そこの配慮をされている上で質問したいのが、ビデオリンク方式が拡充されていく中で、いわゆる対面性が持つ実態的機能、身体的、心理的プレゼンスをどう位置づけて、オンラインでも代替する制度は可能か、また、どういった工夫が必要かというのを具体的にというか、ちょっと考えを是非お伺いしたいと思います。
○池田参考人 お答え申し上げます。
証人尋問のオンライン化ということに関して言いますと、一方においては、それがなければ調書の朗読で証拠調べせざるを得なかった当事者が、画面越しとはいえ、直接のやり取りを通じて事実認定のための証拠を提供することができるというよい面がある一方で、今御指摘があったように、画面越しであることで、事実認定者に与える影響が、情報量が削減されてしまって、その信用性の評価が難しくなるという問題があります。
実際にそのような手段を用いるかどうかは最終的には裁判所の相当性の判断に委ねられておりまして、裁判所において当事者の権利保護の観点と並んで事実認定に与えるインパクトを考慮して最終的に判断される。そういう意味では、やはり一段落ちる、例外的な手段だということは否定できないと思います。
したがいまして、そういう影響があってもなお、事実認定に与える影響が少ないとか、問題がないと評価される場合に用いられる、そういう手段であると位置づけられることになるのではないかと考えております。
○小竹委員 質問を終わります。ありがとうございました。
○西村委員長 次に、大森江里子さん。
○大森委員 公明党の大森江里子でございます。
五人の参考人の皆様には、大変お忙しい中、国会まで足をお運びくださいまして、誠にありがとうございます。大変貴重な御意見、御知見を拝聴させていただけますことを感謝申し上げます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
先ほど小竹委員もおっしゃっていらっしゃいましたが、私自身も今まで司法の世界に身を置いておりませんで、法務委員会の委員にしていただきまして、今、必死で法律用語など専門用語を学んでいるところでございまして、もし可能でございましたら、本日の御意見は少し平易な表現で御回答いただけますと誠にありがたく存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
初めに、池田参考人にお伺いさせていただきます。
先生は法制審議会で今回の法案の審議に大変深く関わってこられましたが、その審議の中で、特に先生が印象に残っていらっしゃる議論ですとか、判断をすごく悩まれた、難しかった御検討などがございましたら、言える範囲で結構なんですけれども、教えていただければと思っております。よろしくお願い申し上げます。
○池田参考人 お答え申し上げます。
この後の立法にも影響を与えない範囲で申し上げられることを申し上げますと、やはり先ほども話題になりましたビデオリンク尋問の範囲について、従前の検討会における議論で、ある程度議論を整理していたところと最終的に認められた範囲において食い違いが生じてきたということでありまして、それ自体は別に悪いということではなくて、新たな視点から光が当たったことによってそういうことになったわけですけれども。
今後もビデオリンク尋問をどのように規律していくか、一面においては活用していくという側面があるわけですので、その法律の定め方について考える機会があり、一部は論文にしたところでもございます。
以上です。
○大森委員 大変ありがとうございました。
もう少し審議会での御様子をお伺いできればと思うんですけれども、大変著名な先生方がお集まりの審議会の中で、例えば、意見が真っ二つに割れたとか、議論がすごく熱が入ったというような論点というのは、今教えていただいたビデオリンク方式もそうなんだと思うんですけれども、ほかにもございましたら教えていただきたく存じますし、どのようにその意見が集約が図られてきたのかということもお聞かせいただければと思っております。よろしくお願いいたします。
○池田参考人 お答え申し上げます。
本当に議論が分かれたところは、最終的には意見の集約が図られないまま採決に至ったというふうに理解しておりまして、特に、本日も主として議論になっております電磁的記録提供命令の取扱いでありますとか、オンライン接見、電磁的記録の留置施設内へのデジタルデータでの移転については様々な議論があったところと承知しております。
以上です。
○大森委員 ありがとうございました。
続きまして、これは五人の参考人の皆様にお伺いさせていただければと思うのですが、先ほど、特に坂口先生からはオンライン接見の重要性を教えていただいておりますが、私自身も、我が党、公明党は弁護士資格を持つ議員がたくさんおりまして、日頃、オンライン接見の重要性というのを様々な角度から意見を、教えていただいているところでございます。
まさにこのオンライン接見は、今までも、先日の委員会の中でも委員の先生方が、直ちに向かうという尊い御姿勢なども教えていただく中で、私自身もすごく大事であると思いますし、また、先日、冤罪の被害を受けられた御参考人の皆様の意見も聞かせていただきまして、更に重要性があるというふうに思っております。
弁護人の方が最寄りの警察署などからオンライン接見を利用できるようなアクセスポイントがまだまだ少ないということで、この増設というのはすごく必要であると私自身は思っているのですけれども、五人の参考人の先生方の、オンライン接見の重要性とアクセスポイントを増設していく必要性について、皆様の御意見をお伺いできればと思っております。よろしくお願いいたします。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
オンライン接見の必要性につきまして、恐らく否定する人はいないんじゃないかというふうには思います。
ただ、いかんせん、物理的にアクセスポイントを増やすということは、すぐにぱっと増えるわけではないのだろう。なので、できるところから着々とやっていくというふうになるのかなというふうに考えております。
以上です。
○坂口参考人 ありがとうございます。
まさに今御指摘いただいたとおり、本当にオンライン接見の必要性自体は、どなたも、否定される方はこれからもいらっしゃらないんじゃないかなと思います。
法務大臣も、国会答弁の中では、オンライン接見といいますか、そういった各者間の接見の必要性についてはきちっとお認めいただいているんです。ただ、設備や予算というところも視点にありますよという御答弁をいただいております。ということは、立法府の中でこれからしっかり取り組んでいくという御意思を明確な形で、法文、附則の形でしっかり設けていただきたいというのが本当に切なる願いでございます。
日弁連の資料の中には、二十四の五に、すぐにでも権利化できる条文も作っております。全国の弁護士会、弁連は、直ちに権利化してほしいという意見が上がっております。
ただ、それは、もちろんお願いしたいですけれども、今国会ですぐというのは確かに容易ではないということも現実的かもしれません。そうであれば、附則の中で、今まさに御異論がないであろう、しっかり取り組んでいくということを、きちっと要素を入れながら、入れていただきたいという本当に切なるお願いでございます。
どうぞよろしくお願いいたします。
○樋口参考人 オンライン接見の重要性、そして、それを円滑に実施するためのアクセスポイントの設置、増加させることの重要性、それは何ら異論はございません。
○指宿参考人 私も先生方と同意見でございます。
その上で、そもそも、日本の被拘禁者の外部交通権が余りにも乏しいということがより前段階にありまして、例えば、電話等の外部への交通といいますか、コミュニケーション手段も保障されていません。
私は、世界中の警察の留置施設等を訪問していますけれども、例えば、房の前に移動式の電話機ががらがらと持ってこられるですとか、あるいは、留置施設の壁にプッシュボタンとマイクとスピーカーが埋め込まれたものがあって、そこで外部と交通できるというような施設があらかじめ備わっております。そういう環境で、なおかつ弁護人との接見が保障されるというのは当然だというのが海外で私が見てきた経験でございます。
以上です。
○池田参考人 お答え申し上げます。
私も、オンライン接見を推進する必要があるということを否定するものではありません。
先ほど議論が折り合わなかったと申し上げたのは、それを全ての被疑者に一律に権利として認めるということについて、やはりそれは難しいのではないかという意見と、そうであってもやるべきだという意見で折り合えなかった、そういうことであります。
考えてみましても、一人一人の被疑者に与えられる権利というのは全てひとしく保障されるべきであるにもかかわらず、あるところではそれが行使でき、あるところではできないという事態を生じさせることが不合理だという考え方には理由があるんだと思います。
現状、三十九条一項の接見交通権の条文はオンライン接見を禁じるものではないので、アクセスポイント方式によるオンライン接見が許容されているわけでありまして、弾力的にニーズの高いところから実施していくというのは、まさにその範囲で、北海道なり、あるいは離島なり、そういうニーズの高いところから、そこを優先的に接見の機会を設けていくんだという運用を許すものでありますので、そこを積極的に捉えて、是非着実に推進していっていただければというふうに考えております。
○大森委員 大変にありがとうございました。
続きまして、吉開参考人にお伺いさせていただきたいのですが、刑事事件、私自身がお聞きしてみたかったのが、刑事手続のデジタル化をすることによって、あらゆるいろいろな手続に関しては、捜査側の方に関しては、すごくスムーズに事が進んでいく一助になるんだろうなと思っております。
そう考えますと、捜査側の方たちからしますと、いろいろなことが段取りよくできますので、私自身、今、司法の勉強をする中で、被疑者の方が、勾留というんでしょうか、拘束されてから勾留期間というのがとても長いんだなということをずっと感じております。
例えばなんですけれども、デジタル化をしてスムーズにいろいろ進むということになれば、被疑者、被告人の方が勾留される期間というのも短くできる可能性もあるのかなと思っております。
多分、この中で一番現場を御存じの先生だと思いますので、そういう可能性もあるのかという御意見をお聞かせいただければと思っております。お願いいたします。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
私は今捜査機関ではないんですけれども、元捜査機関の立場で、どうしても捜査機関は長く身柄を拘束したがるというふうなイメージがあるかもしれませんが、現場の方は、なるべく短くやろうというふうにしているところはございます。
実際に、先ほど客観証拠の話を私の意見で申し上げましたが、客観的な証拠があれば証拠隠滅のおそれも低くなってきますので、そうすれば、身体を拘束する必要というのは乏しくなっていく。
あとは、裁判官のことが余り議論されないんですが、決して捜査機関が独断で身体拘束をするわけではございませんで、裁判官がチェックしております。裁判官の方がもう必要ないと考えれば、保釈なり、あるいは勾留は認めないなりという形で釈放するということも行われておりますので、そういった形で、デジタル化によって客観的証拠が集まりやすくなってくると、身体拘束も短くなる可能性というのはあるだろうというふうには思います。
○大森委員 ありがとうございました。
最後に、私自身も、電磁的記録提供命令に関しては、様々少し危惧されることが多い状況だなというふうに思っておりまして、特に、事業者の方から提供させるときに、個人情報の主体の方というんですかね、個人情報主の方が何も知らされないということもすごく怖い制度だなというふうにも思っております。
先ほどの先生方の話の中で、保秘期間というのが定められていないということも御指摘をいただいているんですけれども、この保秘期間というのも、もし定めるとしたら、どのくらいの期間というのがあり得るのかというのを御参考までに教えていただきたいと思うのですが、これに関しては、坂口先生と指宿先生と池田先生にお願いできればと思っております。
○西村委員長 時間が参っておりますので、恐れ入りますが、簡潔に、御協力をお願いします。
○坂口参考人 日弁連としてオフィシャルな検討はしておりませんが、私の個人的意見としては、数か月というところだと思います、この命令制度の趣旨や対象から考えまして。
○指宿参考人 私の資料にもありますように、ドイツで類似の立法がありますので、最大六か月。しかし、事案によっては短くできると思います。
○池田参考人 個別の捜査によって事案の長短というのはあり得ると思いますので、それ以上の具体的なことを申し上げるのは難しいと考えております。
○大森委員 大変にありがとうございました。
○西村委員長 次に、本村伸子さん。
○本村委員 日本共産党の本村伸子でございます。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
まず、電磁的記録提供命令に関しましてお伺いをしたいというふうに思います。
個人情報が不当に取得されてしまうのではないかという懸念がある中で、法務大臣とも質疑をさせていただく中で、提供を受ける情報は限定されるということで答弁をもらっているわけです。
そこで、まず、前提としてお伺いをしたいんですけれども、これまで裁判官の発する令状により、捜査、差押え、記録命令付差押えが行われてきたわけですけれども、被疑事件、被告事件と関係のないものが差し押さえられなかったかという点、これまでの事例について御存じの点を、全て、五人の皆さんにお伺いしたいと思います。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
関係がないということの表現としまして、刑事訴訟法上は、被疑事実との関連性があるかどうかというところで判断をするところになります。
私も考えてみたんですけれども、例えば、ノートがあって、ノートの一ページに被疑事実に関連する情報がある。そのときに、ノートの一ページだけ破って押収するということはできないので、そのほかのページに関係がないことが仮に書いてあったとしても、一部に関係があれば、そのノートは差し押さえることになるのだろうというふうに思います。
ですので、関係がない情報を押さえたことがあるかという御質問に対しては、常に関連性は確認しているけれども、その関連性があるものを押収する過程において、付随的にと言えば表現が適切か分かりませんが、そういったものが押収されることもあるだろうというふうには思います。
○坂口参考人 現状として問題があるということは強く感じるところでございます。
例を挙げれば本当に切りがないというところだと思いますが、先月開催されたある院内集会のところで、国会議員さんの御発言の中で、過去の御経験として、御自身の親族が被疑事実の対象になった、御自身の幼少の頃の写真であるとか成績表も差し押さえられてしまって、持っていかれてしまって、それが乱暴な、段ボールに入れられて返ってきたという御発言をされた方がいらっしゃいました。
物理的に違うものということも含めて、現状に問題があるということは強く指摘せざるを得ないと思います。
○樋口参考人 大学で研究している身としましては、実例に直接接する機会がございませんので、お答えが難しい問題かと存じます。
○指宿参考人 先ほど御紹介した令和三年二月の最高裁決定の事案でも、七テラバイトの大量のデータが押収されています。これは、専門用語で恐縮ですが、包括的差押えというふうに呼ばれています。
これは、現行刑事訴訟法上、適法とされています。ですので、端的なお答えとしては、日々行われている、現状、それが問題である、これをどのように事後的にチェックするかという仕組みが我が国にないということだろうと思います。
先ほども御紹介しましたように、これを最高裁まで争った事例が僅かでしたので、このように具体的なケースを御紹介するしかありません。
特に、物理的な問題でしたら、今、坂口参考人から御紹介がありましたように、還付されますよね、押収された人に。自分のプライバシーに関わるものがどれだけ押収されたかということは分かるわけですが、電磁的記録について、情報主体には何の告知もありませんし、それが、新聞報道等で間接的に知ることができる程度ではないかというふうに思います。
以上です。
○池田参考人 お答え申し上げます。
私も具体的に実例を存じ上げているわけではありませんが、関連性を判断する際には、一つの被疑事実との間に関連性が認められると、およそ他の事実と関連性が失われるということではなくて、同時に複数の事実との間に関連性が認められることがあるということを踏まえて、無関係かどうかということを検討する必要があると思っております。
その上で、およそ意味を持たないということがあったかどうかということについては、つまびらかには存じませんので、これ以上お答えすることは差し控えたいと思います。
以上です。
○本村委員 そうしますと、法制審の部会の中では、なかなかそうしたことは議論されてこなかったということでしょうか。お二人、法制審に出ておられました樋口参考人、池田参考人、是非お願いしたいと思います。
○樋口参考人 そうしたことというのは、従前の記録命令付差押えにおいて関係のないものが差し押さえられていたという事実ということでございましょうか。
専門が私は実体刑法でございまして、正確に議論の推移を把握できているか自信はございませんが、具体的な議論がなされたという記憶はございません。
○池田参考人 お答え申し上げます。
制度を論じるに当たりましては、やはり議論、プロセスとしては、現行の記録命令付差押えを出発点として、そこから媒体の移転を除いた部分という形で構想をされていきまして、その前提である記録命令付差押えが、およそ制度として地引き網的な情報の取得を内在しているというような認識に基づいていたわけではないということです。
そうでありますので、具体例としてこういうことがあるからという議論は、記憶の限りでは、なかったと承知しております。
○本村委員 そういう点では、やはり国会の方でそれをしっかりと議論しなければいけないということもはっきりしたというふうに思います。
続きまして、この電磁的記録提供命令によって、被疑事件、被告事件と関係のない人のデジタル個人情報も取得されるのではないかという心配の声に対して、今回の法案の四百二十九条、四百三十条のところで準抗告ができるんだ、不服がある人は、裁判と処分の取消し、変更ができるというふうに法務省の方からは説明がされているわけです。
その被疑事件、被告事件と関係のない人が電磁的記録提供命令の令状が出されたことをどのように知ることができるのかという点を、法制審の部会に出られておられました樋口参考人、池田参考人、そして日弁連の坂口参考人に伺いたいというふうに思います。
○樋口参考人 法律制度として知る機会は与えられておらず、でも、事実上、何らかの契機で知るということはあり得るということにとどまるかと存じます。
○池田参考人 お答え申し上げます。
今、樋口参考人が申し上げたとおりでありまして、通知の制度というものは、現在の物的証拠の収集、保全と同列に、利害関係者にあえて通知するという制度はなく、事実上、知る機会があれば不服申立てをし得るということにとどまっております。
○坂口参考人 今の参考人の方が御指摘のとおりでございまして、通知をする制度がない、そこがやはりきちっと、問題点として、日弁連としても指摘させていただいているところでございます。
○本村委員 ですから、法務省が無理やり、法案の四百二十九条、四百三十条で準抗告ができるからということは、なかなか成り立ち難いというのが率直なところだというふうに、明らかになったというふうに思います。
続きまして、通信傍受法と電磁的記録提供命令に、比較をいたしますと、その要件、手続、関係しない情報取得の防止の仕組みですとか消去の仕組みについて違いがあり、日弁連の皆様は大変それも危惧をされているというふうに思いますけれども、その違いについて、坂口参考人にお伺いをしたいと思います。
○坂口参考人 ありがとうございます。
通信傍受法との比較をすると、本当に様々指摘をされるところがあると思うんですけれども、まず、対象犯罪の限定がないというのは大きな違いだと思うんです。
通信傍受法は、薬物関連、銃器関連犯罪、集団密航の罪、組織的殺人等に限定されていますけれども、今回は対象犯罪の限定がないというところがありますね。
それから、先ほど御質問もいただきました不服申立ての機会を保障するための通知というのが、通信傍受法では、傍受記録に記録された通信の当事者に対して通知をしますけれども、今回の法案では、情報を取得された当事者に対して通知されないというところがございます。
それから、捜査機関の濫用を防止するための制度的な担保措置として、通信傍受法では、三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金というものが定められていますけれども、そういった制度的担保措置もないというところがございます。
そういった点もまさにございますので、今回の本法案については、きちっと個人のプライバシー、権利を守るための手当てが必要ということを日弁連は意見書等で申し上げております。
○本村委員 ありがとうございます。
続きまして、指宿参考人にお伺いをしたいのですが、レジュメの中でも、時間がなくて御説明できなかったところがあるというふうに思います。それをお話しいただきたいのと、特に、欧州委員会から日本の法執行機関における個人情報の収集、管理、保護の不透明さについて指摘をされているという点を是非教えていただければというふうに思っております。
○指宿参考人 お時間をいただきまして、大変ありがとうございます。
今日議論されていなかった点で申し述べていないこと、参考人の方々がお話しになっていないことでちょっと触れてみたいと思います。
お配りしております捜査関係事項照会制度について少し御紹介させていただきます。
捜査関係事項照会の実態面ですけれども、補足資料にございますように、捜査機関側から、あるいは国側からは一切のデータや情報の提供がございません。これは、取得される側の電気通信事業者等の透明性レポートの中で確認することができるだけです。
これは、私は転倒しているんじゃないかと思います。やはりデータを取得する側が、こういうふうなデータの取得をやっている、個人情報の収集をしているということを明確にするべきではないかなというふうに思います。これは、スライド十二ページ、十三、それから十四にございます。
この捜査関係事項照会では、非常にあらゆる個人情報が収集されているということが明らかになっています。
利用実態について、元警察幹部、元検察官の発言や、企業アンケートによる実態調査、これは共同通信さんが行われて雑誌に公表されているもので、先生方も閲覧可能なものだと思います。
例えば、カードなどの利用履歴、氏名、生年月日、住所、電話番号、銀行口座、メールアドレス、家族情報、その他、店内防犯カメラ画像やレシート情報、こういうものが令状なく捜査関係事項照会で収集されているということを企業側は回答しており、大きな企業になると、この回答のための、照会を受けるための専門の部署が設置されて、日々、回答するための業務だけを扱っているというふうに聞いております。
これと同じような情報を、間接強制し、かつ事業者から収集するということが想定されるわけですけれども、この点についても大規模事業者からの意見聴取がされていないのはいかがかというふうに思います。
最後の御指摘がありました欧州委員会からの日本の法執行機関における個人情報の収集、管理、保護の不透明性については、二〇一八年のオピニオンというところでこれは明示されているところです。
これは、日本政府側の回答を受けて、十分性認定という結論に至っておりますけれども、日本政府側の回答は、捜査機関の扱う個人情報については国政調査権、公安委員会並びに総務省によって十分監督されており、違法に取得された場合には裁判所が証拠排除するという回答が公文書で送付されていますところ、国政調査権や公安委員会あるいは総務省によって、警察の個人情報収集が違法である、管理が不適切であると指摘された例を私は確認することができておりません。
また、違法収集証拠排除につきましても、先ほど井出議員の質問にもありましたように、重大な違法がないと証拠排除されませんので、通常の違法という表現が適切かどうか分かりませんけれども、重大に至らない違法の程度であれば排除されていないというのが現実で、数としてははるかにこちらの方が多いだろうというふうに推測している次第です。
以上です。
○西村委員長 本村さん、時間が来ていますので、お願いします。
○本村委員 貴重な御意見、本当にありがとうございました。
○西村委員長 次に、吉川里奈さん。
○吉川(里)委員 参政党の吉川里奈です。
本日は、参考人の皆様、御多忙のところ、貴重なお時間を大変ありがとうございます。
刑事手続は、被疑者や被告人だけでなく、被害者、証人、裁判員など、誰もが関わる可能性のあるものだと考えます。だからこそ、デジタル化が進む中、効率ばかりが重視されることで、私たち国民の大切な権利や尊厳が損なわれることがないよう、丁寧に向き合うことが大切だと感じています。本日は、皆様それぞれの御経験やお立場から率直なお声をお聞かせいただければと思います。
まず、刑事手続のデジタル化に関して、証拠の収集や差押えの実務等について、検事として特捜での御経験がある吉開参考人にお伺いしたいと思います。
まず、これまでの御経験の中で、例えば、差し押さえたUSBなどに保存されていた事件と関連性の低い私的なデータや個人情報について、その取扱いをめぐってどのような配慮が現場でなされていたのか、教えていただけますでしょうか。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
先ほど包括的差押えというふうなお話がありましたけれども、どうしてもデータは外から見てもすぐに判断できないものがありますので、捜査対象の中で関係の濃い人のそういったデバイスはある程度持ってこざるを得ない。
しかも、最近もちょっとマスコミで出ていますけれども、最近はデジタルフォレンジックという捜査手法がありまして、消したメールを復元することもできるようになっております。そうすると、なおのこと、外見を見ただけでは押収すべきかどうかが直ちに判断しかねるという状況もございます。そういった中で、例えば、その対象としたUSBを持ってきて、USBが空だった、この場合には早期に、還付と申しまして、返却するというふうになっております。
以上です。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
今、物的証拠の場合は還付が可能だと思うんですけれども、現在導入が検討されている電磁的記録提供命令でいくと、裁判官の令状の審査の内容が広範囲である、例えば、一つのファイルや携帯電話の履歴に仕事のデータ、家族の写真、事件に関係ないファイルが混在しているケースというのは珍しくないように思われて、事件との関連性の低い情報が含まれる可能性もあると感じます。
こういった大量なデータを扱う上で、検察という現場の中でどういった人材が必要なのか、また、そういったデータを扱う上で、モラルや倫理といった教育も不可欠かと思うんですけれども、そういったところに関して、どのように向上、強化をしていくことが必要なのか、御意見をいただければと思います。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
ただ、大変申し訳ないんですが、私はもう検察を辞めておりまして、最近の状況はちょっと分からないところがあるんですが。
ただ、先ほどデジタルフォレンジックのお話をちょっとさせていただきましたけれども、デジタルフォレンジックというのは、一方で、復元とかをするだけじゃなくて、そういったデータの改ざんなどをしないように、検察庁の中の職員が専門の立場でそういったものを保全して、それが、きちんと後で被告人、弁護人の方も確認できるような形で手続を行っているという面もございます。
ですので、そういった形でデータの慎重な取扱いというものはなされているというふうに言えるのではなかろうかなというふうに思います。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
今、改ざんというお言葉がございましたが、証拠がこれから電子化されるということで、以前、村木参考人が来られていたかと思うんですけれども、あの事件はフロッピーディスクの改ざんがあったということだと思うんですけれども、そういった改ざん、成り済ましといったリスクにどう対応していくのかというのは避けて通れない重要な課題かと考えております。
このようなリスクに対して、証拠が改ざんされないことをどのように確認していくべきだと思われるのかというところで、例えば電子署名やアクセスログといった技術の導入等も必要だと思いますが、まず、検察の立場として吉開参考人から、どうお考えか、お聞かせください。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
まさに先ほどのデジタルフォレンジックですね、そういった改ざんをしないように、きちんと専門の職員が決まった手続でデジタル証拠を保全するというのは、まさに村木厚子さんの事件の後から始まったことでございます。
ですので、それは取組をしておりますし、今回のデジタル化につきましても、そういった改ざんの防止などにつきましては十分な配慮がされるべきだと思いますし、やっているものだというふうに考えております。
○吉川(里)委員 同じ観点について、指宿参考人と池田参考人にもお伺いしたいんですけれども、いかがでしょうか。
○指宿参考人 ありがとうございます。
まず、前提としまして、デジタル証拠に関わる押収、それから取得後の管理、あるいは改ざん防止措置は内部的に行われているものというふうに承知しています。いわゆるガイドラインやスタンダードのようなものがきちんと定められていない。したがって、例えば、警察の場合は、都道府県警察ごとに対応が異なったり、あるいは人員の確保についても差が出ているのではないかというふうに考えております。
やはりその点ではきちんとした規則ないし規範が設けられることが必要不可欠だろうというふうに思います。
○池田参考人 改ざんを防止する措置については、冒頭、吉開参考人からもお話があったように、割り印をしたり契印をしたりして、改ざんがないことを現在物理的に担保しているものが、今後、技術的にデータとして資料が作成されるようになりますと、先ほど委員から御紹介があった電子署名とか、あるいはタイムスタンプといった技術的措置によって、改ざんがあった場合により容易に検出できるということから、改ざんを防止する効果も、デジタル化することによってより高まるということを期待しております。
以上です。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
先ほど指宿参考人からの御意見もありましたが、ガイドラインであったり、人員の確保というところ、規則の制定も必要かというふうに私も考えております。
次に、坂口参考人にお伺いをいたします。
証拠や記録の電子化が進む中、機微な証拠が、弁護人のパソコンなど、個別の端末に保存、管理される場面も今後増えてくるかと思われます。
そうした情報を適切に取り扱うためには、弁護人側においても一定の管理ルールや運用上の配慮等が求められるのではと考えられるのですが、どのような形で管理されるのが望ましいとお考えか、御意見を伺えればと思います。
○坂口参考人 貴重な御指摘をありがとうございます。
個人的な見解ということでのお答えになりますが、今後、証拠がデジタル化していく以上、当該弁護人がパソコンなどをしっかり管理した上で、外部に漏れたりしないようにということは必ず必要なことだというふうに思います。
○吉川(里)委員 弁護人の方の証拠管理の在り方というのは、今後更に議論が深められていくべき大切なテーマだと感じております。
というのも、防御権を支える証拠開示は不可欠な一方で、性犯罪など、センシティブな証拠の取扱い等については、現在も、その場でしか記録を見ることができなかったり、持ち帰りができないものというのがあるかと思います。こういったものが電子的データになった場合に、万が一流出するようなことがあれば、デジタルタトゥーのように情報が永続的に残り、深刻な二次被害につながるおそれもあるかと思います。こうしたリスクを未然に防ぐためにも、データの証拠開示については一層慎重な管理がなされることが必要であるというふうに考えております。
次に、樋口参考人にお伺いをいたします。
日本と海外の刑法や刑事手続を比較され、また、法制審等でも議論に関わってこられたと伺っておりますが、こういった制度のデジタル化が進む中、そもそも、日本の刑事司法についてどんな特徴や限界があるのか、先生が比較を通して見えてきた日本の司法の強みや見直すべき点について、何か御所感を伺えればと思いますが、いかがでしょうか。
○樋口参考人 刑事司法一般の広い話ということでしょうか。
日本の刑事裁判におきまして、個々の事案における適正な結論の確保ということに関しましては、世界的に見てもかなり安定的に提供されているように思われ、公平な運用というのが意識されているような印象がございます。
一方で、海外に比すればということですけれども、そのような運用に関しまして十分な言語化と申しましょうか、なぜ日本がうまく安定的に運用できているのかというのに関してうまく言葉で表現するというのに関しては、これから、より改善していってもいいんじゃないかなというふうに思われるところです。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
同じ観点について、指宿参考人、いかがでしょうか。
○指宿参考人 非常に大きなテーマで、なかなかお答えすることはしづらいんですけれども。
御承知のように、日本は、先進国の中では飛び抜けて犯罪の発生率が低いわけですね。ただ、効果的、公平な刑事司法の成果によってこれが維持されているのか、あるいは社会的、文化的な様々な要因によって維持されているのか、これについては専門家でも恐らく議論が分かれていて、定まった見解はないというふうに承知しております。
また、刑事司法の内部についての問題点という点に関しましては、多岐にわたるものがございまして、日本が優れている部分もあれば大きく遅れている部分もあるということですが、特に個人情報の保護に関しましては、現在、日本の刑事司法においては、保護手続、保護手段、あるいは監督機関のいずれにおいても大きく劣っているのではないかというのが本日発言した背景にございます。
以上です。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
またちょっと吉開参考人に伺いたいところなんですけれども、先ほど村木厚子さんの事件のお話をさせていただいたんですが、二〇一九年から、被疑者について、取調べ段階から、特捜部が捜査する事件や裁判員裁判等で録音、録画の可視化が義務づけられましたが、その当時、何か現場で感じられたことというのはありましたでしょうか。
○吉開参考人 質問ありがとうございます。
私は、まさに一番最初の頃に録音、録画をやった経験があるんですが、最初の頃は、被疑者、取り調べられている人の方も余りカメラを意識せずにいろいろしゃべっていたんですけれども、それが証拠になるかもしれないということを言った途端に、じゃ、しゃべりませんとなった記憶がございます。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
指宿参考人にお伺いしたいんですけれども、先ほどオンライン接見の話等もありましたが、実際に録音、録画をされるケースというのは、現在、日本ではまだ数%しか行われていない、参考人や証人については対象外というふうになっていますが、世界と比べて日本はどうなのかという点について、例えば、御提案等も含め、何か御意見をいただければと思います。
○指宿参考人 ありがとうございます。
もう既に警察、検察どちらにおいても設備というのは十分に行き渡っていると承知していますので、第三者、証人、参考人も含めまして、全ての取調べを録音、録画すべきだというのが私の基本的な立場であります。
もちろん、例外はございますけれども、それについてはおくとしまして、原則はそうあるべきで、やはり日本の捜査が適正かつ公正であるということを海外に発信するためにもこれは不可欠であります。
また、これは余り言われていないことですけれども、取調べの技術を改善するにはこれしかないんですね。やはり人に見られるということが自らの技術を発達させる、発展させる一番の動機づけになるわけですね。この点でも意識改革を強く求めたいというふうに思います。
以上です。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
続いて、同じ観点から坂口参考人にもお伺いしたいんですけれども、こういった取調べの録音、録画等というのは、平成二十七年の刑訴法改定において附帯決議で、可能な限り実施することは努力義務というふうになりましたが、全国の弁護士の方のお声を聞く中で、録音、録画ということがされていないことで今も困っているようなケースがもしあれば、お伺いできますでしょうか。
○坂口参考人 ありがとうございます。
確かに、刑訴法の改正がございまして、全体の刑事事件の約三%弱は可視化が義務づけられたんですが、残り九七%は義務づけがされていないということになります。ブラックボックスの状態がまだ続いている、試行によって一部開示というのはありますけれども。これによって、やはり取調べの状況が明らかになっていないということで、実際、可視化が一切されていない頃の現状がまだ続いているというところがございます。
一方で、これは非常に皮肉なことですけれども、その三%の可視化された部分で、プレサンス事件であるとか、ほかの事件もありますけれども、一部が公開されるようになり、公開といいますか、公になるようになりました。そこで表われた、可視化の結果、取調べの行われている現状というのが、一部ですが、明らかになったんです。そこの中で行われている取調べというのがやはり大きく問題になっております。
日弁連としては、やはり全面可視化、それが当然、全件、全過程必要である、検察も警察も必要である、それから参考人の方も含めて必要である、併せて弁護人の立会いも必要であるということも強く求めております。
以上です。
○吉川(里)委員 ありがとうございます。
録音、録画というものは、被疑者の立場から見れば原則進めるべきだとは思うんですけれども、ただ、全て完全に可視化するということで、捜査の現場では、被疑者とのやり取りが更に慎重にならざるを得ないという声もあるようでして、大切なのは、捜査をきちんと進める力、人権を守る仕組み、その両方をどう両立させるかということだと思いますので、こういった、どちらかに偏るのではなく、現場の声と国民の感覚、ちょうどバランスのいい、納得のできる制度ができていけばいいなというふうに思っております。
ありがとうございました。
○西村委員長 次に、島田洋一さん。
○島田(洋)委員 日本保守党の島田です。
この刑事デジタル法案は、手続の効率化、迅速化を図るというのが大きなメリットなわけですけれども、今日は、刑法、刑事訴訟法のまさに専門家の方々においでいただいていますので、その関連で是非御教示いただきたいんです。
安倍晋三首相の暗殺事件が起こって二年九か月、いまだに第一回公判が始まらない。だから、当然、検察側の冒頭陳述も明らかにされないので、そこからいろいろな陰謀論とかも出ちゃっている。世界中は、安倍さんの事件の裁判、もうとうに終わって、犯人は刑に服しているんだろうと漠然と思っていると思うんですね。ところが、いまだ第一回公判も始まっていない。これを国際社会が知ったら、日本の刑事システム、司法システムに対する疑念も呼びかねない。
安倍さんの暗殺の翌年に起こった岸田首相の爆殺未遂事件、これは滞りなく手続が進んで、既に和歌山地裁で第一審の判決も出ています。
これは、いずれも容疑者が現場で拘束されている。なのに、この二つの事案、事件でなぜこれだけ時間の差が生まれているのか。御所見を伺いたいのと、この刑事デジタル法案が通れば、その遅れている可能性、こういう要因があるだろうというもののうち、この辺は解消されるということがあれば、五人の皆さんに教えていただきたいと思います。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
個別の、安倍首相の事件につきましては、証拠関係をちょっと承知していないものですから、なかなかその遅延の理由というのは判断しかねるところではございます。
どうしても、デジタル化は、今回の法改正に限らず、既に社会で進んでおりますので、デジタル化に伴って証拠が大量になる傾向というのは確かにございます。そうしますと、なかなか裁判が始まるのも遅くなるということもあるかと思いますので、そういったところは、当事者間でいろいろ協議をしながら進めていく必要があろうかというふうに思っております。
以上です。
○坂口参考人 私も吉開参考人と同様でございまして、安倍晋三さんがお亡くなりになった事件の詳しい証拠関係等を存じているわけではありませんので、遅れているといいますか、時間がかかっているというところについては、私は特に知見は、申し訳ないんですが、ございません。
今回の法案が通ることと、それから御指摘の件の因果関係というのも、大変申し訳ないんですが、分かりません。この法案が通ることによって、御指摘の件の進行が速くなるかどうかというのも私は分かりません。
○樋口参考人 私も、お二人の参考人同様、個別案件について何ら承知しておりませんで、お答えすることは難しい問題かと存じます。
○指宿参考人 ありがとうございます。
私も、具体的事件の進捗のスピードについてはコメントする立場にございませんので、その点についてはお答えを控えさせていただきます。
刑事手続のIT化が司法全体の迅速化に資するかどうかということに関しましては、世界的に見まして、これは、IT化の一つの目標が、手続の簡易化、迅速化、あるいは多くの関係者のコミットメントの機会を増やす等々、便益の一つとして迅速化が含まれているのは間違いないところであります。
例えば、私が視察した北アイルランドというのは、警察、検察、裁判所、それから留置施設、刑務所がインターネットに接続されていないクローズドのネットワークで結ばれていまして、これはコーズウェーと呼ばれているんですが、北アイルランドの非常に特殊な六角形の岩になぞらえて、六つの機関が情報を共有する、つまり、自らの機関の特殊なデータ様式に落とし込まずに、同じプラットフォームで個人情報をずっと共有していくというものができています。これは、北アイルランドの紛争が終わったときに、イギリス政府は、大量の、復興のための投資を刑事司法のIT化に向けてしたことで、非常に迅速化に資すということが確認されています。
諸外国でもやはり同じで、例えば、大きな予算を持たない小さな国、管轄でも、IT化によって、関わる人員を減らすことによって手続が迅速化するということは言われているところです。
ただ、今回の法案でどれぐらいそれが迅速になるかということについて、私の予測を申し述べるのは控えさせていただきます。
以上です。
○池田参考人 私も個別の案件について所感を述べることは差し控えたいと思いますけれども、委員御指摘の、公判が始まるまですごく時間がかかっているという問題は、当該事案に限らず、一般的に現在生じている課題でありまして、解消を求められているところです。
今回の法案の中には、公判前整理手続がオンラインで実施できる、被告人の出頭もオンラインで行うことができるというような仕組みが設けられておりまして、期日指定を柔軟にすることによって審理の迅速化を図るということの基盤となり得る制度だろうと思っております。
また、既に御指摘があったように、証拠が膨大になっているという問題については、開示をオンラインで進めることによって迅速なやり取りを進めることで、主張、立証の準備に時間を取れるようになることで、その迅速化を図る。
特効薬になるかどうかは分かりませんけれども、一つ、手段、対策は取られているというふうに考えております。
○島田(洋)委員 ありがとうございます。
安倍さんの裁判の件で、もう一点だけ、吉開参考人に確認したいんですけれども、公判前整理手続が難航していると伝えられるんですけれども、このぐらい時間がかかるというのは異例のことなんでしょうか、それともよくあるんでしょうか。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
なかなかお答えが難しいのですが、時間がかかるものはある、その場合は証拠関係によるということになろうかと思います。
○島田(洋)委員 次に、指宿参考人が指摘された問題点、六つ、いずれも大変重要なものだと思います。そのうちの第四点の、提供命令によって捜査当局が得た電磁的記録の保管、保存に関してしっかりした規定がない、そして、裁判で利用されなかった場合のデータの還付そして廃棄の規定もないという、ここは非常に問題だと思うんです。
個人情報を含むデータがデジタル化されて捜査当局が持つということになると、やはりロシアとか中国とか北朝鮮がハッキングに出てくる可能性が非常に高まる。それで、情報が漏えいされて、拡散する。今挙げた三国あたりは、特に自分たちが関連したような裁判だと絶対に攻撃をしかけてきますし、大変、サイバーセキュリティー、物すごいレベルのものをつくっておかないと危ないと思うんです。
その関連で、収集した個人情報を含むデータに、どの範囲の人たちが、当局者がですね、アクセスできるのかとか、ダウンロードの方法に関しても、リスクの少ないものをきちんと指定して、そのやり方に限定するとか、そういう規定は必要だろうと思うんですけれども、この辺り、まず指宿参考人にお伺いできればと思います。
○指宿参考人 ありがとうございます。
残念ながら、私はセキュリティーの専門家ではございませんので、その点について具体的な制度設計や御提案をする立場にはないと承知しておりますけれども、現時点でも捜査当局におかれましては大量の捜査情報をサーバー等に保管されていると承知していますので、現時点でも相当のセキュリティーを施されており、また、アクセス権限等についても十分な管理がなされているというふうに期待している身でございまして、その現状がどうなのか、あるいは今後どう改善されるべきかにつきましては、むしろ当局の方に御答弁いただくのが筋ではないかというふうに存じます。
ありがとうございます。
○島田(洋)委員 ハッキングのリスクが相当やはり重大なものがあると思うので、アクセスの権限の限定とか、今言ったことに違反した職員に対してはやはり罰則を科すという形で抑止力を利かせることも重要かと思うんですけれども、その辺りに関して、ほかの参考人の方々の御意見も聞ければと思うんですけれども。
○吉開参考人 御質問ありがとうございます。
私は辞めてもう十年以上たちますので、最近の状況は分からないんですが、当時は、スタンドアローンのパソコンを使って証拠のデータは扱っていたと記憶しております。ですので、そもそもネットにつながらない状況でデータの扱いをしているという点で、流出のリスクはかなり抑えられるんじゃなかろうかという点が一つですね。
もちろん、不正アクセスをするような職員に対しては、きちんと厳正な処分をするということが必要だと思います。
○坂口参考人 先ほどの指宿参考人のお答えと同様ということになりますが、今時点でも恐らくデジタルデータを多く、法務省といいますか検察庁の方で保管をされていらっしゃる部分がありますので、しっかり保管されているものと私も期待をしておりますし、今後更にそこをしっかりというところは、恐らく法務省の方にお尋ねいただいた方がよろしいのかなと思います。
○樋口参考人 行政組織内部におきましても、他人のID、パスワードを使用するような場合には、不正アクセス禁止法で現在でも対応可能かと存じます。
それ以上に関しましては、ほかの参考人同様、私ではなく当局の方に質問していただけますと幸いです。
○池田参考人 セキュリティーが重要であるというのは委員御指摘のとおりでありまして、IT化の利便性を享受するためには厳重なセキュリティーが確保されているということが当然前提になると思います。
他方で、どんな漏えい事案に対しても耐え得るような技術的な措置というのがなかなか難しいということもあり、個別のファイルの使用の仕方を難しくするという対応の方法も考えられるわけですけれども、議論の過程ではそれに対する懸念も示されていたところですので、やはり、全体としてのシステムの中で、閉じたシステムの中でやり取りをして、関係者が便益を享受することができるようになることが大事だと思っております。
漏えいが意図的になされた場合に厳正に処分するというのは当然のことだと考えております。
○島田(洋)委員 今の問題に関しては、まさに皆さんおっしゃったように、政府当局においてやはり相当な危機感を持ってセキュリティー対策を急がないと、大変危ないと思っています。これは、今度法務大臣にただそうと思いますけれども。
それで、指宿参考人は、この問題に関して、ドイツの例を御紹介いただいたんですけれども、それからヨーロッパの例ですね。ロシア、中国等から最もハッキング等々を受けているのはアメリカかなと思うんですが、アメリカあたりのこういう電磁データの保管、保存に関して、何か参考になるような動きというのはあるでしょうか。
○指宿参考人 ありがとうございます。
先ほどのお答えと同じで、私、セキュリティーの専門家ではないので、アメリカ合衆国、連邦あるいは州、そういったそれぞれの法域の法執行機関でどのようなセキュリティー対策が取られているかということを具体的に御紹介することはできかねます。
○島田(洋)委員 ありがとうございました。
今指摘したような問題、皆さんからいただいた知見も基に、まさに政府当局がきちんとしたシステムをつくらないといけないという話なので、追及していきたいので、今後ともいろいろ御指導いただければと思います。
それでは、終わります。
○西村委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。
参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)
次回は、来る九日水曜日午前八時四十五分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十一時五十八分散会