第20号 令和6年5月21日(火曜日)
令和六年五月二十一日(火曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 古屋 範子君
理事 斎藤 洋明君 理事 田所 嘉徳君
理事 田中 良生君 理事 本田 太郎君
理事 湯原 俊二君 理事 吉川 元君
理事 中司 宏君 理事 中川 康洋君
井原 巧君 石田 真敏君
尾身 朝子君 金子 恭之君
川崎ひでと君 国光あやの君
坂井 学君 杉田 水脈君
田畑 裕明君 寺田 稔君
中川 貴元君 西田 昭二君
西野 太亮君 根本 幸典君
葉梨 康弘君 長谷川淳二君
古川 直季君 宮路 拓馬君
保岡 宏武君 柳本 顕君
山本 左近君 おおつき紅葉君
岡本あき子君 奥野総一郎君
福田 昭夫君 藤岡 隆雄君
道下 大樹君 阿部 司君
中嶋 秀樹君 吉田とも代君
平林 晃君 宮本 岳志君
西岡 秀子君 吉川 赳君
…………………………………
総務大臣政務官 西田 昭二君
総務大臣政務官 長谷川淳二君
参考人
(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 山本 隆司君
参考人
(中央大学副学長、法学部教授) 礒崎 初仁君
参考人
(全国知事会会長)
(宮城県知事) 村井 嘉浩君
参考人
(関西大学社会安全学部教授) 永田 尚三君
参考人
(専修大学名誉教授)
(弁護士) 白藤 博行君
総務委員会専門員 阿部 哲也君
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委員の異動
五月二十一日
辞任 補欠選任
石田 真敏君 柳本 顕君
西野 太亮君 山本 左近君
鳩山 二郎君 宮路 拓馬君
同日
辞任 補欠選任
宮路 拓馬君 杉田 水脈君
柳本 顕君 石田 真敏君
山本 左近君 西野 太亮君
同日
辞任 補欠選任
杉田 水脈君 鳩山 二郎君
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本日の会議に付した案件
地方自治法の一部を改正する法律案(内閣提出第三一号)
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○古屋委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、地方自治法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、東京大学大学院法学政治学研究科教授山本隆司さん、中央大学副学長、法学部教授礒崎初仁さん、全国知事会会長、宮城県知事村井嘉浩さん、関西大学社会安全学部教授永田尚三さん及び専修大学名誉教授、弁護士白藤博行さん、以上五名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多用中のところ当委員会に御出席いただきまして、誠にありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、各参考人からそれぞれ十分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、念のため申し上げますが、御発言の際には、その都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
それでは、まず山本参考人、お願いいたします。
○山本参考人 山本と申します。
私は、第三十三次地方制度調査会、以下地制調というふうに申しますが、地制調の専門小委員会の委員長を務めました。第三十三次地制調は、総理からの諮問を受けまして、二〇二二年一月に発足しました。地制調の会長は、市川晃住友林業会長が務められました。以後約二年間、四回の総会と二十一回に及ぶ専門小委員会が行われ、二〇二三年十二月に総理に答申を提出いたしました。本日は、今回の法案に関連する答申の内容や地制調での議論を、取りまとめに当たりました私なりの観点から御説明をしたいと思います。
地制調の答申は、ポストコロナの経済社会に対応する地方制度について、大きく三点を取り上げています。順次御説明をさせていただきます。
第一点は、DXへの対応です。
すなわち、地方公共団体がデジタル技術を活用して住民等の参画を強化すること、また、人口減少、高齢化が急速に進む中で地域の広範な課題にきめ細かく対応することを目指す体制づくりです。答申では、具体的に、第一に、デジタル技術の活用について国と地方公共団体との間の連携協力を従来以上に緊密に行うこと、第二に、地方公共団体において情報セキュリティー対策がしっかり取られるようにすること、第三に、地方税について既に活用されているeLTAXを各地方公共団体の判断により公金の納付に幅広く活用できるようにすること等を提言いたしました。
大きな第二点ですが、地域の多様な主体との連携、協働です。
すなわち、コミュニティー組織、NPO、企業等の多様な主体が連携、協働し地域の課題に取り組むための枠組み、これをプラットフォームと言っておりますけれども、プラットフォームを市町村が支援することです。地制調の答申では、民主的で透明性の高いプラットフォームの運営が行われるということを前提に、市町村がそれぞれの判断によりプラットフォームの法的な位置づけを明確にし、その活動環境を整備できるようにするということを提言しております。
今回の法案は、以上の第一点、第二点を踏まえた内容を盛り込んでいると考えております。
第三点ですけれども、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態への対応です。この点につきましては、地制調での議論を基本的な考え方から御説明したいと思います。
まず、現実の課題として、それぞれの政策分野に関する個別法、例えば新型インフルエンザ特措法等ですが、こういった個別法の制定、改正の議論や運用の中で想定されていなかった事態が過去の災害やあるいは新型コロナの蔓延のときに発生したということが地制調の場で確認をされました。現在、社会においてリスクの要因はますます増え、各分野の専門家ですら事態の完全な予測はますます難しくなっています。現在でもこういった個別法が想定しない事態が発生する可能性は否定できません。地制調ではこうした一般的な認識を基に議論いたしました。
これに対しましては、対応すべき事態を具体的に示せないかという意見もありました。しかし、現在具体的に示すことができる事態には個別法を制定又は改正して対応するべきことになります。つまり、このように議論いたしますと問題が入れ替わってしまうという難しさがございました。
とはいえ、個別法を制定又は改正せずに重大な事態に対応することには限界があるという意見も示されました。これはそのとおりでして、したがって、地制調では個別法の制定や改正を行うまで応急的に対応するための一般的な制度を考えたということでございます。
次に、地方自治、地方分権との関係です。
地制調では、地方公共団体の自主性、自立性を尊重し地方分権を推進するという基本的な考え方は変えないということを前提に議論しました。その上で、個別法が想定しない事態への応急対応のために、現在地方自治法が定めている国の関与に関する一般的な制度に特例を加える必要があるという方向になりました。国の関与に関する一般的な制度は、元々二〇〇〇年に施行されました。しかし、その後、特に近時、規模や態様の点から、地方公共団体のみならず、国も責任を負って対応しなければ克服できないような重大な事態がしばしば発生しています。そのため特例を加えることの検討が必要になったと言えるかと思います。
現在の制度によりますと、個別法が想定しない事態に対処するための国の関与としては、地方公共団体に対する国の技術的助言、勧告までしかできません。国が助言、勧告等をしても、最終的な意思決定を行う権限と責任は全面的に地方公共団体にあります。国は地方公共団体に対し明確な権限を持たないだけでなく、あれこれ通知しても明確には国は責任を負わないということになります。そこで、地制調では、個別法が想定しない事態への応急対応のために国が地方公共団体に対し指示を行う権限を定め、その範囲で国が明確に責任を負うという制度を議論いたしました。念のために申しますと、こうした指示の制度を設けましても、国が責任を負うのはあくまで指示の範囲に限定されます。それだけで地方公共団体が住民の安全を守る基本的な事務と責任が国に移るというわけではありません。
そういたしますと、地方自治、地方分権の基本的な考え方を守るために重要なことは、指示の要件と手続をしっかりと限定するということです。この点について地制調ではかなり念入りに議論いたしました。
今回の法案は指示の要件についてこう言っております。大規模な災害、感染症の蔓延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、当該国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の規模及び態様、事態に係る地域の状況その他の事態に関する状況を勘案して生命等の保護の措置の的確かつ迅速な実施を確保するため特に必要がある場合に、必要な限度においてと言っております。地制調での議論を酌み、要件を最大限に限定しているのではないかと受け止めています。
次に、指示を行う場合の手続です。地制調でかなり議論しましたのは、国会との関係と地方公共団体との関係です。
国会との関係につきましては、新型インフルエンザ特措法上の緊急事態宣言のように、個別法が危険性の段階を一般的に確定させる制度を定めているという場合、その危険性の確定の際に国会報告や国会承認が必要とされるという例があります。しかし、個別法が想定しない事態に応急対応するための指示について国会報告や国会承認を求めるといたしますと、個々の場合についてこういうことを求めますと指示が行われる都度にならざるを得ません。地制調では、それは若干機動性に欠けるという議論がされました。
しかしながら、応急の指示が行われた後で、個別法の制定や改正に関する国会での議論につなげる手続は重要です。地制調の答申では、指示が行われた場合に各府省において検証する必要があり、その検証が個別法に関する議論の契機となることが期待されるという基本的な考え方を示しております。具体的な手続を示さなかった理由は、こういったプロセスのタイミングや態様が事態や状況により様々になるということ、さらに、国会での審議手続に関わる点については制度化が難しいのではないかといったことがございました。
指示の手続に関するもう一つの問題は、地方公共団体との関係です。
地制調の答申は、基本的な考え方として、国と地方公共団体との間の情報共有とコミュニケーションを重視しています。それは指示の場合も同じでありまして、指示を的確に行うために必要なことでもあります。ただ、具体的にどのように情報共有とコミュニケーションの手続を取るかという点は、どの程度の時間があるかなど、事態や状況によります。そのため、地制調では、具体的に参加する主体を特定し、特定の手続を必ず取るということを求めるような制度化は難しいのではないかという議論をいたしました。今回の法案では、国は指示に先立ち地方公共団体に対する資料又は意見の提出の求めその他の適切な措置を講ずるように努めなければならないと定めております。これは、国と地方公共団体との間の情報共有、コミュニケーションについて可能な範囲で制度化をするものというふうに受け止めております。
私からは以上です。どうもありがとうございました。(拍手)
○古屋委員長 次に、礒崎参考人、お願いいたします。
○礒崎参考人 中央大学の礒崎と申します。本日は、貴重な機会をいただき、ありがとうございます。専門は地方自治論、行政学ですが、特に最近は地方分権の成果と今後の展望について考えております。
下の二ページを御覧いただきたいと思います。
まず、枠で囲んだ生命等の保護措置に関する指示等の規定についてですけれども、この指示権には特徴がありまして、第一に、現行自治法では指示は法定受託事務に限定されていますが、改正法では自治事務についても指示が可能になること、第二に、現行自治法では違法な事務処理等があった場合にそれを是正させる事後的な指示だけが認められていますが、改正法では違法な事務処理等がなくても将来に向けてこうしなさいという事前の指示が可能になること、この二点で従来の指示より踏み込んだ幅広い指示権が定められていることに注意が必要だと思います。こうした指示権を制度化することが果たして妥当なのか、五つの問いに分けて検討したいと思います。
三ページですけれども、一つ目は、こうした指示権が地方自治の本旨や自治法の原則に反しないかという問題です。まず、地方自治の本旨には団体自治の原理が含まれており、これは自治体が地域の運営に対して自己決定権を有すること、したがって国は必要な範囲を超えてこれに介入してはならないという原理とされています。改正法のように法的拘束力を伴う形で包括的な指示権を制度化することは、この必要な範囲を超えるおそれがあるというふうに思います。
次に、自治法の一般原則に反しないかですけれども、関係するものとしてそこに三つの原則を挙げましたが、私が特に強調したいのは役割分担の原則でございます。この原則では、国は国が本来果たすべき役割を重点的に担う一方、住民に身近な行政はできるだけ自治体に委ねることが求められています。例えば防災、防犯、公衆衛生など国民の生命、健康の保護はまさに住民に身近な行政ですから、自治体の役割だと考えられます。もちろん国も安全保障、災害救助など国民全体の安全を守るための基盤を担っているわけですが、一人一人の国民はいずれかの地域で暮らしているわけで、その安全をどう守るかは自治体の責任、役割でございます。改正法は、それが自治体の役割であることを前提として、そこに国が強制的に介入しようということですから、役割分担の原則に抵触すると思われます。
下の四ページですが、二つ目は、自治事務に対する関与として認めてよいかという問題です。
自治法では、国等の関与は必要最小限でなければならないと規定した上で、八つの基本類型を掲げています。図表一は第一次分権改革の際に自治省が提示した表ですが、法定受託事務では同意、指示、代執行など法的拘束力のある権力的関与が認められていますが、自治事務では基本的に権力的関与は認められていません。これは、国と地方を対等、協力の関係に転換するという理念を反映した分かりやすい表だと思います。
私は、大学の講義や職員研修でいつもこの表を示して、自治事務については自治権が保障されていて権力的関与は認められないんですよというふうに説明しているのですが、もしこの6の欄に緊急事態の指示権ありなどと記載しなければならないかと思うとがっかりしてしまいます。
釈迦に説法ですが、法律では立法の精神ないし制度論理というものが重要です。特例といいながら、わざわざ第十四章を作ってこうした規定を置くのは、自治法の整合性を崩し、その精神をゆがめるものではないかと思います。
五ページですが、三つ目は、緊急事態に指示権が必要か、逆効果にならないかという問題です。
そもそも緊急事態において適切な措置を講じられないケースには三つの場合が想定されます。1そもそも何が適切な措置かが分からない場合、2必要な措置は分かっているが、そのための財源、人材、情報がない場合、3必要な措置を取りたいが、関係機関の合意が得られない場合でございます。1の場合は、国も何をすべきかが分かっていないのに指示権は行使できません。2の場合は、国は財源、人材、情報を提供するよう努力すべきであり、指示は不要です。3の場合は、関係機関がもし他の自治体であれば指示権を使えますが、合意しない自治体にもそれなりの事情がありますので、国が指示したからといって問題は容易に解決しないと思われます。
その下ですが、それどころか、指示権の行使は逆効果にならないでしょうか。
第一に、事件は現場で起こるわけですから、東京にいながら適切な措置を決めることは難しいですし、第二に、情勢が次々変化するのに一旦国の指示が出るとそれに縛られてその時々の最適措置が取れなくなるのではないか、第三に、通常、国も自治体も危機を乗り越えたいので指示権は必要ありませんが、もし必要だとすれば全国的な利害と地域的な利害が対立する場合と考えられます。例えば、放射性廃棄物の保管や処理をめぐって国と自治体が対立するようなハードケースであります。しかし、そうしたケースほど合意形成の努力が必要であって、指示権を行使して地域を黙らせるようなことはすべきではないし、やってしまうと、その後の係争処理や訴訟によって問題の解決がかえって遠のくという逆効果が懸念されます。国が指示権を行使すれば自治体が分かりましたと言って従うというような、楽観的な見方はできないというふうに思います。
七ページですが、四つ目は、新型コロナ対応の教訓に合致しているかという問題です。
私は、パンデミック対策では、図表二に整理したように、国と自治体がそれぞれの役割を責任を持って実行することが重要だ、集権と分権の合わせ技が大事だと主張しております。三年半に及んだコロナ対応では、ここに記載したように、どちらかといえば国の対応の方に問題があったように思います。政治家も行政官も個人としては奮闘されたと思いますが、国は行政組織が縦割りですし、現場から遠いために危機管理に向かない構造があるのではないでしょうか。
それに対して、八ページですが、自治体は首長に権限と情報が集まりますし、医療機関など現場にも近いため、コロナ対応でもおおむね期待される役割を果たしてきたと思います。
私は、ある学会で自治体のコロナ対応を検証する作業をしていますが、国が指示しなければならないような自治体があったとすれば教えていただきたいというふうに思います。
もちろん、例示したように、国と自治体の方針が対立した場面はありましたが、国の方針が常に正しかったわけではありません。人は危機に陥ると誰かのせいにしたくなるのかもしれませんが、自治体が国の言うことを聞かなかったからコロナ対応がうまくいかなかった、これからは指示権が必要だと考えたとすれば、奮闘してきた首長や自治体職員に失礼な話だと思いますし、事実に基づかない発想だと思います。
九ページですが、五つ目は、どういう形なら指示権の制度化が許されるかという問題です。私は指示権の制度化は必要ないという見解ですが、あえて言えば、緊急事態に直面した自治体から要請があったときに限定して関係する自治体に必要な措置を指示するという制度にすることは考えられるかもしれません。改正案に赤字で挿入したとおりでございます。
さて、十ページですが、大きく二つ目の規定として、自治体間の応援に関する指示の規定についてです。緊急事態に人材や物資などの応援は不可欠ですので、都道府県をまたがる応援の調整を国が行うことは意味があると思います。実際には災害時などの自治体の応援は既に様々な形で実践されていますので、応援の求めはよいと思いますが、指示の規定は必要でないと思います。さらに、都道府県の指示権も定められていますが、自治法で都道府県と市町村は対等とされていますので、これは避けるべきだと思います。
最後の十一ページですが、三つ目に、指定地域共同活動団体の規定が注目されます。今後コミュニティー団体等の役割は大きくなりますので、指定制度を設けることは意味があると思いますし、自治の多様な担い手を位置づけることは自治法の目的にも合致いたします。本来は自治基本条例などの条例で定めることが望ましいと思いますが、随意契約、行政財産の貸付けなど、法律による規律の例外を設ける点で、自治法に規定することは意味があると思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
○古屋委員長 次に、村井参考人、お願いいたします。
○村井参考人 皆さん、おはようございます。全国知事会会長の村井でございます。
それでは、意見を申し上げます。
まず、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例についてお話しいたします。
第一に、国と地方は対等、協力の関係にある、分権改革によって実現したこの国、地方の関係を決して崩してはならない、このことをまず申し上げておきたいと思います。地方自治の本旨や地方分権改革により実現した国と地方の対等な関係は、今後とも守っていただくよう強く求めたいと思います。
一方で、新型コロナウイルス感染症は、まさにこれまで経験したことのない未曽有の有事でございました。
地域の実情に応じて自治体で対応を行い、成果を上げた取組は多々あります。例えば宮城県では、全国に先駆け、医療機関に義務づけられている発生届の対象を六十五歳以上の高齢者等に限定する発生届の限定化を行い、保健所等の負担軽減を図りました。また、クラスターが発生した学校に専門家を派遣し、感染リスクが高まる教育活動における予防対策を検証し周知することで感染拡大防止に努めました。全国知事会としても、四十七都道府県知事が参加する新型コロナウイルス緊急対策本部を立ち上げ、各県の事例を踏まえ、有効な対策の検討、都道府県との共有に取り組んでまいりました。
しかしながら、それぞれの自治体の取組ではどうにもならないこともあり、新型コロナに係る取組の制度の根幹は国において定められていることから、知事会としても、国の役割、責任として対応していただくよう政府に提言を行ってきました。例えば、緊急事態宣言の発出前に感染症対策に取り組むことができるよう、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正を提言し、まん延防止等重点措置が創設されました。
今振り返ってみれば、確かに、今回の事態は国と地方の役割分担に関する課題を浮き彫りにした側面はあるのではないかなと感じております。国民の命や暮らしを守るために国、地方が一体となって取り組む必要があり、分権改革の成果を守りながら国と地方の役割分担の在り方について改めて考えるということは意義のあることだと考えています。
本法律案は第三十三次地方制度調査会の答申に基づくものでありますが、調査会においては全国知事会として、新型コロナ対応を踏まえ、国と地方の役割分担について改めて明確化すべき部分があるのではないか、感染症有事などへの対応の際には生活圏、経済圏の一体性に配慮し都道府県境を越えた広域的な対策を前提とすべきではないか、市町村域を越えて感染症が拡大している場合などには都道府県主導で必要な措置を講じられるよう市町村との役割分担の在り方などを見直すべきではないか等の意見を提出してまいりました。このような意見も踏まえ議論が行われたものと承知をしております。
国から地方への指示については、地方の側からすると、自主性、自立性という観点から望ましいものではありません。しかしながら、議論されている国民の安全に重大な影響を及ぼす事態において、地方の事務処理であっても国が広域的な立場から役割、責任を果たすべき場面があるということは、広く国民の命を守るという観点からそのとおりであると思います。
新型コロナの感染初期にはダイヤモンド・プリンセス号の一件がありました。当初は、個別法、感染症法に基づき横浜市が接岸した船にいる人たちの入院の措置を行ってきましたが、横浜市のみでは広域的な調整ができず、神奈川県、東京都を始めとする他の自治体やDMATが入って対応しました。
これは完全に法律の規定を超えてしまっております。感染初期には個別法で想定したことを超える事態が起こるのです。これをどのように収めるかというルールのないままでは、国は対策本部を立ち上げて緊急事態宣言を発するまで何もできないということになってしまいます。このようなことを踏まえますと、分権の立場からは、指示として行うべきものについて、法律上、要件、手続を明確にしておくことが無用の混乱を生じさせないためにも重要であります。このため、想定外の事態への対応に万全を期す観点から、国の自治体に対する補充的な指示を含め、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方の関係について法律上明確化することは必要であろうと考えます。
他方で、地域の実情や現場対応を行っている自治体の意見を踏まえていただくことは譲れません。このため、知事会としては、国の補充的な指示については、事前に自治体の十分な協議、調整を行うことや、目的達成のために必要最小限の範囲とすることなどを求めております。
本法律案では、国の補充的な指示について、国と地方との関係の特例と位置づけられ、必要な限度において行使することや、あらかじめ適切な状況把握や講ずべき措置の検討のために自治体に意見等を求めるなど適切な措置を講じるよう努めなければならないことが規定されており、一定の配慮がなされたものと評価をしております。
基本的には現行の法律の下で地方との協議、調整により解決することが望ましく、多くのケースではそれで対応できるだろうと思います。しかしながら、現行の法制の下では想定できず、国としての役割、責任を果たすために対応が困難な状況もないとも限りません。そのような場合において国の補充的な指示が行われるものと考えておりますが、その場合にあっても事前に自治体と十分に協議、調整を行っていただきたい、また、その権限の行使は必要最小限の範囲としていただきたいと考えています。
我が国は、二〇〇〇年以降だけでも、東日本大震災、新型コロナウイルス感染症、そして今、能登半島地震という大きな危機を経験しています。そして、このような危機は南海トラフ地震を始め今後も生じ得るものであります。国と地方がそれぞれの役割を十分に果たして乗り越えていかなければなりません。
次に、DXの進展を踏まえた対応について意見を申し上げます。
現在、地方のDXの最大の課題は二十業務についての標準準拠システムへの移行であり、期限や経費の課題に対処しながら、国には着実に取り組める環境をつくっていただきたいと思います。さらに、新たな国、地方の共通基盤を検討していくこととされておりますが、これまでの標準化や自治体の取組を検証し、規模が様々な自治体のニーズや課題をしっかりと把握した上で、国、地方が協力しながら進めていく必要があると思います。
そうした中、今回の改正案では、事務の種類、内容に応じて他の自治体や国と協力し、情報システムの利用を最適化すべきとしております。方向性は十分理解できますし、都道府県においても様々な共同利用の取組を行っておりますので、こうした取組も是非生かしながら進めるべきものと考えます。
ネットワークで自治体や国がつながる中、住民の大切な情報を預かる自治体として、セキュリティーの確保も全ての自治体が対応すべき重要な課題であり、法律に基づいた取組を進めることは必要と考えます。国には専門的な知見の提供に十分配慮していただきたいと思います。
eLTAXを活用した地方税以外の公金収納を可能とする規定も盛り込まれておりますが、住民や企業がキャッシュレスで納付できるだけでなく、金融機関や自治体において収納事務が効率化されるというメリットも大きいため、できるだけ早く実現していただくとともに、自治体側の準備に対してもしっかりと支援をしていただきたいと思います。
最後に、地域の多様な主体の連携及び協働の推進について意見を申し上げます。
人口減少、少子高齢化等により自治体の経営資源が制約される中で複雑多岐にわたる諸課題に対応するためには、地域の多様な主体が連携、協働しつつ生活サービスの提供を行いやすい環境を整備することが重要であります。本改正は、市町村の判断により、地域の多様な主体と連携して生活サービスの提供等を行う団体について、その自主性、自立性を担保しつつ、指定地域共同活動団体として指定し、その活動を支援する制度を創設するものであります。これにより、地域コミュニティー活動の活性化を図るとともに、地域における共助がより一層深化することに資するものと考えております。
私からの意見は以上でございます。ありがとうございました。(拍手)
○古屋委員長 次に、永田参考人、お願いいたします。
○永田参考人 関西大学の永田と申します。本日は、このような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。
最初に私の簡単な自己紹介をさせていただきたいと思いますが、長年、行政学の視点から消防とか防災とか危機管理の研究をしてまいりました。コロナの期間におきましては、我が国の危機管理、災害対応とかコロナ対応とかについて論文を数本執筆させていただいております。また、昨年五月に「日本の消防行政の研究」という本を出版させていただいておりまして、この中で、いわゆる個別法で国の指示権というものが既に認められている消防行政とか防災行政における指示権の運用の実態というものについても研究をさせていただいております。本日、本法案に関しましては、危機管理という視点から、肯定側の立場からお話しさせていただきたいなと考えております。
まず最初に、新型コロナで表面化した行政組織間の課題ということからお話しさせていただきたいなと思っております。
今回のコロナというのは、国、地方自治体それぞれが、各種資源不足というものがございまして、やはり足並みがそろわなかった部分というのがあったんじゃないかなと考えております。その結果、我が国では非常に珍しいことだと思いますが、行政間のコンフリクトみたいなものが多様な形で表面化した非常に珍しい事例ではないかなというふうに思っております。また、それを新型コロナの危機としての特殊性が助長した側面があるかなと思っております。それが結果として危機対応の遅れということにもつながってしまったのではないかと思います。特に、国の総合調整機能が法的資源不足ということで機能しなかった点というのが非常に大きかったんじゃないかなというふうに考えております。
では、新型コロナの特殊性とは一体何なのかということですが、私は、局地的、時限的な危機ではなかったという点が非常に大きな特殊性ではないかなと思っております。
自然災害の場合は、どんな大きな災害におきましても被災地とそうでない地域というのが必ず存在いたします。被害を受けていない地域からの応援とか支援というものが成立するわけでございます。ところが、今回の新型コロナにおきましては、どの地方自治体も、いつ感染拡大が自分たちの地域で起こるか分からない、今感染者がいなくてもいつ起こるか分からないという非常に不確実性の高い状況下に置かれている中で、自然災害と比較すると自治体間の水平補完での連携とか応援というものが低調だったんじゃないかというふうに個人的には考えております。
さらに、終わりが見えない危機。自然災害の場合、どんな大きな災害でも半年もたつと大分事態が落ち着いてくるわけですけれども、ところが、終わりが見えない危機というのが何年も続く中で、災害時新業務と併せて平常時業務というのも行っていかなければいけないということで行政の業務量が激増しまして、どの行政組織においても余裕のない状況に陥ってしまったということがあったんじゃないかなというふうに考えております。
本来、危機とは何かということでございます。
大きな危機への対応というのは本来、社会全体での総力戦で対応していかなければいけないというふうに考えております。国も地方も非常時に必要な資源を全て持っているわけではないわけでございます。それぞれが足りていない資源というのが必ずございまして、その部分を垂直補完ないしは水平補完で補って対応する必要性というのがあると考えております。今回のコロナに関しましては、それぞれが余裕がない状況の中で国も地方自治体も、語弊があるかもしれませんが、皆さんが違う方向を向いていた感じで、足並みの乱れが表面化してしまった部分があるんじゃないかと考えております。
危機時にそれぞれの事情を持った地方自治体を総合調整する必要性がございます。それは私は国しかないと考えております。今後もこのような危機というのは必ず起こり得る、それに早急に備えないと助けられる命も助けられなくなるということではないかなと思っております。
今回のコロナなんですけれども、大なり小なり想定外の事態というのが各所で多発したわけでございます。特に、私は、その一因として、我が国というのは比較的危機対応というのが、消防でも防災でも危機管理でもそうですけれども、事が起こってから明らかになった課題を解決する、後追い行政という傾向が非常に強いという側面がございまして、それが今回も事前想定とか準備の遅れにつながった一因になっていたんじゃないかというふうに考えております。
先取り行政の傾向が非常に強い欧米の国々なんかでは、リスクアセスメントというのを非常に徹底的に実施される側面がございます。それによって事前に課題の洗い出しというのを相当手間と時間をかけてされているということがございます。
我が国も今後、後追い行政から先取り行政の方に危機対応というのは持っていかなければいけないんですけれども、ただ、そこで、それでも留意しなければいけない点があるのかなと考えております。それが何かと申しますと、先取り行政でも、危機時の想定外というのは減らすことはできるけれども、なくすことはできないということでございます。事前のシミュレーションとか訓練、こういうものを通して課題というものを洗い出す限界というものが間違いなくあるということです。また、危機事案というのは発生頻度が非常に少ないので、実際の経験則から課題を事前に洗い出す限界というものが必ずあるということでございます。
以上のような点から、本法案は望ましいというふうに私は考えております。
危機時の国の総合調整機能というものが、この法案ができることによって強化されます。我が国の行政組織が一丸となった危機対応が可能になると考えております。さらに、各所に災害時に点在する各種資源の最大活用というものがこれによって可能になってくると考えております。また、全てなくすことができない危機時の想定外の事態に対して迅速性と柔軟性を持って対応することも、この法案によって可能になるのではないかというふうに期待しております。
今回のコロナ対応というのは、私は、危機をコントロールするという危機管理というものではなくて、行き当たりばったりで出てきた事案に対して対応する、単なる危機対応だったというふうに考えております。やはり危機をコントロールするから危機管理ということなわけでして、その危機管理というのは事前の備えというものがあるから機能するということでございます。今後も発生し得る危機というものに対しまして危機管理というものが万全にできるように、事前の備えという視点から、本法案は非常に望ましいというふうに考えております。
私からは以上でございます。ありがとうございます。(拍手)
○古屋委員長 次に、白藤参考人、お願いいたします。
○白藤参考人 こんにちは。専修大学名誉教授の白藤です。よろしくお願いいたします。
今回は、地方自治法の改正案の中で、第十四章の国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例、この陳述では特例的関与と申し上げますが、それについてのみお話をしたいと思います。
まず、改正法案の第二百五十二条の二十六の三でいわば特例的関与に係る意義が書かれております。その中でもちろん一番重要なのが国民の安全に重大な影響を及ぼす事態とは一体何だということなわけですが、この概念自体は、地制調の第十八回の専門小委員会で突然、事務局の側の整理としてタイトル変更で出てきたものでございます。非平時と言われてきたものをそういう表現をしたわけですが、委員の中でも非平時についてはかんかんがくがく、けんけんごうごうの議論があったと承知しております。したがって、そのままそれをその性質に着目して表現したこの概念自体にも、いろいろな概念的な曖昧さが残っていると承知しております。
同条の中身を少し整理しますと、国の関与だけに着目すると、各大臣は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の発生又は発生のおそれがある場合に、自ら生命の保護の措置を講ずるか、あるいは適切な普通地方公共団体がそれに対する同措置を講ずるか、その場合に必要とあれば意見の提出を求める、要求することができるという規定です。もちろんこれはこれに限ったことではなくて、同条の第二項の意見の提出の要求にも、あるいは、後で特権的指示という言い方をしていますが、生命等の保護の措置に対する指示等においても同様のことでございます。
まず、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の概念の曖昧さということに関してなんですが、御承知のように個別法の規定では想定されていない事態が念頭に置かれていて、それは専門個別行政領域ごとの個別法でも想定できない事態ということであれば、地方自治法という一般法でも想定できるはずがございません。これに対処することはまるでUFOの出現や宇宙人の襲来に備えるような話だと私は思っております。備えあれば憂いなしということかも分かりませんが、備えの段階で身を滅ぼすような改正案の定義になっていないかということを危惧いたします。
地方自治法においておよそ想定し得ない事態を想定して、その事態に対する権限を一般的、抽象的に行政権に授権することはいわゆる白紙委任に近いものであって、行政の授権と統制の法としてできるだけ要件と効果を厳密に定めようとする行政法の世界では想定し難いことだと考えます。
ちなみに、地制調の専門小委員会ではこの非平時の範囲については自然災害、感染症、武力攻撃が同時並列的に議論されてきたところであって、この議論にのっとれば、当然に武力攻撃災害のような事態も非平時の範囲に含まれることになろうかと思います。
例えば、具体的に考えてみると、事態対処法に存立危機事態というのがございます。確かに存立危機事態は日本国が直接攻撃対象となる武力攻撃事態等とは区別され規定されておりますが、事態対処法において想定され対処することになっているというわけです。総務大臣が繰り返し答弁されているように、想定される事態については法律で必要な規定が設けられており、本改正案に基づくような関与を行使することは想定されていないということなのかも分かりません。
しかし、他国に対する武力攻撃の発生を契機として日本における武力行使が開始され、そのことにより日本が武力攻撃を受けた場合と同様の深刻で重大な影響が及ぶことが明らかになる状況が客観的、合理的に判断して認められるような場合があり得るとすれば、これは仙台高等裁判所の昨年末の判決からの引用ですが、そのような場合の存立危機事態は個別法である事態対処法で想定されていない事態ではないでしょうか。つまり、改正案における国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の発生あるいは発生のおそれがある場合というのは融通無碍に広がるおそれがあるということです。
改正案では、大規模な災害、感染症の蔓延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の範囲は、大規模な災害、感染症の蔓延にとどまらず、被害の程度に着目した概念である限り融通無碍に拡大することになりましょう。おのずと、かかる事態の発生等を要件とする国の指示権の発動の範囲も無限定に広がるおそれがございます。したがって、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態は厳しく要件を定義したというんですが、国の指示権等の発動要件を規定するには無内容な規定だと言わなければなりません。
かなり飛ばしまして、次に、改正法案の第二百五十二条の二十六の四の事務処理の調整の指示及び二百五十二条の二十六の五の生命等の保護の措置に関する指示について少しお話を申し上げます。
まず、第一なんですが、いわゆる補充的指示権と言われているものの必要性というのは個別法では規定できない、したがって個別法に基づく指示権の行使が不可能だ、それを可能にするために補充的に一般法たる地方自治法で定めるということなんですが、このような一般法主義の理解はおよそ地方分権改革そして九九年の改正地方自治法の趣旨とするところではございません。
地方自治法における一般法主義の原則というのは、関与法定主義といっても、それぞれの法律で関与をどれだけでも強化する規定を置いてしまえばどこまでも関与は強化される、それを一般法である地方自治法において直接定めることによってその関与の強化を法的に枠づける、そういう意味があったものでございますので、これは誤解あるいは濫用というふうに理解しております。
二つ目、自治事務と法定受託事務の区別がない特権的指示であろう。
これは礒崎参考人もおっしゃいましたことと重なるわけですが、本改正案では自治事務、法定受託事務の区別がなく規定されております。しかし、この自治事務と法定受託事務というのは、機関委任事務を廃止して新たにつくられた事務の区分として大変重要なものでございます。特に、自治事務に関しては国の関与を最大限抑制するということでありますので、その自治事務と法定受託事務を一緒にしてしまって規定するということは到底考えられないことでございます。
同様に、適法、違法の区別もなく、事前、事後の区別もなく特権的指示権が行使されることになっている。
こちらも自治法の二百四十五条の五、六、七、その辺の規定を見ていただくと分かるんですが、何らかの措置をまずは地方公共団体がする、事務処理をする、それが間違っていたときに初めて関与するという事後的関与の原則が取られております。したがって、事後的関与ではなく事前的にも関与できる、適法であっても関与できる。これは到底、分権改革、改正地方自治法の趣旨に合うものではございません。
次に、改正法案の二百九十八条、これはマイナーな規定なんですが、ここに法定受託事務とは何かということが書いてあります。
今回、第二百五十二条の二十六の四及び二十六の五第三項等で指示された事務は全て、都道府県の事務であっても、市町村の事務はちょっと限定されてはおりますが、あるいは自治事務であっても第一号法定受託事務になるというふうに規定されております。ということは、今回の特権的指示権が行使されればその対象となる事務は全て法定受託事務になる、こんなことが許されていいはずがないと思います。
そのことは、次の四のところの違法、不当な特権的指示に係る救済制度とも関係しております。
現在の関与が違法であるときの救済制度というのは、国地方係争処理委員会やあるいは場合によっては裁判所にも出訴できる、取消し訴訟ができるようになっておりますが、果たして違法な特権的指示が行われた場合にどのような救済制度が用意されているのか。もちろん現行の通例的関与のものがそのまま使えれば問題ないんですが、そうでなければどうなんだろうか。あるいは、使えたとしても、冒頭で申し上げたように、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態においてその救済制度をきちんと手続的に踏んでいくことができるのかどうかというのは、私、辺野古の訴訟でずっと八年間関わってきた結果、心もとないと思っております。法定受託事務ですから、最終的に代執行までされることが想定されているとすれば、大変な問題だろうと思います。
最後に、以上見てきたように、どう見ても改正法案は分権化という方向よりも逆分権化の兆候が見られます。憲法、そして憲法附属法である地方自治法を理念的、構造的、機能的に破壊するような改正案になっていないでしょうか。そうであれば異常事態であろうかと思います。緊急事態においてこそ徹底した分権化を図り、むしろ自治体が司令塔になって第一義的に事態に対処すべきであると考えております。緊要なのは危機管理の国化や集権化ではなく、危機管理の現場化、地域化ではないでしょうか。
以上です。ありがとうございました。(拍手)
○古屋委員長 ありがとうございました。
以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
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○古屋委員長 これより参考人に対する質疑を行います。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。川崎ひでとさん。
○川崎委員 おはようございます。自由民主党の川崎ひでとでございます。
本日、五名の参考人の方々、貴重な御意見をありがとうございました。自民党を代表して、これから質問をさせていただきます。
コロナが発生したとき、私はまだ衆議院議員ではございませんでした。二〇二一年初当選でございました。それまでは衆議院議員の秘書を地元三重県でやっておりました。そのときは本当に多くの情報が流れてきて、何が正しい情報なのか、国、地方がどういうふうに動いているのかというのが全く分からない状態でございました。そういう意味でいけば、私もほかの市民の皆様、国民の皆様と全く同じ、同列な状況でございました。そして、テレビを見ていますと、当時の安倍元総理が学校を休校にするというような力強い発言をしたり、厚生労働省の加藤大臣あるいは田村元厚生労働大臣が病院に対する指示をするといったような、国からの指示というのが非常に強く印象的でした。
こうして国というのはきちんとそういう責任を持って指示をするのだなというのが当時の理解だったんですけれども、改めて衆議員になってみて予算委員会等に出てみると、実はこれはあくまで助言だった、責任は地方自治体で持たなければならないというのが法律上定められていたということで、改めてこの問題は大きな問題だなというふうに考えさせられました。その上で、予算委員会に出ていますと、与野党共に国の責任、役割をしっかりすべきじゃないかというような御意見をいただいていたのを予算委員会の場を拝聴していまして思ったことでございます。
最もまず政府としてやらなければいけないことは、あのときの反省が何だったのかというのを共有しなければならないというふうに思っています。今回のこうした地方自治法の改正についても、まず国民の皆様がしっかりと、何が当時の課題で、それがゆえに今回の法改正をしなければならないという議論に至ったのかという非常に重要なメッセージなんだというふうに思います。その上で、やはり現場の意見というのが非常に重要になってまいります。
そこで、まず第一問目は村井知事にお伺いしたいというふうに思います。
新型コロナの取組、先ほども申し上げたように、各地方自治体の皆様に本当に様々な御対応をいただきました。例えば、都道府県に入院調整本部を設置してもらって、県が監督していない保健所も踏まえて各入院の調整、こうしたものも多く受け入れていただきました。入院患者が多くて受け入れられないところはまだ患者数が少ない地域のところに転院、受入れをしてもらうように調整いただいたり、かなり御苦労されたというふうに理解しております。そういう意味では、本当にあのときの対応はありがたいなと心から感謝を申し上げたいところでございます。
先ほどの村井知事からの御発言で、今回のコロナ対応で国や都道府県が果たすべき役割に関する課題が浮き彫りになったというふうな御発言をいただきました。具体的にどういう課題が浮き彫りになったのかというところを、改めて情報共有の意味で御答弁いただけますでしょうか。
○村井参考人 都道府県、市町村は警察、消防、保健所等を所管しておりますので、危機対応措置の実施面で大きな役割を担う一方、国は、基本方針の策定や危機事態の発令、広域的な応援等の役割を担っております。こうした状況の下で、新型コロナ対応について国や都道府県が果たすべき役割に関する課題として数点挙げたいと思います。
一点目は、国が主導すべき部分、地方が主体的に取り組む部分の具体的な線引きがないまま、内閣官房や厚生労働省を中心に、膨大な通知、事務連絡による頻回の制度変更で現場が混乱する場面が発生したということであります。具体的には、病床確保などの医療提供体制の強化や保健所による積極的疫学調査などで混乱が発生をいたしました。
二点目は、緊急事態宣言の発出や蔓延防止等重点措置の適用の権限は国にございまして、知事の要請に応じた機動的な発出等が行われない場面が発生をいたしました。休業要請など民間事業者に対する権限行使の多くは知事が行うものとされておりますが、国が基本的対処方針により細かく措置内容を規定するため、地方が現場の判断に基づく柔軟な感染対策を講じづらい状況にございました。
感染の発生、拡大の経路の態様、対応する保健医療提供体制のリソースは地域ごとに大きく異なるとともに、地域ごとに異なる健康危機が同時多発的に各地で急速に生じるため、感染対策は地域で機動的に判断することができればより機動的に実施できるものが多いものではないかというふうに考えております。
このように、緊急時におきましては国と地方との関係で様々な課題があったものと考えております。
○川崎委員 ありがとうございます。
現場が混乱をした、国と地方のそれぞれの役割がやはり明確になっていなかった、こういうふうに理解いたしました。
その上でなんですけれども、今度は山本教授にお伺いをさせてください。
まさに地方の判断と責任の下でやらなければならない、国はあくまで助言だというような位置づけでそれまでのコロナ対応がされてきたわけなんですけれども、実際に今回は国の責任なのか地方の責任なのか不明確だったというようなお声がたくさんあったというのが、これまでの予算委員会等で私は把握している限りでございます。
その上において、今回の法改正においては、何人かの委員の皆様から立法事実がないというふうなお声等をいただいているケースもありました。今回の法改正、必要だというふうな提言をまさに調査会でやられたわけだと思うんですけれども、改めて立法事実を明確にお伝えいただけますでしょうか。
○山本参考人 お答えをいたします。
先ほども申しましたけれども、地制調の中では、具体的に、過去の災害対策基本法、感染症法、それから新型インフルエンザ特措法、こういった法律の中で一定の範囲で指示の規定があるのですけれども、それではカバーされないような、そういう事態が発生したということが提示をされました。それが立法事実ということになるかと思います。
それで、現在何があるのかということ、これは先ほど来も議論があったところなのですけれども、もし現在具体的にこういう事態が考えられるのでこれについて国の指示権を規定すべきであるということになりますと、これは個別法をそのように改正すればいいということになるわけでして、地方自治法上の一般的な制度を設ける必要があるかどうかという議論でなくなってしまうということがございます。
ですから、私たちとしては、過去に想定されていなかったような事態が発生した、現在でもそれが発生する可能性がある、それを具体的にこういう場合だというふうに示すことは困難なんだけれども、しかし可能性はこれは否定ができないだろうということを考えて制度の提案をしたということでございます。
以上です。
○川崎委員 ありがとうございます。
私も、まずこの法案は改正が必要だというふうな立場でお話をさせていただきますけれども、先ほどお話をいただいたように、今回のコロナと同じような事態が起きてしまったときに、個別法の改正が行われるまでの間が国の役割が法律上不明確だというふうになっていると非常に問題があると思いますし、個別法の改正が行われるまでの間どうしてもタイムラグが生じますから、その間国民の生命を危険にさらしておくのかというと、これは非常に問題があるというふうに思っています。村井知事も大きくうなずいていただいていますけれども。こういう意味では、何が起こるか分からない、こうした昨今の状況においてしっかりと対策をするというのが本当に必要なんだというふうに思っています。
コロナというものが起きてしまった事実は変えられません。これをこのまま蓋をしたままですと、当然ながらマイナスの、負の、ネガティブなものにしかなりませんけれども、やはりこうしたものをきっかけに一つ一つの制度を充実させて、次に何が起きても対応できるようにというふうなスタンスを取っておくのが国として必要な事項なんだというふうに思います。
そこで、次の質問に参りたいと思います。礒崎教授にお伺いをさせてください。
先ほど教授の御発表の中で、国が対応しなければならない事態があれば教えてほしいというような御発言をいただきました。その後に村井知事の方からダイヤモンド・プリンセス号のお話があったというふうに思います。
この総務委員会のメンバーにおいては、まさにダイヤモンド・プリンセス号を受け入れた横浜市選出の古川議員も先般この総務委員会で同様のお話をされておりました。ダイヤモンド・プリンセス号においては、最終的に七百名以上が感染したというふうな状況になっていました。これを、正直、横浜市だけで対応するというのは無理だった。厚労省、神奈川県も出てきてDMATも出動し、そして様々な対応をしていただいたおかげできちんと適切に対応いただいたというふうに思っていますけれども。私としては国が対応しなければならない事態だというふうに理解をしているんですけれども、この事実を踏まえて、礒崎教授からコメントがあれば教えていただきたいと思います。
○礒崎参考人 ありがとうございます。
私が申し上げたのは、国が指示しなければならないような事態というのはコロナ対応にはほとんどなかったのではないかということでございました。
御指摘いただいたダイヤモンド・プリンセス号も、委員もおっしゃったように、実際には神奈川県が神奈川DMATの出動を要請いたしまして、私のスライド、八ページの真ん中頃にありますけれども、七百六十九名の患者を十六都道府県に搬送した、これは国の指示ではございません。
むしろ、それぞれ県あるいは厚労省が事実上調整をしっかりすることによって法の枠組みを超えて対応したということでございますので、指示は要らなかったし、厚労省に指示しろと言われても、厚労省はどういう指示をしたのか、それはもう相手と面と向かってその場その場で対応しなければいけなかったので、指示というような対応はあの場面でも必要なかったし無理だったのではないか、それよりも事実上の協調、協議、そして国の助言、こうしたもので対応できたのではないだろうかというふうに思っております。そういう意味で、指示が必要な場面というのはそう多くなかったのではないかと申し上げたところでございます。
以上でございます。
○川崎委員 ありがとうございます。
同じ質問を白藤教授にもさせていただいてもよろしいでしょうか。
○白藤参考人 私も礒崎参考人と同じような考え方でございます。むしろ、あのとき国が勝手に、横浜市のことを考えず、神奈川県のことを考えず今回のような特権的指示をすればかえって混乱したのではないかと思っております。
以上です。
○川崎委員 ありがとうございます。
お二人の共通点は、まさに事態は現場で起きているということなんだというふうに思います。この発言は村井知事の方からもありましたし、本法案が審議入りされる前、本会議場でおおつき議員も同じ発言をされていたのを記憶しております。私も同感です。事態は現場で起きているというのは間違いないと思います。
一方で、事態は現場で起きていますけれども、科学的な情報や知見というものは国に集約される。こういう意味においては、両方が両方を補完し合いながら動いていかないといけないというふうに思っています。そういう意味で、恐らく知事会からの提言においては、事前に適切な協議、調整を行うこと、運用で行うことというふうな提言をいただいているというふうに理解しております。
まさにここで運用という表現を使われているのがすごく印象的なんですけれども、この事前にという部分、これがどういうタイミングでやるべきなのかというのを、それぞれ、山本教授、そして村井知事から、この事前の運用というイメージをちょっと明確にしていただきたいと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
まず、基本的な考え方として、地方制度調査会においても、指示権ということは、これは極端な場合に発動することが考えられるものであって、国と地方公共団体との間で綿密に情報交換それからコミュニケーションを行うということがあくまでこれは前提であるということでございました。
その上で、具体的な手続をどのように定められるのかということも議論いたしましたけれども、本当にこれはケース・バイ・ケースで、事前にきっちりと意見交換をする時間的な余裕がどれぐらいあるのかということにもよるというふうに議論いたしました。
したがいまして、正面からのお答えにはならないのですけれども、非常にケース・バイ・ケースで、これを一般的に何か具体的な手続を制度化するのは難しいというふうに議論いたしました。それで、今回の法案の中では努力義務という形で、とにかく十分な情報交換、意見交換をするようにと。その上で、では具体的な場面でどの程度それができるのかということについては、それはケース・バイ・ケースで判断される。しかし、努力義務ですから、やはり努力はしないとそれは法律に違反することになる、地方自治法に違反することになるという効果はあるのではないかというふうに考えております。
以上です。
○村井参考人 私も山本先生と同じ意見でございます。
事前にというのは、ちゃんとした定義はないんですけれども、やはり個別法ができる前まで、状況に応じてできるだけ早くという意味でございます。協議、調整をしっかり行っていただきたいという意味で、運用という言葉を使わせていただきました。
○川崎委員 ありがとうございます。
本当に緊急事態が起きたときの指示の部分でありますので、地方自治法が改正されたとしても濫用してはいけないというのは私も感じるところでございます。それゆえに、国と各自治体がしっかりと話し合う、こうしたところを設けなければならないなというふうに理解しております。
改めて村井知事に御答弁をお願いしたいんですけれども、今回こうして制度化するに当たっては、地方分権という精神、法にのっとってきちんと、国が過度な介入、指示をしない、現場の意見がきちんと生かされる、こうした状況を制度面でもうたう必要があるというふうに理解しております。今回法改正されて、具体的な運用を考えるときになったときに改めて政府に対してこれだけは強く言っておくというようなことがあれば是非、村井知事からまさに現場の声としてお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。
○村井参考人 繰り返しになりますけれども、個別法では対応できない、全く想定されていない事態が発生した場合、そして、あくまでも補充的なものであるということ、特別のレアケースであるといったようなことはしっかりと皆さんで確認し合っていただきたいというふうに思います。
○川崎委員 ありがとうございます。
もちろん基本的に個別法で対応ができていればこの法案で指示を発動しなくてもいいということになりますけれども、やはり想定外のことというのは常に起きるというのは先生方からも御意見をいただいたところだというふうに思いますし、これが発動するということは、総務省を含め様々な法案を作っていただいている役所の皆様もすぐに、自分たちの考えていたことよりも範囲外のことが起きてしまったということで早く個別法を改正しなければならない、そういう意識になるというふうに思っています。こうした法案の改正のスピードを速く上げるということもかなり重要だと思いますので、それは我々政治家もしっかりと努めなければならないというふうなことを我々も申し上げておきたいというふうに思います。
今日は永田参考人にもお越しいただいて、質問をさせていただこうと思ったんですけれども、予定の時間が来てしまったので、このほかにも質問をするメンバーがおりますので、その方々に御回答をお願いしたいというふうに申し上げて、私の質問とさせていただきます。
ありがとうございました。
○古屋委員長 次に、道下大樹さん。
○道下委員 立憲民主党・無所属の道下大樹と申します。
今日は、五名の参考人の皆様、本当にお忙しいところをお越しいただき、また、貴重な御意見を賜り、本当にありがとうございます。
それでは、質問をさせていただきたいと思います。
二〇〇〇年の地方自治法改正によって多くの法定受託事務を残し、自治体の財源を削って機能を弱めてきたという指摘もありますけれども、しかしそれでも国と自治体の対等、協力を掲げて地方自治が発展されていった、地方分権が進んでいったということは私も認識をしているところでございます。しかしながら、今回の地方自治法改正における特に指示権の導入というところが非常に問題ではないかということが、多くの識者の方々、また地制調の中でも議論があり、我々の党内での議論、そして多くの専門家の方々からも御意見があり、今日の参考人の皆様からの御意見の中でもそういったものがあると思います。
総じて言えば、憲法に明記されています地方自治の本旨、それに反しており、また、団体事務を根本から崩れさせるような、不安定にさせるような、そうしたものがあるのではないか、地方分権改革が掲げていた対等、協力という方向からも大きく逆行するのではないかというふうに私は認識をしているところでございます。
まず、指示権の導入に当たっての立法事実について、山本参考人、礒崎参考人、永田参考人、白藤参考人にお伺いしたいと思います。
先ほども山本参考人が、想定できない事態なので想定はできないということで、そういった御回答がありました。
また、永田参考人の御意見の中では、我が国の危機的対応が後追い行政で事前想定や準備が遅かった点も一因という、今回のコロナの対応ですね。想定外の事態が多発したということで、これは後追い行政だ、事前想定や準備が遅かったということ。ただ、永田参考人は、以上のことから危機時の国の総合調整機能がこの指示によって強化されるということなんですが、私はちょっと一足飛びではないかなと。その関連性がちょっと思い浮かばないんですけれども。
今御指名させていただいた四名の方々に、指示権導入に当たっての立法事実について、改めて、あるのかないのか、その具体的なことについて伺いたいと思います。
○山本参考人 先ほどお答えしたことと重なりますけれども、私どもとしては、やはり個別法が想定していない事態というのは今後も起きるだろうということは、それはやはり否定できないのではないかということです。
もちろん、その前提として、個別法を所管する省庁あるいは国会の皆様においてきちっとできるだけその事態を想定して個別法を見直しあるいは改正していくということが必要であると思いますし、最近は随分そういった動きがあると思います。私自身も役所でそういったことに関わったことがございます。それでもなお想定をされない事態は起きる可能性があるということです。それは、今も申し上げましたように、想定されていない事態を考えて何か制度をつくるというだけではなくて、もちろん個別法を不断に見直し、できるだけ事態に対応できるようにするという努力が必要なことはもちろん前提として申し上げているということです。
以上です。
○礒崎参考人 私は、指示権が必要だということを裏づける立法事実はないんじゃないかというふうに思います。
想定外の事態はたくさん生じていると思いますね。それに対してどう対応するかですけれども、協議をしながら、例えば国は、財源はちゃんと保障するからしっかりやってくださいよとか、職員を応援いたしますよとか様々な対応をするわけですが、これらはいずれも指示ではございません。指示して誰が動くのかということが大事でございまして、その動く方を対応しなければいけないわけでございますので、国が指示をして何か問題が解決するかというと解決しないと思われますので、指示権を裏づける立法事実はちょっと見当たらない。想定外の事態が起こるから指示権が必要だということはちょっと乱暴な議論ではないかと思います。
もう一つだけですけれども、実は、感染症法とか新型インフルエンザ等対策特別措置法、これらは法定受託事務ですので、実は、先ほど助言しかできないというような話がありましたが、いえいえ、処理基準を定められますし、指示もできますし、何なら代執行もできる、法定受託事務が基本的には感染症対策の基本にあったということで、国は十分な権限をお持ちだったということでございます。これ以上の権限を裏づける立法事実はないのではないか、こういうことでございます。
○永田参考人 先ほども申し上げましたように、先取りで洗い出しを行えばある程度想定外の危機というものは減らすことができるというふうに考えております。
ただ、私は例えば消防の研究をしておりますが、消防士の方々にお話を伺うと、よく言われるお話として、非常にリアルな訓練というものを消防士の方々は毎日のように行われているわけですけれども、ところが、一度火災の現場に出動して学べる経験値の方がはるかに大きいんだという話をよく伺うことがございます。つまり、どんなに精緻なシミュレーションをしても、あるいは訓練というのを行っても、やはりどうしても洗い出しができない課題というのは必ず危機時にあるということだというふうに考えております。そのような、洗い出しがどうしてもできない、抜け落ちてしまう課題というものに対して対応できる体制整備というものは事前に私は必要だというふうに考えております。
私は、消防とか防災行政の分野、ここの分野では、個別法で既に国の指示権というものが確立されている分野の研究をしておりますが、こういう研究では、指示権というものがあることによって、危機対応という側面で、確実に、ないときよりも迅速化している部分というのは確信として持っております。
例えば、今回の能登地震、能登地震におきまして、消防は、元日に起きた災害に対して二千人体制で緊急消防援助隊に出動指示をされました。これは過去の災害の事例と比較しても非常に手厚い対応だったというふうに私は消防の研究者として評価しておりますが、このような迅速な対応、元日に二千人の市町村消防の職員の方々を集めるというのはやはり大変なことなんですよ。それをできるのは国の指示権というものがあったからだというふうに私は考えております。
以上でございます。
○白藤参考人 個別法で想定できない事態で、個別法の規定にのっとって何らかの行為ができない事態というのはゆゆしき事態なんですが、法形式的には、国の要請、分担管理原則というので、それぞれの専門行政分野に各省大臣が担当して分かれております。それらの専門行政分野が想定できないという事態が生じる、それは当然そういうことはあるでしょう、私たちは人間ですから。しかし、そういう場合に、地方自治法の規定で一般的に要件も効果も曖昧な形で本件のような特権的指示権が行使できるとすれば、それはそこに白紙委任をしている状態としか考えられませんよね。
昔々、ドイツの憲法学者でカール・シュミットという人が、ナチスの桂冠学者というふうに言われた人ですが、例外状態は法を必要としないというようなことを言ったことがあります。彼の本意は、幾ら法律に書いたってその例外があって、例外状態こそ大問題なんだ、そのときには書いてあることでそのままいかないよというようなことを言って、更に彼は、もっと悪いことには、どれだけ法律で書いたって、規定したって隠れた主権行為というのがあるんだと。隠れた主権行為、隠れた主権者がいるんだと。
今回でいうと、今回のような事態が起こったときに、国が指示すれば問題が解決するんだというような考え方というのは、国こそが唯一の解決者であるとか、国こそが万能であるとか至上的な存在だ、国が最終的には主権者なんだと。今回の法案上は各大臣ですが、そのような発想がうかがえる、そこが危険じゃないかということですね。そして、それが特例で、特例なんだから、応急措置なんだからいいんじゃないですか、仕方ないでしょうというので済ませておく間はいいんだけれども、そういう考え方が通例の関与の問題、通例の国、自治体関係においても影響を与えてくるんじゃないかというのが私の危惧であります。
今回、指示に関して専門小委員会の方での議論では、あるいは答申では、国と地方の情報共有が大事ですよとか、コミュニケーションが大事ですよ、だから協議したり調整することは大事ですよというふうに答申しているんですね。ところが、山本参考人がおっしゃったように、この点については努力義務で、しかも協議という言葉は一切出てきません。意見を聞きますよとか、資料の要求をしますよ、それも努力義務です。それでどうして正しい情報共有ができたりコミュニケーションが取れると思っておられるのか、私には分かりません。多分、地制調の委員の方々もちょっとニュアンスが違うんじゃないのというふうに思っていると想像しております。
以上です。
○道下委員 どうもありがとうございます。
個別法の改正、私は、今回それをまずやってから、それでも必要であればこういう指示権の必要性があるかないか議論して法案を作るかもしれない、そういうふうに流れるべきだと思っているんですけれども、個別法の改正についてはまず国会で議論されていないので、余りにも一足飛びというか、すぐに指示権に移ってしまっているということは、私は政府の動きは危惧をしているところでございます。
次に、まず村井参考人に伺って、その次に礒崎参考人に同じことを伺いたいと思います。
村井参考人は補充的な指示というところを非常に何度もおっしゃっております。全国知事会長名の声明が今年の三月一日、さらに、その後、五月十日に国の補充的な指示の制度化についての提言というのがありました。国の補充的な指示について慎重というか、必要最小限度の範囲とすることというふうに、この点は、危機感というか、懸念を持っているというのは非常に感じられております。
ただ、おっしゃるとおり、私はその懸念は全くもって的を射ていると思います。補充的な指示というこの説明は国の資料にあるんですが、法文上にはないんですよね。必要な措置というふうに書かれているんですよ。だから、本当に補充的なものなのかということの担保が取れないと私は思いますが、その点についてまず村井参考人に伺った後、私の意見に対して礒崎参考人の見解を伺いたいと思います。
○村井参考人 本改正案における補充的な指示につきましては、地方分権一括法で構築されました国と地方の関係の基本原則の下で、あくまでも特例として規定されたものと理解をしております。
この補充的な指示は、新型インフル特措法や災害対策基本法等の個別法では対応できない、全く想定されていない事態が発生した場合に備えるものでございまして、このようなケースは極めて限定的であるものと考えております。
したがって、法案成立後も、国民の安全に重大な影響を及ぼす新たな事態が想定される場合は、必要に応じて個別法の改正を行うなど、想定可能な事態には丁寧に対応していく必要があり、安易に補充的な指示を行うべきではないというふうに考えております。
一方、新型コロナ対応で直面した課題を踏まえますと、今後想定できない事態が発生しないと断言することはできません。その際、国としてある程度速やかに対応することが国民の生命、身体、財産を守るために必要であることは確かでございます。
我々といたしましては、国と地方の原則に関する特例であるという理解の下、二点を前提に本改正案について受入れをしていく考えでございます。
以上でございます。
○礒崎参考人 ありがとうございます。
まず、補充的指示権という、補充的というのは条文にはない、委員御指摘のとおりでございます。
条文に、例えば二百五十二条の二十六の五の規定を見ますと、他の法律の規定に基づき必要な指示をすることができる場合を除きと書いてありますので、他の法律があったらこの規定は行使できませんよ、こういうことですので補充的と言っているのかなというふうに読みますが、法律には明記されていないということでございます。
それから、必要最小限度ということですけれども、必要最小限度の原則というのは自治法にも定められておりますので、非常に重要だと思います。ただ、今回の立法はそうはなっていなくて、生命等の保護の措置を指示することができる、こういうかなり包括的な内容になっておりますので、必要最小限度と言えるかどうか微妙であること、それから、ほかならぬ地方自治の進展、発展を目的とする地方自治法にこういうものを書くべきではないというふうに思います。そんな点から問題があるということでございます。
以上でございます。
○道下委員 どうもありがとうございます。私も礒崎参考人のお考えと全く同一でございます。
次に、村井参考人に伺いたいと思います。
私は、いろいろな大臣からいろいろな指示が出されて、情報の共有とか要求がされた本当にただでさえ人数が足りない自治体において、緊急対応、要求とか指示に追われてしまったり、若しくは国から自治体への指示を待つ指示待ちということで現場対応がおろそかになってしまう、遅くなってしまうのではないかという懸念も持っているんですけれども、その点について現場からの御意見をいただきたいと思います。
○村井参考人 あくまでも緊急事態、時間がないといったような、そういう状況でございます。そういったときには、人手があるなしにかかわらず、どんなことがあっても夜を徹して県民のために国民のために仕事をするのが我々公務員の務めでありますし、当たり前のことだというふうに思っております。また、そういったときに、東日本大震災を私は経験しておりまして、指示待ちというようなことはありませんで、こちらからどんどん情報を発出して、こちらから意見を出していくといったようなことを必ず都道府県であれ市町村はやってまいりますので、そういった心配はないのではないかなというふうに思っております。
○道下委員 ありがとうございます。
やはり物事は現場で起きているんだということで、現場からの情報発信だとか、それをしっかりと受け止めて、政府が、また国会がいろいろと対応を、そして法改正などをしていかなきゃいけないというふうに私は思っております。
そうした意味で、コロナのときにも、患者が多くなったとか介護施設が本当に崩壊しそうだといったときに連携して、国からの指示じゃなくて、看護師の派遣だとか介護士の派遣というのは自治体間でやったわけですね、私は、こうしたことをもっともっと積極的に行えるような法制度の充実というものが必要なのかなというふうに思っております。
最後に、時間になりましたので、皆様にお伺いしたいと思います。
近年、国が制定した法律の中で、政策目的を示し事業を具体化する前提条件として、補助金や交付金の交付で誘引して自治体に計画を策定させる、いわゆる計画集権ともいうべき現象が国と地方自治体の間に広まっているというふうに思います。
こうした国の手法は、地方分権の理念である自治体の自主性の尊重、国から地方への関与の縮小、廃止と相反し、さらに、自治体の現場では計画策定を強いられることによって事務作業の増加が問題となっているというふうに考えますが、今回のことも何か、国から地方へ限定的とはいえ、補充的とはいえ、何かそういう国からの一方的な指示というものが強化されるのではないかというふうに思います。
この点について、済みません、時間が来ましたので、端的にそれぞれからお答えいただければと思います。
○山本参考人 地方公共団体が様々な計画の策定を法令上あるいは実務上求められるということが、これは前の期の地制調だったかと思いますけれどもやはり意見として出まして、それは答申の中にも入っています。そこにおいて、地方公共団体の自主性、自立性を損なわないようにということを言っております。
それから、今回の地制調の答申の中でも、先ほどこれは村井知事からも御指摘があったかと思いますけれども、余りにも膨大な通知がたくさん流されて、それで現場が混乱をしたと。その中には、国の側が、これは国の責任でやるんだというものから、必ずしもそこまでいかないようなものまで様々なものが含まれていて、それで混乱をしたというところがあるのではないか、そういう問題意識を地制調は持っております。
今回の地制調の答申は、その上で、これは国が責任を持って決めるんだという部分をはっきりさせる、それが指示の制度だというふうに考えておりますので、その意味では、先ほど申し上げた、あるいは今御指摘をいただきました、計画の策定がたくさん求められているとか、あるいは地制調の中で議論した通知が膨大なものが流れているということに対して、いわば国がこれは責任を最終的に負うんだという部分をはっきりさせる制度を設けるという意味を持っているというふうに思います。ですから、必ずしもそれは矛盾しないといいますか、私どもとしては同時に考えるべきことじゃないかというふうに考えたということでございます。
○礒崎参考人 計画による実質的な集権化というのは確かに進んでいるというふうに思います。これは、正面からの義務づけではないのですけれども、逆に補助金をいわば引換えにして業務、事務をやらせようという仕組みでございますので、私は柔らかな統制と呼んでおりますが、大きな問題があると思います。一つには自主性を損なうということ、それから二つ目には事務負担が大変膨大なものになるということ、この二つから大いに問題があるというふうに思います。
○村井参考人 公助業務において、補助金等で政策を誘導しようとしているというのは我々も課題として捉えておりまして、いろいろいつも提案しているところでありますが、今回の場合は非常に短期間で、個別法ができるまでという極めて限られた時間でございますので、そういったことはないだろうというふうに思っております。
○永田参考人 非常に手短に。私も全く同じ意見でございます。非常に短い期間の中でございますので、そこで問題はないんじゃないかなというふうに考えております。
以上です。
○白藤参考人 質問の意図をちゃんと理解しているかどうか分かりませんが、今回の特例的関与に関しては、そうはいいつつ地方自治法の二百四十五条の関与の意義というところの中にも書き込んでおります。ということは、今回の特例的関与に関しての関与も地方公共団体全般ではなくて固有の資格における地方公共団体に対する関与の問題なので、御質問のように計画策定における集権化云々という議論と結びつけると問題が拡散してしまうので、御質問自体、余りふさわしくない質問かなというふうに思います。
以上です。
○古屋委員長 申合せの時間が来ております。
○道下委員 短時間の中でどうもありがとうございました。
今日の皆様の御意見を参考にして、今後の審議を深めたいと思います。ありがとうございました。
○古屋委員長 次に、阿部司さん。
○阿部(司)委員 日本維新の会・教育無償化を実現する会の阿部司でございます。
参考人の皆様、本日は大変貴重なお話をありがとうございます。
まず、山本参考人にお伺いをしたいんですけれども、維新では基本政策の一つとして統治機構改革を挙げております。もっと言えば、地方分権、こちらが非常に重要なテーマになってまいりますが、同時に、分権も重要なんですけれども危機時の対応、大きな危機が起こったときにどう対処していくか、こちらも非常に重要でありますが、まさに分権と危機における対応の両立、あとはある種今議論にもあるようなジレンマが生じてくる部分があるわけですけれども、今回の法案の前提になりました答申の取りまとめに際しまして、国家の安全に重要な影響を及ぼす事態への対応と地方分権の関係についてどのようにお考えになられたのか、もう一度御確認をさせていただきたいと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
今御質問された点は、まさに地制調で一番頭を悩ませ、どこでそのバランスをどのように取るのかということを一番議論したということでございます。
先ほど来の議論がありますように、個別法が想定されていない事態は起きる、しかし他方で地方分権、地方自治、地方の自主性、自立性の尊重といった原則は動かしてはいけないということですので、したがって、今回に関しましては要件を限定して手続もしっかりと取っていただいて、先ほど来議論がありますように、個別法が制定、改正されるまでという応急的な対応としてこのような指示権を考えたということでございます。
先ほど必要最小限ということについて少し議論がございましたけれども、今回出ている指示についても、必要最小限というこの一般原則は当然私は適用されるというふうに思います。その上で、今回の法案に書かれているのは、例えば感染症等あるいはこれに類する規模のときとか、更に限定をしているということであると思います。
あるいは、先ほど法令を超えるかどうかというような議論もありましたけれども、今回このように要件が限定されましたので、当然この要件を満たしているかどうかというのは指示を行う際にはこれは考えなくてはいけませんし、いや、それは満たしていないじゃないかという批判も可能になるという意味では、要件をしっかり満たしているかどうかをきちっと判断した上で責任を持って国が指示を行うということになるのではないかというふうに考えております。
以上です。
○阿部(司)委員 ありがとうございました。指示権が行使されるに当たってはしっかり要件を満たしていくこと、さらには行使も必要最小限であるべきという御見解をいただいたと思います。
次に、永田参考人にお伺いをしたいんですけれども、消防防災分野、こちらですとか、あとは危機管理を専門に研究をされているということですけれども、消防防災分野というのは、地方分権によって自治体に大きな権限を担ってもらいながら危機管理を実現しようとしている分野であると認識しております。
そこで、今の議論の流れで、地方分権と危機管理、こちらはどのように両立されるべきか、御見解をお伺いしたいと思います。
○永田参考人 非常に難しい御質問ではあるんですが、私の研究分野にも非常に関わってくる部分ですので、少し丁寧に説明させていただきたいなと思っております。
まず、一番最初に強調しておきたいのは、私も行政学者ですので、当然ですけれども、地方分権の理念、これは当然堅持されるべきものだというふうに考えております。
ただ、一般論として、例えば地方分権というのが徹底されている連邦制の国などを見てみますと、危機対応におきまして地方分権というものが対応の遅れにつながるケースというのも見られるのも事実だと考えております。
例えば、二〇〇五年にハリケーン・カトリーナがアメリカでございましたが、このときにアメリカの連邦政府のFEMA、緊急事態管理庁が州政府の権限に対して配慮したせいで災害対応が遅れたという指摘というのは報告書の中でもございます。
また、私はドイツの危機管理の調査を随分やっておりますが、ドイツで危機管理の関係者の方々にドイツの危機管理体制の弱点は何かというお話を聞いて回ると、皆さん必ず同じことを一つ答えられます。それが何かといいますと、州政府同士が非常にお互いの権限に配慮する余り、広域応援の制度というのは日本と同じようにあるんだけれども、それがなかなか機能しない、そこが弱点なんだというお話を必ず言われますね、課題の一つとして。
我が国は御存じのように単一国家でございますが、無論、地方分権は危機時の対応の遅れの原因になる危険性というのは当然あると考えております。ただ、消防とか防災という、私は個別法で既に指示権が認められている行政分野の指示権の運用の実態を研究しておりますけれども、これを見ていると、先ほど言ったような連邦制の国々に比べると地方分権と危機管理のバランスというのは非常によいのではないかというふうに、我が国では非常によく運用されているんじゃないかというふうに考えております。
消防行政とか防災行政におきましては、やはり転機になったのは一九九五年の阪神・淡路大震災です。それまでは消防も防災も市町村中心主義で制度設計というのがされていたわけなんですけれども、それでは大きな災害に十分に対応できないという現場の必要性というものがございまして、そこからいわゆる補完体制の強化をすべきということで、その一環として国の指示権というのも認められたという経緯がございます。その後、これは先ほども申し上げたように災害対応の迅速化には間違いなくつながっているというふうに考えております。
消防や防災行政の国の指示権の運用の実態を見ても、例えば東日本大震災のときの福島第一原発事故の放水活動、消防も出動されましたが、あのときなんかは前例がなくて、危険性も非常に未知だった、どういう危険性があるか分からなかったというような状況の中で、国は消防の放水活動をさせなきゃいけないという事態に陥ったわけです。その中で総務省消防庁はどうしたかというと、当時装備を持っていた東京消防庁に、本来は指示を出す制度はあるわけなんですけれども、制度的には指示を出せるんですけれども、指示ではなく、あえて出動要請という、断れる余地のある要請主義をもって対応されるというような形での慎重さと配慮が見られます。
また、私も長年消防とか防災行政の研究をしておりますが、この分野において国の指示権に対して地方の方から余りそれに対する不満というのを聞いたことが、耳にしたことがございません。もちろん、なかなか表沙汰にならない話なので、私が聞いたことがないだけかもしれませんが、聞いたことがほとんど私の経験上ございません。これは、私が解釈するに、地方公共団体の側が災害対応の現場のニーズというのは一番よく御存じなんですね、だからそういう結果になっているんじゃないかというふうに考えております。このような前例がございますので、それを踏襲するような形での運用というのをしていけば、地方分権と危機管理の両立というのは本法案におきましても可能であるというふうに考えております。
また、一つついでに言わせていただくと、事前の情報の共有とコミュニケーション、これは非常に重要だというふうに考えております。
今回、能登地震におきまして、先ほど緊急消防援助隊の話をさせていただきましたけれども、総務省消防庁は、消防庁長官が出動指示を出される前に、出動指示をこれから出す消防本部に、複数の消防本部の消防長に直接電話をかけられて、全部、これから出動指示を出すけれども何とぞよろしくお願いしますという根回しを、事前のコミュニケーションを非常にされているわけですね、丁寧に。そういう実態を見ていくと、非常に国は慎重な運用を既に指示権が認められている分野においてもされているというふうに私は認識しております。
以上でございます。
○阿部(司)委員 ありがとうございました。
先ほど礒崎先生の方から、指示権を、指示ではなく知恵、財源、人材の提供、こうしたことで協力して問題を解決していく、危機を乗り越えていくことが重要ではないかというようなお話がありましたけれども、実際、知事として危機管理、危機対応の指揮を執られた村井知事の、礒崎先生の指示ではなくいわゆる資源の提供、こうしたことで乗り越えていくことの重要性のお話がありましたが、御意見はいかがでしょうか。
○村井参考人 私は、コロナだけではなく東日本大震災も経験をいたしまして仕切りました。そのときに、法令にのっとって対応できないような事態もたくさんございまして、国におすがりをするということが多々ございました。そういうことを考えますと、しっかりと、こういった個別法で対応できない緊急事態のときに、国から一定の指示権を発動して補充的な指示を出して、命令するのではなくて仕切るといったようなことが私は必要なのではないかなという気はしております。
○阿部(司)委員 ありがとうございます。
永田先生にまたお伺いをしたいんですけれども、コロナ感染症対応、こちらについても論文を執筆されておられまして、私、ちょっと拝読したんですけれども、この論文の中で、先ほどもお話の中で国と地方でコンフリクトが生じたという御指摘がありました。いわゆる法的資源に関して新型インフル特措法が定めた都道府県の権限に対して国が後づけで介入をした、情報資源に関して国が一部の都道府県から迅速に正確な現場情報資源を獲得できなかった、保健師の人的資源不足など組織資源に関してもコンフリクトが生じた、このような御指摘があったわけですけれども、これらの分析を踏まえまして、今の具体的な問題意識、またコンフリクトを解消するための対策について御見解をお伺いしたいと思います。
○永田参考人 今回のコロナでは、先ほども御指摘があったように、我が国では本当に珍しいほど大なり小なり行政組織間のコンフリクトというのが各所で生じたというふうに考えております。その多くの部分が、国の総合調整機能が制度的裏づけがなかったことで機能せずに生じた問題だというふうに私は考えております。
先ほどの話ですが、法的資源に関しましては、現場の必要性から、国は新型インフルエンザ特措法が定めた都道府県の権限というのに後づけで介入せざるを得なかったという状況が当時はあったんじゃないかというふうに考えております。
また、情報資源に関しましては、都道府県にも当然地域間格差というのがございます。いっぱいいっぱいになっている状況の中であのとき情報収集が後回しになった地域というのもあったのではないか、それを国が是正することが権限の裏づけがなかったからできなかったということが一つあるんじゃないか。さらに、それによって危機対応で情報というのは非常に重要なわけですけれども、その情報資源というものを国が集めることができなかったということにつながったというふうに考えております。
それから、組織資源に関わる話で、いわゆる保健師の話ですが、これは、自然災害では当然広域応援とか広域的な支援というのが当たり前なわけなんですけれども、今回は非常に低調だったと考えております。感染症が少ない地域はあったわけです。感染拡大が起こっている地域がある一方で、ほとんど感染者がいない地域もあったのに、なぜそこで広域応援ができなかったのかという点です。これは非常に私は当時疑問に感じていたわけですけれども。今回のコロナの件に関しまして、医療従事者の件に関しましては国が総合調整をすることができなかったということで、広域応援という話が低調になってしまったというふうに考えております。
それぞれの地域でそれぞれの事情を持っている、皆さんいっぱいいっぱいの状況の中で対応している、そういう状況の中でそれをまとめるのは国しかないというふうに考えております。
以上でございます。
○阿部(司)委員 ありがとうございます。
恐らく最後の質問になろうかと思いますが、今回の法案について、立法事実、こちらは大きな論点となっております。いわゆる想定外の事態、これは具体的に挙げられないと法改正をする必要はないんじゃないかとか、立法事実がないですとか、個別法の改正で対応すべきだとかという、こうした意見も出ているわけです。
我が党としては、具体的な想定が例示できた方がいいとはもちろん思うんですけれども、こちらは本会議の代表質問でも述べましたけれども、イメージできなければ対応が必要ない、そういった立場には立つことはできないと思っております。やはり想定外というのはどうしても生じてくる、危機が生じたときに対応できるように対策を取っておくことは私自身必要だと思っております。
永田参考人は論文の中で、我が国の危機管理対応で以前から指摘される問題として後追い行政の傾向が強く見られる点を挙げられております。いわゆる非常事態が生じて初めて対応整備が進むですとか、地震が起きたら地震災害の対応整備をする、津波が起きたら津波対応の対応整備をするといった形で、事後の対策になってきて危機の対応というものが非常に大きく偏ってくると思います。想定外の事態から目を背けることというのは非常に危険なことだと思うんですけれども、こちらは永田参考人の問題意識について具体的にお聞かせをいただきたいと思います。
○永田参考人 今御説明いただいたとおりなんですが、我が国の消防とか防災、危機管理行政の長年解決されていなかった課題の一つが後追い行政という話だと考えております。危機が起こってから明らかになった課題を解決しようとする傾向というのは、我が国の危機対応においては非常に強く見られるということです。無論、そのような課題というものも当然潰していかなければならないわけですけれども、これが仮に先取りでその課題を潰せていたら当然助けられる命も多かった、多いんじゃないかと考えるわけです。
後追い行政では、先ほども説明いただいたように、直近で発生した危機にその後の対応整備というものが大きく引きずられる、引っ張られる。その結果、例えば、先ほど言われたように、地震だったら地震、津波だったら津波という形で大きく災害種別のその後の対応が偏りがちになる傾向というのが見られると考えております。これは逆に危機対応の硬直化につながる危険性というのもあるわけなんですけれども。
ただ、私たちを取り囲む危機というものは年々多様化それから複雑化しております。非常に急速に次から次へと新しい危機というのが出てきているわけですね。そのような中で、事後に直近に起こったハザードの対応体制整備ばかりを個別対応でやっていては、いつまでたっても多様化する危機に十分に対応できない、常に後追いという形になってしまいかねない、その結果、救える命も救えないんじゃないかというふうに考えております。
そのため、先取り行政というのを目指す必要性というのがあるわけですけれども、これは先ほども申し上げたように、そこで留意すべき点は、想定外の事態というのは先取り行政でも発生するということです。我が国は今後いろいろな形で先取り行政というのは当然目指す必要性はありますけれども、それでも洗い出せない想定外の事態というのは必ず危機時に発生するということです。
例えば、非常に先取り行政の傾向が強い危機対応において欧米の国々のケースを見てみますと、今回の新型コロナにおきましても、先取り行政をやっていた国々でもパンデミックの感染拡大とかあるいは医療崩壊というものを防ぐことが初期段階でできなかったということがあるわけです。ただ、これは私の個人的な評価ですけれども、そのうちの幾つかの国々においてはリスクアセスメントを事前に行われていたので、その後のワクチンが開発されてからのワクチン接種体制とか立ち上げ体制に関しましては、比較的我が国に比べてスムーズだった国もあるというふうに考えております。
先取り行政をやることによって、当然、想定外というのは減らせます。ただ、先ほども言ったように、事前のリスクアセスメントや訓練での洗い出しの限界というのは必ずあるので、また、危機事態というのは発生頻度は少ないので、経験則的に課題を潰す限界というものは必ずあるということじゃないかなと思っております。そのような形での想定外、これをなくすという側面から本法案は非常に重要だというふうに考えております。
以上でございます。
○阿部(司)委員 皆様、大変参考になるお話、ありがとうございました。
こちらで質問を終わります。ありがとうございました。
○古屋委員長 次に、平林晃さん。
○平林委員 公明党の平林晃と申します。
参考人の先生方におかれましては、非常にお忙しい中、本日は国会までお越しをいただきまして、大変にありがとうございます。どうぞよろしくお願いをいたします。
ここまでの二時間近くにわたる充実した審議の中で本当に様々な議論が行われて、原稿がほぼほぼほごになりまして、私、非常に今危機的な状況にあるんですけれども、危機管理の重要さを身をもって感じながら質問させていただきたいと思いますので、よろしくお願いを申し上げます。
それでは、まず山本参考人にお話を伺えればと存じます。
本改正案では、第三十三次地方制度調査会の答申に基づき、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態において生命等の保護の措置の実施を確保するために特に必要があると認めるとき、国は閣議決定を経て地方公共団体に対し必要な指示が、ここが要するに補充的な指示、できることとされているわけですけれども、先ほどからも基本的にここが論点になっているわけですけれども、肯定的な意見、否定的な意見、両方あるわけでございます。
肯定的な意見。国民の安全に関わる事態にもかかわらず法令に基づく権限がないとして行政が対応をちゅうちょすることがあってはならないということでありますとか、緊急時にこそ行政の迅速な対応が必要になるのではないか、国と地方のルールとしてあらかじめ国の指示権を定めておく意味は小さくない、こういった意見があったり、あるいは、地制調の今回の委員でもあられたと存じますけれども、牧原出先生の御意見として、一般的な指示権を法律上規定することで、まずはそうした具体的な法規定の要件と手続に落とし込んで国が指示権を行使するように促すことができる、法規定を前提としない指示の乱発をかなりの程度防げるのではないか、こういう肯定的な捉え方をしておられるというところもあるわけでございます。
一方、否定的な意見も当然、先ほどからもありましたけれども、国による関与は必要最小限で自治体の自主性、自立性への配慮が原則だと地方自治法に明記されている、今回の答申はこの分権改革に明らかに逆行するという御意見もありますし、あるいは、国の指示権拡充は広範な住民行政の自治事務にも及ぶ、政権の恣意的な運用に歯止めをかけられなければ国と地方は上下関係に戻ってしまう、こういった意見、ポジティブ、ネガティブ、両方あるわけでございます。
こういった議論は当然あったわけでございますけれども、改めまして、こういった意見を今回の答申にまとめられた趣旨を山本参考人にお伺いいたします。
○山本参考人 お答えをいたします。
先ほどもお答えをした内容なのですけれども、地制調でも、地方自治、地方分権の考え方と想定されない事態への対応というところで、どのようにバランスを取っていくのか、どのように両立をさせていくのかというところがまさに悩みどころだったと申しますか、非常に議論が交わされたところですので、そこは両様の見方があるというのは当然だろうというふうに考えています。地制調の中でも確かにいろいろな意見があったところです。
ただ、最終的には、やはり想定されていない事態が起き得る、そういうことがあり得るとして更に指示というものが必要なのかという話がございましたけれども、今回の対応を見ていますと、国がいろいろなことを言うのだけれども、最終的にこれは地方公共団体の側が責任を負うということになるわけでして、国がしっかりとそこは責任を取るんだという部分を明確にする制度が必要なのではないか、そこのところが今回の議論だったわけです。
その上で、地方分権の考え方と両立をさせるために、まず何か事務を丸ごと国の方に移すという話ではない、それから必要最小限である、これは内容的にもそうですし、手続としても地方公共団体との十分なコミュニケーションを取っているということがやはり前提になっているわけで、そういう内容あるいは手続両面から必要最小限、地方自治への配慮というのが必要であるということを言った上で、今回、指示権の制度の提案をしたということでございます。
○平林委員 ありがとうございます。指示権が要るのか要らないのかというところは、重要な論点であるのではないかなというふうに私も思っております。
礒崎参考人に少し関連してお伺いできればというふうに思うんですけれども、先ほどの意見陳述あるいは答弁の中でも、指示権は必要ないのではないかというようなことをおっしゃっておられた。それは、国から自治体に必要なのは支援であり助言でありといったような、ちょっと表現は違ったかもしれませんけれども、そのような趣旨のことをおっしゃられたと思います。
一方で、ダイヤモンド・プリンセスの対応のときに、あれはあくまで本来は横浜市の対応すべきことであると、感染症法上。ところが、基本的には県が対応して、国も入っていったということになった。
知事が、インタビューでこんなことをおっしゃられているんですよね。我々は県民へのサービスが基本である、三千七百人の船が来て、県がやるしかないと腹をくくって対応したみたいな、そんなようなことで、本来は国がやるべきだったというふうにおっしゃって、国には危機管理の体制ができていなかったと感じざるを得ない、このように現場の声として新聞の記事にあるというところです。
現場の思いとしては国の対応というのは必要なのではないかということがやはりあるんだと思いますし、もう一つ、病床確保とかを考えたときにどうしてもやはり、言葉が過ぎるかもしれませんけれども、自分のところを守ろうという気持ちが働いてしまうのはあるのではないかなと思うんですね。そうなったときに、協調してやればいいというのは確かにそうなんですけれども、それができるのかできないのかというのは簡単ではないと思うんですね。そういった意味においては指示権というのは有効ではないのかなというふうに僕は思うんですけれども、この点、礒崎参考人に御意見をお願いいたします。
○礒崎参考人 確かに、国の役割というのは非常に重要だと思います。先ほども議論がありましたけれども、私も、分権との兼ね合いですけれども、集権と分権を組み合わせるということが大事だというふうに思っております。したがって、国の役割というのは大変大きいというふうに思います。
その中で、一つは、委員も御指摘いただきましたが、支援と協力という、指示という上から目線の対応ではなくて、支援と協力というのが国に求められる態度ではないかというのが一つ。それからもう一つは、先ほどもちょっと申し上げましたが、法定受託事務の場合、例えば感染症などは法定受託事務ですので指示が今でもできます、代執行もできるという国の権限はしっかりと法律に定められていますので、これ以上一般法である地方自治法に指示権が必要だろうか、それを入れたところで余り有効には働かないんじゃないかというのが私の指摘でございます。
以上でございます。
○平林委員 ありがとうございます。ここら辺、どうしてもやはり意見が割れるところなのかなというふうに思いますけれども、先生の御意見はしっかり承りました。ありがとうございます。危機管理をしながらの質問で、ちょっと喉が渇いておりますけれども、頑張ってやってまいります。
続きまして、村井参考人に伺えればと思います。
全国知事会から、一月、三月、五月と三度にわたって提言をしておられます。ちょうど五月の提言のときには御一緒しておられた広島の湯崎知事ともばったりお会いをしまして、その内容をお伺いさせていただいたところでございました。それらの内容はほぼ一貫しているのではないかなというふうに感じておりまして、今回の補充的な指示の必要性に理解を示しつつ、国と地方公共団体の関係の一般ルールは大事な話であるので、国と地方との対等な関係が損なわれてはいけない、僕もこれは当然だと思います、この問題意識から制度化、運用に当たって十分な配慮を求めるということが基本的な考え方になっている、このように理解をさせていただいております。
一月、三月、五月と議論が進むにつれてというところで、議論の各段階の御提言ですので、総務省側もそれに反応されつつ今回の議論が進んできていると思っていますけれども、だからこそ、直近五月の提言においては、地方公共団体に意見等を求めるなど適切な措置を講ずるよう規定されており、知事会の要請に対して一定の配慮がなされたと評価をしている、このように述べていらっしゃるわけでございます。その上で、改めて、適切な事前協議及び必要最小限度の範囲とすること、これを五月の提言では求めていらっしゃるわけですね。
こうした一連の知事会の御提言に込められた趣旨を改めて確認させていただければと思いますし、それに対する所感を伺えればということがまず一つと、あわせて、その手交後、記者団に対して村井知事御自身が、十年、二十年たったときに別の解釈が入ることを恐れているということを述べられたとか、あるいは、国会での議論を期待している、このようなことも述べられたと報道があったところでございます。この言葉に込められた思いも併せて伺えればと思います。よろしくお願いいたします。
○村井参考人 この法律案、改正案につきましては知事会としては理解をしているということでございますけれども、これが将来的にどんどんどんどん拡大解釈をされて、何かあったときには指示ができる、その何かあったときがまた解釈によって変わってくるということがあってはならないというふうに思っております。
ただ、法律案にいろいろな事案を書き込むということは不可能であります。したがって、法律案はこの法律案として成立をしたとしても、やはり国会の議論というものが非常に大きい、それは議事録に残りますので大きいということ、そして、できれば附帯決議のようなものを出していただいて、皆さんで、法律案に書き込まれていないこの部分についてはこういう意思を持っているんだということを出していただきたい、そういう思いで今回、文書を発出したということでございます。
○平林委員 現場の非常に重要な御指摘として、重く受け止めさせていただきました。ありがとうございます。
続きまして、永田参考人にお話を伺えればと思います。
先ほどから、先取り行政ということと、その反対の言葉が今出てきませんけれども、それでありますとか、話が出ておりました。先取り行政の傾向が強い欧米はリスクアセスメントを徹底的に実施して事前に課題の洗い出しをしている、こんなことを述べておられるわけですけれども、事前に私どもがいただいた資料がございまして、その中に永田参考人の御発言としてこんなことが書いてありました。二〇二〇年ぐらい、コロナが始まったぐらいのときの関西大学の中で行われたオンラインセミナーのときの御発言ということだったんですけれども、欧州の制度を踏まえて防疫面では国が大幅に地方に権限を移譲しても問題はない、日本も道州制に基づく地方の広域再編を議論し、大幅な権限と財源の移譲を検討すべきだと、かなり大きな御意見を述べておられまして、ちょっと私は気になりました。
特に、道州制という話もそうなんですけれども、欧州の制度を踏まえとここで述べておられますので、ちょっとこの点をしっかりお聞きしたいのと、この御発言の趣旨を改めてお聞きできればと思います。
○永田参考人 お答えさせていただきたいなと思います。その質問が来たら怖いなと思っていたんです。
実は、二〇二〇年の比較的初期の段階で、まだ事態も必ずしも全て見えていない状況の中で、現地での調査みたいなものも全くできないような状況の中で、いろいろと集められる資料を集めた中で、あの当時、お話しさせていただいた話だったわけです。その中で、私は基本的には、当時考えていたのは、ここの中でお話をしているような、国の権限が足りなかったことで危機に対応できなかったという問題意識というのは当時から持ってはいたんですが、ただ、やはりちょっとそれを言い出す勇気がなかったというのが当時はございました。
地方制度調査会でここまで明確に答申に出してくださったということで、私もそれに賛同する立場を取らせていただいておりますが、当時におきましてはどこかに話を落とす必要性はあるというふうに感じていたんですけれども、取りあえず、例えば中間的な自治体とか、その辺の権限強化というようなところで危機対応の強化というのはしていくべきだというような話で、当時は落とす方が現実的ではないかと、私的にはまだ国の権限の強化という話よりも現実的なんじゃないかというふうに当時は考えていたからそのようなふうにお話しさせていただいた、あるいは論文で書かせていただいたということでございます。
今現在は、地方制度調査会の答申、非常に審議していただいて私が予測していた以上に踏み込まれた答申を出されておられますので、その方向で私は賛成しております。
以上でございます。
○平林委員 ありがとうございます。
続きまして、また再び村井参考人にお聞きできればというふうに思います。
国の補充的な指示、この度の創設される指示は国から地方公共団体に対するベクトルということになっているわけでございます。
第十九回専門小委員会の中で全国知事会の当時の平井会長が、国から地方公共団体というベクトルだけでは失敗した事例が過去に数多くあった、このように指摘をされるとともに、現場の実態をよく分かっている地方公共団体の方こそ主導権を握る場面も必要だ、このように発言をしておられます。また、日本弁護士連合会も、熊本地震での国と県との指示の違いを例示されながら、現場で事態に直面している地方公共団体がより正確な情報を有していることが多い、このようなことも指摘をしておられます。私もこれは賛同するところでございまして、我々公明党、全国三千人の議員から成るネットワーク政党ですけれども、やはり現場の情報、知識、経験は地方議員が勝る、つかんでおられるというふうに感じております。
こうしたことを踏まえますと、今回の国の補充的な指示に加えて、地方から国への意見申出はとても重要なことだというふうに考えております。この点については既にコロナ禍においても積極的に知事会が御対応してきたところではございますけれども、改めまして、地方自治体から国への意見のより積極的な申出について、村井参考人の御意見をお伺いいたします。
○村井参考人 我々地方といたしましては、地方自治に影響を及ぼす国の政策等に対しましては、国と地方の協議の場において国と協議することができるほか、地方の判断に基づいて、これまでも、政府からの求めがない場合であっても様々な場面で政府に意見を出しているところでございます。特に、新型コロナ対応の際には全国知事会として四十七都道府県知事が参加する新型コロナウイルス緊急対策本部を立ち上げまして、制度の根幹については国の役割、責任として対応していただくよう政府に度々提言を行ってきたわけでございます。
現場のことは地方自治体の方がより詳しい情報を有しているとの委員の御指摘は、まさにそのとおりだというふうに思います。危機的な事態に直面した状況で国民の安全を守るために正しい判断をしたいとの思いは、国も地方も共通であります。こうした共通の思いを達成するため、今後とも、現場に近い地方の立場から、地方が必要と考える提言等を積極的に行ってまいりたいと思います。
○平林委員 ありがとうございます。
恐らく時間的に最後の質問になるかと思いますけれども、山本参考人に伺えればというふうに思います。
ちょっと話は変わりまして、今回の改正案においては、情報システムの適正な利用に努め、公金収納事務のデジタル化が進められることとされております。この点に関しまして、我が国における労働力不足は自治体においても本当に深刻であるということでありまして、セキュリティーに最善の対策を講じながらデジタル化を進めることはこれからますます必要になってくると思います。
その上で、山本参考人の資料の中に書いてあった内容ですけれども、DXについていろいろな御意見があったところでございますけれどもいろいろな見方があり、また、まさに今後、地方公共団体の皆様の意見を聞きながらどのように進めていくか考えなくてはいけない、こんなことをおっしゃっておられたと資料で拝見いたしました。この発言の趣旨を御確認させていただきまして、どんな方向性で今後DXを進めていくべきとお考えか、御見解をお伺いできればと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
今の私の発言部分は、恐らく最後の地制調の総会のときの発言ではないかと思います。その場では地方六団体の方々から、方向としては、このような方向の発言が多かったのではないかと思います。
すなわち、DXは積極的に推進をすべきである、ただ、地方公共団体の側で、そのための人員とか技術とか、進めるにしても時間がなかなか足りないといったような現実がある、そこのところは国の側がきちんと支援をする、あるいは、スケジュールについても柔軟にお考えいただいて、地方公共団体の事情もよく考えていただきたい、こういうような方向の議論だったかというふうに思います。恐らくこれは具体的には、これから国と地方公共団体の側で自治体の現場、現実を踏まえながら具体化していかなくてはいけないということかと思います。
それから、専門小委員会の方で特に出たことといたしましては、DXというのはあくまで手段であって、目的は、住民の生活環境をきちっとつくっていく、あるいは住民その他のアクターの参加を積極的に促していく、そのための手段であるということが強調されたということでして、そういったことも踏まえている。
あと、今回、地方自治法の改正案の中に情報システムという新しい節が設けられております。これも、情報システムをどのように使っていくのか、あるいは、どのようにそれを使う際に注意しなくてはいけないかということは地方自治法の中には全く書かれていなかったことでして、今回は非常に短い条文なのですけれども、恐らく更に今後考えていかなくてはいけないことが出てくるのではないかということでございまして、そういった趣旨の、法律案はまだできていなかったんですけれども、非常に大きな問題だという議論が専門小委員会ではございました。
以上です。
○平林委員 以上で終わります。ありがとうございました。
○古屋委員長 次に、宮本岳志さん。
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
五人の先生方、本当にありがとうございます。議論も本当に深まっていると思います。私の方からも御質問させていただきまして、できるだけ端的に、問い数も多くやり取りをさせていただきたいと思います。
個別法で想定していないような問題にどう対処するか、何であるか言えるならば個別法を変えればよい、分からないから想定外だ、これはなかなかジレンマであり悩みどころだと、山本先生も繰り返しおっしゃっております。
先日の委員会でも、私は山本先生の第四回総会での発言を紹介させていただきました。こういうものをどう扱うかというのは大テーマだと思うんですね。先ほども白藤先生の方からもお話がございました。行政法の専門家であり、そしてドイツ、ヨーロッパ法の研究者でもある山本先生がこの問題を、なぜこういうふうに、想定されないにもかかわらず、大臣の方では事態の類型に限定することなくというような法をこの自治法に書き込むというのはどういう理屈になっているのか、まず山本先生の方からお答えいただきたいと思います。
○山本参考人 お答えをさせていただきます。
私の研究テーマとの関係で申しますと、リスクに対してどのように対応するかということがございます。リスクというのはいろいろな意味があるのですけれども、とりわけ難しいのは、人間の知見には限界がある、それを踏まえた上でどのように制度を考えていかなくてはいけないのか、どのように対応していかなくてはいけないのかということかというふうに思います。
先ほどドイツ、ヨーロッパ法という話がございましたけれども、EUは、ここのところの立法を見ていましても、なお人間の知見の限界に対してどのように対応するかというので非常に積極的な制度化をしているということでございます。日本の場合は、私の見るところ、それに比べると、最近、ようやくと言ってはなんなんですけれども、いろいろな制度づくり等の議論が始まっているというふうに認識をしております。今回の地制調の議論に関しましても、非常に大きく、私の関心からいえば、そういったことにつながっていく議論だったのではないかというふうに考えております。
以上です。
○宮本(岳)委員 今一応先ほどの白藤先生の問いかけに対するお答えをいただけたと思うんですけれども、白藤先生、何かございますか。
○白藤参考人 難しい問題なんですが、僕は基本的には個別法の問題は個別法で解決するというのが筋だろうと。そして、個別法で想定できないことだったら、やはり想定できないんじゃないかということですね。それを一般法である地方自治法の中に組み込めばあたかも解決できるというのは、ちょっとした妄想じゃないかなというふうに思っております。
一九九九年の地方自治法の改正のときの議論を思い出してみても、一般法である地方自治法の中に是正の要求だとか是正の指示だとか、権力的な関与であっても地方自治法を直接根拠として関与権を発動できるんですよというふうに入ったわけなんですが、そのときの議論を思い出すと、地方自治法がその要件と効果を例えば是正の要求や是正の指示について書いているのは、いわばですよ、いわば個別法としてそういう要件、効果を書いているんだと。ですから、一般法主義で何か問題を解決するという意味じゃなくて、個別法主義がやはり貫かれていると思うんですね。
今回の二百五十二条の二十六の三のところでも、国が対応すべき生命等の保護の措置、これも個別法に書かれているというのが前提のようでありますし、もちろん適切な普通地方公共団体が対応するのもまずは個別法の対応が前提となっている、そのように考えれば、そういった個別法で解決できるような問題、あるいは想定できないような問題であっても、まずはそこで考える。
ただ、山本参考人がおっしゃるように応急措置として、個別法を待っておれない場合があるだろう、それは応急措置として、また特例として対応するんだから、そこのところは、勘弁してくださいよという言い方ではないんだけれども、大変、行政法的には恐らく悩まれたところだと思うんですが、こういった対応を示されたものと思っております。差し当たり、それぐらいです。
○宮本(岳)委員 確かに、個別法で想定されないようなものを一般法で定めるというのはなかなか悩ましい問題なんですね。とりわけ、先生、恐らく地制調でもずっと、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態というものを議論するときに、当初は、国民保護事案、事態対処法、国民保護法、こういう具体名も挙げてやってこられたと思います。地制調の資料もそのようになっております。
第十八回以降そういう言葉は表には出なくなったと私たちは認識しているんですが、これが一つの論点になっていまして、先日もそうだったんです。
事態対処法等で定められている武力攻撃事態等や存立危機事態への対応については、それぞれ想定される事態について法律で必要な規定が設けられておりと。要するに個別法に定めがあるから想定されていないという答弁が本会議で出た。それはそうですよ、個別法で想定されているものは個別法でやるというのは言うまでもないことであります。しかし、事態対処法についても個別法で定められていない想定外のことがあったらこの一般法の規定を使うんでしょう、つまり排除はされないんでしょう、こういうふうに私は前回も最後まで松本大臣に聞いたんですが、排除されないとはおっしゃらずに、大臣は個別法で対応するものは個別法で対応すると言うだけで、排除するとはおっしゃらなかった。
私は、法のたてつけとして当然、もちろん感染症でも災害でも個別法で対応するものは対応するんですよ、できないところを論じているんですよ、では事態対処法も想定できないものが出てきたら排除はされない、これが使われる、趣旨としては当然のことだと思うんですが、山本先生、それでよろしいですね。
○山本参考人 お答えをいたします。
地制調でも、想定できないということを前提に議論するというのは非常に難しい課題でして、当時も、やはり想定されない事態というのは多様であり得るので、それはどのように考えたらいいのかといったような議論もございました。それで、今御質問いただいた点に関しましては、これは、そもそも個別法に書かれていること、個別法で想定されていることは個別法で対応する、そこで想定されていないことについては要件の下で対応するということでして。
ただ、これは、私も直接具体的なところまでは考えてはいないのですけれども、当然指示権を発動するという場合にはそれによって有効な措置が取られる、要するに国が地方公共団体に対して指示権を発動することによって事態に対して有効な措置が取られる、有効な対策になる、対応になるということが前提でして、そうならないものについては指示をしても結局は不適切な指示、もっと言えば必要のない指示ということになってしまいますので、それはこの法律の下ではできないということかと思います。恐らくそういったことも考えて、つまり、かなり大きな枠組みで考えないと、なかなか指示というだけでは対応できないということを考えて、そのような答弁をされたのかなというふうに私は推測しておりますけれども、それ以上はよく分かりません。
○宮本(岳)委員 端的に、排除はされないですよね、先生。
○山本参考人 適切な措置を取り得るかという点で申し上げると、私は非常に考えにくいのではないかというふうに思います。
○宮本(岳)委員 またまた松本大臣と余り変わりないような答弁が続くんですが、白藤先生、いかがでしょう、この法律をどう読むべきか。
○白藤参考人 冒頭の陳述でも申し上げましたが、例えば一般的、抽象的に存立危機事態というのではなくて、存立危機事態が私たち国民に直接深刻な影響を与えたり、日本国が攻撃されたと同じような被害が想定される、そのような事態というのは当然入ってくるわけですね、想定されない事態として。ですから、今、山本参考人がお答えになったのは、お答えしにくいんでしょうが、そういうお答えしにくい質問をするというのもどうかと思いますが、想定されていない事態に国が役割を果たさなきゃいけない、そういう問題の立て方というのが正しい立て方で、そのときに、今回何で一足飛びに、特権的な指示と私は言っていますが、特例的指示に行くのか。
例えば、関与の類型の中には、二百四十五条、地方自治法を見てください、関与の類型の第一号がずっと書いてあって、第二号に協議というのがあるんですね。例えばこんな事態だからこそ協議をまず第一にして、協議を第一義的にするのが僕は筋だと思うんですね。ところが、今回の法案を見てください、二百五十二条の二十六の五、生命等の保護の措置の指示というのは、指示するんだけれども、その前にできたら努力義務として意見を聞いてあげなさいよ、協議でも何でもないんですよ、聞いてあげなさいよというような、そういうような態度の仕組みなんですね。
ですから、そういうふうなところに一足飛びに行くというのが、幾ら不測の事態だとかいっても行き過ぎじゃないのということだと思うんですね。だから、全体に議論がずれているようなところもあるんだけれども、基本的にはやはり、国が我々が想定できない不測の事態が起こったときに何らかの役割を果たすということは重要なことなんだけれども、その役割の果たし方が間違っているんじゃないの、法的な構想として間違っているんじゃないのというところが最大の問題だと思います。
以上です。
○宮本(岳)委員 しっかり地方の実情に合わせて、まずは聞くというのは当たり前で、そして協議を行うというのは当たり前のことだと思うんですけれども。
五月の十八日付の朝日は社説を掲げまして、「地方の危機感が見えぬ」というふうに論じました。知事会も一定の配慮がなされたことは評価したいとコメントしていると。今日の参考人として村井知事が出席されるということも挙げた上で、自治の現場代表としてもっと地方の声を聞く機会を求めてはどうかという提案をこの社説はしておるんですけれども、村井知事、この社説に対してどうお答えになりますか。
○村井参考人 我々の声をしっかり聞くべきであるというのは、地方の側からすると当然の主張だというふうに思います。
○宮本(岳)委員 地方に重大な影響を与える法案ですから、地方の意見を聞くことは当然のことだと思うんですね。先ほど、礒崎先生の方からも、安全影響事態における指示権は逆効果になるのではないか、対立がある場合に国が指示権に基づいて自らの方針を押しつけると、国と当該自治体の対立はより深刻化して一層事態が悪化するという御指摘がありました。
私もこういうふうに聞くとぴんとくるのは沖縄の事態でありますけれども、私は沖縄の意見も聞く必要があるというふうに痛感をしております。この点について礒崎先生と白藤先生から御意見をお伺いしたいと思います。
○礒崎参考人 お答えいたします。
御指摘のとおり、指示権というのは、問題を解決するよりも、むしろ難しい問題を生じさせるのではないかというふうに思います。沖縄の件でございますが、私も、沖縄について本当は沖縄の立場、歴史を十分考えて協議を尽くすべきだというふうに思っておりまして、それをああいう形で法廷闘争の形にされたということには問題があるように思っております。今回の指示権が同様の国と自治体の長期にわたる法的紛争といったことにつながりかねないのではないか、その点を懸念しているところでございます。
○白藤参考人 沖縄の問題だけを直ちに今回の問題と直結させて議論してはいけないとは思うんですが、私自身、辺野古訴訟に八年余り関わってきまして、沖縄の苦悩は十分承知しているなというふうに自分では思っております。それでも本当の苦しみはよく分かっていないんだと思いますが。
沖縄は、前の前の大田知事のときに少女暴行事件が生じて、県民の怒りは本当に頂点に達して、当時、職務執行命令訴訟というのに至る経緯があったり、今回もまた、危険極まりない辺野古の海の埋立て、事実として国の側が例えば軟弱地盤に関してどこまで承知していたかよく分かりませんが、見つかった、発見されたというその後でも強行している、沖縄の県知事が幾ら対話を、協議ですね、対話を求めても対話に応じようとしない。つまり、地域の悩みとか地域の苦悩に対して向き合わない国の姿勢がはっきりとこの辺野古訴訟で現れたものだというふうに承知しております。
ですから、今回も、国が指示権を行使する、その指示権が、例えばですよ、事前の協議をしっかりするとか対話をしっかりするとかいう条項が入っておればまだしも、努力義務で、努力しなきゃ違法になるというふうに山本さんは言われましたが、それはそうかも分かりませんが、努力したふりをすればできるわけですね。ですから、法的に見ると、特権的指示というものが、しかも国民の安全に重大な影響を及ぼす事態という極めて曖昧な要件の下で行使されることになるということは大変遺憾に思います。
したがって、沖縄の事態と今構想されている立法との間に通奏低音として流れているのは、地域で生じていることは地域でまずは考えましょうよねという地方自治の理念とかいったものをどこまで考慮するかという問題だと思うんですが、それがなかなか見て取れないというのが残念だというふうに思っております。
○宮本(岳)委員 私は、是非とも法案の審議に当たっては沖縄において地方公聴会を開くべきであるということを理事会でも申し上げてまいりました。しっかり地方の声を聞く必要があると思います。
最後ですけれども、牧原先生が地制調で議論をされまして、これも新聞に載っておりましたけれども、例の安倍晋三首相の一斉休校、ああいうことを二度とやってはならない、今度の法律があれば、一斉休校のときにこの規定があれば官邸内でやり過ぎじゃないかと考え直す根拠になったのではないかとおっしゃっているんですが、今回の法改正を見ますと、地方教育行政法、地教行法も指示が出せるとなっておりまして、考え直すきっかけになるどころか法的根拠を与えることになっているんですけれども、山本先生、これは牧原先生のおっしゃっていることと逆のことになっていないですか。
○山本参考人 お答えをいたします。
牧原先生が言われたことは、先ほどもちょっと申しましたけれども、今回、指示に関して明確な要件を定めて、先ほど手続についてちょっと話がございましたけれども、確かに努力義務ではあるのですが、努力義務にもいろいろございまして、今回の法案においては、あくまで関与は必要最小限でならなければならないという基本原則をいわばベースに持った努力義務ですので、やはり私はそれは重い意味があると思っております。
そのような要件と手続を明確に定めた上で指示というのは行わなくてはいけないということですので、私はその意味では縛りがかかることになるのではないかというふうに思います。当時の状況では明確に国の側がこれは責任を持つんだという決定の仕組みがありませんでしたし、そのための要件や手続の縛りも特に法的に定められていなかった、そこのところを今回は手当てした、そういう評価かと思います。
○宮本(岳)委員 時間が参りましたので、終わらせていただきます。
五人の先生方、ありがとうございました。
○古屋委員長 次に、西岡秀子さん。
○西岡委員 国民民主党・無所属クラブ、西岡秀子と申します。
本日は、五名の参考人の皆様におかれましては、公私共に大変お忙しい中でお越しをいただいて、大変有意義な、また私たちにとって意味のある様々な御意見をいただいておりますことに感謝を申し上げ、質問に入らせていただきたいというふうに思っております。
まず、この法案の前提と申しますか、私の問題意識としては、実は私が所属しております国民民主党は、昨年の六月に新型コロナ検証委員会の法案というものを他の二会派とともに国会に提出いたしております。これは、過去、原発事故調査委員会が国会の中に設置をされまして、同様のスキームで衆参両院の下に委員会を設置して立法府として検証をしっかり行った上で、講ずべき措置ですとか施策についてしっかり検討することが必要だという認識の中で法案を提出させていただいておりました。
また、政府は新型コロナ検証有識者会議で検証は行っているんですけれども、期間が短いということもございまして、十分な検証が行われていないのではないかという懸念を持っております。この法案が提出される前にしっかりコロナ禍での様々なことが検証をされるべきだというふうに大前提として考えているわけでございますけれども、各参考人に、このことに対する検証ということに対して、今回の地制調でも検証は行われたというふうに思いますけれども、各参考人の御見解をお伺いできればというふうに思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
検証は非常に重要であるというふうに考えています。地制調におきましても、できる範囲で今回の新型コロナウイルス対応についてヒアリング等を行って、それを踏まえて今回の提言をしたということでございます。
それから、これは新型コロナということではなく、むしろ今回の法案の中身に直接関わるところでございますけれども、指示を行った場合には必ずそれを検証しなくてはいけないということを答申の中にも書いております。その意味で、今委員から御指摘の点は非常に重要であるというふうに考えております。
○礒崎参考人 お答えいたします。
私も、検証は非常に重要だと思っております。私自身、学会の仲間と全国千七百八十八自治体の対応ということを調査し、アンケート調査なんかもやっておりますけれども、やはりそれぞれ抱えている課題も違ったところがございます。本日も申し上げましたけれども、指示といった処分ではなくて、むしろ様々な課題について国も含めて協議をして危機に対応してきた、こういう実績をしっかりと見ていくということが大事ではないかなと。今日の議論ともつながる重要な点だと思っております。
○村井参考人 コロナについて、有識者で検証されたということでありますので、一定程度、報告書が取りまとめられているのではないかなというふうに思います。これを立法府で検証されるかどうかというのは、これは立法府の問題でございますので、よく皆さんで御議論した上で法案として出すかどうかということを決めていただければというふうに思います。私が言及する立場にはないということでございます。
○永田参考人 私も、検証というのは非常に重要なものだと考えております。私の研究自体が、言ってしまうとこういう危機事態に対する、事態が起こった直後あるいは事後にどうなったかというところの検証、それが私の研究でございますので、今回のこの法案に関しましても、今後も注視して私なりに研究させていただきたいなというふうに考えております。
○白藤参考人 コロナの検証に関して、国がどうしたかということに関して余りつぶさに存じておりませんが、私の感想的なこととしては、あの際にも結構、例えば愛知県だとか鳥取県ですか、あるいは小さな市町村でも自治体固有の対策をやっていたというふうにちょっと記憶しております。
検証は大事だというのは誰も否定することではないんですが、検証する際に、この委員会との関係でいうと、どのような検証をしたか、つまり、地方公共団体、しかも小さな地方公共団体がどれだけ努力して、そこでどんな成果を得たか、国の望むところとは少し違ったかも分からないけれどもこういう結果がありますよというような検証であれば、地方自治の観点、分権の観点から有益かなというふうに思っております。
以上です。
○西岡委員 ありがとうございます。検証は重要だという、これは共通の御意見だというふうに思います。
今、山本参考人の方から国の補充的な指示に対する検証が大変重要だということが言及をされたわけでございます。山本参考人のお話からは、様々な苦悩の中で今回の法改正に結びつく答申が出されたというふうに感じたわけでございますけれども、参考人のお言葉としては、応急的に対応する制度だという言葉がございました。いかに個別法の改正に結びつけていくかということだったというふうに思っておりますけれども。
今回、私が懸念点として持っております考えとしては、国会の関与が明確に規定をされなかった、このことを私自身は懸念点として持っておりまして、閣議決定は規定をされているわけでございますけれども、想定されない事態ということで、指示の要件というものも明確となっておりませんし、運用や手続につきましても明確化されたというふうには、逆に、できないから明確化できないということなのかもしれませんけれども、このことについて地制調でどのような議論があったのかということ。先ほど参考人からは国会での関与については機動性に欠けるというお言葉があったわけでございますけれども、地制調の中でどのような議論があったかということについてお伺いをさせていただきます。
○山本参考人 お答えをいたします。
実は、その点が一番難しかったところでございます。現在の現行法、例えば感染症法等々を見ますと、先ほどもちょっと申しましたけれども、例えば政府対策本部を置くとかあるいは緊急事態宣言をするというように、危険性のあるステージを確定させるような決定を行うときに国会の関与というものが定められている例が多々ございます。
ただ、これは個別法の仕組みができ上がっているということが前提ですので、今回の場合には個別法が想定していない事態に対応するための指示を考えているということでして、そういたしますと、そういうふうに一般的に何か危険性のステージがあるというような決定をもってそこで国会が関与するということにはならないので、やろうといたしますと、その都度その都度指示がありますと、同じ事態を原因とする指示が幾つか出されたときにもその都度その都度ということになってくる、これは機動性に欠けるのではないかという議論でした。
ただ、他方で、先ほど御指摘がありましたように、これはあくまで個別法が想定していない事態に対する応急措置であって、本来であれば、それをきっかけにして個別法の改正をするかとか、あるいは新しい個別法を作るかという議論に結びつけなくてはいけないということがあるかと思います。そこのところの、では具体的にどのような手続を設けるかということについて、いろいろな事態によって多様であろうということがありますし、また、これは国会との関係にもなってまいりますので、それ以上はちょっと私どもでは踏み込めなかったというところがあるということでございます。しかし、国会での手続に結びつけていくということが重要であるということは、これは地制調の場でも確認をされております。
以上です。
○西岡委員 地制調の中でも国会の関与については様々な議論があったということでございます。
続きまして、村井参考人にお尋ねをさせていただきたいと思います。
今日資料としていただいております提言を出されているわけでございますけれども、全国知事会としてもこの改正案については一定評価をされる一方で、国の補充的な指示は最小限であること、容易に行使されることがないこと、適切な協議、調整等に向けた運用を明確化すべきということを事前に申入れされておりまして、そのことについて私も松本総務大臣の方に、この提言についてどのように法案に盛り込まれたのでしょうかという質問をさせていただきました。その意見を踏まえて要件を満たす限りにおいて閣議決定ですとか事前の自治体に対する資料や意見の提出を求めるなどの手続を設けたという御答弁があったんですけれども、先ほどからの議論でもあっておりますように努力義務でありまして、明確な協議が法定化、義務化されているわけではないという今の法律のたてつけの状況がございます。
一方で、運用について、どのような手続でどう運用していくか、これが大変重要だと思っております。私自身も、今回の法案については、個別的な指示権が規定されていないところに国民の安全、命を守るという、要件はかなり長い文章でついてはいるんですけれども、では具体的に何なのであるかということが明確でない中で国の補充的な指示権が行使されるということについては、極めて歯止めをかけていく必要があるというふうに思っております。
提言を受けた中で法律に盛り込まれているんですけれども、十分でない部分があるというふうに思っているんですけれども、このことについて、村井参考人の率直な御意見と申しますか、全国知事会の代表としての率直な御意見、そして、やはりここをこうすべきであるという御意見がいただけるのであれば、是非お聞かせをいただきたいと思います。
○村井参考人 先生御指摘のとおり、国が補充的な指示を行う場合にはあらかじめ地方から資料又は意見の提出を求めその他の適切な措置を講じる努力義務が課されましたけれども、これは今年一月に我々が行った提言を踏まえて改正案に盛り込まれたものというふうに思っておりまして、そういった点は非常に高く評価をしているところでございます。
先ほどからいろいろな委員の先生方、参考人がお話しになっているように、非常事態で想定できないものということでありますから、なるべく具体的にというのは当然なんですけれども、やはりどうしても書き込めない部分、グレーな部分がどうしても出てくるというのは、これも理解をしなければならないというふうに思っております。我々といたしましては、まずは、どういうことがありましてもしっかり事前に適切な協議、調整を行っていただく、我々の意見をしっかり聞いた上で判断していただきたいということ、また必要最小限の範囲としていただきたいということでございます。
この点につきましては、今、松本大臣に質問したということでありますけれども、国会におきまして委員会等であらゆる角度から質問をしていただきまして、しっかりとした前向きな、我々の意に沿ったような答弁を引き出していただきたいというふうに思っておりますし、できれば附帯決議のようなもので、私たちの意を酌んだようなものをまとめていただければ大変ありがたいというふうに思っております。
○西岡委員 私たちがしっかり国会で議論していかなければいけないということを改めて痛感するわけでございます。
一方で、非常時に国が国民の生命、安全を守るために判断せざるを得ない事態、今回、法改正で想定されている事態を想定した上で、法に基づかない要請や命令が出される事態は避けなければいけないということについては、私もそういう認識は持っております。
ただ、先ほども宮本委員からもございましたけれども、国が補充的な指示を出すときに、必ずしもその指示が現場に合っているのか、正しいものであるのか。特に学校の一斉休校の例がございまして、これについては、現場の実態とかけ離れた国の要請で子供たちに本当に大きな影響が及んだというふうに思っております。今なお及んでいるというふうに私は思っているんですけれども。それもありますし、国の指示が逆に自治体の現場を混乱させる事態というものも懸念されているわけでございます。
このことについては、今、村井参考人にお聞きをしたんですけれども、国と地方の協議の場をしっかり明確に規定する必要があるというふうに考えるんですけれども、村井参考人には今お聞きしたので、ほかの参考人の方の御意見を是非お伺いしたいと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
私も、できる限り具体的に定めることが望ましいというふうに考えております。ただ、なかなか事態が多様でして、具体的に、このような手続でなければならない、あるいはこのような主体が参加しなくてはいけないということを決め切ることがなかなか難しいということも確かでございまして、それで、今回の法案の中には基本原則である必要最小限というものを踏まえた努力義務という形で定められたというふうに思っております。
地制調の総会の場で、参加するアクターが誰になるのか、当該地方公共団体なのか、あるいは六団体のようなもっと大きな団体になるのかといったような議論もあったのですけれども、これも結局ケース・バイ・ケースだろうということになりまして、なかなか決めるのは難しいという議論を、第何回の総会でしたか、した記憶がございます。
以上です。
○礒崎参考人 お答えいたします。
確かに、もしこうした指示権を導入するのであれば、地方との協議を十分行って、そして現場の状況に合った形で対応すること、指示権を行使するならばするということが求められるのではないかというふうに思います。私は、その結果余り指示権というのは役に立たないのではないかと思ってはおりますけれども、もしやるとすれば、事前協議とか、現場の状況を踏まえる、これは大変重要なことだと思います。
ただ、ちょっと懸念がありますのは、今も少し出ましたが、自治体間でも意見が違う部分がございますので、自治体の意見がそれぞれ違うとき、あるいは利害関係が違うとき、こうした場合に、利益を受ける自治体と協議したよということで進めるということも考えられないだろうか、そんな懸念点もちょっと感じたところでございます。
以上でございます。
○永田参考人 先ほどもちょっとお話しさせていただきましたが、例えば緊急消防援助隊の指示みたいな形で指示を出されたときとか、事前のある程度インフォーマルな根回し、情報の共有、コミュニケーションといったようなものは、長年個別法の分野で国の指示権というものが確立されているような分野では、国は既にある程度ノウハウを持たれているんじゃないかというふうに私は認識しております。
それを徹底させることも、制度的な部分での検討というのも当然重要だと思うんですけれども、それと同時に運用の部分での手厚い、ある程度非常に丁寧にコミュニケーションを取るような、インフォーマルな部分でのノウハウというのは既に蓄積されているところが一部の分野ではあると思いますので、やはりそこを、そういうものも今後は非常に丁寧に、今回の法改正のケースにおいても適用されるような形でやられていくことが重要かなというふうに考えております。
以上でございます。
○白藤参考人 私も、既に申し上げたように、すぐに特権的指示に行くより、二百四十五条の第二号関与であるところの協議というのが本来は優先されるべきだと思っております。
ただ、法案のように、特権的指示を行うという際においても事前の協議といったものが大変重要になって、そこにおける情報の共有とかコミュニケーションを取ることが最大なされねばならないというふうに思っております。
ちなみに、山本参考人がおっしゃいました誰と協議するかという問題なんですが、法案の二百五十二条の二十六の三には、国が資料の要求をする場合に適切と認める普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与という表現をされているんですね。つまり、協議を行う際には、適切と認める、その文言を使わせていただければ、そういった者をできるだけ参加させて協議するということが重要ではないかと思います。
以上です。
○西岡委員 時間となりました。今日いただきました様々な貴重な御意見をこれからの国会での質疑にしっかり生かしていきたいというふうに思います。
本日は誠にありがとうございました。
○古屋委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。
参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。
次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時二分散会