衆議院

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第3号 令和4年11月18日(金曜日)

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令和四年十一月十八日(金曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 塚田 一郎君

   理事 井林 辰憲君 理事 越智 隆雄君

   理事 中西 健治君 理事 宗清 皇一君

   理事 櫻井  周君 理事 末松 義規君

   理事 住吉 寛紀君 理事 稲津  久君

      青山 周平君    石井  拓君

      石原 正敬君    小田原 潔君

      大塚  拓君    大野敬太郎君

      金子 俊平君    神田 憲次君

      神田 潤一君    小泉 龍司君

      高村 正大君    塩崎 彰久君

      鈴木 隼人君    中山 展宏君

      藤原  崇君    本田 太郎君

      八木 哲也君    若林 健太君

      近藤 和也君    階   猛君

      野田 佳彦君    原口 一博君

      福田 昭夫君    藤岡 隆雄君

      道下 大樹君    藤巻 健太君

      岬  麻紀君    伊藤  渉君

      山崎 正恭君    前原 誠司君

      田村 貴昭君    吉田 豊史君

    …………………………………

   内閣府副大臣       藤丸  敏君

   財務副大臣        井上 貴博君

   財務大臣政務官      金子 俊平君

   政府参考人

   (金融庁総合政策局長)  栗田 照久君

   政府参考人

   (財務省主計局次長)   寺岡 光博君

   政府参考人

   (財務省理財局長)    齋藤 通雄君

   政府参考人

   (財務省国際局長)    三村  淳君

   参考人

   (日本銀行総裁)     黒田 東彦君

   参考人

   (日本銀行理事)     内田 眞一君

   参考人

   (日本銀行理事)     加藤  毅君

   参考人

   (日本銀行金融機構局長) 正木 一博君

   財務金融委員会専門員   二階堂 豊君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月十八日

 辞任         補欠選任

  道下 大樹君     近藤 和也君

同日

 辞任         補欠選任

  近藤 和也君     道下 大樹君

    ―――――――――――――

十一月十七日

 消費税インボイス制度の実施中止に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第八四号)

 同(笠井亮君紹介)(第八五号)

 同(穀田恵二君紹介)(第八六号)

 同(志位和夫君紹介)(第八七号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第八八号)

 同(田村貴昭君紹介)(第八九号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第九〇号)

 同(宮本岳志君紹介)(第九一号)

 同(宮本徹君紹介)(第九二号)

 同(本村伸子君紹介)(第九三号)

 消費税率五%への引下げに関する請願(牧義夫君紹介)(第九四号)

 消費税率を五%に引き下げ、複数税率・インボイス制度の即時廃止を求めることに関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第九六号)

 同(笠井亮君紹介)(第九七号)

 同(穀田恵二君紹介)(第九八号)

 同(志位和夫君紹介)(第九九号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一〇〇号)

 同(田村貴昭君紹介)(第一〇一号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一〇二号)

 同(宮本岳志君紹介)(第一〇三号)

 同(宮本徹君紹介)(第一〇四号)

 同(本村伸子君紹介)(第一〇五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

塚田委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁黒田東彦君、理事内田眞一君、理事加藤毅君、金融機構局長正木一博君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として金融庁総合政策局長栗田照久君、財務省主計局次長寺岡光博君、理財局長齋藤通雄君、国際局長三村淳君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塚田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塚田委員長 去る六月二十一日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁黒田東彦君。

黒田参考人 日本銀行は、毎年六月と十二月に通貨及び金融の調節に関する報告書を国会に提出しております。本日、最近の経済金融情勢と日本銀行の金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をいただき、厚く御礼申し上げます。

 まず、最近の経済金融情勢について御説明いたします。

 我が国経済は、資源高の影響などを受けつつも、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進む下で持ち直しています。海外経済は、総じて見れば緩やかに回復していますが、先進国を中心に減速の動きが見られます。輸出や鉱工業生産は、供給制約の影響が和らぐ下で、基調として増加しています。企業収益は全体として高水準で推移しており、業況感は横ばいとなっています。こうした下で、設備投資は、一部業種に弱さが見られるものの、持ち直しています。雇用・所得環境は、全体として緩やかに改善しています。個人消費は、感染症の影響を受けつつも、緩やかに増加しています。先行きの我が国経済は、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐ下で、緩和的な金融環境や政府の経済対策の効果にも支えられて、回復していくと見ています。

 物価面を見ますと、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品、耐久財などの価格上昇により、プラス幅を拡大しています。先行きは、これらの押し上げ寄与の減衰に伴い、年明け以降、来年度半ばにかけて、プラス幅を縮小していくと予想しています。その後は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていく下で、再びプラス幅を緩やかに拡大していくと考えています。

 先行きのリスク要因を見ますと、海外の経済、物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症の動向やその影響など、我が国経済をめぐる不確実性は極めて高い状況です。その下で、金融為替市場の動向や、その我が国経済、物価への影響を十分注視する必要があると考えています。この間、我が国の金融システムは、全体として安定性を維持しています。先行き、グローバルな金融環境のタイト化の影響などには注意が必要ですが、金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどを踏まえますと、全体として相応の頑健性を有しています。より長期的な金融面のリスクとしては、金融機関収益への下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうおそれがある一方、利回り追求行動などから、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もあります。現時点ではこれらのリスクは大きくないと判断していますが、先行きの動向を注視する必要があります。

 次に、金融政策運営について御説明申し上げます。

 我が国経済は、感染症による落ち込みからの回復途上にある上、我が国経済をめぐる不確実性が極めて高い状況です。また、物価面では、消費者物価の前年比は、来年度以降、二%を下回る水準まで低下していくと見ています。

 このような経済、物価情勢を踏まえますと、日本銀行としては、金融緩和を継続することで、我が国経済をしっかりと支え、賃金の上昇を伴う形で二%の物価安定の目標を持続的、安定的に実現することを目指してまいります。

 ありがとうございました。

塚田委員長 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

塚田委員長 質疑の申出がありますので、順次これを許します。高村正大君。

高村委員 おはようございます。自由民主党、山口一区の高村正大と申します。

 早速ですが、今日の報告について、幾つか質問をさせていただきたいと思います。

 まず、物価の動向について日銀にお尋ねいたします。

 最近の消費者物価は、前年比プラス三%台へと伸び率を高めてきており、ちなみに、本日発表の最新データ、十月分では、プラス三・七%と更に上昇をしております。日銀の物価安定の目標である二%を大きく上回る状況が続いております。政府も、月例経済報告において、「当面、上昇していくことが見込まれる。」と見ております。

 また、日銀は、展望レポートで示している見通しに対するリスクについて、経済は下振れリスクの方が大きい、物価は上振れリスクの方が大きいと正反対に見ています。この、物価の見通しには上振れリスクの方が大きいと見る背景について教えていただけますか。お願いいたします。

内田参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のとおり、十月の展望レポートにおきましては、政策委員の方から、物価の見通しについて、上振れリスクの方が大きいという見方が示されております。

 今ほど総裁から申し上げましたとおり、現在、経済、物価をめぐる先行き、極めて不確実性が高いというふうに思っております。

 この点、まず、経済に関する様々なリスク要因が顕在化した場合には、当然物価にも影響が及ぶと考えられますほか、物価固有のリスク要因といたしましては、第一に、企業の価格、賃金設定行動、第二に、今後の為替相場の変動、それから、国際商品市況の動向などが挙げられます。

 すなわち、ウクライナ情勢等をめぐる不確実性が極めて高い中にありまして、国際商品市況が上下に大きく変動する可能性がございますほか、世界的にインフレ率が高止まりしておりまして、為替市場の動向も含めまして、我が国の輸入物価が影響を受ける可能性がございます。

 また、国内を見ましても、原材料コスト高を背景に企業が値上げを進める事例が広く見られておりまして、今後の価格転嫁の動向によりましては、物価が上振れる可能性がございます。さらに、労使間の賃金交渉を通じまして賃金に物価動向が反映される動きが広がっていくことで、サービス価格などを中心に物価に影響する、こういう可能性もあると思います。

 こうした点を勘案いたしまして、物価の見通しにつきましては上振れリスクの方が大きいという見方を示しているということでございます。

高村委員 ありがとうございました。

 引き続き、物価に対する日銀の影響は非常に大きいものだと思うので、しっかりとした政策を進めていっていただきたいと思います。

 続きまして、財政ファイナンスについてちょっと伺いたいと思います。

 海外の多くの国では、高騰する物価を抑制するため、中央銀行が利上げを進めています。

 他方で、日本では、確かに物価の上昇を日々我々の生活でも体感することはあるものの、物価上昇の程度も中身も海外とは大分違っているほか、持続的、安定的に物価安定目標を展望できるまでにはまだ至っておりません。さらに、需給ギャップは依然としてマイナスという状況にあります。

 このような状況の下、現在、日銀が金融緩和を継続する方針であることはよく理解ができます。もっとも、将来、需給ギャップがプラスに転じ、物価安定目標の持続的な達成が見通せるようになれば、現在の強力な金融緩和の見直しが図られるものと理解をしております。

 その点に関し、近年の財政の状況を考えれば、日銀の今すぐにの政策転換は難しく、金融政策の自由度は事実上縛られているのではないかという論調もあります。将来にわたって適切な金融政策が遂行されることを確認する観点から、現在の強力な金融緩和の目的について改めて教えてください。お願いいたします。

黒田参考人 先ほども申し上げましたとおり、我が国経済は、コロナ禍からの回復途上にある上、海外の経済、物価動向、あるいはウクライナ情勢、内外の感染症の影響など、我が国経済をめぐる不確実性は極めて大きい状況であります。また、消費者物価の先行きについて、来年度以降は二%を下回る水準まで低下していくというふうに見ております。

 こうした経済、物価の現状と見通しを踏まえますと、我が国経済をしっかりと支え、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に実現するため、金融緩和を継続することが適当であるというふうに考えております。

 このように、現在の金融緩和は、あくまでも物価の安定を実現するという金融政策の目的から実施しておりまして、政府の財政資金の調達支援を目的としたものではありません。そういう意味で、財政ファイナンスということは全く考えておりません。

高村委員 総裁、ありがとうございます。

 引き続き、しっかりとした財政運営をよろしくお願いいたします。

 さて、ここからは財務省にお伺いしたいと思います。

 私自身、新型コロナ感染症対応や物価高騰対策など真に必要な財政支出に関しては、決してちゅうちょするべきでないと思っております。また、財政指標については、先入観にとらわれることなく、虚心坦懐に見ていくべきだと思います。

 もっとも、財政出動には、おのずと限度があり、また節度が求められるべきものです。私は、今回の新型コロナ感染症対策や物価高騰対策でこれだけの財政支出ができたのは、日本が財政健全化の旗を今までしっかりと立て、決して降ろすことがなかったからだ、このように思っております。

 最近では、英国において、トラス前首相の下、無軌道な減税政策や拡張的な財政政策が市場の攻撃にさらされ、金利の上昇、為替の急落、株安といった、いわゆるトリプル安の事態を招いたことは、我が国においても注目するべきことである、このように考えております。

 英国と日本は、経済、物価情勢だけでなく、対外純資産や外貨準備などの状況において異なる点が少なくないことは承知していますが、そうした違いに関する見方と併せ、財政の規律を維持していく覚悟、姿勢について改めて確認させてください。

寺岡政府参考人 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、日本と英国では状況が異なるとは認識してございますが、その上で申し上げれば、一たび経済財政運営に対する信認が損なわれますと市場が鋭く反応しかねないという、大きな教訓の一つだと考えております。

 したがいまして、日本の財政に対する市場からの信認が失われることのないよう、財政規律をしっかりと意識しながら、責任ある経済財政運営を進めていくことが重要であると思います。

 委員御指摘のとおり、新型コロナや物価高騰等に対してはちゅうちょなく対応を行ってまいりますが、まさにそうしたことが可能となるのは、我が国財政への信認があってこそであると考えます。財政は国の信頼の礎であり、歳出歳入両面の改革を進め、経済再生と財政健全化の両立を図っていくことが必要と思います。

高村委員 ありがとうございます。

 引き続き、財政健全化、この旗を降ろすことなく、しっかりとした運営をしていっていただきたいと思います。

 続きまして、政府が発行する国債の満期についてです。

 国債の満期は、六か月という短期債から四十年という超長期債まで多様であります。通常、国債の金利は、満期の長いものほど高くなり、短いものほど安くなるため、単純にコストだけの観点から見ると、短期債のウェートを多くするほど、毎年の政府の利払い費は低く抑えられると考えられます。また、政府債務が積み上がっている現状では、短期債を増やすと、借り換える頻度が多くなり、毎年の国債発行額が大きくなることから、一般的には市場や格付会社の評価は厳しくなります。

 この点、財務省においては、従来から少しずつ発行年限の長期化を進めてきたものと理解をしております。実際、新型コロナウイルス感染症の流行前には、フローベースで平均九年程度まで延びておりました。ところが、新型コロナウイルス感染症対策で発行額が大きく増えたため、最近は、平均六年から七年程度と短くなってきております。この点を捉えて、財政的に国債の消化が苦しくなってきているのではないかという見方も出ております。

 私自身も、財務大臣政務官のときに、財務省内の国債業務課の執行室内ディーリングルームを視察させていただき、大変な緊張感の中で作業をしている現場の皆さんの努力を拝見しましたが、政府においては、発行コストの最小化と確実で円滑な国債発行とのバランスの下で、発行年限についてどのように考えているのか、基本的な考え方を教えてください。お願いいたします。

齋藤政府参考人 お答えを申し上げます。

 まず、先生、大臣政務官御在任中に国債発行を担当する職員を現場で激励いただきましたこと、改めて御礼を申し上げる次第でございます。

 その上で、先生御指摘のとおり、国債管理政策は、確実かつ円滑な発行というものと中長期的な調達コストの抑制というこの二つを基本的な考え方として運営をしております。

 お尋ねのございました発行年限について、年限の短いものと長いものとを比較した場合、先生御指摘のとおり、右肩上がりの一般的なイールドカーブの形状を前提とすればですけれども、年限の短い国債は長い国債よりも利払いコストを低く抑えられる一方、年限の短い国債はすぐに借換えが必要となり、借換え時の金利上昇リスクと借換えリスクを生じさせるという問題がございます。

 このコストとリスクのバランスをどのように取るかという課題に対応するため、理財局では、三千本の金利パス、金利変動の仮想シナリオでございますけれども、これを用いて、将来十年間にわたるコストとリスクというものを定量的に分析するコスト・アット・リスクという分析の結果を参考としているところです。

 しかしながら、国債の発行年限を短いものから長いものまでどのように配分するかについては、機械的な試算のみで決められるものではなく、各年限の市場のニーズというものを十分に把握し、需給バランスを崩さないように配分することが肝要と考えております。

 市場のニーズや投資家動向を把握するため、私ども理財局では、プライマリーディーラーとの会合や投資家との懇談会などを開催いたしまして、そうした機会を通じて、市場参加者との丁寧な対話を行いながら、市場ニーズを踏まえた年限別の発行計画を策定し、安定的な国債発行に努めてまいりたいと考えております。

高村委員 どうもありがとうございました。

 続きまして、最近の為替レートについて少し伺ってみたいと思います。

 十月下旬に一ドル百五十円を超えていた為替レートが、米国の物価に関する指標が市場予想を下回った途端、一ドル百三十七円台まで値上がりし、現在も百四十円を挟んだ推移となっております。

 このように、最近の円安が是正されている背景をどのように考えていらっしゃるのか、今回の急激な変化に際して為替介入があったのかどうだったのか、また、過去数か月に行われた介入の効果をどのように考えていらっしゃるのか、教えてください。お願いいたします。

三村政府参考人 お答え申し上げます。

 大きく三つお尋ねがあったかと存じますけれども、まず、大変恐縮でございますけれども、足下のこの為替相場の動き、あるいは為替介入を行ったのか否かというようなことにつきまして、これは、私ども当局者の方から何か具体的なことを申し上げますと市場に不測の影響を与えるおそれもございますので、ここはお答え申し上げることを差し控えさせていただければと存じます。

 それから、介入の効果というお話がございましたが、これはこの委員会の場でも大臣からもお伺い申し上げているかと存じますが、私どもとしまして、投機による過度な変動に対して適切に対応するという観点から一定の効果があった、このように考えているところでございます。

 いずれにいたしましても、大臣からも申し上げてございますけれども、私どもとしまして、引き続き、為替市場の動向を高い緊張感を持って注視をするとともに、必要な場合には適切な対応を取る、こういう考え方で引き続き臨んでまいりたいと考えてございます。

高村委員 どうもありがとうございました。

 時間ですので、以上で終わります。どうもありがとうございました。

塚田委員長 次に、山崎正恭君。

山崎(正)委員 公明党の山崎正恭です。

 本日は、財務金融委員として初めての質問になります。機会をいただきまして、本当にありがとうございます。

 貴重なお時間ですので、早速質問に入らせていただきます。

 まず初めに、黒田総裁の下で今まで進めてきた異次元の金融緩和についてお伺いします。

 第二次安倍政権発足時直後の平成二十五年一月に、政府、日銀は、デフレ脱却と持続的な経済成長のための政府、日本銀行の政策連携についての共同声明を公表し、同時に、日銀は、消費者物価の前年比上昇率を二%とする物価安定の目標を導入し、黒田総裁就任後の平成二十五年四月に、金融市場の操作目標を、従来の金利から、マネタリーベース、量に変更し、長期国債、ETFの保有額を倍増させる等によりマネタリーベースを二年間で二倍に急増させる量的・質的金融緩和を開始しました。

 その後、平成二十八年九月には、それまでの金融政策の枠組みを強化する形で、長短金利操作付量的・質的金融緩和を導入し、イールドカーブコントロールやオーバーシュート型コミットメントなどにより、再び主な政策ターゲットを量から金利にしました。

 その後は、平成三十年七月や令和三年三月に、ゼロ%程度とされる長短金利水準の変動幅について拡大を許容するといった、金利政策の機動性、持続性を強化する方向の政策が続いています。

 そこで、ここまで九年以上にわたる異次元の金融緩和については、デフレではない状況の実現や、株価や雇用などマクロ経済指標が改善されたとの評価がある一方で、日本銀行による国債の大量買入れが、結果として、超低利による利払い負担の軽減が財政を下支えすることになり、日本の財政弛緩につながっているなどの指摘も含め、異次元の金融政策ゆえに、社会的反響、また影響も大きく、様々な評価がなされています。

 そこで、黒田総裁が就任してから平成二十五年にスタートした量的・質的金融緩和を始め異次元の金融緩和について、これまでの取組を振り返って、国民にどのような恩恵、プラス面があったのかを、改めて黒田総裁の御認識をお伺いします。

黒田参考人 御案内のとおり、日本経済は一九九八年度から二〇一二年度までの長期のデフレが続いていたわけですが、日本銀行が二〇一三年に量的・質的金融緩和を導入して以降、政府の様々な施策とも相まって、経済状況は大きく改善いたしました。

 具体的には、日本経済には、デフレ期には見られなかった変化、例えば、九年連続のベースアップの実現、女性や高齢者を含めた雇用の大幅な増加などが見られました。また、二〇一〇年代の我が国の人口一人当たりのGDPの成長率を見ますと一%台前半となっており、米国とほとんど遜色ない伸びとなっております。

 このように、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではない状況が実現いたしております。昨年三月の点検でも、大規模な金融緩和が行われなかった場合と比べますと、この間の実質GDPは平均プラス〇・九からプラス一・三%程度押し上げられており、消費者物価の前年比は同じくプラス〇・六から〇・七%程度押し上げられたという試算結果を得ております。

 そういった意味で、異次元の金融緩和が国民経済にとってプラスであったということは事実だと思いますが、残念ながら二%の物価安定目標を持続的、安定的に達成するには至っていなかったわけですが、足下での三%台の消費者物価は大半が輸入物価の上昇によるものでありまして、依然として賃金の上昇を伴う形で二%の物価安定目標が持続的、安定的に達成される状況に至っていないということは残念でありますけれども、国民経済にとって大きなプラスがあったということは疑い得ないと思います。

山崎(正)委員 次に、先ほど総裁からもお話がありました消費者物価の前年比上昇率を二%とする物価安定の目標について、当初、日銀は、平成二十五年一月の二%の物価安定の目標の達成時期の見通しは二年程度としてきましたが、平成二十七年四月以降は立て続けに見通しを後退させ、平成三十年四月には、計数のみに過度な注目が集まることは適当ではないとして、達成時期の見通しは示されないようになりました。

 二%の物価安定目標が達成できていない理由については日銀は度々整理を行っていますが、令和三年三月に公表した、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検においては、一、予想物価上昇率に関する複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズム、二、弾力的な労働供給による賃金上昇の抑制、三、企業の労働生産性向上によるコスト上昇力の吸収等と整理しています。

 二の賃金上昇の抑制と、三の生産性向上によるコスト上昇力の吸収については、短期的な物価の下押し要因であって、中長期的には物価にプラスの影響を与えることが考えられる、その一方で、一の予想物価上昇率の粘着的な適合的期待形成のメカニズムについては、長期のデフレで定着した人々の考え方や慣行の転換に時間を要するとしています。

 物価上昇率は、令和二年に入り、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、マイナスで推移が続いていましたが、直近では一転して物価上昇局面に入りました。エネルギー価格の高騰や円安などにより企業物価は昨年より上昇局面に入り、ここ数か月間は九%程度の上昇が続いており、消費者物価のうちエネルギー価格を含む総合指数及び生鮮食品を除く総合指数については上昇率が二%を超える状況となっており、政策委員の見通しでも、二〇二二年度の生鮮食品を除く消費者物価指数は前年度比プラス二・九%となっています。

 しかし、海外の経済、物価動向、今後のウクライナ情勢の展開や資源価格の動向、内外の感染症やその影響など、日本の経済をめぐる不確実性は極めて高く、最新の経済・物価情勢の展望レポートにおいて、金融政策運営については、二%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで長短金利操作付量的・質的金融緩和を継続する、マネタリーベースについては、消費者物価指数、生鮮食品を除く、の前年比上昇率の実績値が安定的に二%を超えるまで拡大方針を継続することとしています。

 そこで、異次元の金融緩和の出口戦略について、黒田総裁は、賃上げを伴い二%の物価目標を安定的に達成できるのであれば、当然、出口戦略も議論すると言われていますが、出口戦略の前提として、具体的にどのような環境が整うことが必要なんでしょうか。既に物価上昇率は二%を超えており、目標がもう達成されたのではないか、国民の皆さんは、もういいんじゃないかと、最近の世論調査なんかを見ても、終了してもいいのではないかという声が増えているように思います。

 そこで、もう少しこの出口戦略の前提となる環境について、国民に分かりやすく御説明をいただきたいと思います。総裁、よろしくお願いします。

黒田参考人 御指摘のとおり、公表文でも示しておりますとおり、日本銀行は、現在の長短金利操作付量的・質的金融緩和を、物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続すること、そして、マネタリーベースは、消費者物価の実績値が安定的に二%を超えるまで拡大方針を継続するということを明示いたしております。

 足下の消費者物価は、輸入物価の上昇を起点とする価格転嫁の影響から上昇率を高めております。もっとも、年明け以降、その押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅は縮小していくと見ております。こうした下で、年度ベースで見た消費者物価の前年比は、来年度以降、二%を下回る水準まで低下していくというふうに考えております。その意味では、物価安定の目標を持続的、安定的に達成する見通しとはまだなっておりませんで、金融緩和を継続することが適当である、こういうふうに判断をしております。

 なお、日本銀行としては、単に物価だけが上昇すればよいと考えているわけではなくて、あくまでも、企業収益や雇用、賃金が増加する中で物価も緩やかに上昇するという好循環を目指しております。今後とも、金融緩和を継続することで我が国経済をしっかりと支え、企業が賃上げをできる環境を整えることで、こうした好循環の形成を後押ししていく考えでございます。

山崎(正)委員 私も日常的に議員活動を行っていく中で、今、物価目標が二%を超えたからすぐにやめて金利を上げるというのは、円安の影響なんかを受けている方もいますので全てではないですが、やはり多くの皆さんがコロナの影響もあって大変な生活をしてまいりましたので、すぐに金利を上げてしまうと大変なことになるな、違うなというのは肌感覚では感じております。

 ただ、この安定的持続の安定的というところの見極め、判断も非常に難しいと思いますが、やはり国民の皆さんの生活を注視していただきながら、国民の生活を大事に、慎重かつ的確な判断をお願いしたいと思います。

 最後に、先ほど黒田総裁がおっしゃいました賃上げを伴う二%の物価目標の安定的な達成に向け重要な賃上げについてお伺いします。

 異次元の金融緩和のスタート時には、操作目標を、マネタリーベース、量に変更し、マネタリーベースはそれまでの約五兆円から八十兆円と大きく増加しましたが、マネーストックはそれに応じて動いてはいませんでした。

 マネタリーベースに対するマネーストックの比率を表すいわゆる信用乗数は低下の一途をたどっています。二〇一二年十月から二〇二二年十月の変化を見ると、マネタリーベース四百八十七兆円、プラス三八〇%の増加に対し、マネーストック三百九十二兆円、プラス四六%にとどまっており、信用乗数は六・六から二・〇まで低下しております。

 マネーストックが増加しているからよいのではないかという見方もありますが、実際のところ、総裁自身が繰り返し述べられているような賃上げにはつながっていないことは事実です。種々要因があると思いますが、今後の出口戦略の重要な条件としている賃上げについても、やはり、日本経済が今後成長していくという期待感が国民のマインドを変え、賃上げに向けての行動、お金の動きの変化が出てくるように思いますが、そういった、企業や国民が期待感が持てるようなマインドを醸成していくために、日銀として、どのような役割があり、企業、国民にどのようなメッセージを発信するのか、お伺いします。

黒田参考人 日本銀行といたしましては、現在のイールドカーブコントロールを軸とする金融緩和を継続して、我が国経済をしっかりと支えることで、労働需給の引き締まりを伴いながら、賃金と物価が共に緩やかに上昇する好循環の形成を促していくことが重要というふうに考えております。こうした下で、時間はかかるものの、賃金の上昇を伴う形で二%の物価安定の目標を持続的、安定的に達成することができると考えております。

 こうした金融政策の効果を円滑に発揮していくためにも、経済、物価情勢やその下での政策の目的あるいは考え方について、企業や国民の皆様に分かりやすい情報発信をする必要があるということは御指摘のとおりでありまして、引き続き、分かりやすい情報発信に努めてまいりたいというふうに考えております。

山崎(正)委員 ありがとうございました。

 時間になりましたので、以上で終わります。ありがとうございました。

塚田委員長 次に、藤岡隆雄君。

藤岡委員 立憲民主党の藤岡隆雄でございます。

 質疑に入る前に、まず、地元栃木県第四区の皆さんに感謝を申し上げ、また、質問の機会を与えてくださった先輩、関係各位に感謝を申し上げます。

 また、財務金融委員会、初めての質疑になります。十年弱、金融庁でかつてお世話になりました。随分前でございますが、お世話になった先輩、同僚、後輩、関係者の皆さんに感謝を申し上げまして、質疑に入らせていただきます。

 最初、FTXの破綻に伴う件をちょっと質問させてください。

 FTXジャパンの顧客預かり資産の返還、これは再開されましたでしょうか。再開されないとすれば、その理由とめどを教えてください。藤丸副大臣、お願いします。

藤丸副大臣 お答えします。

 FTXジャパン社は、利用者財産の返還を停止していて、再開してはおりません。結局、米国の破産法の適用申請がなされて、その影響を今確認をしているところです。

 当社の利用者に財産を返還していくためには、親会社のシステムを経ない形に、当社のシステムを親会社のシステムを経ないようなシステムに変更しなければならないということでありますので、返還の再開時期というのは、今そういう理由で未定ということになっていると思います。

藤岡委員 これは本当に、投資家保護の観点から今のお話を聞きますと、非常に大きな課題を残しているというふうにまず感じます。

 そして、チャプターイレブンへの申請の影響が、私、最初にお聞きしたとき正直違和感があったんですが、これは、日本法人、日本に登録を受けている法人に効力が及ぶということなんでしょうか。そこをちょっと教えてください。

藤丸副大臣 米国法上、世界中の資産が保全され、債務の履行が停止されると理解されているものであります。

 米国破産法の影響を今確認をしている段階でありますので、現時点においてその法的な効力の影響がどうなるかというのは、簡単にはお答えすることは難しい。今、それを精査しているところでございます。

藤岡委員 金融庁でもこれはなかなか分からないという、今本当に大変な事態ということでもあると思います。

 資金決済法に優先弁済権が規定されていると思いますが、これは下手すると、無に帰してしまう話になりますよね。そうすると、本当にこれから、大きな法改正も、あるいは、ちゃんと対応の整理、これをしていかないといけないということになりますよね。

 その意味で、もしこの弁済停止の効力が日本法人にも及ぶということが起こるんだとすれば、大至急、弁済停止解除を米国の裁判所に働きかけていかないといけないと思うんですね。

 藤丸副大臣、いかがですか。これは政治的にも必要かもしれませんよ。

藤丸副大臣 米国破産法に基づく、このFTXジャパン社において、利用者財産の返還に向けた今後の対応は、今検討しているところでありまして、その内容を確認して、当社において適切な対応ができるように、金融庁としては今、促しているところでございます。

藤岡委員 米国法が日本にそこまで及ぶということになるのであれば、これは外交問題ということも含めて考えていかないといけないと思うんですよね、場合によってはですよ、状況によっては、その解釈の確認の結果によってはですけれども。

 そうすると、本当に、大臣始め、早急にそういう話を対応していただく必要があると思います。

 もう一度、藤丸副大臣、是非お願いします、その辺。

藤丸副大臣 このFTXジャパンの営業所とか事務所がこれに該当するか否かとか、外国倒産処理手続法……(藤岡委員「その話じゃないです。その話は次ですから。今は違う話です。あくまで弁済停止の話で」と呼ぶ)あ、そうか、そうか。そうでした。あれ……(藤岡委員「外交関係」と呼ぶ)いや、そうなんですけれども、結論を言うと、裁判所の判断によるものでありますから……(発言する者あり)

 必要に応じて、今、促しているところでございます。

藤岡委員 今のちょっと答弁を聞くと、大変不安になりますので、政治のリーダーシップ、これ、必要かもしれませんので、しっかり対応を、まず、本当にお願いしたいと思います。

 そして、弁済停止のお話と、もう一個、今、藤丸副大臣が先に答弁を読んで、問い番号は多分先だと思いますけれども、財産の処分権限の話があるわけですね。

 まず、弁済停止の効力が日本に及んでしまうのかという一個目の論点。もう一個目の論点が、おっしゃった外国倒産処理手続の承認援助に関する法律に基づいて、日本の裁判所に申立てが行われて、そこでもし承認されてしまうと、米国の管財人などに、管財人が選任されているかどうか分かりませんけれども、そこに処分権限が行ってしまう可能性があるわけですよね。そうすると、分別管理されている財産が、これはアメリカで処分されてしまうということになると、日本の投資家保護が果たされないという可能性があるわけですよ。

 その意味で確認したいんですね。申請の申立ての権限は、これは法務省にも確認しますと、FTXジャパンが米国において事務所や営業所、支店を有している場合などに申立ての権限があるというふうに、私、聞きましたけれども、FTXジャパンは、この事務所や支店を有しているんですか、アメリカに。

藤丸副大臣 その判断は裁判所に、営業所とか事務所があるというのは、裁判所の判断になりますけれども、当社自体は該当しないというふうに主張しています。

藤岡委員 当社が判断している、また裁判所の解釈によって、今、少し危ういところが残っているというふうに私は受け止めました。この辺りもしっかり整理して、対応していただきたいと思うんですが。

 そうすると、この当社、日本法人は、少なくとも、いわゆる先ほど申し上げた法律十七条に基づく承認申請はしないという方針、つまり、外国の管財人なども今選任されていない、そういう方針ということで理解してよろしいですか。

藤丸副大臣 当社からは、現段階では、十七条に基づく承認の申立てを行うつもりはないというふうに聞いています。

藤岡委員 本当に、この辺り、もう一回申し上げますが、弁済停止の効力が日本にも及んでしまうのか、また、この承認の申立てが行われて承認されてしまうのか、非常に重要な論点でございますので、是非、早急にこの対応をお願いしたいと思うんですが。

 今、こういう御答弁を聞いておりまして、新しい金融に関して同様の案件があったときに、まずチャプターイレブンが申請されたときに、本当に、じゃ、日本の法人に財産を預けている方の投資家保護が十分果たせるのか、法律の今のルール上ですね。さらには、先ほどの外国倒産処理の承認援助の法律の二十一条には、裁判所に申立てがされたときの棄却する要件が書かれているんですけれども、この棄却する要件で本当に十分なのか、様々な論点があると思います。

 これは大至急、対応を整理、見直し、場合によっては法改正をする必要があると思いますけれども、藤丸副大臣の御見解をお伺いします。

藤丸副大臣 結論から言うと、そういう問題に対処していかなきゃなりませんけれども、現時点において、制度整備の必要性、予断を持って検討しておりますが、法務なので、差し控えたいと思っております。

藤岡委員 これは最後にしますが、予断を持って今検討しているというふうにおっしゃいました。本当にこれは対応の整理も含めてやっていただかないといけないと思いますけれども、最後、藤丸副大臣、これは対応していただくということで、御決意をお願いします。

藤丸副大臣 言い間違えました。済みません。

 いろんな、資金決済法に基づいて、毎年一回、公認会計士とか監査法人の監査をして、監査報告をこの会社もしておりまして、立入検査もやっております。(藤岡委員「違う答弁を読み上げていませんか、大丈夫ですか」と呼ぶ)分かっております。分かりました。

 今後、本事案を踏まえた課題を見極めながら、必要に応じて適切な対応を検討してまいります。

藤岡委員 では、これは本当に、早急に、投資家保護の観点から、対応の整理又は状況によっては見直しをお願いしたいと思いますので、よろしくお願いします。

 御多忙と思いますので、藤丸副大臣、また栗田局長、御退席いただいて結構でございます。ありがとうございました。

 さて、続きまして、黒田総裁、大変お待たせしてしまいました、金融緩和についてお聞きさせていただきたいと思います。

 まず、先ほど高村委員から御紹介がございました、本日、まさに日本の消費者物価、生鮮食品を除く、十月、三・六%上昇と。国民は苦しいです。四十年ぶりの伸び率でございますし、また、日本版コアコアを見ても二・五%、二%台に乗ってきております。黒田総裁の受け止め、お願いしたいと思います。

黒田参考人 御指摘のように、最新の物価の統計によりますと、生鮮食品を除く消費者物価の上昇率が二・六%に達した、総合で二・七。それから、御指摘のような、いわゆるコアコアで……(藤岡委員「三・六でございます、三・六」と呼ぶ)失礼しました。三・七。それから、コアコアでも二・五ということで、かなりの消費者物価の上昇になっているということは事実でございます。

 ただ、その背景を見ますと、資源価格の上昇と円安による輸入物価の上昇が消費者物価に今転嫁されているという状況でありまして、今後更に上昇していく可能性がありますけれども、年明け以降は、やはり、押し上げに寄与している要因がだんだん減衰していきますので、消費者物価の上昇率が低下していって、来年度全体としては二%を割る状況になるという見通しであります。

 ちなみに、これは日本銀行だけでなく、IMFなどの国際機関、さらには民間の見通しでもそういうふうになっておりまして、そういう意味では、現時点では、賃金の上昇を伴う形で安定的、持続的に二%の物価安定目標が達成されているという状況にはない、来年度でもそれはまだ達成されていないという状況が続くということでありますので、そういった意味では、金融緩和を継続するべきだというふうに思っております。

 現在は、やはり経済をしっかりと支えて、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に実現するために金融緩和を継続することが適当であると考えておりまして、こういった点も含めて、市場あるいは国民全体に対して適切にコミュニケーションを図っていきたいというふうに思っております。

藤岡委員 今日お配りしております最近の世論調査の結果でございます。

 非常に金融緩和というのは本来難しい話なので、なかなか、国民もどう回答していいかというのは正直難しいのかなというふうには思うんです。しかし、最新の世論調査の結果で、日本銀行は今後も金融緩和策を続けるべきかという問いに対して、見直すべきだというのが六三・三%なんです。

 日銀は日本の物価上昇はまだまだというふうにおっしゃいます。国民は苦しいんです。物価が上がっているという認識なんですよ、国民は。中小企業も苦しいです。これだけ難しい話と言われることで、六三・三%も見直すべきだという声が上がっております。そして、今日、四十年ぶりの物価上昇ということでございますが、国民の声をどう受け止めますか。一ミリも極端な異次元緩和について変更はされないということですか。

黒田参考人 もちろん、御指摘のような意見があるということは十分承知しております。

 その上で、先ほど来申し上げているとおり、物価の現状、それは輸入物価の消費者物価への転嫁が進んでいるために起こっているわけでして、その輸入物価の押し上げ効果というのは来年に入っていきますとだんだん減衰していって、来年度全体としては二%を割るという見通しであります。これは、先ほど来申し上げているとおり、日銀だけではなくて、民間のエコノミストも、それからIMF等の国際機関も同様な見通しを持っております。

 すなわち、足下での消費者物価の消費者に対する影響、マインドに対する影響、それから金融政策に関するそうした御意見等もよく承知しておりますけれども、何回も申し上げますが、二%の物価安定の目標というものを賃金の上昇を伴う形で安定的、持続的に実現する必要があるわけでして、まだそこには至っていないということで、しっかりと経済回復を支えて、賃金上昇を伴う形で二%の物価安定目標を持続的、安定的に達成されるように金融政策を運営していく必要があるというふうに考えております。

藤岡委員 国民の苦しみをもう少し御理解をいただきたいというふうに思います。

 総裁、最近ずっとおっしゃっておりますが、賃金の上昇のところですね。では、最初から、賃金が物価以上に上がる必要があるということは、これをやはり説明すべきだったんじゃないんですか、今、関連してお聞きしますけれども。最初からそういうふうに説明すべきだったんじゃないですか。どうですか。

黒田参考人 もちろん、賃金の上昇は、先ほど来申し上げているとおり、経済のいわゆるGDPギャップが、足下はまだマイナスが残っていますけれども、これがプラスに転化して労働市場が更に引き締まっていくということがあると賃金が上昇しやすくなるということはそのとおりなんですが、他方でまた、労働生産性の上昇率などにも賃金の上昇率は影響されますので、一概に言うというのはなかなか難しいわけですが、労働生産性の上昇率が大体一%程度あるということを前提にしますと、確かに、二%の物価安定目標を安定的に持続するためには、三%程度の賃上げが続かないとそういった状況にならないということは言えると思います。

 ただ、これはさっきから申し上げているとおり、労働市場の引き締まり度合いとか労働生産性の動向とか、いろいろな状況によって変わりますので、一概には申し上げられませんが、確かに、御指摘のように、物価が二%の上昇を安定的、持続的に継続するためにはそれ以上に賃金が上がらないといけないということはそのとおりであります。

藤岡委員 それを最初から説明をしておくべきだったのではないでしょうか。いかがですか。

黒田参考人 もちろん、いろいろな形でそういうことは申し上げておりますけれども、確かに、共同声明とか、それから、日本銀行が二%の物価安定目標を二〇一三年の一月に決定したわけですけれども、その際に、賃金について具体的なことは申し上げておりません。その意味では、もう少し賃金のことをはっきり言うべきではなかったかというのはそのとおりだと思います。

藤岡委員 本当に、最初からやはりその点を御説明をしていただきたかったというふうに思うんです。

 そこで、今、労働生産性の話がございました。いわゆる長期化する金融緩和には、まさに総裁も、先日、財政金融委員会で二つの点で答弁されておりますが、当然副作用も膨らんでくるということだと思います。

 総裁はこのときに、副作用として、金融機関の収益を圧迫し、金融仲介機能の話、それから国債市場の機能度の低下ということをおっしゃいましたが、生産性という観点からしますと、長期化する金融緩和によってかえって成長度を阻害する、こういう要因もございますよね。あえて申し上げますけれども、これは私、別に、断定的に言うことは控えますけれども、いわゆるぬるま湯的な環境がどうなんだということを指摘される方もおります。こういうふうな、長期化する金融緩和における副作用というのがやはり出てきているということもあるかもしれません。

 こういうところについて、この副作用のところですね、どういう御見解ですか。

黒田参考人 長期にわたる金融緩和の副作用については、主なものとしては、金融機関収益を圧迫して金融仲介機能に悪影響を与える可能性、あるいは国債市場の機能度の低下の二つが挙げられております。

 この点、現在、我が国では、金融機関は充実した資本基盤を備えておりまして、金融仲介機能は円滑に発揮されているというふうに判断しております。また、国債市場の機能度に配慮する観点から、国債補完供給の要件緩和など、様々な手段も講じております。

 いずれにいたしましても、政策運営に当たっては、常に効果と副作用を比較考量しながら、最も適切と考えられる政策を実施しているわけであります。

 御指摘の議論は、時折、いわゆるゾンビ企業が残るんじゃないかとか、そういう議論がありますけれども、私どもはそういうふうには考えておりません。むしろ、企業を存続させることは経済にとってプラスですし、金融緩和が続いたために労働生産性が低下したという証拠はありません。むしろ、労働生産性は二〇一三年以来の金融緩和の中で若干上昇して、成長率も上昇しているわけです。

藤岡委員 本当にもっと上昇しているのであれば、きちっと実質賃金が、今日お配りしておりますけれども、上がっているはずなんです。したがって、十分効果が上がっていないんですよ、だから、金融緩和の効果が。それはやはり、物価安定目標二%、十年たっても達成できていないというところも含めまして、やはりここは、私、別に、最初の短期の、二、三年の、最初のうちの金融緩和については私は全く否定しませんし、その効果というのも当然否定しません。ただ、長期化することについて、やはりもう少し真摯な検証というのが私は必要なのではないかなというふうに思います。

 その中で、消費者物価の見通しについてお伺いしたいと思います。

 予算委員会において、階先輩議員との質疑に関して、総理の答弁と黒田総裁の考え方はちょっとずれていたと思います。政府は価格転嫁を進めていく、物価の見方に関連して。黒田総裁の答弁も受けまして、そこで、岸田総理はそのときに、今、日銀総裁の方からは価格転嫁は難しいという判断があったと聞いておりましたというふうな御答弁がありました。

 この消費者物価の見通しにつきまして、お配りしておりますが、企業物価指数と消費者物価指数の差も随分、大分まだ、大きく乖離もしております。もちろん、これがイコールになるとかというふうなものでもないということも承知の上で、非常に大きな乖離があります。

 さらには、仕入価格判断DIと価格判断DIの間もまだ非常に大きな開きもございます。展望レポートでは販売価格判断のところだけを取り上げておりますが、仕入価格のところも非常に上がっているわけでございますよね。そういう中において、価格転嫁のところがこの消費者物価の見通しに十分反映されているんでしょうか。

 実際、今日も三・七%。また展望レポートの見通しを外されるということにもつながりかねませんから、これは価格転嫁、十分反映されているんでしょうか。

黒田参考人 繰り返しになりますけれども、来年度以降、消費者物価の上昇率が二%を下回る水準まで低下するというのは、価格転嫁の前提となるコストプッシュ圧力がこれまでと比べれば緩和されていく、減衰するというふうに予想されるからでありまして、価格転嫁につきましては、企業へのヒアリングなどでは、従来に比べて価格転嫁の動きに広がりが見られるということも聞いております。もっとも、中小企業を中心にコスト高を十分には価格転嫁できないという指摘も聞かれております。

 そうした意味で、政府におかれては、こうした状況を踏まえて、適切な価格転嫁策の推進を図られているものというふうに承知をいたしております。

藤岡委員 コストプッシュ要因のというところもおっしゃいました。

 しかし、一方で、高止まりをするかもしれない円安がどこまで高止まりをするか。また、いろんな影響もあるわけでございます。

 何とも言い切れないところだと思いますが、その見通しの判断の根拠をお示しをできればいただけないでしょうか。いわゆる展望レポートで各委員の方がプロットされておりますが、そのプロットの判断根拠となるペーパーなりを日本銀行に多分提出されていると思うんですけれども、客観的なデータに基づいて私たちも是非議論をさせていただきたいと思うんですね。

 したがって、この物価見通しの判断の根拠となる、各政策委員の皆さんも含めた、その判断の根拠、それをこの財務金融委員会に提出をお願いしたいと思うんですけれども、黒田総裁、いかがでしょうか。

黒田参考人 展望レポートの作成に当たりましては、九人の政策委員が実質GDP及び消費者物価の前年比の見通しを提出しております。その上で、見通しの背後にある考え方については、展望レポートでかなり詳しく説明をいたしております。

 展望レポートにおいて、九名の政策委員それぞれのGDP及び消費者物価の見通しを開示するとともに、その見通しの背後にある考え方についても詳しく説明をいたしております。

 何度も申し上げますが、それぞれの委員の方が、様々な情報、データを踏まえて御判断になり、見通しとそれから上下のリスクをお示しになっているということを御理解いただきたいと思います。

藤岡委員 私も、これは大変、本当に僭越なことだと思っています。

 しかしながら、お配りしておりますが、財務金融委員会の委員の先生方はもう十分承知だと思いますが、展望レポートの物価見通しというのは、長い間、コロナのとき以外はほとんど全て外されているんです。もちろん、見通しが全て当たるということは言い切れない部分もありますが、しかし、ほとんど全て外されているんです。だからこそ、これを検証するのは当然のことだと思います。

 今日のまさに報告に関して、日銀法に基づいて、日本銀行は説明をしなければいけないという努力義務がございます。その法律に基づいて、これをきちっと開示をしていただきたいと思います。

 最後、黒田総裁、もう一度お願いします。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、九人の政策委員それぞれのGDP及び消費者物価の見通しを開示するとともに、その見通しの背後にある考え方についても詳しく御説明をいたしております。それで経済、物価見通しに係る情報発信は十分に行っておるというふうに考えております。これは、諸外国の中央銀行と比べても、我が国の方がはるかにたくさんの情報を発信しているわけでございます。

藤岡委員 これで最後にさせていただきますが、いわゆる根拠が、価格転嫁がどれぐらい反映されているか、数字も含めてお示しいただきたいと思いますので、委員長、これを財務金融委員会に提出を、各委員の、別にお名前は黒塗りでも結構です、いずれにしても、最大限開示していただきたいと思いますが、是非この開示をお願いをしたいと思います。

塚田委員長 ただいまの資料要求につきましては、理事会で協議いたします。

藤岡委員 ありがとうございます。

 では、質疑を終わります。ありがとうございました。

塚田委員長 次に、近藤和也君。

近藤(和)委員 石川県能登半島の近藤和也でございます。よろしくお願いいたします。

 黒田総裁の答弁を聞いていますと、やはりちょっと、皮膚感覚というか、生活者の感覚といいますか、現場感覚といいますか、もう少し、数字は数字で大変大事なんですけれども、人の呼吸をちゃんと感じていただきたいなというふうに思います。

 私たち政治家は、今日も、野田元総理も恐らく街頭に立たれてきたと思いますけれども、気温の十度でも、春の十度は暖かいですし、これからよくなっていくなと思いますし、今の気温十度はどんどん寒くなってきついなと、同じ気温十度でも違うんですよ。こういったことをやはりしっかりと受け止めていただきたいと思います。

 そして、今日の答弁の中でも、上昇率ですね、今、物価上昇率、消費者物価、想定以上の上げ方をしていますけれども、来年になってくれば去年上がった分が剥落していくから落ち着くんだという言い方をしていますけれども、値段が上がったものはそのままなんですよ。

 例えば、うまい棒、一本十円が十二円になりましたよね。十円が十二円となったら何となく分かりづらいですけれども、コンビニに行ったら三十本売っています。三百円が三百六十円なんですよ、六百円が七百二十円なんですよ。物すごく値上がりしています。

 これは、小さなお子さんまでもが今物価上昇大変だねというふうな思いもありますし、来年になったら落ち着きますよということよりも、今が苦しいんですよ、今。今が大変だということをしっかり受け止めていただきたいと思います。

 その上で、ちょっと順番が前後しますけれども、資料をお配りさせていただきました。二ページ目、こちらは日銀さんの方で取られているアンケートです。これは生活者の声ですよね。恐らく何度も見られていると思いますけれども。

 一年前と比べてゆとりがなくなってきたと感じている方が半分。そして、なぜゆとりがなくなってきたというところでいけば、物価が上がったからが八四%です。そして、収入が減ったからという方が四七%近くもいらっしゃるということですよね。賃上げ賃上げと言っていますけれども、収入が減ってきているということです。

 そして、世帯の収入としては、変わらない、減ったという方が、四八%、四割いらっしゃって、そして、支出がどう変わったかというのは、収入が変わっていない若しくは減っているのに、支出が増えているんですよね。本当につらいと思います。そして、その最大の理由としては物価が上がったからということなんですけれども、やはり更につらいのは、支出が減った方の理由が収入が減ったからというので、悪い人はどんどんどんどん追い込まれていっているんですよ。

 こういうことを私はちゃんと感じていただきたいと思います。

 そして、次のページです。

 次のページは、帝国データバンクからいただいたデータですけれども、これは、コストが上がってきた中で、企業物価が上がってきている中で、企業がどれだけ苦しいかということ。ちなみに、存続は可能だとか余裕があるという大きな数字はあるにしても、既に限界だというところが六・五%、もう企業の存続危機だというところは二・五%。この企業の考え方、数の数え方もありますけれども、例えば二百万社と考えれば、五万社がもう危ないと言っているわけです。そこでどれだけの方が働いていらっしゃるのか。しかも、その大半が小規模企業でございます。元々体力のないところであります。

 こういう苦しい状況を踏まえて、来年は落ち着くからとか、そういうことは私は大変残念な答弁だと思いますが、この点についていかがでしょうか。

黒田参考人 何度も申し上げますけれども、今必要なことは、やはり経済の回復をしっかりと支えて、賃金引上げが可能になるような経済状況をつくっていくということが最も重要であるというふうに考えております。

 従来から申し上げているように、最近見られたような急速かつ一方的な円安の進行というものは、企業の事業計画策定を困難にするなど、先行きの不確実性を高めて、我が国経済にとって全体としてマイナスで、望ましくないというふうにも申し上げておりますし、また、円安が進行したことは、既往の資源高と相まって輸入物価の上昇をもたらして、その価格転嫁を通じて物価の押し上げ要因になっているわけで、その中でも、中小企業を中心に仕入価格上昇を十分価格転嫁できていないという声があることもよく承知しております。

 物価上昇が、マインドの悪化、あるいは実質所得の下押し、御承知のとおり、賃金の上昇率は足下で一・一%強というところでありますので、三%物価が上がれば実質所得は下落しているということはそのとおりでありまして、マインドの悪化、あるいは実質所得の下押しを通じて家計に影響を及ぼしているということも十分認識しておりまして、そういった意味で、為替動向その他経済、物価情勢を、特に企業や家計に及ぼす影響について丹念に点検してまいりたいというふうに思っております。

 ただ、何度も申し上げますけれども、今、金融を引き締めて、金利を引き上げて、経済の回復を遅らせて賃金を引き上げる余地を減らすということは好ましくないというふうに考えております。

近藤(和)委員 何度もですとか従来からというのは、私、まだ黒田総裁になってから二回の質問ですから、それは余計な言葉だと思います。

 開き直らないでいただきたいんです。本当に多くの方々が苦しんでいらっしゃいます。

 現在、私も、階さん、立憲民主党のネクスト財務金融担当大臣の下で、新しい金融政策ワーキングチームの座長をさせていただいています。新しいといいますのは、やはり新しくしていかないと生きていけないからです。

 私、営業マンをしていましたので、お客様に例えば損失を与えてしまうとか、そういう場合にでも、例えば転勤などがあるわけですよ。それはお客様にとっていいか悪いかですけれども、ある意味、リセットすることができるんです。そして、お客様も会社ももう一度やり直していこうかということができることはできるんですけれども、日銀の政策、お客様は国民ですよね、最終的な。リセットできないんですよ。だから大変なんです。

 今、例えばアベノミクスの負の遺産については、例えば日本銀行の過剰になり過ぎたバランスシートの問題がありますよね。国債も買い過ぎて、新発国債以上に国債を買ってしまっているという大変おかしな状況になっていますし、ETFについても、含み益が幾らあろうが、株式市場をゆがめてしまっていることは間違いありません。そして、今、為替市場ともけんかをしてしまっているという状況になってきていますけれども、私たちはこの負の遺産をどうにかしていかなければいけない。

 ただ、これはもう爆弾です、日本経済にとってみれば。この爆弾を解体しようとすれば、下手な解体をしようとすれば、誤爆、誘爆を招きます。先ほど、金利上昇、金利を上げることはできないという言い方をしましたけれども、そもそも金利を上げられる状況にしなかったのは誰の責任なんですかということなんですよ。そこを、私は開き直らないでいただきたい。

 そして、今、出口戦略という議論もずっとありましたけれども、出口をどうしていくのか、私たちも真剣ですが、黒田総裁は、もう出口、決まっていますよね、来年の四月ですよね。もう次、続投されるつもりはないと言われましたけれども、国民が求めているのは今の苦しさの出口を求めているということでございますので、何とか協力していただきたいと思っています。これからも国民は生きていくわけですし、日本銀行も続いていかなきゃいけない、当然ですけれども。私たちは前向きな議論をしたいと思いますので、何とか開き直らないでいただきたいと思います。

 その上で、私たちとすれば、新しい金融政策ワーキングチームを立ち上げたわけですけれども、今、岸田総理が新しい資本主義ということを掲げられました。正直、よく分からない、何度も議論されてきていますが。

 日本銀行として何が新しいと捉えているのか、そして、自分たちとして、新しいものに対して姿勢を変えるべきところがあるのかどうか、このことについて伺います。

黒田参考人 その前に一言だけ。

 何か、日本銀行は金利が上げられなくなっているというようなことは全くありません。あくまでも、現在の経済、物価情勢に照らして金利を上げるのが適切かどうかという観点から、それは適切でない、今の金融緩和を続けることが適切だというふうに考えているということは御理解いただきたいというふうに思います。

 政府の経済政策あるいはその考え方について私が具体的に評価することは差し控えたいと思いますけれども、その上で申し上げますと、日本経済にとって、人への投資などによって成長力が高まるとともに、その成果が賃上げ等の形で幅広く行き渡るということは大変重要であります。

 日本銀行も、先ほど来申し上げているような形で、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に達成することを目指しておりますので、この点では政府と日本銀行の目指している方向性は一致しているというふうに思います。

 ただ、具体的に、新しい資本主義というものをどのように評価しているか、全体としてどう評価しているかということについては、ちょっと意見を差し控えさせていただきたいと思います。

近藤(和)委員 なぜこれを、黒田総裁に聞いてもなかなか答えにくいということは私も分かっていましたけれども、今、例えば、農林水産の分野におきまして農業基本法というものを変えるんですね、二十数年ぶりに。そこにいきなり新しい資本主義というものが、一番、お題目として来ているわけですよ。不安定なものに基本法が変えられるというのは大変私たちも怖いです、不安定です。

 この新しい資本主義そのものが、岸田政権が何年続くか分かりませんが、どこかでまたがらっと変えられたときに、じゃ、金融政策、変えるんですか、変えないんですかといったところにも私はつながってくると思います。私は、このことについての見解を言わないというのは不誠実じゃないのかなと。変わるのか、変わらないのか、このことについて、変わる、変わらないでちょっと伺います。

黒田参考人 何度も申し上げますけれども、日本銀行の金融政策、二〇一三年の一月に二%の物価安定目標を決定し、政府と日本銀行の共同声明でそれを明らかにし、現在に至っているわけですけれども、新しい資本主義というものが、先ほど申し上げたように、人への投資などを通じて実質賃金を押し上げる要因になるということであれば大変望ましいことであるというふうには考えておりますけれども、何度も申し上げますが、新しい資本主義というもの、そういうものを提示することが直ちに何か日本銀行の金融政策に影響を与えるということは考えておりません。あくまでも、それが実質賃金の押し上げを通じて安定的な物価目標の達成を近づけるということであれば、それに応じた金融政策が取られるということは当然だと思うんですけれども、新しい資本主義というものを提示したこと、即、何か日本銀行の金融政策に影響があるということではないと思っております。

近藤(和)委員 それでは、岸田総理の思いは黒田総裁には届いていないのかなと。そういう認識でしょうかね。このことについてはあえて問いません。

 実質賃金が上がっていないじゃないですか、結果的に。

 そして、例えば私の地元でも、働く場所は少ないです。会社もどんどんなくなっていっています。仕事を追われる方もいらっしゃるんですが、やはり生きていくためには仕事を探すんですよ。場合によっては、違うところ、よそに行ってしまいますよ。それでどんどんどんどん人口減少が進んでいってしまっていますけれども、生き残るためにはやはり変わっていかなきゃいけない。何がよかったか、悪かったか。

 先ほど、アベノミクスについての評価、金融政策についての評価がありましたけれども、私は、悪かった部分についても謙虚に反省しなきゃいけない、実質賃金は上がらなかったということについても謙虚に反省しなきゃいけないと思います。

 日本銀行の政策として、本当にこれからも変わるつもりはないんでしょうか。

黒田参考人 先ほど来申し上げたとおり、日本銀行の大規模な金融緩和政策が日本経済をデフレでない状況にし、実質成長率も回復し、ベアも回復し、そういった面で、そうでない場合と比べて、計量分析でもプラスの効果があったということは明らかにされているわけであります。

 ただ、そういった意味でも、常にその時々の経済、物価情勢を踏まえて最適な金融政策を行っていく必要があるということは、日本銀行が一貫して申し上げているところであります。

近藤(和)委員 私たちの方といたしましても、政府、日銀の共同声明に対して、新しく書き換えていかなくてはいけないのではないか。先ほどから何度も何度も、賃金が上がっていかなければいけないということも言われていました。本当にそのとおりだと思うんですね、できていなかったから。ですから、階さんの下で、私たちとしても、物価上昇を伴いながらの実質賃金の上昇ということを共同声明の方で新しく書き換えるべきだということを提案をしています。

 私たちは新しいワーキングチームをつくりましたし、総理でさえも、新しい資本主義じゃなきゃいけないんだという、新しく変えなきゃいけないということを言っているわけですが、この共同声明も新しく書き換えた方がいいのではないでしょうか。

黒田参考人 共同声明では、政府、日本銀行のそれぞれの役割について、現時点で今見直す必要があるとは考えておりませんが、日本銀行としては、物価の安定という使命の実現に向けて、自らの役割をしっかりと果たしてまいりたいというふうに思っております。

 先ほど来申し上げているとおり、名目賃金が上昇しなければ物価の安定的な上昇ということもないわけですので、名目賃金の上昇は非常に重要であるということはそのとおりであり、名目賃金の上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金の上昇率が、長期的に見ると、労働生産性の伸びによって決まるというふうに考えられますので、そういった意味で、労働生産性の引上げは非常に重要な課題であり、実質賃金の伸びが重要な課題であることは事実なんですけれども、物価の目標の関係では、やはり名目賃金がしっかりと上がってくれないと、物価は安定的に二%の目標を達成するというのが困難であると思っておりまして、そういう意味では、賃金の上昇というものを、それに基づいて……

塚田委員長 答弁は簡潔にお願いします。

黒田参考人 物価が二%上がるということが望ましいし、それを目指しているということは従来から申し上げていますけれども、今後ともしっかりとコミュニケートしていきたいというふうに思っております。

近藤(和)委員 私たちは助け船を出しているわけですよ。黒田日銀総裁の任期はあと数か月ですけれども、この共同声明そのものは白川さんのときですよね。ですから、私は、よい意味での総裁の出口戦略といいますか、置き土産といいますか、アベノミクスの清算ということも含めて、私はしていかれた方がいいんじゃないかなと思っています。

 その上で、今日は、財務副大臣には、この共同声明の中で、政府の役割として、「財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。」という文言がありますが、これがしっかりできてきているとお思いでしょうか。

井上副大臣 御質問ありがとうございます。

 まず、二〇一三年から二〇一九年までの時期、それから、二〇二〇年から二年間、このコロナ禍の時期、そして、今のウクライナ侵攻からの物価高騰、それからエネルギーもそうですし、食料も高騰しているこの時期と、三つに分けたいというふうに思います。

 政権が交代いたしまして、政府と日銀が連携を取ることによってデフレではない状況をつくり上げるということが第一義の目標でありました。それは、ある意味では、この共同声明によって、方向性として間違っていなかったというふうに思っております。

 そして、コロナ禍のときの共同声明もそうですけれども、日銀との共同声明で、政府系金融機関のみならず、民間の金融機関も、中小企業、小規模事業者に対して無担保、無保証、無金利でお金が貸せる環境もつくり、四百三十万社の中小企業を何とか守って雇用を守っていこうということをやらせていただいた時期もございました。それは日銀と政府の連携が取れていたからできたことであって、我々政府だけではできなかったことでもあるというふうに思っています。

 ですから、そういう面では……

塚田委員長 持ち時間が経過しておりますので、簡潔に答弁をお願いいたします。

井上副大臣 はい。

 今お話がありました、今の経済をしっかりと下支えをした上で賃金を上げていかなければいけないということというのは野党の方々と全く同じ気持ちでありまして、今までの政策としては、同じ方向を向いてやれたことがある程度の成果を上げられたものだというふうに感じております。

近藤(和)委員 全く答えてくれていないということは、できていないという裏返しなんでしょうか。本当に残念です。

 もう時間が参りましたので、最後、チャートを後ろに二枚つけました。

 いろいろなせい、コロナのせいであったり、ウクライナへの侵略のせいであったり、ただ、金融政策というのは不確定の中でやるものが当然ですから、ネガティブな状況が出てきたからといってそれを理由にするというのは私はおかしいと思っています。

 そして、円安のことについても、ドルの独歩高ということを盛んに黒田総裁は言われていますけれども、確かにドルは独歩高です。この資料四で見れば、この一年、二年はドルが上がっていますけれども、逆に、これは日本円も独歩安、ほとんどの通貨に対して負けているんですよね。最後のページ、これは逆数でしていますけれども。

 このことを考えてみても、やはり何かのせいにするというのはおかしいと思いますし、我々の提言も謙虚に受け止めていただくことをお願いをいたしまして、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

塚田委員長 次に、岬麻紀君。

岬委員 日本維新の会、岬麻紀でございます。

 本日も質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 本日は、通貨及び金融の調節に関する報告書に対する質疑ということで、日本銀行の黒田総裁に質問をさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 それでは、まず最初に、財政の持続可能性に対する評価についてお聞きしてまいります。

 二〇一三年四月の量的・質的金融緩和の導入以降、時期によっての濃淡はありますが、日銀は市場から長期国債を大量に購入し続けています。今では、発行済国債のほぼ半分を日銀が保有するという状況でございます。今や日銀は、金融機関等の機関投資家をはるかにしのぐ大口の国債の買手となっているわけです。仮に、何らかの理由で国債の価格が下落をし、国債金利が急騰したとき、最も大きな損失を被るのは日銀であるということです。

 その意味で、国債に係る債務の履行がきちんとなされているかどうかは日銀にとって大きな関心事だと認識をします。そして、それは日本政府の財政の持続可能性に裏づけられているものだと考えられます。

 財政の持続可能性については、黒田総裁の就任の直前の二〇一三年一月二十二日に政府と日銀が公表したアコードにも明記をされ、「政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。」とされています。

 そこで、質問です。

 大規模な金融緩和の原点と言えるアコードを踏まえまして、黒田総裁は現在の政府の財政規律の状況についてどのように評価をされているのでしょうか。また、アコードに盛り込まれました持続可能な財政構造を確立するための取組というものは、政府においてしっかりと推進されているとお考えでしょうか。お聞かせください。

黒田参考人 財政運営に関しましては、政府、国会の判断と責任において行われるものというふうに認識しておりまして、具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますが、その上で、中長期的な財政の健全化について市場の信認を確保することは極めて重要であるというふうに思っております。この点、御指摘のとおり、二〇一三年に政府、日本銀行が公表した共同声明においても、政府は持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進するというふうにしておられまして、これはしっかり今後とも堅持していただきたいというふうに思っております。

岬委員 ありがとうございます。

 それでは、続きまして、日銀のバランスシートにおける債務超過についても見ていきたいと思います。

 日銀の会計は、国債の時価評価を行ってはいません。したがって、国債価格の下落をもって日銀のバランスシートが毀損するということはありません。それは、国債を売らずに満期保有することが前提となっております。

 日銀は長期国債を大量に買い入れてきましたが、それに伴って国債の償還年限も長くなります。このことが意味するのは、国債価格の下落によってバランスシートの毀損を避けようとする、国債は売れないので、仮にその期間の物価の上昇局面になったとしても緩和状態を続けなければならない、つまり、手足を縛られてしまった、身動きのできない状況に陥るということです。

 そこで、日銀は、長期国債を売らずに、日銀当座預金に金利をつけることにより市場からマネーを回収して金融の引締めを図ることが考えられます。日銀は、この状況をあらかじめ想定して、引当金や準備金十兆円程度を確保していらっしゃいます。

 素朴な疑問ですが、仮に日銀のバランスシートが毀損して債務超過状態になったら、一体どうなるんだろうと思うわけです。よく、金融のオペレーション上では問題はないというお話を耳にします。これは、金融市場が混乱しないことが前提であると思われます。

 十一月十六日の毎日新聞において、日本総合研究所理事長の翁百合氏が、政策変更において金利のある世界に戻ったとしたら、利払い負担が増える、日銀自身も赤字やまた債務超過に転落するおそれもあると懸念を示しています。債務超過でも中央銀行業務はもちろん継続は可能であります、海外の投資家や市場がそれをどのように評価をするかという視点が必要となるという見解を示しています。

 また、十一月十一日の日経新聞によりますと、国際通貨基金、IMFにより、日本の一般政府債務残高のGDP比は二〇二一年に二六二・五%に達しております。また、これは、アメリカ一二八・一%、ドイツ六九・六%、イギリスの九五・三%、日本は主要七か国の中でも突出していることが分かります。計画どおりに発行すれば、年度末、普通国債の残高は一千四十二・四兆円に上るという見通しも立っています。

 ここで、質問です。

 このような巨額の政府債務残高を抱えながら、異次元の金融緩和を続けてきた結果として、債務超過の場合であっても、市場は日本円を信認し続けてくれるでしょうか。

 おととい要望を受けました全国法人会総連合の令和五年度税制改正に関する提言においても、国債の信認が揺らいだ場合、長期金利の急上昇など金融資本市場に多大な影響を与える、成長を阻害することも考えられると指摘がございました。

 この点、黒田総裁、どのような御見解でしょうか。お聞かせください。

黒田参考人 管理通貨制度の下では、通貨の信認は、適切な金融政策運営により物価の安定を図ることを通じて確保されるものであります。

 また、中央銀行には継続的に通貨発行益が発生するため、やや長い目で見れば、収益が確保できる仕組みとなっております。

 加えて、中央銀行は、自身で支払い決済手段を提供できるため、収益が振れても債務不履行に陥ることはなく、金融政策や金融システム安定のための政策遂行力には影響はございません。

 国債につきましては、先ほど来申し上げているとおり、政府におかれて持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進するということが、やはり国債の信認を引き続き確保する上で非常に重要であるというふうに思っております。

 なお、国債の評価について、時価評価をしていないというのは、日本だけではなく、FRBもECBもそうでございます。

 ただ、オーストラリアの中央銀行は、保有する国債について時価評価をしていまして、現在の足下では、オーストラリア中央銀行は債務超過に陥っています。ただ、それが、金融政策に影響を与えたり、あるいはオーストラリアの通貨の状況に影響を与えたりはしておりません。

岬委員 懸念はほかにもございまして、財政出動、金融緩和への依存に対する懸念がございます。

 私ども日本維新の会の政策提言である維新八策二〇二二において、「将来世代の負担と過度なインフレを招かない範囲で積極的な財政出動・金融緩和を行います。」とし、また、「必要かつ十分な金融緩和を継続します。」としております。これは、新型コロナなどから脱し切れていない現在の日本経済の状況などを踏まえたものでもございます。その一方で、金融緩和と財政出動に過度に依存しない体制づくりを進める、このようなことが必要であるとも明記をしております。

 黒田総裁のいわゆる異次元緩和、これを始めて約十年となります。日銀は金融緩和を続けてきていますが、その結果、極めて低い水準の金利が長期にわたって継続しており、企業も家計も、この歴史的な低金利、当然のもの、いつまでも続くものというように受け止めているようにすら思えます。慣れてしまっているというような感じです。識者の中にも、金融緩和の副作用は、金融緩和が悪化した結果、市場金利リスクへの感覚が麻痺した等との指摘がございます。

 先ほどもそのような質問も出ておりましたが、この金利感覚が麻痺したこと、金融緩和が長く続いた弊害とも取れるわけですが、財政についても、公債依存度三〇%を超える状況も長く続いております。とりわけ、コロナ対策を実施した令和二年度、公債依存度七三・五%にまで跳ね上がりました。本来、例外的なものであるはずの補正予算、毎年、恒例行事のように行われるようになっております。

 このような金融、財政の状況を見るにつけまして、日本経済の、金融緩和と財政出動の依存の体質になっているのではないかと懸念を抱いておりますが、この辺りはどのように黒田総裁はお考えでしょうか。

黒田参考人 まず、財政運営につきましては、政府、国会の判断と責任において行われるものでありますので、私から具体的にコメントをすることは差し控えたいと思います。

 金融政策につきましては、日本銀行は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを使命としておりまして、自らの責務である物価安定の目標を持続的、安定的に実現するために、今、金融緩和を推進しております。

 その上で、財政出動あるいは金融政策といったことだけでなく、経済の体質を改善する構造改革などを推進して経済の競争力あるいは成長力を強化するということは非常に有意義であり、重要であり、それが潜在成長率や自然利子率を引き上げることを通じて、実は金融政策の効果を一層高めて物価安定の目標の実現を後押しすることにもつながると考えられますので、それ自体として、もちろん、成長力を強化する、競争力を強化するということは国民経済にとって非常に重要ですけれども、それを超えて、金融政策にとっても大きなプラスとなり得るということですので、いわゆるフィスカルポリシーとしての、需要をつけるという意味での財政出動あるいは金融政策といったものだけでなく、成長力を強化する構造政策というものも政府において実行していただくということが経済全体にとってもプラスですし、実は物価安定目標を達成する上でもプラスになろうというふうに考えております。

岬委員 とはいっても、令和四年度末の普通国債の残高、先ほども述べましたように、一千四十二・四兆円に上ると見込まれているわけです。この歴史的な低金利の恩恵を受けまして、利払い費は八兆円程度で今のところは抑えられている、収まっているということですが、金利上昇に対して脆弱な財政状況にあることは間違いないのではないかと考えます。

 財務省が毎年度公表しております後年度影響試算において、二%の金利上昇が生じた場合、ベースとなる試算から、令和七年度には利払い費を含む国債費が七・五兆円増えるという試算がございます。金利が高い状況が続けば、償還期限が来た金利の低い国債から借換えが進むことで、利払い費はじわじわと増加が避けられません。利払い費の増加、ただでさえ苦しい財政を更に苦しくしていくと思われます。

 そこで伺いたいのは、金融政策の運営に当たって、日銀が、このような利払い費増加による財政への影響を意識して、例えば、物価上昇の局面に直面しているとしても、金融政策を引き締めるという判断をちゅうちょしたりですとか、引締めを遅らせるといったことは本当にあり得ないのでしょうか。大変懸念があります。もし仮に財政の影響を配慮して金融政策が行われるとすれば、それは財政従属と言われる、独立した中央銀行にあるまじき状況であると考えますが、この辺りは、黒田総裁、どのようにお考えでしょう。

黒田参考人 現在の金融緩和は、あくまでも物価の安定を実現するという金融政策上の目的のために行っているわけでして、政府による財政資金の調達を支援することを目的としているわけではありません。

 現在の経済、物価情勢を踏まえると、金融緩和を継続することで我が国経済をしっかりと支えていくことが適当であるというふうに考えておりますが、二%の物価安定目標が安定的、持続的に達成されるということになれば、出口、当然、現在の大幅な金融緩和というのは正常化に向かっていくということになります。そうしたことが国債の利払い費を増やすということはあると思いますが、そういったことの配慮から必要な政策の遂行が妨げられるということは決してございません。

岬委員 もちろんそのようにしかお答えもできないかとは思いますけれども、今もおっしゃっていただきましたように、黒田総裁は、二%の物価の安定を目標に、持続的に実現するためにも賃金の上昇は欠かせないという御認識、度々表明をされていらっしゃいます。賃金上昇が日本経済再生の鍵であるという認識、私どもも共有をしております。そのような問題意識の下、私も、十一月二日、当委員会におきまして、一般質疑においても賃上げ促進税制の効果などについて財務大臣にも質問をしたところでございます。

 黒田総裁は、大規模な金融緩和により、物価が持続的に下落するという意味でデフレではなくなっていると述べられていますが、企業の業績、よくなっても、実際のところ、賃金の上昇という好循環はいまだに実現されていないと私は認識しております。

 黒田総裁は、十一月十四日、私の地元でもある名古屋市での記者会見において、賃金の上昇を伴う形で物価が上昇するという、安定的、持続的な物価の上昇を目指すと述べていらっしゃいます。また、先週の十一月十日、参議院財務金融委員会においては、日本銀行は金融緩和を継続することによって経済活動をしっかりと支えている、これによって企業が賃上げできる環境を整えると答弁がございました。

 これまでの約十年間、金融緩和を継続してまいりましたが、効果として、企業が賃上げできる環境は整えられなかったのでしょうか。それとも、環境は整ったが賃上げには結びつかなかったということなんでしょうか。そもそも、金融政策がどれだけ持続的な賃上げを促すことができるのだろうか。これらの点、黒田総裁はどのように御見解ありますでしょうか。

黒田参考人 足下、賃金は経済活動全体の持ち直しを反映して緩やかに上昇しておりますけれども、最近の物価上昇率に比べると、伸び率は小幅にとどまっております。

 その背景としては、我が国がコロナ禍からの回復途上にある、まだGDPギャップが残っているということなどに加えて、より根本的には、やはり、長きにわたるデフレの経験から、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行が根強く残っているということも影響していると思っております。

 もっとも、先行き、経済活動や労働需給が改善していく下で、労使間の賃金交渉において物価上昇率の高まりも勘案されることを映じて賃上げ率も高まっていくというふうに予想しております。

 以前申し上げたこともあると思いますが、いわゆるアベノミクスという期間におきましては、デフレでない経済状況になり、成長も回復し、企業収益は大幅に増加したわけですが、賃金、物価が一%以下の上昇にとどまっていたということの一つの背景に、やはり、こういった賃金、物価が上がらないことを前提とした考え方や慣行が残っていたということもあり、もう一つは、この間に、四百万とも五百万とも言われる雇用が拡大したわけですね。人口が減っている、生産年齢人口が減っている中で四百万も五百万も拡大したというのは、やはり女性の労働参加が広がったということと、高齢者の労働参加が広がったということもあったと思うんですが、足下、女性の就業率は実はもうアメリカを超えている。それから、ベビーブーマーも後期高齢者に入っていくということですので、アベノミクスのときのように四百万も五百万も新たな労働力が出てくる可能性はもうないわけですね。

 ですから、GDPギャップがプラスに転化し、労働市場がタイトになっていく中で、極めて労働市場がタイトになり、賃金が、賃上げ率が高まっていくという環境は整いつつあると思います。

 ただ、やはり企業が賃上げができる環境を整えるということも重要ですので、金融緩和を継続して、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に達成するということは可能であるし、それを何としても実現する必要があるというふうに考えております。

岬委員 いずれにしても、実現に向けてお取組をお願いしたいわけですが、時間も迫ってまいりましたので、これが最後の質問になるかと思います。

 それでは、非正規労働者、中小企業賃上げ、これに絞ってお聞きをしていきたいと思います。

 十一月十日の参議院財務金融委員会で、次のような御答弁がございました。我が国の経済が回復していく中で、労働需給は更に引き締まることが予想されまして、サービス業に多い非正規労働者の賃金の上昇が既に見込まれておりますほか、その影響が中小企業などの正規労働者の賃金にも徐々に波及していくことが予想されると黒田総裁はおっしゃいました。

 本当に、非正規労働者や中小企業の労働者の賃金、徐々に上がっていくのでしょうか。本日も、速報によりまして、十月の消費者物価、三・六%の上昇、四十年ぶりの歴史的な上昇というようなことが取り上げられております。特に中小企業は、原材料のコスト増、これを取引価格に反映しにくくなっています。そうすることですと、人件費を上げていくという余力はないのではないでしょうか。

 東京商工会議所の九月に公表された調査でも、原油、原材料の価格の高騰や円安の進行等に伴うコストの増加について、全く転嫁できていないと答えたのが約二三%に達したという調査もございます。

 そこで、最後の質問です。

 日本社会全体として賃金の上昇を実感するには、労働者の約七割を占めるという中小企業の賃上げが実現なくして実現できません。その賃金の、物価、安定的に上昇していく好循環、これを生み出すことは大変難しいと私は考えますが、黒田総裁、どのようにそれを実現されていくのでしょうか。

黒田参考人 この先、我が国経済が回復していく中で労働需給が引き締まるということが予想されておりまして、サービス業に多い非正規労働者の賃金の上昇が見込まれるというか、もう既に足下は上がってきております。その影響が中小企業などの正規労働者の賃金にも徐々に波及していくのではないかというふうに予想しているわけですが。

 日本銀行としては、金融緩和を継続して、中小企業を含めて経済をしっかりと支えることで、賃金上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に実現することを目指していく考えでありまして、この点、特にこの賃上げ、賃金上昇、御指摘のとおり、就業者の大半が働いている中小企業における、非正規労働者の賃金はもうサービス業などで上がってきていますけれども、やはり正規労働者の賃金にもしっかりと波及していくということを見極めたいというふうに思っております。

岬委員 ありがとうございました。

 見極めるですとか徐々にという、期待を込めてというふうにも取れますけれども、実際に実現されないことには、国民の生活、賃金が上がったなと、好循環の実感はできませんので、是非ともよろしくお願いしたいと思います。

 時間となりましたので、以上で質問を終了いたします。ありがとうございました。

塚田委員長 次に、前原誠司君。

前原委員 国民民主党の前原でございます。

 皆様方に資料をお配りをしておりますので、それを御覧いただきながら質問をさせていただき、また、黒田総裁には御答弁をいただきたいと思います。

 まず一枚目、財政法第五条ということでありまして、日銀の国債引受禁止ということで、財政法第五条というのは、日本銀行の国債引受けは禁止されている、原則禁止されている、こういうことであります。過去の答弁では、直接引き受けていない、市中から引き受けているからいいんだ、こういうお話をされましたけれども、この一枚目のは日銀のホームページから引っ張り出してきたものでございます。なぜこの財政法五条が大事なのかということが書かれているわけでありますけれども、読ませていただきます。

 「これは、中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからです。そうなると、その国の通貨や経済運営そのものに対する国内外からの信頼も失われてしまいます。これは長い歴史から得られた貴重な経験であり、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けが制度的に禁止されている」ものなのです。

 過去の様々な国の経験からしてこれは駄目だということが書いてあるわけでありますが、じゃ、二枚目を御覧ください。

 上はこの黒田総裁の十年間で一体どれぐらい借金が増えたのかといったことが書かれているわけでありますが、この十年間で二百兆円以上も国債が増えているということでありますし、下を見ていただくと、始めた頃はまさに九十三兆円だったものが今は五百三十二兆円、五〇%を超えている、こういう状況になるわけであります。つまりは、先ほどの「教えて!にちぎん」に書かれていた、この国の政府の財政節度を失わせるということは状況的に生まれてきてしまっているということをまず指摘をしたいと思います。

 三枚目を御覧ください。

 左側は、マネーサプライM3の推移。マネーサプライM3というのは、現金通貨、預金通貨、プラス定期性預金と譲渡性預金、これを足したものでありますけれども、この「教えて!にちぎん」に書かれておりますけれども、「ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、」ということで、この十年間で四百兆円以上もM3が増えてしまっているということはこれまた事実であります。

 そして同時に、右側の実質実効為替レートを御覧いただきたいわけでありますけれども、五十年来の円安水準ということで、通貨の言ってみれば価値が下がっているということがこの今までお示しをしたものでお分かりをいただけると思いますけれども。

 日銀の今までの答弁は結構です、時間がありませんので。直接引き受けていないということの答弁は結構でありますけれども、財政法第五条が禁止をしている、日銀がまさにホームページで説明をしている状況が結果として生まれているということはお認めになりますか。

黒田参考人 確かに、日本銀行の保有する国債残高が大幅に増加し、また、マネーサプライも増加しているということも事実であります。ただ、これは、金融政策の一環として、市場から日本銀行の発意で買い入れているものであります。そういった意味で、この増加自身は日本銀行の金融政策の一環として行っているということであります。

 ただ、それが財政のディシプリンというか、そういうものに影響しているかどうかということはまた別次元の話だと思いますが、これについては私の方から何か申し上げるのは僭越でして、これは、財政政策というのはあくまでも政府、国会がお決めになる権限と責任を持っておられることですので、それについて申し上げることはありませんが、あくまでもこれは金融政策として行っていることで、財政ファイナンスとして行っているわけではないということはお断りしておきたいと思います。

前原委員 それはもう何十回も何百回も答弁されていることなので分かっているんですよ。結果として今おっしゃったディシプリンというものを失わせることになっている。今度出される補正予算でも、二十九兆円のうち二十二兆円は赤字国債ですよ。こういうことを簡単にし、それでも金利が低く抑えられているというのは、日銀が半分以上も引き受けているからではありませんか。

 そして、先ほどの質疑、何人かからありましたけれども、これだけ国債を発行すれば金利上昇リスクというのはすごい大きなものがありますよ。こういうことも含めて、財政は別だ、自分たちは金融政策だと言いながら、そういった環境をつくり、将来の金利上昇リスクというものをつくってきたのは日銀そのものだということは認識はありますか。

黒田参考人 何度も申し上げますけれども、財政政策は政府と国会がお決めになる権限と責任のあるところですので、その行為に対して中央銀行からとやかく申し上げるつもりは全くありません。

 ただ、共同声明にもうたわれていますとおり、やはり財政の持続可能性というものをしっかり高めていかないと財政に対する信認が失われるおそれがあるということで、そこはしっかり政府、国会においてやっていただくことが実は長期的に見て経済にとっても重要ですし、実は、国債に対する信認が失われてしまいますと、現在行っているような金融緩和の政策というものも効果が失われてしまうということになり得ますので、ここはしっかりと、財政規律というものは、長期的な持続可能性というものをしっかりと強化していく必要があるということは申し上げられると思います。

前原委員 これも何度も何度も同じことをおっしゃっているわけですけれども、黒田総裁が一番長く総裁として一緒にやられてきた安倍元総理は、日銀は政府の子会社だということを言い放っていたわけじゃありませんか。幾らアコードを決めたって、政府自身がそんな認識では、日銀が期待したって、結局、その財政ファイナンスのサポートをしているのみということになってしまっているということは、これは結果として事実じゃないですか。そのことは指摘をしておきたいと思います。

 四枚目を御覧ください。

 統計というのは、それは雇用は増えたと言われますけれども、これは安倍さんと何度も予算委員会で議論したときに安倍さんがおっしゃっていたのは、実質賃金が下がるということについて、いや、総雇用者所得は増えたんだということをいつもおっしゃった。そこしか逆に言うと言いようがなかったんですね。

 アベノミクスで、利益は十年間で、黒田総裁のこの十年間で八三%増えた。しかし、人件費は一〇二ですよ。いかに四百万人増えたと言われても、人件費はほぼ横ばい。そして、物価上昇分を引いた実質賃金はむしろ下がっているんですよ。そして、どこに行っているのかというと、内部留保と配当なんです、株式還元です。

 そして、下を見ていただくと、結局、安倍政権のこの十年間で、OECD、経済協力開発機構のこの三十八か国の中で、どれだけ名目成長率、実質成長率が上がったのかといえば、日本は、三十八か国の中で名目は三十七位、実質は三十六位なんです。

 やはり、結果が全てだと私は思うんですね。そういう意味においては、いい環境をつくってきたということを言いながら、私は、実際問題、日本の国際競争力は落ちてきているというのが現実ですよね。

 そこで質問を、もう短い質問時間ですので幾つか質問をさせていただきますけれども、まず一つは、やはりこのゼロ金利をずっと続ける。本当にひどいときには金融政策で刺激をし財政出動をするということは、これは私も何も否定をしません。ずっと十年間続けることによって、この環境で、ぬるま湯で、結局、ゼロ金利近傍で存続する企業が生まれて、そして潜在成長率は低くなり、そしてゾンビ企業化し、給与も上げない。先ほど見たとおりです、給与を上げないという状況が生まれてきている。これはまさに、めり張りのついた金融政策をせずにずっと続けてきた弊害が、まさにこの十年間の賃金が上がらなかった、実質賃金が下がってきたということに表れると思いますが、それはどうかということが一つ。

 二つ目。賃金賃金ということをおっしゃっておりますけれども、一つは、ETF。これは今、五十一兆円余りの簿価、含み益を持っておられるんですね。大株主ですよ、日銀は。なぜ株主としての権利を行使しないんですか、賃金を上げろと。そういったことをしっかりと言うことによって、日銀も賃金を上げる状況をつくれるんですよ。それをなぜわざわざ、株は買いますけれども、発言はしません、株主としての行使はしません。あべこべの政策をやっているのではないでしょうか。

 それから、最後。この配当金や内部留保を賃金に回すべきだ、それが本当の意味での新しい資本主義のあるべき姿だと思われませんか。

 この三つについて御回答いただきたいと思います。

塚田委員長 黒田日本銀行総裁、持ち時間が経過しておりますので、答弁は簡潔にお願いします。

黒田参考人 長期に低金利が続いた場合の副作用につきましては、従来から申し上げているとおり、金融仲介機能への影響、それから債券市場の機能度への影響ということを申し上げてきました。

 御指摘の、いわゆるゾンビ企業が生き残って全体として成長率が低下するのではないかという議論は、実際、国際的にもそういう議論が時折ありますけれども、この十年ほどは、欧米も全て量的緩和、金利が非常に低い、欧州の場合は大幅なマイナス金利ということをやったわけですけれども、その下で何かそのゾンビ企業が物すごく増えてまずいという議論はかつてほど行われておりませんし、我が国についても、労働生産性が上がってきたということは事実ですので、そういった懸念があるということはよく分かるんですけれども、そういったことが我が国あるいは欧米に実際に起こって大きな障害になっているというふうには考えておりません。

 ETFにつきましては、あくまでも、株主ではありますけれども、通常の株主権は信託会社が行使するというのが、日銀が保有するものだけでなくて、一般の投資家が保有するものについても同様でありますので、それを超えて何か、特定の企業の政策に日本銀行が何か関与する、影響を及ぼすということは差し控えてきているわけでございます。

 それから、賃金につきましては、何回も申し上げますが、まさに賃金が上がっていく中で物価の二%の安定的、持続的な上昇というのも可能になりますので、あくまでも賃金の上昇というものに十分注意し、注目し、点検してまいる所存であります。

前原委員 もう終わりますけれども、壮大な実験でしたね、この十年間は。この壮大な実験は、うまくいっていなかったことの方が多かった、そして日本の成長率を下げてしまった、そしてリスクを高めてしまっているということをしっかりと認識をされた上で総括をされないと、日本銀行がこの国を滅ぼしたということを言われかねないこの十年間だったと私は思います。

 そのことを指摘して、質問を終わります。

塚田委員長 次に、田村貴昭君。

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。

 最初に、金融緩和とコモディティー価格について質問します。

 ロシアによるウクライナ侵略後、際限のない緩和マネーの一部が穀物など食料価格を高騰させました。今年三月、G7臨時農業大臣会合の共同声明では、食料価格の人為的な価格高騰を許さず、いかなる投機的行為にも立ち向かうと強調しました。また、先月、UNCTAD、国連貿易開発会議は、コロナ後の金融緩和について、量的金融緩和が、暗号資産から原油、食料、鉱物資源まで、資産市場における投機と物価高騰を一層拡大したと述べています。

 緩和マネーの中心になるのは、これはヨーロッパ、アメリカ、中央銀行であり、日本においては日本銀行です。コモディティー価格の上昇をもたらしたという認識を日本銀行はお持ちになっていますか。

内田参考人 お答え申し上げます。

 最近のコモディティー価格の動向を見ますと、二〇二〇年、御指摘のとおり、感染症が流行した直後に大きく下落した後、大きく上昇したということでございます。

 その変動要因を厳密に分解するということはこれは難しいわけですが、基本的には、世界経済が持ち直しに転じ、コモディティーへの需要が回復したことが価格上昇の背景にあるというふうに考えられます。

 また、この需要増大の背景には、コロナ禍以降の経済の落ち込みに対応するために各国が行いました大規模な財政、それから金融政策を講じた、これが寄与しているということかと思います。

 加えまして、当然ですが、ウクライナ情勢を背景に供給懸念が高まっているということですので、この供給面の要因も上昇に寄与しております。

 そういう意味で、需給双方の要因が影響しておりまして、そのうち、需要を押し上げるという点につきましては、世界全体のマクロ政策が寄与しているということかと思います。

田村(貴)委員 コモディティー価格と金融緩和政策については、興味深い資料が公開されました。日銀の金融政策決定会合の二〇一一年一月二十四日、二十五日の議事録であります。これは十年たって公開されました、先日。

 二〇一一年当時は、二〇〇八年の金融危機の頃をピークとするコモディティー価格の上昇、高止まりがまだ続いていました。

 私、ここで注目したのは、金融緩和政策のコモディティーへの影響について、時間を割いて、相当突っ込んだ議論が行われていたということであります。例えば、価格高騰の原因が需要の高まりなのか、緩和の影響なのか、原油や穀物の金融商品への組入れ、つまりコモディティーの金融商品化がどのぐらい進んでいたのかなどなどが議論されていました。

 黒田総裁に伺いたいと思います。

 当時の白川総裁は、まとめの発言の中で、コモディティー価格の上昇について日本の緩和政策も決して無縁ではないと述べています。これは重要だと思います。

 世界のコモディティー価格の上昇に対する日本の異次元の金融緩和の関与について、金融政策決定会合で、この機会にしっかりと議論し、分析する、その内容を国民に対して、国会に対して公表すべきだと考えますが、いかがですか。

黒田参考人 コモディティー価格のここ数年の大きな価格変動につきましては、先ほど内田理事から申し上げたとおり、需要面、供給面の双方で様々な要素が影響しているということは言えると思います。

 そうした下で、現在の資源、穀物価格の動向といったものは、我が国の経済、物価の見通しや、これをめぐるリスクを考える上で重要な要因の一つになっているということはそのとおりでありまして、そのため、金融政策決定会合においても議論を行っておりますし、その結果は展望レポートなどでも公表しているところでございます。

田村(貴)委員 しっかり分析、議論を尽くしていただきたいし、その内容については、議事要旨が議事録として十年後に公開されるということはなくして、広く、やはり、議論の中身が国民やそして私たちに知られるようにしていただきたいと強く要望しておきたいと思います。

 続いて、賃上げについて伺います。

 日銀も政府も賃上げの重要性を強調しています。

 岸田総理は、今年七月の経団連のセミナーで、経済界に対して、今後の春闘での三%の賃上げを求めました。これでは不十分です。

 なぜ不十分かといいますと、この間の経験です。二〇一〇年から二〇二二年まで、毎月勤労統計で平均〇・二%に対して、春闘では二%でありました。遡ると、一九八五年から九二年で見ますと、毎勤統計では平均三・二%に対して、春闘での賃上げは平均四・九%。その差は大体二%あるわけです。春闘での賃上げが、これは大企業が中心としていくというところにもあるんですけれども、三%ということになったら、毎勤統計では一%程度になるということになります。

 日銀の来年度、来年の消費者物価の見通しは一・六%でありますから、これは実質でマイナスになってしまいます。物価高騰に賃金がいつまでたっても追いついていけません。これでは到底日本経済の立て直しは不可能となってまいります。

 日本銀行として、政府に対して高い賃上げ目標を掲げるように提言すべきだと考えますが、総裁、いかがでしょうか。

黒田参考人 日本銀行といたしましては、金融緩和を継続することによって経済活動をしっかりと支えて、企業が賃上げをできる環境を整えて、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を持続的、安定的に達成することを目指しております。

 その上で、政府がいろいろ取っておられる政策について個別に申し上げることはちょっと差し控えたいと思いますが、賃上げ税制の拡充であるとか、その他様々な施行をされておられまして、そういったことが全体としての賃金を三%引き上げるかどうかということは、十分注目していきたいと思います。

 御指摘のとおり、大企業が、仮に、現在連合が主張しておられるように、五%の賃金上昇、うち二%が定期昇給、したがってベアが三%というものを主張しておられますが、それが実現されれば非常に大きな貢献になると思いますが、これはあくまでも大企業が中心ですので、まさに中小企業そして非正規、そういう方の賃金が同様に、あるいはそれ以上に上がっていかないと、全体として三%の賃金上昇というのもなかなか実現は難しいと思いますので。

 その下で、サービス業を中心とした非正規の人の賃金は、実は大企業や中小企業の正規の人よりも上昇率が高いんですけれども、レベルが低いですから。こういう高い上昇率を続けるとともに、やはり中小企業の正規の方の賃金上昇まで波及していくかどうかということを十分注視してまいりたいと思います。

田村(貴)委員 今の総裁が述べられた部分も含めて、必要な提言を政府に対しては行っていただきたいと思います。

 最後になりますけれども、異次元の金融緩和によるインフレが日本経済と国民生活に大打撃を与えています。

 先般の、せんだっての参議院予算委員会で黒田総裁は、「マクロ経済モデル等に基づいて、安定的な円安方向の動きであれば我が国経済全体としてプラスに作用すると申し上げてきたことは事実」と答弁されました。マクロ経済モデルでプラスというのはどういうことなんでしょうか。この機会に説明をしてください。

黒田参考人 何度も申し上げているとおり、為替相場につきましては、経済、金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが極めて重要であります。

 その上で、マクロ経済モデルを用いて円安の我が国経済への影響を分析いたしますと、純輸出を中心に実質GDPを押し上げるという結果が得られております。同様の結果は、日本銀行のモデルだけでなくて、内閣府のモデルでも得られております。

 ただ、同時に、その影響は業種や企業規模、経済主体によっても不均一でありまして、実際、日本銀行のマクロ経済モデルでは、円安が進むと家計の実質所得を押し下げて個人消費を押し下げる結果となっております。さらに、最近見られたような円安の急速かつ一方的な進行というのは全く望ましくないというふうに考えております。

田村(貴)委員 時間が来ました。

 以上で質問を終わります。

塚田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時十七分散会


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