第13号 令和7年5月9日(金曜日)
令和七年五月九日(金曜日)午前九時一分開議
出席委員
委員長 井上 貴博君
理事 勝俣 孝明君 理事 加藤 鮎子君
理事 中谷 真一君 理事 城井 崇君
理事 神津たけし君 理事 森山 浩行君
理事 奥下 剛光君 理事 西岡 秀子君
五十嵐 清君 石橋林太郎君
大西 洋平君 梶山 弘志君
加藤 竜祥君 金子 恭之君
工藤 彰三君 国定 勇人君
小寺 裕雄君 小森 卓郎君
高木 啓君 高見 康裕君
田所 嘉徳君 谷 公一君
土屋 品子君 三反園 訓君
阿久津幸彦君 尾辻かな子君
小宮山泰子君 篠田奈保子君
下条 みつ君 白石 洋一君
津村 啓介君 長友よしひろ君
伴野 豊君 松田 功君
馬淵 澄夫君 谷田川 元君
阿部 弘樹君 井上 英孝君
徳安 淳子君 鳩山紀一郎君
古川 元久君 赤羽 一嘉君
中川 康洋君 たがや 亮君
堀川あきこ君 福島 伸享君
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国土交通大臣政務官 高見 康裕君
国土交通大臣政務官 国定 勇人君
参考人
(横浜市立大学国際教養学部教授) 齊藤 広子君
参考人
(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 沖野 眞已君
参考人
(丸の内総合法律事務所弁護士) 中野 明安君
参考人
(欠陥住宅被害全国連絡協議会幹事長) 神崎 哲君
国土交通委員会専門員 國廣 勇人君
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委員の異動
五月九日
辞任 補欠選任
西田 昭二君 五十嵐 清君
谷田川 元君 篠田奈保子君
同日
辞任 補欠選任
五十嵐 清君 高木 啓君
篠田奈保子君 谷田川 元君
同日
辞任 補欠選任
高木 啓君 西田 昭二君
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本日の会議に付した案件
老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出第三四号)
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○井上委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、横浜市立大学国際教養学部教授齊藤広子君、東京大学大学院法学政治学研究科教授沖野眞已君、丸の内総合法律事務所弁護士中野明安君及び欠陥住宅被害全国連絡協議会幹事長神崎哲君、以上四名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人の方々に一言御挨拶を申し上げます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、齊藤参考人、沖野参考人、中野参考人、神崎参考人の順で、それぞれ十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。
なお、念のため参考人の方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対し質疑をすることができないこととなっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
それでは、まず齊藤参考人、お願いいたします。
○齊藤参考人 横浜市立大学の齊藤広子でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、法務省法制審議会区分所有法制部会の委員として、また、国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会マンション政策小委員会の委員長として、制度の見直しの検討に参加させていただきました。今回の改正法案は、そこで丁寧に議論をし、取りまとめた内容を反映した、充実したものになっていると考えています。
今抱えているマンションの管理、再生の問題に対応した法改正案となっていることから、マンションの区分所有者、管理組合、そして関係者の皆様として管理組合を支えている専門家や自治体の方々、事業者からも成立を心待ちにしているという声を聞いているところでございます。
本日は、改正法案の内容も踏まえ、多様なマンションがある中で、これからマンションで安心、安全に暮らし、資産価値の維持向上だけではなく、地域の資産としてマンションを適正に維持管理していくために何が必要か、私の意見を申し上げます。
現在、マンションストックは約七百万戸。二十三年前の区分所有法の改正のときと何が大きく変わっているでしょうか。一つには、築年数のたったマンションの増加、建物の老いです。二つ目には、建物の多様化があります。三つ目には、区分所有者の高齢化、人の老いです。四つ目には、所有者の不在化、所有者不明、そしてグローバル化などがあります。
こうした状況の中で、総会で物事が決まらない、管理組合の役員のなり手がない、だから第三者を管理者にしましょう、第三者管理者方式ですね、や、大規模修繕ができない、建物が時代に合っていない、専有部分の修繕も一緒にしたいのになかなかできない、こうして、いわゆる管理不全マンションが登場してまいりました。さらに、再生が円滑にいかない、災害時にはいろいろな体制に不備がありました。
こうした問題のそもそもの原因を明らかにし、そこから根本的に改善していく必要があります。改正案では、原因にどのように対応しているのでしょうか。
原因の一つ目に、区分所有者の関心が低いということがありますので、まずは区分所有者の責務が位置づけられております。原因の二つ目には、建物や人の状態の変化に対応した新たな管理体制がないということです。
そこで、新たな管理体制の構築として、所在等不明の所有者を裁判所が認めた場合に集会決議から除外する仕組み、出席者多数で決議をする仕組み、こうして総会での決議をしやすく、さらに、国外での区分所有者には国内管理人を選んでくださいねという制度も用意されることになります。所有権のグローバル化は確実に進み、運営上の課題が多くありましたが、国内管理人により、総会の委任状の回収などがしやすくなります。これにより、総会の決議が、よりスムーズになるということになっていきます。また、建物の性能向上という決議も行いやすくなることになります。
さらに、築年数のたったマンションでは、共用部分だけではなく、専有部分の給排水管の取替えも管理組合が一緒にやってほしいという区分所有者の需要が高まっており、その点については、規約で明記すれば専有部分の給排水管などの取替えを管理組合が行うことが可能になります。マンション全体を合理的に、効率的に、総合的に管理できる体制ができます。
そして、役員のなり手不足から、第三者を管理者にお願いすること、管理業者にお願いすることが増えてきています。管理者は、そのマンションの管理の最高責任者にもなりますし、実質的には多くの権限を持っています。そこで、区分所有者の中から管理者を選ぶわけではないので、区分所有者から見れば、私たちの意見がちゃんと反映できるんだろうか、大規模修繕を勝手に発注しないだろうか、特に管理業者の関係の会社などにという不安や懸念が出てまいります。
私も、第三者管理方式を実施している幾つかのマンションでお話をお伺いいたしましたが、大事なことは区分所有者自身で判断できる体制をしっかりとつくることが基本というふうに考えております。
そこで、管理業者管理者方式を導入する際には、既に作成されているガイドラインなどを参考にし、管理業者の説明を聞き、区分所有者自身が判断できる説明会の開催を、大事な工事も、管理業者やその関係者が関与する場合には、説明会の開催を行うことが法律で規定されています。
また、管理組合が、管理費を滞納している住戸で、新しく買ってくれる買主がなかなか決まらない場合に、管理組合で買い取りたいという需要が高まってきています。管理組合がそんなことできるのかというのが不明確でしたが、管理組合法人が、区分所有権、土地を取得することが、法案で明確になっております。
次の原因として、供給当初から適正な管理体制がないということがあります。実は、管理不全マンションの調査をこの数年、幾つかの都市で実施してまいりましたが、今、深刻な状態になっている管理不全マンションに共通していることは、新築時から管理組合が機能していない、規約がない、総会、理事会がない、長期修繕計画がない、それに基づいた修繕積立金がない、だから大規模修繕もしていないということです。
そこで、今回の改正案では、新築時から、管理組合が総会を開く体制を持ち、適正な規約、長期修繕計画、それに見合った修繕積立金の体制を整えてスタートできるように、管理計画認定制度を新築時から利用できるようにしています。管理計画認定制度を受けたマンションでは、住民が管理を誇りに思い、管理への関心が高まるなどの効果も見られています。
そして、あなたのマンションは管理計画認定を受けていますよ、分かりやすく言いますと、行政がこのマンションはちゃんと管理する体制がありますよと認定していますということですので、これを見える化する表示制度もつくることになっています。これにより、新築時から管理適正化が期待でき、かつ、国民の皆さんにとって、マンションを買うなら管理を買えとよく言われますが、何を買えばいいのか、分かりやすくなります。マンションの管理が市場で評価されやすくなっています。
次に、再生について見てまいります。
実は、今まで日本の国では、マンションが古くなりました、では再生しましょうとなっても、多数決で決議できるのは、基本、建て替えだけでした。ところが、東日本大震災から流れが大きく変わってきました。大きな被害を受けたマンションでは、建て替えを選ぶのではなく、多数決により、建物を取り壊し、敷地を売って、管理組合を解散しようという方法を選択するケースも増えてきています。まさに、人口、世帯減少時代の先取りではないでしょうか。
一方で、老朽化マンションを調べてみますと、多々課題がございました。まずは、こうした敷地売却が多数決でできるように、さらには、一棟リノベーションという形で、建物を取り壊さずに、大きな壁や柱を残し、中を大規模なリノベーションするような再生手法も、今まで想定していなかったので全員合意が必要でしたが、今回の改正法案では、これを多数決でできるようになっています。
こうして再生のメニューを用意し、かつ、再生の要求が高い、耐震性の低いマンションなどは四分の三以上の賛成で再生が可能になっていること、今まで課題となっていた、借家で住んでいる方の補償金を払っての退去、隣の敷地を取り込んでの再生などができるようになっています。
さらに、災害時の再生の課題に対しても、速やかで、かつ合理的な対応が可能となる仕組みが創設されています。課題としてあった事業法の整備、共に、融資面での支援も強化されることになります。
誰もが安心してマンションに住み続けられ、かつ円滑な再生の実行には、再生時の居住支援が、より重要になってきます。居住政策だけではなく、福祉政策、そして金融政策との強い連携が必要になってくるということです。
最後の原因として、私有財であるマンションに行政が関与しにくいという点については、管理不全マンションの予防、解消のための行政の権限強化がされています。修繕等の勧告制度、建て替え等の勧告制度と、専門家派遣制度の体制ができます。この行政を支援していく地域のサポート体制として、マンション管理適正化支援法人の登録ができるようになります。管理組合が主体的に管理を進めるためには、行政や専門家など、地域全体での支援体制を強化することが必要です。
マンション管理適正化法ができて二十五年。適正化法は、頑張る管理組合を応援するサポート体制を整備した法律とも言えますが、人の老い、建物の老いが、地域の新たな支援体制を求めています。それに応じるのが支援法人になります。
地域で、行政だけではなく、共に学び合う管理組合の連合会、協議会のメンバー、専門家として管理組合を支えるマンションの管理士、建築士、弁護士など、様々な専門家のネットワークとサポート実践体制がますます重要になると考えています。そこでは、知識や技術の共有だけではなく、アクティブに動くチームとして、問題、課題を対処する実践体制を構築すべきであると考え、私が所属する横浜のマンションみらいネットワークでも、こうした取組を始めているところでございます。
最後に、今回の改正法案は、マンションの管理、再生を円滑に進めるための様々な措置が講じられています。国民の皆様が、誰もが安心して暮らせるように、マンションというもののすばらしさをもっと引き出し、安心、安全な居住の場にするために今必要なことは何か、今後どのように取り組んでいけばよいか、御検討いただければと思います。
以上です。(拍手)
○井上委員長 ありがとうございました。
次に、沖野参考人、お願いいたします。
○沖野参考人 ありがとうございます。沖野でございます。どうかよろしくお願いいたします。
私も齊藤委員と同様に、法制審議会区分所有法制部会の委員を務めておりました。
同部会は、諮問百二十四号によりまして、区分所有建物の管理の円滑化、建て替えの実施等の区分所有建物の再生の円滑化、また、大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化の観点からの、区分所有法制の見直しが要請されたものでございます。令和四年十月より、約一年三か月ですが、合計十七回にわたる審議を経て要綱案が策定されまして、改正法案の、これらに関連する法律の部分については、この要綱案を踏まえたものというふうに承知をしております。
そこで、本日は、このような経験を踏まえまして、本法律案の五つの法律の改正のうち、専ら区分所有法及び被災区分所有法の改正についてお話をさせていただきます。
以下では、多数の項目がございますことから、四つの項目に絞ってお話をさせていただきます。
第一は、集会決議の要件、第二は、所有者不明や管理不全への対応、第三は、建て替えの円滑化のための措置、第四は、区分所有権の譲渡の場合の共用部分についての損害賠償債権等の行使の円滑化でございます。
早速、第一でございますけれども、第一は、集会決議の要件の合理化であります。
区分所有建物の管理、再生の円滑化を図るために、区分所有者による団体的な意思決定の仕組みである集会の決議につきまして、建て替え決議を含む全ての決議を対象として、裁判所の関与の下、所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外する仕組みが創設されております。
また、区分所有権の処分を伴う決議以外の決議を対象といたしまして、出席者の多数決による決議を可能とする仕組みが創設されております。
これらは、現在、様々な問題がある中で、所在等が不明である区分所有者や関心のない区分所有者の存在を前にして、そのために、まさに望まれる決議ができないという状態に対応するものでございます。
このような問題というのは、実は、民法上の共有関係につきましても、いわゆる所有者不明土地問題の一環として問題がございました。これにつきましては、令和三年に民法の改正が先行してなされておりまして、民法上の共有関係につき、所在等不明共有者や賛否が不明の共有者を除外して共有物の管理などをすることができるという仕組みが導入をされております。区分所有法のこの改正というのは、この民法の改正を基礎としたものであります。
一方、除外されてしまう人への配慮ということでございますけれども、所在等不明の区分所有者の母数からの除外につきましては、裁判所の関与を必要とすることで、その利益への配慮を実現しています。
出席者多数決の仕組みにつきましては、対象となる決議を限定しているほか、その対象となる決議のうち、普通決議以外の決議につきましては、集会の定足数を設けております。これがないと、ごく少数の人の出席で、その多数決で可決ができることになってしまうということがあり、それが問題であるということから、このような定足数の規律を入れているということでございます。決議の正当性に配慮するものというふうに言えます。
第二は、所有者不明や管理不全への対応です。
改正法案では、所有者不明の専有部分、管理不全の専有部分や共用部分について、裁判所が選任した管理人にその管理を行わせる新たな財産管理制度を創設しています。この財産管理制度は、これもまた、令和三年の民法改正におきまして創設されました所有不明建物管理制度、管理不全建物管理制度に倣うものであります。所有者が不明であるとか管理不全である、そういう専有部分等の適切な管理に資する制度と考えられます。
第三が、建て替えの円滑化のための措置です。
齊藤委員からも御指摘あったところでございますけれども、まず、改正法案では、区分所有建物の建て替え決議につきまして、建て替え決議の多数決要件を、一定の客観的事由の存在を要件として、五分の四以上から四分の三以上に引き下げ、さらに、被災した建物については三分の二以上に引き下げることとしています。一定の客観的事由とは、具体的には、耐震性の不足、火災に対する安全性の不足、外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ、給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、バリアフリー基準への不適合のいずれかの事由でありまして、それが認められる場合に建て替え決議の多数決要件が引き下げられます。
建物が客観的に危険な状態にあるなど、建て替えを円滑に行う必要が高い場合に限って決議の要件を引き下げるもので、建て替えに反対する区分所有者の権利に配慮して、円滑、機動的な決議への要請との間で、調整を図る規律となっていると評価されます。
次に、改正法案では、建て替え決議後の建て替えの円滑化の観点から、賃貸借について、その終了請求の規律を設けています。
建て替え決議があった場合には、建て替えに反対するなどして建て替えに参加しない区分所有権者であっても、区分所有権を失うことになります。賃借権というのは、その区分所有権の上に乗っているというわけでございますけれども、そこで、それとの権衡を考慮して、賃借権について、一定の補償の下で終了させるとするものでございます。補償金の支払いによって、通常生ずる損失というのが補償されるということのほか、補償金の支払いと賃借人の明渡しとを同時履行、その提供があるまで明渡しというのが求められないという形になっておりますので、それによって補償金の確保に配慮し、賃借人の保護にも配慮した規律となっております。
次に、共用部分等に関する請求権の行使の円滑化についてお話ししたいと思います。
本改正案は、区分所有者等の有する共用部分等について生じた損害賠償金等の請求権の行使の円滑化を図るという観点から、管理者は、当該請求権を有する区分所有者又は旧区分所有者を代理し、訴訟追行をすることができるものといたしまして、区分所有権が譲渡された、損害賠償債権が行使されないままに譲渡されたという場合でも、当該請求権について、管理者による代理行使、さらには訴訟追行が可能であるということを明確にしています。
これは、現行法下におきまして、区分所有法の解釈として、区分所有権の譲渡があったとき、管理人は、譲渡をした旧区分所有者、区分所有権者を代理することはできず、かつ、全員を代理するのでなければ管理者による訴訟追行はできないとした東京地裁の判決があったために、これが制度趣旨を没却するとして問題点が指摘されていた、そういう状況に対応したものでございます。
この規律に関しましては、法制審議会区分所有法制部会におきましても様々な議論がなされ、かなりの時間等を議論に割いて、最終的にはこのような結論となったわけでございます。幾つか、その考え方について御紹介をさせていただきたいと思います。
まず、前提となる法律関係を確認いたしますと、例えば、分譲業者からマンションの一室を購入したところ、共用部分にいわゆる瑕疵があった、外壁のタイルが剥がれてくるとか、そういったことがあったという場合には、これは、元々の分譲業者と買主である区分所有権者との間の売買契約に基づいて、契約不適合による損害賠償債権が発生します。もちろん、民法上の規定の要件を満たすということが前提でありますけれども。これは元々の分譲のときの売買契約に基づくものですので、契約の当事者である最初の区分所有権者がそのような権利を持つ、損害賠償債権を持っているということでございます。
では、その区分所有権者が自分の専有部分というものを譲渡したらどうなるかということですが、専有部分に共用部分の持分もついていくわけですけれども、損害賠償債権が果たして同じように譲渡されていくのかというと、あくまで、その区分所有権の譲渡契約ですので、それとは異なる別の契約に基づく損害賠償債権がどうなるかというのは、結局、譲渡契約でどのような合意がされたかによって決まることになります。譲渡契約において債権も譲渡するというふうに当事者が合意して決めていれば、もちろんそれは譲渡されるわけであります。しかし、そうではない、当事者は譲渡しないと決めていれば、それは元の債権者が持ったままということになるわけであります。
したがいまして、特に譲渡契約において損害賠償債権が譲渡されていなかったとすれば、旧区分所有権者が損害賠償債権を持っているということになり、そして、元からいる区分所有権者も、そのような損害賠償権を、それぞれの契約に基づいて持っているということになるわけです。このような旧区分所有権者が持っている損害賠償債権も管理者が代理行使できるようにしよう、一元的な管理を実現しようというのが、今回の提案であります。
ただ、代理という制度は、本人が代理人をコントロールできるということによって、その適正化を図る仕組みです。現在の区分所有権者であれば、まさに区分所有法における団体的な規律によって管理者に対するコントロールを及ぼすことができるわけですけれども、もはや旧区分所有権者になっている者は、そのような制度を利用することができません。
適切な管理者に対するコントロールを及ぼすことができないにもかかわらず、この人に代理行使させなければいけないということになってしまいますので、その正当化をどう図れるのかという問題があり、その正当化を基礎づけるのが別段の意思表示であります。それは書面や電磁的記録などで明確にしてもらうという形になっておりまして、この別段の意思表示があることが、ここの正当化を支えるという考え方になっておるわけでございます。
多くの場合には、自分で行使するということも意味がない、例えば証明などもしていかなければいけないときに、まとめて行使してもらった方がいいということであれば、そのような意思表示はしないということが一般的でしょうし、あるいは、自分はもう関係から離脱するんだということであれば、そもそもの譲渡契約において債権も譲渡するということも考えられるわけであります。
今のような考え方に改正法案は立っているわけでございますけれども、部会におきましては様々な考え方が出されておりました。一つは、共用部分等に生じた損害賠償金の請求権については、区分所有権を譲渡したときには、当然に旧区分所有者から現区分所有者に承継がされるという規律を設けるべきではないかという御議論も非常に有力にあったところでございます。これは、かなり長い時間をかけて検討がされましたけれども、最終的には、部会としては採用しないということになりました。
なぜかということなんですが、一つは、先ほどは、誰に行使させるかということでさえも、それをコントロールできない人に強制していいのかという問題に対して、別段の意思表示が支えているわけですが、これは、債権の帰属自体も強制的に移してしまうということですので、一番意味があるのは、区分所有権の譲渡のときに、債権は譲渡しないと当事者が合意したとしても、それはもう強制してしまうというところにこそ一番のポイントがあるんですけれども、その正当化をいかに図れるのかという、いわば理屈の問題ということになります。
もう一つは、実質的に、実際上どうなのかということにつきまして、例えば、建築時や分譲契約時から瑕疵があって契約不適合を負っているというときに、そのまま知らずに譲渡をしたという場合には、あるいはうまく当てはまるのかもしれないんですが、そういう場合ばかりとは限りません。既に瑕疵が明らかになって、場合によっては、もう修補もしてしまおう、管理費を払って修理をしてしまおうという場合もあります。待っていればいいというのがあるかもしれませんが、転勤しなければいけないとか、売らなければいけないということがありますので、そういうときにでも強制的にこの債権を承継させるということが果たして適切なのかということであります。
それに対しまして、様々な場面があることを考えると、このような規律を設けるのは、実際も含めて適切ではなかろうと。では、どういうことで対応するのかというと、規約での定め、あるいは譲渡契約において一つのモデル契約を作るとか、そういうような形での対応ということが考えられるわけでございます。
このような形で法律の規定としているからには、一場面だけを対象にして考えることはできないというのが部会の考え方だということでございまして、本改正案の規律というのは、東京地裁の判断を克服して、管理者による一元的な行使を可能にして円滑を図るということで意義のあるものと考えております。
超過して申し訳ございませんでした。ありがとうございました。(拍手)
○井上委員長 ありがとうございました。
次に、中野参考人、お願いいたします。
○中野参考人 丸の内総合法律事務所の中野明安と申します。本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
私は、今先生方にも出ましたけれども、法制審議会区分所有法制部会、以下、部会と申し上げます、この部会に幹事として参加しておりました。ちなみに、幹事の立場ですが、幹事とは、発言はできるが決議には参加できないという立場でございました。その席で、私は、マンションの共用部分に係る修補に代わる損害賠償請求権は、区分所有権の売買等において元の所有権者から新しい所有権者に当然承継される、以後は当然承継案と申し上げます、このような形で改正することが実質的に妥当であり、それは実務的にも必要な改正であること、その改正は理論的にも耐え得るものだということを意見として述べました。
なお、私が述べた意見は、一弁護士としての個人的な意見ではございません。私の意見の大部分は、この問題に関する日弁連や多数の単位弁護士会の意見書に基づいたものです。この点は是非御承知おきいただきたいと思います。
今般、改正法案が当然承継案を含まない内容で部会から答申されております。なぜそのような法案が提出されたのか、その経緯を御説明させていただきます。
まず、部会では、共用部分の瑕疵、不具合等による損害賠償請求権は、区分所有者に分属するのか、性質上不可分なのか等が議論されました。分属とは、損害賠償請求権が個々の区分所有権者にそれぞれに帰属するという考え方であり、区分所有者が個々に行使できるという考え方となります。
この点については、私は、損害賠償請求権は性質上不可分であると考え、意見を述べました。このように考える根拠は、この損害賠償請求権は共用部分の瑕疵に対する瑕疵修補に代わるものであるから、瑕疵修補請求はマンション管理組合による総会決議によって一体となって請求するものです、その瑕疵修補請求に代わる損害賠償請求なので、性質上不可分だというふうに考えたものでございます。
次に、損害賠償請求権の行使は誰ができるのかということについて、事務局案では、損害賠償請求権は損害発生時の所有者に帰属するものだから、区分所有権、専有部分の譲渡により当然には移転しないという考え方が示されておりましたので、その点については、区分所有権の譲渡により損害賠償請求権も当然に移転するという当然承継案が合理的である、そのように立法することが必要であるという意見を述べました。
本日、資料として部会議事録を提出しております。部会でどのような議論がなされてきたかを示すものでございます。
まず、損害賠償請求権の帰属についてですが、金銭請求権については分属して帰属するという考えが示されておりましたので、私は、性質上不可分と考えるべきという意見を述べ、その性質上不可分と考えることについて、著名な民法学者の文献からも、そういうふうに考えても、それがかえって適切だというような意見を述べております。
これは議事録、お手元にございますその議事録のページ数でいいますと十四ページ以降のところなんですが、大要は次のように記載されています。
我妻栄先生ほかの先生方は、当然分割債権であるというような考え方は必ずしも正しくない。我妻栄先生は、分割債権であると考えることは、その長所も否定できないだろうが、その適用範囲に慎重な制限を加えないで漫然と多数当事者の債権関係の原則とすることは不都合な結果を生じることを免れない。星野英一先生も、個々の場合に応じ、できるだけ不可分債権等と解することが妥当であるという説が有力で、基本的にそれが妥当だと考える。さらに、潮見佳男先生は、可分か不可分かについては、どちらが原則ということではなくて、並列して、どちらがいいかフィフティー・フィフティーで考えて判断された方がよいというようなことを述べておられることを私は御説明をし、性質上不可分と考えることに理論的な問題はないという意見を述べました。
また、損害賠償請求権が新所有者に当然承継させることが立法上必要であるということについても、時間をかけ、意見を述べさせていただきました。そして、この意見については、法務省の御担当者から、そのように考えることが適切な場面があると認めていただきました。
これも、議事録十六ページ以降ですが、ちょっとそのまま述べますと、一つの場面とか、ある一事例を取り出したときには、このように共用部分等に係る請求権、これを専有部分の譲渡に伴って移転させると、こういう制度がうまくはまる場面もあるかもしれないというところは、場合によってはあり得るかもしれないですとされました。ただ、それを法律で決めてしまうという点については、そこは難しいのではないかとの意見が述べられたというふうに議事録になっております。
すなわち、当然承継案が具体的に妥当する場面があることをお認めいただきながら、一方で、具体的な例が示されることなく、単に難しいのではないかという抽象的な意見が表明され、事務局案が維持され、今回の改正案となったものです。
議論の最終局面、第十六回議事録にも記載されております。この点も、大要、以下のとおり、やり取りがなされた記録が残っています。これも、議事録でいいますと二十四ページ以降ですね、今日はお手元で一冊にまとめられていますが、通しページでいいますと九ページ、佐久間部会長の御発言です。
中野さんの意見はもう十分伺っておりますし、皆さんにも伝わっていることと存じます。少し飛ばします。中野さんが御意見をこれだけずっと披露されてきたわけですし、ペーパーも出ているわけですから、今後もこの議論があったという事実は消えないと思っております。立法に踏み切れるかというと、それは立法には踏み切れないというのが事務局案です。恐らく、ここで中野さんのおっしゃるとおりに立法すべきであるという具体的提案が出てこないということは、多くの方が、事務局案で積極的にいいとまではおっしゃらないかもしれませんが、やむを得ないのではないかという程度には思っておられるのではないかと存じます。こういうような言い回しで御説明をされておられます。
もう一つ言っていたのが、中野さんの意見は恐らくみんな理解はしていて、それには全面的には賛同できないということではないでしょうか、このような御発言もありました。私から疑問を呈しました。そうでしょうかというふうに申し上げたところ、まあ、僕がそうですとはちょっと言えませんけれども、大変拙い進行で申し訳ないですけれども、中野さんの意見に対する同調意見は、これまでも、今日に限らず、ずっと促し、求めてきたところ、当然承継かどうかという議論はもうこの辺りでと思っております、中野さんには不本意でいらっしゃると思いますけれども、よろしく云々、このような形で議論がなされたという点でございます。
部会でも、改正案だと修繕費用の不足を招くという実際上の不都合については、ある程度御理解は得られたものと思いますが、当然承継案が部会で否定された最大の理由は、損害賠償請求権は金銭債権だから旧区分所有者に分割して帰属するという民法理論にこだわったためであると考えます。
もう一点、申し上げます。
全会一致で当然承継説が否定されたなどとも言われているように聞き及びますが、先ほど申し上げましたとおり、私は、当然承継案を意見として維持しております。ただ、私は幹事であり、意見は述べられるが決議には参加できないという立場でありました。
さらに、実は、部会の休憩中に、ある熱心に議論に参加されている委員に御挨拶をしたところ、次のように言われました。中野さんの議論していることは正直私にはよく理解できていない、このように言われました。ここは個人的な見解ですが、部会の委員のうち、民法学者と弁護士以外は、民法理論に関する共有の議論は、もろもろの制約もあり、十分に御理解できなかったのではないかと心配しております。決して、部会で改正案の根拠とされた民法理論を理解して改正案に賛成したというわけではないと考えます。
今回、資料として、中間試案についてのパブリックコメントの取りまとめも提出いたしました。本件論点に関するコメントも多く記載されております。一つ御紹介すれば、全国マンション管理組合連合会からは、請求権が分属するとか、個々に処分が可能というような建前に拘泥するべきではない、共用部分等に係る請求権が団体に帰属するという理解を前提にした立法がされるべきというふうに、意見がパブコメに出ております。さらに、ここは非常に重要です。技術的な立法で管理者等の一元行使を認めたかのような体裁をつくり、運用した際には結局全額の行使ができないことになりかねない立法をするのであれば、そんな立法はしない方がよいとまで言われています。その他も真摯なコメントが多く寄せられています。
部会では、佐久間部会長を始め、委員、幹事の先生方及び事務局の皆様による真摯な、また熱心な議論がなされており、その御尽力には深く敬意を表するものですが、しかし、本件論点に関する限り、やや様相が異なっております。本件論点の議論の時間はございましたが、事務局案の修正がなされることはありませんでした。本件論点について、部会委員が内容をしっかり理解し、パブコメを読み込み、実質的な審議がなされなかったのではないかと思っております。
最後になります。
今回の改正は、民法の改正ではなく、特別法である区分所有法の改正である以上、民法理論にこだわって、修繕費用の不足という現実の問題を解消できない改正案を採用するべきではありません。日弁連の意見書には、改正案は民法理論に拘泥するものであって支持できない旨が明確に記載されています。これが私個人の意見ではなく、全国の弁護士の意見であることを国会議員の先生方には是非とも御理解していただきたいと思います。
国会においては、本件論点について再考いただくことを是非ともお願いしたいと申し述べ、私の意見陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
○井上委員長 ありがとうございました。
次に、神崎参考人、お願いいたします。
○神崎参考人 京都の弁護士の神崎哲と申します。
欠陥住宅被害全国連絡協議会の幹事長を務めております。本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
さて、私は、これまで三十年にわたり欠陥住宅問題に取り組み、住宅分野で約千件の相談を受け、三百件以上の事件を担当してまいりました。そうした経験から申し上げますと、今般の区分所有法二十六条の改正案の内容は明らかに改悪であると断言できます。
以下、その理由について御説明させていただきます。
私の意見の詳細は、私の配付資料、参考資料P一から六の六枚のポンチ絵に整理しておりますので、適宜御参照ください。
今般の区分所有法二十六条改正案は、東京地裁平成二十八年七月二十九日判決が示した不都合な法解釈を是正するための案です。この東京地裁判決は、第一に、区分所有権が転売された後も旧区分所有者は損害賠償請求権を持ち続けるといった誤った前提に立ち、第二に、旧区分所有者全員から債権譲渡を受け、現区分所有者の全員が請求権を持っている場合でなければ管理者は原告になれないという極めて不当な法解釈をして、原告の訴えを却下しました。
このような不都合な結論を法改正で是正するため、今般の二十六条改正案では、管理者が旧区分所有者も代理できると修正しようとしています。あわせて、改正法案は、旧区分所有者が自ら請求するんだと別段の意思表示をした場合には管理者による代理ができないこと、また、管理者が旧区分所有者を代理するときは旧区分所有者に通知することも定めようとしています。
しかし、この改正法案は、東京地裁判決と同様に、考え方が誤っています。資料一のP二を御覧ください。
そもそも分譲マンションの共用部分の共有関係は、区分所有法によって、民法の共有とは明らかに異なる特別な共有として規定されています。
区分所有法では、共用部分の共有持分について、次のような原則があるのです。第一に、共用部分の共有持分は、分割を請求することが禁止されています。争いのない通説である分割請求の禁止の原則です。第二に、区分所有権が転売されれば、共有持分もそれに伴って移転するとされています。区分所有法十五条一項が定める随伴性の原則です。第三に、専有部分と切り離して共有持分を処分することができないとされています。区分所有法十五条二項が定める分離処分の禁止の原則です。
そして、共用部分に欠陥があった場合の補修に代わる損害賠償請求権は、欠陥によって損なわれた共用部分を本来の状態に回復させるための請求権です。したがって、その損害賠償請求権は、共用部分の価値が姿を変えたものであり、共用部分と同様に、特別な共有の性質を持っていると考えられます。
それにもかかわらず、今回の改正法案は、この共用部分に関する損害賠償請求権について、第一に、各区分所有者に分割しているのだ、第二に、転売してマンションから出ていった後も旧区分所有者が損害賠償請求権を持ち続けるのだといった、区分所有法の考え方に反する誤った前提に立っています。その上、改正法案は、旧区分所有者が別段の意思表示をした場合について、管理者による一元行使の例外としていますから、第三に、旧区分所有者が損害賠償請求権を単独で行使できるのだということまでも認めているのです。
このような改正法案が成立すると、マンション管理組合は欠陥の補修費用の一〇〇%の損害賠償金が得られなくなって、共用部分の欠陥の補修費用が不足してしまいます。
なぜかといいますと、転売してマンションから出ていった旧区分所有者が、自分の共有持分は自分で請求するのだと別段の意思表示をすれば、その分の損害賠償を請求できなくなるからです。また、損害賠償金を得られたとしても、旧区分所有者から、自分の共有持分をよこせと請求されれば、拒むことができなくなるからです。
その結果、耐震強度が不足していたり、外壁タイルが剥離落下する危険性があったりするような共用部分の欠陥について、一〇〇%補修することができなくなります。これでは、現にマンションに居住している現在の区分所有者の利益が守られませんし、近隣住民やマンションの周りで遊ぶ子供たちの生命身体に対する重大な危険となります。
この点について、法制審議会では、旧区分所有者が実際に別段の意思表示をすることは少ないだろうから補修費用が不足する事態にならないなどと説明されていました。確かに、今現在ならばそうかもしれません。マンションを売って出ていった後も共用部分に関する損害賠償請求権を持ち続け、自分だけで請求できるなどと考える人はまずいません。それが一般的で健全な市民感覚です。
しかし、改正法案は、その一般的で健全な市民感覚から外れた、誤った内容を法律で定めようとしているのです。改正法案が通れば、管理者が原告として請求するときには旧区分所有者に通知をしなければなりませんから、この通知によって旧区分所有者は自分が損害賠償請求権を持っていることを知ることになります。そうすると、自分に権利があると知った旧区分所有者は、賠償金を自分にもよこせと要求することが容易に予想されます。
例えば、テレビやネットなどの過払い金請求の広告のように、以前に売ったマンションについて通知が届いた方は賠償金をもらえる可能性がありますよ、是非御相談くださいと、法律事務所などがテレビやネットでこのような広告を始める可能性すらあります。
このような改正法案が招く不都合について、法制審議会は明らかに過小評価していたと言わざるを得ません。
例えば、私が担当した事件で、二十九棟、合計六百五十四住戸から成るマンションの共用部分の欠陥施工について、補修費用約四億円の損害賠償を請求した事件がありました。その事件では、訴え提起までの七年間で所有権が移転した区画が百五十住戸ありました。この事件は、被告会社からの申出によって、補修による和解で解決しました。
しかし、もし今回の改正法案が通れば、このような解決は不可能になるでしょう。なぜなら、被告会社は、旧区分所有者から別段の意思表示をして請求された場合を考えると、自ら進んで瑕疵を認めて全面補修を申し出ることを恐れるからです。そうすると、このような和解をするためには、全ての旧区分所有者から債権譲渡を受けるという不可能を強いられることになります。
転売してマンションを出ていった旧区分所有者から債権譲渡を受けない限り一〇〇%の補修が実現できない、そんな結果を招く法改正をすることは明らかに誤っています。これでは、共用部分の欠陥に関する損害賠償請求を円滑にするどころか、かえって困難にします。その結果、共用部分に重大な欠陥があっても補修することができずに放置される事態を招き、マンションの管理不全や老朽化を促進することになるでしょう。
以上が、私が今回の二十六条改正案が改悪であると申し上げる理由です。
では、この問題を解決するためにはどうすればよいのでしょうか。
それは、資料一、P一の末尾に記載した案しかありません。一枚目です。一番下を御覧ください。
すなわち、共用部分に関する損害賠償請求権は、区分所有権が移転したら当然に新しい区分所有者に承継され、各区分所有者による個別行使や分割請求を認めないという確認規定を設けるという案です。そうすることによって、先ほどの東京地裁平成二十八年判決のような誤った法解釈ができないようにします。そして、これらの規定が改正前から存在する区分所有マンションにも適用される旨を附則に定めるという改正案です。
区分所有マンションの共用部分の欠陥について一〇〇%の補修を実現するためには、以上のように、損害賠償請求権の当然承継を区分所有法で明確に定める改正こそが必要です。
この当然承継を認めるという案に対しては、旧区分所有者の財産権を侵害することになるのではないかとか、法改正前の転売に当然承継を適用すると法律関係の混乱をもたらさないかとか、損害賠償金の使途を限定する管理規約の改正でも対処可能なのではないかなどといった意見も聞かれます。
しかし、それらは、現実の紛争や管理規約の実態を全く無視したものでしかなく、私たちの提案する法改正を否定する理由になっておりません。このことは、この後の質疑において詳しく御説明できればと思います。
議員の皆様におかれましては、政府提案の改正法案を修正していただき、是非とも、当然承継を認める法改正を実現していただければと存じます。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
○井上委員長 ありがとうございました。
以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○井上委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。三反園訓君。
○三反園委員 自由民主党の三反園訓でございます。
参考人の皆様方におかれましては、お忙しい中に委員会に出席を賜りまして、本当にありがとうございます。よろしくお願い申し上げます。
さて、日本で我が国初めてと言われた分譲マンションの誕生から七十年が経過しまして、様々な問題が今出てきているわけであります。築四十年以上経過したマンションが増え続けて、そしてまた、そこに住み続けている人たちの高齢化が進んで、七十歳以上の方々が五割を今超えているわけであります。こうした二つの老いへの対応が待ったなしということで、今回の改正が行われたというふうに思っております。
参考人の皆様方がおっしゃっているとおりでありまして、マンションというのは安心して安全に住み続けられるものでなければならないわけでありますけれども、しかし、修繕しなければならない、しかし、修繕積立金が足らない、不足している、さあ大変だ、どうしようかとか、また、意見集約をしなければならないけれども、なかなか難しく、前へ進まない、何も決まらない、そういう現状が今起こっているわけであります。
そうした現状を、将来的にそういうふうにならないために、今回の改正では、新築時に、いわゆる分譲事業者が適切な長期修繕計画を作成して、そして、適切な積立金の額を設定した管理計画を作成して、それを認定が受けられる制度が今回つくられるわけであります。
この管理計画がすごく私は大事だと思っておりまして、この管理計画をチェックできるかどうかということで、この認定制度ができたというふうに思っております。
その認定割合を三%から五年後に二〇%に高めようというわけでありますけれども、私はもっと高めていく必要があるというふうに思っているわけであります。そうするためにはどのように対応したらいいかということを、齊藤先生にお聞きしたいと思います。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
三%から二〇%、もっと広げていくということだと思います。
管理計画認定制度は、先ほどお話しさせていただきましたように、認定を受けた方々が、やはり自分のマンションをしっかり誇りに思っていただく、そして、認定を受けるときに、やはり自分たちの状態をチェックしていくということで、自分たちの何が悪いのかというところが改善されているという実態がございます。大体四分の三ぐらいの方がやはり認定を受けたいということで、規約を見直すとか長期修繕計画を見直すということをされておりますので、こういったことを普及していくのが大変重要かと思います。
では、今まだ三%じゃないかということですが、これはしっかりと、この効果、そういったものが管理組合の皆さんにとって大変必須であるということをしっかりと広報していく必要がある。そういう意味では、そういう御理解をしていく場として、またそれをフォローしていく場として、支援法人というのが大変有効に働いていくのではないかと考えております。
○三反園委員 将来、困った人が出ないためにも、しっかりとした管理計画を作って、そしてそれを認定してもらうということは大事でありまして、認定をしていただければ、一定以上の大規模な修繕計画の工事に関しては、固定資産税の減税とか、税制の優遇措置も受けられますし、融資の金利の優遇措置も受けられるわけでありますので、そうしたものをもう少し周知徹底することによって高めていく、それで進捗していく。
私自身は、将来的には、本当に困る人がなくなるためにも、こういった、管理計画について認定することを義務化していく必要があるのではないかなということを、個人的にはそういうふうに思っております。
そしてもう一つ、現実的な問題について、また齊藤先生にお聞きしたいんです。
今現在、修繕をしたいけれども、修繕積立金が不足している、そして計画どおりの資金が足らない、そういった管理不全マンションとか管理放棄マンションとか、そういったマンションが今増え続けているわけであります。そのマンションをどうするかということが喫緊の課題でありまして、こうした課題についてどのように対応していけばいいのかということをお聞きしたいと思います。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
おっしゃられましたように、管理の質を上げていくという意味では、管理計画認定制度、大変重要だと思います。そういったものが、初期からの、供給当初からの管理の質の向上につながっていくということが大変重要かと思います。
そしてもう一つは、修繕積立金が不足しているなどというような問題についての御指摘かと思います。
これに関しましては、まず、修繕積立金が本当に不足しているのかという意味では、建物の長期修繕計画からしっかり立てる。それに基づいて、修繕が本当に足りないのか、どのくらい足りないのかということを理解していく。そして、足りない場合、それにはいろいろな方法があると思います。値上げをする、あるいは時期をずらしていく、そういったところをしっかりと専門家と相談する。場合によっては、お金を借りるということもあると思います。
それをどういうふうにしていけばいいのかという、そのマンションに寄り添った形のアドバイスがしっかりしていけるということが重要になりますので、今後、より一層、専門家の支援体制、先ほどお話しさせていただきました支援法人といったところがしっかり機能していく必要があるのではないかと思っています。
○三反園委員 ありがとうございます。
もう一つの問題であります、管理組合の意見集約が進まなくてなかなか前へ進まないという問題を解決するために、今回の改正では、修繕でも、また建て替えでも、そしてリノベーションでも、全ての新しい様々なニーズに対応する決議について、出席者の多数決、割合は違うわけでありますけれども、で決められるように改正されることになるわけであります。
こうした要件が緩和されることにつきまして、沖野先生、中野先生、神崎先生はどのようにお考えかをお聞きしたいと思います。
○沖野参考人 ありがとうございます。
建て替え等、あるいは様々な形でのマンションの再生のために今回制度が用意されたわけですけれども、その要件といたしましては、これもまた大本からいえば、本来は全員一致というところを、現行法も多数決に変えているということでございます。しかし、それではやはり現実、動かないという、それを前にして、何とかこの決議要件を引き下げることで実質的な決議ができるようにしようという考え方でございますけれども、他方で、やはりこのままの形で住み続けたいという少数者の利益というものにも配慮する必要がございます。
その観点から、今回の要件の引下げに当たっては、客観的な事由ということで、こういう事由があるのであれば、これは十分それを支えられるだろうという考え方からできておりますので、引下げとともに、この利害の調整をしっかりと図るという規律を内容としたものであって、適切なものであると考えております。
以上です。
○中野参考人 特に私、この件に関しての御意見は持っておりませんので、よろしくお願いします。
○神崎参考人 私の方も、二十六条の改正について議論してまいりましたけれども、この件について特に意見を持っているものではなく、沖野参考人の意見に特に異なる意見を持っておりません。
以上です。
○三反園委員 どうもありがとうございます。
今回の改正によりまして、資金不足に陥らないようにする、そしてまた建て替え等をしやすくするとか、日照権の問題、容積率の緩和、高さ制限を緩和するとか、そしてまた意見集約ができるようにする。そしてもう一つは、助言、指導をすることによって地方自治体の役割も増していくわけであります。
マンションは本当に安心して安全に住み続けられなければならないわけでありますので、そうした制度になるように、引き続きまた努力していきたいと思っております。
ありがとうございました。
○井上委員長 次に、長友よしひろ君。
○長友(よ)委員 立憲民主党、長友よしひろです。
本日は、参考人の先生方、貴重な御意見ありがとうございました。また、これまでに、今生じている課題について、それぞれのお立場で解決に向けて御尽力いただいてきたこと、私からも謝意を申し上げたいと思います。
そこで、今日、大変貴重な御意見をいただいたわけでございますが、今回の改正案について、我々はこれまで数々提言もしてきたところでありまして、課題や不足部分の一部、これらが補われ、一定の前進が図られるものと、今改正案については期待をし、評価もしている立場でございます。
その上で、本会議での代表質問やこれまでの委員会での質疑でも、その中でも課題や疑念というものがあるんじゃないですかということを述べてきたところなんですね。これらの課題、生じ得る可能性がある疑念について、改めて、今日の御意見も踏まえ、専門家、現場でこれまで取り組まれてきた知見、視点というものを、特に実務的な対応とその実効性の担保の観点から幾つか伺いたいと思います。
時間が短いものですから、先ほどの御意見を伺って、明らかに御意見が分かれていたと思われる点について、今回の法改正において、マンションの管理、再生の最大の課題とも言えるんじゃないかというふうに思っておりますので、損害賠償請求権に関する部分、いわゆる当然承継と遡及に関する部分について伺いたいと思います。
政府は、区分所有権の譲渡に伴い、共用部分について生じた損害賠償権については、譲受人に当然承継される制度は、財産権の保障の観点から正当化が困難である上、個別の事案によっては不当な結論を招くおそれがあると述べているところでございます。
そこで、これらについて、それぞれ四人の参考人の皆様から、この政府の見解についてどういうふうにお考えになられるかというのを伺いたいと思います。区分所有権の譲渡の損害賠償権についてです。よろしくお願いいたします。
○齊藤参考人 大変重要な課題だと思っております。
私、法制審議会の委員として出たときに、管理組合の方が一括してやはりこういうものを請求できるようにというふうに初めは考えたところでございますが、法制審議会の中で私としては丁寧な丁寧な議論を繰り返してきた中で、やはり財産権の問題からこういったことは難しいというふうにおっしゃられました。しかし、国民の皆さん、区分所有者、管理組合のことを考えたら難しいというのだけでは置いていられないので、それでは規約で何とかできないですか、予防のために売買契約で何とかできないですかということで、規約でしっかり対処していきましょうというふうに議論を進めてきたというふうに理解しているところでございます。
○沖野参考人 ありがとうございます。
まず、財産権の保障の観点から問題があるという点につきましてですけれども、この点はまさにそのとおりだろうと思っております。
私が理解するところでは、先ほども申し上げたところですけれども、損害賠償債権は、契約に基づく契約不適合を理由とする損害賠償債権であり、契約当事者が持つもの、債権者が持つものであります。それを、目的物である所有権という物権を移転したことによって、何の合意もなく当然についていくものではないということになりますので、当然承継は、それを意思に基づかず、強制的に移転させるということになります。
それは、一般論といたしましても、金銭債権を持っている人が、私が反対だと言っても、当然にほかの人に移さなければならない。更に言うと、両当事者が、それはやめましょうと言ってもできないという仕組みを要求するわけですので、それは一般的に、まさに財産権の保障としてどうかということがあります。
本日の御議論を聞きまして、より明確になったように思ったんですけれども、譲受人あるいは旧区分所有権者の財産権を侵害することは問題はない、むしろ修理を実現するためにはそのぐらい踏みつけてもいいんだという御議論だとすると、それはやはり正当化が非常に困難ではないかというふうに思っているところであります。
それから、今回、中野先生が第十六回の議事録を出してくださって非常にありがたいと思いましたけれども、この問題は、むしろ第十四回及び第十五回において非常に多く議論もされておりますので、御紹介としましては、むしろそちらも御覧いただきたいのでございます。
その中において、例えば、譲渡がされる場合というのは様々な場面がございます。典型的には、まだ欠陥なんかが分からない状態で、ちゃんとしたものだとして譲渡をしたところ、実はその後分かった、じゃ、損害賠償債権はどうなるのかというような話のときには非常に分かりやすいと思うんですけれども、そういう場合ばかりではございません。既に欠陥が明らかになって、修理をするのか損害賠償なのかとかいう話になっているところで譲渡をしたということもありますし、さらには、放っておくと危ないのでとにかく補修してしまおうというので補修した後、譲渡するということもございます。そのときに、しかし、損害賠償債権がなくなるわけではございませんので、損害賠償はできるわけであります。
そういう様々な場面がある中で、譲渡契約の当事者の合意に委ねることもなく強制的に移転させるということが本当にいいのかという問題がありますし、さらには、欠陥が分かった段階で売らざるを得ないということであると、果たして、損害賠償債権自体を奪われるだけではなくて、適正に区分所有権を譲渡できるかという、その部分における財産権の問題というのも指摘されております。
ですから、多様な場面を考えて規律を設ける必要があるということでございます。必要性があるという場面があるとしても、それだけを念頭に規律を置くということに対しては慎重であるべきだということになります。
しかし、放っておいていいのかというのは一方で問題で、財産権の侵害になっても、それを上回る政策判断というのがあり得ないのかということでございますけれども、政府案の下におきましても、これは齊藤先生がお話しになったところですけれども、規約で書いておくということは考えられるわけで、別段の意思表示については、別段の意思表示はしないという形で規約を定めれば、後で抜ける人も既に拘束されている状態ですので、及んでいくと考えられます。
それから、損害賠償債権そのものをどうするかという問題がございますけれども、ここは実は解釈の余地があるところではございますけれども、やはり、共有物の管理に関して、管理費をどうするか、修繕の積立金なり修繕費をどうするかという問題がございまして、その原資にこれを充てるというような規約の定めをすることで、管理の問題として引きつけて規定することもできるんじゃないか。
直ちにそれをやればいいというのではなかなか進みませんので、モデルというか、標準管理規約に書いていただければ、こういう形にすればできるんだということが明らかになって、進むのではないかというふうに考えられます。さらに、私、個人的には、区分所有権の譲渡契約のモデルなどについても考えていった方がいいんじゃないかというふうに思っておるところです。
それから、さらに、もしも、しかし、債権があるということで非常に濫用的な行使をする、吹っかけるとか、そういうことに対しては権利濫用という規律もございますので、政府案の下でも一定の配慮は十分される、また、そのための次のステップをこそ取っていただきたいというふうに考えているところでございます。標準管理規約の用意とかということを考えております。
以上でございます。
○中野参考人 中野でございます。
私が先ほど申し上げました御説明の中の議論の状況の中で、不都合が生じることについての具体的な事例というのは結局出てこなかったという点がございます。
それからもう一つ、これは神崎先生から出された資料の一番最後のところ、「あるべき法改正」の部分にある十五条の一項のところ、これは民法上で言う従物理論という形で、主物に従って従物が処分されていく、これは民法の原則の中にも当然入っているものでございます。そのような処分の仕方ということも従来の民法にも入っているということでございまして、さほど不都合があるものとは考えておりません。
以上でございます。
○神崎参考人 まず、正当化が困難であって不都合が生じるということなんですけれども、場面が不明であると言わざるを得ません。譲渡人の財産権の保護を言っていると考えられますけれども、具体的にどのような場面で財産権が侵害されるのか、どのような不当な結論が招かれるのかが全く分かりません。
私たちが四月三日に立憲民主党の国交・法務合同委員会でヒアリングを受けた際、法務省の職員が、我々の唱える当然承継案を遡及させると不都合が生じるという旨の発言をされたために、具体的な不都合性についてペーパーを出すように求められていたんですけれども、その後、そのペーパーが出されたという話は聞き及んでいません。
少なくとも、私の知る限り、転売した旧区分所有者が共用部分の欠陥について補修費用相当の損害賠償請求権を個別行使して賠償金を取得したなどという事案は聞いたことがありません。
東京地裁平成二十八年判決の解釈というのは極めて特殊なものでありまして、このような解釈が行き渡っているとは到底思えません。私たち欠陥住宅全国ネット、欠陥住宅被害全国連絡協議会の会員も、現在の区分所有者による管理組合総会で決議をして請求するのが一般的でした。実務上は、当然承継と結論的に同様の扱いをしてきた実態があると考えております。
当然承継の考え方は、現行区分所有法の考え方から当然に導かれるものと考えておりまして、特別な考え方じゃないからこそ、これまで旧区分所有者がそのような特別な権利行使をしなかったわけですけれども、今般、このような法改正をすると、新たに旧区分所有者に権利を与えてしまうことになって、通知によってそれを知らせ、別段の意思表示にすることによって個別行使を許してしまうことになりますので、取り返しのつかないことになると思います。
以上です。
○長友(よ)委員 ありがとうございました。
ちょっと時間がなくなってしまったので。
今のお話を総合すると、私なりに解釈すると、当然承継を行うことができたならば、それによって、今住んでいる方、現の居住者で困られている方が救われるというような御意見だったというふうに認識しました。逆に、当然承継ということを行うことによって、元々の旧区分所有者の財産権というものが侵害されるおそれがあるということで、現と旧の、ここの差なんだということが明確になったと思います。
そこで、先ほど御意見いただいた中、答弁の中でもあったんですけれども、標準管理規約のことについて聞きたいと思います。
政府も、今後、標準管理規約で損害賠償金の使途の制限などを定める、こういうことを改定していこうということを述べています。一方で、規約の変更がされたとしたときに、その前の区分所有者でなくなった者、つまり旧区分所有者の方々は、遡ってその変更後の規約が適用されることはないわけであります。まあ、当たり前の話なんですよね。
ここで是非伺いたいんですけれども、まず、沖野参考人と中野参考人にそれぞれお答えをいただければと思うんです。
規約変更後の事案に、一定程度の実務的な対応で実効性が担保はされると思うんです、標準管理規約が改定されたならば。でも、旧区分所有者はそれについて義務を負わないわけですから、その規約が改定されても、それは義務を負わないわけですから、一定の前進はしたとしても、課題の解決には至っていない部分があるんじゃないかと。明らかにそうですよね、旧区分所有者はその義務を負わないわけですから。規約改定をすることはいいことです。でも、それはその後の方ですから。
ということは、前の方々、今、現実として問題になっていることに果たして対応できているのかという意味からすると、そこに非常に懸念を、疑念を持つところです。
ここについて、それぞれ、お答えを簡潔にお願いします。
○沖野参考人 ありがとうございます。
議員がおっしゃったように、全くその規約の変更という形に、それに関わることもできなかった人に対して、その人の権利を強制的に奪うというような内容のものに拘束をかけるというのは、やはり無理だろうと思います。そうしたときに実効性がどうかというのは、その限りでは減じることになったとしても、そちらをやはり優先すべきだということと、もう一つ申し上げますと、本当に、しかし、一方で、提案されるようなものは十分な解決になっているのかということも少し疑問に思う点もございますので、そのことも少し付言だけさせていただきたいと思います。
○中野参考人 ありがとうございます。
まさにそういうような場面があるので、我々は、当然承継という考え方を、この立法の中で改正すべきだというふうに考えております。
立法につきましては、それは創設規定とか確認規定とか、いろいろな形があると思いますが、昔からそれは当然承継されるものだ、先ほど申し上げた主物、従物の理論という形で、自分の占有、所有権を譲渡するのであれば、それに付随する損害賠償請求権も一緒に処分されるという、その考え方は昔からの民法理論でもありますので、そのような確認規定だという考えで、当然、改正をすれば、それは今直ちに、困っている住民の皆さんも救われるのではないかなというふうに思っております。
以上です。
○長友(よ)委員 ありがとうございました。終わります。
○井上委員長 次に、奥下剛光君。
○奥下委員 日本維新の会の奥下でございます。
参考人の先生方、本日はありがとうございます。限られた時間でございますので、早速質疑に入りたいと思います。
当然継承案に対しては、欠陥の発覚後に転売する際に、欠陥のせいで代金を減額しなければならなくなった場合、旧区分所有者の財産権を保護する必要があることから、損害賠償請求権を当然に移転するべきでないという批判がありますが、これについてどうお考えでしょうか。神崎参考人に求めたいと思います。
○神崎参考人 ありがとうございます。
まず、逆の場合を考えてみたいんですね。欠陥判明前に通常の市場価格で転売した場合に、旧区分所有者には瑕疵による損害が一切ないため、損害はないんです。この場合には、新区分所有者に当然承継を認めるべきということは明らかなわけですね。
逆に、代金減額による損害を考慮する考え方に立つならば、代金減額が修補費用の共有持分より少ない場合、新区分所有者にも損害があることになりますよね。修補に代わる損害賠償請求権の全部を旧区分所有者が留保することというのは不公平になりますよね。代金減額分は、修補費用損害賠償請求権の共有持分から算出されたものではありません。修補費用損害額というのは、それだけでも数年にわたり欠陥住宅訴訟で争われる可能性のある大論点なわけです。そんなものを考慮して代金額が決められているとは思えません。
そうすると、改正法案の考え方に立った場合、減額を避ける方法としましては、新区分所有者に修補に代わる損害賠償請求権を譲渡するとして、瑕疵のない市場価格で売却すれば済むだけの話なわけですね。
しかし、減額を求める人は、現実にそれで購入することはないかも分からないです。それはなぜかというと、損害賠償請求に伴う負担とリスクがあるからです。損害賠償請求権がついているから、それで請求できるからいいじゃないかと言われても、実際には瑕疵のせいで減額するというのは、きずものだという風評被害があったりとか、損害賠償請求に伴う負担リスク、敗訴リスクとかもあるからということで、それはもう実は、減額されているものの中身としては、補修費じゃなくなっちゃっていると言わざるを得ないと思うんですね。
転売した旧区分所有者が実際に損害賠償請求をすることがないということは、先ほどから申し上げているとおり、我々も、私もそうですし、欠陥住宅被害全国連絡協議会の会員も、転売した旧区分所有者が業者に対して補修費の損害賠償請求をしたという例は見たことがありません。そういう権利があるとすら思っていないはずです。
ということで考えると、この問題について、売却価格の低下の問題というのと、それから損害賠償請求権の帰属の問題は切り離して考えるべきということで、もし売却価格が何らかの低下をもたらしているとした場合であっても、新旧区分所有者の転売当事者間において、将来、例えば損害賠償が得られたというときにはそれで精算しましょうという特約を結んでおいたりとか、特約がないとしても、不当利得返還請求権によって調整するということで、幾らでも調整できるわけです。
そういう意味では、転売当事者間の利益調整の問題を、団体的な規律を考えているマンションの共用部分の損害賠償請求権の帰属において考えるべきではないと考えます。
以上です。
○奥下委員 ありがとうございます。
では、神崎参考人に引き続きお尋ねしたいと思いますけれども、そうすると、欠陥の発覚前に転売した際、旧区分所有者が新区分所有者に責任を負わない特約がある場合、潜在的に損害賠償請求権を譲渡したと解されるとの意見がございますが、これについてどう思われますかということと、現在の標準的な売買契約書には、売主の免責に伴い、潜在的な損害賠償請求権を買主に譲渡する旨の規定がございません。今後は入れてもらうようにすることも考えられるとの意見がございますが、この二つについてどうお考えでしょうか。
○神崎参考人 一点目の質問につきましては、民法四百六十七条一項は、指名債権の譲渡について、譲渡人が債務者に通知し、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができないと規定しています。すなわち、旧区分所有者が業者に債権譲渡通知を出さなければ、新区分所有者は業者に損害賠償請求権の譲渡を主張することができないので、そういうふうな、潜在的に損害賠償請求権を譲渡したというような解釈というのは誤っていると思います。実務上も成り立たないと思います。
二点目。売買契約書にそのような条項を盛り込むことは可能で、かつ、それで何ら問題も生じないのであれば、そもそも個別の契約に委ねるべきではなくて、法律で当然承継を認めてしまえばいい問題だと思います。個々の売買契約書に委ねると、条項を抹消されたり変更されたりする可能性があって、個々的に変わってしまいますので、全体的な解決、抜本的な解決にならないと思います。
以上です。
○奥下委員 ありがとうございます。
では、旧区分所有者が自ら費用を負担して欠陥を補修した後に転売した場合、市場価格で売れたとしても、旧区分所有者には修補費用の負担額の損害が残るというふうに考えると思うんですけれども、神崎参考人の御意見をお聞かせください。
○神崎参考人 ありがとうございます。
場面自体が非常に仮定的であって、非現実的な机上論だと考えております。共用部分の欠陥については、旧区分所有者が費用を支出して補修するなんという場面は想定できません。
まず、共用部分の工事は管理組合が決定、実施するものであって、その費用は修繕積立金から支出されることが通常です。
欠陥の補修工事として考えても、まず、明白な瑕疵や軽微な瑕疵であれば、損害賠償請求以前に、業者側において補修対応に応じることが多いです。争いがある場合で、和解交渉がまとまらなければ訴訟になるわけですけれども、訴訟では、訴訟が終わる前に補修を行うと欠陥の立証が困難になるため、本格的な補修を先に行うことは現実的にはまずありません。
さらに、重大な瑕疵の場合には、補修に多額の費用を要するために、圧倒的多数のマンションの場合、被告から現に損害賠償金が得られるまで補修を実施しません。
したがって、そのような場面を考えること自体が誤っていると思います。
○奥下委員 ありがとうございます。
では、旧区分所有者が緊急的に修繕を行った後に転売した場合は、市場価格で売れたとしても、旧区分所有者には修補費用負担の損害が残るのではないんでしょうか。いかがでしょうか。神崎参考人にお聞きします。
○神崎参考人 ありがとうございます。
これまた仮定的な場面であって、非現実的な机上論だと思います。
例えば、雨漏りなどのように緊急を要する場面で、応急措置的に修繕を行う場合であっても、本来、共用部分の工事を行うのですから、管理組合の決定の下で修繕積立金で実施するのが通常でしょう。
また、旧区分所有者が現に費用負担したという場面で仮に考えたとした場合でも、価格に付加することで、価格に転嫁して、その補修費用も転嫁して売れば、それで費用の回収を図ることができます。
負担した修繕費用を加えた価格では売れない場合とか、早く売るために最初から修繕費用を加えない価格にする場合には、将来、業者から賠償金が支払われたときには精算するという特約をしておけば、負担費用を回収できます。
また、特約なしで売却した場合でも、代金額が瑕疵を前提として決定したという事実関係がはっきりしていれば、後に業者が賠償又は補修した場合に、前提事実が変わっていることから、不当利得返還請求権で対応することが可能だと思います。
以上です。
○奥下委員 ありがとうございます。
では、もし今回の改正法律案が成立したと仮定して、将来、指摘されるような問題が現実化したときに、改めて当然継承案で法改正をすることで対応するということに対してどうお考えでしょうか。全参考人の皆さんにお伺いしたいと思います。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
私、先ほど申しましたように、議論があるような、まだ余地があるようなところで、今回のような財産法を尊重というスキームから無理があるという御説明を受けた中で、今回は標準管理規約で対応し、そして皆さんが安心して暮らせるように規約で対応していこう、そういった方針に賛成しているところでございます。
以上です。
○沖野参考人 ありがとうございます。
更なる将来の展開として当然承継というのを入れる余地があるかということでございますけれども、私は、中野先生、神崎先生が御指摘になった民法上も当然であるということに対して、ことごとく違う意見を持っております。主物、従物の議論も、分割債権の議論も、あるいは区分所有の議論も、およそ適切ではないというふうに思っておるところでございます。
物権の議論と契約上の債権の議論を混同されているのではないかですとか、分割、不分割といった話の局面の問題ではここはそもそもないということですとか、それから、その後、御質問の中で出た契約の解釈についてでございますけれども、担保責任を負わないというときには、その関係のものは全て譲受人に任せるというのがむしろ当事者の合理的な意思なのではないかということだとすると、議員が御指摘になったような契約解釈も十分成り立つだろうというふうに思っておりますので、これらの問題をやはり解決しないと、当然承継というのを入れるというのはなお難しいのではないかというふうに考えております。
以上です。
○中野参考人 現在の立法案の問題点については、先ほど来申し上げたとおりです。
このことを例えば五年とか様子を見ようということになりますと、この五年、本当に困っている人たちが救われないままに、救済されないままに過ごすということになります。その点について考えるのであれば、この段階で立法すべきだと。
私は、平成十四年の改正のときもそういう意見を持っておりましたけれども、そのことが二十年たっても変わっていなかったという点を、今回、やはりよく考えるべきだというふうに思っております。
以上です。
○神崎参考人 改正法案が仮に成立したとした場合、これは、第一に、共用部分に関する損害賠償請求権が各区分所有者に分属しているという事実、また、区分所有権を転売した後も損害賠償請求権を保有し続けるということを法律で確認してしまったことになるわけですね。そして、個別行使をすることもできるということを認めてしまったことになるわけです。
そうしますと、例えば何年か後に、これがよくなかったなということで見直しますよということになって、将来、当然承継案で法改正をし直したとしても、改正以前に遡及適用することができなくなりますから、改正前に生じた欠陥被害はもはや一切救済できなくなります。
その意味で、今回の改正法案の内容は全く取り返しがつかないものであって、そのような改正であれば改正しない方がよいと考えます。もう改正しない方がましな改悪だと断言できます。
以上です。
○奥下委員 ありがとうございます。
私も、結婚して中古マンション、十年落ちのを買いました。八年間住んで、結局、いろいろ欠陥が出てきて、おっしゃるような問題、僕の場合は前の方がすぐつながったんですけれども、周りの方、何代も転売した方がいらっしゃいました。ずっと住んでいる方が、当時住んでいたお友達とかに、こんなことがあるからと。いるんですね、やはり、何といいますか、性根の悪い方というか何というか、その方から親切で言っているんだと思いますけれども。それでちょっと、ごたごたに巻き込まれて、本当に嫌気が差して、昨年末、もう引っ越しました。
ですから、今後、そのマンションがどうなっていくかは分かりませんけれども、本当に、今日、神崎参考人のお話を聞いて、かなりすっきりしました。何か、ちょっともやもやが取れた気分です。本当にありがとうございました。
我々としても、先ほどおっしゃっていただいたような改正法案、きちんと考えていきたいと思うんですけれども、最後に、先ほど、ちょっとかぶりますけれども、であるならば、神崎さん、これはどうするのが一番いいとお考えでしょうか。先ほど、この表で書いてあると思いますけれども、どうでしょうか。
○神崎参考人 重複することになるのかも分かりませんけれども、私の考えでは、特に改正しなくても、当然承継であり、個別行使は禁止されるので一元行使になるというふうに考えていて、かつ、今ある区分所有者全員に適用されているものだと考えているんですけれども、東京地裁判決のような誤った解釈をさせないために、明確にするために、今回の法改正は改めて、私の配付資料のP一の末尾にあるように、当然承継を明確に定め、個別行使を禁止し、一元行使のみを認める、そして、分割請求もできない、つまり、現に受け取った共用部分に関する損害賠償金について、それを自分の分をよこせみたいな持分を請求することを認めない、そして、それは過去に遡って、現在ある区分所有マンション全てに適用されるということを確認する、そのような改正が必要だと考えております。
以上です。
○奥下委員 ありがとうございました。
その広めた方が弁護士の奥さんだったものですから、もうこれは確信犯だというふうに確信しましたので、すっきりしました。
ありがとうございました。
○井上委員長 次に、鳩山紀一郎君。
○鳩山(紀)委員 おはようございます。国民民主党・無所属クラブの鳩山紀一郎と申します。
今日は、参考人の皆様、貴重な御意見をいただきまして、どうもありがとうございます。
実に損害賠償請求権に関しては様々な議論があるということを改めて感じさせていただいたところでありますけれども、損害賠償請求権の話に入らせていただく前に、二点ほど齊藤先生にお伺いしたいことがございます。
まず、今回のマンション法の改正で、新築の物件に関して、新築のマンションに関して、共有当初から管理体制をきちんとすることができる、いわゆる管理計画をきちんと立ててそれを認定する制度を設けるということは、よい方向に動くというふうに思っておるんですけれども、先ほども御指摘もありましたが、既存のマンションの中に、いわゆる、先生もおっしゃっていらっしゃいますが、頑張れないマンションがたくさんある。いわゆる頑張れないマンションというのは、管理不全であるですとか管理放棄されたマンションのことでありますが、そういったマンションについては今後どのようにしていくべきというふうにお考えか。これは三反園議員の御質問にもあったことではあるんですが、お伺いしたいと思っております。
例えば、一つの考え方としては、行政、国が買い上げて一定の改修をした上で、例えば、住宅確保要配慮者という方たちがいらっしゃいます、高齢者の方や障害者の方、子育て世帯などの方々ですが、そういった方たちの入居を拒まない、いわゆるセーフティーネット住宅として活用していくなど、そういった方法もあり得るのではないかなというふうに考えるところであるんですが、御意見をいただければと存じます。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
管理計画認定制度が新築時からできて、当初から管理の方法の質が上がるということ、これはもう評価できること。では、既存のマンションはどうするのかという御指摘かと思いますが、既存のマンションに関しましては、やはりしっかり修繕をしてもらうということ。それから、頑張れないマンションに関しては、頑張っていただくようには、まずは専門家を派遣してサポートして頑張ってもらうということかと思います。
そして、今御指摘ありましたように、例えば、管理不全になったマンションを誰かが買い取って、それをリニューアルしてセーフティーネット住宅にできないのかというのは、実はもう既にそういう事例がございます。ですから、行政が買い取らなくても市場でそういうことができるといったら、むしろそういう事例を伸ばしていって、新たにしっかりとできる体制を整えていくというので、先ほどから言いましたが、やはりそういったところには、行政が直接手を出さないところには、支援法人というのが機能していくのではないかなというふうに考えておるところでございます。
○鳩山(紀)委員 ありがとうございます。
セーフティーネット住宅に関しては、それを実施をしておられるNPO法人の方ですとか、私も存じておるところでありまして、おっしゃるように、市場の上でそういったことができるのは望ましいかもしれませんが、場合によっては市場で売れない建物になってしまっているというようなケースもあるかと思いますので、そこは様々な対応の仕方が存在し得るのかななんというふうに思っているところであります。どうもありがとうございます。
二つ目なんですけれども、今回の法改正で、なかなか動かせなかった、例えば建て替えですとか改修ですとか、そういったものをより円滑に動かせていくようになるということ自体は、これはいいことだろうというふうに思っております。
一方で、最近よく言われることでありますし、私の選挙区であります東京二区には中央区がございまして、中央区にもたくさんのマンションが最近建っておるというところで、その中で外国人の方の所有というのが広がっているということがございます。彼らがある一定以上の規模で所有をするようになってくると、それは外国人だからすぐに駄目とかそういう話じゃ当然ないんですが、場合によっては安全保障上によくないというような結論を出されてしまうような、そういう可能性があろうかとも思われる、そのような意見もあるわけなんですが、これに対してはどのような御意見をお持ちでいらっしゃいますでしょうか。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
外国人の所有者の場合と、それから外国人の居住者の場合があると思うんですが、居住者の方には、やはり日本語がなかなか伝わらないということがあるかと思いますので、既にされていますが、いろいろな用語でのルールを御理解いただくとか御協力いただくというようなことを、既にいろいろな言葉で、言語でという、そういった、居住者として一緒に御理解いただき、一緒に暮らしていくという体制と、もう一つは、所有者、特に海外にお住まいの方がお持ちになるということで、今まで、なかなか連絡がつかない、管理費がなかなか回収できない、あるいは総会の委任状が集まらないといったことに対しては、今回の法律で御用意している国内管理人制度がしっかりと機能していくというふうに考えておりますので、そういったことを規約でしっかり位置づけていく必要があると思います。
○鳩山(紀)委員 どうもありがとうございます。
このような問題に関しても適切な対応が今後は求められていく、特に、新しいマンションを投機的に購入をする外国人の方々も増えておるという現状がございますので、その辺りに関してもまた御意見を伺わせていただきたいというふうに思っているところでございます。どうもありがとうございます。
それでは、損害賠償請求権の話に関して、私の方からも何点かお伺いをさせていただきたいと思いますけれども、これは、ひょっとしますと参考人の皆さんで討議していただいた方が早いのかもしれませんが、そういうわけにもいきませんので、私の方で少し玉出しをさせていただきたいと思いますが、今回、元区分所有者の方が別段の意思表示をすれば、転売後も損害賠償の請求権を持ち続けられるというふうになっておるわけですけれども、これが改正案の中にこのような形で入ることになったその理由と申しますか、その議論の経緯というものを、もし可能でしたら齊藤先生、沖野先生、御紹介いただけないかと思います。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
先ほど、私も法制審議会に出てというふうにお話を申し上げました。そのときに、先ほどからおっしゃられているように、管理組合、区分所有者のことになったら一元的にそういうことが請求できるのがよろしいのではないかというふうに発言申し上げたところ、法律の先生方から非常に丁寧に御説明いただきまして、基本的にはそういう、前の区分所有者の方の権利を奪い取ることはできない、今、沖野さんの方からも御説明があったように、そういう説明がございましたので、それでは、そういう問題が絶対起こらないように、つまり、何か、しっかりと修繕ができない体制になってはいけない、あるいは元区分所有者の方がそうした権利を悪用してはいけないということで、それの中で何ができるのかということで管理規約ということを、最終的な案になってきたというふうに私は理解しているところでございます。
○沖野参考人 ありがとうございます。
別段の意思表示という規律が入ったその経緯についてでございますけれども、管理者への一元行使を委ねるということに対しては、本人に対して代理人という形になりますので、誰に自分の権利を行使させるかということについての決定ということになります。
そして、本人がその後コントロールできないという状態で強制的に管理者に委ねるという規律にしてしまうことが果たして正当化できるのかという点について、もしそれが望ましくないということであれば、しかも、明確に意思表示をしてくださいということによってそれが支えられるのではないかという考え方でございます。
この背景には、もちろん管理者が非常に適切にやっておられるということもあれば、しかし、管理者がきちんと機能していないということもありまして、自分でやりたいということだって場合としてはあるということを考えてのことですので、やはり、多様な状況に対応しつつ、かつ正当化を図るという観点から、最後の支え石のようにここが入っているということでございます。
以上です。
○鳩山(紀)委員 ありがとうございます。
先ほどの陳述されたお話も伺いまして、沖野先生にお伺いしてみたいと思っておるんですけれども、この別段の意思表示というのが、お話をお伺いしておりますと、損害賠償請求権を放棄をするという別段の意思表示というのが前提になっておるのかなというふうに感じたところでありまして、一方で、反対意見を述べられていらっしゃる方々は、放棄しない意思表示のことを別段の意思表示というふうにおっしゃっているのかなと感じたところがございました。
その放棄をするしない、どちらの方向、前提というふうに捉えておられているのかなというところを確認をさせていただきたいと思うんですが、よろしいでしょうか。
○沖野参考人 ありがとうございます。
二十六条に規定します別段の意思表示は、自分が持っている損害賠償債権を、管理者が行使するのか、それとも自分で行使するのかという点についての意思表示でございますので、基本的には管理者が行使するんですけれども、私としては自分でやりたいというときには別段の意思表示という、そういう性格のものでございます。
○鳩山(紀)委員 ありがとうございました。よく分かりました。
ほかの先生方も含めてお話を伺っておりますと、法律ですので、最終的に判断するのは裁判所の判断ということになってまいるのかなというふうに思いますが、その前で、ルールを作る上ではできるだけ現実に即した合理的なルールを作るというのが重要だということを踏まえますと、これは私の捉え方ではありますが、区分所有権といわゆる共用部分の損害賠償請求権というのは、これは分けるということよりも不可分と考える方が合理的なように私には思われたんですけれども、それは、先ほどから御説明もあったかもしれませんが、改めて、なぜこれは分けるべきというところが必要なのかを、法学的な側面からも御説明いただければと思います。
○沖野参考人 ありがとうございます。
これは元々どういう性格のものなのかということでございまして、例えば、共用部分を壊されて、それに対して不法行為の損害賠償債権を持つということであれば、区分所有者全員について、その不法行為という行為について、それによって損害賠償債権を持つということなんですけれども、現在議論しておりますのは、各人が契約をして、売買契約によって目的物が適合したものをもらえるという、その地位が約束したとおりに履行されていないということに伴う損害賠償債権ということでございますので、契約上の地位によって発生するというものでございます。
そのことと、所有権、物権レベルでの区分所有、あるいは共用部分についての共有関係というのは、そもそも権利関係としては性格が違うものということになります。これをどう連動させていけるかというのが今問題になっているわけなんですけれども、出発点はそもそも別であるというところからスタートしているということでございます。
○鳩山(紀)委員 ありがとうございます。
最後に、神崎参考人から最終的にこのようにすべきではないかという、この資料に基づきますと、「あるべき法改正」というところで御提案があったと思いますけれども、それに関してどのように受け止めておられるのかについて、齊藤先生、お伺いできればと思います。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
先生方の中で御議論がございましたが、私としては、今、原案、示されているもので対応していくということがよろしいのではないかと思っています。
おっしゃるように、いろいろな問題があるというような御意見もありましたが、意見がまだまだ対立しているというか、考え方がいろいろあるという中で、しっかりとその考え方の基盤を共有していくということが重要だと思います。今後、そういったことで裁判の争点にならないようにということも含めて、今はしっかりとできることを捉えて、その中で今、規約の中で対応していくということで、何が大事かというと、そういう問題が起こらないようにすることが大事ですので、そこにしっかりと向き合って力を注いでいくことが今は必要ではないかと思っているところでございます。
○鳩山(紀)委員 ありがとうございます。
そのような御意見でございましたけれども、中野先生、神崎先生、もしそれに対して何か御意見がありましたら、お願いいたします。
○神崎参考人 まず、物権と債権は違うんだという沖野参考人の御意見ですけれども、不法行為の場合であれば分かるけれども、今回の場合、議論になっているのは契約に基づく請求権だからとおっしゃっているんですけれども、まず第一に、契約に基づく請求権であっても物権移動によって移転することは幾らでもあるわけで、例えば区分所有マンションにおいては敷地権というのがありまして、敷地権は、マンションの敷地権の中には賃借権も含まれているわけですけれども、区分所有権を移転すると敷地権も当然に移転することになっています。分離処分は禁止されているわけですね。とすると、契約上の権利が物権変動によって当然移動する例というのは区分所有法自体が予定している、それは別に特別なことじゃなくて、区分所有法の世界においては別に特別なことではないと考えております。
また、不法行為と契約責任を別々に考えればいいじゃないかというようなことをおっしゃいますけれども、それは訴訟実務においてはちょっと考えにくいことでして、それは何かと申し上げますと、欠陥住宅訴訟なんかにおいては一次的に契約責任を追及し、二次的に不法行為責任を追及するというようなことが例えば時効なんかの関係であり得るわけですけれども、そうしたときに、今、我々が主張しているような当然承継でしたら、契約責任であろうが不法行為責任であろうが請求権者は単一です、同一です、変わることはありません。
ところが、沖野参考人がおっしゃるような立場によれば、不法行為責任を追及する場合には別の新区分所有者になって、そして契約責任を追及するときには旧区分所有者と、法律構成によってばらばらになってくる可能性があるわけですね。こんな訴訟、成り立たないですよね。極めて非現実的な案と言わざるを得ないです。
管理規約による対応というのは極めて非現実的で、管理規約の普及率も低ければ、標準管理規約を知らない管理組合が圧倒的に多い現実がございますので、ちょっと時間の関係がありますので、また機会がありましたら御説明申し上げたいと思います。
以上です。
○鳩山(紀)委員 どうもありがとうございます。
引き続き国民の財産をきちんと守っていけるような、そういう法律にしていきたいというふうに考えておりますので、引き続き御指導いただければと思います。
どうもありがとうございました。
○井上委員長 次に、赤羽一嘉君。
○赤羽委員 公明党の赤羽一嘉でございます。
今日は、四名の参考人の先生方におかれましては、大変お忙しい中、国会まで足をお運びいただき、また貴重な御意見をいただきましたことに心から感謝を申し上げたいと思います。
また、何名かの先生方におかれましては、国土交通省、法務省の審議委員のメンバーとして、今回の法改正にも大変な御尽力をいただきましたことにつきましても重ねて感謝を申し上げます。
まず、私ごとになりますけれども、大変感慨深いものがございまして、私は神戸市の選出でございまして、初当選が一九九三年でございます。初当選の一年半後に阪神・淡路大震災に遭遇をして、私も東灘区の震度七の激甚災害地域のマンションに住んでおりましたので、大規模半壊ということで住めなくなった。数多くのマンション、壊れるはずという想定がなかったマンションが一瞬にして全部滅失した。
当時は、マンションに関する法律というのは全くなくて、民法と区分所有法で様々な対応をしていかなければいけない。複数棟があると、複数棟のうち二棟は全然大丈夫だけれども、一棟は全壊しているのでということで、住民の中でも大変な論争があり、十年以上かかった訴訟もまだたくさんあると。大変な状況の中で、マンションに関する新しい住居形態の法律を作らなきゃいけない。あのとき、私、今でも覚えていますけれども、マンションというのは法律用語に一つも入っていない、それはびっくりしました。
その中で、まずやったのは区分所有法、民法で、建て替えというのは全員賛成じゃなければいけない。しかし、当時の委員会でも、五分の四にすること自体が、やはり少数者の利益ということで、それを反対された政党もあった。そうした時代だったことから、今、こうした時代の変遷の中でここまで変わってきたということは、様々な時代の状況の変化があったと齊藤先生から非常にまとまったお話がございましたけれども、そうしたことに対して法改正をしてくるというのは非常に大事なんじゃないかなというふうに思っておるところでございます。
あと、ちょっと余談になりますけれども、私も国土交通部会長として、耐震化診断も無料でできる、一〇〇%国がやると言っても、実際は診断しないマンションが多くて、診断をして瑕疵が見つかったら価値が落ちるという、何か命よりマンションの価格の方が大事なのかなと思いながらも、そうしたこと、なかなか集合住宅の難しさというのを感じながら、二〇〇〇年にはマンション管理適正化法という、初めてマン管法という法律ができ、その後、二〇〇二年にマンション建替え円滑化法という、地元の戎先生を始め大変な御努力をしていただいて、法律を作ったわけでありますが、残念ながら、このマンション建替え円滑化法も、現在ではまだ三百件足らずで、二万四千戸ぐらいしか建て替えができていない。
やはり、今回の法改正にも入っていると思いますが、建て替え一本足打法だとなかなか難しい。様々な対応、選択肢がなければ難しいんだなと。百戸ぐらい入っていますと、それぞれの居住者の経済状況というのは違いますし、年齢構成も違いますので、本当に集合住宅の再生というのは難しいな、こう思ったのが当時の記憶でした。
それからもう三十年たつ中で、先ほどからお話が出ていますが、老朽化マンション、築年が四十年以上が随分増えてきて、まさに、私は当時、マンションを買う人というのは、買ったらおしまい、その後は知ったこっちゃないし、壊れるはずがないと思っていたのが、最近では、買った後、解体するまで責任を持たなきゃいけないとか、管理をするのも、それは居住者も責任を持たなきゃいけないということの意識を本当に高めていかなければいけないという意味で、今回の法改正も私は大変重要な意味合いがあったというふうに思っておるところでございます。
その中で、新築時から管理計画というものが導入されるということは私は大変画期的なことだと思いますし、分譲マンションを売ったらおしまいみたいなマンション業界もあったと思いますけれども、そうしたことを修正するというのはすごく大事ですし、もう一つは、やはり、先ほど鳩山さんの質問にもありましたが、外国人が大半を占めていくということが物すごく多くなっていて、多分、通知で云々というときも、日本語だけで通知をしていると、そうしたことも、少し細かい話ですけれども、外国語の通知というものも義務化するような形にしないと、知らなかったうちに何か集会が行われたみたいなことも、やはり配慮しなければいけないのではないかというふうに私は思っているところでございます。
そこで、まず、齊藤先生に質問なんですけれども、一つは、区分所有者の大半が国内の定住者じゃないというケースが出てくると思うんですね。私は、よく、外国のビジネスマンとかで年中来ている人に、どこに住んでいるの、どこのホテルに泊まっているのと言うと、いや、六本木のマンションを持っているんだとか。こいつ、ひょっとして一棟丸ごと持っているのかなと思って、怖くてそれから聞けないんですけれども。そういった、都心のマンションではほとんどそうで、今の価格形態ですと日本人が買えるような状況じゃないんじゃないかということ。
この質問も、区分所有者が全員外国人、定住していないといった場合に、今後やはり新しい制度ということも考えなきゃいけないんじゃないかということについての御所見をまず聞きたいということが一つと、もう一つ、管理不全マンションの存在。
神奈川県逗子市で擁壁の崩壊があって、女子高校生が亡くなられた。擁壁について、修繕費用の積立てには入っていないと思うんです、莫大な費用ですから。ここに地方自治体の関与というのが入るのはすごく大事な修正だと思うんですが、しかし、実際、地方自治体がどこまで関与できるのかなということは若干懸念があります。
ですから、この二点について、地方自治体の関与が入るんだけれども、その実効性をどうしていくのかというのが一点と、もう一つは、ちょっとこれは仮定の話ですけれども、区分所有者が、ほぼ大半が、過半数以上が定住者じゃないというケースについて、新しい制度というか、ルール決めの必要性をどう認識されているのか、齊藤先生から御所見をいただければと思います。
○齊藤参考人 御質問どうもありがとうございます。
一点目の、海外にお住まいの方が多い区分所有のマンションについてということで、今回、国内管理人制度というのができます。それが、今回の法律の中では義務ではないですが、規約の中で必ず設定してくださいねということができるということが大きな前進かと思います。そういうふうに過半の方々が海外に住んでおられるというマンションでは、是非そういった形で国内管理人制度をしっかり活用していくということをしっかりと検討していく、実行していくということが必要ではないかと思っています。
それから、二つ目のは、多分、長期修繕計画の適正さということだと思うんですね。修繕積立金を立てています、その根拠になる長期修繕計画が本当に適切なのか、必要な項目がきちんと入っているのかということが問われるかと思います。どうしても建物だけ見ていますから、附属施設が含まれないとか、先ほどの地盤の側面が含まれていないということがありますので、それを適正なものにしていくということ、これは今後、それが分かる建築の方々なども含めて、そうした長期修繕計画の適正化、そういった、うちのものは適正かどうか、ちゃんと造りたいよというような要求があれば、例えば自治体に相談したらそういう専門家が派遣できるような体制をしっかりとつくっていくということが必要ではないかと思っております。
○赤羽委員 本当に、これからのマンション、老朽化が進んでいるところに入る以上は、管理の重要性というのは、そもそもの意識の向上とか管理体制の在り方、今回の第三者管理者方式等々も入るわけですから、こうしたことをしっかりと実効性を持って実現していく。なかなか、周知徹底して、既にあるマンションが、元気のないマンションでしたっけ、そうしたところも多い中でどうするかというのは、私も大きな課題だと思っております。
もう時間も限られています。あと一問、問題の二十六条のところなんですけれども。
私は法律家じゃないので、法律の議論は先生方に任せるといたしまして、政治家ですので、最終的にどうなのかということが大事で、要するに、今回は、共用部分の欠陥の補修が困難になりかねない部分、これは、今日のお二人の先生方は当然承継を入れるべきだという御意見、よく分かりますし、何となく、専門家じゃない私なんかはそっちの方が分かりやすいなとか思ったりもします。
しかし、さはさりながら、標準管理規約の改正を明記して、その対応で解決をしていくんだということがこの法改正の方向性だと思っておるんですが、このことについて先ほど神崎先生は、それは徹底されないという否定的な意見もありましたが、私は、こうしたこととか、先ほど沖野先生から譲渡契約の在り方ということも、そうした意識を持ちながら、やはり、これから意識革命をしていくということがすごくこの法改正で大事なことなんじゃないか、そうしたことも含めて対応するべきだというふうに思います。
この点について、標準管理規約の改正によって御指摘の問題点、懸念はクリアできるのではないかということで、私、与党ですから、そうした立場で法改正を出しているわけでありますので、そのことについて簡潔に、神崎先生が言われたことはもうよく分かりましたので、中野先生も同様かと思いますが、中野先生からと沖野先生からそれぞれ簡潔に御答弁いただいて、私の質問を終了させていただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
○中野参考人 御質問ありがとうございます。
基本的には、今、神崎参考人が申し上げたとおりだというふうに思います。
私も、管理規約によって改善すべき、それから意識改革をどんどんすべきという、本当に、意識改革については当然のことだと思います。ただ、規約の改正についての普及率、標準管理規約がどの程度普及しているのかについては非常に低い、そういうデータもあるというふうに伺っておりますので、それよりもやはりしっかりと立法でカバーしていただいて、今困っている人たちの救済をしていただく必要があるかというふうに思っております。
以上です。
○沖野参考人 ありがとうございます。
私も、先ほど申し上げたとおり、標準規約の改正で全てを対応できるということでは必ずしもないというふうには思っておりますが、しかし、それによる対応というのはかなりのところ図れると思っておりますし、それから、まさに標準管理規約という形で、これからの区分所有の在り方を、より法律の下で、まさに最良のものにしていくということですから、低いということよりは、これをいかに高めていくかということに御尽力いただくというのがよろしいのではないかと思っているところでございます。
以上です。
○赤羽委員 どうもありがとうございました。
今の最後の点も、多分、国土交通省もそうしたことを思いながら行政府として責任を持ってやるということ、我々の立場としても督促をしながら引き続き頑張っていきたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたしたいと思います。
今日は大変ありがとうございました。
○井上委員長 次に、たがや亮君。
○たがや委員 れいわ新選組のたがや亮です。
本日は、お忙しい中、参考人の皆様、ありがとうございます。
時間もないので、早速質問させていただきたいと思いますが、まず、神崎参考人にお伺いします。多分、質問がかぶると思うんですけれども、先ほど、まだ話し足りないこと、いっぱいあろうかと思いますので、十分しゃべっていただければなと思います。よろしくお願いいたします。
法務省は、マンションの共用部分に欠陥があった場合の損害賠償請求権について、売却などで所有権が移った場合に損害賠償請求権も自動的に移る当然承継を採用しなくても、改正法案にプラスして、マンションの標準管理規約の改定という実務的な対応で十分に対応できると説明しています。
具体的には、標準管理規約を改定し、管理規約において共用部分について生じた損害賠償金の使途をあらかじめ定めることで、元区分所有者が有する賠償金を確実に修繕費用に充当することができるということになろうかと思います。そして、国交省がマンション管理士や管理業者などの関係団体を通じ各管理組合に周知徹底するという実務的な対応をするとのことですが、このような方法で本当に実際にうまくいくのかということと、今回の改正法案が成立したとして、管理規約が改定される前に区分所有権が譲渡された場合はどうなるか、その御見解をお伺いします。時間を気にしないで、どうぞ。
○神崎参考人 ありがとうございます。
まず、後者の御質問から答えた方が分かりやすいかと思います。
まず、管理規約の改正には遡及効がありません。管理規約を改正した後の法律関係のみを規律することになりますので、標準管理規約を改正して、かつ、それに従って各区分所有マンションの管理規約を改正して初めて効力を持つんですけれども、それ以前に転売して出ていった人にはその効力は及びませんので、多くのマンションでは問題が解決しないということになります。
それから、果たして標準管理規約やその改定で解決するのかという、国交省の方針で解決するのかという点については、データをつけておきました。資料二ということで、私の資料の九十四分の七を御覧いただきたいんですけれども、令和五年度マンション総合調査結果を配付させていただいていますが、その三百九十二ページ、下のページで、通しページで九十四分の九というところです。これを見ると、マンション標準管理規約の認知状況の調査結果が出ているんですけれども、マンション標準管理規約を全く知らないという人が三〇・一%、名前ぐらいは聞いたことがあるというのが三〇・九%と、実に六〇%以上の人が、ほとんど普及していないんですよ。
それから、その前のページ、百五十一ページ、九十四分の八ですけれども、マンション標準管理規約への準拠状況の調査結果を見ると、令和三年度改正後の標準管理規約におおむね準拠しているが三五・九%であり、約三分の二程度の管理組合では標準管理規約に即応していないということが分かるわけですね。
国交省が定めるのは標準管理規約というモデル規約であって、お手本みたいなもの、これに従って改正してもらったらうまくいくんじゃないですかというひな形みたいなものを示すわけですけれども、それがそもそも行き渡っていないし、そのとおりに改定されていないというのは、もうデータ上はっきりしているわけですね。これで手当てができるんでしょうかというのを申し上げたい。
それから、もう一つ申し上げると、先ほどから何人かの先生方が指摘されている外国人取得者の問題です。
これについても資料をつけておきました。資料四です。九十四分の十二ページ。ちょっと横になって恐縮ですが、丸いグラフが載っているページですけれども、これは、都心部では、外国人が購入者の二割から四割以上のマンションが七割程度に及んでいる。実に七割ものマンションで購入者の二割から四割が外国人であるということになっているわけです。その多くは、投資目的ないし将来転売予定の、永続的居住を目的にしていないものと思われます。
利益に敏感な区分所有者が書面による反対すらしないということはあり得ないので、規約改正をしようとしてもスムーズな改正にはならないんじゃなかろうかということで、思っておられるような改定にはならないのではないだろうかということを考えております。
法律改正の全国一律の規制に対して、管理規約の改正は極めて不合理です。全国の管理組合で個々に規約改正を行うということは膨大な時間と労力の無駄になる上ばらつきが生じるので、これでは対応できないと思います。
以上です。
○たがや委員 ありがとうございます。
これは、やはり、共用部分という特殊なケースにおいて、それが誰の財産であるかということの争いなんですけれども、特殊なケースなので、こういったことというのは、共有の財産という部分、単なる財産権という形でなくて、しっかりと特別法でそれを担保していくという形が僕は一番望ましいとは思っているんですけれども。
では、次も神崎参考人に伺いますが、今回の改正法案が成立して損害賠償請求権が旧区分所有者に残ってしまう問題が現実化した場合、例えば、五年後に改めて当然承継案で法の改正が行われたとしても、個々の元所有者に損害賠償請求権などが残ってしまう状態が固定化してしまうなど、大きな問題があると思いますけれども、そこら辺に関してはどのように思うでしょうか。
○神崎参考人 ありがとうございます。
この点については、先ほども御説明させていただいたとおりなんですけれども、一旦、旧区分所有者が共用部分の瑕疵についての損害賠償請求権を分属して持っていて、それを外に持って出られる、そして個別行使できるという法律が成立してしまうと、もう取り返しがつかない状態になるということを申し上げました。
それが最大の問題なわけですけれども、翻って言うならば、旧区分所有者に損害賠償請求権があることについて区分所有法で新たに定めてしまうということは、これは創設規定で、区分所有法の規定でそんなものを定められるわけはないので、恐らくなら、沖野先生などはこれは注意規定と考えておられるだろうと考えるわけですね。
そうすると、このような別段の意思表示があって、自分が請求するということを言えば自分で請求できる、分割請求もできるという法律が制定されてしまうということになりますので、これは遡及効を持ってしまう。逆に、今回の二十六条改正が遡及効を持ってしまうことを意味するわけですね。
当たり前じゃないかと思っておられるかも分からないけれども、今までそんな例は見たことがないんです。旧区分所有者が外に出ていったのに、共用部分についての損害賠償請求権を個別に行使されている例なんていうのは見たことがないのに、それがこれからできますよということになったら、えらい問題になるんじゃなかろうかと思っているわけです。
例えば、三井不動産レジデンスが分譲したパークシティLaLa横浜は、二〇〇七年に完成した七百五戸のマンションですけれども、八年後の二〇一五年十月に、くいが支持層に到達しておらず傾いてくるということが判明して大問題になった。その後、建て替えとなって、区分所有者は相当手厚い賠償を受けたことになっているわけですね。これは報道でよく出ています。当然のことながら、分譲からこの建て替えの問題が起こるまでの八年間あるわけですので、転売も当然生じていたと考えられます。この件で、旧区分所有者が権利行使したなんて例は聞いたことがないです。
ところが、今回の二十六条改正案が通ってしまうと、あっ、そうなの、自分たちにもあったのということを皆さん知ってしまうわけですね。そうすると、遡って、もう売って出てしまった人たちが、あの新区分所有者が賠償を得ているんだったら、自分も、自分にこそ権利があるんじゃないのと権利行使するかも分からないですよね。
つまり、過去の法律関係を覆滅させるということでいうならば、今回の二十六条改正というのも、当然承継説についてすごく問題だ、遡及効があるのは問題だということを言われるんですけれども、今回の二十六条改正案も物すごい問題を生じるんじゃないでしょうかというふうに考えます。
以上です。
○たがや委員 ありがとうございます。
結局、この改正法案で、分属帰属という部分で解釈をして、それで、契約書若しくはマンション規約というところで担保していこうということだと思うんですね。
今までの内容は、当然承継という形で何となく、誰もそれで問題にせず、うまくやってきたにもかかわらず、二十六条の改正によって、寝た子を起こすといってしまうこと。
また、今の世相だと、どうしても、外国人の投資家、個人投資家等々が、かつての目的とは違う目的でマンションを所有しているということだと思うので、今、分属帰属の考え方で進んでいますけれども、当然承継の法改正をして、それで逆に、契約書若しくはマンション規約で、そこで縛りをかけていくということも可能だと思うんですけれども、それってどうなんですかね。当然承継の考え方に基づいて、そこで、旧所有者の財産もいろいろなケースがあるから、それを守ろうというのであれば、分属帰属の考え方じゃなく、当然承継の中でそれを行っていくという考え方もできると思うんです。
それを、もしできれば、神崎参考人と沖野参考人にちょっとお伺いをしたいなと思います。
○神崎参考人 当然承継案という我々が主張している案は、取り立てて特別な考え方と私は考えておりません。現在の区分所有法の共用部分の共有持分に関する考え方と極めて親和性があるといいますか、むしろ、論理必然的な考え方だと考えておりますので、これに沿った改正をするというのは、あくまで注意的な改正であって、特段の手当てをしなくても、当然に、これまでの関係を崩すものではないと考えておりますけれども、それを確認的に明確にしておくということは非常に重要なので、それは、先ほどから問題になっている、規約で手当てとか、契約書で手当てというような曖昧なものではなくて、法令で画一的に手当てすることこそ意味があるのではなかろうかというふうに考えている次第です。
そして、この問題が非常に特殊だということはおっしゃるとおりでして、私は、これは民法理論とは全然別物だということを考えておりまして、民法の世界の話を区分所有マンションの共有という非常に特殊な共有の関係に持ち込んでしまうからややこしいことが起こるわけであって、民法は民法として完結していればいいんだけれども、区分所有マンションにその考え方を持ち込むというのは、誤った、ゆがんだ共有の管理の仕方を持ち込んでしまうので、そういうことをするから、マンションの二つの老いが直らないんじゃなかろうか、改善されないんじゃなかろうかと思います。
以上です。
○沖野参考人 ありがとうございます。
お考えは、一つ、分属の話と当然承継の話を一応区別をさせていただきます。
分属自体は、損害賠償債権自体が各人に帰属しているという話で、ここはもうずっとそれで、これまでの改正もありましたので、それは前提になっているということだと思います。
問題は、区分所有権を譲渡したときに、その債権がついていくのかという、そこのところで、それを当然承継を入れることによって、例えば、これまでから問題とされていますような、もう既に瑕疵が判明した段階で譲渡をせざるを得なくなっているとか、あるいは、もう修補もしたのに、その後、きちんとしたものだということで譲渡はした、しかし、損害賠償はどうしますかというような場合については、規約ですとか譲渡契約で対応することでどうかというお考えだと思います。
ただ、ちょっと私の方でよく分かりませんのは、どういった規約の内容を考えればいいのかといったことでして、例えば先ほどのお話で、もう修補がされるような場合は、積立金ですとかあるいは管理費などから修補をしてしまって、その後は、別にもう修補できるから問題ないということですけれども、にもかかわらず、管理者が回収したら、その回収金はどうなるのかと。
今まで、補修に充てるというのは、端的にそれを補修に充てるということはできなくて、あくまでそれぞれの区分所有者が持っている債権ですので、その人たちが修繕積立金を積むとか管理費を払うとか、そういうところをそれに充てるとか、債権の相殺とか、そういう処理をしてやっているわけですので、じゃ、その回収金をどうしますかというような問題がまた出てくるわけです。そうすると、一体、規約でどういうような問題に対応したらいいのかということがまだ十分には分からないところがありまして、規約で詰めていくということが果たしてうまくいくのかということもちょっと疑問に思うところです。
以上です。
○たがや委員 参考人の皆様、ありがとうございます。次の質疑に生かしていきたいと思います。
ありがとうございました。
○井上委員長 次に、堀川あきこ君。
○堀川委員 日本共産党の堀川あきこです。
今日は、参考人の四人の皆さん、お忙しい中、国会の方に出向いていただいてありがとうございます。
私からも損害賠償請求権の問題についてお聞きをしたいんですけれども、その前に、マンション管理、今回のマンション法改正案の今後のマンション管理の在り方そのものについて、齊藤先生の方に御意見をお聞きをしたいと思います。
一つが、タワーマンションの管理の課題についてです。
先日、この法案質疑の中で、タワマンの問題について法案質疑を行ったんですけれども、今後、今、タワマンが都市部を中心に乱立をしているわけなんですけれども、これが老朽化して管理不全になろうものなら、周囲に与える影響というのは本当に甚大だというふうに思うんですね。ただ、先日の質疑で、タワーマンションが抱える課題というのは他のマンションと大して変わらないというふうな答弁があったんです。
ただ、投機目的の購入であったり、先ほど来からもありますように、外国籍の方の購入なども増えているというふうな中で、マンション内の合意形成が困難なように見受けられます。
このタワーマンションについて、齊藤先生、以前にもこの管理の課題について幾つか御指摘をされていると思うんですけれども、そのお考えと、どのような管理の在り方が望ましいのかということでお聞かせいただければと思います。
○齊藤参考人 御質問どうもありがとうございます。
タワーマンションというのは、おっしゃるように、都市に与える影響が大きいために、やはり、タワーマンションというものをどういうふうに造っていくのかというのは、都市計画やまちづくりとの、そのプランの中でしっかり位置づけていく必要があると思います。
そして、タワーマンションというのも、私もここには問題が多いんじゃないかと思っていろいろ研究させていただきましたが、結論として申し上げますと、タワーマンションだからこんな問題が起こるというよりか、いろいろな要因が入ってくる。例えば、規模が大きい。そうすると、一般的にマンションで規模が大きいと、どうしても参加への関心が低くなっていく、あるいは合意形成が難しい。そして、さっきおっしゃられましたように、高さが高いことによって、持たなければいけない建築の様々な施設があるというようなことから、専門性が求められていくということがあります。
そして、何か、修繕費が足りないね、じゃ、値上げをしようというふうになってもなかなか合意形成ができないということがありますので、やはり一つは、他のマンションと同じように、基本的には、管理の初期設定をちゃんとして、そして修繕積立金が足りないということがないようにというようなこと。
それから、管理が適正に行っていけるようにという意味では、先ほどから御案内しているような、管理計画認定制度をしっかり取って、それを目指してみんなで共通の目標にしていきましょうよ。例えば、資産価値にすごく敏感な人たちは、そういったことを取ることによって資産価値が上がるということに合意をしていただきやすくなると思いますので、そういう意味では、目標像をしっかり共有して、みんなでしっかり管理をしていくということをサポートしていく必要があるのではないかと考えているところでございます。
○堀川委員 ありがとうございます。
それでは、もう少し、時間があれば最後にまたお聞きをしたいと思うんですけれども、先ほど来から論点になっています損害賠償請求権についてお聞きをしていきたいと思います。神崎弁護士にお聞きをしていきたいと思います。
二十六条の損害賠償請求権について、改正案では、管理者が旧区分所有者を代理することを認めた上で、ただ、別段の意思表示をした場合はその限りではないというふうなことで、その問題点について、ちょっと改めて見解をお聞きできたらというふうに思います。
○神崎参考人 御質問ありがとうございます。
まず、理論的な問題として、おっしゃっている御指摘の点につきましては、理論的に二個問題があると思っております。
まず、別段の意思表示以前に、共用部分の瑕疵に関する損害賠償請求権が共用部分の共有持分権と同様の性質を持つのに、そもそも区分所有関係から離脱した旧区分所有者に帰属を認めること自体が、区分所有法十五条一項の随伴性や十五条二項の分離処分の禁止に反するという前提で、分属しているということ自体が間違っているんじゃないかという、その一点目。
そして、その行使方法において、別段の意思表示というのは、管理者が一元行使すべきものを、別段の意思表示によって個別行使を認める法律になりますので、自己の持分の請求権を別途に個別行使することを認めるのは、共用部分の分割請求を認めるに等しいので、区分所有法の大原則に反する。
そういう意味では、理論的には、その二つの大きな問題があります。
そして、実態的に見た場合には、これは完全な補修を阻害するという問題があります。このような分属を認めて、別段の意思表示を認めると、共用部分の欠陥の一〇〇%補修が実現できなくなるわけですね。
例えば、訴訟手続上で考えてみると、紛争解決を阻害するわけです。実際の欠陥マンションの訴訟プロセスで考えても、極めて不都合な事態を招きます。別段の意思表示は訴訟提起後でも可能とされているので、恐らくなら、和解を阻害するであろうと考えられます。
訴訟上の和解協議は、瑕疵修補による和解提案が業者側からなされることもあって、マンションのような大規模建物の場合、修補による和解の方が現実的なケースもあり得るんですけれども、旧区分所有者は瑕疵補修では何ら得るところがないために、業者が瑕疵を認めて瑕疵修補を申し出た途端に別段の意思表示をして、金銭賠償を要求する可能性が高い。瑕疵を認めているんだったら、修補せずに私にお金をよこしなさいよと、別段の意思表示をそのタイミングでしてくるということになろうかと思うんですね。せっかくの補修和解が頓挫する結果を招く。
あるいは、管理組合は、和解するために、具体的な和解内容を議案として管理組合総会に諮り、決議を経る必要があるんですけれども、和解協議の最中に旧区分所有者から一人でも別段の意思表示がされれば、そのたびごとに総会決議を取り直さなければいけないということになって、和解の機会を奪うでしょう。
そして、訴訟提起後に別段の意思表示がなされるのは、このような解決が近づいたときである可能性が高く、旧区分所有者が自ら訴訟追行するリスクやコストを取らずに、漁夫の利を得ようとして紛争解決を阻害すると思われます。
このように、団体訴訟である欠陥マンション訴訟において個別行使を可能とするような仕組みを組み込むこと自体が間違っていると思います。
また、今申し上げたのは訴訟のプロセスですけれども、訴訟が終わった後、現に賠償金が得られた後に、よこせと言うことができるわけですね。別段の意思表示もしないまま、そのまま訴訟を終わって、賠償金が得られることになったときに、自分の持分をよこせと言えるということは、非常に不都合が生じますよね。補修ができなくなっちゃいます。
もし和解の補修工事が完了していたら、現区分所有者全員に対して、旧区分所有者から不当利得返還請求ができてしまうということも考えられるわけです。そうした場合に、例えば修繕積立金を差し押さえて、自分の分をよこせと言われてしまうと、せっかく補修できているのに、今後の改善計画が成り立たなくなってしまいます。
このようなことを許すということが、そもそもたてつけとしておかしいんじゃないかと思っております。
以上です。
○堀川委員 詳しい御説明をありがとうございます。
この改正案の二十六条の五のところ、旧区分所有者への通知についても定めてあります。この管理者が旧区分所有者を代理して原告又は被告になった場合、管理者は遅滞なく旧区分所有者にその旨を通知しなければならないというふうな規定になっているわけなんですけれども、管理者の立場の方々から、この点について様々な懸念、実際お聞きもしました。
この旧区分所有者への通知に関して、神崎先生の御意見をお聞かせください。
○神崎参考人 御質問ありがとうございます。
これは、極めて重大な問題もそこにもあります。
戸数の多いマンションで転売が多数生じている場合、多数の旧区分所有者に通知をすることは非常に困難であり、場合によっては事実上不可能となります。
私の配らせていただいている資料三、九十四分の十を御覧いただきたいんですけれども、これは国交省の資料で、マンションの流通量を示しているわけですけれども、二〇一五年以降の九年間で見ても、既存マンションは毎年十三・五万戸から十六万戸、この九年間の間に百三十二万戸が譲渡されています。仮にマンション戸数が七百万戸と仮定して、単純計算しても一八・九%、実に二〇%近くが転売されていることになるわけですね。
そうすると、そのような多数の旧区分所有者を調べて、どこに住んでいるかを調べて通知をするということは極めて非現実的で、不可能を強いるものじゃなかろうか。しかも、それが旧区分所有者による請求行為を招いてしまう。旧区分所有者が別段の意思表示をするきっかけになるだろうし、あるいは、別段の意思表示をしなくても、賠償金が得られた後に分割要求をする契機になる。このようなものを管理者に課すというのは、非常に不都合だなというふうに考えております。
以上です。
○堀川委員 ありがとうございます。
本当に物すごい実務量になってしまうということと、なかなか難しい作業になっていくというふうなお話なんですけれども、その中で、旧区分所有者の住所を調査をするという方法もあれば、それで大変苦労されたというお話が先ほどもありましたけれども、あとは公示による通知についても今回認められるということになるんですけれども、こうした措置ではやはり不十分というふうなお考えでしょうか。
○神崎参考人 御質問ありがとうございます。
確かに、この場合の通知は、意思表示に準じて、民法九十八条の準用により公示送達申請手続を取り得る可能性があります。債権譲渡の通知なんかと同じような形ですね。しかし、公示送達申請手続には手間とコストがかかります。まず、要件が非常に厳格でして、いわばフィクションで届いたことにするわけですので、住んでいないことがはっきりしなきゃいけないわけですね。
そのためには住所をきちんと調べなきゃいけないということで、現地に赴き、例えば具体的に言うと、住所地とされるところに、現地に赴いて、近隣に聞いて、あそこに住んではりませんかねということを聞いて回ったりとか、郵便受けを調べたりとか、電気メーターとかが回っていないかを調べて、夜、電気がついていないか見に行けとか、昼間は分からぬから、夜、見に行けとか、洗濯物が干されていないかとか、そういうことを見に行けというようなことを裁判所から言われたりするわけです。
ポストの中なんか、どうやって見るんですかという話なんですけれども、裁判所は平気で言うので、プライバシーの侵害じゃないかと私なんかは思うんですけれども、そういうことをやった挙げ句に、それが遠方だった場合、一体どうするんですかという話になるわけですね。それが一件だけでも大変なんです。
我々は、訴訟をやるときに、公示送達という手続になったときに、そういうふうな手続を取らなきゃいけないことが間々あって、泣きながらやるわけですけれども、これがマンションになって、先ほど申し上げたように、私がやった事件でしたら、六百五十四戸の中で百五十戸も移転している。百五十戸、全部届かないということはないと思うんですけれども、そのうち例えば二、三割でも分からなくなっていれば、もうそれだけでも膨大なコストになるわけで、しかも、転々流通していくわけですよね。そうすると、前の人を遡って、その前の前に遡っていくというようなことになって、すごく大変なことになる。これはもう極めて非現実的なことではなかろうかと思います。
当然承継にすると、そんなことをする必要は全くないわけですよね。通知すらする必要がなくて、登記で今の現在の区分所有者を調べればいいので、法務局に行って登記を上げる、それだけで済むわけです。どちら側が現実的なのか、もうすぐに分かりますよね。なので、当然承継説が優れていると考えます。
以上です。
○堀川委員 もう時間が来そうなんですけれども、先ほど来からお伺いをして、まず管理者の方への絶大な負担ということが今でさえ存在しているというふうな中で、更なる負担が生じる可能性もあるというふうな御指摘だったというふうに思います。探偵のようなやり方で、そこまでやらせるのかというふうなことは、ちょっと正さなければならないなというふうに改めて思いました。
今回、この旧区分所有者に関する区分所有権の問題で、沖野先生、中野先生、神崎先生それぞれのお考えを聞かせていただいたんですけれども、やはり、私は、現実に即して法というのはあるべきだというふうに考えているんですね。今の在り方で、神崎先生が先ほど来から御指摘をされているようなトラブルがもしあれば、今住んでいる方の、区分所有者の方の住まいの権利を侵害するということにつながりかねないということは重大な問題だというふうに改めて認識をさせていただきました。
時間が来ましたので終わりますけれども、引き続き、皆さんにいろいろ御意見をお伺いしながら、このマンション管理の在り方について今後も深めてまいりたいと思います。今日はありがとうございました。
○井上委員長 次に、福島伸享君。
○福島委員 有志の会の福島伸享でございます。
四人の参考人の先生方、本日はどうもありがとうございます。最後の質疑でございますので、気合を入れて答弁をいただければというふうに思っております。
まず、私は、大前提として、法制審議会の区分所有法部会について、私は役人をやっていたんですけれども、これだけ部会長が長々と意見をおっしゃる審議会というのは余り見たことがなくて、しかも、発言しているのはほとんど法曹関係者ばかりなので、法律の専門家による議論だと思ったら、メンバーにはいっぱい一般の人がいて、かつて私がシンクタンクで勤めたときの私の部下まで入っているんですね。どう見たって法律上の知識はないと思うんだけれども、その人は採決に参加できて、中野先生のような現場の専門家は採決になると参加できない。私は、この運営というのは異例じゃないかなと思うんですけれども、御覧になって、中野先生、参加されてどう思われましたか。
○中野参考人 ありがとうございます。
思いのたけということよりも、私が先ほど申し上げた、幹事という立場で参画させていただいた、意見は十分述べさせていただいた、それが、残念ながら採否の中で受け入れられなかったことに対しては、大変残念だと思っております。
理屈としても、日弁連も考え、単位会も考えている、そういう理屈であって、私の独りよがりな、間違った、誤解に基づくような意見ではないということは、是非、先生方にももう一度確認していただきたいなというふうに思っております。
以上です。
○福島委員 私は、本当にこれは異例で、僕らは法律の素人だから、ああ、そうかと思いがちだけれども、ただ、やはり法律というのは法理論が大事なんじゃないんですね。民法がどうだという理屈が大事なんじゃなくて、具体的にどの人が法律によって利益を得るのか、どの人が多少我慢しなければならないか、その比較考量を行った上で適正な法律の在り方を判断するのが我々立法府の役割であるというふうに思いながら、議事録を読ませていただきました。
その上で、二番目で、この点、誰も今回の法改正で私以外問うていないんですけれども、今回、建て替え以外で、一棟リノベとか、除却とか、敷地売却を五分の四で可能にするようにしておりますね。そこは私は問題があると思っておりまして、例えば、五十戸あって、四十戸が外国人が投資目的で所有して、残りの十戸を日本人が住むために所有するという場合もあり得るわけですね。その場合で、外国人は投資家として価値を上げるために、もう全部除却しちゃえと言ったら、その人は出ていかなきゃならないわけですね。それは、場合によっては、もう高齢でついの住みかとして暮らしていて、そこで人生を終えようと思っていたのに、金をやるから、五分の四、出ていけ、でも、もう九十一歳でどうするんですかなんという場合がこれから容易に起こり得るわけですね。
そこで、先ほど齊藤参考人の方から、再生時の居住支援が必要だというふうにおっしゃっておりますけれども、私は、例えば、これこそ憲法上の、憲法二十二条の居住権とか十三条の幸福追求権とも絡む重大な問題で、建て替えだったらまだそこにいますよ。リノベでもそこにいますよ。でも、除却とか売却とか、そうしたことまでやるというのは問題があると私は中野大臣に指摘したんだけれども、問題ないと冷たい答弁しかなかったんですけれども、その点、齊藤参考人、そして中野参考人、どうお考えか、短くお願いします。
○齊藤参考人 ありがとうございます。
今回の法改正案で、五分の四で建物を除去し、敷地が売却できる、あるいは一棟リノベーションができるというような、多数決でできるようになったということでございます。
おっしゃるとおり、私も法制審議会の中で何度も申しましたのは、決議はゴールではない、スタートだと。やはりほぼ全員が納得した形でないと困るんだと、何度も同じことを言って、決議がゴールではないと。多分皆さんに嫌がられるぐらい同じことを言った。そうすると、やはり基本的には全員が納得できる形で決議を持っていきましょうということを何度も申し上げました。
そして、今後大事なことは、やはりお一人お一人に寄り添う体制ではないかなと思っています。賛成した人も、そしてお金がないと言っている方も、どうしようかと思っている方についても、お一人お一人に寄り添ってやはり相談体制を充実させていく、そして、私はどうすればいいのかなというような、行き先を一緒に考えていくような体制が今後ますます重要になっていくのではないかというふうに思っているところでございます。
○中野参考人 ありがとうございます。
私も、議論の中で、除却についてはやはりバランスの問題だというところが結構強く言われていたところがあったというふうに記憶しております。今後の再生の問題と、それから、それからの進むその後の問題との関係で、どのような方法がいいのかというような議論をされておられた。その中でのバランスの問題でありましたので、そこに対する具体的な意見は申し上げませんでしたけれども、今先生おっしゃるような部分でやはり不都合が出てくる可能性があるという点は、やはり御指摘のとおりかと思います。
以上です。
○福島委員 私は、本来そこは法的手当てが必要だと思うんですよ。ただ、区分所有法の枠ではないんですね、恐らく。それは、厚生労働省的な社会保障の面もあるであろうし、あるいは住宅政策としての国土交通省部分のものだと思いますけれども、先ほど齊藤先生がおっしゃったように、お一人お一人に寄り添う、それは精神としては大事だけれども、必ずしも善意の人だけじゃないんですよ。外国人でマネー目的でやる人は、むしろそういう人は邪魔だと思っているわけだから、とっとと出ていけと思ってやる場合だってあるわけですよね。
だから、そうした意味では、私はそこに法的な手当てがないのは問題じゃないかなと思うんですけれども、どうでしょうか、齊藤先生。
○齊藤参考人 具体的に法的手当てとおっしゃられていることがちょっと私がうまく理解できていないかもしれませんけれども、基本的には、やはり、出ていかれる方、そして高齢者の方に対して、次にどういう住まいが必要かということで、公営住宅や、それから居住のサポート住宅、セーフティーネット住宅など、そういう相談体制の充実によって、あるいは、もちろん参加される方もおられます。多くの高齢者の方はよく分からないという方が多いと思いますので、そういったところを御理解できるような支援体制が必要かと思います。
そういう意味では、いきなり建て替え、いきなり除却しましょうというんじゃなくて、そのマンションが目指すゴールをしっかり話し合っていただくことに対して、まずはその支援体制が必要ではないかと思っているところでございます。
○福島委員 時間もないので、次の、先ほど来議論になっている共用部分の損害賠償請求権について話をしたいと思います。
私なら、これは明確に、損害賠償請求権が元の所有者にあると分かった途端にどういうことをするかといえば、元の所有者からみんなこの損害賠償請求権を安価で集めて、そのうち幾つかは必ずお金が発生するでしょうから、そのビジネスを私は今やりたいなと。いやいや、余りお金に興味がないので実際はやらないと思いますけれども、そう思うんです。いや、それができるということを明確にしているのが今回の、ある意味、法改正かなと思っていて、マイナスも当然大きいものがある。でも、一方でプラスもあるだろうから、今回のような法改正になっているんだと思うんですね。法理論は結構なんです。我々国民にとって、誰が、どういう権利が守られるかということが大事だと思うんですね。
私はここで沖野参考人にお聞きするんですけれども、神崎参考人が今日提案したような法案、つまり当然継承をやるような法案をやったら、どういう不都合が誰に生じるのか。先ほど来聞いたけれども、例えば、もう瑕疵が分かっているんだけれども引っ越さざるを得ない理由があって、それでその人が損害賠償請求権、請求できないかって、それは法務省も何度も私は説明を受けました。でも、それはいろいろな制度的な対応で対応可能なんだと思うんですよ。対応可能だと思うんですよ。それでもなおかつ当然継承というのを否定しなければならない大きな利益の損失は、それはどこにあるのか、ちょっと教えていただけませんでしょうか。
○沖野参考人 ありがとうございます。
おっしゃるとおり、旧区分所有者、旧区分所有権者が持っている権利というのが、元々持っているものを強制的に移転させられるということに対してどういう評価を下すのかということだと思います。
その評価の中には、もちろん、利害関係を考えた上で望ましい最終的な在り方というのがありますけれども、それ自体はかなり場面によっていろいろではないかと考えられるわけです。それを全て網羅できるのかという問題を出しているわけなのですけれども、その一つが、議員がおっしゃった、既に欠陥が明らかになったようなとき、買取りビジネスも起こるんじゃないかというのは、逆の方向でむしろ法制審では指摘されたわけなんですけれども、その場合もありますし、既に補修がされたような場合ということもありますし。
それから、管理者が本当に十全に機能しているのかと。機能していなければ、現在の区分所有者であればもちろんコントロールできるわけですけれども、そうでない人で、自分がもう信頼できないというようなときにさえも、この権利というのは手放さなければならないということの正当化との関係でどう考えるかということであり、かつ、どの方策も万全だとは思いませんけれども、それぞれの中で、どういった別の手当てによって実現が図られるのかという、その考量だと考えております。
以上です。
○福島委員 先ほど来の議論から見ると、かなり弱い理由かなと。
要するに、両方あり得るとおっしゃっているのかなと思いますし、当初、沖野参考人もこの法制審の議論の中でいろいろ発言されていて、根本的に、この損害賠償請求権、その債権自体が金銭債権で、もう発生後で具体化しているような場合に云々と言って、政策的な判断ということだということを何度か発言されていて、沖野参考人も。ただ、政策的な理由として十分かどうかが疑問があるから今の分属権にこだわられているようなふうに、ずっと沖野参考人の発言を見ていると思われるんですね。
要は、これは政策判断なのであって、政策判断だから、いろいろ民法上の学者としての理論はあるかとは思いますけれども、当然移転をやるということは憲法上も理論上も絶対駄目なんだということじゃなくて、最後はやはりそれは政策判断、つまり、我々立法府の判断の部分であると考えてよろしいか、その点をちょっとお伺いしたいと思います。
○沖野参考人 最終的にはどういう制度をつくるかというのは、もちろん立法府でお決めになることです。
それから、政策判断というのは、もちろん政策判断でいろいろな制度をつくっていくわけですが、その政策判断のときに、権利保障ということも非常に重要で、そういった点を考慮した上で制度設計をされているということだと理解しております。
○福島委員 そうなんですよね。
我々が、じゃ、誰の権利を守るかというのが大事で、旧区分所有者の権利を守るのが必要なのか、今住んでいる人が満足な住環境を得るという権利を保障するかというのは、それは我々立法府で判断することだと私は考えております。
今回、ずっとこの議論を見ていると、結局何が問題かというと、訴訟実務上の観点からおっしゃられている弁護士関係、関係者の皆様方と、法理論上の、民法の理論上の問題との間の争いの中で、こうした大きな議論になっているんじゃないかなと私は思うんですね。
あと、この委員会は先生方を除く我々委員で行うんですけれども、やはりそこは政策判断があってしかるべきだと思うんです。
今までの議論を聞いていて、私は、旧区分所有者の守られる権利というのはもう僅かだと思うんです。瑕疵が分かった段階で、もう払っちゃったとか、そういうときしかなくて。
でも、もし当然継承だとしたら、それに見合った合理的な行動としての契約というのが恐らく発生するはずであって、それに伴って訴訟も起こるかもしれないけれども、そこにおのずと規範性が出てきて商取引の慣行というのが生まれるのが現実の社会だと私は思うんですよ、当然承継であれば。
逆に言えば、当然承継じゃなくして、あえて旧区分所有者に権利があるとすれば、そうしたら様々な弊害があるというのは、先ほど参考人の先生方から伺ったとおりだと思うんですけれども、中野参考人、そして神崎参考人に最後、立法府に期待する役割というのを思う存分語っていただければと思います。
○中野参考人 ありがとうございます。
先ほど意見陳述の中でも述べました。我々は、先ほど申しましたが、民法理論に拘泥すべきではないという、日弁連、ほかの単位会、多くの単位会からそのような意見をいただいております。私はその代弁者だと思って、今回も法制審議会に出ておりましたし、今回の意見陳述もありました。同様でございます。
是非先生方に、本当に解決として必要な立法を作っていただきたいというふうに思っております。
以上です。よろしくお願いします。
○神崎参考人 御質問ありがとうございます。
私は、福島先生がおっしゃった話は、私が言いたかったことを全部おっしゃっていただいたかなと思っております。
そもそも、私、考えておりますのは、一戸建て住宅と区分所有マンションというのは全然違うものなんですよね。これを同じ土俵で議論しようということ自体が間違っていて、一戸建て住宅ならば、自分だけで持っていて、自分で処分することができますし、いろいろな人の権利関係というのは生じないんですけれども、区分所有マンションというのは極めてフィクションに近いような法的なたてつけになっていて、ここに区分所有権がありますよとか、共有持分権がありますよというのは、実はすごく、どういうんでしょうか、法的につくられた仕組みという感じがするんですね。
いわゆる、元々、伝統的な民法が考えているような不動産の所有の形態からすると、かなり異常といいますか、イレギュラーな考え方をフィクションでつくったもの。だからこそ、民法の特別法としてイレギュラーな法規制がなされている。
これができるに至ったのは、経済的な理由とか社会的な背景とか、もろもろな中でバランスを取りながら、いろいろな不都合もあるかも分からないけれども、こういう選択をしてこられたんだと思うんですね。それが、そのひずみが起こっちゃっている状態が今だと思うんです。これを今からどう進めるかというのは、まさしく立法府の先生方がどういう政策をこれから取っていかれるかということだと思うんです。
法理論、伝統的な民法理論を私は崩してくれなんということは申し上げていません。民法理論がどうこうということを申し上げているわけじゃないです。区分所有マンションの中で権利侵害が行われているときに、それを回復したい、そして、しかも、区分所有マンションというのは、単に住んでいる人だけのものではない、個別的な人のものだけではない。
例えば、耐震偽装マンションなんかで、倒壊したら近隣の人が、例えばお隣の人が押し潰されるかも分からない。能登半島地震のときに、建物が倒壊して横の建物が壊れちゃったとかいうことがあるわけですけれども、タワーマンションなんかが潰れちゃったら、こんなものの比じゃないぐらいに大きな影響を与えるわけですので、そういうふうな社会的な影響というものを考えて、立法府の先生方には是非とも賢明な御判断をいただきたいと思います。
以上です。
○福島委員 ありがとうございました。
この間の審議を通じて、立法過程の問題も明らかです。条文上の問題も明らかになっていると思います。ですから、この委員会で、我々はこれから条文修正も含めて、単に日程をこなすだけじゃない、そうした審議をお願いいたしまして、私からの質疑とさせていただきます。
ありがとうございます。
○井上委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、参考人の方々に一言申し上げます。
本日は、貴重な御意見を賜りまして、誠にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。
次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十一時四十七分散会