衆議院

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第5号 令和4年4月12日(火曜日)

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令和四年四月十二日(火曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 松島みどり君

   理事 井原  巧君 理事 稲田 朋美君

   理事 勝俣 孝明君 理事 宮崎 政久君

   理事 湯原 俊二君 理事 吉田 統彦君

   理事 漆間 譲司君 理事 伊佐 進一君

      石川 昭政君    柿沢 未途君

      勝目  康君    国定 勇人君

      佐々木 紀君    鈴木 英敬君

      高見 康裕君    武村 展英君

      土田  慎君    中川 貴元君

      永岡 桂子君    長谷川淳二君

      堀内 詔子君    松本  尚君

      三谷 英弘君    保岡 宏武君

      青山 大人君    井坂 信彦君

      大河原まさこ君    中谷 一馬君

      山田 勝彦君    浅川 義治君

      掘井 健智君    河西 宏一君

      福重 隆浩君    吉田久美子君

      田中  健君    本村 伸子君

    …………………………………

   参考人

   (東京大学名誉教授)

   (東北大学名誉教授)

   (青山学院大学客員教授) 河上 正二君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事)   野々山 宏君

   参考人

   (一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局次長)  三谷 和央君

   衆議院調査局第一特別調査室長           菅野  亨君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十二日

 辞任         補欠選任

  平沼正二郎君     国定 勇人君

  船田  元君     石川 昭政君

  大西 健介君     中谷 一馬君

  吉田久美子君     河西 宏一君

同日

 辞任         補欠選任

  石川 昭政君     船田  元君

  国定 勇人君     松本  尚君

  中谷 一馬君     大西 健介君

  河西 宏一君     吉田久美子君

同日

 辞任         補欠選任

  松本  尚君     平沼正二郎君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第四一号)

 消費者被害の発生及び拡大の防止並びに消費者の利益の一層の擁護及び増進を図るための消費者契約法等の一部を改正する法律案(柚木道義君外七名提出、衆法第七号)


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     ――――◇―――――

松島委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律案及び柚木道義君外七名提出、消費者被害の発生及び拡大の防止並びに消費者の利益の一層の擁護及び増進を図るための消費者契約法等の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、東京大学名誉教授、東北大学名誉教授、青山学院大学客員教授河上正二さん、弁護士、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事野々山宏さん、一般社団法人全国消費者団体連絡会事務局次長三谷和央さん、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人の皆様に一言御挨拶申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。参考人の皆様におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序につきまして申し上げます。

 まず、参考人の皆様からお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず河上参考人にお願いいたします。

河上参考人 河上でございます。

 本日は、貴重な発言の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 早速ですが、消費者契約法等の第三次の改正に向けた法案について、日頃考えているところを述べさせていただきたいと思います。

 ここにおいでの先生方にはもう今更言わずもがなということなんですけれども、消費者契約法の制定時に、林立する特別法の間隙を縫って発生する不当な取引行為というものと消費者被害の発生に対して、後追い的に制定される特別法の補充ではなくて、包括的な民事ルールを目指した議論が始まったんだということを思い出していただきたいと思います。

 その際、要件を厳格化して、射程をできるだけ具体的な場面での勧誘行為とか不当条項に限定しようとする力と、一般的、包括的民事ルールとして、民法よりやや具体性のある規定群として用意しようとする力の綱引き、これはこの消費者契約法の立法当初から存在しておりました。

 立法事実を出せというふうに言われましてトラブル事例が具体的に説明されればされるほど、それならば特定の業態での特定の取引方法や条項に対する規制で事足りるだろう、そういう反論、あるいは、なぜ、民法の規定でもできるんだったら民法でいいじゃないかという反論、これが現れまして、一般的ルールの要件策定にはほど遠い状態だったということであります。現在の消費者契約法の第十条の制定さえ危ぶまれたというのが当時の状況でありました。

 結局、必要最小限の内容で出発して、立法担当者の人が小さく産んで大きく育てるんだというふうなことを言いながら、結局小さいまま捨て子になっているというふうに学者にやゆされたというような状況だった、このことは、二度の改正を経た今も、残念ながら現在に至るまで尾を引いております。

 最初に、一般的な話で恐縮ですけれども、法体系の中での消費者契約法の位置づけ、このことから申し上げます。

 取引の適正化というものに限らず、法的責任を論ずるという場合には、当事者の属性、取引の状況、取引形態、商品内容などに応じて様々な特別法が存在しておりまして、それらの規範が一定の階層構造を成しておりまして、その適用の在り方が定まっているわけであります。

 御承知のように、ある問題に対して特別法と一般法がある、要件上はいずれも適用可能だというような場面では、特別法が一般法に優先するというのが原則とされております。しかしながら、問題によっては、重畳適用、つまり両方のルールがそれぞれに動くという重畳適用、これも考えられるわけでして、例えば消費者契約法の第四条、取消し事由に関する規定群ですけれども、これは、民法で言う詐欺、強迫といったようなもの、あるいは錯誤についての規定群というものの適用を排除しているわけではなくて、消費者契約法上の取消権の行使期間を仮に経過しても、なお民法上の取消権が問題となり得る、そういう構造になっております。

 また、消費者契約法上の八条、九条の無効条項、これに該当しなくても、例えば受皿としての第十条があり、その十条によって更に柔軟に規制される。十条が駄目だとしても、民法の公序良俗に関する九十条がやはり動くという構造になっているというわけであります。

 しかし、同時に、できるだけ明確なルールによって市場の透明度を上げるということを考えますと、その理念とするところ、あるいは果たすべき役割をより明確化して、必要な受皿規定を用意すべきであります。民法規定の適用で対応できそうだから、消費者契約法に規定は要らないというようなことには決してならないということであります。それは、民法には七百九条という不法行為に関する一般ルールがあるんだからということで、製造物責任に関するPL法は要らないと言っているのと同じであります。

 その上で、昨今の消費者契約法の在り方についての反省でありますけれども、消費者問題の展開は、事業者と消費者の間の情報、交渉力の構造的格差を超えて、事物連関的に、つまり物事に関連する形で拡大しておりまして、人々の生活における安全、安心に対する関心の広がりとともに、次々と進展してきたわけであります。その過程で、人間本来の脆弱さというものを突きつけられる。これはもう消費者に限らない、人間であります、人間本来の脆弱さというものを考えて、消費者立法もまたその対応に追われつつあるというふうに思われるわけであります。その結果でありますが、断片的規制が次々と拡大しているというのが現状ではないかと認識しております。

 しかし、本来その受皿となるべき規定の整備というのは遅れに遅れておりまして、世界水準から見ても取り残された状態にあります。

 近年、大変問題になったつけ込み型勧誘に関する規定についても、高齢者、若年成人等に関して、その判断力不足に、あるいは経験不足につけ込んで不当な利益を上げるというような事業者から消費者を保護するために消費者に取消権を与えるというような提案が、なぜこうも難渋しているのかということ、私には理解できません。

 確かに、要件の明確化というのはある程度必要でありますけれども、余りに細かくなり過ぎますと、これは取りこぼしを大きくするだけではなくて、逆に、健全な市場育成あるいは被害者の保護にも役立たないということが起きます。悪質な事業者が市場を荒らし回っているときに、その者どもを排除するための公正なルール、これを市場にもたらしておくということは、これは適正な事業活動を遂行している事業者にとっても必要なことであります。消費者にとっても事業者にとってもウィン・ウィンになる、それが消費者志向経営の核心的目標でなければなりません。

 一日も早く、相手方の弱みにつけ込んで不当な利益を追求するような不当勧誘行為は許されないという基本的ルールを確立する必要があるわけであります。この春、成年年齢が十八歳にまで引き下げられたというときに、青少年に対して、何とかして未成年者取消権に代わるようなセーフティーネットを張るということは、我々大人の義務であるとさえ考えるわけであります。

 以上の話を基に、今回の報告書並びに法案についての考えを申し上げます。

 実は、報告書は、いずれもよく練られたものでありまして、バランスの取れたもので、基本的には積極的に評価したいというふうに考えたいのですけれども、よくよく読みますと、目配りがよ過ぎて、あれも考えなさい、これも考えなさい、こういう意見もありますよというようなことを書いてあるというわけでありまして、法案にするのは、これは大変な作業だったんじゃないかと推測いたしました。

 改正法として、個人的にこの際求めておきたい措置は相当あるんですけれども、できるところから一歩ずつ法案の策定を行うほかないだろうというふうに思います。

 消費者契約法関係では、少なくとも、今回、次の点で改正が必要であると考えます。

 一つは、事業者の情報提供等の努力義務、これを拡充するということ。それから、消費者の判断力の低下に着目した規定を導入すること。さらに、困惑類型で、退去妨害以外のものを拾うことのできるような規定を用意すること。さらに、他人に相談することを妨害する行為を禁じて、これを取消し事由とすること。さらに、不当条項の第九条について、平均的損害についての推定規定、これを入れること。十条前段のグレー条項に対して、消費者の解除権を奪う条項に関する規定を追加すること。これは今回の改正でもできることであります。

 それからもう一つ、消費者裁判手続法との関係では、損害賠償の内容として、財産損害に起因する一定の慰謝料に関する規定を設けるということ。慰謝料に関しては、これはなじまないという意見もありますけれども、定型化された慰謝料を作るということは、解釈上も問題はないというふうに考えております。さらに、悪質な事業者における代表者あるいは実質的支配者を被告にすることができるようにすること。そして、その規制の対象とする事業者の不法行為は、故意、重過失だけではなくて、もう故意、過失という形にすべきことなどであります。

 もう少し長期的に見た場合、消費者法のこれからについて更にお話をさせていただきます。

 今日の消費者法は、高度化、複雑化、情報化した現代社会に生きる生身の人間を対象とした消費者の保護と支援に関する法律とか判例、行政実務、自主規制等の複合体と呼べるわけでありますけれども、そこには、民事、行政、刑事並びに自主規制のモザイクが観察できるように思います。

 消費者といえば、これまでは集団、つまりマスとしての、集団としての平均的、合理的消費者像、これが念頭に置かれてきたのに対して、今後は、むしろ個人の多様なニーズを前提に、それぞれの人にカスタマイズされた消費者の在り方、消費財の開発のものが進んでおるわけでして、ビッグデータ等の利用、活用、この傾向をますます推し進めていることに配慮して、事業者からの攻撃的勧誘に対して、個人の属性に合わせた適合性原則の持つ意味合い、これがますます重要になっていると考えられます。

 特に、脆弱な消費者、高齢者、若年者、障害者というものに着目したヨーロッパの政策動向からは学ぶべきものがたくさんございます。無論、通常人であっても、商品の希少性とか話題性、微妙な損得感とか曖昧な記述、時間に追われての判断、相手方への過度の依存心などによって、冷静な判断や選択がゆがめられることは少なくございません。その意味では、開示規制とか不意打ち規制といった従来型の規制態様に限界があるということを認識して、セーフティーネットを張っていくことが必要であります。

 消費者契約法は、当初、契約締結過程において不当な勧誘行為が行われた場合の契約の取消しによる消費者の意思表示の効力を否定し、契約からの解放を可能にする規定群と、契約内容となった不当条項を無効にすることによって契約内容を規制するという点から出発した、いわば過渡的な形態のものであります。その後、実効性確保のための消費者裁判手続に関する規定群が追加されて現在の姿になっていますけれども、法規定としては、まだまだ不完全で未完成な状態であります。

 将来的には、筋太の方向性を明らかにする作業が是非とも必要であります。だから、不当な契約に対しては、取消しだけじゃなくて、無効あるいは損害賠償といった効果もあり得るわけであります。また、債務内容確定に関する解釈ルール、あるいは契約全体を無効にするような消費者版の公序良俗もあってしかるべきではないかと思います。

 差し当たって、有償契約、つまり対価を得ての契約、有償契約を前提とした消費者契約の望ましい規律の全体像というのは、資料の中に、枠組みに掲げておきましたので、後で参考にしていただければというふうに思います。

 申し上げたいことはたくさんございますけれども、最後に、この法案についての感想を簡単に述べて意見を終えたいと思います。

 検討報告書のまとめ方については、これは先ほども申しましたけれども、目配りがよ過ぎて、幅があり過ぎます。逆に、法の構造に縛られ過ぎているという点もございます。これは、法案化にとって大変厳しい報告書であったということになります。

 努力義務に書き込まれた、これは努力義務じゃなくて取消し事由ですか、書き込まれた府令ですけれども、この可能性については、この府令を使って今後の改定への突破口になるということを期待しているところであります。

 さらに、取消し事由に限定された条文構造の限界をやはり意識し過ぎたんじゃないかということであります。これが損害賠償とか過失相殺なんかになっていくのであれば、もっともっと柔軟に適用ができたはずであります。

 それから、動機形成への働きかけ、これは、働きかけがないと駄目だというような言い方をされることがあるんですけれども、そんなことはない。ある状況に置かれた人間がどういう状態で判断をせざるを得なかったかということを考えていけば、それに対応する可能なルールは出していくことができます。法案の中にも部分的にそれは入っているということでありまして、これは評価してよいかと思います。

 事業者に起因しない取引環境、あるいは本人の状況を要件に取り込む必要がありますけれども、そのことが余りにも難しいんじゃないかというような懸念が立法担当者の間でもあったようでありますけれども、しかし、なおなお不十分であります。その辺をもう一度見直していただきたいというところでありましょう。

 あとは、お手元の資料の中に、ある程度最近考えたことを書き込んだものがございますので、それを御参照いただければ幸いでございます。

 以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)

松島委員長 ありがとうございました。

 次に、野々山参考人にお願いいたします。

野々山参考人 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会で幹事を務めております野々山でございます。

 今日は、発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 日本弁護士連合会では、この消費者契約法につきまして、これまで様々な提言等、あるいは立法に対して取組をしてまいりました。この法案につきましては、お手元の資料にありますが、令和四年二月二十八日に、消費者契約法の改正骨子案に関する会長声明というところで大枠の意見を述べさせていただいております。

 本日、私の意見は、この意見に沿っておりますけれども、これを超えるものがありまして、これは個人的な見解ということで御容赦願いたいというふうに思っております。

 今回示された法案についての率直な感想を述べさせていただきますと、非常に残念であるというふうに思っております。期待されたものから比べると非常に不十分だというふうに考えております。

 まず、何が不十分かと申しますと、第一には、やはり今回の改正の法案に求められてきた社会の要請に十分応えていないという点が挙げられます。

 一つの要請は、超高齢社会における被害の存在であります。

 これまでも度々挙げられておりますけれども、高齢者の自宅売却トラブルというものがあります。資料をつけさせていただいております。

 それから二つ目には、保険金を使った自宅修理トラブルというのがあります。これは、保険金を使って自宅が修理できるということで高額な自宅修理工事を契約するわけですが、結局保険が下りなかったり、あるいは保険が下りても多額の手数料を取る、半額ぐらいを取っていくという事例もあります。そういう中で、結局自己資金を相当数出さなくちゃいけないということになる。これは、よく分からない中で高齢者の方が被害に遭っております。

 それから三つ目には、令和元年に発覚しました生命保険の高齢者に対する不適切販売、経済的な合理性が全く欠けるような契約、あるいは再契約をさせるというものであります。この中では、販売員の人たちは、内輪では顧客をゆるキャラ、半ぼけと呼んでこれを販売していたということであります。

 こういう状況がある中で、超高齢社会における被害の存在をどうカバーしていくかというのが今回の一つのミッションであったわけでありますけれども、これに十分応えていないということがあります。

 それから、二つ目の社会的な要請は、四月一日から施行されております成年年齢引下げに伴う若年者被害の増加であります。

 これは予想されるということで、AVの契約強要の問題がありますけれども、これに限らないわけであります。未熟な中で、影響されやすい年齢の中で、しかも、いろいろな圧力に弱い立場の若年者が望まない契約をするということは十分あるわけであります。そういうものをどうやってカバーし、また、もし契約をしてしまったら、これをどう救済していくかということについてのミッションもあったわけでありますが、これにも十分応えておりません。

 改正法案は、極めて限定した場合にしか対処していないと評価せざるを得ません。高齢者の判断力不足、若年者の未熟な心理状態につけ込んだ勧誘に対する対応としては非常に不十分であるというふうに考えております。

 それから、二つ目の私の残念に思うところでありますが、これは今、河上先生の方からもるるお話をいただきましたけれども、民法の特別法である消費者契約法の隙間を埋めるという包括的な民事ルールとしての役割から離れた法律になりつつあるということであります。

 消費者契約法というのは、民法の特別法と位置づけられております。消費者取引市場の適正化の民事ルールを定めているわけであります。これは、特別法には規定できていないものの隙間を埋めていくルールを定めていくということになっております。行政規制とは異なる、消費者市場の行動指針となるような包括的な民事ルールとして役割を果たすべきであるということであります。

 様々な事業者、様々な消費者があります。様々な取引があるわけでありますが、こういう取引に対する公正なガイドとしての役割、そして、もしこれに対して不当な契約に巻き込まれてしまった場合には、これから救済できる、こういう規定でなくてはならないというふうに考えております。

 ところが、今回の改正案は、極めて限定した要件で限定した場面を断片的に対応しているというふうに感じられます。後追い立法ということになっている。また、この被害自体がどこから出てきているのか、どういう被害事例が実際にあるのかもよく分からないところで法案が出てきているように私は感じられます。

 消費者契約に関する検討会でも、法第四条第三項各号は、事業者の行為態様を個別的、具体的かつ詳細に定めており、文言の拡張的解釈等の柔軟な解釈により救済を図ることに限界があるということで、隙間を埋めるには限界があると。これの脱法的なものがあるということを言って、その限界があると指摘しているわけですが、この指摘した課題についても解決はしているわけではありません。むしろ課題を増幅させる、すなわち、個別の場面を限定したものを増やしていくことによって、課題を増幅させている結果になっております。

 消費者契約法の本来の役割である業法等の空白や間隙を埋め、取引当事者の行動指針となる包括的な民事ルールに向けた検討を直ちにしていくべきであります。柔軟な要件による受皿規定、損害賠償請求制度の導入、勧誘時に限定されない適用場面の検討など、考えるべきことはたくさんあるというふうに考えております。

 それから、三つ目の私の残念に思うところは、消費者契約に関する検討会報告書が求めた提案内容の多くが実現していないということであります。

 不当勧誘の規定として提案されておりました、困惑類型の脱法防止規定、消費者の心理状態に着目した規定、消費者の判断力に着目した規定という、三つの取消権が全て抜け落ちております。また、提案された不当条項規定や消費者の立証責任軽減措置の多くが抜け落ちております。私は幾つかの法改正に関与してきましたけれども、ここまで検討会、調査会の報告書の内容が抜け落ちているということは経験がありません。今回初めてであります。

 報告書があたかも両論併記であったことが抜け落ちた原因かのように言われておりますけれども、報告書の各論点の記載を見ていただきますと、「考えられる対応」という形で方向性が記載されております。そこを読めば、まず合意された結論が記載されているわけであります。なお書きとして結論がまとまるまでの出された意見が記載されており、両論併記でありません。これは検討の場ですから、様々な意見が出るのは当たり前であります。その当たり前の意見があるのに対して両論併記だと、それを記載したら両論併記だと評価するのは誤りであるというふうに私は思っております。

 多くの有識者の皆さんによる多大な労力と時間が費やされております。この検討会の内容がないがしろにされることは、その存在意義が問われるというふうに思っております。

 今後の法改正につきましても禍根を残すことになるというふうに思っております。検討会、調査会の結論を尊重した改正がされるべきでありますし、そうでないと、検討会、調査会の存在意義というものがないというふうに感じるほどであります。

 今回の検討会の結論で抜け落ちた論点、また、平成三十年の改正の専門委員会の方で積み残しの論点がありますけれども、そういう論点について速やかに検討して実現を図るべきだというふうに思っております。

 今回の国会の消費者契約法改正の審議に私として求めたいことが三点あります。

 一つは、改正案で実現されていない検討会の提言の中で、「消費者の判断力に着目した規定」というものがあります。これは、先ほど言った社会要請の中で極めて重要な内容であります。今からでも、今回の改正で是非実現をしていただきたいというふうに思っております。

 判断力不足につけ込む深刻な被害は日々生じております。検討会でもかなり詰めた議論をして、具体的な内容の方向性としてまとめております。是非この内容で実現をしていただきたいというふうに思っております。

 二つ目は、消費者契約法の、民法の特別法としての民事ルールにふさわしい内容を含んだ消費者契約法の抜本的改正の検討を直ちに始めるようにしていただきたい、そのことを附則に定めてもらいたいということであります。

 三つ目は、消費者契約に関する検討会及び平成三十年改正の際の専門調査会で示された論点の検討と実現をしかるべきときに図るように促していただきたいということであります。

 以上が、消費者契約法の改正のものであります。

 最後に、消費者裁判手続特例法の改正に関する私の意見を述べさせていただきます。

 消費者裁判手続特例法に関する検討会がありまして、その報告書が出されておりますが、今回の改正案は、その内容をほぼ踏まえております。より活用できる改正になるということで、これは早期に実現をしていただきたいというふうに思っております。

 ただ、個人的には、この消費者裁判手続特例法についても、日弁連としても様々な取組をしていますが、その中でも特に二点、今後の課題として是非考えていただきたいことがあります。

 一つは、第一段階で敗訴した、責任があると認められた事業者に広告、広告というのは消費者の方に知らせる内容ですね、それからあと通知費用とか、あるいは送金費用等の諸費用を負担していただきたい、そういう内容にしていただきたい。本来自分がやらなくてはいけない返済作業を消費者団体がやるわけですから、費用は負担していただきたいということであります。

 二つ目は、少額事件に対するオプトアウト制度、すなわち、包括的に消費者団体が代表して訴訟をして、嫌な人が抜けるという制度、これは、少額事件においてはそういう制度の検討を速やかに行うことを是非お願いをしたいと思います。

 以上が私の意見であります。ありがとうございました。(拍手)

松島委員長 どうもありがとうございました。

 次に、三谷参考人にお願いいたします。

三谷参考人 一般社団法人全国消費者団体連絡会の事務局次長の三谷と申します。

 本日は、消費者契約法及び消費者裁判手続特例法の改正の審議に関し、意見を述べさせていただく機会をいただき、ありがとうございます。本来でしたら、事務局長の浦郷が発言させていただく予定でしたが、所用のやむを得ない事情により、私どもより意見を述べさせていただきます。

 全国消団連は、消費者団体の全国的な連絡組織で、全国四十八の団体が緩やかにつながりながら、暮らしに関わる様々なテーマについて、消費者の立場から意見発信を進めております。

 今回の法案、特に消費者裁判手続特例法の部分につきましては、おおむね消費者庁の検討会の報告書に沿った改正となっておりまして、高く評価しております。その一方で、消費者契約法の部分につきましては、既に御審議の中で御指摘いただいておりますように、検討会の報告書において示された内容とは大きく異なっている部分がありまして、特に取消権の規定については大きく後退してしまったと受け止めております。

 ただ、そうは申し上げましても、消費者契約法においても僅かですが前進がありますので、今国会におきまして、必要な審議を経て可決、成立いただきますようお願い申し上げます。

 その上で、それぞれの改正について述べさせていただきます。

 初めに、消費者契約法について申し上げます。

 法案の基となりました消費者庁の検討会の報告書の策定に当たりましては、まず、学識経験者を委員とされる研究会が七か月、その後、この検討会が一年と九か月、実に合わせて二年と四か月の時間をかけて検討されてきました。

 検討会では、平成三十年の附帯決議の事項を中心に論議が行われてきました。

 この報告書について、消費者庁は、検討会にて理論的にも実務的にも難しい論点は多く取り上げられ、意見の隔たりもあり、ある程度幅のある形で取りまとめたというふうにおっしゃっております。

 しかし、先ほども野々山先生からもありましたが、報告書では、「考えられる対応」としてその方法について記載の後に、「具体的には、」として要件などの規定があり、さらに、対応し得る事例の詳細も書かれた上で、「なお、」として、なお書きとして補足する形で懸念点が記載されております。検討会の論議の過程におきましては、意見の違いというのは確かに論議中にはあったものの、この報告書の段階では「考えられる対応」を軸に取りまとめられたという認識でおります。

 さらに、検討過程で意見の対立があった点については、別途、将来課題として、今回の改正項目に盛り込まれていないことが明確に示されており、この対比からも、提案された内容は改正案に盛り込まれることが前提となっていたことは明らかではないかと思っております。

 これまでの、検討会の報告書が、全国消団連も委員として参加しておりましたが、このまとめが、先ほどもありましたが、両論併記、あるいは、まるであたかもまとまっていないかのような御発言につきましては、検討会の座長を始め長期にわたって検討してきた各委員がどのような思いでそれを聞いているか、よく考えていただきたいと思っております。

 また、今後につきまして、こうした幅のあるまとめとされるようなことが前例となりまして、今後の消費者関連におけるほかの検討において報告書と大きな内容の違いのある法案というのが出される事態は、前例としてこれ限りにしていただきたいと思っております。このようなことにならないことを強く求めたいと思います。

 その上で、抜本的見直しを求めたいと思います。別紙一になります。

 消費者契約法については、この間の御審議で、様々、原因などが明確化されているところですが、それを踏まえますと、やはり直ちに抜本的見直しを開始することが必要であると感じています。

 特に、取消権については、その強い規定のために要件を明確化する必要があり、そのため、現在の法案の規定となったという答弁が繰り返されております。このままでは、今後の改正論議においても、この取消権をめぐって、後追いの形で個別細やかな場面を規定し、取消権の追加といったこと、またその改正論議に大変な時間と労力、注力が行われ、それが繰り返されてしまうということに危惧を感じております。やはり取消権は、どういう要件かという明確化もありますが、救うべき人を救う、そういう規定であるべきであると思います。

 消費者契約法は、消費者と事業者間のあらゆる契約を対象とした包括的な民事ルールであるということは、お二人の先生もおっしゃっておりました。現在の社会における商道徳の規範となる消費者契約法としていく必要があると私どもも思います。

 近年、消費者志向経営ということに取り組む事業者が広がりを見せていることについては、強く期待することであり、うれしいことでありますが、悪質な事業者ではなく、真っ当な事業者が評価、支持され、そうした事業者を通じて経済が循環することが大事であり、その規範となるような法律にしていただきたいと思っております。

 また、現在の高齢化や、社会のデジタル化の中で取引もデジタル化が加速しております。成年年齢引下げも施行されました。このように、消費者を取り巻く情勢というのは大きく変化しておりますので、これらに対しても、広く規範として対応できる法律としていただきたいと思います。

 そうしていくためには、既存の枠にとらわれない抜本的な論議を早急に始めることが必要な時期に来ていると思っております。

 契約法の改正による対応が被害の後追いとならないためには、なるべく汎用性のある一般的な規定を置くことによって、悪質な事案に柔軟に対処できることが必要であります。そのために、現在の、困惑、誤認などの類型の具体性のある場面における取消権の規定だけでなく、より柔軟な規定や、契約締結の場面だけに限らない、解約や契約途中なども含めて、広範な規定の在り方というのを求めたいと思います。こうしたことを考える抜本的論議を直ちに開始することを求めたいと思います。

 今後の消費者契約法の見直しに当たりましては、検討会の報告書で提案された論点から落ちた経緯、あるいはその原因、理由というものを明らかにすることにより、次の抜本的な見直しの論議につながると思っておりますが、この点につきましては、今国会の御審議におかれまして、既に、与野党の議員の皆様の建設的で熱心な御審議の中で、その原因が順次明確化されているところであり、大変深く感謝しております。ありがとうございます。

 改めて、弊会からも、少しだけ各規定について述べさせていただきます。

 まず、取消権の判断力不足に着目した規定ですが、やはり今後の高齢社会に向けて、この規定は大変重要であると思っております。

 取消権については、要件を明確化する必要があるということは分かるのですけれども、別紙二にありますとおり、この報告書には、要件というものがきちんと明確化されておりますし、かつ、その事例についても具体的に書かれておりましたが、今回の契約法の枠組みには入らないということが答弁の中で明らかになってきました。

 既に審議の中でも御審議いただいているとおり、現に被害がある中で、その対応の検討ということになっておりますので、直ちに抜本的な見直しということが必要です。認知症の高齢者が家を失う、路頭に迷うというような事案は、問題なく救えるような枠組みにしていただきたいと考えております。

 次に、平均的な損害額についてです。

 検討会の論議では、平均的な損害の額の立証の負担軽減を目指した論議がされてきました。今回、消費者に解約料の算定根拠の概要を示す努力義務が設けられました。これは、大変前進ではあると思っております。

 ただ、そもそも、解約料を提示するのは事業者なんですけれども、それについて消費者が平均的な損害額を立証するという、その立証責任は消費者側にあるということで、消費者にとってはこの平均的な損害額を立証するのは困難です。

 そのため、長年、弊会も、立証責任というものは事業者の方に転換するべきではないかということは求めてきましたが、こうした関係性ということも抜本的見直しの中で考えていただきたいと思っておりますし、検討会の中で事業者の委員の方もおっしゃっておりました、社会が多様化する中で、平均的な損害の額という物差しの在り方自体も見直す必要があるのではないかということについては、どんどん個別化する取引の中で、消費者団体としても同意するところはあります。

 なので、今後、抜本的な見直しでは、この立証責任の転換、あるいは、解約料という物差しの在り方についても改めて検討いただきたいと思います。

 ほかにもありますが、今後の骨太の論議というところ、どういった論議になるかというところを大変心配あるいは期待しておるところですけれども、是非とも直ちに検討を始めていただきたいと思います。

 次に、特例法の方につきまして述べさせていただきます。

 消費者裁判手続特例法の方ですけれども、二〇一六年十二月に施行されまして五年余りになりますが、これまで特定適格消費者団体の認定を受けた団体は四団体、そして被害回復訴訟件数も四件にとどまっております。裁判外で解決した事例というものは一定数あるんですけれども、非常に控えめなスタートとなっていると受け止めております。

 このような状況を踏まえまして、消費者庁にて検討会が設置され、今回の法案改正に至る検討会がありましたが、こちらは半年にわたって、かなり短い期間で精力的に論議が行われました。そのため、非常に今回の改正案は被害回復のための消費者団体訴訟制度をより使いやすくする内容であり、本改正案の成立を強く希望いたします。

 ただ、短期の検討で、半年しかありませんでしたので、まだ論議し足りない部分というものもありました。十分な検討時間が確保できず、積み残された課題につきましては、別紙三に掲載させていただいております。その中から少しだけ抜粋をさせて要望を申し上げます。

 一つ目は、こちら、別紙三の1(3)2の記載にあります「相手方の財産に関する情報の開示手続」です。

 被告事業者の財産状況がどうであるかということはなるべく早期に把握して、そして多数の被害者の回復を実現できるだけ資力が事業者側にあるかどうか判断するということが早期に求められるところであります。

 この点について、現行制度では特例が設けられておらず、簡易確定手続、二段階目ですが、こちらが終了して債権者と債権額が確定しなければ、財産状況の開示を求めることができません。その時点で事業者に十分な財産がない場合は、手続に参加した消費者は正当な分配が受けられず、費用倒れになるおそれさえあります。また、団体にとっても、債権届出から後の費用の回収ということもままならない結果となると危惧しております。

 本制度では、共通義務確認訴訟で団体の請求が容認された時点で、被告事業者の金銭支払いの義務というものは確認されているはずですので、遅くともその段階で財産情報の開示を求めることができるように特例を定めるべきではないかと考えております。そうすれば、確認できた財産の額に応じて、対象消費者に通知、公告をするときに、被害の回復の見通しをより正確に伝えることができますから、対象消費者が手続に参加するか否かの判断の手助けになると考えております。

 もう一つは、パワーポイント下段の真ん中にあります「行政的手法の検討」です。

 悪質な事業者ということにつきましては、所在が把握できなかったり、財産が隠匿され把握できないなど、本制度を始めとした民事訴訟手続だけでは被害回復には限界があります。悪質な事業者による多数消費者被害を回復するためには、早期かつ広範に被害情報を探知できる行政が、悪質な事業者の財産を保全するなど、被害回復に積極的に関与することが必要です。

 この点を踏まえ、既に消費者庁では、消費者の財産被害に関わる、これは平成二十五年ですね、行政による経済的不利益賦課制度及び財産の隠匿・散逸防止策についてと題する報告書がまとまっております。この報告書では、賦課金制度のほか、供託命令制度や消費者庁による破産手続申立て、及び行政が直接消費者の被害救済を図るための手法、制度が提案され、検討に当たっての課題も整理されております。このうち実現したのは、賦課金制度のうち景品表示法の賦課金制度だけにとどまっております。これらの行政手法についても、今後検討を進められることを心より強く要望いたすところです。

 最後に、この間の議員の皆様の前向きで建設的な、次につながる御議論を尽くしていただいていることに、改めて深くお礼申し上げます。そして、消費者契約法におきましては直ちに抜本的な見直しの検討を開始していただきますよう、いま一度申し上げ、私からの発言を終えさせていただきます。

 ありがとうございます。(拍手)

松島委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

松島委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。宮崎政久さん。

宮崎委員 自由民主党の宮崎政久です。

 今日は、三名の参考人の先生方、大変に充実をした御意見を聞かせていただきまして本当にありがとうございました。お立場はそれぞれでありますけれども、大変勉強になる、法案質疑にもとても役に立つ御意見をいただいたものと感謝を申し上げます。

 今回の法改正は、既に御指摘もありますけれども、平成三十年、百九十六回国会において法改正があった際の附帯決議に対応して順次検討会などがされてきたということであります。この決議の内容自体は、当たり前ですけれども、平成三十年以前の社会の状況を反映しているものであります。それ以降、社会はどんどんどんどん進展していきますから、その状況というのはもちろん今は違うわけであります。

 改めて言うまでもないですけれども、コロナの感染の拡大を受けてステイホームが推奨されたことに象徴されていますが、オンライン取引とか、テレビのCMなんかを見ていてもキャッシュレス決済とか、こういったことがどんどん拡大をしている。消費者相談や、また、悪質な被害に遭ってしまった方からの困った状況の相談というのも増えているわけであります。これはすなわち、世の中が進展をしていって、例えばオンラインの取引やキャッシュレスなどにそれまで慣れていなかった層が十分な知識や経験がないがゆえに被害が発生してしまっている、こういうことが言えるわけであります。

 時代が移ると消費者を取り巻く環境は変わる、だから、消費者契約法一つ取ってみても、一旦改正したら終わりということはないわけでありまして、随時、環境の変化に応じて見直すことが必要であります。

 今から質問させていただきますが、そういったことも踏まえまして、今回の法改正の評価と、あと、将来に向かってどうするべきかという大きな議論も少し、短い時間ですが、させていただきたいと思います。

 まず、河上参考人に二点お伺いしたいと思います。

 一つは、まず、従来の消費者法の枠組みなどから今回の改正法を評価していただいて、評価をできる点をお伝えいただきたいと思っています。将来に向けての大きな話はもう一回後から聞きたいと思うんですけれども、従来の消費者法の枠組みから今回の消費者契約法の改正案、評価をしていただいての御知見をいただきたいと思います。

河上参考人 従来の消費者契約法は、先ほどお話ししましたように、言ってみれば必要最小限のところに手当てをするというところから出発をしたということでありまして、取消し事由として本当に限られた部分だけを二つ、あとは威迫、困惑のタイプとして不退去とか幾つか、二つほどのもの、それだけで出発したということは確かであります。

 今回、新しい改正を積み重ねる中で、今回の法案もそうですけれども、そこではつかみ切れない、例えば消費者自身の精神的な判断力、考え方とか思いといったようなものを中心に、心理的要素を捉まえて、その部分を要件の中に書き込むことに一応成功した法案になっているということは確かであります。

 ただ、それを余りにも積み重ねていっても、まだ受皿がないとやはりこぼれるんだということは先ほど申し上げたとおりでありますので、評価できる点というのは多々ありますけれども、努力義務のところに本来なかなか入り込めないものを落とし込んでおいて、そこを拡張していく可能性を持ったというような点も含めて、個人的には評価できるかと思っております。

宮崎委員 ありがとうございます。

 さはさりながら、今の受皿のことも冒頭御指摘もいただきました。また、今日伺ってちょっとショックを受けた言葉に、小さく産んで大きく育っていないじゃないか、捨て子みたいになっているじゃないかと。こういうことについては、やはり、立法を担う私たちとしては、先生のこの言葉は真摯に受け止めてきっちり取り組まないといけないなというふうに改めて、何というか、先生に教えをいただいたというような気持ちで、本当に強く受け止めたところでございます。

 この消費者法における民事のルールは、御指摘のとおり、消費者が持っている脆弱性、先生のお言葉では人間本来の脆弱性というお言葉もありましたが、この脆弱性ゆえに不利益を被らないように社会のルールを定めていくものだというふうに、ここがスタートであります。

 更に言えば、御指摘もあったとおり、不適切な事業を行う者がきちっとこれは駄目だよということになって適正な事業運営ができるような社会のルール、市場の整備というんでしょうかね、こういったものに寄与するルールがしっかりできて運用することによって、例えば、事業者と消費者というだけでなくて、経済社会全体が適正な取引が進んでいく、言ってみれば商道徳の育成というんでしょうかね、こういったことができていく。それを裏打ちしていくためには、そういうことをやっては駄目なんだよというときにきちっと指摘ができるとか、そういったものは、例えば制裁、サンクションまで受けるようなことがあるからそういうことはできないんだということによって、ルールを形成して社会を維持していくことが必要です。

 こういう言い方をしていいかどうか分かりませんけれども、悪いやつというのは大体世の中どこにでもいるわけでありまして、ここに対抗していくことによって適正なルールを作っていくことが、我が国の経済社会の発展、国富の増大であったり、また、コストを低減させるというんですかね、社会的コストを低減させることによってその大きな市場の形成に寄与するものだというふうに思っております。先生からも先ほど、消費者にとっても事業者にとってもウィン・ウィンになる消費者志向経営の核心的な目標という御指摘がございました。

 そこで、お伺いをしたいと思います。

 こういった観点から、将来に向けて消費者契約法がどういう方向であるべきか。先ほど、消費者契約法の構想ということで、骨太の方向性を明らかにしていくべきだということで少し御指摘をいただいたところであります。せっかくの機会ですので、もう少し踏み込んで、将来のいわゆる大きな方向性で考えていった場合にこうあるべきだというような御指摘、改めていただければと思っております。

河上参考人 どうもありがとうございます。

 やはり、社会における市場行動規範というものを整備して、きちんとサンクションも加えながらそれを実効性あるものにしていくということは必要なことであるという御指摘は、私もそのとおりだというふうに考えております。

 我々が相手にしているのは共通の敵であります。つまり、市場を攪乱している共通の敵に対してそういうことをしてはいかぬということをはっきりと述べることが必要だということがまずあります。

 それから、先ほど消費者契約法の今後の望ましい全体像というものについての御質問がございましたけれども、基本的には、目的規定の中にはっきりと、何のためにこの法律があるのか、特に、私は、人間としての脆弱性を前提として、こうした人たちが被害を被らないように守るのがこの法律の本当の使命の一つだということをはっきりと書く、ある種の適合性原則に関わるような規定を目的規定にかける。

 さらに、契約の締結過程ですね。今は、広告の部分というのはほとんど規制の対象から外れてしまっています。景表法は若干ありますけれども、消費者契約法の中でも広告部分について契約締結過程をきちんと書き込むということ。それから、電子機器を用いた取引が盛んになってきていますから、こうした電子機器を用いた申込み、承諾のルール、これを書き込むこと。

 さらに、契約の条件だけではなくて、契約の本体の効力を否定するような、そういうルールというもの、言ってみれば民法の公序良俗違反の消費者契約版ですね、そういったものも書き込んでいく。場合によっては、消費者自身にも落ち度があった場合の過失相殺も、本当は書き込んで構わないんじゃないかというようなことを考えています。

 あとは、履行過程と解消後の問題というようなものを、全体としてまとまった形で、消費者売買法というか、消費者契約法の本来の姿というものについて将来検討していくのが重要ではないかと考えております。

宮崎委員 先生、ありがとうございました。

 次に、野々山参考人にお伺いをさせていただきます。

 日弁連の消費者委員会、私も長いこと育てていただきました。先生の御活躍、また先生方の御活躍に本当に敬意を表するところでございます。

 今回の法案の、高齢者の自宅売却をめぐるトラブルなどを含めたこと、先立った法案審議でも出ております。今日、ほかの先生方からも御質疑が出ると思うので、私は違うところで一点、先生にお伺いしたいと思っております。

 先生、最後の御発言の中で、将来に向けてのお話をいただきました。消費者契約法は、民法の特別法として、民事ルールにふさわしい内容を含んだ抜本改正、これを目指すべきだという御指摘をいただいて、私も実は、さっき言ったとおり、商道徳の形成を含めてこれは重要だと思っております。

 野々山参考人がお考えになっているこの将来の抜本的改正の方向性について、また御知見を聞かせていただければと思っております。

野々山参考人 御質問ありがとうございます。

 抜本的改正というのは、一つは現在の消費者契約法の抜本的な改正が要るということであります。

 まず一つは、適用場面が今は勧誘と条項の無効だけなんです。契約というのは、勧誘から履行、それから解約まで至るわけであります。そういうところまで含んだ中で様々な諸問題が生じておりますので、そこを含んだ全体像を検討するということがまず一つ大事であります。

 それから、今行われている改正、それから、その以前の二十八年改正、三十年改正は、私から見ると後追い的なものになってきているということで、どんどん細かい要件となり、それが限られた場面に適用できるということになってきます。使いやすさということからしたら逆行しているわけであります。むしろ、使いやすいということであれば、ある程度汎用性のある要件にして、しかもそれをきっちりと救済できるという規定にすべきだというふうに思っております。そういう意味では、より抽象化した規定を検討していくというのが二つ目の、抜本的な改正の一つの検討の方向性であります。

 それから、効果の点では、今は取消しと無効ということがあります。これ自体はサンクションとしては非常に重要なことでありますけれども、もう一つ、損害賠償というものがあります。お金で解決をする。この損害賠償のよいところは、ある程度柔軟性があるということです。先ほど、過失相殺という言葉が出ましたけれども、取消しはやはりオール・オア・ナッシングです。これは、やはり契約を維持することが問題だという事例に対して、それを契約から解放するということが必要になってくるわけですけれども、そういうものがあります。それを、そういう形でない、過失相殺も含めた損害賠償の方向性があるということ。

 それからもう一つ、とても大事なのは、消費者像をもう一回見直すということであります。

 消費者像は、事業者と消費者の間に格差があります。これはもちろん格差があるわけですけれども、今まで考えられていたのは、いわゆる自立ができる消費者だったわけであります。そこの中での格差の中でどういうものを検討するかということであったんですが、やはり高齢化社会の中では、消費者の中でも脆弱な消費者が出てきているわけです、非常に脆弱な消費者が。それから、様々な困難な状況の中で一時的に脆弱な状況になる、これは報告書にも指摘がありますけれども、そういう消費者像を改めて見直す。

 脆弱な消費者というものが存在するんだというところ、格差がある中で、更に脆弱な存在があるということを見直す、こういうことを検討していくということが必要かというふうに思っております。

宮崎委員 ありがとうございます。

 最後に、三谷参考人、一点お聞かせください。

 今回の法改正は、消費者裁判手続特例法の改正によって、消費者団体、適格を含めて、期待が非常に大きいということが表れております。

 昔は、例えば、うちのおふくろなんかが、近所の八百屋で買物するときに、おっちゃん、昨日買ったミカン、悪かったでみたいなことを言うと、ごめんな、これ、ちゃんとトマトをつけておくからという意味で、交渉情報の非対称性というのは低かった。しかし、現代社会で様々格差が出ていってしまった。これをしっかり担うのが消費者団体だと思うんです。こういった期待が大きい。

 法改正に向けての御意見は、ペーパーでも頂戴いたしました。そこで、三谷参考人には、消費者団体がこれから社会の中で果たすべき役割の方向性について、どういったお考えであるか、お聞かせいただきたいと思っています。

松島委員長 三谷参考人、手短にお願いします。

三谷参考人 はい。

 御質問ありがとうございます。

 消費者団体としましては、やはり、ただ守ってもらうだけではよくないというのは承知しております。脆弱性も増してはいる中ではありますが、やはり、自立した消費者市民社会というのを形成していく役割を消費者団体がしっかり担っていかなければならないと思っております。

 そのためには、消費者教育などの啓発、それから消費者生活相談等、様々な役割を担っている団体がおりますが、これからも、社会の形成の一翼、自立した消費者、きちんと消費者団体同士でも脆弱な消費者を支えられる、そういった消費者団体を目指していくべきかと思っておりますので、そのように努力いたします。

宮崎委員 終わります。ありがとうございました。

松島委員長 次に、山田勝彦さん。

山田(勝)委員 立憲民主党の山田勝彦でございます。

 本日は、三人の参考人の先生方、大変貴重なお話、ありがとうございます。

 その上で、それぞれのお立場でいろいろなお話をいただいたんですが、かなり、三名の方々のお話、共通するところが多かったと思います。特に、検討会の報告書の内容から大きく乖離している点への不信感、そしてまた判断能力の低下に着目した規定を入れるべきだという点など、様々な点で共通している点も多かったという印象を持っております。

 その上で、野々山参考人にお伺いします。

 そもそも、消費者契約法というのは、どのような役割を期待された法律なのでしょうか。

野々山参考人 これは、やはり隙間を埋めるということが重要です。特別法で定めてあったものに対して、その隙間を埋めていくということが非常に重要なポイントであるというふうに思っています。民法の特則として、民法典よりもより具体的な内容にしていくわけですけれども、それが一番のポイントだというふうに思います。

 それから、各当事者間の問題について交わすものであるので、行政規制とはやはり異なるということをきちんと認識をすべきではないかなというふうに思っています。

 事前規制から事後規制、すなわち、事後に救済をするということも消費者契約法の本来の役割でありますので、きちんとサンクションを定めていく、違反したらどうなるかということを定めていくということが重要な役割であるというふうに考えております。

 以上です。

山田(勝)委員 ありがとうございます。

 超高齢化社会がますます進展して、高齢者である消費者の保護がより重要な課題となってきております。また、成年年齢引下げが間近に迫る中で、若年成人の消費者被害の予防や救済が喫緊の課題となっている。

 そのような今の時世の中で、消費者契約法に期待されている役割という観点から、今回、議題に上がっている改正法案はどのように評価されるものでしょうか。野々山参考人、お願いします。

野々山参考人 先ほども若干述べましたけれども、先ほど申しましたような隙間を埋める規定であるということからしますと、今回の規定は非常に限定された場面についてのものであるということであります。

 それで、今起こっている高齢者あるいは若年成年の方たちに対する被害に、この三つの、新しくできた法案で十分対応できるかといいましたら、それはなかなか難しいという思いがあります。

 それから、後追い規制。行政規制は後追い規制になるわけです。民事ルールは後追い規制であってはならないというふうに考えておりますけれども、それが、今のような形では後追い規制になってきている。こういう形での法案の改正が行われると、後追い規制というのが続く懸念があります。

 それから、三つ目には努力規定、努力義務。これ自体は悪いことではありません。努力義務は定めて悪いことではありませんけれども、それに対してのサンクションをやはりきちんと定めていくということ、それが欠けているというふうに思っております。

山田(勝)委員 ありがとうございます。

 それでは、三名の参考人の方々にお聞きしたいと思います。

 つけ込み型勧誘に対する取消権の必要性というテーマです。

 平成三十年の改正の際、消費者委員会による答申の際の付託や衆参の附帯決議において、いわゆるつけ込み型勧誘に対する取消権の検討が求められていました。

 しかし、改正案では、平成三十年改正と同様、個別の取消権を追加するにとどまっています。個別の取消権を追加する改正方法では、後追いの対応となるし、同種の不当性があっても、形式的に要件に合致しない場合、救済されません。

 やはり、私たち立憲民主党が提案しているように、消費者被害を広く予防、救済するためには、受皿的な規定として、つけ込み型勧誘に対する包括的な取消権が必要と考えております。

 三名の参考人のそれぞれの見解を伺いたいと思います。まずは河上参考人からお願いします。

河上参考人 私、消費者委員会に前におりましたときに、いろいろな形で、このつけ込み型勧誘についての包括的な受皿規定が要るということを申し上げ続けてきました。

 その意味で、今回、こういう形での規定が欲しいということは前々から考えておりましたけれども、ただ、つけ込むという言葉の中には、既に、相手方の状況を認識して、そこにいわばわなを張ったり、いろいろなものを仕掛けていくという意味合いが入っているわけであります。

 ですから、余りごちゃごちゃと、相手の何とかを知ってとか言わないで、本当につけ込んで、そして不当な利益を獲得しようとする、そういう行為というものについてぴたっと取消権を書く。もう既に今七つほど出ていますので、その他、これに類するようなものというレベル感は示すことができますので、そういう形で受皿規定を作っていただきたいというふうに思います。

野々山参考人 私も、先ほどから申し上げている、隙間を埋めるという消費者契約法の役割からしますと、受皿規定は不可欠であるというふうに思っております。

 困惑類型の受皿規定、今回、できませんでしたけれども、あれも是非作ってほしかったというふうに思っておりますし、つけ込み型勧誘の受皿規定というのも、是非、今後の検討、まあ、今回の国会でもしできれば、それは一番いいことでありますけれども、是非実現していただきたいというふうに思っております。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 つけ込み型に対する包括的な規定ということは、もし規定できるならば、もちろん、消費者の保護には資するので、あった方がよいとは思うところですが、この間の審議を聞いていますと、取消権というのはかなり要件を明確化しなければならないというようなことも聞いていまして、その中で包括的な規定というのを盛り込むことができるのかというところで心配はしております。

 あわせて、できることならば、事業者の知っているか知らないかというところというのは、知らなかったと言われてしまうことを非常に消費者は心配しておりますので、そういった要件はなくせば、より包括的な取消しを期待できるというふうに思っております。

山田(勝)委員 ありがとうございます。

 三名の参考人の先生方それぞれが、やはり包括的な取消権、必要だという御意見を頂戴しました、あった方がよりよいということも含めて。その中で、要件の明確化というお話も出ました。

 野々山参考人にお聞きいたします。消費者庁は、今回のような法律案となった理由について、取消権は強い効果と事業者の行為規範としての機能を持つことから、消費者にとっての使いやすさ、事業者の予見可能性、要件の明確性という要素が全て満たされることにより十全に機能することになると考えられますという答弁を繰り返しております。この点について、どう思われるでしょうか。

野々山参考人 予見可能性は必要だというふうに思っております。それは当然、ルールですので、予見ができなければいけないというふうに思っております。これは制定当時からも議論されて検討されてきたわけでありますけれども。ただ、今回の改正は極めて過剰だと私は思っております。極めて限定した中で要件を定めてあるということであって、予見可能性のものをつくるということと、それから場面を限定するということはまた全然別の話でありますので、こういう包括的なものであっても十分予見可能性のあるものはつくれるというふうに思っております。

 制定した当時の誤認類型も幾つかあります。不実のことを言っちゃいけないとか、あるいは将来の価格等が、価値が異なるものについてあらかじめ断定的なことを言ってはいけないとか、そういう形で書いてありますけれども、それらは明確であります。それは、そんなに場面を限定しているわけでは全くありません。そういうものをやはりピックアップしながらやっていくということが必要かなというふうに思っております。それらが、新しく出てくる様々な問題のある商法に対して対応できているわけですね。

 現在、私もいろいろ裁判してきましたけれども、最近の改正後、裁判はなかなか難しいです。非常に要件が細かくなってしまって、それに当てはまるかどうかを一々、一つ一つ検討していくので、新しく出てくる商法に対して対応ができないということであります。

 だから、予見可能性ということと、場面を限定していくということとはまた別であるというふうに考えておりまして、今回のは、繰り返しになりますが、過剰ではないかというふうに思っております。

 あともう一つは、消費者契約法の十条というものがあります。あれは、一般の受皿規定で、それとして例示をつくっておりますので、ああいう形にしていけば、受皿規定と例示のバランスの取れた法律になっていくんだろうというふうに思っております。

 以上です。

山田(勝)委員 ありがとうございました。

 それでは、河上参考人、野々山参考人、お二方にお聞きしたいと思います。

 今までの話を総合して、本来あるべき消費者契約法の改正の姿とはどのようなものでしょうか。河上参考人、よろしくお願いします。

河上参考人 難しい御質問でございます。

 本来あるべき消費者契約法というのは私もよく分かりませんが、しかし、こうあってほしいと思うような消費者契約法像というのはあります。

 それはやはり、当事者が市場で行動するときに、お互いに、相手に対して行動を信頼できる、そして、結果的に一つのセーフティーネットが張られているので被害を最小限に抑えることができるというようなための基本ルールを定めていく。そのためには、入口から、先ほど野々山先生からもお話ありましたけれども、出口の解除のところに至るまで一定のきちんとしたルールの組立てを立てていくということが、抜本的な改正に向けた一つの方向ではないかと考えております。

野々山参考人 私はやはり、消費者契約全体をカバーできる法律であるべきだということと、それから、現在の状況を見る中で指摘したいのは二点ありまして、一つは、限られた場面にしか適用されない、こういう後追い規制からは脱却すべきである、これがやはり一つの消費者契約法のあるべき方向だというふうに思っております。

 それからもう一つは、あるべき方向として、先ほども申し上げましたけれども、これまでは、平均的な消費者というんですか、自立できる消費者を対象にしていた規定であったものを、今回漏れた判断力不足というのはまさにそうなんですが、脆弱な消費者というもの、こういうものにも視点を置いて、そういう人たちが救済されるようなものをきちんとつくり上げていくというのが、あるべき方向として重要ではないかというふうに考えております。

 以上です。

山田(勝)委員 三名の参考人の方々、大変貴重な議論をさせていただきました。勉強になりました。

 ありがとうございました。

松島委員長 次に、漆間譲司さん。

漆間委員 日本維新の会の漆間と申します。

 本日は、本当にお忙しい中、様々に御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 まずは、参考人の皆様にお聞きしたいと思います。

 すごく大きくざっくりとした質問なんですけれども、昨今の日本政府が進める消費者行政について、課題や問題点、思うところなどありましたら、是非いただければと思います。

 いろいろ検討会の進め方に関しても御意見をいただいたところですので、是非、ちょっとざっくりとした質問ですけれども、よろしくお願いいたします。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 日本における消費者行政、まず一番大事だと思いますのは、各現場にあります地方消費者行政の充実強化かと思います。

 各地域において、消費者の被害がきちんと最寄りの行政による消費生活センター等で相談が受けられ、そしてあっせん等により解決していく、これの積み重ねが最も重要ではないかと思っております。

 ですので、そのためには、地方消費者行政の充実強化のための、特に消費生活相談員の処遇、こうしたところの強化というところが本当に必要だと思っております。そういったところに手厚い予算ですとかというところをつけていただきたいと思っております。

 あわせて、社会のデジタル化が進んでいる中で、地方消費者行政もデジタル化の対応というところが求められるようになってきています。特に、コロナの中で、なかなか対面での相談というのも難しいというようなところがありますので、社会のデジタル化に合わせて、地方消費者行政のデジタル化に向けた対応への予算や手当て、サポートといったものが必要になるのではないかと思っております。

河上参考人 大きな課題だったので、ちょっと私もどうお答えしていいかと迷っていたんですけれども。

 ただ、基本的に、ある段階から、消費者契約法ができたときからそうだったんですけれども、規制緩和ということが非常に盛んに語られていって、競争を促進して規制緩和をすることが是であるというのが前提で、それに対して事前規制をするのはよろしくないという発想が、これは今までずっと続いているわけですね。

 ところが、そういうところで弱肉強食が起きて、結果的には弱い立場の消費者が被害を被るということになってきたので、やっとセーフティーネットを張りましょうというところまで来たということになります。

 でも、本当は、事業者の職業倫理というものが大事なところがあって、アダム・スミスがレッセフェール、契約自由を語ったとき、あのときにアダム・スミスは別のところで、グラスゴーという、講義をしておりまして、そのときに、相手に対する共感と共助、これがないと資本主義は潰れる、これは病理現象なんだ、競争だけに走るのは、そういうことも言っているぐらいでありまして、その意味では、もう少しきちんと競争とそれから抑制、共助の発想を持っていただきたいということが一つあります。

 それから、先ほど地方消費者行政の話が出てきましたけれども、実は、消費者団体の方とか、あるいは適格消費者団体の方も含めて、大変苦労しております。言ってみれば、消費者庁の下請的な仕事をしているに近いんですね、ああいういろいろな交渉事。それをみんな手弁当でやっているわけであります。やはり、消費者団体に対する支援というのを少し厚くしてさしあげないと、なかなか地方での消費者団体の活動を持続的に継続していくことは難しいんじゃないかということを考えております。

 以上です。

野々山参考人 日本弁護士連合会は昨年の十月に人権擁護大会を開催しまして、そこで消費者問題対策委員会が一つの決議を上げております。これは、今、超高齢社会の中で、誰もが取り残されない社会をつくる、誰もが消費者被害というものに遭わないような社会をつくっていくんだ、こういうことを提言しております。

 先ほども何回も申し上げていますけれども、これまで十分に光が当たらなかった脆弱な消費者という概念、欧米で今この概念が非常に広がってきて、行政もそういう支援をしなくちゃいけない、それから、判断能力が劣った可能性のあるというのはどういう場合か、そういうときにどう対応しなくちゃいけないかということに対する企業へのガイドラインを定めたとしております。金融庁でも今そういう問題意識を持って対応しておりますけれども、そういうものが社会全体に広がっていかなくちゃいけないという視点から様々な提言をさせてもらっております。

 ですので、やはり消費者教育というのは一つ大事だということであります。消費者教育は、それぞれがやはり自立していく、自分で契約をして自分で考えていく、これはもちろん大事でありまして、それは非常に重要な方向性の一つであります。

 それからもう一つは、脆弱な消費者、そういうことが十分できない状況にある、あるいは、そういう常態にあるというんですか、一時的になる場合と常になる場合があるわけですけれども、そういう方たちに対する支援と救済のものを求める、法律なり行政なり、そういうものを求めていくというのは必要になってくる。

 そのためには、行政支援としても、行政が裁判をする制度というものも欧米ではありますので、利益吐き出しを図っていくというものですね、そういう制度なんかも提言をさせていただいております。そういう方向性が昨年の十月に日弁連で出されまして、これがやはり課題であるというふうに思っております。

 以上です。

漆間委員 ありがとうございました。

 それでは、三谷参考人にお伺いさせていただきます。

 今般の議論を踏まえまして、先ほど消費生活相談センターだったり相談員の方々の支援ということをおっしゃっておられましたけれども、今後、消費者運動の展開も併せてやっていかなければならないと思うんですけれども、今般の議論を踏まえてどのように消費者運動を展開していくかにつきまして、コメントなどありましたら、よろしくお願いいたします。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 消費者運動と申し上げましても広くありますが、特にこれからの社会で必要になってくることとしましては、消費者団体だけでこの社会を何とかしようとかそういうことではなく、やはり、事業者あるいは他団体、ほかの分野の団体さんなど、様々な分野ときちんと連携をし、また、国際的にも、CIという国際機関の消費者団体の連合会がありますので、そういった国際的な団体との連携なども通じながら、広く社会に対応していく必要があると思います。

 特に、今、消費者問題の分野といいますのが、デジタル化ですとか、かなり詳細な部分が難しくなってきておりまして、専門家の方々あるいはシステムとかに通じた方々などのサポートがないと、なかなかその問題が解決できなかったりもします。そういった意味では、事業者を含めた協業、協働といいますか、そういった連携の在り方が大切になってくるかと思います。

漆間委員 三谷参考人に引き続いてお伺いいたします。

 今般の議論を踏まえて、地方政府だったり地方議会が果たすべき役割、また国の支援の在り方、少しおっしゃっておりましたけれども、改めてお伺いいたします。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。国の支援というところに集約して。

 地方消費者行政、もちろん自治事務の部分はありますけれども、その自治事務がしっかりと予算を確保していくように、消費者庁におかれましては、国におかれましては、しっかり働きかけをまずはしていただきたいということがあります。そして、国として支援できる範囲というのを見極めつつですが、できることはやっていただきたい。財政的にでありましたり、業務的な研修等の提供ということもあるかと思います。

 それから、あわせて、先ほど申し上げたデジタル化については、各自治体で対応するというのはかなり難しいのではないかと思っておりまして、特にこういうシステム化の分野などにおいては、国においてしっかりと政策立案、あるいはコアのものをつくっていただき、それを地方に波及する、こういったような役割があるのではないかと思っております。

漆間委員 次は、三人の委員にまたお伺いしたいと思います。

 成人年齢引下げを踏まえました消費者教育の在り方。先ほどざっくりとした質問のときにもおっしゃっておられましたけれども、改めて消費者教育の在り方についてお伺いいたします。よろしくお願いいたします。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 消費者教育の在り方、まさに目下では、成年年齢の引下げの施行というところで、若年層への教育ということが緊急のことであると思います。

 ただ、消費者教育を高校二年生あたりで急にやってもなかなか定着はしないでしょうから、中学あたりからしっかりと何度も何度も積み重ねていくことで御本人たちの自覚を促していくような、しっかりとした枠組みの教育が必要になると思います。

 あわせて、だまされないという啓発だけでなくて、やはり消費者自身が、インターネットリテラシーですとか、あるいは特に今後必要になってくると思われます金融リテラシー、こういったものを早くから積み上げることによって消費者教育は総合的に強化されるのではないかと思っております。

野々山参考人 成年年齢引下げに伴って予想される被害に対して対応するのに、もちろん子供たちに対する教育はすごく大事です。ですが、これは学校教育の中でないとなかなかできない。私どもが子供さんたちあるいは高校生たちを対象とするそういう勉強会を開こうとしても、なかなか来てくれません。大学生でもそうです。そうなってくると、やはり学校教育の中に組み込まれないと多分聞いてくれないだろうというふうに思います。

 それと、子供たちに対する教育だけでなくて、重要なのはその周り。PTA、PTAというか、親御さんですよね。それとか、教師の方そのもの、それから大学の職員の人たちとか、そういう周りを支える人たちにこそ、我々大人が、どういう被害があってどういうことをしなくちゃいけないのか、どういう兆候があったら気をつけなくちゃいけないかということ、どうやってアドバイスしたらいいのかということを考えていかなくちゃいけない、また実施していかなくちゃいけないということ。

 三つ目は、被害に遭ったときの救済の場所が、電話じゃ来ないんですね。だから、若者が使えるそういうツール、LINEが代表的ですけれども、そういうものをどんどん工夫して導入して、被害があったときに相談しやすい、そういう環境をつくっていくということも大事かなというふうに思っております。

河上参考人 御質問ありがとうございます。

 消費者教育というのは、本当に消費者政策の核になるべきものだと私も認識しております。

 今回の成年年齢引下げにおいて、やはり若い人たちに対して消費者問題についての理解を深めていただくということなんですけれども、先ほど野々山先生もおっしゃっておられましたけれども、やはり小さい頃から少しずつ金銭教育もしていくということが必要ですし、小さい頃から段階を追って、大人になって耐性をつける、社会的な攻撃に対して耐える力をつけていくということが必要であります。

 そのために、子供たちの環境の中で、やはり社会全体がどういうふうにそれに取り組むかという問題と、それから、学校がどうするか、家庭がどうするかというあたりをそれぞれ考えてアクセスをしていく必要があって、御両親とか学校の先生なんか、教え手になる人を逆にどう育てるかということが大事になります。

 そのためには、恐らく媒介になる人が要るんじゃないか。例えば、消費者相談の実務に携わっているような方が間に立って、話をかみ砕いて、具体的にこういう危険ですということを教えていかないといけないんじゃないかということであります。

 残念ながら被害に遭ってしまったときに、これまたワンストップでそうした被害に対して対応できるような窓口というのをきちんと考えておくというあたりが必要になろうというふうに考えております。

漆間委員 ありがとうございました。

 これで終わらせていただきます。

松島委員長 次に、福重隆浩さん。

福重委員 公明党の福重隆浩でございます。

 参考人の皆様方には、本日、御多忙の中、国会まで足を運んでいただき、また貴重な御意見、御示唆をいただきましたこと、誠にありがとうございました。

 私の方からは、まず消費者契約法の今後の改正の方向性ということについてお伺いしようと思ったんですけれども、先ほど本当に詳しく御説明をいただきましたので、この件を省略して、別の視点から質問をさせていただきたいというふうに思っております。

 四月七日の本法律案の質疑において、我が党の吉田久美子議員より、今回の法改正によって、近年の多様化している消費者トラブルに対して、より消費者を守れるようになるのかという点について、高齢者の住宅の媒介契約等の具体例を提示し、質疑がなされ、若宮大臣は、既存の消費者契約法の枠組みにとらわれない抜本的な検討というものも必要ではないかと考えている、将来に向けましては、消費者契約法が果たすべき役割とは何なのか、こういった観点から、法体系全体の中での各法律の実効的な役割分担を考えるといった、いわゆる骨太の議論というものが必要であると考えているというような御答弁をいただきました。

 そういった中で、今回の法改正は非常に重要なことだというふうに認識をしておりますので、ちょっと細部にわたりましてお伺いをさせていただきたいと思います。

 本改正案に盛り込まれておりますサルベージ条項の規定につきまして、規定の内容に対する評価を伺います。

 消費者庁が行った調査において、サルベージ条項が消費者にとって正しく理解されていないことや、結果として事業者に対する責任追及が萎縮する効果があることをうかがわせる結果となっており、その不当性が指摘されているところであります。

 本改正案において、サルベージ条項については、損害賠償請求を困難にする不明確な一部免除条項を無効とする旨の規定が盛り込まれておりますが、その内容の評価について、参考人のお三方のお考えをお伺いしたいと思います。

河上参考人 実は、サルベージ条項を不当条項の中に入れてほしいというふうに消費者庁の検討会で最初に申し上げたのは私でございました。その意味では、サルベージ条項というものを今回のように非常に狭いところで決めてしまう、決め打ちにするということについては、私はちょっと疑問を持っております。

 むしろ、やはり、法の許す限りという言葉を一言入れることによって、本来であれば全体が真っ黒になってしまうものが有効に転換してしまうというようなところにこそ問題があって、これは諸外国の不当条項の中でも既に明らかにされているところであります。

 余り細かい要件の下で書くのではなくて、むしろ、そうした諸外国の立法状況を参考にしながら、本来は無効のものを、法が許す限りにおいてという文言だけで逃れてしまうというようなことは許されないということをはっきりと示すべきではないかと考えております。

野々山参考人 私は、サルベージ条項の、これはある場面の部分です、損害賠償という場面の部分でありますし、過失というところに絞った形でありますけれども、それ自体は評価をしております。こういう規定が入ったこと自体は一歩前進であるというふうに評価をしております。

 ただ、今、河上先生がおっしゃったように、サルベージ条項というのはいろいろな形のものがありまして、もう少し広く、契約の中で、以上の中で法律に反するものは無効とするというふうに書いてあって、様々な不当条項を書くようなものもありますので、そういうものはここでは全部はカバーできませんので、そういうものも含めたものは今後検討していただきたいなというふうには思っておりますけれども、これ自体は評価をしております。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 サルベージ条項ということにつきましては、やはり、一消費者においては、法律上許される限りと言われてしまったときに、そんなに法律に詳しい方々ばかりではございませんから、非常に恐ろしく、萎縮するところであります。ですので、今回の改正では、法律上許される限りといった中身がよく分からないものに対しては一定手当てがされたというふうに評価しております。

 有効な例としましては、軽過失の場合は一万円を上限として賠償いたしますというような事例で、消費者庁の資料には載っておりました。このように書かれれば、今までのように法律上許される限りというようなことに比べれば、かなり消費者としては中身について理解ができ、契約を進めることができるかと思います。

 今回は免責条項というところで入りました。まずここが第一歩かと思っていますので、今後も、こうした消費者にとって分からない条項というのはなくしていっていただければと思っております。

福重委員 どうもありがとうございました。

 次に、参考人の皆様に、先ほども少し言及がございましたけれども、本改正案に盛り込まれております消費者裁判手続特例法の改正部分の内容につきまして、その御評価をお伺いしたいと思います。

 消費者裁判手続特例法が施行されてから五年が経過しております。その間、本制度が実際の消費者被害の救済に活用された事例が既に何件か見られているところでございます。これまで泣き寝入りとなることが多かった消費者被害を救済するため、新たに設けられた集団的被害回復制度が一定の成果を上げている状況にあると考えておりますけれども、消費者被害者の救済のため、集団的被害回復制度の更なる活用が期待されるところでございます。

 一方、実際に制度が活用される中で課題が指摘されている部分もございます。例えば、消費者団体と事業者の和解について、集団的被害回復制度の一段階目となる共通義務確認訴訟において、事業者側の責任の存否に関する事項しか和解することができないことや、制度の対象となる損害に慰謝料が全く含まれていないこと、特定適格消費者団体の事務負担が重いこと等が消費者団体等から課題として示されてまいりました。

 今回、このような課題を踏まえて検討会で議論がなされ、本改正案の提出に至ったものと承知しておりますが、今回の改正案においてこれらの課題がクリアされているのか、消費者裁判手続等の特例の改正部分の評価について、お三方の御認識をお伺いしたいと思います。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 私の発言の中で申し上げたとおり、今回の消費者裁判手続特例法というのはかなり前進したと思っております。

 御指摘のありましたとおり、和解が、これまでは結果が出るまでとほぼ同様のものまで進めないとできなかったんですけれども、今回これが柔軟に対応できるようになりましたし、その他、適格消費者団体が今後この制度を活用できるようにというところで、あらゆる場面で手当てがされてきました。

 積み残し課題というのはありますけれども、今回は大きく、大変高く評価しているところです。

野々山参考人 私は、京都で、適格消費者団体、差止めの方ですけれども、適格消費者団体の京都消費者契約ネットワークという団体の理事長もさせていただいております。いわゆる特定適格の資格を持っているわけではありませんので、やっていることは差止め請求だけでありますけれども、今回の消費者裁判手続特例法については大きく評価をしております。

 特に、何が大きいかといいますと、今御指摘がありました、慰謝料が対象になってきた。部分的、一定の要件がありますけれども、それに対する慰謝料が対象になったこととか、和解が柔軟化してきたことは非常に大きく評価しています。

 それから、今、私どもがまだなぜ特定適格消費者団体になれないのかというと、やはり人的、財政的な基盤というのが非常に脆弱であります。

 私どもの団体は全国で一番多分差止め訴訟を起こしていると思いますけれども、ほとんどボランティアでやっております。そういう中で、被害回復の手続を取ろうとすると、なかなかやはり大変なことになってきております。

 今、四つほど手を挙げていただいているわけでありますけれども、この中で、特定適格消費者団体の負担軽減のための特定適格消費者団体を支援する法人というものを制定する制度も導入したということ、これは今後どういうふうに運用していくかということが課題ではありますけれども、それについては期待をしているところであります。

 それからさらに、今回では採用されていないわけですけれども、やはりずっと私ども申し上げているのは、消費者団体とか、消費者団体訴訟等をやっているこういう適格消費者団体に対する行政的な支援を更に強化を是非していただきたいなというふうに思っております。

 それと、あと、先ほど申し上げた課題の中では、費用の面で、一旦、第一段階で負けているのにもかかわらず、その費用を負担しない、個別通知はできるようになりましたけれども、それをしない場合に、消費者団体がそれを代わってしなくちゃいけない。そのときに費用請求ができるような制度、こういうものを是非していただきたいなというふうに思っております。

 以上であります。

河上参考人 消費者裁判手続特例法に関しては、むしろ前向きに私は評価しているものばかりであります。

 通知のためのコストをどうするか、あるいは分配のためのコストをどうするかというようなことについては、随分皆さん悩んでおられました。これは今回支援がされている。それから、和解条項の柔軟化によって、和解内容がこれまで以上にいろいろ手当てができるようになった。さらに、慰謝料に関しても、定型的な慰謝料というのはありますから、現に、通常の不法行為でも。それを認めるという方向に進んだ。

 それから、いろいろな形で、個々の消費者団体が活動するに当たっては限界があるような作業でも、支援機関をつくって、その支援機関に代行してもらえるというような仕掛けも考えていらっしゃるということで、全体としては非常によく考えられて手当てをした法案だと思いますので、これは是非実現していただきたいと思います。

福重委員 どうもありがとうございました。

 次に、河上参考人に、契約書面の電子化に係る規定についてお伺いをさせていただきたいと思います。

 河上先生が御出版されました「遠隔講義 消費者法 二〇二〇」の端書きには、コロナ禍で、学生を前に対面での講義ができず、オンラインでの遠隔講義が余儀なくされ、まして、オンデマンドの講義となると、学生、受講生の顔色や反応を見て講義ができなかったことを述べておられました。その御苦労は大変なものがあったとお察しいたしますと同時に、著書のタイトル「遠隔講義 消費者法 二〇二〇」は、まさにコロナ禍の時代を背景にしながら、講義したい、理解してもらいたいとの学生、受講生への御熱心なお気持ちに敬意を表したいというふうに思っております。

 その上で、このデジタル書面というものの強み、弱み、それぞれあると思いますので、どのような措置を講ずれば消費者の保護が適切に図られるのか、しっかりと検討する必要があると考えております。その点、河上参考人は書面の電子化に関わる検討会の座長もされておられますので、御所見を是非御開陳お願い申し上げます。

河上参考人 書面の電子化に関しては、各消費者団体がこぞって反対をされている部分があるというか、懸念を示されている部分があることは私も承知しております。ただ、前回の参考人で呼ばれたときに、電子化そのものは、これはただの手段であるから、これを否定するものではないということを逆に申し上げて、河上は何を言っているんだというお叱りを受けたことがございます。

 この書面というのが特に特商法等においてどういう役割を果たしているかということを考えれば、やはり、書面を一覧できるということと、それから、その書面がクーリングオフの起算点を明らかにするためのものになっている。ですから、被害が起きたときに、周りの人間がこんな契約書というようなものを発見する、あるいはそれ以外のときでも、その契約書に関して、いろいろと懸念があるわけです。

 ところが、逆に、本人が、どうしても電子書面の方がいいんだ、私はもう、たんすに入れておいてどこに行ったか分からなくなるんだから、私のファイルの中に入れておきたいというようなことで、電子書面にしてほしいということがあったときに、それは駄目だとは言えないんですね。

 ですから、個人的には、一番いいデフォルトは、紙で渡すのと同時に、必要だったら電子書面でも渡しますというようなデフォルトにしておくのがいいんじゃないかとは思っております。

 ただ、現在、検討委員会で、もうかなりの回数議論をして、この問題についてはそれぞれの人の御懸念と技術的な可能性について意見が出尽くしておりまして、五月以降、具体的に、全体会を何回か開いて結論を得たいというふうに考えておりますので、よろしくお願いいたしたいと思います。

福重委員 貴重な御意見、大変にありがとうございました。

 時間が参りましたのでこれで終わりますけれども、本当は、電子化の中から、ダークパターンという新しいネット社会における問題点、こういったこともお聞きしたいと思ったんですけれども、また次の機会に是非御指導いただければと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

 本日は大変にありがとうございました。

松島委員長 次に、田中健さん。

田中(健)委員 国民民主党の田中健です。

 今日は、参考人の皆さん、お忙しい中、また貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 それでは、早速質問に移らせていただきます。

 今回の法改正に先立ち、消費者契約に関する検討会が合計二十三回にわたって開かれまして、議論を重ねた結果が報告書として提出がありました。

 これまでの本会議や委員会での議論は、この報告書で提案のあった数々の消費者保護の仕組みというものが法案に反映されていないのではないかということでありまして、先ほど、委員の中からも厳しい御指摘もありました。

 特に、この報告書に対しては事業者や経済団体からの懸念が示されまして、事業者にとっては予見可能性がなく、実際の企業実務にどのような影響を及ぼすものかが全く見えないということが挙げられていました。

 これは三人の委員にお聞きをしたいんですけれども、消費者の心理状況に着目した規定については、これも強く反対と、特にここの規定については強調されておりまして、結果、今法案では、契約の取消権の、威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害した場合というだけの明記になってしまいました。議論の中では、もっとより広い範囲が検討されていたことかと思います。

 参考に挙げさせていただきますと、経済団体からは、予見可能性を担保するために、具体的にどのような行為が、どのような要件に照らして取消しの対象となるのか、事業者と消費者が共通の認識を持ち、その共通の認識が具体的な規定に明確に表現されることが重要というふうにあります。このようなことが可能なのかということであります。

 先ほど委員の中から両論併記ということもありましたし、ないしは、これは隙間を埋めるものでもあるということがありましたが、このような指摘をクリアしていかなければ新たな消費者保護の仕組みがつくれないのではないかと思っておるんですが、この実現性についてどのようにお考えになっておりますか、それぞれの参考人の御意見をお聞かせいただければと思います。

河上参考人 ありがとうございます。

 予見可能性の問題というのは、これは確かに大事なことではあるわけですけれども、抽象的な予見可能性であれば幾らでもあるということであります。ですから、それをどこら辺で線を引くか。車で運転しているときに、コーナーがあれば、そこから子供が走り出てくるかもしれないという可能性は常にある。では、常に道路は徐行して動かないといけないかというと、そうではないということになります。ですから、そのあんばいというのは非常に大事なんだという感じはいたします。

 今回の法案で出されたのは、これは駄目でしょう、予見できるはずだしというのを出した。それ以外のものについてどこまで要件が書き込めるかということは、立法担当者は相当悩んだんじゃないかと思います。

 ただ、先ほど野々山先生もおっしゃっていましたけれども、予見可能性について、知り得たという状態であれば、これは問題の中に取り込んでよいと。更に具体的な事実に関するルールというか充足が欲しいのであれば、QアンドAとか、あるいは府令の中で書き込むことも可能でありますから、そういう手法を使ってこの部分を乗り越えていただきたいというふうには考えております。

野々山参考人 私は十分に可能であろうというふうに思っております。諸外国の法制なんかを見てみますと、状況の濫用をするような場合は駄目だというような、状況というのはその心理状態ですね、そういう形で抽象的に定めている規定もあります。それはちゃんと機能しているわけであります。もちろん日本と法制は違いますけれども、そういうものがあるわけであります。

 それから、今回の報告書でも、やはり具体的にいろいろなものが出ているんですね。読みますと、七ページに書いてありますが、具体的にはということで、正常な商慣習に照らして不当に消費者の判断の前提となる環境に対して働きかける行為であるということで、例えばということで、検討時間を制限したり、広告とは異なる内容の勧誘を行ったり、長時間の勧誘により疲弊させたりする勧誘手法を組み合わせたりするということで書いてあります。

 これは更に詰める必要はありますけれども、正常な商慣習云々ということがあるわけですが、それが不明確だとよく言われます。不当だ、不当な勧誘方法、不当な利益をやったのは不明確だ、不当は不明確だ、それは違うと思うんです。私は、何が不当か、何が商慣習かは、事業者の方の皆さんが十分御存じだと。何が不当であって、自分たちがやっている中で、それは十分認識できる状態にできるはずですし、そういう具体化はいずれ可能になると私は思っております。

 不当だとか、それが分からないじゃないかというのは、自分の思考を停止している。だから、民事ルールでありますから、消費者も考える、それから事業者の皆さんも考える、その中で正常な民事ルールは何なのかということを形成していく、そのための一つのガイドを示すわけでありますから、それを、この解釈を行政が全部細かくしなくちゃいけないという発想自体が私は間違っているというふうに思っています。

 争いがあったときは裁判で決着をつける。それは、救うべき事案を救うというのが、裁判は結論が出ますので、そういう形で形成をしていく。民法がそういうものであります。それを、要件を更にちょっと具体化していくものが消費者契約法でありますので、そういうところで一緒に考えていきましょうというのが私の結論で、いずれ考えていけば結論は出る。人に全面的に委ねるのは間違っているというふうに思っています。

    〔委員長退席、勝俣委員長代理着席〕

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 この心理状態に着目した規定というのは、今後の検討をする上でも非常に大事な点ではないかと思っております。

 検討会の報告書には、正常な商習慣に照らして不当に消費者の判断の前提となる環境に対して働きかけることによって、消費者の判断、正常な意思決定をゆがめられた場合の取消権ということだったんですけれども、まさに消費者被害、特に事業者からの働きかけによる消費者被害というのは、この消費者の冷静で判断できる環境というものを崩して、その上でつけ込んだり働きかけたりされて被害が起こるのではないかと感じております。

 そうした意味では、この心理状態に着目した規定というのは、ある意味、根源的な論議になったのではないかと思っておりますが、今回、規定としては、そうしたことを想定するような規定にはなってはいないとは思っておりますが、この論議自体は非常に大事だと思いました。

 また、検討会には心理学者の先生もいらっしゃいましたし、ある意味抜本的で、あらゆる角度から検討するという意味では、こういった心理的な着目というところは今後もっと深掘りをしていただけたらいかがか、このように受け止めております。

 以上です。

田中(健)委員 予見可能性、可能であるということや、また心理学的なアプローチ、これからもしっかりと、法の中に取り込めるように私たちも議論していきたいと思っています。

 今回、具体的な話をちょっと一つお聞きしたいんですけれども、事業者に対して唯一かけられたのがこの努力義務、先ほど来議論がありました。消費者の求めに応じて、消費者契約により定められた当該消費者が有する解除権の行使に対して必要な情報を提供することを事業者の努力義務に追加するということになりました。

 これは私、前回の委員会の中でも、特にこのサブスクリプション、いろいろな新しい仕組みが入ってくる中で、これについて取り上げ、スマートフォンの普及や、また、今回のコロナ禍、在宅や、自宅にいることで、これが大変に市場が拡大しておりまして、入りやすく出にくいというようなことが言われています。

 今回の法改正において、これはどうなのかということをお聞きしましたら、十分な効果があるというふうに政府が答弁いたしましたが、参考人の皆さんは、これもお三方にお聞きしたいんですが、この努力義務に対して実効性をどのように見ていらっしゃるか。先ほど来の議論ですと、河上先生から、努力義務の拡充が必要かという点もありましたし、野々山先生は、悪いことではないがというような御指摘もありましたが、それぞれのお立場から、見解また課題等があれば、お聞かせ願えればと思います。

    〔勝俣委員長代理退席、委員長着席〕

河上参考人 ありがとうございます。

 努力義務という規定の種類は、実は世界的にも珍しい規定なんですね。

 法律というのは、大体それにサンクションが効果として裏打ちされているから、それが実効性があるんだというふうに考えられているんですが、今回のこの消費者契約に入った努力義務というのは、そうしたサンクションを一応度外視した形で書かれているということになっているわけですね。

 ただ、少なくとも、私は、ここでの努力義務というのは、信義則上の義務として事業者が尽くすべき義務の一部に含まれている、その義務に反した場合には、消費者契約法では何の効果もないかもしれないけれども、民法上は損害賠償につながる、そうした義務違反になり得るものであるというふうに考えておりますから、ある程度効果はあるというふうに考えております。

 もう努力義務なんて書くのであれば、どこかほかのところに義務として書いておけばいいじゃないかという御意見も確かにあろうかと思いますけれども、余り堅く書こうとすると、かえって要件が非常に難しくなるので、やるべきことはこれですよということを努力の形で書き込んでおく。ある種の立法の知恵ではないかというふうに考えております。

野々山参考人 努力義務につきまして、先ほど、悪くはないというふうな表現をしました。それはどういう意味かというと、今、河上先生がおっしゃったように、一つ努力義務がありますと、それが、違反がひどいような場合については、信義則上、義務なんですね、努力義務は。そういうものが、信義則上、そういう義務を果たしていないということが、民法の不法行為であったり、あるいは信義則に基づく契約の拘束力を緩めたりする、そういうことにつながっていくという意味で、悪くはないというふうに申し上げました。

 ただ、一つやはり問題なのは、この消費者契約法全体の在り方ということでありまして、やはり消費者契約法というのは、先ほども申し上げたように、隙間を埋めて救済が図られなくちゃいけないわけです。その救済を図る上においては、努力義務だけでは今のような手法を使わなくちゃいけない、民法を使っていくことはありますけれども、そういう手法を使わなくちゃいけないということと、努力義務を定めると、真面目な事業者の方は必ず守ると思うんです、守っていくと思うんです。だけれども、問題は守らない事業者なんです。守らない悪徳なところの事業者をどうしていくかということであると、努力義務だけでは十分ではない。

 そういう意味では、努力義務だけ増えていっても根本的な解決にはなっていかないだろうというふうに思っているところであります。

 以上です。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 先ほど野々山先生もおっしゃったとおり、努力義務規定が設けられるということは、ある意味、社会の規範を表していただけると思っていますので、守らなくてもいいというような受け止めには思っておりません。努力をする義務があるわけですから、やらなければ、努力する義務を怠ったということも言えるかと思います。

 なので、努力義務規定であっても、きちんと規定されていることは非常に重要だと思いますし、抜本的見直しなどに向けて、この努力義務が、必要に応じて、あるいは、守られていない、社会で全く守られていないようであれば、それは義務規定にまた変わっていくでありましょうし、その礎にはなるかと思います。

 また、検討会では、定型約款というものを消費者が表示をしてほしいという努力義務、見せてくださいという権利ですね、消費者にはあるんですけれども、それが努力義務で入りました。この過程の中でも、配慮する、契約書なんですから、消費者としては見せてくださいというところなんですけれども、それを見せる、努力義務、配慮義務などの論議もありました。つまり、努力義務が規定されれば、その後、配慮義務ですとか義務ですとか、様々な展開を見せることができるかと思っておりますので、大事かと思います。

 以上です。

田中(健)委員 ありがとうございました。

 まだまだこれだけでは不完全でありますし、やはり、悪意を持った人たちにどのようにしっかりと対応していくかということが必要かということが分かりました。

 最後となります。

 成年年齢の引下げについてであります。

 未成年の取消権がなくなりまして、それに代わるセーフティーネットが必要だということは、どの委員からもありますし、この委員会の中でも議論が続いています。

 その中で、十八歳、十九歳は学生である者が多く、何といっても教育というのが大事であるということも論をまちません。文科省による新しい、家庭科や、ないしは公共という様々な科目の中で教えていくということが現在スタートしておりますが、どのようにこの教育というのを進めていったらいいか。

 それぞれ現場で、学校の先生であったり、消費者の立場であったり、それぞれの立場で、皆さん、消費者教育の在り方というのを進めていらっしゃるかと思うんですけれども、最後に見解をお伺いしたいと思います。

松島委員長 質疑時間が終了しておりますので、どなたかを御指名ください。

田中(健)委員 では、代表で河上先生にお願いできればと思います。

松島委員長 ということですので、よろしくお願いします。

河上参考人 先ほども申し上げたことではございますけれども、やはりこれは、若い人に対して、小さい頃から少しずつ積み上げていくということが大事なのと、今回だけが何かキャンペーンみたいに、引き下げられるからやりましょうといってやっているのではなくて、継続的にやっていかないといけないと思うんですね。ですから、それは、学習指導要領等にきちんと組み込んだ形で教育の中でやっていくということ。

 それから、教育現場で教える人を更に教えるために、例えば相談員の方なんかの力をかりて、教育をする人に対して消費者問題というものの意味を伝えるような努力というものをやっていかないといけないんだろうというふうに思います。

 もう成年年齢は引き下げられましたので、ここから先は継続的にこれをやっていかないといけないということでございます。

田中(健)委員 時間になりました。

 ありがとうございました。

松島委員長 次に、本村伸子さん。

本村委員 日本共産党の本村伸子でございます。

 今日は、河上参考人、そして野々山参考人、そして三谷参考人、本当に貴重な御意見、ありがとうございます。

 先ほど来御議論がありますけれども、高齢者の方が、とても安い価格で家を売却してしまった、住むところもなくなってしまった、これを取消権で救済できるということが大変期待されていたというふうに思いますけれども、消費者の判断力に着目した規定というのは含まれなかった。

 なぜ含まれないのかということを国会でほかの党の方が質疑をしてくださったんですけれども、それに対して政府の答弁では、事業者の行為によって消費者の判断力が低下しているわけではなく、従来の取消権を超える側面があるというふうに述べておられます。

 私、この点、納得がいかないんですけれども、三人の参考人の方から御意見を伺いたいというふうに思います。

野々山参考人 では、最初に私の方から申し上げたいというふうに思っております。

 従来の取消権を超える、すなわち事業者の働きかけがないという回答であったようですけれども、現在の消費者契約法の規定からすると、それは間違っているのではないかというふうに思っております。

 例えば、平成二十八年の法改正で導入をされているのは消費者契約法四条四項で、過量な内容の消費者契約についての取消権があります。これは、過量な内容の消費者契約を締結している場合には、加齢や認知症による判断能力の低下などの事情が消費者にあるということを前提としまして取消権を認めているわけであります。

 このことは消費者庁が作成している逐条解説でもきちんと書いてあるわけでありまして、したがって、事業者の行為によって消費者の判断が低下しているわけではない場合、すなわち判断力の不足に着目している取消権は既にあるわけであります。

 ですから、それがないということは間違っているのではないかというふうに私は理解しております。

 以上です。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 今回、この枠組みに入らないというのは非常にがっかりしております。なぜならば、やはり、認知症の疑いのある高齢者が家を売られてしまったという事例を守ることこそ大事なことではないか、つまり、守るべき者を守る、そういう法律であってほしいと思います。それが枠組みになかったからというところでありましたら、現にそれで今被害に遭っている人たちはどうしたらよいのでしょうかと思っております。

 一刻も早くこうした方々を、守るべき、救うべき人を救う法律にしていただきたい、このように受け止めております。

河上参考人 民法の取消し事由も似たようなところがあるんですけれども、あれは、だました、脅したという事業者側の行為に着目して取消し事由を定めた。その意味では、現在の取消権に関する、消費者契約法についての取消し事由のところにそれを書くことというのがはばかられたというか、体系上の限界があると感じたんだと思うんです。

 ただ、実際には、先ほど野々山先生もおっしゃいましたけれども、これまでも、必ずしも事業者側の行為態様とは関係なしに取消し事由にして突っ込んだものがあるわけですね。それだけじゃなくて、今回は努力義務の中に、いろいろな形での情報の提供といったようなことも指しているというようなことがあります。

 私は、事業者の行為によらずにというようなことは入ってよいこれからの方向であろうというふうに考えておりますから、働きかけというのは前提要件ではないという方向で問題を考えていくべきではないかというふうに思います。

本村委員 ありがとうございます。

 最初の河上参考人のお話の中でも、日本は世界水準からも大変遅れているというお話がございました。

 諸外国の法整備の中で、消費者の権利の保障というところのために有効に働いている法制度の具体的なお話を少しお伺いすることと同時に、なぜ国際的に日本は消費者の権利の保障という点で遅れてしまっているのかという原因、ここの部分をお三方に是非お伺いできればというふうに思っております。

河上参考人 比較法的な検討というのは、日本は非常によくやっている方なんですね。ところが、実際に具体的に日本の法律に落とし込もうとすると、必ず全員一致のルールでもって意見がつくられる。

 事業者はなるべく、そんなことを言われなくたって俺たちはちゃんとやるさという気持ちになるでしょうし、消費者は消費者で、なかなかそういうふうに信じ切れませんといって、何か事業者対消費者がバーサスの関係になっていて、対立してきたわけですね。そうじゃなくて、市場で悪いことをする人間を排除するというためにお互いに力を合わせましょうというような姿勢がなかなかでき上がらなかったということなんだろうと思います。

 もう今こそ、消費者志向経営を標榜している事業者の方々と力を合わせて、お互いにこういう形での市場にしていこうじゃありませんかと、こういうルール、商道徳に反するような事業者は市場から撤退してもらいましょう。

 私は、預託法の検討委員会の報告書を作るときも、共通の敵を排除します、共通の敵に対しては、徹底的にあらゆる方向からこれを排除することにしますということを報告書に書いていただいた記憶がございます。

 やはり、そういう決意を少なくとも示していただきたいということでございます。

野々山参考人 比較法的なことは余り、私もそんなに詳しくありませんけれども、様々な法改正に取り組む際には諸外国のものを参考にしますけれども、今は、アメリカもそうですし、それから、EUの指令が非常に優れた指令が多いですね。それから、アジアもそういう形でいろいろな制度を導入しています。お隣の韓国なんかも非常に積極的に導入しておりまして、日本は、そういうアジアを含めて遅れているなというのを感じることがよくあります。

 なぜそうなのかといいますと、これは、私は、消費者契約法の制定のとき、それから団体訴訟の制定のときにも、いろいろな形で事業者の方とも議論させていただきました。あと、PL法なんかもそうですが。いずれも、やはり、これが制定されると訴訟が乱発されて市場が混乱する、こういうことをおっしゃるわけですね。それを懸念するから、消極的だし、できるだけ小さいものにしていくということがあります。

 ただ、今、河上先生もおっしゃいましたけれども、我々が共通の敵とするのは、そこの市場を乱す者である、本来、市場の中で使われるお金をどこかへ持っていってしまって、まあ、どこかで最終的には使っていると思いますけれども、持っていってしまっている、消費者の貴重な資産を奪う、そういう人たちに対して対抗していかなくちゃいけないということになるわけですね。

 それと、あと、やはり、十分な対応をしない、コンプライアンスが十分でないところに対してきちんと対応していただきたいというところがあるわけで、それは共通なものだと思います。その点の認識の違いがまだまだ埋まっていないというのは、私はいつも感じます。

 結果として、これらの法律ができたからといって、濫訴が起こったということはないというふうに思っております。団体訴訟、いわゆる被害回復の団体訴訟はまだ数件でありますので、そういう中からしても、やはりそんな懸念は懸念に終わっているので、そういうことを実態を踏まえて考えていただきたいなというふうに思っております。

 以上です。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 私どもは海外の法体系までなかなか熟知できておりませんので、遅れているというところがなかなか体感はできないところではあるんですが、海外の消費者団体と連携は深めておりまして、そうする中では、コロナの中での詐欺被害ですとか、あるいは、オンライン取引が加速していまして、今、消費者被害というのは、割と世界でも共通点というものが増えてきております。

 そうした意味では、海外との法体系に違いがあってはならない、つまり、遅れていてはならないような情勢にはなってきていると思います。あわせて、遅れているのであれば、逆に、そちらの事例を見て、よりよいものにしていただければというふうにも思っております。

 あわせて、先ほど野々山先生もおっしゃったとおり、まだ適格団体の実例も少ないということでしたが、やはり欧米との、消費者団体あるいは消費者行政の予算、こういったところの力、体制の差というところもあるのではないかと思っております。EUの消費者団体では、ある意味、EUの枠組みの中にしっかり位置づけられていて、訪問されたときに、日本の消費者団体の脆弱性といいますか、自力で何とかやっている姿を見て驚かれたというようなシーンもございました。

 ある意味、消費者行政、消費者団体、消費者分野全般、我が国においてしっかり体制を強化していくということが必要なように思っております。

 以上です。

本村委員 野々山参考人と三谷参考人にお伺いしたいんですけれども、検討会における審議の具体的な内容についてもちょっとお伺いしたいんです。この検討会の審議というのは、その結果が法案に結実するのに不十分だったのか。十分やられたんじゃないかというふうに思うんですけれども、その点、確認をさせていただきたいと思います。

野々山参考人 やはりこれは、二十三回、一年九か月かけて議論された中なので、十分結実した内容であると私は認識しております。確かに、幾つかの中で方向性が定められているものもありますが、具体的な要件論まで踏み込んで議論もされております。

 私の方で、今回、是非実現していただきたいと思っている消費者の判断力に着目した規定に関して言いますと、消費者の事情とか消費者の行為態様、それから契約内容、あるいは第三者が関与していた各要素ごとの論点を整理して意見が交わされ、一つ一つの論点について結論を挙げております。

 消費者側からは、つけ込み型と呼ばれる不当勧誘類型について十分に対応できる規定とするべく、柔軟な要件の意見が出されていたわけでありますけれども、意見の対立がある中で調整された結果として、報告書では、一つは、判断力の著しく低下した、この要件ですが、消費者が、自らの生活に著しい支障を及ぼすような内容の契約ということ、それを締結した場合において取消権を認めるということであります。

 それは、極めて悪質な場面に限って取消しを認めようという議論の結果でありまして、この範囲での意見の合致を見たわけでありますので、そういう意味では、十分な検討はされてきたというふうに私は評価をしております。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 野々山先生がおっしゃったとおり、二年四か月ほどの非常に長期にわたっての検討の中での落としどころでした。検討会の中では、消費者団体としてはもっと厳しい要件などを求めてきて、事業者との折り合いの中、あるいは話合いの中、論議の中であの報告書になったという認識ですので、それが実現できなかったことは残念です。

 ただ、今回まで論議したことを無駄にしないためにも、これをしっかりベースに、より骨太の抜本的会議ということを期待したいと思っております。

 以上です。

本村委員 もう一つなんですけれども、困惑類型の脱法防止規定なんですけれども、政府は、意見に隔たりがあった、幅のある形で取りまとめられているということを答弁しているんですけれども、その点、どのようにお考えになるか教えていただきたいと思います。

 お二人、野々山参考人と三谷参考人、お願いしたいと思います。

野々山参考人 困惑類型の脱法防止規定でありますけれども、これは、検討会の議論を始めた当初は、検討会報告書で出されたものよりかなり広めのものだったんですね。脱法行為全体をしていこうということだったんですが、様々な議論がされまして、これを強迫類似型とつけ込み困惑型に分けて、二つの規定でその全体をカバーしていくということが提案されていたわけですけれども、それが結局は、検討会の審議の結果、つけ込み型、困惑型を包括した規定はなかなか難しいということになって落とされて、報告書では、脅迫類似型についての脱法防止規定のみが提案されていることになったわけであります。こういう経過をたどっております。

 このように、意見の対立はもちろんありました。あったのは間違いないわけですけれども、困惑類型の脱法防止規定についてもあったわけですが、それらが検討の結果で狭められていって最終的な結論になったわけでありますので。意見の隔たりがあったと、当初はあったかもしれませんが、その議論の中で集約されたことが検討会の報告書の内容であったというふうに考えておりますので、意見の隔たりがあったから、幅があったから難しいということではないというふうに思っております。

三谷参考人 御質問ありがとうございます。

 議論の中では確かに隔たりはありましたが、報告書に向けて、長い期間の中で、だんだんと収れん、集約されていったというふうに受け止めております。ですので、まとまっていない、あるいは幅があるとは、そこまで思っておりません。

本村委員 貴重な御意見、本当にありがとうございました。

松島委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。

 この際、参考人の皆様に一言御挨拶を申し上げます。

 今日は、三人の参考人の方々から、非常に内容の濃い、心に残る御意見を伺うことができました。そして、それを受けた質疑も非常に充実したものになることができました。本当にありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。(拍手)

 次回は、来る十九日火曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時二十一分散会


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