第6号 令和7年4月22日(火曜日)
令和七年四月二十二日(火曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 浦野 靖人君
理事 勝俣 孝明君 理事 中野 英幸君
理事 松島みどり君 理事 青山 大人君
理事 大西 健介君 理事 尾辻かな子君
理事 伊東 信久君 理事 丹野みどり君
今枝宗一郎君 上野賢一郎君
加藤 鮎子君 国光あやの君
小池 正昭君 高木 啓君
武村 展英君 永岡 桂子君
中西 健治君 野田 聖子君
深澤 陽一君 福原 淳嗣君
三反園 訓君 若山 慎司君
井坂 信彦君 大河原まさこ君
大島 敦君 おおつき紅葉君
櫻井 周君 篠田奈保子君
松田 功君 水沼 秀幸君
山田 勝彦君 山井 和則君
梅村 聡君 西岡 義高君
角田 秀穂君 沼崎 満子君
たがや 亮君 本村 伸子君
…………………………………
参考人
(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 山本 隆司君
参考人
(全国商工会連合会中小企業問題研究所所長) 土井 和雄君
参考人
(元トナミ運輸社員) 串岡 弘昭君
参考人
(弁護士)
(市民のための公益通報者保護法の抜本的改正を求める全国連絡会幹事) 志水芙美代君
参考人
(上智大学文学部新聞学科教授) 奥山 俊宏君
衆議院調査局第一特別調査室長 松本 邦義君
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委員の異動
四月二十二日
辞任 補欠選任
加藤 鮎子君 国光あやの君
井坂 信彦君 櫻井 周君
石川 香織君 篠田奈保子君
同日
辞任 補欠選任
国光あやの君 深澤 陽一君
櫻井 周君 井坂 信彦君
篠田奈保子君 水沼 秀幸君
同日
辞任 補欠選任
深澤 陽一君 加藤 鮎子君
水沼 秀幸君 石川 香織君
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本日の会議に付した案件
公益通報者保護法の一部を改正する法律案(内閣提出第三二号)
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○浦野委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、公益通報者保護法の一部を改正する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、東京大学大学院法学政治学研究科教授山本隆司君、全国商工会連合会中小企業問題研究所所長土井和雄君、元トナミ運輸社員串岡弘昭君、弁護士、市民のための公益通報者保護法の抜本的改正を求める全国連絡会幹事志水芙美代君、上智大学文学部新聞学科教授奥山俊宏君、以上五名の方々に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に一言御挨拶申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げます。
まず、参考人各位からお一人十二分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。
それでは、まず山本参考人にお願いいたします。
○山本参考人 山本と申します。
東京大学大学院法学政治学研究科の教授として行政法を研究しております。
私は、昨年、消費者庁に置かれた公益通報者保護制度検討会、以下検討会と申しますけれども、この座長を務めました。また、令和二年の公益通報者保護法の改正時には、消費者委員会に置かれた公益通報者保護専門調査会、以下専門調査会と申しますけれども、ここで座長を務めました。
本日は、今回の法改正案につきまして、令和二年の法改正と比較しながら意見を述べさせていただきます。
まず、昨年の検討会についてですが、検討会は、令和二年の改正法の施行状況と、次の段階の法改正について検討する目的で設置をされました。委員として、消費者団体や連合、経団連、商工会、公益通報に関わる実務に携わる弁護士、それから、公益通報が多くの法分野に関わっていますので、各法分野の専門家が参加をいたしました。本日参考人として御出席の方の中にも委員が含まれております。昨年末に報告書が取りまとめられ、報告書で具体的な方向性が示された事項は今回の法改正に全て反映されております。
検討会での議論及び今回の法改正案の全体について、まず三点申し上げたいと思います。
第一は、令和二年の法改正との関係です。
令和二年の法改正は、平成十八年に公益通報者保護法が施行されてから十四年後のことでした。長年改正されておりませんでしたので、この専門調査会では非常に多くの論点について検討することになりまして、とても苦労いたしました。
それでも、通報を理由とする不利益取扱いに対する抑止、救済の制度について、意見はまとまりませんで、改正法に盛り込まれませんでした。こういった形で、重要な問題が積み残されました。今回、令和二年の改正法の施行から二年たたないうちに検討会が設けられたということにはこういった背景があります。
そして、令和二年当時に積み残されたテーマを含めて、昨年の検討会では議論が大きく進展をいたしました。その背景には、第二点としてこれから申し上げる通報者保護をめぐる国際的な潮流がありました。
平成三十年に専門調査会の報告書が取りまとめられた翌年の二〇一九年の十月、EUの通報者保護指令が成立をしました。EU指令はEUの加盟国に対して拘束力を持ちますので、加盟国は指令の内容を次々に国内法にしています。
日本に直接関わる国際文書としては、同じ二〇一九年に日本を議長国として開催された大阪サミットで、公益通報者保護のためのG20ハイレベル原則が採択をされました。また、昨年の五月には、国連人権理事会ビジネスと人権作業部会の訪日調査報告書が公表され、日本は、公益通報者保護法の見直しによって通報者の保護を強化するように勧告を受けております。
こうした国際的な潮流に沿った公益通報者保護制度の整備が、日本の事業者が投資家や取引先から国際的な信頼を得るために必要不可欠であるということが、昨年の検討会での委員の共通認識でした。
第三に、昨年の検討会で議論に当たり注意した点について申し上げます。
検討会では、幾つかの種類の違法行為に対して刑事罰を新設する意見を踏み込んで示しております。ただし、刑事罰というのは非常に重大なペナルティーですから、違法行為の中でも刑事罰を科すに相当するものかどうか、また、刑事罰を科される行為の範囲を法律で明確に定められるかどうかということも慎重に検討いたしました。
それから、刑事罰の話に限らず、一方で公益通報を保護、促進するということ、他方で事業者の組織を適切に運営することを、個別に細かく調整しバランスを取らなければならない問題があります。こうした問題について、法律に一般的な規定を置くことが適切かどうかも慎重に検討いたしました。さらに、公益通報者保護制度の中の各要素のバランスにも留意をいたしました。
以下では、具体的に、検討会の報告書及び今回の法改正案の内容のうち、四点に絞ってお話をいたします。
第一に、事業者が公益通報を適切に扱う体制の整備義務です。
この義務の法定が令和二年の法改正の中心でした。その体制整備義務の制度の中でも中核なのが、公益通報対応業務従事者の指定義務、通報者を特定する情報についての従事者の守秘義務、それから、守秘義務に違反した従事者個人に対する刑事罰でした。
しかし、制度上、従事者を指定していない事業者に対する刑事罰は定めていないというアンバランスがございました。実態を調査したところ、非上場の事業者を中心に、従事者を指定していない従業員数三百人超の義務対象の事業者が一定程度存在する、中には従業員数千人超の事業者もありました。こうした状態に対応するために、今回の法改正案では、事業者に対する消費者庁の立入調査、命令、命令違反の場合の刑事罰を定めております。
第二に、通報を阻害する要因への対応、特に通報妨害や通報者の探索の禁止です。
こうした行為は、場合によって民法上の公序良俗違反や不法行為になり得るものですけれども、それでも令和二年の法改正時には意見がまとまらず、法制化されていませんでした。今回の法改正案では、これらの行為の禁止を明確に定めています。
昨年の公益通報者保護制度検討会では、さらに、探索を行った事業者や行為者に対する刑事罰を規定すべきとの意見もありました。しかし、不利益取扱いや、さきに述べた、従事者に限って刑事罰が科される通報者情報の漏えいと比較をして、探索それだけでは様々な行為が想定をされ、刑事罰を科すことが相当とは言えないのではないか、難しいのではないかということがあり、合意に至りませんでした。
加えて、通報のために必要な資料収集、持ち出し行為についても、社会的相当性を逸脱せず、目的外で利用しない限り免責されるという規定を法律に設けるべきという意見もありました。
しかし、専門の委員は、事業者の所有権や占有の侵害が通報者の判断で行われると、情報管理や企業秩序に対して悪影響を及ぼすおそれがあるため、窃盗罪、不正アクセス禁止法違反、個人情報保護法違反など個々の犯罪の成立要件との関係をよく整理し、免責の具体的な要件を検討する必要があるという意見でした。
また、令和二年の法改正で、資料収集、持ち出しの必要性を小さくするということも考慮して、通報が保護されるための要件を緩和していました。行政機関に対する通報は、証拠によって示される真実相当性がなく、単に通報対象事実があると思料するという場合にも、氏名等を記載した書面を提出すれば保護するという制度です。
こうした理由から、検討会は免責の一般的な規定を設ける提案はしませんでした。
第三点ですが、通報を理由とする不利益取扱いに対する抑止、救済の制度です。
こうした制度について、令和二年時の専門調査会では主に二つの点を議論しました。
一点目は、通報から一年以内の解雇について、通報を理由とするものでないことの立証責任を事業者側に転換するということでした。これは解雇に限定をした議論でしたが、それでも委員の間で意見は一致せず、実現に至りませんでした。
二点目は、事業者の不利益取扱いに対する行政措置を定めるということでした。しかし、そのために必要な行政機関の体制の構築にめどが立たず、これも実現しませんでした。
これらの点について、今回の法改正案では、通報があったことを事業者が知ってから一年以内の解雇及び懲戒について、通報を理由とするものでないことの立証責任を事業者側に転換する、それから、通報を理由に解雇及び懲戒を行った法人及び個人に対する刑事罰を定めるということとしております。
もっとも、昨年の検討会では、ヒアリングの中で、実際の不利益取扱いとしては配置転換や嫌がらせが多いという主張があり、これらについても立証責任の転換や刑事罰を法定すべきではないかという議論がありました。
しかし、配置転換については、国際比較をした場合の日本の特徴を考慮する必要がございます。
日本の現状では、配置転換が、人材育成や適材適所の観点から、事業者の人事上の裁量によって定期、不定期に頻繁に行われます。個々の事案で、配置転換が不利益取扱いに当たるのかどうかという判断自体、容易ではありません。
これに対して、アメリカやEU諸国では、個々の労働者の職務内容や勤務地などをあらかじめ定める、いわゆるジョブ型の雇用がかなり広がっており、配置転換をする際には事業者に慎重な判断が求められていると思います。
また、国際的に制度を比較すると、日本は、通報が保護される要件が緩やかに法定されており、保護される通報をしやすい状況にあります。先ほど申し上げた、行政機関への通報の保護要件がその一例です。
こうした状況において立証責任の転換や刑事罰が制度化されますと、労働者が通報を理由とする配置転換であると主張する場合に備えて、事業者が配置転換の正当な理由を説明するために、解雇や懲戒と同程度に準備をしておく必要が生じます。このことは、事業者にとっては大きな負担となり、人事の支障になるおそれもあります。対応できる企業ももちろんあると思いますけれども、不利益取扱いに関する立証責任の転換や刑事罰は中小企業も含めた全ての事業者が対象になるという点に留意が必要です。
それから、嫌がらせにつきましては、その範囲が不明確と言わざるを得ません。それから、公益通報を理由とする嫌がらせに限って立証責任の転換や刑事罰を制度化する理由というものがなかなか見出し難いという問題もあります。
第四に、昨年の検討会では、逆に濫用的通報者に対する刑事罰についても議論しました。これは令和二年の法改正時には議論されなかったテーマですが、先ほど述べた、EU指令が悪意ある虚偽の通報に対して罰則を規定したことが、昨年の検討会での議論の背景にありました。
しかし、現実に問題とされている濫用的通報行為が刑事罰を科すに値する行為なのか、また、刑事罰の法定によって抑止されるのかという点については、実態を踏まえた検討が必要です。それなしに刑事罰を定めますと、通報を過度に抑制するおそれがあります。そのため、昨年の検討会では、濫用的通報について、まずは実態調査をよく行って、その結果を踏まえて必要な検討を行うということを提言しました。
以上、四点申しましたように、引き続き調査検討が必要な論点もありますが、法改正については、必要な知見が全てそろい、全ての当事者が納得する形で法改正が実現する環境が整うまで待ってから行うという、いわば完璧主義のアプローチと、少しずつでも迅速に法改正をしていく漸進主義のアプローチが考えられます。
昨年の検討会では、全ての委員から、漸進主義で法制度をよりよいものにしていくべきだという合意をいただきました。また、私は、令和二年の法改正時に、十四年ぶりということがあって大変苦労したという経験からも、漸進主義で考えております。まずは、この内容の法改正を早急に行い、国際的な動向にもキャッチアップするということが重要ではないかと考えております。
国会での審議におきましても、こうした私たちの思いに御理解を賜れば幸いです。
以上で私の意見陳述を終わります。(拍手)
○浦野委員長 ありがとうございました。
次に、土井参考人にお願いいたします。
○土井参考人 全国商工会連合会の土井でございます。
委員の皆様には、日頃より商工会の活動に御理解、御協力を賜り、この場をおかりして厚く御礼申し上げます。
また、本日は、意見陳述の機会を賜り、誠にありがとうございます。
私は、ただいま陳述された山本先生が座長を務められた消費者庁の公益通報者保護制度検討会に委員として参画しておりました。主に、企業側、事業者側の立場で意見を申し上げてまいりました。本日は、どのような背景に基づいて、委員会でどのような主張をしてきたのかという点について、お話をできればと思います。
資料をお配りしておりますので、資料を御覧になりながらお話を聞いていただければと思います。
まず、せっかくの機会でございますので、簡単に、私の属する商工会という組織について御説明をさせていただきたいと思います。一ページを御覧いただければと思います。
右側に日本地図がございますが、この赤い部分が商工会のある地域でございます。主に、平成の大合併以前の町村部というのを設立の地域としております。御覧になってお分かりになるように、面積は広く、人口は少ないというのが特徴でございます。そういった地域に、千六百を超す商工会が設立をされております。
また、地図の灰色の部分は、主に都市部でございますが、これは商工会議所さんのエリアでございます。
会員数は現在七十八万、今年の四月一日の調査では恐らく切ってくるだろうとは思っておりますが、少子高齢化による地域の人口減少、あるいは事業者の廃業の増加などにより、ピーク時に百二十万おった会員が三分の二程度になっているということでございます。
また、商工会は、中小企業、小規模事業者を会員とする地域の総合経済団体という側面がもちろんございますが、加えて、四千人の経営指導員を擁して、地域の事業者さんに伴走型で支援をしていくといった支援機関、特に事業者にとっては一番身近な支援機関という役割も持っております。
会員の構成でございます。二ページを御覧いただければと思います。
個人事業主が五六%おるという組織構成でございます。また、従業員規模でございますと、一番多いのが従業員ゼロ人。専従者の方ですとか、そういったところは除いて、雇用している従業員という観点ですとゼロ人というのが一番多い。逆に、従業員五十人以上という層は二・二%しかございませんので、基本的に、中小企業の中でも小規模な会員が多いというところでございます。
済みません、前置きが長くなりましたが、本題の方に入らせていただきたいと思います。
今回の論点について、私の意見を申し上げます。
検討会の報告書に対する意見ということでまとめましたので、必ずしも今回の改正法案に盛り込まれている内容だけではないことについて御理解をいただければと思います。
まず、全体的な点について申し上げます。
今回の法改正は、我々企業側、事業者側の立場で考えてみますと、体制整備義務違反であったり不利益取扱いについて罰則が導入される案となっております。
我々にとって厳しい内容も盛り込まれておりますが、先ほど山本先生から御紹介のあったように、昨今の企業不祥事の増加あるいは国際情勢の変化といったこと、あるいは、内部的な事情でありますと、SNSが発達してまいりました。従業員の方から外部に対して告発するといった行為もかなり行われるようになってきたといったことを考えると、今回の案は結構厳しい案だとは思っておりますが、我々企業、事業者の側でも、きっちりと内部通報に対応していかなければこの先生き残っていけないといったことで、今回の法改正は必要なものであるというふうに認識をしております。
個別論点についてお話をいたします。資料三ページでございます。
まず、内部通報の徹底と実効性の向上について申し上げます。一から三までございます。
一、体制整備義務違反の事業者への対応、あるいは二番の事業者への周知義務の新設については異論はございません。
ただし、周知義務については、何を周知すればいいのかといったことに関して、例えば研修を必ずやらなければいけないのかであるとか、そういったことについては、はっきりと、今後、法改正後、指針等で示していただければというふうに考えております。
三番目の体制整備義務の対象となる事業者の範囲でございます。
御承知のとおり、現在、三百人超が義務、三百人以下が努力義務となっております。消費者庁の行われた調査において、特に三百名以下の企業の回答だと思いますが、努力義務なのでいわゆる窓口の整備をしないという回答が半数近くあったということで、これは実は誤解でございます。三百人以下でも、体制整備の義務がないだけで、内部通報にはきっちり対応しないといけないという法律でございます。
ただ、法で定められている従事者指定であったり窓口の設置が努力義務となっているわけであって、これは、我々経済団体を含めて、令和二年の改正法案に対する周知が至らなかった部分があるかなと思っております。
その観点で考えると、まず、体制整備義務に関しては、我々がどう思っているのかというと、法律だけ見ると、単に、従事者を指定して、規定などを作って窓口を設置すればいいじゃないか、こんなの簡単で、規模の大小にかかわらず、できるじゃないかと思われるかもしれませんが、実際に、いざ、じゃ、体制整備をしてみようかと思うと、法定指針というのがこの法律にはございます。指針の解説ということで、例えば遵守するための考え方、具体例というのが示されておりますが、これを御覧になっていただければ分かるんですが、実は、企業にとってはかなりハードルの高い内容になっております。
私、事務方として、令和二年の法改正後の、指針を決める際の検討会にも入っておりましたけれども、ここの内容というのは結構大企業じゃないとなかなか対応できないよなというようなところで、議論を聞いていますと、今回は三百人超が義務であるので、ある程度、ちょっと言い方は悪いんですが、理想な公益通報を受けるための体制整備といったように、かなりハードルの高いものになっているかなと思っております。例えば、大規模企業をある程度想定したような部門横断的な窓口の設置であったり、必要な予算、人員等の確保など、かなりハードルが高い内容になっております。
例えば、これは同じような、法律というか社内の内部統制の話で、パワハラなど防止のための労働施策総合推進法、これも同じような形で、相談窓口を設置して、あるいはルールを定めるといったような形の法体系になっておりますが、それに比べても、かなり、体制としてつくらなければいけないと読めるものが重いかなと思っております。
実際、今回、そのような議論もございましたが、我々としては、まず、本制度にきっちりと各企業は取り組まなければいけない、そのためには、形式的な体制整備義務を課すよりも、通報受付から調査、是正までのマニュアル類をきっちり整備するということが必要ですし、あるいは、匿名通報であったり、そういったことに対応するためにも、やはり外部窓口の設置であるとか、そういったことも求められているところです。
これはなかなか、正直、三百人ぐらいだったらあるかもしれませんけれども、百人ぐらいだと法務部門がない企業も多いんですね。そういったところでなかなか全てをやることは難しいので、外注のサービスの発展であるとか公的な相談機関であるとか、そういったところの整備をしつつ、どこのところまで義務にするかとか、今回、体制整備の罰則も加わるといったこともありますので、必要であるというふうに考えております。
続いて、二番目の論点、四ページの公益通報を阻害する要因への対処について申し上げます。
公益通報者を探索する行為について、正当なものを除いて禁止するということに異論はございません。
ただし、公益通報者を探索する行為そのもの、探索して報復的な対応をするであるとかそういったことには今回罰則が加わるわけですが、探索したというだけでは特に行為は発生していないといったことかと思いますので、罰則を加える方向には反対をしております。
二番目の公益通報を妨害する行為について、導入に特段異論はございません。
三番目の資料収集、持ち出し行為の免責について、現在、多くの企業、これは規模の大小を問わず、コンプライアンスであったりセキュリティーの向上のため、むしろ資料の持ち出し等というのは制限するといったような方向でございます。パソコンのアクセスできる範囲というのも狭めていっているといったようなところでございます。また、あと、取引先の機密情報であったりお客様の情報であったり、そういった情報を持ち出したりすると、仮に免責のルールを作ったときに、公益通報者は免責されるのでいいんですけれども、企業は対顧客であったりお客様に対して免責はされないということですと非常に厳しいというところでございますので、要件等について更に検討することが必要だと思っております。
五番目の濫用的通報者への対応については、我が国では、先ほど御案内があったように、内部通報に関しては、思料するということをもって通報ができるといったことで、間口が広いのが他国に対しても特徴かなと思っておりますので、今現在も多くの通報を受けている企業の中では、既に終了した案件の蒸し返しなどの通報があり、その対応に追われて本来の必要な調査とかができないといったような事実もあっておりますので、これについても、状況をよく調査して、必要が認められれば導入が必要かなと考えております。
続いて、五ページ目の公益通報を理由とする不利益取扱いの抑止、救済について申し上げます。
一の不利益取扱いの抑止について、不利益取扱いを実施した場合に、解雇、懲戒に限定して刑事罰を導入することについて異論はございません。解雇、懲戒に関しては、企業にとっても日常的なことではなく、実施する際には覚悟を持って行うべきだということだと思っております。
一方、配置転換につきましては、事業者の規模の大小にかかわらず、広く一般的に実施されております。実際、人事をやってみると、全ての従業員が満足する配置転換の実現というのは困難でございます。例えば、私ども商工会だけに限っても、やはり離島であるとか、なかなか厳しい条件のところに行っていただいたりとか、そういったこともあります。これは、いろいろな企業で、なかなか今回の人事は結構厳しいけれども、戻ってきたときには何とかするよといったようなことで、あるいは経験を積んでいただくということでやられているかなと思っております。また、若干はたから見て厳しいなと思う人事について、不利益と感じられる、感じ方には個人差がやはりあるかなと思っております。
仮に罰則を導入した場合、配置転換の抑制、配置転換に関する管理業務の増加に加えて、裁判例もございましたけれども、公益通報をしたことを理由に自分の望むような人事の実現を望むといったような事例もございますので、いろいろな懸念点を持っております。
このように、企業の負担は罰則を入れた場合はかなり増加するかなと思っておりますし、人事や経営に影響があると思っております。雇用形態の変化の状況なども見ながら、必要に応じて検討する必要があるかなと思っております。
二番の不利益取扱いの救済についてでございます。
今回、労働関係法令との平仄を取るために、公益通報から一年以内の解雇、懲戒に限定して立証責任を企業側に転換する方向について異論はございません。
一方、配置転換等についての立証責任の転換については、先ほどの罰則と同じような形で、事業者の負担や雇用慣行の変化も考慮して、引き続き検討するべきだと考えております。
最後に、四、その他の事項について申し上げます。
一の通報主体の範囲拡大につきましては、フリーランスの方を通報対象に加える件でございます。公正取引委員会では、取引先への報復を禁止するガイドラインを既に作られております。それとの整合性を取る意味で、今回導入する必要があるのかなと考えております。
二の通報対象事実の見直しについて、まずは、本改正法の下で周知を徹底して、公益通報制度の普及を図ることが重要だと考えております。抜本的な見直しについては、改正法施行後の実態を十分に踏まえて検討するべきだと考えております。
以上、たくさん申し上げました。委員の皆様には、今回の法改正を機に、公益通報者保護制度が多くの方に理解され、普及が進むきっかけになるように、活発に御議論をいただくようにお願いをいたしまして、私の陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
○浦野委員長 ありがとうございました。
次に、串岡参考人にお願いいたします。
○串岡参考人 皆さん、よろしくお願いいたします。
ちょっと声がかれておりますけれども。本日は、本特別委員会にお呼びいただきまして、大変ありがとうございます。深く感謝を申し上げます。
本心を申し上げれば、この公益通報者保護法が成立を期された二〇〇二年から二〇〇四年の間にこういう審議があるところへお呼びいただけたらうれしかったと思うわけです。
ただし、ここで、議員の皆さん方に、公益通報者はどういう苦悩にあるのかということを少しお話をしたいと思います。
その前に、この公益通報者保護法の成立時の問題点を申し上げたいと思うんです。
この法律は国民生活局で審議されておりましたんですけれども、その当時、私もあるテレビで一緒になったりした国民生活局の松本恒雄氏は、最初の、二〇〇四年に成立して二〇〇六年の四月一日から施行されたこの法律について、こういうことを申しております。
何も松本先生を批判するという気持ちは毛頭ありません。当時は、内部告発者を守るなんというのは密告社会をつくるのかというような雰囲気が非常にあった時代ですから、まあ、松本先生の苦労は分かるという思いでありまして、批判するつもりはありませんが、どういうことを言っておられるかを申し上げまして、話を始めたいと思うんです。
この公益通報者保護法を松本先生は、企業のコンプライアンス、法令遵守を促進するものとして意義がある、内部告発をしやすくすることは法案の主たる狙いではない、ヘルプラインを整備するなど、問題が発生した場合早期に是正する体制を企業につくらせるというのが、直接書いていないがこの法案の狙いだ、そうしておかないと問題が外に漏れて世論の批判を招き倒産しかねませんよというメッセージを伝える、法案が成立すれば経営のトップの意識は変わっていくだろう、こういう気持ちを訴えておられるわけです。
これに対して、私は二〇一八年に経営行動学会というのに呼ばれていまして、そこで講演をさせていただいたんですけれども、そこで、松本先生の法案の認識に対してこのように申しております。
直接書いてあることが法案の狙いではなく、書いてないことが法案の狙いであっては、誰がそのようなことを判断できるのかということです。一体、この公益通報者保護法という名前はどういう意味合いを持つのか。誰が見たって、公益通報者保護法は公益通報者を守る法律だと思うわけです。
公益通報者は、このように二〇〇四年に成立しました。ところが、この法律過程で、内部告発者は誰一人として意見を聞かれておりません。そういう内部告発者から話を聞くという発想自体がなかったんです。これが公益通報者保護法が実効性を伴わない法律として今日に至っている決定的な原因だと私は考えております。
その最大の理由はどういうことかといいますと、内部告発者が最も信頼を置いて通報できる通報先が最も通報しにくい法律として成立してしまっております。そして、例外なく報復を受けてきた事業所への通報が、あたかも最も通報しやすい、通報すべき通報先とされてしまったということであります。
私の例をちょっと申し上げたいと思います。
私は、岐阜でトナミ運輸の営業所におりまして、営業活動をしておりました。東海道路線連盟、五十社という大手の運輸会社の闇カルテルを告発したわけですけれども。
そこでどのように闇カルテルが結ばれていくかをお伝えしますと、闇カルテルというような違法行為を行うには、そこに、それを正当化する論理というものが必ず存在いたします。それは何かと申しますと、運輸業界は非常に競争が激しい過当競争である、過当競争の下に、認可運賃は非常に低く運輸省に抑えられている、こういう考えがありました。過当競争の下で共存共栄を図らなきゃならない。そういう中で、運輸省に対して認可をしてもらうという運賃であります。二五%、三〇%認可申請しても一五%になるとか、そういうふうにして非常に被害者意識の強い業界でありましたということが、闇カルテルを結んでいく原因でありました。
認可運賃ですから幅があったんですけれども、最高運賃にしなさい、それでやろうじゃないか、そのためにはダンピング競争にならないようにカルテルを結ぼうということで、それに違反した業者には岐阜では制裁を加えようということで、どんな制裁が考えられていたかと申しますと、その会社が新規としてほかの運輸会社から荷物を取った場合は返しなさいというふうに。返す必要はない、正当な商行為ですから返さなくてもいいということになりますと、事前に納めてあった違約金を、その取られた運輸会社には返す。それでも引き続いて自由に競争をやってお客さんを取っていったら、そのお客さんを岐阜各地で排除しなきゃなりませんので、今度はそこの運輸会社が持っているお客さんをただででも運んで営業できないようにしよう、こういう協定でありましたので、私は、これは独禁法に違反するという形で、告発に踏み切る決断をしたわけであります。
その決断の最初の持っていく先は、当然、独禁法違反でありますから、公正取引委員会が通報先になります。運輸省の認可事項でありますから、同じ行政機関で、運輸省にも自動車局がありますから、そこが行政機関の通報先になります。
しかし、私は、まずお客さんに知らせなきゃならない、こう思いましたので、読売新聞名古屋支局に訴えました。そして記事になりました。つまり、この私の通報の考え方が、メディアと行政機関、国民に知らせることができるメディアと、そしてこれを担当する行政機関、この二つへはセットとして申し出なきゃならないということだ、こう思っておりましたので、この二か所へは訴えました。
メディアはなぜ信頼を置けるのか、特に新聞社はなぜ信頼を置けるのかということでありました。新聞は、いろいろ問題で、取材源の秘匿がありますので、これが新聞の生命線だと思っています。ですから、氏名を秘匿するということで、氏名の秘匿が徹底して守られております。漏れたという心配はまずありません。ですから、新聞社へ訴えました。
それともう一つは、今言いましたように、公にできるものは公にしなきゃならない。
この点でちょっと申し上げますと、労働法を見ていただければ分かると思うんですけれども、ほとんど罰則がついております。ちょうど私らが学生時代に労働法を少しかじりまして、そして、その本の中には、ここに東大の先生がおられますけれども、労働法の先生で藤木英雄という先生がおりまして、この先生はどういうことを申しているかといいますと、これが私は学んだことなのでございます。
労働基準法については、国は、強行法的な基準、多くの場合、罰則の裏づけがあるをもって臨み、労働基準の強行法的定立又は行政機関による監督を広汎に予定するとあります。労働法概論の上巻にこういうことが書いてあります。行政機関とは労働基準監督署のことであるが、労働基準監督官は、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行います。
これに対して、公益通報者には、よりによって、私は一番、日本の企業風土全般に、公益通報、内部告発者に報復しかないようなところへまず訴えやすいかのごとくこれを規定してしまったということは、私らとしては甚だ問題があることで、その根本の理念のところからこの法律を変えてもらわないと公益通報者は守れない、私はそういうふうに思っております。
ですから、主にこのところ、労働者を守る法律であるかのごとく呈しておりますが、私、同じ、連絡を取り合ったりしました兵庫県の西宮冷蔵の、小事業者の人が良心の下に告発した件で、この事業者は潰れてしまいました。当時、虚偽記載があって、言って、むしろ西宮冷蔵さんは、実は牛肉偽装で国の税金を助けたにもかかわらず、営業停止を国土交通省から食らってしまう。
これは例えて言えば、泥棒を突き出したら突き出した本人が逮捕されてしまったというかのごとき事案で、あの公益通報者保護法がなくても、国土交通大臣の方が、あなたはよく国民の税金を救ってくれましたということで表彰してあげるぐらいの配慮をすれば、水谷さんは倒産しなかったと思うんです。
そういうことで、この法律、内部通報を申し上げましたが、私は、この内部通報のところに一つ非常に大きな問題がある。先ほど、松本先生が言われたようなことで、書いてあることが問題があると思うんです。
大体、通報が生じ、まさに生じようとしていると信じると、思料すると書いてありましても、生じているものについてはこれは通報すべきでありますが、まさにまだ生じていないものを刑法のものとして通報できるのか。大体、ここら辺が大きな問題として、私は、そういうまだ発してもいないものをできないと思うんですよ。もし内部に通報するとすれば、まだ発生していないものだけで、発生しているものについては、常にやはり公にする。その次に、行政監督機関に訴える。そして、会社にそれでも訴える場合は、最後にです。
私も事実、最後の方に会社に対して、率先してこの闇カルテルをやめるべき、トナミ運輸はやめるように働きかけてもらいたいと。その当時は綿貫議員でありまして、綿貫議員に私自身の思いを伝えようとしましたけれども、そこの秘書も、私と同期でトナミ運輸へ入りながら、次の年に秘書になっていましたので、そういう思いで行ったんですけれども、一切会ってもらえませんでした。
今言いましたように、もし事業者に通報する場合は一番最後にしなきゃならない、もし訴えるなら。そして、事実、そういたしました。
やはり、その場合に、一国の企業風土というものが、通報するような風土であるのかどうかというものが最も決め手になります。現時点において、この法律は一国の気風を変えるようなものまでには至っていないという思いであります。すなわち、私のような人間がどれだけでも出てくる可能性がある法律でしかない。私のような人間、内部告発をして、生涯、最後まで、そして最後、私は会社に残ったのは、まさに裁判をやるという以外のものではありません。
ちょっと時間が来まして、こういう程度で終わりましたんですけれども、どこかの大学とか何かに、私が呼ばれるのは大学ぐらいしか呼ばれないんですけれども、企業で私を呼ぶ人は一人もおられないんですけれども、時間が来ましたので、この辺で、途中で終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
○浦野委員長 ありがとうございました。
次に、志水参考人にお願いいたします。
○志水参考人 市民のための公益通報者保護法の抜本的改正を求める全国連絡会の幹事をしております、弁護士の志水芙美代と申します。
本日は、意見を述べる機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
当連絡会は、市民の目線で、安心して通報ができる環境を法制度により整え、企業活動の適正化を図ることなどを目指す団体で、約十年前の二〇一五年に設立されました。また、私個人としては、先ほど山本先生から御報告のありました、この度の法改正につながる公益通報者保護制度検討会、こちらにおいて委員を務めさせていただきました。
本日、私からは、通報者を支援する活動をしている弁護士の立場から、公益通報者保護法の改正案について意見を述べさせていただきます。
まず、改正案は、令和二年の法改正の際に今後の課題とされた点について一定の対応をしておりますので、通報者保護を前進させるものとして一応の評価はできますが、依然として課題が多く残されていると考えております。本日は、時間の制限もありますので、特に重要度が高いと考える課題に絞ってお話をさせていただきます。
まず、課題として最も大きいと考えておりますのは、配置転換などへの対応です。
実務上、通報者に対する不利益取扱いは、事実上の嫌がらせや配置転換の態様で行われることが多いです。既に今国会でも何度か取り上げられております日弁連の公益通報相談の集計結果に表れておりますし、それだけではなく、消費者庁が公表している内部通報制度に関する意識調査、就労者一万人アンケート調査の結果においても、勤務先の法令違反行為について勤務先や外部に通報、相談をした後に不利益取扱いを受けたとの回答では、上司や同僚からの嫌がらせ、人事評価上の減点、不利益な配置転換が上位三位を占めております。
また、企業の危機管理を支援する株式会社エス・ピー・ネットワークが実施した実態調査でも、過去に通報者に対する不利益取扱いが確認されたことはありますかとの質問に対し、回答社の一三・一%があると回答し、その具体的内容として、通報者探索、報復的人事異動、通報者への誹謗中傷などが挙げられています。
このように、様々な媒体で異なる対象、方法によって得られた結果で共通して通報者が受ける不利益取扱いとして、配置転換の問題が浮かび上がっていると言えると思います。
これは通報相談に当たる弁護士の実感としても、通報した後、配置転換により孤立化させられたり、あるいはキャリアが閉ざされたりして退職を考えざるを得なくなるといった御相談によく接することがございます。したがって、この点への抑止、救済策が盛り込まれなければ、実務上、通報者が置かれた苦しい状況は余り改善しないのではないかというふうに懸念をしております。
その上で、抑止として刑事罰、救済として立証責任転換の問題がありますので、それぞれについて意見を申し上げます。
まず、刑事罰については、構成要件の明確性と当罰性の観点から、ある程度対象行為を限定することは必要であると思われますが、配置転換と事実上の嫌がらせを一律に外すべきではないと考えます。
壮絶な人格権侵害と評価できるような事例が存在することは、先ほどお話しになった串岡さんのケースを典型に、実際に存在するものです。その上で、一定の限定的な要件を付した上で、配置転換も直接罰の対象とするのか、あるいは、不利益性のある配置転換について、是正命令を介在させる形で間接罰を設け、慎重な運用を可能とすることなどが考えられるのではないかと思っております。
次に、立証責任転換の対象についてです。
通報者が配置転換の無効を主張して争う場合に立証すべき内容は、一点目として、通報が本法の公益通報に該当すること、二点目として、本法の保護要件を満たすこと、三点目として、配置転換が不利益な取扱いであること、この三つに加え、現在の法律では、四点目として、配置転換が公益通報を理由とすることの立証責任も通報者側にあります。つまり、仮に、立証責任の対象に配置転換を含めるというふうな法改正をした場合においても、配置転換であれば何でもかんでも転換されるわけではなく、通報者が不利益性を立証することが前提とされているわけです。
配置転換の場合、仕事外し、部下外しといった活躍の場を奪って孤立させるような異動が、給与そのままに、水準を下げずに行われることもあり、通報者にとって、不利益性の立証自体も負担がかなり重いケースがあります。一点目、二点目として申し上げた公益通報該当性や保護要件該当性の立証も容易ではありません。
このような立証負担の実情も踏まえた上で、通報者保護や情報の偏在是正の観点からは、公益通報該当性、保護要件該当性、配置転換が不利益な取扱いであることというそれだけでも大変な立証を通報者が行った場合に、配置転換が公益通報を理由として行われたことの立証責任を事業者側に転換することが適切であると考えます。この転換された状況であっても、とても通報者が優遇されているとは言い難く、せめてこれくらいは転換して立証負担の軽減をということです。
これまでの政府答弁では、労働法制との平仄を踏まえると、配置転換などについて、公益通報を理由とすることの立証責任を事業者に転換することは現状困難との御説明がございました。
しかし、公益通報者保護法は、労働関連法制の中でも、通報者を特に保護して通報を促進し、国民生活の安心、安全を実現しようとする特別な立法です。そういった通報者保護という政策的観点や、あるいは差別禁止の観点からは、必ずしも既存の労働法制と平仄をそろえる必要はなく、保護を一歩進めることが妥当であると考えております。
なお、配置転換も立証責任転換の対象とする場合においては、配置転換は、報復の意図を隠すために次の異動を待って実行される場合も多いという実情がございますので、一年の期間制限は短過ぎると考えております。
次に、別の論点として、通報のための資料収集、持ち出し行為の免責の点についても述べさせていただきます。
改正法案では、資料収集、持ち出し行為の免責に関する規定は入っておりません。この状況では、たとえ改正法に基づいて、公益通報自体を理由とした探索が禁止され、また、解雇、懲戒に対して刑事罰や立証責任の転換が行われたとしても、別途、資料収集、持ち出し行為を理由として探索や懲戒などがされるということになれば、それが本法の適用上、許容されかねないということになれば、法改正事項の実効性を損ねるリスクのある問題だと考えております。
この点についても、これまでの政府答弁では、裁判所においては、通報との関連性や通報者の動機、行為の態様、影響などを総合的に勘案して判断していることを前提に、一定の要件の下、免責する規定を設けることは現状困難であり、事案ごとに事情を総合勘案の上、判断することが妥当であるとの御説明がございました。
しかし、この点はむしろ、裁判例上、考慮要素がある程度示されているのであれば、それを要件化して法文などに明記することが必要ではないかと思います。その要件の具体的当てはめが個別事案ごとになることは当然ですけれども、最終的に個別考慮になることを理由に免責要件を法定できないということにはならないというふうに考えます。
次に、体制整備義務が法的義務となる事業者の範囲についても述べさせていただきます。
日本は中小企業が多く、三百人超という基準のままですと、多くの事業者が対象外となってしまいます。他方で、国民生活の安心、安全に関わるという意味では、中小事業者も当然ながら重要な役割を担っています。ここは、人数基準を百人程度にまで下げ、対象事業者を広げることが必要であると考えます。この点、既にEU指令においては、労働者五十人以上の民間事業者は内部通報経路の確立義務を負うというふうにされております。
保護される通報者などの範囲についても意見を述べさせていただきます。
改正法案で通報者の範囲がフリーランスにまで拡大されたことは前進ですけれども、中小規模の法人で継続的契約関係を打ち切られるリスクのある弱い立場の法人は、通報しても保護されません。また、通報内容を裏づける供述の協力をしてくれる通報者の同僚なども保護されないままです。この点も、EU指令などを参考に、保護される者の範囲を拡大する検討をしていただきたいと考えております。
最後に、提案されている改正案附則第九条で施行後五年後の見直しとなっていることについても意見を述べさせていただきます。
一般的に、法律の制定から施行までに二年近くが空くことが多いことからしますと、五年後見直しでは、次の改正までに少なくとも七年近くが空くことになってしまいます。
この五年とされた理由について、この度の改正に盛り込まれている刑事罰の適用状況や立証責任転換の裁判の状況を見るに当たり、裁判に時間がかかることが考慮されているようですが、重要な改正事項はこの二点にとどまりません。また、改正課題として指摘されながら手当てされなかった論点、これは先ほど課題としてお伝えしたものが多く含まれておりますけれども、これについて改正がされなかった場合、反動のように問題状況が膨らむ可能性もあるわけです。
そういった問題に適切に対応するためには、見直しが七年近く後になるのは遅きに失すると言わざるを得ませんので、ここは、令和二年改正時と同様に、三年後見直しとしていただきたいと考えております。
私からは以上となります。ありがとうございました。(拍手)
○浦野委員長 ありがとうございました。
次に、奥山参考人にお願いいたします。
○奥山参考人 私は、奥山俊宏と申します。
平成元年、平成が始まった年に朝日新聞社に入り、記者として三十三年働きました。三年前から、上智大学の新聞学科でジャーナリズムの教員をしております。
新聞記者だった三十三年を振り返ってみますと、平成の三十年と重なります。失われた十年、失われた二十年、失われた三十年とその後呼ばれるようになった時期にほぼそっくり重なります。その間、バブルの崩壊に伴って顕在化してきた様々な経済事件を主に社会部の事件記者として取材し、その延長線上で調査報道に長く携わりました。
銀行にせよ官公庁にせよ企業にせよ、その内部にいて本当のことを話してくれる人を見つけ出す、そういう人の協力を得ながら記事を書いていく、そんな経験が何度もございます。そういう情報の流れ、正されるべき問題について、それを現場で見聞きして知っている人から記者を介して広く社会に問題提起され伝えられる営み、それが、新聞記者にとってだけではなくて、社会にとって、公にとってとても大切なんだということを知るようになりました。
租税回避地、タックスヘイブンの秘密ファイル、パナマ文書、あるいはルクセンブルク・リークスに基づく国際的な調査報道に参加する機会がございました。各国の首脳ら政治家、あるいは多国籍企業とタックスヘイブンとの関わりの一端を明らかにすることができ、アイスランドとパキスタンの首相は、財産隠しを指摘されて、その職を追われました。グローバルミニマムタックスの国際合意が成立するのを後押しする結果にもなったかと思っております。
そのように大きな反響を呼んだ報道の素材となる秘密ファイルを、私を含む世界各国の記者たちにもたらしてくれたのは、内部の関係者たちでした。これらパナマ文書やルクセンブルク・リークスの報道がきっかけとなって、ヨーロッパでも、EUが二〇一九年、加盟国に公益通報者保護法の制定を義務づける指令を定めたのは、山本先生からも御紹介がありましたとおりです。
公益通報者の保護は、取材源の秘匿、取材の自由といったジャーナリズムの基本的な原則と関連しており、また、パブリックに知られるべき公共情報の、この社会における自由な流通のインフラの一部を成すものとも言うことができ、大学の教員としても、私の興味、関心の中心に、記者や報道機関に対する内部告発はございます。
兵庫県の西播磨県民局長を務める六十歳の県職員による告発文書の作成と送付は、まさにその、報道機関に対する内部告発でした。「齋藤元彦兵庫県知事の違法行為等について」と題されて、昨年三月、警察、県議会、報道機関の十の先に匿名で送られました。
どこからかこれを入手した当の齋藤知事の指示を受け、副知事らが、昨年三月二十五日、抜き打ちで西播磨県民局を訪れ、局長のパソコンを押収しました。その日の午後、県民局長は、自分がその文書を作成し、配付したというふうに、県の人事当局に認めました。
二日後の三月二十七日、県は、彼を局長職から解任し、総務部付としました。その日の記者会見で齋藤知事は、うそ八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格と元県民局長を非難しました。
元県民局長の押収されたパソコンの中に保存されていた情報のうち、元県民局長のプライバシーに関する情報、文字だらけの小説みたいなものについて、知事の側近である兵庫県の総務部長が、昨年春、一部の県議会議員に見せて回りました。元県民局長について、こういったことをする信用できない人間だと印象づけようとした、それがその狙いだというふうに受け止められました。
五月七日、兵庫県は、元県民局長を停職三か月の懲戒処分としました。
七月七日、元県民局長は、死をもって抗議するとのメッセージを残して亡くなりました。
九月、告発文書への対応の不適切さを理由として、県議会全会一致の不信任決議で、齋藤知事は失職することとなりました。
十一月、知事選挙が行われました。この兵庫県知事選挙が前例のないものになった一因は、NHKから国民を守る党党首の立花孝志元参院議員が、当選するつもりがないと言いつつ立候補して、齋藤前知事を応援する活動を展開したことにございます。
テレビの政見放送で、立花候補は、この県民局長、百条委員会で調べたところ、何と不倫してたんですよと訴えました。百条委員会で元県民局長の不倫を調べた事実はなく、これは事実と異なります。確かに、その不倫の話は、元県民局長のパソコンの中にあったプライバシー情報としてうわさはされておりましたけれども、その不倫が事実なのか、それとも、小説の下書き、フィクションなのかは定かではなく、つまり、それが事実かどうか真偽は不明です。
選挙ポスターの掲示場に張り出された立花候補のポスターの内容は更に過激で、ここで御紹介するのもはばかられるような、事実と異なる根拠不明の内容でした。
元県民局長が、このように、プライバシーに属する真偽不明の事柄をあれこれ非難され、ここまで激しい人格攻撃を受けなければならなかったのはなぜでしょうか。知事のパワハラなど、問題行為を内部告発したからです。
権力者の不正を暴く情報の伝え手について、異性との関係のあることないことを暴き立てられるのは、古今東西よく見られる現象です。告発者をおとしめ、その信用を傷つけ、告発内容から目をそらさせ、論点をすり替え、さらに、他への見せしめとするのが狙いの卑劣な攻撃です。よしんば彼が不倫したことがあったとして、それは彼の告発の内容とは無関係です。
にもかかわらず、それは有権者に小さくない影響を与えたようです。齋藤前知事は日に日に勢いを増し、十一月十七日、百十一万票余りを集め、当選しました。
元県民局長に対する個人攻撃は今も続いています。
政府が今般の公益通報者保護法改正案を閣議で決定した三月四日の次の日、しかも、兵庫県議会の全会派が一致して、元県民局長について適切な救済、回復の措置を行う必要があると考えるとの百条委員会報告書を承認した当日、三月五日、兵庫県の齋藤知事は記者会見で、元県民局長について次のように述べました。倫理上極めて不適切な、わいせつな文書を作成されていた。兵庫県当局者が公の場でこのように明らかにしたのは、これが初めてのことでした。元県民局長の側に対する不当な嫌がらせであるというふうに私は考えます。
兵庫県は、現在、公益通報者保護法十一条とその指針に従った体制整備の措置を取る義務を負っています。すなわち、公益通報者の処分の撤回など適切な救済、回復の措置を取る義務、公益通報者の探索を行った知事や職員に対して懲戒処分その他適切な措置を取る義務を負っています。兵庫県は、現状、これらの措置を取っていません。だから、兵庫県議会の百条委員会は、その報告書で「現在も違法状態が継続している可能性がある。」と指摘し、その是正を提言したのです。けれども、齋藤知事はこれに従おうとしません。
選挙で選ばれたからといって、何をしても許されるというわけではありません。法令には従わなければならない。齋藤知事が、知事選挙で多数から票を得たことを理由として、自分の違法行為に向き合うのを拒否するのだとすれば、それは、法の支配に対する挑戦、反抗だと言って過言ではない振る舞いです。もし仮にそれがまかり通るのならば、今後の日本社会にとって危険な兆候になると思われます。
国にとって、国会にとって、それを是正しようとする姿勢を示す必要性は極めて大きい。そういうふうに私は考えます。
政府提出の公益通報者保護法改正案を拝見いたしました。公益通報者の範囲を広げ、保護の実効性を高める内容となっており、是非成立させていただきたいと感じます。
しかしながら、この法案が閣議で決定された三月四日より後に兵庫県で起きたことを踏まえますと、たとえこの法案が成立して施行されたとしてもなお、兵庫県のような体制整備義務違反を公権力によって是正させるための方策がこの法律には見当たらない、そのような、いわば欠陥が残ることに強い問題意識を持たざるを得ません。
改正案では、内部公益通報への対応の業務従事者を指定する第十一条一項の義務への違反についてのみ、消費者庁の立入検査権限、是正命令権限、是正命令に従わない場合の刑事罰の導入が打ち出されています。しかし、兵庫県が問われているような、十一条二項、体制整備義務違反については、その対象から外されています。私としては、従事者指定にとどまらず、そのほかの体制整備義務への違反についても、同様の強い権限を消費者庁に持たせるべき、もし必要があれば最後の手段としてそれを使えるようにするべきだというふうに考えます。
また、兵庫県など地方自治体は、公益通報者保護法の二十条で、行政措置や行政処分の適用から除外されています。これは改正法案でも変わっていません。兵庫県の事例を教訓として捉えるとすれば、これは現実離れした適用除外であり、こうした適用除外はやめるべきであると考えます。
改正法案には、公益通報者保護法に違反する解雇と懲戒処分に刑事罰を科すとの規定が盛り込まれています。兵庫県が元県民局長に停職三か月の懲戒処分を科したのと同様の、公益通報者への違法な懲戒処分を思いとどまらせ、抑止する力にある程度はなるだろうというふうに思います。
しかし、実際には、刑罰権の発動はかなりハードルが高い実情があります。例えば、告発文書の内容について真実相当性がないと過失で思い込んでしまったことで、その告発文書の配布を、保護されるべき公益通報に該当しないと過って認識してしまい、懲戒処分を科してしまったというような場合、これは過失であって、故意がないため、罪とならない、処罰できないということとなります。
更に申し上げれば、日本の検察は、確実に有罪にできるものだけを起訴し、そのほかは不起訴にするのが通例です。
最後の手として刑事罰を用意しておくのはとてもよいことだと思いますし、この改正法案を評価したいと思いますけれども、その手前、刑事罰の手前で、行政措置や行政処分の手だてを増やして、柔軟な対応を可能にするのが望ましい。その観点からも、体制整備義務違反に対する立入検査、是正命令を可能とする修正の意義は大きい。そうした法案修正をすることによって、齋藤知事のような振る舞いを容認しないとの国会の意思を示すこともできます。不正を目の前にして、報復を恐れて公益通報するかどうかちゅうちょする人たちに対する前向きなメッセージにもなります。
情報の伝え手を攻撃するのではなく、その情報の中身を吟味し、必要な是正へと結びつける、そんな方向に意識を振り向ける、そんな私たちでありたい。そのためのガードレールとして、公益通報者保護法をよりよくしていきたい。
兵庫県の齋藤知事のような振る舞いをまかり通らせるような法律ではなく、公益通報を萎縮させるような法律ではなく、そうではないと示すような法律にしたい。兵庫県で起きているような不幸なてんまつを二度と繰り返させないとの決意を示すような法律にしたい。
そんな法律が実現すれば、とてもすばらしいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
○浦野委員長 ありがとうございました。
以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○浦野委員長 これより参考人に対する質疑を行います。
質疑の申出がありますので、順次これを許します。若山慎司君。
○若山委員 自由民主党の若山慎司でございます。どうぞよろしくお願いをいたします。
公益通報者保護法の一部を改正する法律案について、参考人の皆さんに御質問をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
私自身でございますが、本院の消費者問題対策特別委員長や消費者問題担当の大臣をお務めになられた江崎鉄磨代議士の下で三十年ほど秘書をしておりまして、その折に得た、秘書として、また大臣秘書官を務めさせていただいた経験の中でいろいろと感じたことを踏まえて、この質問に立たせていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。
冒頭、今陳述をお伺いしておりまして、まさに串岡参考人がおっしゃられたところが、実情、実態に極めて近いところなのではないかなということも感じました。残念ながら、ちょっと今日の質問の中では参考人に御質問を申し上げるという機会はないんですけれども、明らかに、そこの部分をちゃんと踏まえながら、実態としてどう守っていくのか、また、通報者であった企業が逆に不利益を被ってというようなこともあったりする事態をどう防ぐのかということもしっかり踏まえてかかっていかなければならないということを感じた次第でございます。
そうした中で、まずは山本参考人にお伺いをさせていただきます。
先生の共著でいらっしゃいます「解説 改正公益通報者保護法」第二版の拝読をさせていただきました。その中で、本法の事務が消費者庁の設立によって同庁の所掌とすることに必然性が薄いとされながらも、必要な人員と予算を大幅に手当てした上で同庁の所掌とすることについては、理念と現実の妥協点として正当化できるように思われるというようにお述べになっておられます。
私の知る限り、なかなか、消費者庁が設立されて、人の面においても、また所掌実務をクリアにしていく中でも、まだまだ足りないところが多数あると思って、こういうことをきちっと支えていかなければならないことも事実なのでございますが、そのような状況の中で、公益通報者保護法対象法令というのが五百本ほどあるという状況にございます。
本来、悪質事業者を内部告発によって取り締まることで消費者を守ろうとした本法であるわけでございますが、例えば詐欺やだまして商品を売るということに対して取り締まっていくものに対しては例えば刑法犯として、もちろん刑法犯でも問うんですけれども、刑法の中でとか、また、先ほどのトナミの事件に関して言えば、労働関係法令であったり、また公取の所管する法律の中で別途、こういった内部通報者を保護するような制度というものを定めていって守るというような強力なものが求められることもあるのではないかと思っております。
また、悪意のある通報ということも懸念される中で、対象法令について、これからいきなりということではないんですけれども、段階的に検証していきながらやっていくということも必要ではないかと思いますが、そこを、行政法の御専門として、参考人からの御意見を頂戴したいと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
消費者庁にまだ人員等の面で不十分な点がある、これは、公益通報者保護法の執行という点のみならず、消費者問題一般について言えることではないかと。そのことはしばしば指摘をされているとおりで、今の御発言は非常に重要な御発言であったというふうに思います。
公益通報者保護法に関しましては、一つは、やはり統一的な手続が設けられている、それによって公益通報者が保護されているということがやはり通報者の保護にとっても重要なことであり、また、そういった制度があるということが、やはり国際的な信用を得ていく、日本の事業についての信用を得ていくという上でも重要ではないかというふうに思います。
そういう観点から申しますと、消費者庁がやる必然性があるとまでは申しませんけれども、ただ、これまで約二十年間にわたって消費者庁がこの法律の企画あるいは執行に携わってきた、やはり、その実績を踏まえて、それを変えるということでなく、それに積み重ねる形で今後この法律をよいものにしていく、あるいは十分実効性を持たせていくということが重要ではないかというふうに思っております。
○若山委員 ありがとうございました。
私は、そういった消費者庁のこれまで果たしてきた役割については、否定するものでは全くございませんので。ただ、無理やり一律の制度で守り切れる状況というのが続けられるのかどうかということについて懸念をする一人というところで御承知をいただければ。
その中で、実は先週、この委員会で、兵庫県庁の事案についての御意見というものが出たわけなんですが、公益通報者保護法に基づく助言や指導、勧告といった行政措置を行うべきではないのかというような意見も実は本委員会で、兵庫県庁に対してやるべきだというような御意見も出たわけですが、ここは、行政法の御専門として、山本参考人の御意見はいかがなものでございましょうか。
○山本参考人 お答えをいたします。
個別の事案について、私は十分調査に携わった等々のことがございませんので、それについては申し上げられませんけれども、一般的に申し上げて、国と地方公共団体との関係に関しましては地方自治法に規定があり、その中で、地方公共団体の自立性を十分尊重して、しかし国が必要なところは言っていくという仕組みが取られています。地方自治法上は技術的な助言、勧告という手段が中心的になるかと思いますけれども、その範囲でということではないかと思います。
特に、公益通報者保護法は、これは地方公共団体の組織のいわば内部の問題に関わっているということがありますので、やはり、国が地方公共団体に対していろいろなことを言っていく場合には、十分注意しなくてはいけない事柄ではないかというふうに考えております。
ですから、地方自治法の法規定にのっとって処理をすべき案件ではないかというふうに考えております。
○若山委員 ありがとうございました。
確かに、この委員会の中での議論を伺っておりまして、地方自治法というもの、また地方自治というものもいかに尊重しつつ、こういった通報者の法益を守っていくのかということ、大事な、そしてセンシティブなお話だと思っております。大変貴重な御意見であったと承知をいたします。ありがとうございました。
私は、ただ、改めてこの対象法令の多さということについていろいろと思いを致すところではあるんですが、同じ物差しで対処していく中で対応し切れていない実態というものがあるのではないかなということも、先ほどの串岡参考人のお話しのことを踏まえて、先ほど冒頭申し上げたとおりなのでございますが。
海外においてはどんな形でやられているのかということも実はお伺いをしたくて、もし参考人の中で、特に奥山参考人におかれましては、報道の中で、かつて、〇三年の、これは記事としてお書きになられたんですかね、アメリカやイギリスにおける内部告発や情報開示についての連載をお書きになられたというようなことも伺っておりますので、まずは奥山参考人に、海外ではどういう法制度、法体系になっているのかなというところを御意見として、お話として聞かせていただければと思います。
○奥山参考人 御質問ありがとうございます。
日本の公益通報者保護法は、イギリスの公益開示法、パブリック・インタレスト・ディスクロージャー・アクトを参考にして、二〇〇三年に当時内閣府において立案されたものです。それと日本の制度は非常に似ているところがある、そういう由来があるからだというふうに考えられます。
他方、アメリカも当時参考にはしたのですけれども、そのまま取り入れることは日本ではなかったというところがございます。
アメリカでは、例えば労働安全衛生であるとか、あるいは原子力安全であるとか、あるいは、近年、ここ二十年ぐらいですと、SOX法、証券取引法違反、例えば企業が粉飾決算をしたとか、そういうことについて内部告発をした労働者がもし仮に事業者から差別扱いを受けたと信ずるときは、デパートメント・オブ・レーバー、労働省の内部告発者保護の専門の担当官に訴えを起こし、労働省で調査し行政処分を出すというふうなたてつけになっております。事業者の方がそれに不服があれば労働省に不服の審査を申し立て、その不服の審査の結果にも更に不服があれば通常の裁判所に移るということとなります。
あと、例えば原子力安全ですと、労働省が内部告発をした労働者の救済に当たるのと並行して、原子力規制委員会の方で、その事業者に対する、原子力安全の観点からの、内部告発者に対する報復についての行政処分を出していくということとなります。
このように、比較的、行政機関が内部告発者の保護の任に当たるといいますか、法執行に当たるという側面がアメリカでは強くあるというふうに考えられます。日本ではその点、当初の、原始法である公益通報者保護法にはそういう要素は全くなかったのですけれども、二〇二二年に施行された改正法では、体制整備義務のところに消費者庁の権限が入ることによって、若干アメリカに似ているような、行政機関が直接事業者に対して調査したりとか、調査というか、現行法では報告を求めるという程度のものしか入っておりませんけれども、そういう要素が、アメリカと似たような要素が若干入ってきたなと。それを、今回の改正法では、従事者指定義務についてのみ更に強めるというふうになっております。
ありがとうございます。
○若山委員 ありがとうございました。
やはり、通報者を保護するということになりますと、それだけ強力な、また実効性の高いものがどうしても求められるのではないかなということも改めて感じた次第でございます。
では、いま一点。本日、本委員会において、不当な配置転換にも罰則であったり、それから立証責任転換を規定すべきとの意見や、義務対象の事業者を常時三百人超の企業から百人超にすべきではないのかというような意見も挙がっております。
気持ちとしては、百人と言わず、たとえ数人からでも、公益に資する、正しいことを告発をする人たちは守られるべきであるという思いは私は強く持つところでありますが、また他方で、実効性のある体制というものもつくっていかなければならない、また、企業活動、事業活動の実態ということもやはり踏まえてやっていかなければならないところもあります。
そうした現実問題として、どこかで線引きというものを図らなければならないんだと思いますけれども、その点で、土井参考人に、事業者側の実情も踏まえて御意見をお伺いしたいと思います。
○土井参考人 それでは、お答えをいたします。
先ほどの陳述の中でも述べさせていただきましたが、従業員三百人超であると、社内にコンプライアンスをある程度担当する法務部門などが置かれており、この件に関してもかなり社内での体制というのが取れます。また、顧問弁護士を始め、外部に相談する専門家の体制というのもかなり充実されているのではないかと考えております。
日弁連さんの調査などを見ていると、百人超だと、顧問弁護士はいるけれどもといったところで、あと、社内に対してどこまでといったところはあろうかと思います。
私も今の職場しか経験がないので、簡単に申し上げますと、我々、各都道府県の商工会の規模というのは、全国でいうと一万人、一万一千人ぐらいの職員がおりますが、県単位に直しますと、まさに今御議論いただいている百人から三百人ぐらいといったところが多いんですね。我々、全国組織として、昨年、組織内不祥事のための全国の公益通報窓口というのを実は私どものところに設置をいたしました。それは、我々の組織だけですと六十人ぐらいしかおりませんので法定の義務があるという形ではないのですが、我々の組織にあって、我々の職場自体は四、五人ぐらいの職場ですので、なかなか中では言えない案件というのを言いやすいようにといった思いで、ある程度法律も参考にしながら設置をいたしました。既に通報も何件かあって、これから運用を考えていくかなと思っております。
このように、やはりその組織に合った通報の体制というのがあろうかと思います。
それと、もう一つあるのは、現在、全ての企業の規模に、労働施策総合推進法による、パワハラであるとかセクハラとかの相談窓口を設けなさい、これは全ての企業に義務化されております。ある程度の小さい企業の規模、小さいといっても商工会の中ではかなり大きい方の会員においても、社内に複数のそういった相談窓口を設けるといったことはかなり難しいのではないかなと考えておりますので、そういったハラスメント系の窓口と併せて一体的に運用ができるということが重要であるかなと思っております。
済みません、規模について、これがいいということはなかなかデータ的にも証明しづらくて申し上げにくいのですが、一つにございますのは、この法律を窓口として運用していくためには、正直、かなりの法律の知見がないと、内部で運用していくのは難しいです。
先ほど委員から御指摘のあった五百本の法律で、これが公益通報に該当するのかどうかといったところを、正直、私もそれなりにかじった方ではありますけれども、いざ、じゃ、自分が窓口担当者になったときに聞かれて、これは公益通報に多分該当しますよと言うことというのは、なかなか分からない。特に、我が国の法律は、一号通報でありますと、思料するということで通報ができるということで、今、企業側でどのようなことをやっているかというと、取りあえず、通報のあったものは公益通報と考えて、法律上の必要な措置を取ろうということでやっている。それだけやはり手間がかかるということもございます。ですので、それを、正直、今の現行の法定指針の形どおりにできるというのは、やはり三百人規模の企業ではないとできないのかなと思っております。
私は、検討会の中で、全ての企業に内部通報に対応する義務はあるし、やっていかなければいけないことだと申し上げてまいりました。ただ、そのためには、やはり、その企業の規模にふさわしい窓口のやり方であるとか、そういったことをもうちょっと普及させていかなければいけないです。
例えば、外部の窓口を設けるサービスというのも幾つかございます。料金的には年間数十万から数百万ぐらいの経費ですので、そこそこの企業の規模であれば出せない金額ではないんですが、あくまでも受け付けてくれるところがメインなんですね。いざ受け付けた、それから、じゃ、どうやって対応しようか、調査しようかとか、法律上どうなのかというアドバイスはまた別料金といった形ですので、なかなかそういったところはハードルが高いかなと思っています。
そういったサービスが気軽に受けられるような体制になれば、ある程度の企業の規模でも今の法定指針の趣旨にのっとった窓口運用ができるのかなといったこともございますので、今回に関しては、義務の範囲についてはそのままで、できる限り、そういった努力義務の企業が導入できるような御支援をいただきたいといったところだと考えております。
以上でございます。ありがとうございます。
○若山委員 ありがとうございました。
志水参考人には、済みません、質問の機会を、できませんでしたけれども、おわびを申し上げます。
本当に大変参考になる御意見をいただきまして、ありがとうございました。終わります。
○浦野委員長 次に、大西健介君。
○大西(健)委員 立憲民主党の大西健介です。
貴重な御意見をありがとうございました。
できるだけ全ての参考人にお聞きしたいと思いますけれども、そのためにも、ちょっと答弁の方も簡潔にお願いをできればというふうに思います。
まず、内部告発を行ったことで、研修所への転勤を命じられて、机と椅子しかない四畳半の部屋で他の職員との接触も妨げられ、草刈りだとかペンキ塗りだとか雑用しか仕事を与えられず、昇格もなしで、自主退職を迫られるという報復人事に耐え抜いた串岡さんの人生というのは、まさに筆舌に尽くし難い壮絶なものだというふうに思います。串岡さんのように信念を貫いて闘い抜ける人というのはほとんどおらず、多くの人は、泣き寝入りするか、声を上げても報復されるおそれがあれば黙っておくという道を選ぶんじゃないかと思います。
実際に不利益取扱いを受けたという相談で多いのは、先ほど志水参考人からもありましたけれども、嫌がらせだとか配置転換が多いということで、これを解雇だけに今回限定してしまうと実務上の救済にはつながらない。それどころか、解雇は刑事罰の対象になるので、代わりに配置転換などの報復人事に拍車がかかるんじゃないかということを懸念をします。
不当な配置転換が立証責任の転換だとか刑事罰の対象になっていないことに対して、当事者として、まず串岡さんの御意見をいただきたいと思います。
○串岡参考人 大変重要な質問をいただきまして、ありがとうございます。
私は、やはり、会社が内部告発を忌み嫌う風土は厳然として残っておりますから、そこで解雇という問題に罰則をつけるという点は、内部告発が正当であって国民の信頼を得ているものであったら、解雇はできなかったわけです。私に対して簡単に解雇できるという状況ではなかったわけです。ですから、様々な形で報復をしていたわけです。
私は最後まで残りましたが、よく相談を受ける方は必ず人事行為を行われております。その人事行為というのは、全くの閑職であります。有名なあの愛媛県警の方の場合は、裏金にサインをしなかったということで、何十年もああいう形になったわけですけれども。
私は、今問われました人事行為に対しては、これは人事権の濫用である、権利の濫用であるという考え方を持たなければならない、あれは企業の過剰防衛的な反応であるというふうに思っておりますので、この点に速やかに何らかの、閑職に置かれる、それはどういう意味かというと、生涯を奪うことができる。企業にかかっても、私にそういう相談で、解雇以上に、生涯を窓際族として送らなきゃならぬというものは、刑事罰がかかったところでありましたから、それは禁錮刑か何かであります。懲役刑ではないはずだと思うんです。
ですから、そういうふうな厳しい判断をしていただくことが必要かと思います。
○大西(健)委員 私もそのとおりだと思うんですけれども、先ほどの話で、刑事罰の対象とか立証責任の転換ということになると事業者側の負担が大きいという話がありましたけれども、今みたいな追い出し部屋みたいな、これは人事権の濫用ですよ。
それから、普通の、通常の異動であっても、労働者への一定の説明責任というのは生ずると思うんですね。ですから、そのために、ある程度の準備というのは経営側はしているはずで、それほどに、私、負担は大きいと思えないんです。
それから、一方で、現在の裁判実務においても、どの程度事業者の人事裁量が認められて、労働者側が争うのに難しいという実情があるのか。この点について、土井参考人とそれから志水参考人、それぞれからお答えいただきたいと思います。
○土井参考人 お答えいたします。
配置転換については、企業の中で、規模を問わず、幅広く行われております。特に最近は、いわゆる定期異動のほかにも、随時異動といいますか、例えば年度であるとか一定の時期の切替えを問わず配置転換をするといったことが多く行われております。その理由の主なものというのは、欠員の補充であるとか期中の組織改編といったようなところでございます。
もちろん、ある程度の人事についての説明は行いますし、当然、求められれば説明をするといったこともあるかと思いますが、具体的に配置転換のときにこういったことをしなさいといったことのルールまで定めているという企業はまだまだ少ないと思っております。
そういったことで、幅広く今まで裁量で認められてきたといったこともございますし、また、最近では、地域限定の雇用であるとか、あるいは職種を限定したといったところが広がってきますので、その部分については、判例とかでもなかなか、職種変更であったり、あるいは地域の転勤であったりといったところは、かなり裁量権が狭まっているというのも事実でございますが、いずれにしろ、現状の中で、配置転換が不当であるか、あるいは不利益であるかといったところは、個人のところの取り方もかなり違うというふうに思っております。私もサラリーマンでありますけれども、三十人近くしゃべって、やはり納得できないといったことはございました。
そういったところもありますので、じゃ、具体的にどのようなものを考えていくのかといった点については、やはり影響の大きさを考えて今後も検討していただくのがよろしいかなと思っております。
以上でございます。
○志水参考人 御質問ありがとうございます。
配置転換について、裁判でどの程度争うのが難しいのかというところについてですけれども、先ほど土井さんの方からお話がありました職種限定合意とかがある場合はまた別なんですけれども、そういった合意が認定できない場合の配置転換については、昭和六十一年の最高裁という結構古い判例なんですけれども、こちらが今も通用しておりまして、労働者側がその配置転換が権利濫用であることを主張、立証しないとならないことになっております。
具体的に、じゃ、権利濫用であることを基礎づける事実としてどういったことを立証しなければならないかというと、業務上の必要性がないこと、あるいは不当な動機、目的があること、あるいは労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えること、こういったことを立証しないとならないんですけれども、この業務上の必要性という部分が、その最高裁の判例においてかなり広く人事裁量が認められている形でして、具体的には、企業の合理的運営に寄与するような側面があれば、この業務上の必要性は認められるような状況にあります。
ですので、労働者側がその配置転換が権利濫用であるということを立証するのはかなりハードルが高い状況でございます。
以上でございます。
○大西(健)委員 さっき言われた、例えば欠員の補充とか、そんなのは説明すればいいだけの話だと思うんですよね。
もう一つ、串岡さんが先ほど言われたように、通報するとその人の将来が全て失われてしまう。これはもう甚大な、取り返しのつかないこういう不利益を被るわけで、それに対して裁判をやっても、時間と費用と労力がかかって、これも非常に重い負担になる。仮に勝訴できたとしても、補償されるのはバックペイ程度で、損害賠償が認められても慰謝料は僅かということで、何より、失われた人生をもう取り戻すことはできないわけですよね。
ですから、この点、私は、通報者が早期救済を求めることができる裁判外紛争解決制度であったりとか、損害賠償の割増し、こういう経済的補償を手厚くする制度、こういうことを検討した方がいいんじゃないかというふうに思いますが、串岡参考人の御意見をいただきたいと思います。
○串岡参考人 ちょっと私は別な視点から申し上げますと、裁判を行う場合に本当に勝訴するのは難しいと思います。したがいまして、アメリカのように、日本の刑事裁判のように、一般市民はこの判断がすごくできやすいと思うので、陪審員制度を設けることをひとつ検討していただきたいというふうに思うわけです。
それから、会社が人事行為を行ったときに、その証明の転換というものに対して、裁判所は非常に厳しい判断でしております。この点をどうしても改善をしていただきたいという思いが強いわけで、そういうこともありまして、私、裁判で弁護士と最も対立した点がありました。是非、判決を出してもらいたいと。裁判が終わったときから大げんかをして、裁判官、弁護士と。やはり、判決を出すということは、これを次の人たちが読んで判断してくれるということになりますので。
金額は、和解のときを二度消しましたので、相当違いますよという話でした。ですけれども、そこで、何とか一円でも取れば勝てることが分かりましたけれども、判決にこだわって、弁護士にも裁判官にも逆らったものですから、勝ったとはいうものの金額は非常に低かったということですけれども。
挙証責任の転換というものを本当に考えていただきたい、そう思っています。
○大西(健)委員 今もそう思いましたけれども、やはり串岡さんに今日来ていただいて本当によかったなと思うんですよね。高額療養費の問題もそうですけれども、やはり当事者の話を直接聞くというプロセス、これが不可欠だと思います。
そこで、検討会の座長を務められた山本先生にお伺いしたいんですけれども、検討会は、九回行われて、第五回には関係団体へのヒアリングというのを行われていますけれども、不利益取扱いを受けた当事者の意見を直接聞く機会、これをなぜ設けられなかったのか、お願いしたいと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
委員会においては、先ほど構成を申しましたように、公益通報者の方の保護に携わっている、支援に携わっている弁護士の方あるいは連合の方等々に加わっていただいた。それから、ヒアリングにおいては、日弁連で通報者の支援に携わっている方からヒアリングを行っています。それで十分意見を伺ったというふうに判断したということでございます。
○大西(健)委員 先ほど、冒頭の串岡参考人の意見陳述の中にありましたけれども、本来、法律ができるときに話を聞いてほしかったというのは、私はまさにそのとおりだというふうに思います。
ちょっと時間がなくなってきたので、最後、奥山参考人のお話ですけれども、兵庫県の問題について、本委員会で我々の同僚の川内委員からも、消費者庁は兵庫県に対して地方自治法に基づく技術的な助言を行うべきだ、兵庫県知事が十一条とか指針は内部通報のみを対象にしているんだと間違った法解釈をしている、このことはちゃんと言うべきだということ、あるいは、適切な措置が取られておらず違法状態が続いていることについて、ちゃんと消費者庁は物を言うべきだということを、かなり厳しく消費者庁に対しても言いました。それについても、消費者庁も検討しますみたいな答弁でありましたけれども。
ただ、先ほど地方自治という話がありましたけれども、確かに地方自治は大切ですけれども、恐らく適用除外にされているのは、国とか地方公共団体とか公の機関というのは言わずとも当然法律に従ってくれるだろう、こういう立場に立っていると思うんですね。ところが、兵庫県知事のように、堂々と法律を破って何が悪いんだという人が出てきたときに、それに対して何もできないというのはやはり困ると思うので、この適用除外というのは我々も外すべきだと思います。
先ほど山本先生からも地方自治の話がありましたけれども、地方自治との関係で、この部分、公の機関が法律に従わない場合にはやはりその担保というのは必要ではないかと思いますけれども、改めてこの点についてお伺いします。
○奥山参考人 御存じのとおり、公益通報者保護法は、内閣において閣議決定で法案が作られ、その条文の内容は消費者庁において立案され、そして国会において制定されているというものです。その解釈、運用について、消費者庁が有権解釈権を持って、公権的な解釈を持って、それに全国の事業者、自治体は縛られているというものであるというふうに理解しています。
であるにもかかわらず、ある自治体の首長が独自の法解釈を持ち出して、公益通報者保護法十一条の指針の対象には、内部通報のみが対象になって、外部通報はそれの対象にはなっていないのだというような独自の法解釈を持ち出して、自分たちのやっていることを正当化しようとするというのは、非常によくない状況であるというふうに思います。何らかのやはり手だてが必要であると思います。そこが、今の法案では適用除外という形となっている。
確かに、地方自治法に基づいて助言するという手もあるのかもしれませんけれども、その場合ですと、従わないという選択肢もあるのであろう、自立を尊重するという観点からはあるのであろうと思います。
ですので、そういったところを手当てするためには、適用除外のところの条文については地方自治体は除くようにした方がいいのではないかというふうに思います。
○大西(健)委員 時間になりましたので、本当はもっと聞きたかったんですけれども、串岡さんのように公益通報したことで人生を奪われてしまう人が二度と出ないように、また、勇気ある告発者を保護することで不正が正されてよりよい社会ができるように、法律の不断の見直し、これを行っていくことをお誓いして、私の質問を終わります。
○浦野委員長 次に、伊東信久君。
○伊東(信)委員 日本維新の会の伊東信久です。本日は、よろしくお願いいたします。
本当に貴重な御意見をありがとうございます。
最初に、ちょっと志水参考人にお伺いしたいのは、法的な立証というのがなかなか難しい、特に、串岡さんの例でもございましたけれども、やはり当事者が立証するのはなかなか難しいというところで、ただ、配置転換のその前段階の嫌がらせ、この段階になりますと、例えば当事者が録音しなければいけないとか、周りの方の、恐らく串岡さんも同僚の方といろいろやり取りして大変だったと思うんですけれども、そういう同僚の方の証言が必要。ただ、企業にいたら、やはり自分の身を守りたい。
そういったところで、法的な立証、嫌がらせとか誹謗中傷、こういったところに関しての更なる御意見を志水参考人にちょっとお伺いします。
○志水参考人 御質問ありがとうございます。
おっしゃるとおり、事業者内で嫌がらせをされたときに、職場にそもそもスマートフォンを、ロッカーに入れておかないといけないとかというところも多かったりもしますので、暴言を言われたり、変なうわさを流されたりとか、そういう事実上の嫌がらせをされたときに、それを立証するのが相当難しいということはございます。
この部分に関連して、先ほど私の意見の中でも申し上げさせていただいた、通報者の同僚を保護する対象に含めるべきというところが少し関連するかなと思うんですけれども、現状で、通報者の同僚が、自分が社内で村八分的にされていたことについて協力をしてくれないかとか、うわさを流されたことについて協力をしてくれないかということを頼んだとして、例えば、弁護士に説明をするところまではいいよ、だけれども、その説明を裁判とかで使うのは勘弁してくれ、自分がまた追いやられてしまうからというところで、なかなか協力を得難いという実情がございます。
ここは、やはり通報者を支援する者を保護対象に含めるという形で、安心できる体制を整えていく必要があるのではないかと考えております。
○伊東(信)委員 ありがとうございます。
嫌がらせに関しては、本当にあらゆるハラスメントは、公益通報に限らず、やるべきではない、そういったスタンスなんですけれども。
ここで、一方で、やはり難しいのは、私もちょっと経営をしているもので、土井参考人にお聞きしたいのは、不利益取扱いの防止の中で、現段階では配置転換や嫌がらせを罰則の対象としない方向については賛同すると御意見を述べられています。
つまり、配置転換は、やはり企業において必要な配置転換もあると思います。もちろん、串岡さんの例というのがございますけれども、そういった例との区別がやはりまず必要なのと、もう一つは、やはり企業として、これが刑事罰になったとすれば、いわゆる人事の課長なり、部長なり、若しくは経営者なりがこの罰則の対象になるというのは、なかなか企業の経営に関してもかなりちょっと難しい状態になると思うんですけれども、その点について土井参考人にお伺いいたします。
○土井参考人 お答えいたします。
委員おっしゃるとおり、企業経営に相当な影響があると考えております。
先ほどの御質問にお答えしたときにも申し上げたように、配置転換に関することについては、企業もいろいろ考えて、スキルアップであったり、あるいは同じ部署に長くいることによる不正などの防止であるとか、あるいは本当に純粋に欠員が出てしまった、そういったことで、いろいろな様々な理由で行っているわけでございます。
基本的に人事というのは、人事担当の職員が原案を作って、それを経営者、役員の承認を得て実行するといったことでございますので、仮に不正な目的であるとか不当なとかいう条件がついたとしても、感じ方に差がある以上、企業としては、配置転換をすることに相当のリスクがあるというふうに感じざるを得ない。
元々、配置転換自体がうれしく思う方もいますし、何で俺を動かすんだといった方もいる以上、どこで告発されるリスクがあるのかといったことについては、やはり抑制の要因にはなるだろう。
ということになると、じゃ、あの人は公益通報をした、ひょっとすると何か言われるかもしれないから動かすのをやめようとか、そういったこともありますし、逆に、自分の行きたいところに行くために、簡単な内部の不正とかをちょっと言ってみよう、俺はカードをある意味手に入れた、何か動かされそうになったら、刑事罰の可能性もありますよと言ってやろう。そういった動きも実際の裁判例でちょっとあったことも検討会の中で紹介をされましたので、やはり我々にとっては、もうちょっと詳細に検討して、もちろん串岡さんのような例は企業側からとっても戒むべく考えておりますが、どういったものについてやはり罰なり是正をしなければいけないのかといったところをもうちょっと明確にする必要があるのかなと考えております。
以上でございます。
○伊東(信)委員 ありがとうございます。
今、土井参考人の御意見をお伺いしながら、やはり濫用であったり虚偽であったりというところなんですけれども、やはり濫用だったりということは、自分自身が有利になるように濫用するというのはあり得ないことはないとは思うんですけれども。
虚偽に関して言いますと、ここで山本参考人にお伺いしたいんですけれども、四つの指摘の中で、濫用、虚偽の話をおっしゃっていただいたんですけれども、虚偽に関して、これはちょっと匿名性とも関係してくると思うんですけれども、匿名に関する公益通報も、現段階の法律でも、それも保護されるべきだという話になっているんですね。
今回の法律で虚偽に関しての匿名性のやつが強化されているとは思わないんですけれども、山本参考人の御意見をちょっとお伺いしたくて。
○山本参考人 匿名の通報に関しましては、これは今回の検討会を行う前の調査においても、やはり匿名の通報というのはかなりの数があり、それが有効に働いている面があるということでしたので、匿名の通報も保護するということを前提に議論をいたしました。
それから、虚偽かどうかということに関しましては、これは通報の要件として、一号通報ですと、真実である、こういう事実があると思料すること、それから二号ですと、相当の理由があること、三号ですと、真実であるということに相当の理由があることという要件がありますので、ここに当てはまるかどうかということによって、保護される通報なのか、そうでないのかというのが決まるということで、その点は今回特に変えているということではございません。
○伊東(信)委員 そこで当事者である串岡参考人にちょっとお聞きしたいと思うんですけれども、今までの参考人の御意見を伺いつつ、やはり当事者に関して、もちろんトナミ運輸に会社愛があったからこそ、しっかりと変わってほしいという思いもあったと思うんですね。一方で、やはり不正を許せない、そういう思いもあったと思うんですけれども。
やはり会社での扱い、司法との、先ほど私、本当に、最終的に判決を出してほしいという気持ちに非常に感銘いたしまして、やはり和解した方がお金をたくさんもらえる可能性があります。ただ、お金じゃないんだというところのお話も非常に感銘したんですけれども、串岡参考人のそういった今までの経緯に関して、先ほどお時間も足らなかったので、ちょっと言えなかった部分もあると思うので、その辺りについてお話しください。
○串岡参考人 ありがとうございます。
裁判の判例の重要さを申し上げましたのですけれども、浜田さんの例をちょっと御紹介したいと思うんです。
浜田さんは、オリンパスの内部通報だったんです。内部通報でも外部通報でも報復を受けるわけなんですけれども。裁判を行いました。一審、負けました。大変労働法に強い弁護士の方なのに、それで負けました。二審で勝ったわけです。大体、愛媛県警などの場合は、上告しないでそこで終わるんですね。というのは、最高裁は拘束的権威ですから、地方裁判所や高等裁判所のような説得的な権威でないわけで、拘束的な権威である判決を出せる規格なんですけれども、それで確定したわけです。確定した後にオリンパスは元の状態に戻さないわけですよ、この民事裁判で。それで、もう一度裁判しなきゃいけない。そういう非常に厳しい現実に置かれるということを申し上げたいわけです。
そのほかに、もっとつらく、悲しいまでの人があります。シールドマシンというトンネルとか何か掘る機械の、ある大企業の問題でありますけれども、この方のことは完全に公益通報であると思うのにもかかわらず、裁判を行うと、全く、一審、二審。最高裁に訴えたらどうか、三十万円かかる、後悔しないように、〇・何%でも確率があるなら、お金の問題もあるかもしれぬけれども訴えた方がいい。負けました。その後も負けました。もう一回、浜田さん、裁判をやった。本当に裁判を勝つというのは、先ほど陪審員と言ったように、いかに厳しいのかという現実を知っていただきたいと思うんです。
ついでで、ちょっと余談になりますけれども、消費者庁におりましたので、この際申し上げることを御容赦願いたいと思うんですけれども、今度の消費者庁の検討会に入っていない人がおります。内部告発者を僕で一旦入れたので、また入るものだと思っていました。私は入る気はない。だから、ふさわしい人がいる。浜田さんなんかはふさわしいと思っています。あの人も東京だから。この人が入っていません。メディアの人も入っていません。私が最も信用する、そういう人は消費者庁の中に今度入らなかったんです。だから、この点からも、この委員構成を一八年に山本先生の座長のところで訴えました。そこに誰もいない、新聞、メディア出身の人が。
そういうことですので、まずこの委員構成に、企業側を入れるのなら、内部告発者等そういう人を入れていただきたいという、少し道を外れましたけれども、御容赦ください。
○伊東(信)委員 先ほど串岡参考人からメディアのお話が出まして、せっかくですから、ちょっと奥山参考人にメディアについて御知見をお伺いしたいんです。
ちょっと発言に気をつけないといけないんですけれども、テレビ、週刊誌、新聞とあると、一番報道と言えるのは新聞なのかなとやはり思ってしまいます。特にテレビは、バラエティーと報道の区別が今なくなっているわけです。
兵庫県の事例、全面的に私はそのことに関してはちょっと触れませんけれども、内容に関しては触れませんけれども、ただ、やはり混乱を生じた理由の一つに、メディアの、特にテレビの報道に関してちょっと問題があったのかなという指摘もあります。
一方で、今、オールドメディアという概念がありますけれども、SNSを含めてのこういったメディアになると、虚偽どころの話じゃなくなってくるところもあります。
こういったところでやはり世論なり世の中が動いていくのは非常に私は危機感を覚えているんですけれども、兵庫県のことも踏まえて、奥山参考人の知見をお伺いしたいと思います。
○奥山参考人 今回の兵庫県の西播磨県民局長の告発文書は、四人の報道機関の記者に送られています。その中の何人かは、その内容について慎重に取材を始めていたというふうに聞いております。しかしながら、実際に県当局にまだ当てる、コメントを取りに行くというほどまでの裏づけは得られていなかったということで、まだ、県が三月二十七日に西播磨県民局長を総務部付に、解任した時点では取材が進んでいなかった。
調査報道ということになりますので、時間が相当、一週間、二週間で終わるというものではなくて何か月もかかるというのが実態として報道にはありますので、そういう慎重な上にも慎重な取材をした上で、これが本当かどうか見極めた上で、それがさらに、公共性があるかどうか、ニュース性があるかどうか、そういうことを考えた上で慎重に報道していくというのが通常であろうと思います。
もちろん例外があって、例外といいますか、間違った報道というのもございますし、今御指摘されたような、県議会の百条委員会から発表されたアンケートの結果の中身について、その中身がどこまで裏づけられているものなのかということをさほど考慮することなく報道してしまったという事例も、確かに御指摘のとおりあるところであると思うんですけれども、いわば、逆に、発表があったからこそ、そこに安易に乗っかってしまったという側面があると思います。
通常、告発文書を受け取って調査報道するというときは、かなり慎重に取材をしていって、多くの場合は、取材はしたけれども没にせざるを得ない、裏が取り切れなかったということが多いという実情があるということは知っていただきたいと思います。SNSで公開するということと報道機関に告発文書を送るということとは、全く異なるということは御理解いただけるとありがたいと思います。
○伊東(信)委員 先生方、いろいろな御知見をありがとうございます。
終わります。
○浦野委員長 次に、丹野みどり君。
○丹野委員 国民民主党、丹野みどりと申します。
参考人の皆様、本日は、お忙しい中、本当にありがとうございます。よろしくお願い申し上げます。
まず、串岡さん、お願いいたします。
恥じることは何もないんだという、この信念を本当に曲げずによく闘い抜いてくださって、頭が下がります。串岡さんにしかお話しできないことをお聞かせいただきたいと思っております。
今回の法改正では、配置転換に対する罰則は設けられませんでした。大きなポイントは、やはりこの配置転換だと思っております。不当な配置転換というのは何をもって不当というのかという、本人の主観もあって本当に線引きが難しい、ここは本当に承知するところです。
これを認めてしまったら事業者側は全ての人事異動に対して理由を設けなくてはいけなくなるからこれは難しいんだという意見ですとか、あと、日本はジョブ型雇用じゃなくてメンバーシップ雇用だから、人事異動でローテーションさせていって、いろいろジョブローテーションさせていくことで人材育成するんだ、そういう人事異動もあるのでなかなかこの罰則に関してはなじまないんだ、そういう御意見もあります。
こういった御意見も踏まえて、当事者である串岡さんにしか言えないお話を伺いたいんですけれども、串岡さんは、実際に不当だと思った配置転換を受けたわけです。それを受け続けたわけです。ここのことをしっかり自分のお言葉でお伝えいただければと思います。何が不当であったか。
○串岡参考人 ありがとうございます。
本当に、まず申し上げたいのは、不当かどうかは、その人事担当者がしっかり分かっていることであるということです。そういう適正な人事方針の下行ったということが、随分可能なところだと思うんです。これはやはり裁判で、実際そういう人事行為を行った結果、それが正当な人事行為だったのかどうかということを裁判所もしっかり見抜けていない部分はありますけれども、積み重なってきています、最近は。
どういうことかといいますと、浜田さんの例を申し上げれば、あれほど優秀なセールスマンで、アメリカで功績が上がっていろいろな表彰を受けた人が、内部告発をした途端に、誰もいないような部屋で、明らかに分かるようなところでもって一人で過ごさなきゃならぬようになっています。そうすると、随分違うわけですね。
従来、いろいろなところが転勤とか異動をさせられても、そこに連続性がある。あるいは、一時的な内部における派閥の争いとか、誰々についた、そういう人間臭いような点は、企業の許容範囲というか、あり得ることなんです。
けれども、内部告発とか公益通報は企業にとって裏切りだと思っていますから、人事にどうしてもしっかりと表れるようなことがあるわけです。それが私の例である、あるいは浜田さんの例である。あるいは、シールドマシンをした後、子会社に移らされて掃除をする。全く、必要なのかと思うような仕事まではっきり分かりますので、そこら辺はつぶさに検討すれば分かることだし、物すごくそこに罪な人事があって、解雇だけは、それは公益通報でやっていなければ、その保護に行くんだということで、判例とか、内部のいろいろな方たちに正直に言えるような体制をすれば、間違いなくよく分かるもので、その違いは判別できると思います。
○丹野委員 ありがとうございます。
不当なというのがすごく線引きが難しいという話もありますけれども、今の串岡さんのお話で、分かるんだ、明らかなんだというお答えが非常に胸に残りました。ありがとうございます。
次に、志水弁護士、お願いいたします。
今回の法改正で最も事例として多い嫌がらせ、配置転換は罰則の対象になっておりません。今回の法改正の実効性が限定的と指摘する声もございます。実際の法律相談や裁判などに当たっていらっしゃるお立場から御意見をお聞かせください。
○志水参考人 御質問ありがとうございます。
実際に、法律相談、公益通報の相談をお聞きする中で、解雇や懲戒といった分かりやすい不利益処分をされているという御相談はそんなに多くはございません。むしろ、先ほど意見を申し上げさせていただいたように、部下を外されるですとか、孤立をさせられる、これまでのキャリア等を全く生かせないような場所に本来の定期異動のローテーションではない時期などに急に異動が決まるですとか、報復的なことをされてしまって。だけれども、そういったものというのは、裁判で争うのが先ほど申し上げたように非常にハードルが高いので、現実を御説明すると、じゃ、もう退職して生き直した方がいいかなというふうに判断をされるというような、苦しい決断をなさるようなケースというのが多いところでございます。
ですので、抑止と救済、この二点を是非強化していただきたいですし、現状ではどうしても裁判に時間とお金と労力がかかるというところがありますので、裁定型のADRなど、行政からの費用的手当てのあるような手段で早期の紛争解決ができるような手段、こういったもので救済をしていただきたいというふうに思っております。
○丹野委員 ありがとうございます。
もう一度、志水弁護士に伺いたいんですけれども、不当な配置転換というところ、先ほど串岡さんは、当事者として、分かるんだ、明らかなんだというお話がありましたけれども、先生のお立場からすると、この不当なという概念を裁判の中でどう争うんでしょうか。
○志水参考人 まず、裁判の中でという御質問ではあったんですけれども、刑事罰の対象としての配置転換にどういう限定要件を付すのかというお話と、立証責任転換の対象としての配置転換をどう捉えるかという話で少し違うかなと思いますので、分けてお話をさせていただきます。
まず、刑事罰の対象については、やはり一定の限定要件が必要だと思っております。それを仮に不当性の要件としてどういったものを考えるかというと、まさに先ほど串岡さんの方から人事担当者は分かっていると思いますよというお話があったのは、それは報復の意図があるということだと思うんですね。公益通報をしたことに対する報復的に行われるものであって、なおかつ人格権を侵害するようなもの、これを例えば限定要件として考え得るのではないかと思います。
他方で、立証責任の転換の対象につきましては、先ほどの意見のときに述べさせていただいたように、既に、公益通報該当性、保護要件該当性、不利益性、この辺りの立証の負担を負っているわけですので、それに加えて何らか不当という要件は課さずに、配置転換について立証責任の転換をすればよいと考えております。
○丹野委員 ありがとうございます。
今、立証責任転換の話が出ましたので、そこに引き続いて質問しますが、不当な配置転換に対しての立証責任、これが事業者側にある場合と通報者側にある場合とで、志水先生、これはそれぞれどのような点で違いがあって、どういうところが難しいのか教えてください。
○志水参考人 先ほどの、昭和六十一年の最高裁が今も配置転換の場合の法理として生きているというお話をさせていただいたんですけれども、今、労働者が配置転換が無効であるというふうに争おうとしたときには、その権利濫用の枠組みの中で主張、立証せざるを得ないというところがあります。
業務上の必要性のところで頑張って立証しないといけないというところがあるんですけれども、これを公益通報者保護法の枠組みの中で立証責任の転換の条項が設けられれば、通報を理由としてそういった不利益な配置転換がされたことということが立証責任として転換されてしまいますので、事業者側としては、通常の業務上の必要性としてこれまで認められてきたような、企業の合理的運営に寄与するという、その程度のものでは恐らく足りないのであろう、もう少し具体的に、なぜこの配置転換が必要であったのかということについて事業者側は主張、立証する必要があるのだろうということが一点として挙げられると思います。
あとは、事業者側の主張、立証として別の観点で申し上げますと、体制整備義務をきちんと果たしていて、通報者の情報を従事者のみで共有をして、そういう人事権行使をする部署に共有をしていないという体制がしっかりできている、こういった枠組みをしっかりつくっていくことによって、体制整備義務を貫徹することによって、通報を理由とする人事異動ではないんだよということを反証していくというような流れになっていく可能性があるかと思っております。それは法律の実効性を高めるものにもなって、よいかなと思っております。
○丹野委員 ありがとうございました。
次に、奥山教授に伺います。
奥山さんは、長らく朝日新聞の記者として、多様な観点から取材をされていると思います。なので少し大きな論点で伺いたいんですけれども、ずばり、今回の公益通報とは何かというのをお答えいただければと思います。
○奥山参考人 外からはうかがい知ることができない組織の奥深くといいますか、組織の内部においてなされている不正であるとか腐敗であるとか不祥事であるとか、もし放置していればどんどん悪化していって、行く行くは、外部の人、一般の消費者、あるいは一般の有権者、納税者に迷惑をかける、被害を与えるような、そういう不正の芽、腐敗の芽を、早い段階で、そのことを知ることができる内部にいる人から、コミュニティーの外、事業者内部のしかるべき監査部門であるということもあるかもしれませんし、権限を持った行政機関ということもあるかもしれませんし、あるいは、もっとより広い、報道機関であるとか、そういうことにたけた市民団体であるとか、そういうところであるかもしれませんけれども、内部のコミュニティーからすると外の、それを正すことができる可能性、見込みがある人に対してその情報を伝える、そういうことが内部告発あるいは公益通報ということに当たるのではないかというふうに考えております。
よく密告じゃないかというふうに言われることがあると思うんですけれども、私が考えますに、正当な内部告発あるいは公益通報をする人と密告者は全く異なるもので、内部告発、公益通報する人は往々にして大変な不利益を強いられて、誰のためにそれをするかというと、世の中のため、公のためにする、パブリックのためにするというものであると思います。
これに対して密告者は、どちらかというと、自分の私利私欲、自分の保身であったりとか、自分の、私、利己的な目的で、かつ、パブリックのためというよりも、お上のため、権力、権威のために通報するということであると思います。
独裁的な、あるいは権威主義的な国では、公益通報者、内部告発者は弾圧されて、密告者がはびこる。それに対して、自由な、民主的な国では、密告者は嫌われて、内部告発者、公益通報者は尊敬される。そういうふうな国でありたいというふうに私としては思っています。
○丹野委員 ありがとうございます。
内部告発をした人は、自らの命をもって抗議するという最悪の結果がつい最近も起きてしまいました。また、串岡さんのように報復人事によって本当に人生を狂わされてしまう、そういう方もいらっしゃる限り、告発はやめておこうと思う流れがあると思うんですね。内部告発した人は必ず守られるんだという絶対の担保がないと、この事態は変わっていかないと思っております。
もう一度、奥山教授に伺いたいんですけれども、この法律を不完全ながらも改正していく、この先に、絶対の担保というか、公益通報者が密告者ではなくて、公益通報者が正しい気持ちでしっかり守られるんだというのが法律の改正の先にあるのか。それとも、我々がもっと見落としている何かほかの大事なものがあるのか、価値観であったりとか。その辺はどのようにお考えでしょうか。
○奥山参考人 法律のみによって公益通報者が守られるというわけではないと思います。法律だけではなくて、例えば、政治的、社会的、あるいは世論のバックアップとか、あるいは御本人の心の安寧、自分は正しいことをやっているんだという確信を自分に対して持てるとき、それは心の安寧を得ることができるのであろうと思います。そういう総合的な結果として、ちゃんと自分の考えることが果たされた、正義が果たされた、自分も守られたというふうに感じるということが望ましい形なのであろうと思います。
そういう一助として法律があって、その法律というのは、今回、改正法案が今出ておりますけれども、それだけでは多分、もしかしたら不十分である。その後も不断の見直しといいますか、山本先生からも先ほどありましたけれども、漸進主義的といいますか、少しでもよりよいものにしていくということを、たゆまざること、続けていくということが大切なのかなというふうに思っております。
○丹野委員 ありがとうございます。
時間になりましたので質問を終わりますけれども、本当に、法律だけではなくて、こういった様々な議論も、機運も必要かと思っておりますので、続けたいと思っております。
ありがとうございました。
○浦野委員長 次に、沼崎満子君。
○沼崎委員 公明党の沼崎満子です。
本日は、参考人の方々には、大変貴重なお話をお伺いしまして、ありがとうございます。
今ちょうど、しっかり前に進めていく、そういった話もございましたので、最初に山本参考人にお伺いします。
今、公益通報を介して企業側にしっかり、内部通告であったとしても、その通告を受けたときに、企業努力でそこを改善していくんだ、そういう前向きな機運をつくっていくためにはこれからどういったことが必要になるか。法律の面でも結構ですし、機運を醸成していく、企業にそういった意識を持たせていくためには何が必要かということを御意見をお聞かせください。
○山本参考人 お答えをいたします。
まず前提として、私思いますのは、前の令和二年の法改正時に比べると随分機運が高まってきているのかなというふうに思います。令和二年のときには、先ほど申しましたように、基本的なところでも意見の対立があった。それに対しまして今回は、ここまでというところで、かなり高い方のレベルで意見が合意ができたということがあり、それが一つ、企業側の機運が高まったということの表れかなというふうに思います。
それを更に高めていくためには、やはり、公益通報者の保護というのが企業にとっての基本的な装備である、これは国際的にもそうなっているんだということを更に強く意識していただき、また社会でもそのように強く意識するように、今回のこの法案がもし通れば、公益通報者保護法の改正を広く、消費者庁等々あるいは関係の機関が広めて、更に社会全体でそういう機運を高めていくということが重要ではないかというふうに思っております。
○沼崎委員 ありがとうございます。
同様の点について串岡参考人にお聞きしたいんですけれども、恐らく、最初に通報をしようというふうに思われたのは、やはり正義をしっかり訴えていこう、不正を正していこう、そういう思いからであったのではないかというふうに私想像しますけれども、結果的に非常に不当な扱いを長年受けたということで、そこに関して、冒頭のお話というのが私は非常に印象的に思いました。
現状で、そうはいっても、法律でやはり通報者の保護を、しっかり守る点に重きを置いてほしいんだ、それとも、御意見の中で、そういったことをしっかりやっても、やはり企業側にはそこの機運をつけていくのは非常に難しいんだ。どういう御意見をお持ちなのかというのを、現在の心情も含めてお聞かせください。
○串岡参考人 とてもありがとうございます。
我々はいつも誤解を受けることがあります。私を支援してくれた人たち、大変ありがたく思っておりますが、私は決して自由主義経済がよくないと言っているわけではないわけです。自分自身はとても保守的な人間だと思っております。だけれども、独禁法というのは経済憲法であり、自由主義経済を守る礎だと思って、競争社会でなければならないと思っているんですけれども、こういうふうに人生を送らざるを得なかったんです。だから、次の人には絶対送ってもらいたくないと、先ほどから度々申し上げているわけです。
だから、この法律、まだまだ多くの改正点がありまして、もっともっと時間をいただいて何回も議論をさせていただければとても助かるんだなと思いながら、先生の御意見を聞いておりました。
私は、内部告発というのは、やはり良心を至上権とする行為だと思うわけですよ。だから、自分は辞めさせられる理由がないんだ、本当は辞めるべきはあなたなんじゃないかという思いを常に持ちながら、今日まで会社を辞めずに、最後に裁判になって、曲がりなりにも勝訴をいただいた。
余り答弁になっていないかもしれませんけれども、そういう気持ちでおります。
○沼崎委員 ありがとうございます。
是非、通報した方の意思がしっかり反映できるような、そういう社会機運ができるような、そういった法律にこれからも改善をしていきたいなというふうに私自身は思っております。
そういう中で、機運をつくるというのはメディアの力というのが非常に大きいと思いますけれども、その点に関して、奥山参考人に御意見をお願いいたします。
○奥山参考人 おっしゃるとおり、内部告発者、公益通報者がいかに社会のために役立ってきたかということを一般の人に知っていただくということは、とても大切なことだというふうに思っております。
多くの報道機関では、取材源の秘匿という原則がございまして、かつ、公益通報者、公益通報を端緒として取材、報道しているということを事業者側に伝えると、どうしても通報者の探索を誘発しかねない、そういう配慮もございまして、あえてその端緒が内部告発、公益通報であるということを伏せた形で報道するということが多くあります。
そういう事例を多々知っておりますので、恐らく、世の中の人に見えている報道の表面以上に、実際には公益通報者が社会の不正を正すということに役に立っているという実態があるということをよく知っておりますので、そのことをどういうふうにして世の中に伝えていけるのか。もし可能ならば、公益通報者のもたらした情報によってこの報道は可能となり、それによって世の中の不正が幾分か正されたということをできるだけ示すということも必要なことなのかなというふうに思っております。
○沼崎委員 ありがとうございます。
これからの議論を進めていく上での示唆があればというふうに思って、質問をさせていただきました。
ちょっとまた違う観点で質問させていただきますけれども、今回の改正で、フリーランスの方に関しても通報者の範囲が拡大になっていますけれども、先ほど土井参考人の方から、ほとんど、個人事業主さんが非常に商工会の方で多いということもありましたけれども、個人事業主、あるいはこういったフリーランスの方、そういう取引関係がある中では、特に、公益通報者保護法を適用するに当たってこういった点は注意が必要だとか、こういう部分は考えていかなくてはならないという点を、土井参考人と、あと志水参考人の方から御意見をお伺いしたいと思います。
○土井参考人 お答えいたします。
フリーランスという言葉が最近主流でございますが、基本的には、個人事業主は、いろいろな形で自分よりも大きい企業なりと契約をして、いろいろな業務を担っていて、その中で発注元の不正というのを知る機会というのもあろうかと思います。
それにおいて、これを公益通報として、発注元の窓口というのも設置をされている場合もございますし、それが対象になっていない、外部からのものはその会社の窓口では受け付けていないといったようなこともあると、そうすると、二号通報というか、所管官庁とかにしなければいけないといったところですが、正直、我々の会員を見ていても、なかなか、この法律を正確に理解して、自分はこの場合だったらどこにその不正を言っていけばいいのかなといったところ、あるいはそれについて助言をいただける方というのが間違いなく必要だろうなと思っております。
我々としても、立場としては、自らの体制整備を推進する立場でもありますし、一方、個人事業主の方には、そういった場合にこういうことがあるよといったことについては引き続き周知徹底を図るといったことと、必要があれば商工会としても助言をしてまいりたいと思っております。
以上でございます。
○志水参考人 ありがとうございます。
先ほどの土井様のお話とも少し重なるんですけれども、フリーランスの方というのは、社内に常にいらっしゃる方とは異なりますので、対象になったということですとか、窓口がここに設けられているとか、内部の規定、フリーランスからの通報を受ける規定がどうなっているということについて情報がすぐに行かない可能性がございますので、その周知の手段というのをよく考える必要があるかと思います。
また、労働者以上に身分保障が弱い立場にある方たちですので、より一層、範囲外共有の禁止、要は、通報者を特定する情報を守るということを一層やる重要性が高いのではないかと考えております。
ありがとうございます。
○沼崎委員 ありがとうございます。
中小企業さんに関しては、先ほどのお話の中でも、体制整備をつくっていくのは非常に難しいという御意見もありました。
その中で、外部窓口、そういった対応ができる機関というのも、これから公益通報者保護法がしっかり実効性を担保していくためにも必要かなと思いますけれども、そこを確保していくための法整備というのはどういったことが考えられるか、山本参考人にお聞きしたいと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
先ほどADRの話がございました。それから、現在あるものとしては、労働局関係の機関というのがございます。こういったところを更に拡充していく、それから、どういった相談ができるかということをしっかりと示していくということが重要ではないかと思います。
法制度化というところに行きますと、恐らく、そういった下地がないと、なかなか制度だけをつくっても難しいということがあるかと思いますので、まずはそういった基盤を充実させていくということが重要かなというふうに思っております。
○沼崎委員 大分時間も迫っておりますので、最後の質問にしたいと思います。
しっかり皆さんに機運が醸成していくということは私は非常に大事だと思っていますので、そこを重ねて申し上げるのと、公益通報がどういうものかと先ほど御質問の中にもありましたが、今、SNSであったり、インターネット上の口コミであったりとか、あとは、いわゆる紹介業者さんに対する通報、ここの業者は余りよろしくない、こういった不正があるよ、そういったことを通報するとか、そういったことも今後は公益通報として取扱いをしていくべきなのかどうか、その点についてのお考えを、引き続き山本参考人にお伺いいたします。
○山本参考人 お答えをいたします。
やはり通報先によって、対応の仕方あるいは対応できる能力がいろいろ違うということがございますので、もしそういうことを考えるといたしますと、どういった通報が保護されるかという要件のところからもう少し細かく考えていかないといけないのかなというふうに考えております。
現在、先ほども話がありましたけれども、一号通報ですとかなり要件が緩やかで、三号通報ですとそれよりも厳しくなっているわけですけれども、そのような形で、もし広げるとすると、保護されるための要件であるとか、あるいはどういったことをすれば保護されるのかというところをしっかり議論していかないと、事業者の側にかなり大きな不利益が発生してしまうという可能性がありますので、注意をする必要があるかと思っております。
○沼崎委員 ありがとうございました。
私自身、公益通報者の方の思いというのを今日はしっかりお聞きすることができましたので、引き続き、本当に大変な思いをされたんだということをしっかり私も心に留めて、保護ができるように尽力してまいりたいと思います。
大変にありがとうございました。
○浦野委員長 次に、たがや亮君。
○たがや委員 れいわ新選組のたがや亮です。
参考人の皆様、お忙しい中、貴重な御意見をありがとうございました。
私が商売を始めたのが一九八八年、当時は、二十四時間働けますか、そういうCMがはやったり、私は飲食店をやっていましたので、どこどこの大手企業の某本部長が来ると、大名行列のように部下がぞろぞろとついてくる、嫌々その部下がついてきて、その愚痴を聞かされたりとか、そんな時代から比べると、こういう公益通報者保護法という法律ができたというのは、時代も大分変わってきたなというふうに感じております。
だけれども、やはり、やり過ぎると企業は萎縮してしまう、緩過ぎると労働者の権利も守られないというところで、なかなか難しい問題ではあるんですけれども、言えることは、真水に魚はすめないし、毒水にも魚はすめないということですので、そのバランスというのを、しっかりとこの公益通報者保護法の精度を高めていかなきゃいけないんだなというふうに感じております。
前置きが長くなりましたが、質問に入ります。
最初に、山本参考人、志水参考人、奥山参考人にお伺いをします。
公益通報を理由とする配置転換について、刑事罰の対象とする不当な配置転換では、何をもって不当とするのかということが客観性を欠く評価が入るおそれがあり、刑事罰の要件として厳格に定める必要があるとこの問題に詳しい弁護士さんから聞いておりますが、刑事罰の対象にすることで、不当な配置転換が今回の改正に入らなかったのなら、民事の場合に、要件の緩やかな、不利益な配置転換として事業者側に立証責任を負わせるという方がいいのかなと思うんですけれども、これは可能かどうなのか、教えていただければと思います。
○山本参考人 お答えをいたします。
先ほど来の配置転換の問題というのは、今回の検討会において恐らく最も議論した部分かと思います。非常に難しい問題であるというふうに考えております。
立証責任に関しましては、今回、事業者側に負わせるということになりますと、非常に判断が難しい問題であるだけに、影響が大きいというふうに考えました。ただ、立証責任に関しましては、要するに、通報を理由とするものなのか、そうでないのかがはっきりしないときに、どちらに判断するのかという問題で、事業者側に証明責任を負わせるということになると、これは通報を理由にしたものだというふうに判断することになりますし、現状はそうでないわけですけれども、そうすると、よく分からないというときには、これは通報を理由にしたものではないというふうに判断するということです。
そのように、非常に、段階のある話ですので、もし懲戒とそれから解雇について証明責任を転換するということになりますと、配置転換の場合にも、恐らく裁判所としてはかなり慎重に判断することになるだろうというふうに思います。
つまり、通報があってそのようなことが、配置転換が行われたということになると、これは通報を理由とするものではないかどうかというのを従来よりはやはりかなり慎重に判断することになるということを、私たちとしては期待しているということです。ただ、転換するということになると、そこまでいくとかなり影響が大きいという判断をしたということでございます。
○志水参考人 御質問ありがとうございます。
まず、裁判上、立証責任を負っている側というのは、先ほど山本先生のお話にもありましたけれども、立証責任を負う側は、裁判所にその事実の存在又は不存在を確信させるように、高度の蓋然性を持って証明をする必要性があるということになっております。立証責任を負わない場合は、その事実の存在について、真偽不明に持ち込めば立証は成功するという形になっております。
公益通報を理由とすることの立証責任が通報者にあるのか、あるいは事業者にあるのか、いずれの場合においても、だから事業者側に転換した場合においても、事業者側は、反証に成功すれば、公益通報を理由とすることではないということの認定が得られるわけなので、そこは、先ほど冒頭の意見のときに申し上げさせていただいたように、現状の通報者側が負っている立証の負担と、あと情報の偏在、これを考えたときには、立証責任は転換すべきであるというふうに考えております。
○奥山参考人 刑事責任ということになりますと、捜査当局において、強い権限を背景にして、事業者内部の情報を得ることが、資料を得ることが可能となるかと思います。その結果、公益通報を理由とした不利益扱い、あるいは不当な不利益扱いなのかどうかということについて、検察官で、ある程度、相当事実を、事案を解明して判断するということができる。その結果として、はっきりしない、そこまでは確認が取れないという場合は嫌疑不十分なりで不起訴にするというのが運用になるであろうというふうに思います。
他方、民事裁判における立証ということになりますと、そういうふうな強い権限が原告側にないがために、事業者内部で一体報復の意図があったのかどうなのか、実際に行われている人事異動を見ると、配置転換を見ると明らかに不当な意図がありそうに思えるけれども、そういう場合にどういうふうに裁判所が判断されるかというところで、立証責任の転換の必要性が強く認識されているのではないかというふうに思います。
○たがや委員 ありがとうございます。
次に、土井参考人と志水参考人にお伺いします。
一号通報を行う際に、会社内窓口があったとしても機能しづらくて、事業者側が外部の弁護士などに窓口を委託する場合がありますが、事業者が直接依頼するので利益相反のおそれがあり、大手企業でも弁護士が逮捕された事例もあり、通報者を保護し切れず、ハードルが上がったままというのが現状だと思います。
実効性を高めるために、会社が直に弁護士に依頼するのではなくて、三百一人以上の事業者よりも、より小さな規模の事業者も、紛争前のADRをイメージした、ADRは通常は紛争後ということですが、紛争前のADRをイメージした互助会的な第三者機関を弁護士で構成して、各事業者が一定の費用を負担すれば、各事業者が自前で窓口を整備するよりも安価で、公平性も担保できて、透明性の高い仕組みができるのではないかと思いますが、いわゆる国選弁護人のように国も一定の財政的な援助をすれば、企業や通報者の金銭的な負担もかなり小さくなり、更に実効性が高まると考えますが、このような仕組みづくりを奨励するというのはいかがでしょうか。
○土井参考人 お答えいたします。
確かに、三百一人以下というよりも更に小さい規模の企業で、そこで何か不正的な、身近なところで行われていて、通報窓口もその辺で見えるところにあるというと、なかなか正直、そこに言っても駄目だろうといったところもあると思いますし、また一方、先ほど体制の面でも申し上げたとおり、やはり、五百本の法律のどこに該当するのかとか、そういった判断をなかなか、小さい企業の人が受けたとしても、公益通報なのかそうでないのかといったところも判断がつかないというところもございますので、外部にどのような機能を持たせるかについては正直明確な知見はございませんが、外部にそういった相談なり仲裁なりを担っていただく機関というのがあると、あるいは少なくとも相談できるだけでも、大分それぞれの、内部告発者あるいは企業の側としても助かるなといったところでございます。
検討会の中でもそういった議論が行われて、私、検討会の方にヒアリングに来ていただいた弁護士会の方に、弁護士会の方はそういう機能を担えるものでしょうかといった御質問をしたんですが、その場ではちょっと明確な御回答はなくて、検討しますというお話だったんですけれども、そういった形で、中立な立場で携わっていただける方がいらっしゃるというのは双方にとって心強いのではないかと考えております。
○志水参考人 御質問ありがとうございます。
内部通報窓口の外部窓口を弁護士会のようなところが互助会的に担ってということの構想でよろしかったでしょうか。(たがや委員「国選弁護人とかも」と呼ぶ)面白い御提案であろうかなと思っております。
現状で外部窓口サービスを行うような事業者の方というのはいらっしゃるんですけれども、先ほど、土井様の少し前の御発言の中でも、費用が一定程度、それなりの金額がかかってしまうので、規模が小さいとどうしても導入するのが難しいというお話があったかと思います。
それが、弁護士会が各地にございますので、そういったところに、場合によっては予算的手当てもなされるような形で、そういう互助会的な、互助会ですと何口とかで入るのかもしれないですけれども、やや予算的に緩和されたような形で、システムとして入ってくると、そういう内部通報窓口の外部窓口ということで、信頼される窓口であり、かつ法律の知識を持った者が対応できるもので、面白い御提案であろう、前向きに検討すべきものではないかというふうに感じました。
ありがとうございます。
○たがや委員 ありがとうございます。
なかなかやはり、窓口を設けるというのはハードルが高くなるということで、しっかりと国が少し援助して、ADRというのは今は弁護士が無償でやるケースもあるというのを聞いているので、しっかりと国がサポートしてもいいんじゃないのかなというふうに思いました。
次の質問で、山本参考人、志水参考人、奥山参考人に伺います。
この法律は、公益と名がついていながら、その対象は限定列挙されており、世間一般の公益の概念とかけ離れていると思います。例えば、昨今問題になっている政治資金規正法や公職選挙法は五百五本の対象法律に入っていません。これでは政治家に自浄作用が働かないと思いますが、公益通報者保護法の対象となる事実の範囲を政治や行政にも拡大した方がよいと思いますが、参考人の皆さんはいかがでしょうか。御意見をお伺いします。
○山本参考人 お答えをいたします。
現在の公益通報者保護法は、国民の生命、身体、安全等を保護する、そのためにということが目的となっております。もし政治あるいは行政そのものというところになりますと、かなり目的が変わってくるということになりますので、それは十分な検討が必要になるかというふうに考えております。
確かに、現在の列挙法律が、それ自体十分かどうかということは検討する必要があるかと思いますけれども、考え方をそこまで広げるということになりますと、やはりかなり検討すべき課題が増えるのではないかというふうに考えております。
○志水参考人 現在の公益通報者保護法では、対象法令が、国民生活の安全、安心に関わるような法律、法の直接の目的とする法律に限定されてしまっているかと思います。ではあるんですけれども、実際、法律というのは、直接の目的とすることだけに寄与するわけではなく、間接的に国民の生活の安心、安全に関わっている法律というのはたくさんあるわけですけれども、直接の目的になっていなければ別表からは外されているという形であろうかと思います。
そういった、間接的にも国民生活の安心、安全に関わっている法律について今後広げていくようなことということは必要ではないかと考えております。
○奥山参考人 政治資金規正法違反については、法律の目的が、国民の不断の監視の下に政治資金の流れを置くというところが目的で、ある意味、国民が当事者として参画することが予定されている法律だと思いますので、公益通報者保護法の対象法令に含めてもいいのではないかというふうに私としては思いますけれども、そのほかの、例えば税法であるとか、あるいは特定秘密保護法であるとか、あるいは入国管理法であるとか、そういう国家の行政目的のための法律について、その違反を通報対象事実に含めるということになりますと、この法律の性格、国民の、パブリックの利益に資するというところをこの法律、公益通報者保護法は目的としているわけですけれども、性格がちょっと国家寄りになるというところがいいかどうかということは非常に難しい問題だなというふうに考えます。
○たがや委員 ありがとうございます。
やはり政治というのは生活といいますから、生活そのものなのでやはり消費者に資すると思いますので、政治、行政もしっかりと公益通報者、その枠組みに入れるべきだというふうに思います。
お時間が来たので終わります。ありがとうございました。
○浦野委員長 次に、本村伸子君。
○本村委員 日本共産党の本村伸子と申します。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
まず、串岡さんにお伺いをしたいというふうに思います。
国民、住民の皆様のために闇カルテルを告発をされ、こうした公益通報を行ったことによって長年不当な配転や嫌がらせを受け続けてこられた、それに対して不屈に闘われてこられた、その勇気ある行動が今のこの公益通報者保護法に結びついた、社会に対して貢献をされてこられたということを、本当に心から敬意と感謝を申し上げたいというふうに思います。
最初のお話で、途中でお話を切ってしまわれ、時間の関係で切られたと思うんですけれども、後半部分でお話をされたかったことを是非お聞かせいただきたいというふうに思っておりますし、暴力団からの退職の強要も行われたというふうに判決の中でも判断をされているわけですけれども、こういう会社の嫌がらせ、人権侵害、どのようなものがあったのかということを改めてお伺いをしたいというふうに思います。
○串岡参考人 ありがとうございます。
暴力団の脅迫を受けました。家族に迷惑がかかりましたので、ちょっと涙が出そうになるようなことでありました。
一九七九年、暴力団の脅迫を受けたときに、翌日、休みまして、すぐ富山県警へ行って、暴力団の方を見ました。そこにはありませんでした。そのほかにこれの被害を受けている人がおりまして、その人を教えてくれる人がおりまして、魚津警察署へ行きました。それで、魚津警察署で私の方に脅迫をした人間を特定できました。
どんなふうに警察はするかというと、三人の人を二枚ずつ、横顔と正面の写真を出すわけです。私は即、この人だということで、それで警察の中で特定をしたわけです。それで暴力団だということを特定したわけなんですけれども、証拠の面でなかなか警察に告発できなかったんです。
そういう現実があったとき、朝日ジャーナルというのは、皆さん、ここで御存じの方、おられますでしょうかね、今、廃刊になってしまいました。そこで、私の手記の中で、暴力団の、苦痛を受けたと言ったら、やはり会社は簡単に否定するわけです。それで、裁判を行って、再びその状況を書いてやっと認められる、暴力団を使ったんだということが認められたのは、判決に至って、一九七九年から二十六年後であったということです。それだけ、今でもその人間の年月日、あれをぱっと言えるほどであります。こういうたった一人の、暴力団の脅迫を受けたことでも、二十九年、本当にかかったんだと。
いろいろな人に相談をして、一つ先輩の警察官にも相談しましたけれども、俺たちだって、あれが犯人だと分かっていながら、夜も眠れないでというふうに、警察官魂の人で、とてもいい人だったんですけれども、いろいろ警察でのいじめで自殺されてしまいましたような人だったんですけれども。
そんなことがありましたり、どんなことがありましたかというと、まだ申し上げますと、一杯飲む会を開け、私は酒とたばこは一切飲めない、酒は飲めないんですけれども、そういった会を開け、それで串岡の悪口をうんと言えと。そうしたら、串岡に殴らせろ、殴ったらすぐ警察に来てもらって逮捕できるから、それで懲戒解雇できると。こういうことを打診された人がおりまして、それを本人からも後々聞きました。
ですから、そういう様々なところから、今思いますと、よく自分自身、会社に残った。残るもイバラの道、辞めるもイバラの道で、そんな内部告発者をまた温かく迎えてくれるのは当時は全くないと思いましたので、そういう現状だったと思います。今、そういう思いですから、この公益通報者保護法をしっかりしたものに改正してもらいたいという気持ちは非常に強いと思うわけです。
この辺、まだいろいろなことを受けましたんですけれども、三十年もありましたから。今、ちょっと、つい涙を流すのは、女房に悪かったな、申し訳なかったな、こういう思いが非常に強いからであります。この前もテレビで申しましたけれども、生まれ変わったらもう少しエリートと結婚した方がいいよという思いは非常に強い。今、こういう年になりますと、甚だ女房には申し訳なかった、内部告発をしたことによって、家族全員、いろいろな苦悩を受けたという気持ちは非常に強い。
申し訳ありません。それでよろしいでしょうか。
○本村委員 本当に壮絶で、御家族も御苦労されたと。そういう思いを二度とどなたにもさせないように、私たちが国会として立法措置をしなければいけないというふうに痛感をしております。
先ほども志水さんから御紹介がありましたように、一九八六年の配転に関する最高裁判決ですけれども、串岡さんの場合はかなり明らかな配転命令権の濫用であるというふうに思うんですけれども、せめて、この明らかな配転命令権の濫用の部分だけでも、今回の罰則や立証責任、これを事業者に転換をするべきだというふうに思うんですけれども、ここでさえ、こういう明らかな分かりやすい事例でさえできないのかという点について、五人の皆さんにお伺いをしたいというふうに思っております。
○山本参考人 お答えをいたします。
先ほど申しましたように、この点、一番難しい問題であるというふうに認識をして議論をいたしました。
本当に明らかであれば、これは立証責任の問題にならず、もうこれは不利益取扱いだということになります。そこがやはりはっきりしないときにどうするかというところで、先ほど申しましたように、立証責任の転換ということまでするのはなかなか難しいだろうと。
ただ、今回、解雇と懲戒について立証責任を転換したことによって、配置転換等についてもやはり裁判所の認定は厳しくなるのではないかということを考えておりますし、実際に判例上どういうふうになるかというのは、これは裁判所の判断ですので、私がここで申し上げることではございませんけれども、そのような方向になることを私としては期待しているということでございます。
○土井参考人 お答えいたします。
問題としては、配置転換という一般的に行われている行為について、それを行った時点では、それが不当かどうかということはやった事業者の側では判別できないといったことがございます。結局、裁判になってみないとこの不当性というのはなかなか分からないということになると、やはり、じゃ、仮になったときにどういう準備をしようかといったところで負担が増えるのではないかといったところでございます。
詳細に要件が定義できるということであれば検討に値するとは思いますが、やはり、実際に行う前に、これはまずい、こういう異動はまずいというような形がはっきり分かっていれば、事業者としても対応の余地はあるのかなと考えております。
○串岡参考人 私はやはり、思うに、人事行為を行うのは会社側にあるわけです。そのいろいろな負担というものは、訴えた側、一個人で内部告発をする場合は、集団で労働組合が内部告発をするということはないわけですから、一人の人間が会社と対峙しなきゃならないというようなときは、会社側にその挙証責任を負わせなければ、個人に挙証の責任を負わせることは甚だ困難である、裁判を行うのも困難である。お金もないので、私も三百万円ぐらいでしたから、法律扶助をつけてやっと裁判を受けたので、長い間裁判を行おうと思ったのは、このときしかないと思って裁判を行ったんですけれども。
そういう意味からも、人事権というのは広範にあるわけです。広範に人事権を持っているんだということを会社側は主張するし、多くの場合そうだと思うんですけれども、そうであってみれば、広範な人事権を持っているなら、なおさらそれを濫用してはならないんだということです。濫用した場合に、個人の方に余りにも負担が多過ぎるのが現実であるということでありますから、それはしっかりとしなきゃならないと思うので、仮に裁判になったとしても、先ほど言ったように陪審員制度がいいのではないか。
あるいは、裁判を行ったときに、その裁判を行っている人間が破産してしまってはどうにもなりませんので、アメリカの法律あたりでも、途中で内部告発者の裁判については援助をするというようなこともあるので、そういういろいろなことを考えていただければありがたいなと思います。よろしく。
○志水参考人 串岡さんのような事例について、配置転換であるとしても、やはり刑事罰相当のことをされているというふうに考えます。対象にすべきであると考えます。
配置転換の立証責任の転換に関しましても、労働者側からすると明らかに不利益なことをされている、追いやられているというふうに思われる事案であっても、先ほどの串岡さんのお話にありましたように、人事裁量の材料は全て事業者側にありますので、一見明らかに見えたとしても、裁判で闘うのは本当に至難の業でございます。
オリンパスの浜田さんの事案でも、一審では敗訴していらっしゃいます。後で、控訴審、上級審でひっくり返されておりますけれども、そうはいっても、闘うことがいかに難しいかということを表しているかと思います。ですので、やはり立証責任の転換ということが必要であると考えます。
○奥山参考人 公益通報を理由とする違法な嫌がらせについては、例えば、刑法の強要罪を適用して被疑者を検挙するというふうな事例が近年はありました。
先ほどの串岡さんのような事例は、まさにそういう対象にもできたのであろうというふうにも思われますけれども、近年そういう裁判例が表れてきたのは、やはり公益通報者保護法が規範として世の中に浸透したということが、捜査当局、検察当局あるいは裁判所の、強要罪を適用するということの背景にあるのではないかなというふうに考えています。
串岡さんが受けたような、そういう明らかな違法な配置転換、権利濫用の配置転換、あるいは嫌がらせ、そういうものについては、刑事罰の対象にするということは十分に考えられるところではないかというふうに考えます。
もちろん、立証責任の転換についても、転換するまでもなく明らかという事例ではあるのですけれども、立証責任の転換が法規定として嫌がらせであるとか配置転換にもあることによって、事業者の慎重な対応を促すということにもつながるのではないかと思います。
○本村委員 時間がもう終わってしまったんですけれども、本当に貴重なお話、ありがとうございました。しっかりと串岡さんの御提言を胸にしながら、抜本的な法改正を求めて私たちも頑張りたいというふうに思っております。
皆さん、本当にありがとうございました。
○浦野委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。
この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。
参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。
次回は、明二十三日水曜日午後零時五十分理事会、午後一時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
午後零時五分散会