医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
一 緊急承認された医薬品等について、当該承認後に改めて行う承認申請に当たっては基本的に検証的臨床試験の成績の提出を求めるとともに、当該承認時に付された期限の延長は原則として一年間の延長が一回限りとなるよう運用し、当該承認時に認められた安全性、有効性等が確認できない場合には速やかに承認を取り消すこと。
二 緊急承認制度の運用における透明性、公平性を確保するため、審査報告書や審議会議事録の早期公表、承認済みや開発中の医薬品等の情報開示や情報発信に努めること。
三 緊急承認制度により承認された医薬品等の市販後の安全対策を徹底するため、製造販売業者による安全性監視計画の設定、徹底したリスク管理、安全性についての情報収集及び収集した情報の専門家による迅速な評価を実施すること。
四 緊急承認制度により承認された医薬品等の副作用、副反応による健康被害が生じた場合には、当該健康被害の情報を速やかに開示するとともに、医薬品副作用健康被害救済制度の対象となることを確実に周知すること。
五 電子処方箋については、早期に全ての医療機関、薬局等において導入されるよう、システムの導入を支援するとともに、医療機関や薬局に過度な負担とならないよう必要な配慮を行うこと。
六 重複投薬の防止等の電子処方箋導入による効果を十分に発揮できるようにするため、電子処方箋の意義、効果を国民に周知するとともに、マイナンバーカードの健康保険証利用の促進に向けた措置を講ずること。また、国民が広くマイナポータルで処方内容を確認できるようになるまでの暫定的措置として行う紙の処方内容の控えの交付を終了するに当たっては、マイナンバーカードを利用しない患者が処方内容を確実に確認できる方策を講ずること。
七 国民が自らの保健医療情報を把握できるようにするとともに、医療機関が連携して質の高い医療を提供できるようにするため、標準規格に準拠した電子カルテの普及促進に向けた医療機関への財政支援等を講ずることにより、電子カルテ情報についても医療機関間で共有できるよう仕組みを速やかに構築し、データヘルス改革を一層推進すること。
八 国民の健康づくりにつながる新たなサービス創出のため、パーソナル・ヘルス・レコードの取組を推進するとともに、オンライン診療やオンライン服薬指導を含め、患者の利便性向上に寄与する保健医療分野におけるデータの利活用やデジタル化等のデータヘルス社会の実現に向けた取組を推進すること。
九 薬事承認制度が製薬企業からの申請に基づくものであることを踏まえ、製薬企業の研究開発支援、申請時の企業負担の軽減、治験等の手続の簡素化、企業相談の実施その他の製薬企業の薬事承認申請を促進するとともに、緊急時には国が主導して医薬品等を確保する仕組みを検討し整備するための措置を講ずること。
十 国内外の創薬イノベーション基盤強化のため、臨床研究中核病院間のネットワーク形成による効率的な治験データ収集体制の構築、国際共同治験実施のための現地人材育成、臨床研究及び治験ネットワーク構築並びに拠点整備支援等の国内外における治験環境の整備拡充その他の官民におけるデータ利活用の環境整備、薬価制度上の創薬イノベーションの適切な評価を実施すること。
十一 医薬品等による副反応疑い報告制度の運用において情報不足により評価不能とされる事例の割合が多いことを踏まえ、副作用や副反応を疑う症状が発生した場合における健康被害調査の充実、当該症状を訴える患者に対応できる医療機関の紹介その他の当該症状に悩む者への支援を充実すること。また、健康被害救済制度に関し、厳密な医学的因果関係までを求めない健康被害の救済を確実に実施するとともに因果関係を証明するデータが不足する場合における救済や支援について諸外国の制度を含め情報収集し、検討すること。
十二 医薬品等の市販後の安全対策を充実するため、患者自らが医薬品の副作用、副反応が疑われる事例を報告できる仕組みについて、報告方法の改善、当該報告に対するフォローアップの拡充、添付文書の改訂等の安全措置への反映その他の当該報告の活用、予防接種の実施状況と副反応疑い症状の発現状況等を個人単位で連結して報告、把握するシステムの整備、予防接種の安全性等に関する調査を的確に行うためのデータベースの整備を実施すること。
十三 国内におけるワクチン、治療薬の開発、生産体制確立のため、治験費用や薬事承認に係る費用の補助、治験や臨床研究に関する国民の理解の増進、医療系ベンチャー企業の育成等の医薬品等の研究開発から実用化までの各段階を総合的に支援すること。
十四 疾病の治療又は予防に関し使用価値を有する医薬品について、特に緊急時に医療上の必要が認められた場合に、当該疾病に関する学会等の意見を参考にして当該医薬品を優先かつ迅速に承認する制度の活用について検討を加えるとともに、国民の生命及び健康の保護の観点から必要不可欠な医薬品、医療機器及び再生医療等製品の国内における生産体制の整備及び研究開発の推進のための施策について検討を加え、これらの結果に基づいて必要な措置を講ずること。
十五 自宅療養者等の病状等に応じて着実に健康観察や必要な医療を提供するため、日頃から患者のことをよく知るかかりつけ医が自宅療養者等の健康観察や緊急承認された治療薬の適切な投与等の医療提供を実施できるよう、オンライン診療拡充の支援、感染症対策に係る知識の普及及び医薬品、衛生用品等の提供、その他のかかりつけ医等が自宅療養者等に感染の前後を問わず対応するための体制整備に努めること。
十六 緊急承認された医薬品等が迅速かつ確実に自宅療養者等に届けられる環境の重要性に鑑み、日頃から患者のことをよく知るかかりつけ医により自宅療養者等が迅速かつ確実に医療を受けることが望ましいことを踏まえ、高齢者や基礎疾患を有する者等が感染時にかかりつけ医等による医療を迅速に受けられるよう、往診やオンライン診療が可能な医療機関の事前確保その他診療・検査医療機関や健康観察・診療医療機関の拡充を行うこと。
十七 コロナ死亡者のうち高齢者の占める割合が高いことを踏まえ、施設に対する感染制御・業務継続支援チームの迅速な派遣体制の構築、医師や看護師の往診・派遣、その他の高齢者施設等における医療支援体制強化、自宅での医療提供体制強化を推進すること。
十八 コロナ治療薬の供給における課題や感染急拡大時にマスク、検査キット等の医療物資供給不足が発生したことを踏まえ、感染症発生時における医薬品、医療機器、衛生用品等の必要数量の予測から、確保、配布までの総合的な供給体制を整備すること。
十九 かかりつけ医機能の明確化と、患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について迅速に検討するとともに、コロナ禍において自宅療養者等への医療提供に課題が生じたことを踏まえ、コロナ医療対応を強化するためのかかりつけ医への支援等により、高齢者、基礎疾患を有する者等へのコロナ医療に対応するかかりつけ医が増加するよう、かかりつけ医の有効活用の推進を含め、必要な措置を講ずること。