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   令和三年度畜産物価格等に関する件

 

我が国の畜産・酪農経営は、畜産クラスター等の地域の関係者が一丸となった取組の成果として、乳用牛、肉用繁殖雌牛の飼養頭数が増加に転じる一方、担い手の高齢化、後継者不足は深刻さを増しており、特に、中小・家族経営においては経営継続の危機にさらされている。こうした事態に対応するため、新たな酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針を踏まえた生産基盤のより一層の強化や次世代に継承できる持続的な生産基盤の創造が急務である。また、規模の大小を問わず、生産者の生産性向上等を強力に支援するとともに、より多くの若手が就農を目指す魅力ある労働環境を構築することが重要な課題となっている。

このような中での新型コロナウイルス感染症の拡大は、畜産・酪農経営に大きな影響をもたらしている。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)等のEPAが発効、締結又は署名され、我が国の畜産・酪農の将来に対する懸念と不安を抱く生産者も多い。

よって政府は、こうした情勢を踏まえ、令和三年度の畜産物価格及び関連対策の決定に当たり、左記事項の実現に万全を期すべきである。

                 記

一 新型コロナウイルス感染症による畜産・酪農経営への影響を克服するため各種支援策を強力に実施すること。また、新型コロナウイルス感染症の影響により乳製品在庫が高水準にある中、酪農経営の安定と牛乳・乳製品の安定供給の確保が図れるよう、非需要期における国産乳製品の需要拡大等の取組に対し、機動的な支援を講ずること。さらに、近年頻発する大規模災害に対応するため、飼料穀物の備蓄をはじめとする配合飼料の安定供給のための取組や施設での非常用電源設備の導入を支援すること。

二  高病原性鳥インフルエンザ、豚熱の感染拡大防止は、現下の家畜伝染病の防疫上、最重要課題である。そのため、各種対策を強力に推進し、農場における飼養衛生管理基準の遵守の徹底を図り、感染リスクを低減させる取組を支援すること。また、高病原性鳥インフルエンザ等の発生農場及び移動・搬出制限を受けた農家に対する万全の支援を行うとともに、風評被害対策に万全を期すこと。アフリカ豚熱については、水際での防疫措置を徹底すること。これらの措置を着実に進めるため、地域の家畜衛生を支える家畜防疫員や産業動物獣医師の確保・育成を図ること。

三  環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定(日EU経済連携協定)、日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定(日米貿易協定)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定等が、我が国畜産・酪農経営に与える影響について、統計データ等を常に注視し、分析を行い、これを公表すること。また、新たな国際環境下において、関税削減等に対する生産者の懸念と不安を払拭し、生産者が経営の継続・発展に取り組むことができるよう、実効ある経営安定対策を講ずること。その際、実施した施策の効果を検証し、適宜必要な見直しを行うこと。

四 加工原料乳生産者補給金・集送乳調整金の単価及び総交付対象数量については、中小・家族経営を含む酪農家の意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。また、期中における一方的な出荷先の変更により集送乳の調整に混乱を来す事例は、減少傾向にあるが、適切な需給調整が図られるよう、引き続き、必要な措置を講ずること。

五 肉用子牛生産者補給金制度における保証基準価格等については、中小・家族経営を中心とする繁殖農家の経営努力が報われ、営農意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。

六  中小・家族経営をはじめとした地域の関係者が連携し、地域一体となって収益性の向上を図る畜産クラスター等について、引き続き、現場の声を踏まえた事業執行に努めつつ、収益性向上等に必要な機械導入や施設整備、施設整備と一体的な家畜導入等を支援すること。また、乳業工場・食肉処理施設の再編整備、国産チーズの競争力強化に向けた取組等を支援すること。

七 酪農経営、特に中小・家族経営にとって不可欠な存在である酪農ヘルパーについては、その要員の育成や確保・定着の促進のための支援を行うとともに、外部支援組織の育成・強化を図ること。また、ロボット、ICT、IoT、AI等の新技術の実装を推進し、生産性向上に加え労働負担の軽減等を図るとともに、次世代を担う人材を育成・確保するための総合的な対策を実施し、既存の経営資源の継承・活用に向けた取組を強力に支援すること。さらに、畜産GAPの普及・推進体制の強化を図るための指導員等の育成やGAP認証取得等の取組を支援すること。

八 家畜のストレスや疾病を低減し、畜産・酪農の生産性や畜産物の安全性を向上させるため、適切な飼養スペースの確保等、アニマルウェルフェアに関するOIEの科学的知見に配慮した家畜の飼養管理の普及を図ること。

九 資源循環型畜産の実践に向け、家畜排せつ物処理施設の整備や堆肥等の利用推進等の取組を支援するとともに、これらの取組に資する新技術の活用を図ること。

十  家畜能力等の向上を図る取組を一層支援すること。また、家畜改良増殖法及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律に基づき、関係者の長年の努力の結晶である和牛遺伝資源の適正な流通管理及び知的財産としての価値の保護強化を図ること。

十一  輸入飼料に過度に依存した畜産・酪農から国産飼料に立脚した畜産・酪農への転換を推進し、飼料自給率の向上を図るため、優良品種の普及、気象リスクに対応した飼料生産、水田等の活用、放牧を支援するとともに、大型機械による飼料生産を可能とする草地整備等を推進すること。また、畜産・酪農経営の安定に資するよう、配合飼料価格安定制度の安定的な運営を図ること。

十二 国際社会において、SDGsに基づく環境と調和した持続可能な農業の促進が求められていることを踏まえ、地球温暖化防止や生物多様性保全等の環境負荷軽減に取り組んでいる生産者を力強く支援すること。

十三 畜産物の輸出促進を図るため、生産・流通・輸出事業者が連携したコンソーシアムの組織化・販売力の強化や、輸出先国・地域の衛生条件を満たす食肉処理施設の整備等を進めるとともに、国産畜産物の需要の増加に対応できる生産基盤の構築に取り組むこと。

十四 原発事故に伴う放射性物質の吸収抑制対策及び放射性物質に汚染された稲わら、牧草等の処理を強力に推進すること。また、原発事故に係る風評被害対策に徹底して取り組むこと。

 

右決議する。

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