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   令和二年度畜産物価格等に関する件

 

我が国の畜産・酪農経営においては、飼養戸数の減少が続いている。一戸当たり飼養頭羽数は増加を続けているものの、担い手の高齢化、後継者不足は深刻さを増しており、畜産物の安定供給のためには生産基盤の強化が必要不可欠な状況にある。特に、経営継続の危機にさらされている中小・家族経営を強力に支援するとともに、より多くの若手が就農を目指す魅力ある労働環境を構築することが重要な課題となっている。

また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定(日EU経済連携協定)が発効し、日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定(日米貿易協定)が締結される中、我が国の畜産・酪農の将来に対する懸念と不安を抱く生産者も多い。

よって政府は、こうした情勢を踏まえ、令和二年度の畜産物価格及び関連対策の決定に当たり、左記事項の実現に万全を期すべきである。

                 記

一 CSF(豚コレラ)の豚等及び野生いのししにおける感染拡大防止は、現下の家畜伝染病の防疫上、最重要課題である。そのため、野生いのしし対策を強力に推進し、豚等への感染リスクを低減させるとともに、ASF(アフリカ豚コレラ)のアジアにおける感染の拡大を念頭に置き、飼養衛生管理の水準を更に高めるための取組を強力に支援すること。常に、家畜伝染病の脅威を深く認識し、水際検疫徹底を図るとともに、豚等の所有者と行政機関及び関係団体との緊密な連携を確保し、実効ある防疫体制を構築すること。予防的ワクチンを接種した豚等の安全性については、正確かつ適切な情報の提供を行うとともに、不適正な表示に対し適切に指導を行うこと。これらの措置を着実に進めるためにも、地域の家畜衛生を支える産業動物獣医師の育成・確保を図ること。

二 多発する自然災害による畜産・酪農の被害への支援対策を充実・強化すること。特に、被災した機械・畜舎の再建・修繕・再取得や、停電に伴い発生した乳房炎の治療、家畜の死亡・廃用に伴う新規の家畜導入等の支援を行うこと。

三 規模の大小を問わず、地域農業・地域社会を支える多様な畜産・酪農の生産基盤の維持・拡大を図るため、組織的な生産体制の整備、畜産物の付加価値の向上、良質かつ低廉な飼料等の供給等の取組を通じて、魅力ある持続可能な経営が実現できるよう、地域性を踏まえた実効性のある施策を実施すること。

四 CPTPP、日EU経済連携協定、日米貿易協定が、我が国畜産・酪農経営に与える影響の実情については、統計データ等を常に注視し、分析を行い、これを公表すること。また、新たな国際環境下において、関税削減等に対する生産者の懸念と不安を払拭し、意欲ある生産者が経営の継続・発展に取り組むことができるよう、経営の安定を図ること。その際、実施した施策の効果を検証し、適宜必要な見直しを行うこと。

五 加工原料乳生産者補給金・集送乳調整金の単価及び総交付対象数量については、中小・家族経営を含む酪農家の意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。

  また、期中における一方的な出荷先の変更により集送乳の調整に混乱を来す事例等が発生していることを踏まえ、将来的な酪農家の所得確保や集送乳合理化等の観点から現行制度を十分に検証するとともに、こうした事例が生ずることのないよう必要な措置を講ずること。

  さらに、近年、ひっ迫している生乳の需給状況について長期的に見通し、酪農経営の安定と牛乳・乳製品の安定供給の確保が図られるよう、国の主導により各般の取組を一層推進すること。

六 肉用子牛生産者補給金制度における保証基準価格等については、中小・家族経営を中心とする繁殖農家の経営努力が報われ、営農意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。

七 酪農経営を支える酪農ヘルパーについては、その要員の確保や育成、酪農家の傷病時利用に際しての負担軽減、利用組合の組織強化への支援を行うこと。また、酪農家や肉用牛農家の労働負担軽減・省力化に資するロボット・AI・IoT等の先端技術の導入、高度な経営アドバイスの提供のためのビッグデータ構築を支援すること。さらに、これらの施策との連携を図りつつ、畜産・酪農への就農を経営ステージに応じてきめ細かく支援する総合的な対策を強力に展開すること。

  また、持続的な畜産・酪農構造の実現を図る観点から、畜産GAPの指導員等の育成、普及・推進体制を強化すること。

八 我が国及び世界での国産畜産物の需要に対応し、畜産・酪農の収益力・生産基盤・競争力を強化するため、畜産農家を始めとする関係者が連携する畜産クラスター等について、中小・家族経営にも配慮しつつ、地域の実情に合わせて地域が一体となって行う、収益性向上等に必要な機械導入、施設整備、施設整備と一体的な家畜導入、バイオガス発電等による家畜排せつ物の有効活用、環境負荷軽減の取組等を強力に支援すること。加えて、外部支援組織の活用、家畜能力の向上、繁殖基盤の強化、乳業工場・食肉処理施設の再編整備、国産ナチュラルチーズ等の競争力強化に向けた取組等を支援するとともに、これらの施策等により食料自給率の向上を図ること。

九 我が国固有の財産である和牛の精液や受精卵については、その流通管理の徹底を図るとともに、遺伝資源の知的財産的価値の保護を強化すること。

十 国産飼料の一層の増産と着実な利用の拡大により畜産農家の経営安定を図り、飼料自給率を向上させるため、気象リスク分散等による粗飼料の安定的な収量確保、飼料生産の効率化、放牧、国産濃厚飼料の生産拡大、未利用資源の利用、有機畜産物生産の普及を支援するとともに、飼料生産の基盤整備を推進すること。また、配合飼料価格安定制度については、畜産・酪農経営の安定に資するよう、同制度に係る補塡財源の確保及び長期借入金の計画的な返済を促すことにより、制度の安定的な運営を図ること。

十一 国産畜産物の輸出に当たっては、統一マークの活用等により、日本ブランドを前面に立てた販売戦略、国産畜産物の強みを活かす調理技術等の普及を行うとともに、世界での国産畜産物需要の増加に対応できる生産基盤を構築すること。

  また、輸出先国・地域の衛生条件を満たす食肉処理施設等の整備を促進するとともに、輸出先国・地域の食品安全に関する規制への対応については、政府一体となって、戦略的かつ迅速に進めること。

十二 原発事故に伴う放射性物質に汚染された稲わら、牧草及び牛ふん堆肥等の処理を強力に推進するとともに、永年生牧草地の除染対策、原発事故に係る風評被害対策に徹底して取り組むこと。

 右決議する。

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