新たな食料・農業・農村基本計画に基づく施策の推進に関する件
地球規模での気候変動や国際情勢の不安定化などにより世界の食料需給及び貿易が不安定化する一方、我が国では農業者の減少・高齢化、農地の減少が進行している。こうした中で食料安全保障の確保に向けて国内の農業生産基盤を維持・強化することは、農業者のみならず、国民共通の重要かつ喫緊の課題である。こうした認識の下、政府は、改正食料・農業・農村基本法に基づく初めての食料・農業・農村基本計画の策定及び同計画に基づく施策の推進に当たり、左記事項に万全を期すべきである。
記
一 水田政策の見直しに際しては、水田活用の直接支払交付金など現行の水田政策の課題を整理・総括した上で、国内生産の増大、生産性向上、農業者の所得向上、農地の維持などの改正基本法の趣旨を踏まえて新たな水田政策を検討し、その具体化を図ること。その際、
1 飼料用米、WCS用稲による耕畜連携など、優良な取組を行ってきた農業者の営農意欲を損なわない制度設計とすること、
2 国産飼料の生産性向上を図るため、多収性品種中心の飼料用米に加えて、地域の気候、飼料の利用実態等を考慮して、青刈りとうもろこし等の生産振興を図ること、
3 水田・畑、作物ごとの直接支払いも含めた農業所得の状況を調査し、営農意欲を損なわない制度とすること、
4 産地交付金については、現状の活用状況を調査し、農業者、都道府県の取組に支障をきたさないようにすること、
5 農地の維持のための支援策を講ずることによってもたらされる効果、他国における同様の制度の実施状況を十分考慮し、納税者の理解を図りつつ、直接支払制度の設計を行うこと、
6 保水、洪水防止や生物多様性など水田の有する多面的機能は、国民全体に裨益する重要な機能であることから、水田における生産性向上に向けた支援を行いつつ、必要な水田面積の維持を図ること、
などに留意しつつ、生産現場が混乱することがないよう、生産者をはじめ関係者の意見を丁寧に聴取し、合意形成に努めること。
二 今後検討される新たな水田政策の下においても、米の生産・流通・備蓄政策全般について必要な検証を行うこと。
三 中山間地域等直接支払交付金等の見直しにおいては、条件不利の実態に配慮し、共同の取組や農業経営に対する支払い等について、よりきめ細やかな支援を拡大すること。加えて、中山間地域においても稼げる農業を実現するべく、施策の充実・強化を図ること。
四 食料安全保障の強化を図るため、麦・大豆等の国内生産の増大に資するよう、適地適作の観点も踏まえ、地域の判断の下で「汎用化」「畑地化」に向けた農業生産基盤整備を推進すること。
五 食料安全保障の強化には、多収性や高温耐性、病害虫抵抗性等の特性を有する優良な新品種の開発及びその適切な利用が一層重要であることから、産官学の連携の下、知的財産の流出に留意しつつ、先端技術も活用した新品種の育成に継続的かつ安定的に取り組むこと。
六 農林水産物・食品の輸出については、国内農業・食品産業の供給能力の維持・強化、所得向上に資するため、輸出額五兆円目標の達成を目指し、マーケットイン、マーケットメイクの視点に立ち、日本食レストラン・現地スーパー等と連携し需要開拓を進めるとともに、産地形成や品目団体の輸出力強化を図ること。米の輸出については、二千三十年に三十五万トンという意欲的な目標を達成するため、基盤整備や多収性品種、有機米の普及等により米の生産コストの低下及び付加価値の向上を図ることで国際競争力の高い産地の育成に取り組むこと。
七 食料の価格形成については、肥料・飼料等の資材費、人件費、燃料費等の生産コストが上昇する中、これらの合理的な費用を考慮し、農業、食品産業等の食料システム全体の持続性の確保が図られる価格形成が、生産・加工・流通・小売・消費等の食料システムの幅広い関係者の合意の下で、適正に行われるよう実効性ある仕組みを構築すること。
また、関係省庁や地方公共団体等と連携しながら、農産物等の生産・加工・流通・小売までの全ての食料システムの関係者において効率化・低コスト化を図ること。
八 今後、多くの高齢農業者のリタイアが見込まれる中で、農業者世代の均衡を図り、農業者の年齢構成を持続可能なものとするため、担い手の育成・確保、円滑な経営継承を図るとともに、新規就農者の育成・確保に向けて就農準備資金・経営開始資金、雇用就農資金の交付や技術サポート体制の整備、退職者の就農促進、農業高校等の支援・整備など総合的な支援策を講ずること。また、就農準備資金等の支給対象年齢要件の引上げも含め検討すること。
九 食料自給率の向上を図り、食料自給力を確保するためには、生産基盤である農地が適切に保全・管理されることが重要であることに鑑み、地域で策定された地域計画について不断の見直しを行い、家族経営・法人経営を問わず意欲ある担い手への農地の集積・集約化が進むよう支援すること。
また、農業を副業的に営む経営体など多様な農業者については、農地の保全・管理に寄与する等、重要な役割を果たすだけでなく、農業水利施設の維持管理、農村社会・集落機能の維持、農業以外の多様な地域資源を活用した付加価値創出などの役割を果たすことが期待されることから、関係省庁、民間企業との連携を通じた、地域と関係企業等との結合の推進など、意欲的な取組を促進すること。
十 農業生産活動は自然環境の保全等に大きく寄与する側面と環境に負荷を与える側面があることに鑑み、温室効果ガスの排出削減、生物多様性の保全及び有機農業の推進等みどりの食料システム戦略に示されたロードマップを実行し、環境と調和の取れた食料システムの確立を図ること。また、農業生産活動が与える環境負荷については、畑作中心の欧米諸国と、アジアモンスーン地帯における水田・稲作が中心のアジア諸国では、その発生状況等が異なると考えられることから、温室効果ガス削減の観点だけでなく、生物多様性の保全、土壌流出の防止等、様々な観点からの調査研究を推進すること。
十一 国際的な原料調達競争の激化により、食品産業において、輸入原材料の調達リスクが増大していることを踏まえ、国内農業との安定的な取引関係の確立及び強化を促進するとともに、環境負荷低減に向けた取組を促進すること。また、輸入相手国の農業生産活動における人権状況に留意し、フェアトレードが確保されるための取組を推進するとともに、人権・栄養への配慮等に関する国際的なルール形成に向けた議論が進んでいることから、国際的なルール形成に積極的に参画し、併せて対応策の検討等に関して企業の取組を推進すること。
十二 農福連携の推進に当たっては、障害者が貴重な農業人材として活躍できるよう、障害者等が働きやすい環境の整備を図ることにより、障害者等の就農促進や継続的な雇用を図るとともに、障害者等が生きがいをもって農業に関する活動を行うことを促進すること。
十三 農村は、多様な地域資源を有する場であり、農村における地域社会の維持が農業の持続的な発展に不可欠であることに鑑み、農村における他産業の振興の意義に留意しつつ、地域資源を活用した伝統的な食品産業に係る事業活動を推進すること。また、農村の振興に当たっては、鳥獣害対策の強化が不可欠であることから、地方財政措置の拡充を含め、地方公共団体の取組の推進を図ること。
十四 都市農業は、都市住民に農産物を供給する機能のみならず、都市の防災や、景観の保全、都市住民の農業に対する理解の醸成等の多様な機能を果たしていることに鑑み、その重要性を明確化すること。
十五 農村は、その共同活動及び個々の営農活動によって、食料の安定的な供給を行う基盤であり、かつ、国土の保全、自然環境の保全等の多面的機能が発揮される場であることに鑑み、日本型直接支払制度の在り方について、その実施状況、効果も踏まえ、検討すること。
十六 学校給食の無償化に当たっては、成長期にある児童・生徒の心身の健全な発達のため、栄養バランスのとれた豊かな食事を提供するという給食の意義に鑑み、地場産品や有機農産物、米粉の活用などを図るため、十分な財源の確保に努めること。
十七 食料安全保障の確立が我が国喫緊の課題となる中、新たな基本計画を真に実効あるものとするため、所要の予算を確保すること。特に、食料安全保障の確保に向けた新たな政策に要する予算については、既存の農林水産予算のほか、別枠予算を措置するなど、従来の枠組みにとらわれず、政府全体で財源の確保に努めること。
十八 昨年来生じている米流通の混乱について、その発生要因を分析し、流通、在庫状況の調査、関係者への情報提供の在り方等、必要な改善を行うこと。
右決議する。