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平成十三年六月二十六日提出
質問第一一三号

有明海再生のための諫早湾干拓事業中止と早期水門開放に関する質問主意書

 提出者
 小沢和秋    赤嶺政賢




有明海再生のための諫早湾干拓事業中止と早期水門開放に関する質問主意書


 四月に有明海再生と漁民等の生活をまもる緊急対策について質問主意書を提出したが、それに対する政府の答弁は質問に正面から答えないきわめて不誠実なものであった。こういう態度では、今緊急に求められている有明海異変の抜本的解決はとうてい望むことができず、漁場の悪化により収入を絶たれ、がけっぷちに追い詰められた沿岸漁民等の不安解決にもならない。
 よって、次のとおり重ねて質問する。

(一) 第三者委員会は「堤防外の環境に悪影響を与える可能性のある工事は凍結することが望ましい」と提言した。これを受け農水省は、一応水上工事は中断するとしながら、現在続行している天狗鼻堤防工事と、工事再開を画策している中央干拓地西工区の陸上工事や承水路掘削工事等は、潮受け堤防外の環境に影響を与えないと説明している。しかし、これらの工事がなぜ堤防外の環境に悪影響を与えないと断言できるのか。
(二) 特に憂慮されるのは、工事のためのセメント大量使用による悪影響である。多くの科学者の研究の結果、pH八・四以上の海水ではノリは光合成等の代謝作用が弱り正常な生育をしないが、セメント排水のpH値はしばしば八・四以上を示すことがあり、現実にセメント廃液やコンクリートからの浸出水に接触した養殖ノリには生育障害が起こっている。このため有明海沿岸の漁港工事現場等では、毎年九月から翌年三月までのノリ作付の時期は、沿岸漁連の要望を受けコンクリート工事は原則として行わないことになっている。かつて、熊本県の大浜干拓工事や長洲の埋立地造成工事の際には、コンクリート工事が中断させられている。しかし、諫早湾干拓工事現場では、外海に接する潮受け堤防の二基の排水門だけでも約六万立方メートルのコンクリートが使われ、現在でも天狗鼻堤防工事現場ではコンクリートが使われている。同じ有明海の中で多くの所ではコンクリート使用が規制されているのに、干拓工事現場では野放しの状態である。沿岸四県漁民に対し、これらのコンクリート使用について事前に説明し、同意を得ているのか。また、有明海に影響が出ないようモニタリング等を行っているのか。
(三) さらに重大なのは、干拓工事現場で一九九七年度から昨年度まで、五万四千八百トンものセメントが土壌固化剤として使用されていることである。このことについては、たまたま今年始めに干拓工事中止を求めて沿岸漁民が現地に座り込み、セメント袋等を大量に発見するまで一切説明がなかった。セメントは当然施工場所の表面を流れる雨水等に溶け出し、大量に調整池に流れ込む。セメントメーカーのデータでも、溶け込んだセメント成分により高まったpH値が完全に元に戻るまで約三か月かかると明示している等、調整池に与える影響は否定できないはずである。農水省が今年三月十五日に採取し調査した調整池内外の二酸化硅素のデータを見ると、調整池内の濃度は調整池外の八十四倍から二百六十四倍という驚くべき値を示している。この結果はセメントの成分である珪酸が大量に調整池に溶け出している事実を証明していると思われるが、国の見解はどうか。また、なぜこのような重大な悪影響が出る工法について事前説明をしなかったのか。今後、このような工法を一切行わないこととすべきではないか。
(四) わが国のノリ養殖技術を確立した人として知られる、元・熊本県のり研究所(現水産試験センター)技術部長の太田扶桑男氏は、本年調整池内外の水を採取し、ノリ養殖実験を行った。その結果、二基の排水門そばの海水を使った水ではノリの生育が劣り、色落ちした養殖ノリと同じようになった。他の海域の海水や一年以上汲み置きしていた有明海の海水では、ノリの生育に異常は見られなかった。また、調整池の水をリゾソレニア等の珪藻プランクトンの少ない場所の海水に混入したところ、赤潮の状態になることが認められた。この実験結果は今回のノリ凶作状況と驚くほど一致しており、これは調整池内に溶け出したセメント系固化剤の成分である珪酸が排水門から排出され、珪藻プランクトンの大量発生を促し、養殖ノリ不作の原因となっていることを証明するものではないか。珪酸のこのようなたれ流し状態を止めるため、緊急に曝気等の調整池の水質改善措置をとるべきではないか。
(五) ノリ養殖漁民は漁場の回復の見通しが立たないまま、来期のノリ作付を迎えようとしている。政府は今回の養殖ノリの不作に対応して早期の漁業共済の支払いを行ったというが、受け取った共済金は取るに足らない金額だったという声が漁民の間で上がっている。各県ごとに共済支払い金額と、それが損害の何割を補てんしたかを数字で示されたい。また、金融支援にしても、今後の漁場回復の保証がない漁民にしてみれば問題の根本的解決にならない。有明海沿岸漁民がこれまでどれだけの負債を抱え、今回のノリ不作によって新たにどれだけの負債を抱えるようになったのか、県別に漁民一人当たりの数字を答えられたい。次期以降もノリの不作が続くようであれば、所得補償を含め漁民の生活を抜本的に支援する新たな施策を検討すべきではないか。
(六) 政府から昨年の有明海の漁獲量統計値が出されたが、減少を続ける有明海の漁獲量はついに二万二千三百二十八トンと、これまでの最低を記録した。国外を含む有明海区外からも稚貝や成貝を移入・蓄養しながら、有明海産の漁獲物として計上されているアサリ貝を含めても減少の仕方は著しい。漁獲量の年平均を、一九七二年から潮受け堤防着工直前の一九八九年まで(a)、着工後から閉め切り直前の一九九六年まで(b)、閉め切り後から昨年まで(c)に区分してみると、(a)が八万八千六百六十九トン、(b)が五万四千八百六十二トン、(c)が三万三百四十五トンとなっている。潮受け堤防工事着工と閉め切りを契機に著しい減少が起こっており、特に堤防閉め切り後の減少は劇的である。国は十分なアセスメントを実施しないまま、干拓事業を行っても漁業にほとんど影響がないとの見通しを示し、万一漁獲量激減等予想外の事態が生じた時には誠意を持って補償等の協議を行うことを、有明海沿岸三県(福岡・佐賀・熊本)漁連、長崎県の漁業権者会との間で一九八七年に取り交わした確認書で約束している。今こそ誠意を持って補償等の協議を行うべきではないか。
(七) 農水省は四回目の第三者委員会で、調整池への海水の流入を短期間マイナス一メートル以下に保つ範囲で行うと提案した。これは防災機能を保つためと説明されたが、具体的にはどういうことか。調整池内に海水を外海と同じ水位まで導入しても、諫早市の防災には何の関係もないと考えられるが、政府の明確な見解を示されたい。今急ぐべきは低平地部農地の洪水防止のため、旧海岸の堤防を補強し、揚排水ポンプ場を増設すること等ではないか。その整備の見通しはどうか。
(八) 潮受け堤防閉め切り後、底質が悪化し底生生物が激減している。有明海の漁獲量の激減もこれに符合しており、もはや「予断を持たず」調査を続けるという政府の言い分は、干拓事業を今後もごり押しし、既成事実をつくるための口実にすぎない。一日も早く水門を開放し、調整池外と同じ水位まで海水を入れることは、いよいよ緊急の課題となっている。事業中止がこれだけ国民世論として大きく広がっている中で、先日わざわざ小泉首相自身が事業の続行を明言し、武部農水相が「干陸地となった西工区も含めて元の干潟に戻せというのは、地球を反対に回せということに等しい考えだ」と述べたのは、これまでの政府の姿勢からも大きく後退するものである。小泉内閣が本当に無駄な公共事業費予算の削減を行うというのであれば、環境を破壊し沿岸漁業及び関連事業従事者に塗炭の苦しみを味あわせている諫早湾干拓事業中止こそ、ただちに決断すべきではないか。
(九) 養殖ノリ不作は近年の有明海の水産業不振の一部分であり、全体としての漁獲量の回復がなければ有明海の水産業が回復し、有明海が再生したとはいえない。そのためには、人体にたとえれば有明海全体の浄化機能をもつ腎臓と、稚仔魚を育成する子宮のような機能をあわせ持っていた諫早干潟を再生させることが不可欠で、大量の海水を干陸地が水没するまで導入し、海水を大きく循環させなければならない。現在の二基の排水門を開放するだけでは海水の出入りはきわめて制約され、大きな変化を期待できない。この状態を抜本的に改善するためには、現在の調整池の水域に海水が自由に出入りできるよう、水門の数を大きく増やす以外にないのではないか。この工事はかなり大規模になるので、干拓事業中止により収入の途を断たれた元漁民等を就労させれば、生活保障としても有意義と考えられるがどうか。

 右質問する。



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