衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成十四年七月三十日提出
質問第一六九号

内閣府企画による小冊子及びビデオ「ハンセン病を知っていますか?」に関する質問主意書

提出者  北川れん子




内閣府企画による小冊子及びビデオ「ハンセン病を知っていますか?」に関する質問主意書


 「ハンセン病を知っていますか?〜現代医学で制圧された病気〜」と題した小冊子及びビデオが、内閣府企画、厚生労働省・法務省人権擁護局協力で、二〇〇一年十二月二十日、(社)日本広報協会より編集・発行されている。この小冊子及びビデオには、近現代一〇〇年に及ぶ日本のハンセン病政策による患者・家族・関係者らへの人権侵害についての記述・説明がなされておらず問題であると考えるので、以下、質問する。

一 小冊子及びビデオを企画・制作した目的、趣旨は何か。
二 読者及び視聴者の対象をどこにおいて企画・制作したのか。
三 小冊子及びビデオの刊行事業において、事業費として国から出費された金額はいくらか。
四 それぞれ何部、制作したのか。
五 販売対象をどこにおいているのか。この半年あまりで主にどこが購入しているのか。
六 小冊子の二十三頁で熊本判決に対し「国は、この判決には重大な法律上の問題点があるものの患者、元患者が高齢であることなどを総合的に考え、控訴を行わないこととしました」と書かれているが、「重大な法律上の問題点」とは何か。また、問題とするなら、何故、その問題点の具体的な内容を記述・説明していないのか。
七 ビデオでは、ハンセン病訴訟について全く触れていないが、それは何故か。
八 法務省人権擁護局協力の小冊子でありながら、「らい予防法」下の国の政策による人権侵害に触れていないのは非常に問題である。「はじめに」で、「確立した治療法がない時代、多くの人がハンセン病にむしばまれ、私たちの想像を絶する苦しみを味わいました。そして、それは身体的な苦しみだけではありませんでした。社会のハンセン病に対する誤解や偏見が、その苦しみをさらに大きなものにしてしまったのです」と、苦しみの原因を「病気」と「社会の誤解や偏見」によるものとして、国の責任を全く回避した説明がされている。ハンセン病療養所の入園者らが受けた人権侵害(強制的な断種、不妊手術、強制堕胎・人工妊娠中絶、強制労働、逃走罪など)の記述が全くないのは何故か。
九 ハンセン病患者、また、その配偶者らへの優生手術や人工妊娠中絶を合法化した「優生保護法」(一九四八年制定〜一九九六年廃止)について全く触れていないのは何故か。
十 ハンセン病の感染経路についての説明で、小冊子三十三頁では、「菌は治療で数日のうちに伝染性を失い、患者との接触で伝染することもありません」と記述し、また、ビデオでは「現在では、ハンセン病は、患者との濃密な接触を繰り返したり、傷口からの感染、更には、鼻汁や唾から飛沫感染すると考えられています」と説明されている。
 これらの説明は、ハンセン病は、「菌を排出している患者から伝染する病気である」との誤解を与えるものである。ハンセン病は、「伝染性は全くといっていいほどない」ことを強調すべきである。感染経路や発症の危険性についての説明は、往々にして、「怖い病気である」との誤解を持たせることになってしまい、結果として、隔離を肯定し、差別を生じさせることになる。この点をよく勘案し、説明を改めるべきであると考えるが、如何か。
十一 同じく三十二頁で、「かつてハンセン病は、恐ろしい病気で伝染するから、患者を隔離してしまう、という方法がとられた時期もありました。これも、当時としては疾病の一種としか考えられていなかったため、仕方なかったという側面もあった」とあるが、この記述は、科学的でも実証的でもない。「当時」とは正確にはいつのことか。また、他の疾病とは異なり、ハンセン病のみ「終生・絶対・強制隔離」が行われた理由は何か。質問十と同様に、この説明は、隔離政策を正当化し、ハンセン病差別を温存するものである。この部分は削除すべきと考えるが、如何か。
十二 ビデオでは、多剤併用療法の説明部分で、「現在では、(略)こうした薬を一定期間服用すれば、ハンセン病は外来治療でも治癒する病気となったのです」と説明されているが、これは誤った説明ではないか。ハンセン病は、自然治癒していた人も多かったことは衆知の事実であり、また、明治期以降、民間病院や大学病院では外来治療体制があったにもかかわらず、一部の例外を除き、隔離医療政策とともに閉鎖され、そして、ハンセン病患者を一般医療体制から排除していったことが、外来治療を不可能にしたのである。一九九五年四月の日本らい学会で「ハンセン病治療は、当初から外来治療が可能であり」という見解が出されている。これにも矛盾するのではないか。
十三 「遺伝病ではありません」と強調するのは逆に遺伝性疾患及び、同患者を差別することになると思うが、如何、お考えか。
十四 ハンセン病を「感染症である」と何度も繰り返すことは問題である。一般の多くの人は、感染症とは伝染病であり、患者からうつる病気と思っており、安易に「感染症である」ことを強調するのは、この誤解をそのままにして差別を強化することになり、問題であるが如何か。
十五 小冊子二十四〜二十五頁の「ハンセン病資料館」は正式には「高松宮記念ハンセン病資料館」であるが、「高松宮記念」を記していないのは何故か。また、同資料館の運営を(財)藤楓協会への委託を終了して、国の責任において直接運営すべきだと考えるが、如何か。
十六 近現代日本のハンセン病問題では、国と医学者らにより遂行された隔離政策による誤り、人権侵害こそが重要問題である。にもかかわらず、小冊子では、隔離を行った医学者と宗教者だけを「ハンセン病問題に取り組んだ人々」として紹介しているのは何故か。
十七 ビデオでは、法廃止は語られているが、廃止理由の説明はなく、人権侵害のもととなった「らい予防法」及び、その施行の実態などについて触れられていないが、何故か。また、廃止理由をきちんと説明すべきであるが如何か。
十八 小冊子には、人権侵害を受けた当事者がほとんど不在である。今、大切なのは、過去の誤りの事実を知り、反省し、誤りの歴史を繰り返さないことである。そのためには、「ハンセン病を知っていますか?」ではなく、「ハンセン病差別・偏見をなくすために」を目的とした小冊子、ビデオに作り直すことが必要である。そもそも当事者を入れず行政当局だけで、こうした啓発・啓蒙活動を行うこと自体が問題である。このように問題の多い小冊子及びビデオは回収し、改めて当事者も含めた刊行委員会で再版すべきである。その考えはあるか述べられよ。

 右質問する。



経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.