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平成十六年八月四日提出
質問第四一号

高速横浜環状道路南線に関する質問主意書

提出者  佐藤謙一郎




高速横浜環状道路南線に関する質問主意書


 本事業は、一九九五年四月に都市計画決定され、本年は事業者による十年目の事業再評価実施の年に当たるが、計画道路周辺地域住民の合意が得られていない等の理由から、釜利谷地区の工事用取付道路工事及び鎌倉市岩瀬地区水脈調査工事等の仮設工事が行われているのみで、本工事は全く始められていない。
 本事業は、横浜市栄区の起伏に富んだ地形に計画されており、特に公田インターチェンジと神戸橋橋梁は谷間に計画されている為、周辺地域住民の大気汚染被害への懸念が強いことから、提出者は先に平成十四年六月十七日提出質問第一〇八号において大気汚染被害の危険性及び本道路計画の抜本的見直し等につき政府見解を問い、平成十四年七月二十六日付内閣衆質第一〇八号答弁書の回答を受けているところである。
 事業者(国土交通省、日本道路公団、横浜市)は、神奈川県が実施した環境影響評価書(以下、「事業者アセス」という)を根拠に、環境への影響は少ないと計画道路周辺地域住民に説明してきた。しかしこの「事業者アセス」が、地形・建築物・構造物による影響を原理的には考慮出来ないプルーム・パフモデルなどの予測手法を用いた大気汚染濃度の将来予測であることから、周辺地域住民はその確度に疑念を持ってきた。さらには横浜市環境影響評価審査会でも多くの問題点が指摘されながら、その問題を解決することなく事業が進められてきたことに不信を強めたという。
 このため、「この道路が造られたら、実際にはどれ位栄区の環境が悪化するのか」を自分たちで知りたいと考えた周辺地域住民は、費用を出し合い、自動車公害調査や政策提言の実績が豊富なシンクタンクである「環境総合研究所」の協力を得て、「桂町交差点〜上郷公田線〜公田インターチェンジ〜神戸橋」の区間について、大気汚染と騒音の「市民による環境影響予測・評価」(以下、「自主環境アセス」という)を実施した。この自主環境アセスで使った三次元流体モデルは風洞実験によって検証された、地形・建築物・構造物による影響を考慮して大気汚染濃度を予測・評価できる数値解析モデルである。
 この自主環境アセスの内容詳細については、去る平成十六年七月二十三日、提出者が周辺地域住民及び環境総合研究所と共に、国土交通省道路局地方道・環境課道路環境調査室に内容詳細につき説明を行ったところである。この自主環境アセスの結果も踏まえ、平成十四年七月二十六日付内閣衆質第一〇八号答弁書の回答では不十分な以下の事項につき質問する。

一 谷部地形を含む当該地域の大気汚染予測にプルーム・パフモデルを適用することについて
 自主環境アセスは、事業者アセスと同じ走行台数や排出係数などの基本データを使い、地形・建築物・構造物による影響を考慮した、より適切な予測手法を使って将来予測をすると、どういう結果になるかを確認し、事業者が大気汚染の予測に適用した手法が、本事業のような谷部を含む起伏に富んだ地形に適切であるかどうかを確認することを目的としている。
 NO2の自主環境アセスの結果、以下のような重大な大気汚染被害が発生することが予測された。
 ・公田インターチェンジ周辺、神戸橋付近及び桂町交差点周辺の住宅地域で環境基準値を上回る濃度が予測された。
 ・計画路線周辺の広い地域で現況より大幅に大気汚染濃度が上昇し、環境悪化が推測された。当該地域は第一種及び第二種住居専用地域を含む良好な住宅地域であるが、最も低い濃度でも〇・〇四ppmを超えると推測された。
 ・事業者アセスで予測を行っている二地点について、NO2年間九十八%値の予測結果を比較したところ、事業者アセスでは地形等の影響を考慮していないため予測結果が過小であることが判明した。
                事業者アセス      自主環境アセス
   公田インターチェンジ   〇・〇四九ppm    〇・〇七一ppm
   栄区上郷町        〇・〇四七ppm    〇・〇六二ppm
 事業者アセスの予測結果が過小である理由は、事業者アセスで適用されたプルーム・パフモデルが、計算範囲内の全域で同一の風向・風速であるという前提を置き、さらに拡散場を限りなく平坦地(或いは一様の凹凸地)に限定することにより定型化されたものであり、地形が複雑な地域、建築物・構造物が複雑な地域においては、適切に大気汚染濃度を予測することが出来ないという限界があるからである。
 このような限界があることは、既存の行政手引きや調査資料及び学識者の知見でも指摘されている。
 ・『昭和五十八年環境影響評価の手引き』(東京都)では、「煙源の強度及び風向、風速等の気象条件が時間的にも空間的にも変化する非定常、非均質においては、プルームモデルを適用することは難しい」と指摘している。
 ・『大気環境予測講義』(東京情報大学教授 岡本眞一)によれば、「正規型プルーム式を導入する際の制約条件としては、例えば、風や拡散係数は時間的、空間的に変化してはいけない等厳しい制約があります」としている。
 ・『大気汚染の予測手法の適用性に関する調査業務報告書』(国土交通省国土技術政策総合研究所)では、「プルームモデルは…単純化された条件を前提として導出されたものである」と述べ、(1)風向についてはプルーム式は風の流れる方向が全域に亘って一様と仮定しているため、風向が場所によって大きく異なる場合にはプルーム式の適用には無理が生じる。…谷地形もその一つであり、風向が地形に沿って流れるため、平面的な取扱いで予測するのは困難である。(2)風速は同一高さにおいて全域において同一の強さであると仮定しているため、風速が場所によって大きく異なる場合にはプルーム式の適用には無理が生じる」等と述べている。
 したがって本事業のような谷部を含む起伏に富んだ複雑な地形における大気汚染濃度の予測にプルーム・パフモデルを適用するのは適切ではないと考えるが、政府の見解を伺いたい。
 それでもなお、事業者が、適切に適用出来ると主張するのであれば、その根拠となるデータを示すべきと考えるが、この点についても政府の見解を伺いたい。
二 環境予測のやり直し及び現況調査と将来予測の実施の必要性について
 1 NO2の環境予測のやり直しの必要性
  @ 不適切な予測手法を適用した事業者アセスでは、本事業の環境への安全性が確認できておらず、一方、より適切な予測手法を適用した自主環境アセスの結果、大気汚染公害が発生する危険性が予測されたことを踏まえ、事業者はこの危険性を回避する為に、地形・建築物・構造物による影響を考慮できる予測手法を適用してNO2の環境予測をやり直す迄、道路建設工事を中断すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
  A 環境予測のやり直しを実施し、その結果に基づき事業の見直しを行い、対策を講ずべきと考えるが、政府の見解は如何。
  B 自主環境アセスの対象地域におけるNO2(騒音についても同様)の事業者アセスでは、ただ二地点のみについて予測値を示しているが、これをもって起伏に富む地域全体を代表させるのは適切ではない。本来、事業者アセスは、地域住民に対して事業による環境への影響を説明すべきものである。したがってNO2の環境予測のやり直しをするに当たっては、その結果を特定の地点だけで代表して表示するのではなく、濃度分布を面で表示すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
 2 地盤沈下による住環境の予測調査のやり直しの必要性
 計画中の横浜環状道路南線の庄戸地区から公田インターチェンジまでの沿線地域は一九六〇年代までは標高百m前後の尾根が連なる山間地であった。高度経済成長期の宅地開発により山の尾根部を削り、幾筋もの谷沢部を埋めて、この地域に千haを超える広大な宅地が誕生した。当然この宅地造成地の約半分は、柔らかく脆い土壌に多量の地下水を含んだ埋立地で、その埋立ての深さは二十〜四十mに及び、現在安定な状態を保ち、戸建てやRCの住宅が建っている。地盤沈下の問題は道路周囲に限定されず造成地の広範な部分の問題となる。
  @ 横浜環状道路南線の公田トンネル(公田インターチェンジ〜西ヶ谷)は、広大な埋め立て造成地の深い地下にトンネル構造で建設しようとするものである。しかし、このトンネルのNO.2ボーリング地点は土被り(地表よりトンネル天端までの間隔)は約二十八mであるが、この内、地表より二十四〜二十六mは柔らかく脆い埋め立て土層で、残り四〜五mが旧谷沢部の表土と亀裂の多い風化砂岩層から成っており、地下水も地表より五m以深に存在している。トンネルの工事中においては、通常トンネルを崩壊・崩落させないための土被りは、硬い岩盤が一〜一・五D(D:トンネルの直径や高さ)以上必要であるのに、当該トンネルの土被りは亀裂の多い風化砂岩層が四〜五mしかない。このような地盤にトンネルを掘削すれば、亀裂の多い風化砂岩層は膨大な地下水を蓄えている埋め立て土層を支持できず、当然地下水の噴出による風化砂岩層の崩壊、落盤が生じ、地盤沈下や家屋倒壊の危険性は極めて高い。
 事業者は当該トンネルのNO.2ボーリング地点付近における埋め立て土層と風化砂岩層及びトンネルの位置関係を三次元立体図に表示して、これらのリスクと対応策について説明すべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
  A 当該地区には幾筋もの谷沢があり、前記、NO.2ボーリング地点に連なる谷沢部は三十〜三十五mと深い。このような埋立て造成地の地下深くに公田トンネルを掘削・建設することは、長年月に亘ってトンネル底面までトンネルに沿って地下水の排出が生じ、現在の地下水位が低下し、長年月に亘って広大な埋立て造成地が地盤沈下し、延いては多くの家屋に不等沈下が発生する恐れがある。
 事業者がこのような埋立て造成地の地下に大断面のトンネルを掘った場合でも地盤沈下や家屋の不等沈下は発生しないと主張するのであれば、そのような実例を提示すべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
  B 公田トンネルの地上部沿線両側には戸建て家屋が林立しており、地下深くに建設する公田トンネルの掘削・建設に伴う砂岩・泥岩の緩み影響範囲は、沿線両側の百m以上に及び当然沿線家屋には不等沈下の生じる危険性は極めて高い。
 事業者が公田トンネルの地上部沿線両側では家屋の不等沈下は無いと主張するのであれば、類似した条件下で家屋の不等沈下が発生しなかった事例等を提示すべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
  C 公田トンネル東抗口は、西ヶ谷遊水地の一部(約百五十m)を開削し、掘割構造で建設する計画である。この遊水地はコンクリート製の土留め擁壁で囲まれており、この埋立地内の地下水位は、そのコンクリート製の土留め擁壁で堰き止められて安定状態を保っていると考えられるが、事業者はいまだに調査も行っていない。西ヶ谷遊水地のコンクリート製の土留め擁壁の一部を撤去し、開削することは、当該地区の地下水位を低下させることになり、埋立造成地での地盤沈下や家屋の不等沈下発生の恐れがある。
 事業者は地下水位等の地盤調査を行うべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。さらに、事業者が遊水地のコンクリート製の土留め擁壁の一部を撤去する公田トンネル東抗口工事でも、当該埋立造成地の地下水位に変化はなく、地盤沈下や家屋の不等沈下が無いと主張するのであれば、そのような実例を提示すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
  D 前記@〜Cの通り、多くの住宅の建つ埋立造成地の地下深くに大断面トンネルを掘削することは、埋立造成地での地盤沈下や家屋の不等沈下発生の恐れを伴う。しかしながら、当該地区においては、これまで地下構造物の建設による地下水位の変動について実質的な環境影響評価や環境予測評価は全く実施されていない。したがって、本事業により地盤沈下や家屋の不等沈下は発生しないという安全性を事業者は確認していない。
 事業者は当該地域において大規模な地下水と地盤に関する調査を行い、地盤沈下や家屋の不等沈下に関する環境予測調査を行い、地域住民にその情報を公開した上で住民合意を得ることが出来なければ事業の継続をすべきで無いと考えるが、政府の見解を伺いたい。
 3 振動(トンネル内自動車走行による影響)の環境予測のやり直しの必要性
 本事業は住宅密集地域の地下にトンネルを隣接して建設する計画であるため、振動による住環境への被害も予想される。
 当該地域と同様の条件下でのトンネル建設の前例の有無、振動被害の実態調査及び本事業における環境予測のやり直しが必要と考えるが、政府の見解を伺いたい。
 4 低周波振動(神戸橋橋梁付近など)の環境予測のやり直しの必要性
 近年、自動車走行振動に橋梁構造物などが共振して発生すると思われる低周波振動による人体や建物などへの広範な被害が知られるようになってきた。
 本事業では橋梁構造物の建設も予定されていることから、低周波振動の実態調査と本事業者での環境予測のやり直しが必要と考えるが、政府の見解をお伺いしたい。
 5 SPM(浮遊粒子状物質)の現況調査と将来予測の実施の必要性
 自主環境アセスでは既に実施したところであるが、事業者はSPMが現行の環境基準を達成できるかについて事業者アセスにおいて確認していない。
 事業者は、SPMについても現況調査と将来予測を直ちに実施すべきであると考えるが、政府の見解をお伺いしたい。
 6 騒音の現況調査と将来予測の実施の必要性
 事業者は、騒音についても現行の環境基準を達成できるかについて事業者アセスにおいて確認していない。自主環境アセスの結果、騒音については以下の諸点が示された。
  ・公田インターチェンジ周辺及び神戸橋付近の一部で環境基準を上回る騒音レベルが予測された。
  ・計画路線周辺の広い範囲で、本来一般環境で維持されることが望ましい一般環境に対する環境基準を超える騒音レベルが予測され、大幅に環境が悪化することが推測された。
  ・地域住民が参加して現況調査を行った地点について、将来予測される騒音レベルを比較すると、公田インターチェンジ付近のグリーンテラス自治会地域、及び神戸橋付近のコートハウス自治会地域で七dB(A)以上も上昇するのをはじめとして、住宅地等で二dB(A)程度の上昇が予測された。
 事業者は、騒音についても現況調査と将来予測を直ちに実施すべきであると考えるが、政府の見解をお伺いしたい。
 7 上郷公田線「桂町交差点〜上郷公田線トンネル〜公田インターチェンジ」区間の現況調査と将来予測の実施の必要性
 上郷公田線の「桂町交差点〜上郷公田線トンネル〜公田インターチェンジ」区間は、道路の長さが短いとの理由から事業者は環境アセスを行っていないため環境の安全性が確認されていない。そのため、この区間について自主環境アセスを実施した結果、計画路線周辺の一部で環境基準値を超えるNO2濃度が予測されたのをはじめ、広範囲で現況より大幅に大気汚染の悪化が推測された。また上郷公田線トンネルは土被りが浅い(二〜十七m)ため、周辺家屋での地盤沈下と振動の懸念が大きい。
 前記1〜6項に示した通り不安の残る南線の環境予測のやり直し及び現況調査と将来予測を実施するとともに、事業者アセスを行っていない上郷公田線「桂町交差点〜上郷公田線トンネル〜公田インターチェンジ」区間についても、NO2濃度、地盤沈下、振動、SPM、騒音について環境予測及び現況調査と将来予測を実施する必要があると考えるが、政府の見解をお伺いしたい。
 8 事業者においては本事業に関し環境対策等環境への影響を低減する努力を開始されたと聞くが、事業者アセスでは環境の安全性が確認されてはいないのであるから、それらの環境対策が実現可能であるとの検証が出来たならば、その新たな条件に基づき、前記1〜7項で示した環境予測のやり直し及び現況調査と将来予測を実施する必要があると考えるが、政府の見解をお伺いしたい。
 9 事業者は、前記1〜8項に示した環境予測のやり直し及び現況調査と将来予測を実施するに際しては、各項毎に、その基本データと予測手法及びその結果の詳細を公表し、公共事業の透明性と説明責任を果たすべきと考えるが、この点につき政府の見解を伺いたい。
三 公田インターチェンジ部の排ガス漏れ出し及び加速時の排出係数について
 1 日本道路公団横浜工事事務所担当官からの説明によると、事業者は縮尺二百分の一の風洞実験の結果によって得られた数値を根拠として、公田インターチェンジに排出される排ガスの外気への漏れ出し率を決め、事業者アセスの数値として適用している。風洞実験の現象と実際の構造物での物理現象とは相似しないのが一般的であるが、相似であるとするならばその根拠を明らかにされたい。また、事業者に情報公開請求したところ時効ですでにデータは全て無くなったとのことである。しかし科学的根拠は失われないと考えられるので、事業者が相似であると主張するのであれば、相似するための要件と風洞実験の条件から相似であることを検証し地域住民に説明すべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
 2 自動車が公田インターチェンジを出入りする際の「加速時の排出係数」が事業者アセスには記載が無い為、情報公開によりこれを請求したが存在しないとの回答であった。自動車が加速する時に排出係数は飛躍的に増大することから、大気汚染の環境予測では当然考慮すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。また事業者アセスでの考慮の有無を再度確認し、もし考慮したのであれば事業者アセスに適用した「加速時の排出係数」を公開すべきと考えるが、あわせて政府の見解を伺いたい。
四 「十年目の事業再評価」における本事業の抜本的見直しの必要性について
 1 本事業は一九九五年四月に都市計画決定され、今年は事業者が「十年目の事業再評価」を実施する年に当たる。地域住民による国土交通省関東地方整備局への聞き取り調査では、この再評価作業には「住民の意見を採り入れるシステムはない」旨の回答を口頭で得たと聞く。公共事業の透明性と説明責任が鋭く問われている時代状況に鑑み、何故事業再評価で住民意見を採り入れようとしないのか理解に苦しむところである。事業者による再評価に当たっては、@事業主体が作成する再評価のための原案は、その作成段階で住民意見を聴取し完成時にはこれを公表すること、A「事業評価監視委員会」の各委員と住民との意見交換の場を設けること、これら二点を考慮した「住民の意見を聴き、採り入れるシステム」を早急に国の制度として設けるべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。また、本事業の再評価に当たっても急いで制度を設けて起用すべきと考えるが、あわせて政府の見解を伺いたい。
 2 「公害の危険性が予測される場合、危険性を回避する可能性があるにもかかわらず、回避策を十分検討することなく、危険性を有したまま道路を造るやり方は許されない」と、道路公害裁判判決(国道四十三号線と西淀川大気汚染公害)では当該事業者を厳しく断罪している。本事業の十年目再評価においても、大気汚染公害が発生する危険性をどう評価し、対応するかが最大の課題と考える。
 本事業の妥当性を再評価するためには、「再評価の視点」の三項目だけではなく、国土交通省の「公共事業評価システム研究会」が作成した『公共事業評価の基本的考え方』に基づく「総合評価表」を適用すべきと考える。また河川局においては既にこれを適用したと聞くが、政府の見解を伺いたい。
 3 前記二、1〜8項で示した環境予測のやり直し及び現況調査と将来予測実施の必要性とその実施結果等を、「総合評価表」の環境の項目において適切に評価し、事業の対処方針を検討する必要があると考える。この点について政府の見解を伺いたい。
 4 「事業評価監視委員会」においては、平成十五年度の例では三時間で八件もの事業をスピード審議した例もあると聞く。「事業評価監視委員会」が本事業存続の可否に関して十分な審議を行い、委員会本来の機能を遂行できる状況であるのか、政府の見解を伺いたい。
五 横浜環状道路南線と沿線地域の特性と現状について
 栄区の豊かな自然と良好な住環境にひかれ、若干の不便を差し置いてこの地に多くの住民が終の棲家を据えてきた。このような経緯をも踏まえ平成十五年に栄区はまちづくりの基本理念を「次世代に継承する緑豊かな生活文化都市」と定め、区政の向かうべき方向を示している。しかしながら、本事業計画は、住民の意思や自治体のビジョンと全く相容れないものである。
 1 本事業計画は、沿線地域の社会・経済・人口動態を十分に把握・予測することなく、また地域住民の期待するまちづくりの将来像を確認することもなく、計画が行政側によって一方的に作られた、と地域住民は指摘している。この点について政府の見解を伺いたい。
 2 横浜市の「現況・将来動向」(平成十五年度政策立案基礎調査報告書)の人口動態データなどによると、高齢化が急速に進んでおり、中でも栄区の高齢化は際立っている。
 この様に高齢化しつつある栄区住民が区の将来像として期待しているのは、栄区の実施した『住民意識調査』(平成十三年三月)によれば、
  ・良好な自然環境を守り
  ・高齢者にやさしい、安全な交通網を整備し
  ・快適な住環境を保持し
  ・地域で支えあうまちづくりをする
 などとなっている。本事業はこのような地域住民の希望に相反するものと考えるが、政府の見解を伺いたい。
 3 神奈川県教育委員会がまとめた『学校保健実態調査』(平成十五年度分)によれば、横浜市内の小学校学童のぜん息罹患率は八・八五%であり、全国平均の二・九〇%と比べ約三倍も高くなっている。また中学校についても同様の傾向にある。ここ十年間での経緯を見ても、ぜん息児童数は増加しており、とりわけ横浜市の上昇率は高くなっている。
 また、横浜市の『学校保健実態調査』(平成十五年度分)によると、自主環境アセスの調査対象地域周辺の小学校は犬山小学校の十七・八七%を筆頭に、平均で十・四三%という異常に高い罹患率を示している。
 当該地域においてこのように学童のぜん息罹患率が高い理由の一つは、この地域が起伏に富み年間八十%もの期間、逆転層に覆われるため大気汚染物質が長く停滞するという地形条件に起因すると考えられる。政府には、この様な学童の罹患状況について精査確認及び原因究明することを期待するとともに、こうした現状であるにもかかわらず本事業推進を是とするのか、その見解を伺いたい。
 尚、自主環境アセスのNO2に係る調査結果によれば、主に学童や高齢者などが利用する公共施設等の周辺の大気汚染状況は以下の通りで利用者が健康被害を受ける恐れがあると考えられる。ただしこの数値は、事業者アセスの想定走行台数や排出係数に基づくものであるから、実際には更に高濃度となるものと考えられる。(各施設は、特記ない限りNO2年間九十八%値〇・〇四〜〇・〇四五ppmの汚染が予測されている)
  ・かつら愛児園(一部環境基準を超える)、つくし共同保育園(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)、上郷保育園(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)
  ・犬の山幼稚園、静心幼稚園
  ・公田小学校(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)、桂台小学校(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)、矢沢小学校(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)、犬山小学校、本郷小学校
  ・桂台中学校、上郷中学校
  ・特別養護老人ホーム「クロスハート栄・横浜」(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)、訪問の家「朋」、特別養護老人ホーム「径」
  ・栄図書館(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)、栄公会堂/スポーツセンター(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)
  ・栄区休日急患診療所(〇・〇五〜〇・〇五五ppm)
 4 沿線地域は、首都圏近郊緑地保全法に基づき円海山近郊緑地特別保全地区に指定されており、法により特別に自然を保護すべき地区とされている。しかるに本事業では樹木は伐採され、大量の排気ガスが放出されるなど、法指定の趣旨と全く相容れるものではない。政府はこの不整合をどの様に考えるのか伺いたい。また、当該地域住民は法指定により様々な制約を受けつつも健康で安全な住環境の維持を期待して、法規制に従い環境保全に努めている。本事業はこの様な住民の期待と遵法精神を裏切るものとも考えられるが、政府の見解を伺いたい。
六 本事業の総建設費と妥当性、採算性、費用便益性について
 本事業の総建設費は一九八八年当時の公表では二千億円であった。しかし一九九九年では三千五百六十五億円と実に一・八倍に膨れ上がった。これはいくら概算であったとしても常識では理解しがたい。道路計画を容易に推進するため恣意的に建設費を計画段階では低めに設定したとしか考えられず、許しがたいことである。
 1 ところが二〇〇二年九月の新聞報道ではさらに四千三百億円に増額されたと報道された。これは道路行政の重大な欠陥が露呈したものと国民は受け止めざるを得ないが、この現実について政府はどの様にお考えか見解を問う。
 2 本事業の総建設費が三千五百六十五億円から四千三百億円へ何故増額されたのか、各内訳項目毎に差額が生じた理由を納税者=国民は知る権利があると考える。事業者はこの点につき説明責任を果たすべきと考えるが、政府の見解は如何か。
 3 また事業者は最新の総建設費とその妥当性、採算性、費用便益性及びこれらの客観的評価について公表すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。

 右質問する。



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