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平成十八年六月六日提出
質問第三〇八号

サンフランシスコ平和条約第十一条の解釈ならびに「A級戦犯」への追悼行為に関する質問主意書

提出者  野田佳彦




サンフランシスコ平和条約第十一条の解釈ならびに「A級戦犯」への追悼行為に関する質問主意書


 平成十七年十月十七日提出質問第二一号「『戦犯』に対する認識と内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する質問主意書」(以下、先の質問主意書)において、いわゆる「A級戦犯」ならびに東京裁判に対する政府の認識について質問した。
 それに対する平成十七年十月二十五日付答弁書内閣衆質一六三第二一号(以下、先の答弁書)は「平和条約第十一条による極東国際軍事裁判所及びその他の連合国戦争犯罪法廷が刑を科した者について、その刑の執行が巣鴨刑務所において行われるとともに、当該刑を科せられた者に対する赦免、刑の軽減及び仮出所が行われていた事実はあるが、その刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない」と回答した。
 国内法に基づいて刑を言い渡されていないものは、国内において犯罪者ではないのは明らかである。政府が、「A級戦犯」は国内において戦争犯罪人ではないことを明確にした意義は大きい。
 しかしながら、政府見解には未だあいまいな部分が残されている。もし政府が、一方で、「A級戦犯」は国内の法律で裁かれたものでないとして「国内的には戦争犯罪人ではない」としながら、もう一方では、日本はサンフランシスコ平和条約で「諸判決・裁判の効果」でなく「裁判」を受諾したのであり、国と国との関係において、同裁判の「内容」について異議を述べる立場にはないとするのならば、これによって他国からの非難に合理性を与えていることとなる。
 さらに、先の質問主意書に示したとおり、サンフランシスコ講和条約第十一条の手続きに基づき、関係十一カ国の同意のもと、「A級戦犯」は昭和三十一年に赦免され釈放されている。刑罰が終了した時点で受刑者の罪は消滅するというのが近代法の理念である。したがって、極東国際軍事裁判所が「A級戦犯」を戦争犯罪人として裁いたとしても、その関係諸国は、昭和三十一年以前に処刑された、あるいは獄中死したものも含めた「A級戦犯」の罪はすでに償われていると認めているのであって、「A級戦犯」を現在においても、あたかも犯罪人のごとくに扱うことは、国際的合意に反すると同時に「A級戦犯」として刑に服した人々の人権侵害となる。
 政府は、内閣総理大臣の靖国参拝が国際的に非難される根拠がないことを示すために、また、「A級戦犯」として刑に服した人々の人権を擁護するためにも、日本が受諾したのが、極東国際軍事裁判所の「諸判決」・「裁判の効果」なのか、あるいは「裁判」なのかを、あらためて明確にするとともに、「A級戦犯」の現在の法的地位を再確認し、国民ならびに国際社会に対して顕示する責任を有している。また、同じ趣旨から、「全国戦没者追悼式」をはじめとする追悼行為の位置づけも明確にする責任がある。
 したがって、日本国の姿勢をより明らかにするために、次の事項について質問する。

一 サンフランシスコ平和条約第十一条の解釈について
 1 先の質問主意書でも示したように、昭和二十六年に西村熊雄外務省条約局長が「日本は極東軍事裁判所の判決その他各連合国の軍事裁判所によつてなした裁判を受諾いたすということになつております」と答弁し、大橋武夫法務総裁は「裁判の効果というものを受諾する。この裁判がある事実に対してある効果を定め、その法律効果というものについては、これは確定のものとして受入れるという意味であると考える」と答弁しているのに対し、昭和六十一年に後藤田正晴官房長官は「裁判を受け入れた」という見解を表している。
 「諸判決・裁判の効果を受諾する」といった場合、裁判の内容や正当性については受け入れないが、その「裁判の効果」については受け入れたと解釈できる。
 「裁判を受諾する」といった場合は、「南京大虐殺二十数万」「日本のソ連侵攻」などの虚構や、日本は満州事変以来一貫して侵略戦争を行なっていたという歴史解釈、法の不遡及や罪刑法定主義が保証されていない点などがあるにもかかわらず、裁判の正当性を全部受け入れたと解釈できる。
 政府は、西村熊雄外務省条約局長ならびに大橋武夫法務総裁の「判決を受諾する」「裁判の効果というものを受諾する」という答弁と、後藤田正晴官房長官の「裁判を受け入れた」という答弁とでは、意味にいかなる相違があると考えているのか。
 2 1において、昭和二十六年の西村熊雄外務省条約局長ならびに大橋武夫法務総裁の見解と昭和六十一年の後藤田正晴官房長官の見解に意味の相違があるのならば、先の答弁書における「このように、我が国は、極東国際軍事裁判所等の裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。政府としては、かかる立場を従来から表明しているところである」という回答と矛盾する。政府は、昭和二十六年から現在にいたるまでに、いつ、いかなる理由により見解を変えたのか。昭和二十六年の見解と昭和六十一年の見解が異なる理由をあらためて問う。
 3 平和条約の正本は、英、仏、西の三カ国語のみであり、日本語訳は効果をもつものではない。その条約正本の一つである仏語条文によれば、「日本が何を受諾したか」に関する平和条約第十一条の箇所は、“Le Japon accepte les jugements prononces par le Tribunal Militaire International pour l′Extre^me−Orient"となっている。prononcesは「(言葉を)発する」「述べる」「宣言する」「言い渡す」という意味であり、prononces jugementsは「判決(複数)を言い渡す」という慣用句である。言い渡されるのは「判決」であり、「裁判」は言い渡されるものではない。ここから見るならば、平和条約第十一条の意味は、「日本は裁判を受諾した」のではなく、「日本は諸判決を受諾した」ものと解釈すべきと考えるが、政府の見解を問う。
 4 3の質問につき、もし政府が「諸判決」ではなく「裁判」を受諾したと解釈するのならば、その解釈は、平和条約第十一条仏語条文の“Le Japon accepte les jugements prononces par le Tribunal Militaire International pour l′Extre^me−Orient"の箇所をどのように翻訳することにより導き出されるのか。
二 「全国戦没者追悼式」ならびに他の追悼式における「A級戦犯」の位置づけと天皇皇后両陛下および内閣総理大臣の参加について
 1 首相官邸Webサイトにて公開されている「追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会」第二回(平成十四年二月一日)議事要旨において、「(全国戦没者追悼式の)『戦没者之霊』の中にはA級、B級、C級戦犯も含まれるということか」という委員の質問に対する「(厚生労働省)そういう方々を包括的に全部引っくるめて全国戦没者という全体的な概念でとらえている」という答弁が掲載されている。「全国戦没者追悼式」の追悼対象者には、「A級戦犯」として死刑判決を受け絞首刑となった七名、終身刑ならびに禁固刑とされ服役中に獄中で死亡した五名、判決前に病のため病院にて死亡した二名が含まれていると理解して間違いはないか。
 2 1の質問につき、仮に含まれていないとすれば、その理由は何か。
 3 「全国戦没者追悼式」において「A級戦犯」を含む全国戦没者を追悼してきたのだとすれば、政府はこれまで、「A級戦犯」が追悼対象に含まれる追悼式・施設等において天皇皇后両陛下および内閣総理大臣が公式に追悼することは、国内的にも、また国と国との関係においても、何ら問題ないと判断してきたものと考えられる。その判断はどのような理解、根拠に基づくものか。あらためて見解を問う。
 4 3の質問につき、「A級戦犯」を含む全国戦没者の追悼に問題がないと考えているのだとすれば、天皇皇后両陛下および内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は、「A級戦犯」を追悼することにつながるとの理由から制約されるべきなのか否かということについてはどのように考えるのか。政府の見解を問う。

 右質問する。



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