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平成二十二年六月十一日提出
質問第五六八号

予防接種健康被害の救済に関する質問主意書

提出者  阿部知子




予防接種健康被害の救済に関する質問主意書


 近年、新規ワクチン登場と公費接種、定期化の要望がしきりとなり、新型インフルエンザワクチンの輸入問題などが拍車をかけた「ワクチンギャップ」論と予防接種法改正論議が錯綜するなか、軽んじてはならない副反応、健康被害とその救済の観点から健全な議論に資することを願い質問を行う。
 ここでは、予防接種法第一条の理解、救済制度運用上の問題等をめぐって左に質問する。

一 平成六年改正において、予防接種法第一条に「予防接種による健康被害の迅速な救済を図る」ことを法の目的とする旨明記された。これはただ単に救済給付の申請から決定までを迅速に事務処理することを意味するものではないだろう。いかなる背景、考え方から付加された文言なのかを説明しながら、正しい解釈を述べよ。また、その解釈はどこに記されているか。
二 ところで、接種後に死亡、障害や深刻な副反応の症例が予防接種後副反応報告として自治体から厚生労働省に報告されることになったのは、平成六年改正以後であり、それ以前は国として副反応を把握するシステムがなかったという理解でよいか。またこのシステム構築の背景として、予防接種禍集団訴訟およびMMRワクチン薬害事件があった(平成十八年一月二十七日開催の第十一回予防接種に関する検討会における宮崎委員の発言)と理解してよいか。また、システム構築の背景について政府見解を述べよ。ただしこの質問は、健康局の体制を問題にしているのであり、薬事法上の副作用情報収集体制に関する答弁で終わることのないよう付言する。
三 このところ副反応報告など公表の遅れが目立っている。平成六年改正予防接種法が同年十月より施行され、予防接種後副反応報告が始まった。当初は前年度分の全国集計が遅くとも翌年秋には公表されてきたが、たとえば、平成十八年度の集計は、昨年(平成二十一年)一月十四日にウェブ上の公表という実態であり、一年以上も遅れていた。十八年度は、MR二種混合ワクチンが新規に導入された年であり、その副反応報告は国民にとって迅速に提供される必要があった。当初のペースであれば、現時点で、二十年度分がウェブ上に公表されてよいのであるが、十九年度分までにとどまっている。かつて質問した後も改善されていない(平成二十年十月三十一日受領 内閣衆質一七〇第一五〇号)。他にも、疾病・障害認定審査会感染症・予防接種審査分科会の審議結果公表が昨年九月で終わっているなど、予防接種後副反応・健康状況調査検討会の迅速な検討と公表、はては法第一条(目的)でいう「健康被害の迅速な救済を図る」ことまで停滞しているかのように見える。その理由と具体的な改善策を明らかにされたい。
四 前述の通り平成六年改正予防接種法において、第一条(目的)に「健康被害の迅速な救済を図る」と明記されたが、それ以前と現在までにどれほど迅速な救済が実現されているか、審査体制等変更の事実と具体的な処理期間の分析を添えて説明されたい。ちなみに独立行政法人医薬品医療機器総合機構が運用する医薬品副作用被害救済制度においては、受付から決定までの処理の迅速化で八ヶ月をめざし、既に当初の目標を達成、今や六ヶ月をめざしているやに聞いている。
五 被害実態の調査は法施行から五十年後、ようやく平成十年度に厚生科学研究で実施された。二回目は平成二十年度に予防接種リサーチセンターの事業として実施、結果は同センター「手つなぎ」誌上にしか発表されていない。また、伝え聞くところによれば、集団訴訟の過程で、東京大学白木博次氏(神経病理学、故人)、京都大学田中昌人氏(発達心理学、故人)、日本福祉大学二木立氏(医療福祉)らにより、被害者と家族の詳細な調査が行われ、被害実態、家族の状況などが観察され、集団訴訟の法廷に提出された模様である。予防接種後の健康被害とはどのようなものなのか、右の各種調査を厚生労働省はいかに把握しているのか、認定患者の被害実態について数的な実態のみならず、疾病・障害の部位、診断名、重症度、社会復帰の可能性、家族の心身あるいは経済的負担等々について概説されたい。また近年において、認定被害者らから保健福祉等に関していかなる要望があり、厚生労働省はどのような対応をしてきたのか、併せて答弁されたい。
六 平成十九年度予防接種後副反応報告の集計表累計によれば、平成六年十月以来報告された予防接種後の副反応が、基準外報告を除いて五、二七五件ある。また、平成二十一年三月、厚生労働省提供の「平成六年法改正以後の認定状況」によれば、健康被害認定申請件数は一、三五四件であった。後者が前者に占める割合、これを仮に救済制度利用率とすると、利用率はわずか二十六パーセントということになる。また、接種後に異常があったものの、患者家族や担当医が副反応の可能性に思い至らず報告されない場合も相当数あり得る。こうしたことから、救済制度が有効に利用されていない可能性が懸念されるのである。これまで、厚生労働科学研究、もしくは厚生労働省においてこの問題をテーマとした調査研究の実績はあるだろうか。接種医、副反応症例にかかわる医師、市町村など行政にとって給付申請は喜ばしいことではない。制度利用を阻害するものがあるとすれば何か、実態の調査が必要であり、救済されてしかるべきものが漏れなく申請に至ることができるために必要な措置が講じられるべきと考える。政府の見解はいかがか。
七 近年の三件ほどの否認事例について検討する過程で、左に示す通り、認定審査と審査請求に関する問題が懸念される。最初の認定審査請求により厚生労働大臣が諮問、疾病・障害認定審査会が審査結果を答申、大臣から都道府県経由で市町村、そして請求者に通知される不支給決定通知に記載される否認理由が、ほとんど誰にも理解できない表現であることがわかった。現状は、否認理由として次の五種類が用意されていて審査の結果は、その中からどれか一項が選ばれて記載されることになっている。
 1 予防接種と疾病との因果関係について否認する明確な根拠はないが、通常の医学的見地によれば否定する論拠があるため。
 2 予防接種と疾病との因果関係について否定する明確な根拠がある。
 3 疾病の程度は、通常起こりうる副反応の範囲内である。
 4 障害の程度は、政令に定められる障害に相当しない。
 5 因果関係について判断するための資料が不足しており、医学的判断が不可能である。
  次の各項について政府の見解を述べよ。
  (一) 古くはパターン化された理由表記ではなく、一応個別具体的な説明の体裁がとられていたが、いつからいかなる理由をもって右のパターン化された表記に変更されたのか。
  (二) 1の説明で不支給決定を通知された場合、「通常の医学的見地によれば否定する論拠がある」というものの、その「論拠」は示されない。つまり、その理由説明は説明とは認めがたく、全く理解できないし、承服しがたく、審査請求しようにも否認された理由を推認すらできないというべきである。このような行政処分がまかり通る正当な根拠、論拠があるのか。
  (三) 平成十年七月公衆衛生審議会感染症分科会予防接種問題検討小委員会報告によれば、その3の(6)の(5)に「予防接種と健康被害の因果関係の有無の判定は極めて難しい問題であり、専門的観点からの検討が必要であるが、因果関係の有無やその判断理由、蓋然性の程度等について、因果関係を認めた場合と認めない場合のいずれの場合においても、健康被害者やその保護者に対して的確に伝えることが重要である。」というくだりがあり、これに対し現状はまさに逆行している。その報告書作成時の委員の一人は「決定通知が『報告書の考え方との大きなギャップがある』ということになり、委員の一人としての私も、洵に残念に存じております」と述べている。このはなはだしい齟齬について政府の見解はいかがか。
  (四) このような行政処分が行われている中、わが子の死や障害に悲嘆し、因果関係を否認された請求者は、傷ついた心をさらに逆なでされつつ、慣れないことに心身ともに苦労しながら認定審査会の議事録を請求することになる。しかし、そこでも大きな壁があり、肝心な部分が「委員の自由な発言を保障するため」と称してマスキングされて否認理由がさっぱりわからないというやるせない現実に再びぶつかるのである。これについては、昨年(平成二十一年)十一月九日、参議院で島田智哉子議員が取り上げたところ、その事例について自ら確認した長妻厚生労働大臣が、マスキングを見直す旨答弁、鳩山総理大臣もそれを追認する答弁をしている。その答弁後、マスキングの見直しがされていると聞いているが、進捗状況はいかがか。
八 前項のマスキングの見直しは、厚生労働省所管の医薬品副作用被害救済制度等類似の制度、及び他の省庁においても健康被害救済制度があり、それらにも適応されるべきと考えるが、見解はいかがか。マスキングの見直しが検討される必要があるやもしれない類似の健康被害救済制度にあたるものは何か、名称と所管省庁及び部局名を列挙されたい。さらに広く情報公開法等の運用上、検討と変更を求められることがないのか、検討すべきではないか。
 ワクチンの有効性・有用性・必要性等とまったく同等に負の側面、必ず生じる被害者、その救済問題が論じられなければならない。厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会における論点にはそれらが含まれているものの、さらに認識が深まることを願うものである。

 右質問する。



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