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平成三十年十二月五日提出
質問第一二四号

精神科医療の提供体制に関する質問主意書

提出者  柚木道義




精神科医療の提供体制に関する質問主意書


 精神科を受診する方は年間三百二十万人を超え、誰でも安心して気軽にかかれる精神科医療の充実は国民的な課題である。しかしながら、わが国の精神科医療は、いまだに施設療養中心で世界的な潮流に遅れており、しかも他の一般病院に比べて低医療費に抑えられ、医療スタッフの人員も極めて少ない状況である。かつてから疾患治療より社会防衛的な観点が精神疾患に対する差別や偏見をもたらし、世界的にも類を見ない長期にわたる社会的入院や隔離・身体拘束による人権侵害をもたらし、国際的にも批判を受けている。
 わが国は二〇一四年に障害者権利条約を批准しており、すべての人の人権が尊重され、患者・利用者本位の精神保健医療福祉へと改革をはかることが必要である。精神科にかかる患者・利用者も含め誰もが地域社会の中で、その一員として安心して暮らし続けられるような社会づくりが求められている。
 このような観点から以下、質問する。

一 精神科病院に長期入院している患者の社会復帰について、政府は何度も目標を設定して取り組んできたがいずれも失敗してきた。一九九六年の「障害者プラン」では二万数千人の精神障がい者の社会復帰の目標を掲げたが、一万人弱と目標の半分にも達せず失敗。二〇〇二年の「新障害者プラン」でも七万二〇〇〇人の社会的入院を十年間で解消するとしたが、これも実現せず失敗。二〇〇四年には「精神保健医療福祉の改革ビジョン」を発表し受入条件が整えば退院可能な者(約七万人)の社会的入院を十年後に解消するとしたが、この改革ビジョンも失敗した。
 精神科医療における改革の進め方を抜本的に改めなければ長期的入院や社会的入院も含めて、わが国の精神科医療の諸問題を解決できないと考えるが見解如何。
二 医療は本来、少ない患者に対して、医師や看護師その他の専門職が手厚く患者の個別問題に適切に対応できるような人員体制とするのが理想である。しかしながら、殊にわが国の精神科医療においては患者一人あたりの入院単価が安い(他の一般病院と比較して約三割とも言われる)ため、多くの患者を入院させたうえで職員の人件費を抑えねば経営が成り立たない構造にある。そしてこれを後押しする看護師の配置基準(精神科について一般病院の療養病床よりも少ない看護師の配置も認めている特例)が定められている。これらにより、精神科病院はいわば「薄利多売」的な経営構造になっている。ここにメスを入れなければ、精神病患者の長期入院は減らないと考えるが見解如何。
三 ベルギーは、わが国の精神科医療と同様に民間精神科病院が中心で、精神科病床数が多く、平均在院日数が長いなどの特徴があった。ベルギーでも精神科医療に関する幾度の改革と失敗を経ているが、二〇一〇年から始まった第三次改革では、政府主導のもと地域の特性も鑑み、各精神科病院が自主的に病床を削減し、それまでの病院収入を保障されながら精神科病院にいた医師・看護師等を「モバイルチーム」へと移管させて地域の精神科治療にあたるように改め、政府も人口に応じた地域別のモバイルチームの数値目標を定めて、精神科病院もこの目標を実現することが義務となり、病床削減させつつも、より集中的なケアを提供する病床を置くことを認められるなど様々な取り組みを進め一定の成果を得ている。
 これを参考に、わが国も精神科病院の収入保障や職員の雇用保障や教育・研修を行いながら病床数を削減して地域へと患者を移行させスタッフも地域へと移管させ、あわせて地域での精神保健医療福祉の予算の拡充をはかりスタッフも患者も予算の上でも地域に軸足を置いた精神保健医療福祉へと改革を進めるべきだと考えるが見解如何。
四 カリフォルニア大学バークレー校社会学科教授のマイケル・ブラウォイ博士(国際社会学会会長)は、政策決定を官僚制と市場原理に任せていると国民と政府の間に乖離が生じ、危機的状況が発生すると論じている。ベルギーでは精神医療改革を進める際にこの問題意識を基に、政策決定にあたりトップダウンとボトムアップを共存させ、専門家による科学的知見と患者・家族・実践者による経験的知見を統合させ、改革の目的を「患者・家族のニーズを実現して『リカバリー』を促進する」こととして合意をはかり、新たな公共統治と新たな公共管理を進めるという「ポスト官僚制」の取り組みを進め、精神科医療改革について一定の成果を上げている。
 わが国でも精神保健医療福祉の改革を進めるにあたり、精神科医や精神科病院団体と厚生労働省の官僚を中心とした政策決定から、治療を受ける患者と家族を「経験ある資産」と位置づけた上で、政策決定の場に多数の患者・家族、精神保健医療福祉現場の看護師・介護職・コメディカル等の従事者、労働組合及び地域住民も同じように参加させ重要な政策決定や治療プロセスに関わるボトムアップとトップダウンを組み合わせた政策決定等へとプロセスを変えねばならないと考えるが見解如何。
五 患者の治療より社会防衛的な観点からなされてきた人権侵害ともいえる社会的入院をこれまで長期にわたり進めてきたことを政府は率直に謝罪すべきだと考えるが見解如何。

 右質問する。



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