質問本文情報
令和六年六月十二日提出質問第一三六号
技能実習生・留学生らの妊娠・出産に関する抜本的な対策に関する質問主意書
提出者 阿部知子
技能実習生・留学生らの妊娠・出産に関する抜本的な対策に関する質問主意書
技能実習生や留学生が孤立した状態で出産や中絶をする事件が跡を絶たない。送り出し機関や受け入れ機関が「妊娠してはいけない」と警告したり、実際に妊娠した女性に退職や退学、さらには帰国を迫ったりするため、相談しづらいことが背景にある。
妊娠や出産をめぐる事件や裁判の当事者の出身国は、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、スリランカと多岐にわたり、各種報道や関係団体調査によれば、十五件もの事例があり、特定国の出身者に固有の問題ではなく、受け入れ国である日本政府の不作為が問われるべきではないかといえる。
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の報告書は、妊娠や出産については全く触れられておらず、今般のいわゆる入管法改正で、技能実習制度が育成就労制度に改められても、家族帯同は認められないことから、抜本的な対策が検討されているとは言えない。
以上を踏まえ、以下、質問する。
一 技能実習生に関しては、法務省・厚生労働省・外国人技能実習機構が、二〇一九年三月十一日に「妊娠等を理由とした技能実習生に対する不利益取り扱いについて(注意喚起)」を実習実施者や監理団体に対して発出後、二〇二一年二月十六日、同年五月十四日、二〇二二年十二月二十三日と、数次にわたって法令順守を呼びかけている。また、二〇二一年五月十四日には多言語で技能実習生向けの資料も公開している。しかし、国会における政府答弁で明らかになったデータ(例えば、二〇二一(令和三)年三月十二日牧山ひろえ参議院議員提出「外国人技能実習制度をめぐる各種のトラブルに関する質問主意書」(第二百四回国会質問第三四号)に対する答弁書(二〇二一年三月二十三日)や二〇二四(令和六)年五月十日に衆議院の法務・厚生労働委員会連合審査会での阿部知子議員への政府答弁。)を見ると、技能実習生が妊娠・出産後に実習を継続できるよう改善が見られたとは言えない。@妊娠・出産を理由に「技能実習困難時届」が出された数のうち、A「技能実習の継続意思を有するもの」、さらにB「技能実習を再開する技能実習計画の認定が確認できたもの」の集計結果を、二〇一七年十一月一日のいわゆる技能実習法施行時を起点に二〇二〇年十二月三十一日までの三十七ケ月間と、二〇二二年三月三十一日までの五十三ケ月間の集計結果を見ると、@妊娠・出産を理由とした技能実習困難時届数は、年間二百七件から三百五十二件へと増えている。しかし、A技能実習の継続の意思を有するもののうち、B再開する技能実習計画の認定が確認できたものは、二十三・四%から十七・二%へと減少している。注意喚起だけでは、技能実習生が産前産後休業や育児休業を取得してから実習を再開することは困難であると考えられる。
1 政府は、この集計結果を定期的に公開するとともに、実習を再開できない理由を精査すべきではないのか。
2 政府は、二〇二二年四月以降の集計状況を示すとともに、その結果をどう受け止め、これまでの対応をどう評価しているのか、見解を示されたい。
二 二〇二二年に外国人技能実習機構が行った「技能実習生の妊娠・出産に係る不適正な取扱いに関する実態調査」では、六百五十人中百七十二人(二十六・五%)が「妊娠したら仕事を辞めてもらう(帰国してもらう)」と直接言われたと回答している。政府は、これまでの国会答弁で、妊娠等による不利益取り扱いを行った監理団体や実習実施者、送り出し機関では、いわゆる男女雇用機会均等法違反による認定取り消し等の行政処分になった例は一件もないと報告している。受け入れ機関による妊娠の制限は、二〇〇〇年代から報じられているが、二十年近く実効性のある対策が取られていないのではないか。妊娠の制限や警告をした監理団体や実習実施者、送り出し機関を調査し、行政処分を課すことがなければ、不処罰の連鎖は続いてしまう。
1 政府は、この調査をどう評価しているのか。
2 上述の注意喚起文書の発出以外に、行政処分を課すこと等を念頭に入れた受け入れ機関の調査を行っているのか、その対応の内容を示されたい。
三 技能実習生だけでなく、留学生も妊娠の制限を受けたり、退学になったり、奨学金の支給を停止されたりする例があることが、田中雅子「日本における移民女性の予定外の妊娠と避妊や中絶サービスへのアクセス−アジア五カ国出身者に対するオンライン調査から−」(国際ジェンダー学会誌 二〇二二)や田中雅子・高向有理・鹿毛理恵「日本で暮らす留学生のための包括的セクシュアリティ教育:調査結果に見るその必要性と教材の開発」(二〇二四 上智大学アジア文化研究所)で明らかになっている。
一方、文科省は、妊娠による高校生の退学について、二〇一五年(平成二十七年)四月から二〇一七年(平成二十九年)三月までに実施した「公立の高等学校(全日制及び定時制)における妊娠を理由とした退学に係る実態把握調査」を行い、「安易に退学処分や事実上の退学勧告等の対処は行わない」ことを求める旨、「公立の高等学校における妊娠を理由とした退学等に係る実態把握の結果等を踏まえた妊娠した生徒への対応等について(通知)」を出している。文科省は、高校生だけでなく、留学生についても実態調査を行い、妊娠の制限等をしている受け入れ校に対して指導をすべきではないか。出入国在留管理庁が毎年公表している「在留資格取消件数」や二〇二二年(令和四年)八月に公表された「在留外国人に対する基礎調査報告書」、日本学生支援機構(JASSO)が毎年実施している「外国人留学生在籍状況調査」や隔年で実施している「私費外国人留学生生活実態調査」等、現在行っている調査に「妊娠・出産」に関する項目を加えることで、妊娠した留学生の退学や帰国に関する問題把握や、その結果を踏まえた学校等への不利益取り扱い禁止の働きかけは可能だと考えられる。日本人が諸外国に留学した場合、妊娠による休学が問題になることはまずない。この問題を放置することは、相互主義の破綻とみなされ、留学先としての日本の地位の低下が懸念される。
以上をふまえて、政府は、現状把握のための調査実施の見通しや、留学生施策の中での対応について見解を示されたい。
四 二〇二三年六月末現在、日本には、中長期の在留資格がある三百二十二万の外国人が暮らしている。「在留資格別・性別・年齢層別在留外国人統計」に示すように、半数以上の百六十二万人が女性である。うち特定の活動のみ認められる「活動系」の在留資格の女性七十一万人の九割にあたる六十四万人は、国連の統計で生殖可能年齢に区分される十五歳から四十九歳である。さらにその内訳を在留資格別に見ると、「技能実習」の十五万人、「留学」の十四万人、「特定技能一号」の八万人は、ほとんどが生殖可能年齢である。「第五次男女共同参画基本計画」の第七分野「生涯を通じた健康支援」には施策の基本的方向として、いわゆる成育基本法に基づき妊産婦に対し必要な成育医療等を提供することが定められ、具体的な取り組みとして、女性健康支援センターなどにおいて、予定外の妊娠の悩みに対する支援を推進している。また、二〇一五年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)における目標三のターゲット3・7は「二〇三〇年までに、セクシュアル/リプロダクティブ/ヘルス・サービスへのあらゆる人々のアクセスを保障すること」、目標五のターゲット5・3は「セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルス・ライツへの普遍的アクセスを確保する」を目標としている。これらの施策は、言うまでもなく、技能実習生や留学生も対象になるが、彼女たちが予定外の妊娠や孤立出産を防ぐために十分な対応はなされているのか。出入国在留管理庁が行っている「在留外国人に対する基礎調査」では、二〇二二(令和四)年度に「妊娠・出産についての困りごと」として、「費用が高い」に続いて、「学校や仕事がつづけられるか」と「相談できるところや人がいない」が「言葉が通じない」より上位の回答となっている。また、二〇二三(令和五)年度の同調査は、所属機関に対しても行われており「相談内容」として十九・三%が「妊娠・出産」を選択している。さらに「相談対応に必要だと感じること」として「妊娠・出産に関する知識」を選択した回答は、所属機関十八・二%、外国人十三・五%にのぼる。これらの調査から、妊娠・出産の相談は少なくないにもかかわらず、相談受け入れ体制が不十分であることがわかる。
以上を踏まえ、外国人に対する情報提供や受け入れ機関における教育や研修、さらに相談体制の改善策について見解を示されたい。
右質問する。