質問本文情報
令和七年五月二十六日提出質問第二〇三号
PFAS(有機フッ素化合物)対策における健康調査等の見直しのあり方に関する質問主意書
提出者 阿部知子
PFAS(有機フッ素化合物)対策における健康調査等の見直しのあり方に関する質問主意書
昨今、基地や工場周辺で高濃度汚染が発覚しているPFAS(有機フッ素化合物)は、現在の我が国での規制では、水質管理目標設定項目に位置付けられ、暫定目標値五十ナノグラム/L(PFASの一種であるPFOSとPFOAの合算)とされていると承知している。幸い、来年度から水質基準への格上げによって、PFASについて、自治体や水道事業者に定期的な水質検査等が義務付けられることになるが、米国EPA(環境保護庁)の飲料水基準(四ナノグラム/L)に比して、高いという指摘があり、対策として慎重に検討されるべきである。食料品の安全性の確保という意味でも飲料水の基準値は大きく影響する。また河川や地下水などの環境への影響についても、汚染地の拡大が報告されており、今後、水質汚濁防止法改正により環境への汚染拡大を防ぐ必要もあると考える。
そんな中、内閣府食品安全委員会(以後、安全委員会)が二〇二四年六月に示した食品健康影響評価(リスク評価)では、PFOSとPFOAそれぞれの耐容一日摂取量が二十ナノグラム/キログラム体重/日とされた。しかしながら、この基準や議論をめぐって、安全委員会有機フッ素化合物(PFAS)ワーキンググループの計九回の会議とは別に、「ドラフティンググループ」という非公開会議を二十四回も開催していたことが、川田龍平参議院議員の指摘で明らかになり、国民的関心事であるPFAS対策について、広範かつ公開した議論であるべき安全委員会の姿勢には疑念が持たれていると考える。
安全委員会が掲げる、国民の健康保護が最も重要であるという基本的認識のもとに、一貫性、公正性、客観性及び透明性を持って食品健康影響評価とリスクコミュニケーションを行うという使命を踏まえるならば到底許されない審議過程だと考える。そこで、PFAS対策に係る政府の対応について、以下質問する。
一 安全委員会の評価書のリスク評価及びリスク管理の中で、繰り返し暴露のデータが不十分という表現がある。リスク評価では、「PFASにばく露され得る媒体におけるPFAS濃度についても、現時点では情報が不足」とあり、リスク管理では、「指標値を超過しても必ずしも健康影響を及ぼすものではないこと」とある。その後に血中PFAS濃度測定についての今後の検討は記載されているものの、本年五月七日の衆議院厚生労働委員会で私が総務省消防庁及び防衛省に質問した際にも、現時点でどの程度で血中濃度の健康影響が生じるかは明らかになっていない旨答弁されている。
安全委員会の審議において、評価書で選ばれた論文の中で、健康影響があるとするものが除外された事実はあるか。
二 PFASの半減期は、二年から八年と非常に長い。米国では、一九六〇年代からPFOAの毒性について、工場内外での影響が明らかになっており、米国デュポン社内部文書によれば、一定期間暴露せずとも、飲み水だけでなく、大気(空気)や経口など多岐にわたる経路からの健康影響が懸念されている。また、健康被害についての住民訴訟などの裁判過程の中で、米国内では職業暴露についてのデータ集積が進んでおり、米国CDC(疾病予防管理センター)なども成果を発表していると承知している。
他方、日本国内では大阪府摂津市で、土壌の汚染も確認されている。例えば、汚染された土壌で育てた野菜などを食することで、暴露にもつながり、血中におけるPFAS濃度が自然に上昇することが確認されている。また、同市や静岡市清水区では、かつて職業暴露をしたと思われる方々が多くおられることが各種血液検査や報道で明らかになっているが、この多くは、住民や主催者らの自己資金によって実施された。清水区の事例では、当該企業が元従業員に各種血液検査を実施したというが、その結果は広く公表・共有されていないと承知している。
1 安全委員会が評価した文献の中に、こうしたPFASを扱う労働者の職業暴露について幾つの文献・論文等を参照したか。国内外問わず可能な限り示した上で、その特徴をどうまとめ、評価したか。
2 PFAS(特に、PFOA、PFOS)は、現在国内での使用・製造はされていないと理解するが、長くて五十年から六十年以上、工場で扱ってきた方もおられると承知している。その間も毒性が現場で指摘されてきたと理解するが、二〇二二年の労働安全衛生法の改正で述べられた潜在性のリスク評価について、政府としてこれまでどのような取組がされたのか。
3 がんや肺繊維症の因果関係についての論文等も出されている。例えば、本年四月二十三日に発表された「High serum perfluorooctanoic acid (PFOA) concentrations and interstitial lung disease in former and current workers in a fluorochemical company」という論文で、摂津市ではPFOAを含む粉じんを吸い込みやすい環境で作業してきた五名のうち、二名が間質性肺炎、一名が間質性肺疾患との因果関係が指摘されている。摂津市の事例では、二〇一二年までPFOAを使用していたというが、長年の職業暴露の影響ではないかと指摘されている。こうした事例からも、政府として積極的に退職者も含めた長期の健康影響を調査すべきでないか。
4 三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社の清水工場では、下請業者として四十年以上PFASを扱っていた従事者の方もおられると承知している。企業任せにせず、当該企業社員に加え、従事したすべての人にもれなく追加検査を実施する仕組みなどを、政府として確立すべきでないか。
三 我が国では、自治体(公的機関)主導の血液検査が岡山県吉備中央町で二〇二四年十一月二十五日から同年十二月八日に実施され、七百九名の採血が行われた。その後、本年一月から三月にも幾度か再検査が実施された。直近の結果で健康影響への起因性は見られないものの、次回は五年後に検査が実施されると承知している。それまでの間、住民の健康不安を拭うためのフォローや相談機関の設置は不可欠だと言えるが、とりわけ、いわゆるバイオモニタリングは重要だと考える。
1 吉備中央町に加え摂津市での市民主体の血液検査でも、PFOA等の高い値が報告されていると承知している。政府としてそうした事象を継続して経過観察するべきでないか。
2 政府は、バイオモニタリングの必要性、そこから得られる知見の活用をどう考えるか。またそれに見合うフォローアップ体制のあり方についてはどう考えるか。
3 血液検査の費用について、一検体(七物質)で約十七万円を要する検査もあると承知している。いずれにしても高額負担であり、自治体または企業任せにせず、政府も何らかの費用負担をすべきでないか。
4 政府は、追加的血液検査の実施と費用負担をすべきでないか。
四 PFASは現在、労働安全衛生法上の特定化学物質ではない。さらに、特定健診の対象にもなっておらず、ゆえに職業暴露上のデータも残されていないと承知している。
他方、米国ではPFAS関連物質を扱うであろう消防隊員については、防護具着用などの暴露防止対策を一層強めている。加えて、二〇一八年にいわゆる消防士がん登録法を制定し、がんのリスクに備え消防士の情報を収集するための任意の登録制度を設けていると承知している。
また、米国国防省所属消防士についても、「職業医療検査−医療観察及び医療的適格性認定−」(Occupational Medical Examinations: Medical Surveillance and Medical Qualification)という二〇二二年七月二十七日発行、二〇二四年四月五日に更新されたマニュアルに基づき、任意のPFAS血液検査を実施していると承知している。この検査結果は、当該消防士の職業健康記録に記録され、医療観察手順は適用しないまでも、従事される方ご自身が暴露状況を把握する上でも重要であるといえる。
一方、日本国内の消防機関ではいまだにPFOAは七・四万リットル、自衛隊関連施設では四万リットル残っており、職業暴露も起こりうる可能性があると考える。
政府は、米国の取組などを参考に予防的措置はとりつつ、同時に消防士や自衛官、また、空港における飛行機等整備や作業従事者なども含め血液検査の実施と長期フォローに取り組むべきではないか。
五 在日米軍基地周辺でもPFAS、特にPFOS汚染が判明しており、基地内でのPFASを含む泡消化剤の長期使用が原因といわれている。米国の報道によれば、米軍退役軍人省が、海外の米軍基地でPFASに暴露した可能性のある退役軍人を対象に血液検査を開始したということが、二〇二四年十二月十三日に開催された防衛省と全駐留軍労働組合との団体交渉で言及された。また、日本人従業員については、十分な健康影響調査やフォローされていないとの指摘があったとされている。
1 同団体交渉の際、防衛省は環境省作成のPFOS及びPFOAに関する対応の手引き(第二版)に言及した上で、「PFOS等を含む泡消火薬剤を取り扱った可能性のある従業員の名簿の作成などについては、今般着手を始めたところだ」と回答したと承知しているが、本名簿の作成状況はどうなっているか。
2 同団体交渉の際、日本人従業員に対する健康診断でPFAS測定も含む血液検査の実施も要請されたと聞くが、政府においてそのような予定は検討されているか。
右質問する。