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令和七年五月二十八日提出質問第二〇八号
判例の蓄積に依存する声の権利の保護のあり方に関する質問主意書
提出者 八幡 愛
判例の蓄積に依存する声の権利の保護のあり方に関する質問主意書
令和七年五月二十六日付の日本経済新聞朝刊において、経済産業省知的財産政策室長が、「俳優らが求める「声の権利」については判例の蓄積を待つことにした」と発言し、いわゆる声の権利について、法改正や指針の策定を行わず、判例の蓄積を待つ方針を明らかにしたと報じられた。
一方で、生成AIの進展により、声優や俳優の声を模倣・合成し、本人の許可なく使用する行為が急速に広がっており、人格的・経済的権利の侵害が深刻化していると承知している。にもかかわらず、政府が制度整備を行わず、民事訴訟による判例の蓄積に委ねる姿勢を取ることは、実効的な救済手段を政府が主体的に整備していないとの懸念を生じさせていると考える。
よって、以下の点について政府に質問する。
一 政府は前記発言を把握していたか。また、その発言内容は政府全体としての正式な方針に基づくものか、見解を示されたい。
二 声の権利に関する制度的対応として、法令や指針による明示的整理を行わず、司法判断の集積をもって社会的ルールの形成を期待するという考え方には、実効性・予見可能性・被害者負担の面で課題があると考えるが、政府の見解を示されたい。
三 裁判による権利の形成は、時間を要するうえ、事案ごとの個別性により判断に一貫性を欠くおそれがあり、判例に依拠した保護体系では、当該権利が未確立の段階にある間、被害の抑止も救済も困難となると考える。このような状況を踏まえ、政府は制度的整理を前提とせずに司法判断に委ねる姿勢を適切と考えるか、見解を示されたい。
四 キャラクターの声が生成AIにより模倣・使用される場合、その声は声優の人格的権利であると同時に、作品や企業が管理するキャラクターの商品的価値とも不可分に関係しており、声優単独では訴訟を起こしにくい構造的制約がある。特に、キャスティングや契約関係を継続する必要がある立場の表現者にとって、訴訟提起は現実的に選びにくい選択肢となり得ると考える。この点について、政府の認識を示されたい。
五 前記のような構造的制約やリスクを踏まえず、提訴を通じて判例を蓄積するとの方針を打ち出すことは、制度整備責任の先送りに等しいとの批判が生じると考えられるが、政府の見解を示されたい。
六 声優や俳優等による個別訴訟の困難性を軽減する観点から、(1)業界団体や職能団体による代理訴訟の制度化、(2)本人特定を避けた匿名性の高い手続の導入、(3)裁判を経ずに申立てが可能な行政手続(相談窓口や是正勧告制度など)の整備について、政府の検討状況をそれぞれ示されたい。
右質問する。