質問本文情報
令和七年六月十日提出質問第二四二号
忘れられる権利の制度的整備に関する質問主意書
提出者 八幡 愛
忘れられる権利の制度的整備に関する質問主意書
インターネット上に蓄積された過去の個人情報が、検索技術等の発展により事実上半永久的に参照可能となる今日において、「忘れられる権利」は、個人の人格的自律や更生権、自己情報コントロール権の観点から、国際的に重要性を増していると考える。
欧州連合においては、二〇一四年の欧州司法裁判所判決を契機として、二〇一八年に施行されたいわゆる一般データ保護規則(GDPR)第十七条において、個人が自己に関する情報の消去を請求する「消去権」が明記された。これにより、個人は、過去の一定の情報について、検索エンジン運営者等に対して削除を求める権利を法的に保障されていると承知している。
一方、我が国では、いわゆる個人情報保護法における利用停止請求・削除請求や、検索結果削除をめぐる一部の判例等が存在するものの、制度としての確立や行政手続の整備は十分とは言い難い状況にあると考える。
二〇二二年の個人情報保護法改正や二〇二四年のいわゆる個人情報保護法ガイドライン改正では、削除請求の実務運用が一部整理されたが、依然として迅速かつ低コスト救済やプラットフォーム事業者の対応の明確化が課題となっている。また、AIによる自動再投稿、社会的制裁の永続化、偽情報の蔓延といった新たな課題も浮上し、報道の自由・学術研究・いわゆる公益的アーカイブ保存等との調整の必要性も指摘されていると承知している。加えて、日本国憲法第二十一条第一項が保障する表現の自由及び報道の自由、国民の知る権利との適切な均衡を確保することは、民主主義社会における知る権利・検証可能性を担保する上で不可欠であると考える。
また、我が国が提唱する「Data Free Flow with Trust」の理念との整合性を確保しつつ、国際社会との信頼関係を維持する観点からも、被害救済やプラットフォーム事業者への対応を含めた制度的検討が急務であると考える。
ついては、政府に対し質問する。
一 制度の現状とその評価について
1 政府は、現行の個人情報保護法上の利用停止請求・削除請求が、「忘れられる権利」を事実上保障していると認識しているか。また、同法が国際的基準(GDPR等)と比較して十分な内容であると評価しているか、それぞれ見解を示されたい。
2 いわゆる検索エンジンのインデックス(検索結果)からの削除を請求する権利について、現行法上で明文規定が存在しない理由及び二〇二二年の個人情報保護法改正過程において条文化が見送られた経緯をそれぞれ明らかにされたい。
二 被害救済の実効性と行政手続の整備について
1 現行制度では、削除請求が認められるまでに平均してどの程度の期間を要し、費用が発生していると政府は把握しているか。把握しているのであれば、それぞれ可能な限り明示されたい。
2 民事訴訟や仮処分に代えて、行政的又は準司法的手段(個人情報保護委員会による、裁定、あっせん、行政指導など)によって迅速な削除要請を可能とする制度の検討状況をそれぞれ可能な限り示されたい。
3 個人情報保護委員会における削除請求に関する相談件数、削除に関する助言及び勧告の件数(直近年分)についてそれぞれ可能な限り明示されたい。
三 新技術・二次流通・子どもに関する課題について
1 AIによる自動要約や生成技術によって、削除済み情報の再生成や二次拡散が容易となっている現状に対し、国民の「忘れられる権利」を守るため、どのような規制的・技術的対応を検討しているか。
2 検索結果削除が認められたにもかかわらず、アーカイブサイトやいわゆるキャッシュ情報により情報が残存している事例について、削除後の追跡的措置や再表示の有無を政府として調査及び検証しているか。
3 児童・生徒が過去にSNS等で公開した投稿や写真が長期間にわたり検索可能となる問題について、各府省庁はどのような調査及び対応を行っているか。
四 公共利益との調整に関する課題について
1 重大犯罪報道や公益的アーカイブの削除請求に関し、政府はどのような公共性評価指標の策定を検討しているか。
2 表現の自由に資する報道、学術研究、歴史的記録の保存という公益と「忘れられる権利」の両立を図るため、政府は指針又は具体的評価基準を策定する予定があるかを示された上で、報道機関・学術機関等との協議体の設置可能性について、政府の検討状況を示されたい。
五 国民への情報提供と制度改善に向けた指針について
1 政府が国民に対して「忘れられる権利」やその類似概念(いわゆるデジタル遺産、自己情報コントロール権など)について啓発を行った事業の件数、内容、対象層(学校教育、自治体広報など)をそれぞれ可能な限り明示されたい。
2 政府として、今後「忘れられる権利」を独立した権利概念として立法上明確化する検討を行っているか。行っているのであれば、その際に参考としている他国法制があれば可能な限り示されたい。
右質問する。