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令和七年十二月十日提出
質問第一三三号

ロシアによるサイバー空間での選挙介入に関する質問主意書

提出者  鈴木庸介




ロシアによるサイバー空間での選挙介入に関する質問主意書


 ロシア語で土地改良・開拓に従事する人を意味する「мелиоратор(Meliorator)」という語を名称に持つソフトウェアが、いまロシアによる対外情報工作の基盤として使われていると指摘されている。
 この Meliorator は、AI やアルゴリズムを用いて、プロフィール写真・略歴・位置情報・政治的関心などを備えた「本物らしく見える架空の人物(ペルソナ)」を自動生成し、それらのアカウントに X(旧 Twitter)上で投稿や「いいね」「リポスト」などの行動を自動的に行わせる、AI を組み込んだボット農場生成・管理ソフトウェアとされる。
 さらに、その運用にあたっては、いわば司令塔となる管理用パネルとしてのソフトウェア「Brigadir」と、ボットの行動シナリオを制御しコンテンツを実際に投入(シーディング)していくバックエンド・ツール「Taras」が用いられているとされる。Brigadir は、各ボットの「人格(souls)」や行動パターン(thoughts)を設定・管理するための管理画面であり、Taras は、それに基づいてボットに投稿・リポスト等を実行させる自動化エンジンの役割を果たしていると報告されている。
 米FBI・米サイバー軍の一部である Cyber National Mission Force、オランダの情報・治安機関、カナダのサイバーセンターなどが共同で公表した「State-Sponsored Russian Media Leverages Meliorator Software for Foreign Malign Influence Activity」(二〇二四年七月九日)というサイバー・アドバイザリは、Meliorator を「AI を活用したボット農場の生成・管理ソフトウェア」と位置付け、米国、ポーランド、ドイツ、オランダ、スペイン、ウクライナ、イスラエルなど複数の国を対象としたプロ・クレムリン的な偽情報の拡散に用いられていたと指摘している。
 またカナダのサイバーセンターも、Meliorator によって「本物らしく見える架空の人物(fictitious personas)が作成され、管理用パネル Brigadir=A拡散用ツールTaras≠通じて偽情報が投稿された」と明言している。

一 こうした生成 AI を組み込んだソフトウェアによって、ロシアは他国の選挙や政治プロセスに介入し、世論を誘導しているとの指摘が、各国政府や専門機関の公式文書や分析レポートで相次いでいるが、まず政府として、この Meliorator/Brigadir/Taras を中核とするロシアのインフルエンス・オペレーションについて、どの程度把握し、認知しているのか、事実関係を含めて説明されたい。
二 また、こうしたソフトウェアを用いて他国の選挙に介入する典型的な手法としては、先に述べたような架空の市民アカウントを AI で大量に生成し、選挙や政治争点に絡めた情報発信を行わせることが挙げられる。具体的には、移民・治安・経済不安など、選挙で争点化しやすいテーマに結び付けながら、「政府の腐敗」「政治家への不信」「対外支援への反発」といったメッセージを繰り返し拡散し、あたかも「普通の有権者」の声であるかのように見せかける。
 さらに、偽アカウント同士でリプライやリポストを繰り返し合うことで相互に信頼性を補強し、他の本物のアカウントの投稿に執拗に絡んでいくことで、タイムライン全体をノイズで埋め、健全な議論空間を汚染することが常套手段とされている。
 こうした攻撃に対し、各国もすでに様々な対策を取り始めているとされる。研究者の分析によれば、例えばエストニアは社会全体のレジリエンス、すなわち心理防衛やメディア・デジタルリテラシーの強化を重視したモデルを採り、ルーマニアはナラティブ構築や市民教育を重視するモデルをとり、ウクライナは国家レベルのサイバー防衛と、市民ボランティアやITコミュニティとの協働を組み合わせるなど、それぞれの文脈に応じた対応を進めているとされる。
 これに対して、日本では、こうした外国によるボット農場型の情報操作・選挙介入に対して、政府としてどのような対策を講じているのか。専用の監視・分析機能や制度整備を含め、すでに何らかの体制を構築しているのか、それとも実質的にはほとんど対策がとられていないのか、現状と課題を具体的に示されたい。
三 さらに、EUでは DSA(Digital Services Act)や AI Act によって、プラットフォームに対するアルゴリズムや広告の透明性確保の義務付けや、高リスク AI システムに対する規制に加え、ディープフェイクなどの AI 生成・改変コンテンツについて、その旨を明示する表示義務が導入されようとしている。サイバー空間における偽情報やインフルエンス・オペレーションに国家としてどう向き合うのかが、いま世界的な課題となっている。
 フランスでは、外国勢力によるデジタルな干渉を監視・分析する専門機関として VIGINUM が設置されており、これと並行して、児童・若年層に対するデジタルリテラシー教育を含む広範な教育政策も進められていると承知している。
 日本では、デジタル庁をはじめ政府内に、VIGINUM のように外国勢力によるインフルエンス・オペレーションを専門的かつ継続的に監視・評価する明確な組織や機能が存在すると言えるのか。存在しない、または極めて不十分であるとすれば、今後、どの省庁の責任の下で、どのような体制・法制度・人材育成を進めていく考えなのか。EU の DSA・AI Act やフランスの VIGINUM 等の先行事例も踏まえつつ、日本としての戦略とロードマップを示されたい。
 
 右質問する。

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