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答弁本文情報

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平成十六年七月十三日受領
答弁第一二四号

  内閣衆質一五九第一二四号
  平成十六年七月十三日
内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員井上和雄君提出化学物質過敏症等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員井上和雄君提出化学物質過敏症等に関する質問に対する答弁書



一の(一)から(三)までについて

 いわゆる化学物質過敏症については、今までの概念では考えられない極めて微量の非常に身近な物質により不定愁訴様の症状をきたす、アレルギー疾患的な特徴と中毒的な要素を兼ね備えた後天的なものとして一部の研究者の間で指摘されている病態であると承知しているが、そのような病態の存在自体や化学物質による影響の有無を含めて未解明の点が多く、いまだ医学的に確立した疾病の概念とはなっておらず、原因となる化学物質の特定並びに疾病の定義及び診断基準の確立には至っていないものと承知している。
 なお、いわゆる化学物質過敏症として一部の研究者により報告されている症例が呈する症状としては、発汗異常等の自律神経障害、不眠等の精神障害、咽頭痛等の気道障害、下痢等の消化器障害、視力障害等の眼科的障害、めまい等の内耳障害、筋力低下等の運動器障害、動悸、不整脈等の循環器障害及び皮膚炎、喘息等の免疫障害があると承知しているが、これらの症例についても、中毒やアレルギー疾患といった既知の疾病による症例が含まれている可能性が否定できないこと、ごく微量の化学物質によって当該症状が引き起こされていることについての検証が十分になされていないこと等の問題が指摘されているところである。

一の(四)及び(五)の@について

 一の(一)から(三)までについてで述べたとおり、いわゆる化学物質過敏症については、いまだ未解明の点が多く、確立された疾病の概念とはなっておらず、確立された診断基準も存在しないことから、御指摘の当該疾患を診断できる専門外来を有する病院の存在については承知していないが、一般にこれらの症状を訴える者については、アレルギー様症状を有することが多いため、アレルギー科を有する医療機関、いわゆるシックハウス症候群の診療に用いられるクリーンルームを有する医療機関等において診療が行われているものと認識している。
 また、御指摘の専門医についても、いわゆる化学物質過敏症の専門医を認定している学会は我が国には存在していないと承知している。
 政府としては、引き続き、いわゆる化学物質過敏症の解明に向けた調査研究を続けるとともに、必要に応じ、それらの研究成果を広く周知してまいりたい。

一の(五)のAについて

 我が国の医療保険制度においては、疾病ごとに保険適用の対象となるか否かを定めておらず、検査、処置等の診療行為ごとに保険適用の対象となるか否かを定めているところである。一部の研究者によりいわゆる化学物質過敏症として報告されている症例が呈する症状には、不眠、皮膚炎等の様々な症状があると承知しているが、こうした症状に対する検査、投薬、注射等の診療行為についても、当該行為が医学的な必要性に基づき適切に行われている場合には、既に医療保険の適用対象としているところである。また、生活保護の医療扶助についても、医療保険と同様の取扱いとしているところである。
 労働者災害補償保険は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第七十五条に規定する使用者の災害補償責任を担保するものであり、業務に起因することが明らかな疾病について保険給付の対象としているものである。いわゆる化学物質過敏症については、そのような病態の存在自体や化学物質による影響の有無を含めて未解明な点が多く、業務による化学物質のばく露と症状との間の因果関係についても明らかではないため、業務に起因することが明らかではなく、保険給付の対象とはなっていないところである。
 なお、化学物質にさらされる業務による症状又は障害については、化学物質との間の因果関係が明らかなものを、労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)別表第一の二第四号の規定に基づき、厚生労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病(平成八年労働省告示第三十三号)に示しているところであり、これに該当して、業務に起因することが明らかなものについては、保険給付の対象としている。
 身体障害者手帳の交付については、その原因となった疾病等にかかわらず、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十五条第四項の規定に基づき、同法別表に掲げる永続する機能の障害を有する者に対して、身体障害者手帳を交付することとされている。
 なお、いわゆる化学物質過敏症については、いまだ未解明の点が多く、確立した疾病の概念とはなっていないため、現時点で検討している社会的保障のための施策はない。

一の(五)のB及び三について

 いわゆる化学物質過敏症については、そのような病態の存在自体や化学物質による影響の有無を含めて未解明の点が多いが、引き続き国際的な研究動向を把握するとともに、各省が連携してこれについての科学的知見を収集すべく調査研究を進め、その成果を公表するなど必要な普及啓発に努めてまいりたい。また、居住に由来する様々な健康障害を総称するいわゆるシックハウス症候群への対応として、これまで保健所職員等に対する研修会の開催等を進めてきたところであるが、調査研究の進展状況を踏まえつつ、こうした施策のいわゆる化学物質過敏症の問題への活用についても検討してまいりたい。

二の(一)について

 化学物質による健康被害が注目されている中で、医学生及び歯学生の系統解剖実習(身体の正常な構造を明らかにするための解剖実習)時の環境向上や防備体制等の充実を図る上での参考に資するため、文部科学省が開催した「系統解剖実習の環境等に関する懇談会」が、平成十三年四月二十日に「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」の提言(以下「懇談会提言」という。)を取りまとめたことを踏まえ、同日付けで「医学生及び歯学生の系統解剖実習時の環境向上について」(十三高医教第四号文部科学省高等教育局医学教育課長通知。以下「平成十三年通知」という。)により、医学部又は歯学部を置く国公私立大学に対し、系統解剖実習時の環境向上等に努めるよう、指導することとしたものである。

二の(二)の@について

 御指摘の調査結果が何を指すのか必ずしも明らかではないため、調査結果を踏まえた毒性に関しての科学的根拠を示すことは困難であるが、ホルマリンの毒性に関しては、人の健康及び環境に及ぼす影響を評価したものとして、国連環境計画(UNEP)、世界保健機関(WHO)及び国際労働機関(ILO)が、化学物質の安全対策を推進するための共同プログラムとして設置した国際化学物質安全性計画(IPCS)が取りまとめた評価文書(「環境保健クライテリア」)があるものと承知している。
 同評価文書によれば、ホルマリンばく露による人の健康に対する影響としては、一定濃度以上の蒸気又は溶液へのばく露による眼、上気道又は皮膚への刺激等により生ずる各種症状があるとされているところである。

二の(二)のAについて

 一の(一)から(三)までについてで述べたとおり、いわゆる化学物質過敏症については、そのような病態の存在自体や化学物質による影響の有無を含めて未解明な点が多く、いまだ医学的に確立した疾病の概念にはなっておらず、原因となる物質の特定には至っていないものと承知している。したがって、ホルマリンについても、その使用時に係るいわゆる化学物質過敏症による発症例及び当該因果関係についてお答えすることは困難である。

二の(二)のBについて

 医学部又は歯学部を置く国公私立大学に対し、平成十三年通知により、実習管理・指導者に対するホルマリン取扱い上の注意や学生に対する指導に関する懇談会提言について関係の教職員等に対し周知するとともに当該提言を踏まえ系統解剖実習時の環境向上に努めるよう指導したところである。

二の(二)のC及びDについて

 系統解剖実習時における健康被害の事例について、本年六月に、医学部又は歯学部を置く国公私立大学に対し事案の概要及び件数を調査した結果は、別表のとおりである。
 また、当該調査において、大学の系統解剖実習における健康被害が原因であるとして退学した事例については、平成十五年度に一件存在したという報告を受けている。当該事案については、化学物質過敏症の診断を受けたとされる医学部の学生に対し、大学において、学習形態を考慮したり、系統解剖実習時にマスク、手袋等を用意するなどの対策を説明したが、その学生は修学を継続し難いとし、退学に至ったとのことである。

二の(二)のE及びFについて

 二の(二)のBについてで述べたとおり、医学部又は歯学部を置く国公私立大学に対し、平成十三年通知により指導を行っており、大学においては個々の状況に応じて系統解剖実習時にマスク、手袋等を用意する、遺体の防腐処理を行う際に使用するホルマリンの濃度を低減する、症状に応じ休憩を認める等の様々な措置を講じている。
 また、国立大学については、ホルマリンの安全な利用のための給排気の設備を整備したところである。
 なお、大学の系統解剖実習が原因であるとして退学した者に対し、現時点では国として対策を講じることは考えていない。

二の(二)のGについて

 ホルマリンは、遺体の防腐処理を行う際に使用されており、その防腐力や殺菌力の観点から、現時点ではホルマリンが最適な薬品であるとされているが、その後の遺体の保存時及び系統解剖実習時においては、エタノールを主剤とした混合溶剤などホルマリン以外の薬品を使用している事例が多いものと承知している。


別表


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