答弁本文情報
令和七年六月十三日受領答弁第二二一号
内閣衆質二一七第二二一号
令和七年六月十三日
内閣総理大臣 石破 茂
衆議院議長 額賀福志郎 殿
衆議院議員吉川里奈君提出無痛分娩のリスク説明と妊婦への情報提供に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員吉川里奈君提出無痛分娩のリスク説明と妊婦への情報提供に関する質問に対する答弁書
一及び五の2について
御指摘の「無痛分娩に伴うリスク」及び「重篤な合併症」に関しては、平成二十九年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業による「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」により作成されたリーフレット「「無痛分娩」を考える妊婦さんとご家族の皆様へ」において、「無痛分娩のリスクは?」に対し、「麻酔によっておこりうる症状」のうち「まれだが重い症状」として、例えば、「予期せず、脊髄くも膜下腔に麻酔薬が入ってしまい、重症の場合は呼吸ができなくなったり、意識を失ったりすること」があること等と記載されているところ、厚生労働省においては、当該リーフレットについて、同省のホームページで公表しているほか、一般社団法人日本産科麻酔学会がウェブサイトにおいて公表している「無痛分娩Q&A」について、「無痛分娩の安全な提供体制の構築について」(平成三十年四月二十日付け医政総発〇四二〇第三号・医政地発〇四二〇第一号厚生労働省医政局総務課長及び地域医療計画課長連名通知)により、都道府県等を通じて、分娩を取り扱う病院又は診療所に対して、周知する等の取組を行っているところであり、また、分娩に際しては、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の四第二項の規定等に基づき、医師等において、必要に応じ、妊婦やその家族に対して、適切な説明が行われているものと承知している。
また、御指摘の「事故の事例」に関しては、同省のホームページで公表している当該リーフレットにおいて、平成二十二年から平成二十八年までの「無痛分娩を行っていた妊産婦」の死亡事例等を記載している。
その上で、御指摘のように「更なる周知・啓発の徹底」を図ることが必要であると考えており、こうした周知等の取組を強化してまいりたい。
二について
お尋ねの「硬膜外麻酔を使用した分娩の全件数」及び「そのうち吸引分娩や鉗子分娩などの」器械的「分娩に至った過去五年間の件数」については把握していない。なお、御指摘の「硬膜外麻酔を使用した」か否かにかかわらず、例えば、厚生労働省が実施した「令和五(二千二十三)年医療施設(静態・動態)調査」の結果によると、病院及び診療所における「帝王切開を除く無痛分娩」の件数については、令和二年九月において六千八件、令和五年九月において八千百四十件であり、また、診療報酬の算定方法(平成二十年厚生労働省告示第五十九号)別表第一区分番号K893に規定する「吸引娩出術」及び同表区分番号K894に規定する「鉗子娩出術」を算定した回数については、同省のホームページにおいて公表している「NDBオープンデータ」の入院のレセプトを元に算出すると、平成三十一年度から令和五年度までの五年間で、それぞれ三十四万二千二百十九件及び四万四百九十四件である。
三、四及び五の3について
御指摘の「無痛分娩に伴う医療事故リスクの軽減」も含め、「無痛分娩」に係る「安全対策」については、例えば、直近では、都道府県等に対して、「無痛分娩に関する取組の再周知について」(令和七年五月十五日付け医政地発〇五一五第一号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知。以下「通知」という。)において、「無痛分娩の安全な提供体制の整備」とともに、分娩を取り扱う病院及び診療所、関係機関等に対する「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会・・・が実施する無痛分娩に係る医療スタッフの研修、無痛分娩の提供体制に関する情報公開、無痛分娩の安全性向上のためのインシデント・アクシデントの収集・分析・共有等の取組」の「周知」を依頼してきたところである。
その上で、御指摘の「実施基準」の意味するところが明らかではないが、いずれにせよ、「無痛分娩の安全性向上に向けて」、「無痛分娩」の実施体制及び「麻酔科専門医の関与」に関しては、令和七年度厚生労働行政推進調査事業費補助金厚生労働科学特別研究事業による「安全な無痛分娩実施のための体制構築のための研究」において、「安全に無痛分娩を実施するための体制の構築に向けて、麻酔科医の適切な関与や各施設の体制の評価の方策等、今後取り組むべき事項」について研究を進めているところであり、当該研究の結果を踏まえながら、必要な対策の検討を進めてまいりたい。
また、御指摘の「硬膜外麻酔を麻酔科専門医以外の医師が実施できる点」については、「硬膜外麻酔」を実施する医師が「麻酔科専門医」の資格を有するか否かにかかわらず、当該麻酔を用いた分娩の安全性を確保することが必要であると認識しており、例えば、直近では、通知において、都道府県等を通じて、分娩を取り扱う病院又は診療所に対し、「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会・・・が実施する無痛分娩に係る医療スタッフの研修」の受講を求め、安全な麻酔の実施と安全管理に関する最新の知識の修得及び向上を図っているところである。
五の1について
お尋ねについては、御指摘の「無痛分娩に起因する医療トラブル」も含め、三、四及び五の3についてで述べたとおり、「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会」において、「インシデント・アクシデントの収集・分析・共有等の取組」を行っているところ、政府としては、当該協議会と連携して御指摘の「実態」を把握することとしている。
六について
「こども未来戦略」(令和五年十二月二十二日閣議決定)においては、「二千二十六年度を目途に、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め、出産に関する支援等の更なる強化について検討を進める」とされており、御指摘の「保険適用」を前提としたお尋ねに現時点で予断をもってお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、厚生労働省医政局長及び保険局長並びにこども家庭庁成育局長が参集を求めて開催していた、妊産婦等の支援等に関する専門的知見を有する有識者により構成される「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」において取りまとめた「議論の整理」(令和七年五月十四日公表)において、「妊娠・出産・産後」に関する「あるべき支援等の方向性」として「無痛分娩に対応した医療機関の分布には地域差があり、麻酔を実施する医師の確保や安全管理体制の標準化等、安全で質の高い無痛分娩の提供体制の確保に取り組む必要がある」、「令和八年度を目途に、産科医療機関等の経営実態等にも十分配慮しながら、標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計を進めるべきである」等とされたところであり、これを踏まえ、適切に検討してまいりたい。
七について
御指摘の「医療的選択肢の充実」及び「制度設計」の意味するところが明らかではないが、いずれにせよ、「無痛分娩」に関する対応については、「リスク説明」に関しては、一及び五の2についてで述べたとおりであり、また、「専門職による支援」に関しては、三、四及び五の3についてで述べたとおりであり、引き続き、出産を安全に行うことができる環境の整備等の観点から、こうした対応を進めてまいりたい。
八について
御指摘の「通知の趣旨を踏まえた周知」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「名称」に関しては、令和七年五月十二日の参議院決算委員会において、福岡厚生労働大臣が「無痛分娩というこの名前、呼び方につきましては、メディアであったり、妊婦、医療関係者にも既に広がっておりまして、自治体の制度でももう利用され、定着しておりますため、その扱いについては引き続き関係者の様々な御意見を伺ってまいりたいと思います。いずれにしましても、麻酔によって陣痛の痛みを和らげ分娩する無痛分娩が、希望する妊婦の選択肢と、選択肢の一つとして正しく理解されることが重要でございまして、その周知に努めてまいりたいと思います。」と答弁しているところ、政府が用いる御指摘の「名称」について現時点で見直す予定はないが、その在り方については、「関係者の様々な御意見を伺」うとともに、御指摘のように「誤ったイメージが定着する」ことなく、「無痛分娩」の正確な理解が進むよう、周知に努めてまいりたい。