答弁本文情報
令和七年六月二十四日受領答弁第二八四号
内閣衆質二一七第二八四号
令和七年六月二十四日
内閣総理大臣 石破 茂
衆議院議長 額賀福志郎 殿
衆議院議員屋良朝博君提出我が国に駐留する米兵等に対して我が国の当局が有する第一次裁判権を放棄した事案に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員屋良朝博君提出我が国に駐留する米兵等に対して我が国の当局が有する第一次裁判権を放棄した事案に関する質問に対する答弁書
一について
御指摘の「裁判権密約」についての外務省としての認識は、平成二十三年八月二十六日の記者会見において、松本剛明外務大臣(当時)が、「一九五三年の日米行政協定第十七条の改正交渉において、米側は日本側による第一次裁判権の原則放棄を求めましたが、日本側はこれを拒否するとの方針で交渉いたしました。その結果、最終的に米側はその立場を撤回し、日本側として第一次裁判権を放棄することなく、交渉が妥結をいたしました。その際、合同委員会の下の刑事部会において、日本側代表(法務省課長)が、日本側にとって実質的に重要と認める事件以外については、第一次裁判権を行使する意図を通常有しないとの日本側の運用方針を米側に対して説明することとし、同年十月二十八日の同部会において、日本側代表がこのような発言を行ったということであります。この日本側代表の発言は、起訴、不起訴についての日本側の運用方針を説明したにとどまるものであって、日米両政府間で何らかの合意を行ったものではありません。日本側が第一次裁判権を有する米軍人等による「現在」の事件については、関係当局において、個別の事件に即して、我が国の法に基づき適切に対処しており、米軍人等による事件とそれ以外の事件とで起訴するか否かの判断方針に差はありません。この二点については、昨日の日米合同委員会において、日米両政府の理解が一致していることを確認いたしました。」と述べたとおりであり、同省として、適切に説明を行っている。
二について
お尋ねの「答弁書」における「御指摘の「裁判権密約」」は、衆議院議員鈴木宗男君提出日本駐留米兵の裁判権に係る日米密約についての外務省の説明等に関する質問主意書(平成二十二年五月二十七日提出質問第五一一号)における「本年四月十日付読売新聞夕刊一面に、「『米兵裁判権を放棄』 日米が秘密合意 一九五八年文書で判明」との見出しで、一九五二年に締結された旧日米安全保障条約の付属協定である日米行政協定により、日本に駐留する米兵らの事件に関し、実質的に米国側に裁判権を譲るとしたとの密約(以下、「裁判権密約」という。)」との指摘を受けて、これを引用したものである。
三及び四について
お尋ねの「第一次裁判権を行使しないと決定した」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、検察当局において、「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分とした事例はあるものと承知しているものの、これが「日本国にとって実質的に重要であると考えられる事件」について不起訴処分としたものであるか否かについては把握していない。
一般論として申し上げれば、検察当局においては、個別具体の事案に即して、第一次裁判権の行使について、法と証拠に基づき、適切に判断をしているものと承知している。
五について
お尋ねの「第一次裁判権を行使しないと決定した」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、検察当局において、我が国が裁判権を行使する第一次の権利を有するものの、「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたアメリカ合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族による刑法犯(刑法(明治四十年法律第四十五号)、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(昭和五年法律第九号)及び自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成二十五年法律第八十六号)に定める罪をいう。)及び特別法犯(刑法犯以外の罪をいう。)に係る地方検察庁別の罪名及び人員数は、法務省の資料で確認のできる平成二十六年から令和六年までの間についてお答えすると、次の(1)から(11)までのとおりである。
(1) 平成二十六年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 公務執行妨害 一人 窃盗 四人
横浜地方検察庁 道路交通法違反 一人
長崎地方検察庁 自動車による過失致死傷 一人 窃盗 一人
那覇地方検察庁 過失致死傷 一人 自動車による過失致死傷 六人 窃盗 八人 道路交通法違反 二人
(2) 平成二十七年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 傷害 一人 暴行 一人 窃盗 一人
横浜地方検察庁 強姦 一人 自動車による過失致死傷 二人 道路交通法違反 一人 麻薬及び向精神薬取締法違反・あへん法違反 一人 大麻取締法違反 一人
広島地方検察庁 道路交通法違反 一人
長崎地方検察庁 窃盗 一人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷 十人 窃盗 十二人 毀棄・隠匿 一人 道路交通法違反 一人 大麻取締法違反 三人
青森地方検察庁 住居侵入 二人 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 道路交通法違反 一人
(3) 平成二十八年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 自動車による過失致死傷 一人 窃盗 六人 盗品等関係 一人
横浜地方検察庁 自動車による過失致死傷 一人 窃盗 一人 横領 一人 道路交通法違反 一人
山口地方検察庁 その他特別法犯 一人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷 九人 窃盗 八人 毀棄・隠匿 三人 道路交通法違反 一人 大麻取締法違反 二人
(4) 平成二十九年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 窃盗 四人 横領 一人
横浜地方検察庁 窃盗 二人
千葉地方検察庁 銃砲刀剣類所持等取締法違反 二人
佐賀地方検察庁 自動車による過失致死傷 一人
長崎地方検察庁 窃盗 一人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷 五人 窃盗 六人 道路交通法違反 一人 大麻取締法違反 一人 銃砲刀剣類所持等取締法違反 二人
青森地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 三人
(5) 平成三十年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 傷害 一人 窃盗 一人
横浜地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 窃盗 三人
広島地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 三人 窃盗 十三人 道路交通法違反 一人 大麻取締法違反 一人
青森地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人
(6) 令和元年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 窃盗 六人 銃砲刀剣類所持等取締法違反 一人
横浜地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人
山口地方検察庁 窃盗 一人
長崎地方検察庁 傷害 一人 毀棄・隠匿 一人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 六人 窃盗 二人 道路交通法違反 一人 銃砲刀剣類所持等取締法違反 一人
青森地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 二人
(7) 令和二年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 窃盗 三人 大麻取締法違反 一人
横浜地方検察庁 窃盗 一人 毀棄・隠匿 一人
山口地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 窃盗 二人 横領 一人
那覇地方検察庁 強制わいせつ 一人 傷害 二人 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 九人 窃盗 四人 道路交通法違反 二人 大麻取締法違反 一人
(8) 令和三年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 大麻取締法違反 三人 関税法違反 一人
横浜地方検察庁 住居侵入 一人 大麻取締法違反 一人 関税法違反 一人
名古屋地方検察庁 窃盗 一人
山口地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 二人 窃盗 二人 道路交通法違反 二人
長崎地方検察庁 窃盗 一人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 五人 窃盗 六人 その他刑法犯 一人 道路交通法違反 二人 大麻取締法違反 二人
(9) 令和四年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人
横浜地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 窃盗 二人
山口地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人
福岡地方検察庁 暴行 一人
長崎地方検察庁 銃砲刀剣類所持等取締法違反 一人
那覇地方検察庁 住居侵入 一人 暴行 一人 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 七人 窃盗 九人 詐欺 一人 道路交通法違反 一人 大麻取締法違反 一人
(10) 令和五年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 関税法違反 二人 銃砲刀剣類所持等取締法違反 一人
横浜地方検察庁 道路交通法違反 一人
長崎地方検察庁 窃盗 二人
那覇地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 三人 窃盗 十一人
青森地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 道路交通法違反 一人
(11) 令和六年に「第一次裁判権不行使」を理由に不起訴処分としたもの
東京地方検察庁 大麻取締法違反 一人
那覇地方検察庁 住居侵入 一人 傷害 一人 暴行 一人 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 五人 窃盗 五人 毀棄・隠匿 一人
青森地方検察庁 自動車による過失致死傷・過失運転致死傷 一人 窃盗 一人 麻薬及び向精神薬取締法違反・あへん法違反 一人