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昭和二十八年八月六日提出
質問第四三号

 国立大学教授の権限に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和二十八年八月六日

提出者  高津正(注)

          衆議院議長 堤 康次(注) 殿




国立大学教授の権限に関する質問主意書


 昭和二十八年七月二十二日、私は衆議院文部委員会において、国立大学の経理に関し、また国立大学教授の権限に関して、文部当局に対して質問いたしました。その質問の要旨は、東京大学工学部の岸田日出刀教授が、静岡県清水市の市庁舎の設計を二百五十万円で引受け、市当局との契約書には岸田氏は、東京大学建築科岸田・丹下研究室代表者岸田日出刀という名儀を使用している。従つてこれは岸田個人ではなく、教授たる公職の名前が使用されていますが、このような場合、その報酬金は教授個人、同研究室会計、同大学会計、この三つのうち、いずれの所有であるべきか、これが第一の質問でありました。

 その時の私の第二の質問の要旨は、岸田教授はその設計書の仕様書の中に、工事請負人、すなわち入札参加者として、鹿島組、清水組など中央の五大業者を指名し、清水市会の市庁舎建設委員会が、入札当日、前記の清水組を入札から除外していると、教授は「わが国代表的建築業者を加えないということは了解できない、もし清水組を加えないならば、この設計書を引揚げて帰京する」と強硬に出たので、建設委員会ではやむを得ず、清水組を入札者の中に加えました。設計を頼まれたとしても、教授にはそのような入札者の指名指示をなす権限ありや否や。それは教授の越権行為であろうと質問したのでありました。ちなみに同教授は、以上の主体工事のみならず、清水市庁舎の電気附帯工事の入札に際しても、その請負人として関東電気工業、沖電気、東光電気という中央の三つの大会社を指名しており、そのことは地元の静岡県の業者を、この清水市庁舎建築工事から一切締め出すこととなり、さなきだに苦しみつつある中小企業者から仕事を奪つて、中小企業を圧迫するという事実をさえ生じていますが、これは公務員たる教授の行き過ぎであり、越権行為でなくて何でありましようか、これに対する政府委員(文部省稲田大学局長)の答弁は、「初めて聞くことで、調査をしていないから」という理由で、一般論的な抽象論でありました。しかしもはや二週間以上を経過しているので調査は完了していると思われます。そこで私は、この問題に関して、政府から明確な回答を得たいと存じます。

 前記二点のほか、第三の質問を新たにここに申し述べます。岸田教授が、営業でなく、「教授個人の内職」として、設計や監督をやつておられると仮定いたしましても、八月三日の読売新聞も社会面に大きくこの問題を報道しておりますように、岸田教授の研究室は、清水市庁舎の設計のほか、
 銀座正睦商業協同組合ビル
 新宿区信濃町の「生長の家」ビル
 松山市体育館
 宇野市児童文化会館
 東京都庁ビル
等を引受けていられるのでありますが、このように次から次へ多くの設計監督を引受けて消化していても、やはり「内職」あるいは「アルバイト」であつて、教授たる者の本分たる勤務に差支えはないものと、文部省並びに政府はお認めになつているのでありますか、この点を質問いたします。

 質問の第四点でありますが、民間の設計建築士は全国で約六万名あり、この人々は、岸田教授を先頭とするこの種の大学教授の「内職」と称しつつも、大規模で、実際には「営業」を大たんに行うことのために、非常な打撃を受けております。そのことは七月二十二日の本委員会でも下川儀太(注)委員によつて指摘された通りであります。
 民間の設計建築士は、建築士法第二十三条によつて、それぞれ所在地の都道府県知事に「建築事務所」の開設を届出なければならないことを義務付けられており、税金を払つておりますが、国立大学の場合は、国家公務員たる教授には、「営業」を行うことを禁止しておりますから、それは「内職だ」というのが、文部当局のお考えかとも思われます。しかし岸田・丹下計画研究室は、家賃のいらない「大学の施設」を使つており、人件費、光熱費の点を考えましても、民間業者と競争して勝つにきまつているのであります。このような不利な立場におかれている民間業者には、泣くにも泣けない苦しみがあるのであります。
 東大の丹下教授、Y教授、O教授、東京工大のT教授、G教授などは、前に申上げた国家公務員たる教授という有利な陣地に立てこもつて、民間業者を泣かせていると業者は認めているのであります。
 ちなみに、私立大学においては、教授も、助教授も、公務員でありませんから、おおつぴらに建築事務所の看板をかかげ、もちろん税金を納め、中には注文取りに歩いているのもあるとて、業者側はこぼしていますが、私は今これをせめようとは考えていません。
 このように、国立大学教授の「内職」と称する事実上の営業行為によつて、中小企業者や多くの民間の設計建築士が、そのために営業不振に陥り、世の中はこれでよいものかと大いになげいているのでありますが、政府として、文部当局として、なんらの対策もないと申されるのでありましようか、もし対策ありといわれるならば、その大綱だけでも承つておきたいと存じます。

 質問の第五点として私は私個人の持論として、また私の属する日本社会党(左派)の立場を守るものとして、大学の自治とか学問の自由とかいうものに対しては、擁護してまいりたいという態度を堅持しております。しかしまた私は同時に、独占的大業者の専横から中小企業者を是非とも守つて行かねばならないという信念と政策の上に立つ者であります。そこで、岸田教授の問題を知るにつけても、私は学問の自由と大学の自治とをおかすことなく、しかも民間業者を圧迫することなからしめるがごとき政策が極めて必要であるということを痛感している次第であります。
 そして、もう一つ重要なことは、岸田教授は結局、教授中の例外であつて、他の多くの教授も、それらの研究室も、研究費の不足のために、研究はほとんど不可能な状態にありながらも、学者的良心とその責任感から、乏しい研究費の中から、けなげにも研究を続けているのであります。七月十六日の当文部委員会で、町村金五委員も科学技術の振興の必要を強調されましたが、私も同感であります。そして私は、文部省としても、政府としても、大学の研究機関のうち、民間会社の委託研究の入つて来ないところの研究機関の財政的窮状の目に余るものの存在する事実を、一層留意せられんことを要望せざるを得ません。そして、国立大学の研究室に対し、もつと大幅に予算を組んで与えることこそが、根本の解決策の一つであろうかと存じます。政府は、大体の線において、私のこの認識を妥当なりとお認めになるか否か。

 質問の第六点は岸田教授はそれら多くの設計あるいは設計・監督による報酬金を、大学の会計にも、同研究室の会計にも納入せず、自分の所有として、自ら取り、その中から製図その他、部下的関係者に氏自身の任意で若干配分されているというのが現状であることは、清水市の当局や業者が岸田氏を訪問して帰市してからの報告に明らかであります。すなわち多くの設計監督の報酬金は、岸田氏の個人所得となつているのであります。
 しかるに、岸田氏の居住地の税務署に対する氏の総合所得申告は、月額にして四万九千何百円、年間五十八、九万円となつており、その内訳は、俸給、印税、譲渡所得となつております。
 当該税務署も、これは不正申告で脱税だと申していると私は承つておりますが、一人の大学教授が一年ならず数年にわたり脱税行為を続けておるという事例に対し、政府はそのことは教授たる地位にはなんの関係もないという見解をおとりになるのでしようか、それとも当該大学の教授会ないしは大学当局に対して、なんらかの勧告を発する御意志があるのでしようか。

 私は、以上六つの点の質問を致しましたが、これは岸田日出刀氏に対し、私が毫末も個人的な私怨ないし反感をいだいているからではなく、大土建業者と結託して、中小企業者をいやが上にも苦しめている二、三の学者を見るにつけ、国民代表としての私の任務上、最も顕著な一人たる岸田教授の問題をとらえ来つたに過ぎないのであります。しかしながら、問題ははなはだ重要でありますので、質問各項にわたり御回答あらんことを要請いたします。

 右質問する。





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