衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
昭和四十三年三月十一日提出
質問第五号

 農業用資産に係る相続税に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和四十三年三月十一日

提出者  小澤貞孝

          衆議院議長 石井光次郎 殿




農業用資産に係る相続税に関する質問主意書


 政府は、農業基本法制定以来、農業の発展と農業従事者の地位の向上をはかるため、同法の示すところに従い、農業生産の選択的拡大、農業の生産性の向上及び農業経営の規模の拡大等の諸施策を講じ、特にわが国農業生産の中核的にない手であり、かつ、他産業従事者と均衡する所得をあげるいわゆる自立経営農家の育成をはかることを目標とする農政を推進されてきたのである。しかし、現在までの成果は期待に反し、最近においては、かえつて、農家労働力の流出の激化、低生産性の兼業農家の増大、土地利用の低下、農業生産の粗放化等がもたらされ、農業構造の面に憂慮すべき事態を招来している。
 このような農業の現状に対し、各方面から抜本的な農業の体質改善をはかる要請がなされ、政府は、これにこたえて昭和四十二年八月農業構造政策の基本方針を定め、これに基づき、同四十三年度から農地流動化の促進、総合資金制度の創設、集団的生産組織の助長、農用地の整備開発の推進、年金制度の活用等総合的な施策を積極的に講ずることを明らかにしている。
 以上のように自立経営農家の育成を中心とする基本法農政が昭和三十六年以来展開されている過程において、その農政に必ずしも沿わず、あるいは逆に相反する国の政策がとられている事実が明らかにされ、農業関係者の間で問題化している。すなわち、わが国税制のうち農業用資産に係る相続税であつて、これが課税に当たり、特に都市近郊や中小市街地の周辺において農地の評価が実態と著しくかけ離れて高価格に評価され、その結果とうてい納税できないような過重課税となり、農家はやむなく農地を売却し、あるいは借入金をもつて納税するという事態が全国各地で引き起こされている。
 よつて、この際、農業用資産に係る相続税について、農業経営の発展を期待する立場から、別紙のような課税の事例をあげて矛盾点を指摘し、その改善措置を講ぜられるよう次にかかげる事項について政府の見解を伺いたい。

一 農業基本法の精神を尊重し自立経営農家の育成と農業後継者の確保という見地に立つて、農業用資産に係る相続税制を改善する考えがあるかどうか、政府の基本的な見解を明らかにされたい。

二 相続税の課税に当たつて問題となる点は、相続財産の価額がいくらになるか、その財産評価についてである。
  相続税は被相続人が生存中に負担すべきであつた税金を補正する手段として、また、富の偏在を是正するという見地から課税されるものとされ、従つて相続財産の評価は取得の時における時価方式により、その時価は課税時において、財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行なわれる場合に通常成立すると認められる価額(基本通達)とし、客観的な要素を加えたうえで評価するとしている。
  その評価の具体的な方法については、相続税財産評価に関する通達によつて示されており、そのなかにおいて農地の評価は、次の四段階に分けられている。すなわち
 (1) 純農地 これは固定資産税評価額に類似する地域ごとに農地の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額で評価する。
 (2) 第二次転用許可可能農地 これは、固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに農地の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額で評価する。
 (3) 転用許可可能農地 これは、転用許可済農地及び転用許可不要農地の百分の八十に相当する金額で評価する。
 (4) 転用許可済農地及び転用許可不要農地 これは、宅地であるとした場合の平方メートル当たりの価額から、その農地を宅地に転用する場合必要と認められる平方メートル当たりの造成費に相当する金額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その地積を乗じて計算した金額によつて評価する。
  このような農地の評価は、(1)及び(2)は、固定資産税評価額を基とした倍率方式であり、(3)及び(4)は、農地であるが宅地価格を基とした比準方式であつて、農家の相続に当たつて最も問題となる場合は(3)の転用許可可能農地が宅地価格の造成費を控除した額の百分の八十で評価されるためである。この(3)に該当する農地は、都市近郊の農地や、中小都市の市街地周辺に相当多数存在し、現在、農業生産のうえに重要な役割を果たしているのである。
  そこで転用許可可能農地の評価に関し、次の事項について見解を伺いたい。
  (イ) 転用許可可能農地の評価方法を純農地と同様な方式に改める考えがあるかどうか。
  純農地の評価方法で現在採用されている農地の固定資産税の評価は、昭和三十八年新評価制度の採用の際、農地は農業の生産手段として保有している点を認めて、収益的財産税であるとの立場をとり、正常売買価格に限界収益修正率五十五パーセントを乗じて適正な時価を求め評価することとしている。従つて、この農地の相続税の評価に当たつては、転用可能農地であるとしても相続後必ず転用するとは限らないのであるから、農地の相続時点において評価されるのが至当と考えられるのである。
  (ロ) 転用許可可能農地を(イ)の方式で評価し、相続後、一定期間内(十年間)に転用がなされた場合に、宅地価格を基とする比準方式によつて相続税の追加払いを行なう制度を新たに設けてはどうか。

三 農業用資産の相続税の課税に当たり、その資産の評価方法はさきに述べたとおりであるが、これは税務署の一方的な評価によつて課税されることとなり、事例にあるような事態を招く原因となつている。
  そこで納税者の納得を得、かつ、基本通達に述べる財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行なわれる場合に通常成立すると認められる価額とし、客観的な要素を加えて評価するとしている点にかんがみ、税務署の一方的な評価を民主化し、第三者の参加する評価及び評価後の不服審査機関の設置を行なう必要があると認められるがどうか。
  このことは、固定資産税の評価に当たり、地方税法においては、市町村に固定資産評価員及び同補助員を設置し、さらに、不服審査決定のために固定資産評価審査委員会を設置し、固定資産税の課税に公正を期している例がある。
  もちろん相続税は、固定資産税のように毎年課税されるものでなく偶発的なものであるので、相続の開始されるときに市町村、市町村農業委員会、農業協同組合、資産評価精通者等に税務署が委嘱し、随時組織するものであつてもよいのではないか。
  要は公正妥当な評価であり、かつ、農業経営の発展向上を基とした課税がなされるような態勢の確立を講ずべきである。

四 相続税における農地の評価方法の四つの区分は、前述の通達において農地法及び同法に基づく転用許可基準(昭和三十四年次官通達)に基づくものとされており、税務署は、この通達に従つて、地域ごとに基準を設けて指定しその地域は画一的に取扱われているという。
  しかし、農地転用基準では公共投資の行なわれたような農地が市街地周辺に存在する場合は転用許可を抑制することにしているので、この面から国の施策である税務行政と農林行政の間に矛盾が出てくることになる。また、別紙事例にあるように神奈川県三浦市の場合をみると、農地転用基準による第一種農地(純農地)が市街地周辺と鉄道沿線を除き大半を占めているにもかかわらず、横須賀税務署では、純農地は全く存在しないことになつている。
  右のように、相続税の農地評価の区分と農地の転用許可基準は、その地域において当然合致し、両者の行政運用も相互に調整されながら推進されることが当然と考えられるが、これについての政府の見解を承りたい。

五 均分相続による農地の細分化を防止し、農業後継者を確保するため、昭和三十九年に租税特別措置法の改正によつて農地等の一括生前贈与の特例が設けられている。
  この制度は、昭和三十九年一月一日から同四十三年十二月三十一日までの間に贈与されたものに特例を認め、その贈与財産は、農地の全部と採草放牧地の三分の二以上を一括した場合であり、この特例による納期限の延長を認められた受贈者はその後三年ごとに特別適用の届出を行ない、贈与者が死亡した場合にはその時点において相続があつたものとして相続税が課税されるという仕組のものである。
  この特別の実績を全国農業会議所の昭和四十二年十一月の調査によつてみると昭和三十九年に三百四十四件、同四十年に千四百七十九件、同四十一年に三千五百三十三件であつて、逐年上昇しているが、その運用の面において問題が出ている。
  すなわち、宮城県中田町における事例であるが、ある農家で水田一・二ヘクタール、畑一・二ヘクタールを昭和四十一年二月後継者に一括贈与したところ、税務署は、農地が贈与されたことは農業経営者が代替わりすることであり、農地以外の事業用資産その他動産も贈与したとみなして二十一万円の贈与税を課税した。
  受贈者はこの課税に驚き結局農地の一括贈与を取止めにした。なお、このような事例は、他にも相当あることが報告されている。
  そこで、この制度について、農地の全部と採草放牧地の三分の二以上に限られている範囲を拡大し、他の農業用資産にも認めなければ、立法の趣旨が生かされないことになるので、この点是正の措置を講ずる必要があると思うがどうか。
  また、贈与された農地の上にある立木、果樹等が特例の対象から除外されているため、選択的拡大による果樹農家等では、この特例を活用できないものが多い。この点についても是正の措置を講ずる必要があると思うがどうか。

 右質問する。




(別紙)
 農業用資産に係る相続税の課税の事例(昭和四十二年三月全国農業会議所 農業用資産課税に関する実態調査により摘記)

(一) 岩手県釜石市甲子町におけるA・B家の例
    このA・B両家は、昭和三十九年ほとんど同時に相続が開始され、これに対する釜石税務署の農地の評価は次表のとおりである。

   これからみると、固定資産税評価額に対し、税務署の評価額は、A家の田三十倍、畑五十一倍、B家の田四十六倍、畑百五十六倍に達している。
    A家では、この表のほかに純農地として評価されたものが百七十六アールあり、その他の資産を含め財産総額は四千六十四万円と評価され、基礎控除等を差し引いた額に七百八十八万円の税金が課せられた。B家では、農地の全部が宅地としてみなし評価され、財産総額は二千六百四十五万円とされて、諸控除を差し引いた額に四百十二万円の税金が課せられた。
    A・B両家では、このぼう大な課税に驚き、市農業委員会に実情を訴え、農業委員会は関係機関と連携して評価基準の改定運動を起こし、税務署と折衝を重ねた結果、転用許可可能農地については公共投資をした土地を除外し、従来の地割による一律適用をやめて、その中で細分し、主として幹線道路に沿つた農地を転用許可可能農地に指定することとしたため、関係者はそれぞれ納得することとなつた。

(二) 長野県松本市高宮におけるC家の例
    松本市は、新産業都市に指定され、かつ、都市計画等によつて、都市化、工業化の方向をたどつており、農地の評価に当たつては旧松本市、国道沿い、市街地周辺地域を転用許可可能農地として松本税務署は指定している。また、松本市及び同農業委員会もほぼ同様の評価の考え方をもつているとされている。
    C家は昭和三十九年死亡により相続が行なわれたが、同家の農地の大部分は国道沿いにあり、しかも都市計画に定める住居地区に当たつているため転用可能農地と判定されて、田七十三アール、畑七十アールが宅地にみなし評価された。その財産総額は、二千三百二十二万円、基礎控除等により五百五十万円が控除されて、三百八万円が課税され、うち農業後継者の税額は二百六十二万円である。C家では多額な税金に驚き、市農業委員会に訴え、農業委員会は税務署と交渉、税務署も再調査を行なつたが、結局、税務署の権限で税額の変更はできないこととなつた。
    C家では、この相続税に当たり、十年年賦払いを申請し、昭和四十一年度は、年賦税額三十万円、年賦による利子額二十二万円(日歩二銭)計五十二万円と登録税十三万円を農協から日歩二銭八厘の借入金をもつて納税した。
    なお、C家の相続を固定資産税評価額を基として評価した場合には、農地の評価は百三十万円となり税額は七万円にすぎない。
    C家の後継者は、農業は継続して経営してゆくが、この税金では農地を売却しなければ払えない。相続税とその利子、借金の利子を払い、八十俵の米代金はこれにあてられ、今後十年間はただ働きになると、相続税の過酷なことを訴えている。

(三) 神奈川県三浦市におけるS家の例
    S家では昭和三十九年、生前贈与の特例が設けられたことを知つて農地全部の一括贈与を行なつたが、同年贈与者が死亡したため相続が行なわれた。農地の評価はすべて転用可能農地として評価され、財産総額八百十八万円、控除等五百万円で、三十八万円が課税された。
    この地域においてS家の相続を契機に相続税の問題が取上げられたのは、横須賀税務署管内には純農地は全くないものとして評価基準が設けられたことである。三浦市における農業施策の面においては、昭和四十年度から農業構造改善事業が施行され、同四十一年度から野菜指定産地の指定を受け、また、農地転用基準の指定では現在の農地の大半が第一種農地(純農地)として、その転用許可は強く規制していること等都市近郊地域であつても農業施策が重厚に講ぜられるのであつて、このような農政と税制の間の矛盾をいかに改善するか、農業委員会等から強い要求が出されている。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.