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昭和四十六年十二月四日提出
質問第四号

 沖繩における軍用地問題に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和四十六年十二月四日

提出者  中谷鉄也

          衆議院議長 (注)田 中 殿




沖繩における軍用地問題に関する質問主意書


 沖繩における公用地等の暫定使用に関する法律案は現に委員会において審議されているところであるが、憲法上幾多の疑問が提起され、いまなお政府答弁は右疑問を解明するにいたつていない。憲法上の疑義ある限り本法案は当然撤回されてしかるべきものと考え以下各項にわたり政府の回答を求めたい。

一 期間等について
  本法案は、「三万数千人に及ぶ多数の所有者及びその他の権利者が数えられ、しかもそのうちには相当数の所在不明者、海外移住者等も含まれている状況」(本法案提案理由)にあるので「暫定的に一定期間これらの土地などの使用権を設定」(本法案提案理由)しようとしているが、右期間が五年に及ぶことは借地法等の先例を引用するまでもなく、法律の解釈上「暫定使用」の期間を逸脱し、なんら適正の手続を経ることなく、強権をもつて使用権を設定するものとのそしりをまぬがれず、右は憲法第二十九条第三項及び第三十一条の違反がうかがわれ財産権を不当に侵害するものといわざるを得ない。
 1 本法案第二条第一項第一号「この法律の施行の際沖繩においてアメリカ合衆国の軍隊の用に供されている土地又は工作物」とあるのは、まずアメリカ合衆国の用に供されている土地又は工作物は当然含まないと解されるが確認を求めたい。「用に供されている」とはもちろん法的根拠(権原)に基づいて「用に供されている」ことに限定されることと考えるがその確認を求めたい。政府は従来右法的根拠として布令第二十号(賃借権の取得について)、直接契約・許可(一九五八年十月二十八日特別委員会琉米両側委員間の同意事項について)によると答弁しているが、右以外に法的根拠は認めない趣旨と解すべきであるか、確認を求めたい。
 2 そもそも許可とは法令による一般的禁止(不作為義務)を特定の場合に解除し、適法に特定の行為をなすことを得しめる行為である。しからば市町村が私有地について許可権限を有しないことは当然であり、かかる市町村の許可が「アメリカ合衆国の軍隊の用に供されている土地」としての法的根拠となり得ないと思われるがどうか。
   政府は、右「許可」を「市町村長を代理人とする地主と米軍の間の土地使用に関する契約であると観念すべきもの」とし、「対価は補償金なる表現がとられているが法的には借料とみるべきもの」と述べ、右理由として「米軍に与えている土地使用許可証」において「関係地主に代わりまた彼らの代表として」米軍の土地使用に「同意し許可する」ものであると、見解を述べている。しかし右見解は到底首肯し得ない。すなわち、政府は、本法案の提案理由において前述のとおり「相当数の所在不明者等」の存在を暫定使用の理由としているが、そのことによつても地主(所有者)の市町村長に対する代理権の委任が適法に行なわれたとは到底考えられない。したがつて、いわゆる「演習地域」についての契約は代理権限なき部分は当然契約無効のものと考えざるを得ないがどうか。又適法な代理権限の委任と称するものは文書・口頭いずれによるものか実態を明らかにされたい。
 3 「演習地域」についての「許可」は一年を限度とし、場合により更新を認めているにすぎない。本法案に基づく政令要綱によれば右暫定使用期間は三年ということであるが、米施政権下にあつて一年の期間のうちしかも限定された演習日数の使用にとどまるものが復帰後、三年という期間に延長されるのはまさしく法的安定性を破り暫定使用の名による私権侵害と思料されるがどうか。暫定使用である限り「従来の使用関係の範囲を超えるものではない」という提案理由と矛盾すると断ぜざるを得ないがどうか。米軍の「用に供する区域及び施設」については、いわゆる「安保条約第六条に基づく土地特別措置法」に特例措置を講じ、同法を適用することが唯一の本土なみの法的処理であると考えるがどうか。政府は右演習地域についての契約は米軍と地主との間の契約であると言明しているが、右契約は民法上いかなる契約にあたるか。また米国の不動産法においてかかる契約はどのような法的性格を有するのか。
 4 かつて加藤一郎氏は「沖繩軍用地問題」で、「一九四五年三月から六月にかけての沖繩の戦闘が終わつたのち、米軍は沖繩本島の住民を各地の収容所に収容して、全島の土地をその管轄下においた。これが今日の軍用地の出発点である。このように沖繩では、はじめはいわばすべてが軍用地だつたのであり、不要な所が解除されて残つた所がほぼ現在の軍用地である。このことは、内地の基地と非常に異なる点である」と述べている。その後の軍用地問題の展開は布令第二十号にいたるまで法的形式をよそおいつつもその実態は一方において銃剣とブルドーザーによる収用・使用であり、他方において手続上の司法的救済手段を欠くものであつた。さらに詳述すれば右布令が要求告知、収用宣告等の一方的方法によつて土地を不定期又は五年の期間「独占的使用」し、場合によつては「立入又は占有する権利を直ちに与えるよう命令する緊急の必要がある場合において時間的に余裕がないときはかかる命令に先立つて折衝を行なうことを必要要件としない。」(布令第二十号二取得a)とあり、琉球政府の折衝手続を省略し「何時でも即時占有命令を発すること」ができるという点からもその適正手続の要件を欠いていることは言をまたない。
   特に「土地裁判所」について右布令を中心とする布令布告には訴願等について煩雑な規定を設けているが、土地裁判所の権限は結局のところ、収用の適否(取消)を争いうるものでなく、単に補償の訴願にとどまつている。したがつて土地裁判所は司法的救済を保証する司法機関でなく単なる行政的機関であり、その権限は補償にとどまるのであるが、それすらも運用の実態において今日まで十数年間における訴願認容、わずかに二ケースという事実とあわせ考えるとき、大統領行政命令第十節の規定にもかかわらず、かかる手続はアメリカ合衆国憲法第五条、同修正第十四条、日本国憲法第三十一条、同第三十二条などの近代的民主的法制の観点からみるとき、明らかに適正手続を欠いたものと考えられる。このような歴史的経過の中で布令第二十号は適正な手続による土地収用の法的要件を欠くと考えられるが、回答を求めたい。
 5 果たしてそうであるならば、右適正手続を欠く軍用地が復帰後も引き続き使用されることは沖繩返還協定及び国内法による違法手続の合法化であり許されないものと考えるがどうか。
二 告示について
  本法案は告示・使用権の発生、通知という従来例をみない手続順序を定めている。したがつて右告示を中心として疑義の回答を求めたい。
 1 行政処分の告知の方法は通知を原則として公示を補足的なものとすると考えられるが、本法案にいう告示の性格は何か。本法案第二条第三項の通知は全く法律上の効果を有しない事実行為であることの確認を求めたい。
   告示は、行政機関の意思表示(法律行為)の形式としての告示(すなわち一般的処分または立法の性質を有する告示。行政規則の性質を有する告示)と通知行為の性質を有する告示とに区別されているが、本法案の告示の性格は必ずしも明確でないのでお尋ねしたい。
 2 告示の効力はいつ発生するか。特に本法案の対象となる土地及び地主は沖繩にあることは明らかであるが、本土において告示の効力が告示の日に生ずるのは容易に理解できるが、沖繩に対し、告示の効力が生ずるのは復帰の日でしかないのではないか。沖繩は法律上法域を異にする地域であるとする政府の従来の見解からもそのように解せざるを得ないのではないか。政府の見解を求めたい。
   もし復帰の日に告示の効力が生ずるとするならば使用権発生も同日であるから、沖繩在住の土地等の所有者等は行政不服審査法・行政事件訴訟法による事前救済を受けられないことになる。右は憲法第十四条、第三十一条及び第三十二条違反と考えられるが政府の見解はどうか。
 3 告示は「区域と使用の方法を告示する」とあるが、かかる告示は所有権者を予想しての告示すなわち人に対するものではなく極言すれば物に対する告示とさえ言わざるを得ず、告示としての最少必要限度の要件を具備しないと考えるがどうか。付言するならば、かかる告示によつて所有者等は自己の土地が右区域に包含されるや否やを直ちに知り得ないと思われるからである。従来地主が地代を受領していた事実をもつて反論されることも考えられるが、そのことは告示の区域に自己の所有地が含まれることと直接的に一致するものではない。この点についての政府の見解を求めたい。
 4 告示について具体的にはどのような内容範囲を告示するのか。いわゆる「小笠原暫定措置法」の告示とどの点が相違するか。告示において「使用しようとする土地等の所在・種類・数量及び使用期間」の特定は私権制限上最少限の要件と考えるがどうか。本法案附則第二項にいう「内容」には告示の内容通知を含むか。
 5 右告示は仮に琉球政府においてこれを琉球政府公報に掲載し、あるいは図面の縦覧等の措置を行なつた場合、その法律上の性格、効力はどのように理解すべきか。また告示を行なう時期について回答せられたい。
三 不服申立及び原告適格について
  仮に復帰前に不服申立が可能なりとする前提に立脚した場合、次の諸点につき回答を求める。
 1 県有地について、復帰前訴訟は可能か。もし可能でないとするならば憲法上の疑義を生ずるおそれはないか。
   いまなお本土よりの渡航は不法に制限される場合がある。また、資格ある代理人を選ぶ権利は憲法上の権利である。本土の弁護士が訴訟準備のため渡航することは訴えの提起にあたり必要不可欠と考えるが、右渡航が制限された場合出訴期間は不変期間として進行するか。そのような場合憲法上の疑義を生じないか。
 2 本法案による不服申立は当然抗告訴訟と観念されるが、訴状添付別紙図面はどの程度の特定を必要とするか。
 3 出訴期間の起算点について、沖繩県民については通知(使用権発生後)の日よりとなす国会答弁があるが、あらためてその真意をお尋ねしたい。
 4 抗告訴訟とともに地主より自己所有地の確定(範囲を含む)を求める訴訟が提起され、また抗告訴訟とは別に境界確定の訴訟が提起されると考えられるが、訴訟提起前及び訴訟提起後立証準備のため米軍基地内への立入りは原告にとつて必要不可欠のことと思われるが、政府は米国と協議の意思があるか。
   民事裁判管轄権に関する合意事項中検証に関し「これを許可し」とあるのは司令官の自由裁量とは到底考えられないが政府の見解を求める。
   万一許可がなく検証を実施することができない場合裁判を受ける権利は事実上奪われることとなるが憲法上の疑義は生じないか。
   暫定使用が適正かつ合理的であるか否かが抗告訴訟の争点となると思われる。右についての立証責任は被告国が負うとは従来政府が再三明確に答弁しているところであるが再確認したい。
 5 本法案の暫定使用権はいわゆる「地位協定の実施に伴う特別措置法」、「土地収用法」、「公共用地の取得に関する特別措置法」に共通する適正かつ合理的の判断を後日にゆだねたものであり、抗告訴訟においてはまさにその点が前述三法の判断(手続)に先行して争われると解してよろしいか。
 6 立証責任と合衆国軍隊の機密とは密接な関連があると思われるので以下の事項についてお尋ねしたい。
   「安保条約第六条に基づく地位協定」第二十三条によつて、「日本国政府は、その領域において(中略)必要な立法を求め、及び必要なその他の措置を執ることに同意」しているが「必要なその他の措置」としていかなることがなされてきたか。
   「地位協定」第二十五条により「相互間の協議を必要とするすべての事項に関する」協議機関として設けられた合同委員会で右について合意された事項があるか。
   米国その他外国との間に、秘密情報・資料の交換について定めた取極が存在するか。
   いわゆるMSA秘密保護法による秘密保全のため規範的命令としての訓令・達を示しその必要理由を明らかにせよ。
   「地位協定の実施に伴う刑事特別措置法」上の合衆国軍隊の機密保全のための規範的命令たる訓令・通達・達等を示しその必要理由を明らかにせよ。
   合衆国軍隊は「刑特法」別表一・二・三に掲げる事項のうち公にするものと秘匿するものとをいかなる基準により区分しているか、基準となつているすべての法令・規程に基づき答えられたい。
   「刑特法」にいう部隊の編制・任務・配備・行動について政府は、合衆国が公にしていない情報の通告を受けているか。
 7 原告適格とは行政事件訴訟法の第九条に明らかなとおり「法律上の利益」を有する者云々とあるが、当然のことながら復帰後の沖繩県及び同県下市町村は県有地・市町村有地が「区域」として提供されている限り右土地に関し原告適格を有することは自明の理であるが、確認したい。
   地方自治法第二条によれば地方公共団体の事務として「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」及び「法律の定めるところにより、地方公共の目的のために動産及び不動産を使用又は収用すること」などをあげている。久田栄正氏は、かつて「政府は公共の福祉を憲法の定めている基本的人権の尊重に対立させて住民の生命身体財産の危険に対しても一顧だにしない論理でつらぬいている。第三次防衛力整備計画を住民の「平和に生きる権利」に優先させて遂行しようとしているのである。」と論述している。
   沖繩県及び同県下市町村においては地方公共団体の行政区域の主要部分が基地として使用され、地方公共団体本来の運営に重大な支障を生じていることはもはや公知の事実である。
   かかる観点に立つとき沖繩県の特殊事情は平和経済開発を中心とする公共の福祉と、政府の主張する基地のいわれなき「公共性」が二律背反として争われるべき主要な課題であり、それは政治的、行政的課題であるとともに司法的救済の対象となり得ると考える。すなわち沖繩県及び同県下市町村は行政区域内における私有地についてもその処分の取消を求める法律上の利益すなわち原告適格を有するものと考えるが政府の見解を求めたい。
四 自衛隊及び米軍基地について
 1 特に自衛隊の土地使用は基地機能の維持、治安対策にあることは国会における佐藤内閣総理大臣の答弁からも十分うかがえる。防衛庁提出資料による「自衛隊の予定訓練計画と米軍との協定」によれば陸上自衛隊は一般基礎訓練、各種射撃訓練、災害救済訓練、通信訓練等とあるが治安行動に関する訓練は一般基礎訓練の中に包含されているとの疑いをもたざるを得ない。これについて政府の見解を伺いたい。
 2 米軍に提供される区域及び施設は「安保条約」、「地位協定」の範囲内においてのみ使用さるべきものであることはいうまでもない。仮に地位協定違反の土地使用ある場合には所有者及び関係人は損害賠償または土地明渡し請求訴訟の対象たり得ると思料するが政府の見解を求めたい。
 3 自衛隊用地の暫定使用は本法案中最大の争点であり最も物議をかもしているところである。過去幾多の明白な否定論にもかかわらず、政府があえて自衛隊に「公共性」ありとする根拠と本法案による自衛隊の暫定使用の法的根拠を土地収用法改正経過、「公共用地の取得に関する特別措置法」制定経過との関係を含めて明確にされたい。
 4 なおこの際、国防の空白は一日もゆるがせにできないとする政府が、自衛隊法第七十六条(防衛出動)の規定をうけた自衛隊法第百三条(防衛出動時における物資の収用等)に定める政令をいまなお制定していない理由を問いたい。政令の必要なしとするならば自衛隊の本法案による暫定使用は、その比較において緊急性の合理的説明を欠くものと思料するがどうか。
五 本法案の意図
  本法案は米軍及び自衛隊の基地確保を唯一の目的とするものと断ぜざるを得ない。たとえば第二条第一項第七号の道路については復帰後、道路法第七条(都道府県道の意義及びその路線の認定)等または第十八条(道路の区域の決定及び供用の開始等)により認定後借用開始までの間は第九十一条(道路予定地)を適用することにより本法案がなくとも支障なしと考えるが、政府の見解を伺いたい。
  果たしてしからば本法案の強権性と違憲性は帝国憲法下の国家総動員法・軍事特別措置法、さらにはナチス施政権下の土地収用法にさえ例をみない不法不当のものであると考えるが政府の見解を求める。
  以上沖繩県に憲法違反の本法案を適用することは到底許容し得ないところである。強く撤回を求めるものであるが、政府にその意思があるか。

 右質問する。





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