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昭和五十四年三月二十二日提出
質問第一五号

 大和川の水質汚濁防止と流域下水道の整備に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年三月二十二日

提出者  上田卓三

          衆議院議長 (注)尾弘吉 殿




大和川の水質汚濁防止と流域下水道の整備に関する質問主意書


 大和川の水質汚濁防止と流域下水道整備の対策は、緊急を要すると考える。
 従つて、次の事項について質問する。

一 昨年十一月三十日の建設省発表によると、一九七七年度(昭和五十二年度)の全国河川水質調査で、大阪の大和川がワースト1=全国で一番水質が悪いという不名誉な結果を記録した。
  大和川といえば、奈良盆地に端を発し、大阪河内平野を横断して大阪湾に注ぐ、淀川と並ぶ大阪の代表的河川である。その流域には大阪市・堺市・松原市・羽曳野市・藤井寺市・富田林市・河内長野市・柏原市・美原町・狭山町・河南町・太子町・千早赤阪村と八市四町一村、約百二十万人の住民が生活を営んでおり、大和川の水質汚濁は、この大阪南部=南河内の住民の生活に深刻な影響を及ぼしていると考えられる。
  先に発表された調査結果では、一九七七年度の大和川の平均BOD(生物化学的酸素要求量)は15ppmと、大和川中流の環境基準(「生活環境の保全に関する環境基準」のC類型=5ppm以下)の三倍にも達している。「国民の日常生活において不快感を生じない限度」とされるE類型の最低の基準値でもBOD=10ppm以下であり、大和川のそれは年平均で5ppmも上回つている。
  大阪府の「公害白書」(七七年版)によると、大和川中流入口の国豊橋でBOD15ppm、下流遠里小野小橋では21ppm、さらに中流の今井戸川合流地点では290ppmもの高い数値を示している。これは一級河川としては異常な記録である。
  大阪の他の大きな河川、淀川や神崎川、寝屋川などは環境基準はやや上回つているとはいえ、年々水質は良くなつている。それなのに、大和川だけは年々悪化の一途をたどつているわけである。
  そこで建設省に質問する。
  建設省は、一級河川である大和川の河川管理責任者として、大和川の水質汚濁の実情をどう把握しているのか。水質汚濁の主たる原因は何であるのか。この点について建設省の見解を明らかにされたい。
二 大和川の水質汚濁の原因について、七八年十二月一日付朝日新聞は、(一)流域での新興住宅開発による生活排水の増大、(二)松原市や堺市などでの養豚による汚物の流入、(三)下水道整備の立遅れなどを挙げている。
  これは大阪府下の主な河川全体について言えることだが、一九七六年度の水質汚濁負荷量の現状値を大阪府の大阪地域公害防止計画によつてみると、生活排水の割合が大半を占めている。大和川の場合、生活排水と工場排水その他の割合をみるとおよそ七対三の比率になつている。
  大和川以南の地域では、今後、宅地開発等の市街地化が急速に進むと予想されているだけに、各家庭から出て大和川に流入する生活排水の量は、さらに大幅に増加するものと思われる。これをそのまま放置しておけば、大和川の水質汚濁は悪化に悪化を重ね、いずれ取り返しのつかない状態になつてしまう。
  そこで建設大臣に質問する。
  このまま放置しておけば大和川の水質汚濁は一向に改善されないと思うがどうか。まず、大和川の水質は改善されるのか、されないのか。改善されるとすれば、どのような対策によつて改善することができるのか。建設省としては、その抜本的な対策についてどう考えているか、見解を明らかにされたい。
三 これまでとられてきたいろいろな対策にもかかわらず、現に大和川の水質は悪化している。
  水質汚濁を防止する上で決定的なキメ手は、下水道を緊急に整備することである。いくら「河川を美しくしましよう」とキャンペーンしてみても、市街化が進み、住民の人口が増えれば、そこから生み出される汚物、汚水も当然増えるのであつて、その生活の後始末とも言うべき汚水の処理をしなければ、都市は都市の機能を果たさないし、自然環境も破壊されるばかりである。
  公害対策基本法は「政府は、環境基準が確保されるよう、公害防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることに努めなければならない」として、その施策に排出規制や土地利用規制などと並んで、「公害防止に関する施設の整備」をうたつている。この「公害防止に関する施設」の中には、下水道の諸施設も含まれているということは周知の事実である。
  また、一九七〇年(昭和四十五年)に改正された下水道法は、下水道事業の目的として「公共用水域の水質の保全に資すること」という条文をつけ加え、下水道事業に公害防止 ― 環境保全という考え方をはつきりと位置付けている。
  全国で一番水質汚濁が進んでいると言われる大和川の水質改善のためには、下水道事業を緊急に進める必要があるということを再度確認してもらいたいが、見解を明らかにされたい。
四 同時に、下水道は、公害防止というだけでなく都市計画の上でも、いまや必要不可欠な公共施設となつている。都市計画法では、「市街化地域では、最も基礎的な都市施設として、少なくとも、道路、公園、下水道の三つの都市施設の計画を定めるもの」と規定されている。
  すでに述べたように、大阪南部=大和川流域は、近年急速に市街地化しつつあるという事情があり、そのことが、大和川の水質汚濁の防止という点からも、南部の都市開発という点からも、下水道事業の進展を緊急の必要事にしている。
  そこで、大和川流域の下水道事業計画の進捗状況について聞きたい。すでに、一九六五年(昭和四十年)から第一次の流域下水道整備五ヵ年計画が全国的に開始され、現在第四次五ヵ年が進行中であるが、大和川流域下水道整備計画の進捗状況は、現在どのような段階に来ているのか。明らかにされたい。
五 下水道整備という点では、大和川流域の大阪南部は非常に遅れている。大阪府下の各市町村の下水道普及率(=処理人口/行政区人口×100(%)))を高い順に挙げていくと、
  大 阪 市 九六・一%   池 田 市 九二・一%
  守 口 市 六五・二%   豊 中 市 六〇・五%
  吹 田 市 五五・二%   箕 面 市 四九・一%
  狭 山 町 四五・七%   門 真 市 四二・三%
  交 野 市 三八・九%   10 東大阪市 三五・〇%
  11 堺  市 三四・七%   12 枚 方 市 二九・八%
  13 富田林市 二七・〇%   14 茨 木 市 二二・四%
  15 八 尾 市 二〇・八%   16 寝屋川市 一七・九%

 の順になつている(一九七八年三月三十一日現在)。
  普及率ベスト10に大和川流域で入つているのは、すでに以前から公共下水道整備事業を進めてきた狭山町のみである。松原市、羽曳野市、藤井寺市、柏原市、河内長野市などの流域の主な市町村は軒並み普及率0という状態である。
  よく大阪では“南北格差”ということが言われるが、北部の各市では七〇年の万国博を機に、道路や下水道事業など都市計画が急速に進んだが、南部ではこれが非常に遅れている。下水道をひとつとつてみても、それが端的に現われているのではないか。
  この結果北部の淀川や神崎川では、流域の人口密度が一ヘクタール当たり百人〜百二十人と大和川流域に比べて人口密集度がはるかに高いにもかかわらず、水質の汚濁では大和川よりはるかに低い数値を示している。
  ちなみに、淀川、神崎川流域の人口密度は、おおむね一ヘクタール当たり百十人で、BODは4〜5ppmである。これに対して大和川流域は人口密度の平均が一ヘクタール当たり七十人で、BODは20〜30ppmを記録している。
  くどいようだが、人口密度が高く、それだけ生活排水も多くて河川の水質汚濁が進んでいるはずの淀川、神崎川流域で、水質が改善に向かつており、逆に、北部に比べて人口密度が低い大和川流域で水質汚濁が進行しているというのは、どう考えても異常な事態だ。この原因は一に流域下水道事業の立遅れにある。一説には、自己流量の少ない大和川では下水道整備を進めても、二次処理だけでは水質は良くならない。三次処理まで必要だとの意見すら聞かれる。にもかかわらず二次処理すら進んでいない。
  そこで、大和川流域の下水道整備が何故これほど立遅れているのか。何が整備計画遂行上のネックになつているのか、見解を明らかにされたい。
六 大阪府の方に問い合わせても、大和川流域については処理場用地の取得に難行し、都市計画
  その他の関係調整の上からも、下水道整備事業が遅れてきたということだ。
  しかし、一九六五年(昭和四十年)に流域下水道整備計画が始動してから今日まで、五十二年度末現在での事業進捗率をみても、大和川流域はその計画の大きさに比して達成率は極めて低い。
  管渠の布設についてみれば、神崎川流域の猪名川で二十・六キロメートル(達成率六九%)、同じ神崎川流域の安威川で十四・七キロメートル(達成率三六・一%)、淀川流域ではやや遅れているものの ― ここは公共下水道が先行しているため、流域下水道事業は進展していなくても普及率が高い ― 寝屋川北では三十一・五キロメートル(率五六%)、寝屋川南二十二・二キロメートル(率三二・七%)であるのに対し、大和川流域では、西部が二・七キロメートル(率五・三%)とやや進んでいるだけで、全体で三キロメートル(達成率二・六%)という状態である。処理能力についてもほぼ同じことが言える。大和川流域全体では一・一%の達成率しかない。
  このような進捗状況の遅れに対応して、五十三年度末までに投下される総事業費の比率も、府全体を一〇〇%として、神崎川流域が四百六十億円で二六%、淀川流域が二百四十億円一三・一%、寝屋川流域が八百億円四四・四%であるのに対し、大和川流域は、全体で二百億円弱(一〇・九%)とまだまだ事業費が少ない。
  ここはひとつ、全国で一番水質の悪いと指摘された大和川流域に重点的に事業費を投下して、下水道整備を急ぐ必要があると思うが、見解を明らかにされたい。
七 事業費が近年大幅に伸びてきているとは言つても、北部地域に比較して、南部大和川流域の事業投下額が少ないということに変わりはない。水質悪化、下水道普及率の低さ等の遅れを取り戻そうと思えば、それに見合うだけの大幅な重点的投資は絶対必要だ。
  それに、大和川流域下水道事業のこれまでの実績を少し調べてみると、先程も用地取得難の話が出たが、事業費の人半が用地費とその利子に食われて、下水道整備事業が南部開発についていけない、後追いになつているという側面もある。
  例えば、本年度の大和川流域下水道整備事業費は、補助対象事業のみで約六十九億円だが、そのうち四十七億円が用地費とその利子の返済に食われ、工事費は十八億円余り(うち処理工場建設に九億円、管渠の布設に九億円)に過ぎない。今後も、これまでに取得した用地費の残(約三十七億円)、今池処理場用地の未取得分(約七十億円)、狭山処理場の拡張用地分(約四十億円)と、少なくみても約百五十億円もの用地費が見込まれる。これでは、いつたいいつになつたら下水道整備は進むのか。
  しかも、今池処理場は五十二年度十二月から、当面一日につき四万トンの処理能力を目指して一部建設にやつと着手、狭山処理場は本年度夏に、一日当たり三万トンの供用開始のメドとなつているが、その次の計画はまだ立つていない。大井処理場に至つては、五十年にほぼ用地の取得を完了しておきながら、処理施設の建設計画のメドすら立つていない。地元の住民からは「今すぐにでも処理場建設するようなことを言つて買い上げておきながら、いつになつたら建設するんだ」という批判の声すら上がつている。
  現在のようなペースで事業を進めるのなら、全体計画の目標に掲げられている処理場九十二・五万トン(一日当たり)、管渠百十六・五キロメートルを完全に達成するまでに五十年以上もの年月が経つてしまうと思われる。
  周知のように、日本の都市開発は民間主導で進み、都市機能の充実に資する公共投資は常に後追い行政を続けてきた。公共投資の中でも小・中学校等の施設の確保が精一杯で、下水道事業は後回しにされてきた、という歴史的経過がある。
  開発が進んだあとを下水道整備していくと、道路の再舗装や用地買収、住宅密集地への管渠埋設などで時間と費用が著しくかさむ。そういう意味で、下水道整備は先行的な事業着手が必要だ。遅れれば遅れるほど手間がかかり、費用も高くつく。早くやれぼやるほどスムーズにできるわけである。
  大和川流域の開発を計画的に進める上でも、下水道事業を一つのモデル・ケースとして早急に進める必要がある。そのことが河川の汚濁について、多かれ少なかれ、大和川と同じような問題に直面している他の河川の水質保全にも、良い意味での刺激を与えるのではないか。
  以上のような理由から、大和川流域下水道整備の重点的な事業促進を要求する。
  この点について建設省は、大和川流域下水道整備の促進上どのような姿勢で、どのような対策を立てようとしているのか、具体的に見解を明らかにされたい。
八 大和川流域の下水道整備を重点的に進めるということで、一挙に何もかもできるというわけではないが、当面、第四次五ヵ年計画の中では、一九八〇年度(昭和五十五年度)末には、大阪市を除く大阪府下の下水道普及率を四一%にまで上げるという目標が掲げられているのだから、大和川流域については、それに見合うだけの事業を完全に遂行するということを目指すべきではないか。
  現在、一日四万トンの処理能力を目指して建設に着手している今池処理場が完成すれば、西部で約七万人、人口の一三%の処理が可能になる。南部では狭山処理場が供用を今夏に開始すれば、約十万人、二七%の処理ができる。大井処理場が建設されるまでのつなぎとして建設が計画されている放流管が完成すれば、東部で約四万三千人=人口比一三%の処理がまかなえる。
  以上、現在建設中のものも含めて、実際に計画が進められている事業が五十五年度末に完了したとしても、流域全体では処理人口が一七%くらいにしかならないわけである。
  この第四次五ヵ年計画の目標を完全に達成してもらうことは勿論だが、それだけでは大阪市を除く府下の普及率を四一%にするという計画目標は達成されないだろう。従つて、現在、まだ計画すら立案されていない大井処理場の建設及び狭山処理場の拡張を早急に行つてもらいたい。そのための財政的保障も含めて、建設省として対策を立てるべきだと思うが、見解を明らかにされたい。
  財政的に見れば、先に述べた現在計画実施中の事業費だけで約二百億円ではないか。それに、今後の用地費に必要な百五十億円、大井・狭山の両処理場に当面百億円として五百億円も講じればすぐにでもできる。今まで遅れていた分を取り返すためには、現在の事業費の二倍や三倍の規模になつても、それぐらいの思い切つた手を打つべきだと思うが、建設省の前向きの見解を明らかにされたい。
九 次に、流域下水道整備事業を急ぐためには、それに接続する公共下水道の整備促進のための措置をとる必要がある。
  大和川流域関連の公共下水道の整備状況(五十三年度末見込み)をみると、面積処理率で、富田林市の五七%、狭山町の五二%は例外として、他は松原市三・五%、藤井寺市一三・七%、柏原市〇・一%、羽曳野市〇・七%、河内長野市二・七%、美原町〇・六%という状態である。これでは、流域下水道事業を進めたところで、それにつなぐ公共下水道がまだ完成していないという事態を生じさせかねない。
  そこで、公共下水道の事業を進める上で何が障害になつているかというと、やはり財源問題である。大阪府下の自治体は多かれ少なかれ赤字財政に苦しんでいる。
  流域下水道事業の場合、処理場建設への国庫補助は事業費の四分の三、管渠が三分の二と比較的優遇されていて、起債も含めた補助対象事業は全体の九〇%以上となつている。
  しかし、公共下水道事業の場合には、処理場三分の二国庫補助、管渠十分の六の補助と、国庫補助の割合が小さく、全国平均では七五%といわれる補助対象事業の割合も、府下の各市の場合約六〇%前後と、各自治体の単独事業の負担が大きくなつている。
  昭和五十三年度の事業費見込みで全事業費に占める国費の割合を計算してみると、松原市が三五・六%、藤井寺市五二・二%、羽曳野市五四・八%、富田林市一八・八%、狭山町三六・九%と大和川流域関連全体の平均で三七・七%という実態である。
  こう言えば、いや下水道事業には大幅な起債が認められているので大丈夫だ、という返事が返つてきそうだが、起債はいずれ借金として返済すべき性格のものであり、公共下水道を進めている各自治体は、起債の累積とその償却にも頭を痛めているのが現状である。
  ここは是非とも、公共下水道事業についても流域下水道並みに大幅な国庫補助を行うべきであると思うが、それについて見解を明らかにされたい。
一〇 大和川流域の下水道事業が、大和川流域の水質汚濁の防止という意味からも、大阪南部開発、一都市計画の推進の上からも、緊急にして重要な課題であると考えられる。
  都市計画上からも、道路、住宅、その他の公共施設とのバランスのとれた下水道整備を図るということで、地元でも努力するので、建設省もそれにこたえてもらいたいが、それに関して見解を明らかにされたい。

 右質問する。





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