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昭和五十五年十月二十日提出
質問第八号

 原爆被爆者に対する「国家補償の理念」による援護法制定に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十五年十月二十日

提出者  大原 亨

          衆議院議長 福田 一 殿




原爆被爆者に対する「国家補償の理念」による援護法制定に関する質問主意書


 主題の件については、昨年一月二十九日、社会保障制度審議会の答申に基づいて現行二法を再検討して「被爆者対策の基本理念」を明らかにするため、厚生大臣の私的諮問機関であるいわゆる「七人委員会」において近く結論が報告されるといわれる。
 この「答申を尊重する」という政府の態度は当然としても、国会では、すでに永年にわたり論議を尽くしてしばしば決議を全会一致で可決して来たところであり、これを主体的に受け止めねばならない。
 以上の経過を踏まえてこの際、次の諸点について政府の統一的見解を求める。

一 広島、長崎両市に対する原爆の投下は、国際法自体 ― 少なくとも、「国際法の精神」に違反する違法行為であると考えるかどうか。また、特に次の事項についてはどうか。
 1 昭和二十年八月十日、日本政府はアメリカ政府に抗議を申し入れ、「抑々交戦者は害敵手段の選択につき無制限の権利を有するものに非ざること及び不必要の苦痛を与ふべき兵器、投射物その他の物質を使用すべからざることは戦時国際法の根本原則である」旨述べ、「新奇にしてかつ従来のいかなる兵器、投射物にも比し得ざる無差別性、惨虐性を有する本件爆弾を使用せるは人類文化に対する新たなる罪悪なり」「全人類および文明の名において米国政府を糾弾する」として、ヘーグの陸戦法規慣例に関する規則を引用している。
   この政府の抗議文に対する見解を求める。
 2 国会においても、政府は「原爆は国際法で禁止された毒ガス以上の非人道的兵器」であることを認めて、「戦時国際法の精神に違反する」という見解に同意している。
   原爆は、国際法(実定法)で禁止されていなくても「禁止された毒ガス以上の残酷な兵器」である以上、国際法違反であるという立場をとることは、唯一の被爆国であり、戦争放棄の平和憲法を持つ日本として当然と考えるがどうか。
 3 サンフランシスコ講和条約で一切の対米請求権を放棄した日本政府は、「違法行為に基づく原爆の被害に対して国がこれを補償する」ことは政治的にも当然と思うがどうか。
二 政府の主張してきた「国と被爆者との間に身分関係、命令服従の関係 ― 即ち特別権力関係がない」という認識は、援護法制定を否定する論拠にはならないと考える。
  よつて次の諸点についての政府の見解を求める。
 1 現行の恩給法並びに戦傷病者戦没者遺族等援護法の対象は、戦前の兵役法、国家総動員法、昭和二十年三月二十三日の国民義勇隊に関する閣議決定、沖繩における十次空襲以降の戦闘参加者、更に昭和四十九年、私の主張の一部をいれて法律改正して追加した「旧防空法による警防団、医療従事者」などである。
   これらは国との雇用関係のある軍人、軍属及び命令服従の関係にある准軍属とされている。
   そこで法体系から旧防空法関係では、准軍属として処遇されている警防団を頂点とする地域の「隣組防空」、「職域防空組織」として組織された十五歳以上六十五歳未満の国民は、米軍の制空権下いつでも敵前上陸、空挺部隊の攻撃の下にさらされた。「東京空襲」以降は竹槍訓練の例を見るまでもなく、「戦闘協力者」として義務付けられたものと考えるがどうか。
 2 国民義勇兵役法について ― 昭和二十年六月二十二日臨時帝国議会で可決制定され、即日公布の勅令、政令が出されている。
   政府は「国民義勇兵役法は公布、施行されたが召集下令がなされていない」といつてきたが、本年三月二十七日、衆議院社会労働委員会で政府は、「法律が公布、施行されればその時効力即ち国との権力関係を発生する」と述べている。
   即ち国民義勇兵役法が公布、施行されたときより国との間における命令服従の関係が発生し、いついかなる時でも即座に戦争動員される状態にあつた。
   昭和二十年三月二十三日の国民義勇隊に関する件の閣議決定を受けて昭和二十年四月十三日、「状勢急迫セル場合二応ズル国民戦闘組織ニ関スル件」が閣議決定された。
   状勢に即応して第一線の軍が兵役法、国家総動員法による以外に国民を「兵」として動員し、統帥権下に服役させるとした。しかし、その中での閣議決定による戦争動員は無理として「必要なる法的措置を講ずる」ことに決定した。これを受けての昭和二十年六月十日、衆議院での『義勇兵役法案外一件(国民義勇戦闘隊員に関する陸軍刑法等の適用に関する法律案)委員会』の速記録で繰り返されているように、那須兵務局長は「一々召集令状ヲ銘々ノ人ニヤルト云フヤウナコトヲ致シマセヌデ、平素連名簿ノヤウナモノニ名前ヲ付ケテ置イテ、召集担任官ガ「集マレ」ト言ッタナラバソレダケデ集マルト云フ簡単ナ召集方法デヤル。全部ゴツソリ出シテ戴ク場合モアレバ、其ノ中ノ輸送隊ダケ、救護ダケノ人ヲ出シテ呉レト云フヤウナ場合モアリマス……職域的ノ徴リ方モアレバ空挺部隊ノ降リタト云フヤウナ時ニ、其ノ地域ノ人ガヤル」場合もあると答えている。警防団、国民義勇隊から国防婦人会まで呼び集めて軍の指揮下に置くのである。
   一体、法律が公布施行されて新しい権利義務の関係が発生しないということがあるかどうか。「召集下令の令状」は出さないことになつていたことは明白である。
   昭和二十年三月の東京大空襲、同年四月の沖繩の米軍占領後は米軍の制空権下にあつた日本は、敵前上陸や空挺隊の降下を想定して全土が完全に臨戦体勢にあつたのであつて、戦闘員と非戦闘員の区別は最早存在しなかつたのが現実と思うがどうか。
   兵役法、国家総動員法以外は国民義勇兵役法で名実ともに一億総動員体制をとつた事実を認めるかどうか。
   以上三点についての法解釈と事実認識について明確な見解を求める。
三 以上、大きく二つの点について、それぞれ違つた立場での従来の政府見解の疑義についての解明を求めてきたが、これは国会論争で積み上げた集約でもある。
  これに加えて第三の問題として、総括的な国家補償の理論としていわゆる「結果責任論」についての政府の見解を求める。
 1 広島、長崎の原爆による三十万人余の犠牲者といまなお放射能などの後遺症 ― この史上最大の被害を受けて、日本政府と天皇は連合軍に対してポツダム宣言を受諾し、降伏を決意したことは歴史的事実である。
   ポツダムからワシントンに帰つたトルーマン大統領は、昭和二十年八月九日午後七時ラジオを通じて放送し、「もし日本がこの原爆でも降伏しなければ、米国は今後も引き続き、この爆弾を日本に投下するであろう」と述べたニュースが日本の新聞にもある。この広島、長崎の被爆の体験から世界唯一の「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄をする」という平和憲法を持つことになつた。この憲法の「平和主義」を鈴木首相も擁護し、順守すると繰り返し述べられている。一昨年の国連軍縮総会で、当時の園田外務大臣も立派な演説で世界に訴えた。今全世界の核兵器と一般兵器のための軍事予算は年五千億ドルに達し、世界の貿易量の半分を占めている。核軍縮は地球的課題である。
   この太平洋戦争後の新しい日本の平和と安全の「いしずえ」となつた原爆犠牲者に対して、国家補償の精神による援護をすることは政府と国会の責任と考えるが、政府の見解を求める。
 2 今まで政府は、国との「直接」権力関係がない場合でも引揚者に対する二回にわたる特別交付金(最高二万八千円、百九十四万人)、特別給付金(最高本人十六万円、遺族二万二千円、三百十二万人)、農地被買収者給付金(一万円から最高百万円、百十六万人)、戦没者等の妻に対する特別給付金という慰謝料(年金受給者第一次二十万円、第二次六十万円=四十一万人)、遺族年金の受給資格のない戦没者等の遺族に対する特別弔慰金(第一回三万円=九十万人、第二回二十万円=百四万人)などを給付している。A級戦犯にも恩給が給付されている。
   戦後三十五年、原爆による爆風、熱線及び放射能の深刻極まる障害に苦しんできた被爆者、犠牲者の遺族に対して、国は線香料も出さないというのはいかにも不公平といわねばならない。
   この点についての見解をも求める。

 右質問する。





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