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昭和五十五年十月二十四日提出
質問第九号

 水俣病に関連する諸施策に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十五年十月二十四日

提出者  馬場 昇

          衆議院議長 福田 一 殿




水俣病に関連する諸施策に関する質問主意書


 水俣病問題は世界最大の水質汚濁による公害であり、健康被害、環境破壊並びに漁業被害など、その広さ深さは、人類が経験した最も悲惨な事件の一つである。それが地域の社会、経済、行政、教育などの各分野に及ぼした影響は、はかり知れないものがある。
 しかるに、事実判明後、二十数年を経た今日に至つても、水俣病の医学的病像さえなお未解明であり、治療方法に至つてはその確立の努力すらなされず、そのため患者は言語に絶する苦しみに放置され、死に至つている。
 現在なされた唯一の対策である「水俣病対策についての閣議了解事項」(昭和五十三年六月二十日)も、患者、住民の要求を満たしておらず、熊本県民にも十分理解されぬまま、県債発行だけが実行に移されている。その結果、認定業務は促進されないのみか、チッソ水俣工場は縮小の一途をたどり、地域経済と雇用に重大な不安を与えている。熊本県がチッソ株式会社に対する金融支援のために発行する地方債は、既に百億円を超えて、確たる将来の計画性もないまま発行され続けるという局面に立ち至つている。
 水俣病対策の遅れの原因が、加害企業チッソ株式会社と今日までの行政の不十分な対応、不作為及び患者、住民の意向を無視する姿勢にあることは否定し得ない。ために、患者、住民は、行政に対し大きな不安と不信の念を持ち続けている。
 政府は事態の重大性を再認識し、患者、住民、熊本県民及び国民全体に対し、緊急に対策を講ずべき責務があると考えるので、責任ある回答を願いたい。

一 水俣病の被害の実態について
 1 国立水俣病研究センターについて
   昭和五十四年七月に開所した同センターは、研究員定数二十三名中わずか三名しか充足できず、去る九月、初代所長はわずか一年足らずで責任をとつて辞任した。これが行政の責任であることは会計検査院も指摘しているとおりである。
  (1) 研究員を充足、強化し、同センターが機能を完全に発揮するための具体策を時期を含めて明示されたい。
  (2) 「治療体制をつくれ」という患者の要望に対し、元石原環境庁長官は国会で前向きの答弁をしていられるが、その計画を示されたい。
  (3) 昭和四十八年、元三木環境庁長官は「水俣病の研究、治療、社会復帰など総合的に推進するセンターをつくる」と患者や住民に約束されたが、この約束の実行について、政府の態度を明らかにされたい。
 2 水俣病問題の総合調査について
  (1) 私外二名で第九十一回国会に提出した「水俣病問題総合調査法案」は、要旨を述べれば「水俣病の健康被害、環境破壊等の医学的、生物学的調査は勿論のこと、水俣病が及ぼした社会、経済、行政、教育などの各分野の影響とその実態を国の責任で総合的に調査し、全体像を明らかにして、完全な水俣病対策を樹立すること」にある。
      この法案に対する政府の態度を明らかにされたい。
  (2) 現在までの水俣病問題にかかわる実態調査の経緯と、今後行おうとする調査計画について明示されたい。
二 水俣病認定に関する処分について
 1 昭和五十一年十二月十五日、熊本地裁において、熊本県の不作為の違法を確認する判決が下つたのは周知のとおりである。
   現在の五千八百十一名という水俣病認定申請未処分数は、判決時をはるかに上回つており、違法状態はますます強まつていると思うがどうか。
   不作為の違法状態はいつからいつまで続いていると認識されているか、見解を示されたい。
 2 現在申請中の全申請者に対する処分が終了する時期について、見通しを明示されたい。
 3 現在、水俣病患者及び申請者は三十一都府県に及んでいる。ゆえに、認定処分に至る手続きについての対策が現状に合致するようになされねば、被害者の「迅速かつ公正な救済」は到底望み得ないと思われる。政府は、態本県外に居住する申請者に対し、検診審査の方法、場所等について現実に即応した対策を講じてきたか、また今後いかなる対策で臨む所存か、具体的に明らかにされたい。
 4 「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法」による国の認定処分の現状と見通しを明示されたい。
 5 「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法に対する附帯決議」について
  (1) 同附帯決議がいかなる諸策に生かされてきたか、また今後いかなる諸策に生かそうとされているか、具体的に明らかにされたい。
  (2) 国の処分に不服がある場合、同附帯決議第四項にいう「本法の異議申立てについて、環境庁長官は、不服審査会委員及び主治医の意見を十分尊重すること。」とあるのは、極めて肝要であると思うが、本法の異議申立てについての手続きをいかなる形で行おうとしているのか、具体的に明らかにされたい。
  (3) 更に、同第八項には「昭和五十三年七月三日付、環境事務次官通知『水俣病の認定に係る業務の促進について』のうち、4処分に当たつて留意すべき事項中Aの『所要の処分を行うこと』の対象となる者に対しては、法の救済の精神を尊重し、単なる患者の切捨てにならないよう、今後とも配慮の手段を見い出すべく努力すること。」とある。
      これは、本法施行に当たつてのみならず、県の認定業務遂行に当たつても等しく生かされるべきと考えるがどうか。具体策を明らかにされたい。
 6 県知事の行う認定処分に対して不服のある者が、県の上級行政庁である環境庁に対し行政不服審査請求をしているが、請求してから長年経過し、いまだ何らの裁決を下されていない者が在る。このような事態は、行政不服審査法の目的とする「簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図る」ことに、大きく違背すると思われるがどうか。長年待たされ続けている審査請求人に対し、いかなる救済措置を講ずるのか明らかにされたい。
三 チッソ株式会社に対する金融支援について
  現在、熊本県は県債発行を通じ、チッソ株式会社に対して金融支援措置を行い、もつて水俣病患者に対する補償金支払いに支障がないよう配慮している。県債発行は、熊本県民の患者だけでなく、全国三十一都府県の患者をも対象としている。
 1 その場合、熊本県が地方債の発行にかかわつて、他の自治団体の住民に対していかなる権利と義務を有するか、法的根拠を示されたい。
 2 三十一都府県にまたがる自治団体の住民に対する救済は、国の責任においてなされるべきと考えるが、国の態度を明らかにされたい。
 3 万一にも、チッソ株式会社からの償還財源の確保が困難となつた場合、国は一〇〇パーセントの保証措置を講ずるか否か。
   否であれば、熊本県民の負担となる一般財源による償還は一〇〇パーセント行わない旨を明らかにされたい。
四 チッソ水俣工場の拡充強化について
  熊本県が、県債発行によつてチッソ株式会社を金融支援しているのは、患者の救済、チッソ水俣工場の存続強化により地域経済の発展と雇用の確保を目的としたものである。熊本県議会も、水俣工場の存続強化により地域経済の安定と雇用の安定確保の決議をなし、熊本県知事も、同様主旨の要望を国とチッソ株式会社に提示している。
 1 県債による金融支援措置が昭和五十三年より三ヵ年にわたり行われているが、チッソ株式会社は、水俣工場の再建について具体策を提示せず、県債発行当初、従業員数千四十八名であつたのが現在八百八十七名となり、退職による減少のため縮小の一途をたどつている。
   閣議了解事項に基づくチッソ再建指導の経緯を明らかにされたい。
 2 国会において「チッソ水俣工場との関連における、地域経済の安定、雇用の確保とは、従業員千名体制を維持すること」との私の質問に対し、通産省当局は「指摘のような基本体制を守るという基本姿勢を貫いて措置します」と答弁している。
   この指導原則に基づく今後の具体的方策を明示されたい。
五 水俣湾ヘドロ処理工事について
  水俣湾のヘドロを除去し、死の海をよみがえらせることは患者、住民の願いである。そして、工事は世界に前例のない大規模な環境復元工事であり、言うまでもなく、二次公害を出さないことが絶対条件である。
 1 ヘドロ除去基準、工事方法等の科学的、技術的研究の具体的内容を提示されたい。
 2 海の底を一番よく知つているのが漁民であることは周知のところである。
   工事に当たつては、地域住民のあらゆる過程での徹底した参加を望むが、これについて政府の見解を明らかにされたい。
 3 工事の監視体制、監視結果及びすべての資料は公開すべきである。資料公開にいかなる見解を持つか明らかにされたい。
 4 わずかでも危険が予測される場合は、直ちに工事を中止して検討することを強く要望するが、これについて政府の見解を示されたい。
六 水俣病問題対策特別立法について
  水俣病の前に水俣病はなく、水俣病のあとに水俣病があつてはならない。完全な水俣病対策は、人類の未来に対する今日の行政の義務であると考える。
  世界の公害の原点と言われる水俣病問題にかかわる@全体像の把握、A私企業に対する国の行政指導の問題、B地方債の累積等々、現行法体制では十分な被害者救済は行われていない。
  政府はこれに特別立法をもつて対処すべき用意があるかどうか見解を示されたい。

 右質問する。





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